『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  557

2015-06-30 08:59:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは風を読んだ、いい西風である。風が舟艇を押しているというより、風をはらんだ帆が舟艇を引いているといった感じである。彼は、帆の風ハラミと舟艇の走りに感覚を集中して気付きを探った。彼にとっては、帆はいかにあるべきかを考えるいい機会と言えた。舟艇はいい走りをしている、四角形横帆での帆走状態とはフイリングが違って感じられる。それを読み取る前にキドニアの船だまりに着いた。
 集散所に向かう者たちがおりていく、オキテスはギアスと帰途の事について打ち合わせて、ドックスに声をかけた。
 『ドックス、行くぞ!これを持っていってくれ』と言ってガリダ宛の手土産のパンを入れた袋を託した。二人は、ガリダの館に向けて歩を進めた。
 半刻くらい歩いただろうか、二人は、ガリダの館の前庭に立った。二人をオキテスの顔見知りのタブタが出迎えた。
 『おう、タブタ。変わりはないか?昨日は会わなかったな』
 『これこの通り元気そのものです。オキテス殿、今日は何ようで見えられた?』
 『頭領は、いられるかな?』
 『え~え、います。取り次ぎます。少々、お待ちを、、、』と言って館うちへ入っていった。
 ガリダの大声を耳にして、二人は館の戸口へ目を移した。
 『ややっ!オキテス殿よくぞ見えられた。昨日の今日ではありませんか。何ぞありましたかな?』
 ガリダ頭領の横にはタブタが控えている。オキテスの声がドックスの耳を打った。
 『ドックス、その袋をタブタに渡してくれ』
 『頭領、今朝、焼き上げたパンです』
 『おっ!そうか、ありがとう。いただくぞ』
 彼はさっそく袋の中に手を突っ込み、パンをちぎって口にもっていく。
 『おう!まだ温かい!うまい!ありがとう。こちらはドックスと言われましたな。ガリダです。今日は三度目の顔合わせですな』
 『そうです、よろしくお願いいたします』
 ガリダは二人を応接の間に招じ入れた。
 『オキテス殿、時間都合もあるでしょう。用件を伺いましょう』
 『ドックス、ガリダ頭領殿に事情を説明してくれ』
 オキテスと艇上で話し合いの段取りを決めていた。彼は、ガリダ頭領と目を合わせた。
 受け取った用材の仕上がりを褒め、満足している旨を話した。そういったことを伝えて、オキテスに話を振った。オキテスは製材の現場を見せてほしい旨をガリダ頭領に伝えた。
 オキテスの申し入れを快諾するガリダ。
 『いいでしょう、オキテス殿、すぐに行きましょう』
 彼らは、腰ををあげた。
 ガリダの製材所は、歩いて10分くらいのところにある。一行四人は歩き始めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  556

2015-06-29 09:10:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人はイリオネスの宿舎を辞した。
 『パリヌルス、驚いたな、軍団長の決断の速さに驚いた。あの決断の速さは闘いの場にいる感覚だ。それから、ドックス、お前もたいしたもんだ。軍団長に素早い決断を促す説明だ。的を得た説明であったな。よし、いいぞ。パリヌルス、段取りといこう。事を急ごう』
 『判った。とにかく、浜へ行こう。この三人で話し合う』
 イリオネスの宿舎を後にした三人は、話し合いの場にヘルメス艇を選んだ。
 『オキテス、ここでやろう』と艇の漕ぎ座に腰を下ろした。
 パリヌルスが口を開いた。
 『これには、ガリダをよく知っていて交渉力が必要とする。オキテス、お前の力に頼りたい、いいか。オキテスにドックス明日のキドニア行きの便でガリダのところへ出向いてほしい。この件における全権は、オキテスにゆだねることが一番と考えている。新艇建造技術の事は、ドックスお前の領域だ。全てを任せる。それでいってほしい』
 『いいだろう、それで決まりだ。ドックス、明日、キドニアへ行く、判ったな。交渉の進め方、細かいことは艇上で打ち合わせる。いいな』
 『パリヌルス、これで決まりだ』
 『いいだろう。オキテス、ドックス、よろしく頼む』
 『おう、パリヌルス、製材の道具については、ガリダに任せるようになると思うが、、、』
 『その決断はお前がしてくれ。とにかく、全権はお前にある』
 『判った』
 話し合いは短い時間で終わった。夕陽は下半身が海に没していた。

