『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  202

2010-04-30 08:19:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら一行は、エノスの浜より南に向かって歩いている。陽の照りつける浜を2時間くらい歩いた。この辺りから海岸線が東の方に向かって曲がり始める。曲がり角から1キロぐらい先には、小さな湖がある、イリオネスはこの地点から、向かう先を北東方向に変えた。行く先に潅木の林が見えてくる、たどる方向の地面の感触が砂から土になってきていた。歩く先がやや登り坂になってきていた。坂を登りつめた。視界がたちどころに広くなった。そこはやや小高い台地になっていた。イリオネスは、一行のほうに向き歩行をここで停めた。
 一行は、今たどってきた方向を振り返った。そして、その地点から海方向の景色に目を移した。一行は目にした風景に感嘆の声をあげた。
 『お~お、これは素晴らしい。見事な風景だ。イリオネス、これはすごい!』
 程よく曲がる海岸線、その先に展開しているエーゲ海、海原の風景に見とれた。彼らは目を背後に転じた、潅木の林の先に広がっている、いかにも、肥沃を思わせる一面、草に覆われた原野であった。
 イリオネスは、目からウロコを落として風景に見入っている一行に声をかけた。
 『諸君、如何です。この地を砦建設の第一の候補にしているのですが』

第2章  トラキアへ  201

2010-04-29 07:15:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、文化が、文明が進んでいく、その小さな出来事を目の前にしていたのである。ここに三角帆の原初の姿があった。一本綱で展帆、帆だたみが瞬時に一人で出来る手軽な一枚帆がこの小型舟艇に採用されていたのである。この三角帆の効用に人類が気づくのは、もう少し後のことである。
 『オキテス様、いかがです、こんど、この船で魚釣りにでも一緒に出かけませんか。私ももっとよく見てみたい、そんな気持ちです』
 『おう、いいな。明日にでも出かけようではないか』
 トリタスは忙しい。
 『イリオネス様おはようございます。もうそろそろお出かけになられますか』
 『おう、そろそろ出かけるか。統領に話してくる』
 『お~い、皆っ!出かけるぞ』 イリオネスは大声で呼ばわった。
 イリオネスの先導で一同は。建設予定地に向けて出発した。
 陽射しをさえぎる何ものもないもない浜を一行は黙々と歩んでいく、やわな砂地に足をとられながらの歩行であった。砂浜の照り返しも強い、砂も焼けている。潮の匂いは今日も変わらない。朝凪も終わり、海風がそよぎ始める頃となっていた。
 彼らは砂地の歩行にもなれてきた。一行はあちこちで何事か私語を交わしながらの歩行になってきていた。

第2章  トラキアへ  200

2010-04-28 06:40:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、この船は使い勝手がよさそうだな。スピードも出せそうだな。浜に乗り上げ襲撃もしやすそうだ、そして、少人数でやる上陸用舟艇といったところだな』
 パリヌルスも、オキテスも相槌を打っている。
 『あ~あ、これが、パリヌルスの言っていた、一本綱で操作する帆か、なるほど、これなら展帆、帆だたみが操舵しながらでも一人でやれるな』
 アエネアスは、感心して船を見つめた。
 船を見る者の中には浜衆たちもいた。トリタスがこちらに向かってくる姿が見えた。オロンテスも同道している。
 『これが海賊どもが使っていた小型舟艇ですか。なかなかのものですね。これが帆だたみ、展帆が一人でやれる一本綱の帆ですか、帆が三角ですね。風のはらみ具合は、どんなですかね』
 彼は彼らしい疑問を投げかけてきた。
 浜は、海賊から取り上げた小型舟艇を取り囲んで話題でにぎわった。

第2章  トラキアへ  199

2010-04-27 07:31:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トロイが西小アジアの北の地の海峡の極めて近くに国を興して、昨日まで一千数百年の歴史を有している民族であり国であった。それがギリシアの民族の暴挙にって一夜で灰燼に帰して、トロイの民が地中海及びエーゲ海の海域の地に散らばった。(トロイは、これまでにも幾たびも襲撃による壊滅の憂き目にあってはいるものの復興してきていた。このたびの襲撃のあとも復興を果たし、ローマの母市という伝説により、四世紀頃まで存在したが、その後、廃墟となり復興されることはない都市であった) トロイの民の歴史は、新石器時代末からである。いま、エノスの地にいる彼らの知るところではない。だが、長い歴史を背負っている民であることは、体内に流れている血が知っていた。
 イリオネスは言葉を続けた。
 『諸君、建設地が決まりしだい、我々は、砦の建設、宿舎の建設、そして、農耕と、軍団、市民が総力を結集して、これらの事業に取り掛かる。いいかな。ここまでで諸君には質問があるかな、質問がないようであるなら先へ進む。』
 イリオネスは一息入れた。
 『我らは、これらの事業を着々と進めるように計画している、いいな。このあと少々の間をおいて、建設予定地を見に行くことにする。以上だ』
 イリオネスは、統領に声をかけた。
 『トリタスがまだ来ていません。彼が来るまで少々間があります。先ほどの話の小型舟艇を見に行かれますか』
 『うん、いいな。行こう』
 一同は、浜に向かった。小型舟艇、二隻は浜に上げられていた。

第2章  トラキアへ  198

2010-04-26 19:17:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは気を引き締めた。
 アエネアスを統領と定め、トロイの民を引き連れて、建国を成し遂げる。たとえ、今の我々は異国の地に民族として植すべき地を求めている集団である。そのことを意識せずにはいられなかった。
 我々は、土を知り、大地に根ざし、エネルギーをまとめあげ、建国という事業を、原点から、一歩一歩、確実に、そして、鮮やかに組み立てていく、その第一歩が目の前にあるのだ。彼は気を引き締めて次の打ち合わせ事項に移った。
 『諸君たちが聞いているように、砦を建設する地点を決め、収穫の種をおろすべき土地のことを、今日を含めた三日で決めたいと思っている。今日、この打ち合わせのあと、建設を予定している土地を皆で見に行く、また、その予定地の背後には、耕作に適した肥沃な原野も広がっている。土地選定の責任者として、選んだその土地を見ていただきたい』
 アエネアスも、イリオネスも、パリヌルスも、土こそ全ての始まりであるという感覚を持っていた。大地こそが食を生み、民を養う。食が足りて、礼と形をとりてこそ、生きていく社会に秩序をもたらすと思っていた。

第2章  トラキアへ  197

2010-04-23 07:39:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おはようございます』 挨拶が返る。
 『オキテスたちも帰ってきた。イリオネス、メンバーに欠けはないな。では、打ち合わせに入ろう。葬儀と競技大会は終えた。諸君、今日からまた忙しくなる、力を合わせてやろう!俺たちにはできる!宜しく頼む。イリオネス、進行を』
 『オキテスたちが、一人の犠牲も出さず、海賊の討伐から帰還した。はなはだ難儀であったろうと推察