 陽が昇る、第一射がとどく。オキテスとドックスは舟艇の上にいた。舟艇は折からの西風を帆にはらんでキドニアへと進んでいる。
 『おう、ギアス、どうだ?』
 『どうだ?と言われますと?』
 『帆の事だ』
 『具合はいいですね。見慣れないといけませんが。私は、この帆に慣れてきています、具合はいいですね。この帆による走りが好きです』
 『そうか。そのいいというところを理論的に聞きたい』
 『判りました。日を改めてでいいですね』
 ドックスが傍らで二人の話し合うのを聞いていた。
 『ところでドックス、今日の事だが、まず製材現場の視察から始める。次に昼めしを食べながら交渉を始める。そういう段取りだ。いいな』
 『判りました』
 『この交渉は、我々が有利な立場にたって進める。どっちにしても、新艇の用材を買うのも、相手の持っている技術を買うのも俺たちなのだ』
 『判りました』
 ドックスは、オキテスの意向を理解した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  555

2015-06-28 07:22:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
パリヌルスとオキテスは、ドックスの事情説明を聞いた。二人は、ドックスの指摘にもとづいて受け入れた用材の仕上がりを確かめた。その後にドックスの思惑を聞き取りヘルメス艇の状態と比較した。
 『ドックス、お前の言うとおりだな。道具の優劣、技術の差があることを理解した。悔しいがうなづかざるを得ん。建造する新艇はトレードするわけだから、非の打ちどころのないように造りあげねばならん。ドックス、お前のスケジュールに余裕があるのか?ことは急がねばならない。どうだ』
 『それはあります。明日か明後日の1日をあけます』
 『よし!判った。事は慎重に考える。とにかく、軍団長と話し合おう』
 三人はイリオネスの宿舎へと向かった。
 『おう、お前ら三人が来る。何か相談事か?』
 『はい、そうです』
 『緊急か?答えを出すのに余裕があるのか?』
 『緊急です』
 パリヌルスは切羽詰まっているという感覚をにじませて答えた。
 『そうか、判った。即、やろう!そこに座れ、事案について説明してくれ』
 『判りました。事情をドックスに説明させます』
 ドックスは事の詳細を説明した。
 『事を行っていく、そのプロセスにおいて、いろいろと問題が発生する。それらを一つ一つクリアした向こうにゴールがある。ただただ、無我夢中では目指す目標の達成はむつかしい。パリヌルス、オキテス、何をどのようにしたいか言ってみろ!』
 『判りました。事情はドックスの説明で解っていただけたでしょうか。このことに対して、道具の調達だけでは目指す水準に近づけても非の打ち所のない仕上りは出来ないと判断しています。ガリダと話し合って、その技術を有している者を事業完了までの期間借り受けてはどうかと考えています』
 『ほう、技術者の借り受けか。何人くらいと考えているのか?』
 『一艇当たり一名として5人です』
 『お前たちの考えを理解した。俺の考えを言おう。まず、第一は、ガリダの製材の場を視察する。第二は、技術を有する者の手を借りる交渉をする。第三は、道具の調達だ。第二と第三は、ガリダに任せてもいいのではと考える。早期解決を目指して事にあたれ』
 『判りました。緊急を要する事態として事に当たります』
 イリオネスの決断は早かった。在戦場感覚の決断であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  554

2015-06-27 08:37:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは、運び込まれた用材の表面を丹念に見て、触れる、手を滑らせた。彼は、彼らの使用している道具類、鋸は?と考えた。かなり切れのいい鋸であろう事がうかがえた。それに比べて俺たちの使用している鋸とに差があるように感じられた。
 次に用材の仕上がり具合である。これはよくできている、我々の仕事の成果に比べて、格段の差が感じられた。彼は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。と同時に考えた。
 『我々は製材屋ではない!だが、これについては考えねばならない。仕上がり具合に差がありすぎる。使用している道具の差も考えられるが技術面での差がある』と結論した。
 浜では、新艇建造の場づくりが開始されている。5か所に及ぶ建造の場である。ドックスの描いた図面に基づいての場づくりである。用材のチエックを終えたドックスは、各現場を見回った。
 『おい!お前たち!急がずとよい。丁寧に作業を進めるのだ。いいな』
 『判りました』
 彼らは図面と首っぴきで慎重を重ねて事にあたった。
 ドックスは考えている。
 『1艇を試作するのとトレードの俎上に載せる5艇を造り上げるのとはわけが違う!』
 新艇建造姿勢と心構えを作業に携わる者たちに徹底しても、技術的問題は別の次元の問題である。彼は、部材製作技術の導入をやらなければならないことを直感した。時限のあることゆえにやむを得ないと決断した。
 彼は、この件を早急にパリヌルスらと計って手を打とうと決心した。
 『こんなところに壁があった』とはであった。
 新艇は誰も気づいていない技術的思想で造られる、新しい構造と機能は、現在如何なる者も追随できない思考である。それを具現する新艇の出来上がりは美しく非の打ち所のない優れたものでなければならない。
 ドックスの想いは固かった。
 『必ずやり遂げてみせる!』であった。
 『よしっ!手配を急ごう』
 彼は決断した、動いた。
 彼は新艇建造の場づくりの各現場を見たあと、パリヌルスとオキテスに事情説明と相談に向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  553

2015-06-26 08:43:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
ガリダは考えた。それは頷けることでもありえた。
 アヱネアスの率いる集団は、750人を擁している集団である。その者たちが自給自足で日々の生業ををしていかねばならない。クレタ島には大型の野生動物が生息していない、狩猟は出来ない。蛋白資源は海から調達しなければならない。また、山野に自生している植物で食用とすることのできる山野草類は、サントリーニ―島群のテラ島の大爆発による降灰で自生条件が悪く辛うじて充足といった状態である。余談ではあるが、古代における昔と呼ぶ時代にクレタ島には牛はいた。しかしである、山野に自生する草が、テラ島爆発以後、充分に育たず、草丈が低く、牛には、はみにくく、クレタ島における牧畜は羊、ヤギの類となってしまったのである。クレタ島でつくられるチーズは色が白い、それは羊乳でつくられるといった事情からである。
 ガリダ一行が荷下ろしを終えて、昼食も済ませ、ひきあげる頃合いとなった。
 『オキテス殿。昼食も馳走になった。ありがとう、うまかった。俺たちは、これにてひきあげる。第2便は10日後くらいに予定している。その様なわけだ、よろしく頼む。アヱネアス殿に挨拶して帰途に就く』
 『了解した、ガリダ殿。第2便の受け入れ態勢も予定に合わせて整える。要望事項ができた時には連絡の者をそちらに向かわせる』
 『帆柱に使うレバノン杉の事だが、その関係筋に話している。吉報を待ってくれ』
 『わかった。連絡をくれれば、こちらも対応を考える』
 『では、よろしく頼む』
 二人の話は終わった。ガリダは、アヱネアスとあいさつを交わして、ニューキドニアの浜を後にした。
 ドックスは、浜に積まれた新艇建造の用材を念を入れて綿密にチエックした。用材を製材した折の用材表面の仕上がり具合、状態を念入りに調べた。
 彼らが使用している製材用具による仕上がり状態を調べた。ドックスの手の者たちの技術水準と用具の優劣を推しはかった。それによって、今の自分たちの技術水準との格差を知ろうとした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  552

2015-06-25 08:57:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 荷下ろし、荷受けの作業が終わった。結構、時間を要した。ガリダ頭の指示で彼の手の者たちも荷捌きに手を貸してくれていた。
 浜では昼食の場がつくられている。オロンテススペッシャルのパンが準備され、塩漬け魚が焼かれて、場がつくられている。
 荷卸しを終えてガリダ頭が船から浜へと来る、パリヌルスが寄ってねぎらう、アヱネアスとイリオネスが歓迎の言葉をかけた。
 『おう、ガリダ頭。ご苦労でしたな』
 『いやいや、私らこそいい仕事をもらったと喜んでいます。この後、第2便が10日後くらいとなります』
 彼は、アヱネアスら4人に囲まれて笑顔をこぼした。オキテスは、渚で区分けして積み上げられた用材を見ながらドックスと話し合っている。オロンテスが姿を見せる。彼は、ドックスの手の者たちの人数を確かめた。
 『そうか、合わせて120人くらいか。ならいける、ぎりぎりだが大丈夫だ』
 『オキテス隊長、ガリダ頭の連中、それにドックスの手の者たちも一緒に昼食をできるように準備しました。そのように彼らを昼食の場につくようにお願いします』
 『なに!オロンテス。そこまで気を使ってくれたのか。ありがとう』
 オロンテスは空を見上げた。
 『少々、頃合いは早いですが、どうぞ!』
 『おう、そうか』
 オキテスがガリダ頭に声をかける。
 『ガリダ殿。昼食の準備ができました。一同を昼食の場へ。私どもの荷受けの者たちも一緒します。昼食を食べましょう』
 言い終えて、アヱネアスらも同席して昼食を共にした。
 ガリダ頭は、感動した。ここまでしてくれているアヱネアスらに礼を述べた。
 彼らは、オロンテスの焼いたパンに舌つづみを打つ、焼きたての塩漬け魚を口にする、そのうまさに感動した。彼らは旨さに感動しきりであった。
 ガリダ頭が声をかける。
 『オキテス殿、この魚もうまいですな。このように大量をどこから?』と聞いてきた。
 『ガリダ殿、これは私どもが、あの小島でつくっているのです』
 『ええ~っ!何と、ここでつくっているとは、驚きですな。旨いパンは焼く、旨い塩漬け魚をつくる。貴方がたはたいしたなものですな。ややっ!馳走になりました。ありがとう』
 ガリダ頭は礼を述べた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  551

2015-06-23 08:01:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お前、軍団長の宿舎わかるな。連絡に走ってくれ。連絡事項は、<間もなくガリダの船が到着する>と伝えるのだ。走れ!』
 『はい!』彼は走った。
 船上の者たちの顔が判別できるまでに接近した。ガリダ頭が手を振っている、ドックスも手を振ってこれに答える、オキテスも手を振った。渚に立つ彼らとガリダの船が指呼の距離に迫る、オキテスとドックスは、ニケに乗り舷を寄せて、彼らの船に乗り移った。
 手を握り合う三人、二言三言、歓迎と到着の言葉を交わした。互いに相互の利を計って、今回の取引きとなったのである。双方に不満のかけらもない。
 『それにしても何ですな。途中ですれ違ったのだが、舟艇ですが、見慣れぬ帆を上げていましたな。あれは何なのですかな?』
 ガリダ頭のこの問いにドックスが答えた。
 『はっはあ~、あれはですな、風ハラミのテスト中の帆です』
 『そうですか。風のハラミ具合が変わっていましたな。また話を伺いたいものですな』
 『判りました』
 彼らは、荷卸しの要領について話し合った。
 ドックスは、新艇建造の用材を積んでいるガリダの船の吃水をニケの船上に移動して調べ見当をつけた。彼はオキテスを残して浜に戻り、荷受け担当の者たちに指示を出した。
 担当の者たちが海の中に胸まで浸して立つ、5~6人が渚まで2メートルの間隔をあけて並ぶ。そのような列を3列つくって荷受けに対応した。
 積み荷の用材を船から海に入れる、海に浮かぶ用材をリレー方式で手で送り、渚で受け取るものが用材を確かめて指定箇所に運び積んでいく、荷受けに携わる者たちの呼吸が合う、荷受け処理が滞ることなく続く。この状況を見てガリダがオキテスに話しかけた。
 『おう、オキテス殿、このように要領よく荷下ろし、荷捌きがうまくいくとは考えてもいなかった』
 『そうか。これは担当のドックスの思案によるやり方でやっている』
 『荷を船に積みだす、船だまりには、荷済み用の桟橋がある。荷積みはさほどの難儀もせずに船積みできる。荷卸しをどうするか、思案していたのだ』
 アヱネアスとイリオネスは、荷下ろしの情景を浜に立ってみている。イリオネスとガリダの目線が合う、双方が手を振る、言葉なく、声を出さず、挨拶を交わした。阿吽の呼吸で事が運ばれていく風景であった。ガリダ方の4隻の船で運ばれてきた新艇建造の用材が浜に山と積まれた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  550

2015-06-22 09:21:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人が朝行事を終える、渚に立つ、浜に朝の光が満ちてくる、朝行事が賑わいを見せている。パリヌルスら三人が言葉を交わした。
 『ドックス、どうだ、朝めし三人で食べないか?』
 『そうですね、しかし、朝めしはとても大事な時間なのです。私は私の手の者たちと一緒します』
 『そうか、今日からが目の離せない大事な時期となる。判った、俺たちもお前にならう。オキテス、そうしよう』
 『そうだな。そうする』と頷いた。
 『では、ドックス、そういうことだ。今日の段取りと時間の割り振りを聞かせてくれ』
 三人は簡単に打ち合わせを終えた。
 今日のキドニア行きは、セレストスの担当である、荷支度に懸命な姿がそこにあった。小島に目を移す、アレテスらが忙しそうに立ち回っている。
 アヱネアスとユールス、イリオネスも海に身を海に浸している。
 一日の始まりである、朝の張りつめた気が感じられる、キドニアへと向かう舟艇は、帆柱を高くして、試走の三角帆が張られている、朝の西風をはらんで波を割って、浜から遠ざかる、浜にはオーラが立ちのぼっていた。
 アヱネアスとイリオネス、そして、パリヌルスとオキテスの四人は渚に立って話し始めた。アヱネアスとイリオネスの二人はパリヌルスらの話にうなずいている。
 『おう、そうか。ガリダ頭からの第一便がとどくのか。彼らの船が到着したら連絡してくれ。統領もだが俺も彼に会う』
 『判りました』
 今日の予定を簡単に打ち合わせた。
 『朝行事には、これがある。好きだな。今日を始めるという、位置につけのサインだ。パリヌルス』
 『オキテス、気張って行こう!』
 『おう!』
 二人は各々の場へと歩を向けた。
 ドックスとその連中が荷受けの場の位置についている。見張り役の者の声が聞こえた。
 『ドックス棟梁、アレに見えるは、ガリダの船ではないでしょうか』
 『おう、そうだ。判った。少々間がありそうだ』
 ドックスが声をあげる。浜にいる一同が気づいた。班長から指示が飛ぶ、場を見渡す、場の者たちが手振りでOKサインを返す、ドックスにOKサインが送られてくる、ドックスが見渡す、パリヌルスもオキテスもいる、万事に遺漏はない、彼は傍らにいる一人の者に指示を出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  549

2015-06-20 08:26:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスが祈り、期待したすがすがしい朝の幕開けである。願った通りの朝であった。目を覚ます、浜に立つ、ほのかに明るみ始めている東の水平線を眺めた。生きている者の習性と言っていいのではないだろうかと思われる。
 彼は光を求めた。まだ間がある、海に身を浸していく、朝の冷気、肌に感ずる水の冷たさ、五感に伝わる、清冽の気、彼の感覚を研いだ。
 陽は、まだ、水平線の幕の下にある、朝行事を終える、渚に立つ、軽く瞑目する、今日のスケジュールを反芻した。
 不明点、案ずべき要点を探る、一切ない。遂行に取り組む己の姿がイメージできた。背に人の気配を感じた。
 パリヌルスとオキテスである。パリヌルスがドックスに声をかけてくる。
 『おう、おはよう!ドックス、早いではないか。おう、お前のオーラを感じる』
 ドックスは、その声に振り向いた。
 『あっ!ご両人おはようございます』
 『おう、おはよう』オキテスも応える。
 『陽の出を待っているのか』
 『え~え、そうです』
 『もうすぐだ。水平の幕を破って顔を出す』
 そのように言って二人は海に歩を進めて身を浸していった。
 ドックスは、陽の出る方角に身を向ける、胸を張り拡げる、彼は心に、身体に太陽を迎え入れたかった。この時を誰にも、如何なるものにも邪魔をされたくはなかった。
 パリヌルスとオキテスの二人は、ドックスの気持ちを悟っているらしい。胸までの海の深みに身を浸して、東の水平線上を黄金色に染めている光の方角を見つめている。
 水平線の幕が破られた。光の第一射が彼らの身を指し照らした。
 ドックスは、胸を大きく張った、大日輪が身を輝かせてセリ昇ってくる、身を震わせる、彼の人生の至上の一瞬であった。太陽を胸に抱いた、心に迎え入れた。
 ドックスは、迎え入れた太陽と行を共にすることを己に誓った。如何なる事態をも乗り超える自分がまぶた裏に浮かぶ一瞬をとらえた。彼は、心体内に向かえた太陽に語り掛けた。
 『新艇建造。事が完遂するまで、一緒に歩もう!手を携えて二人でだ!』
 彼は、これで祈りも、願うことも振り払った。心中に、迷いのない一歩を踏み出せる自信を惹起させた。
 太陽に対する感慨は人それぞれである。海中の二人も、セリ昇る太陽を目でとらえていた。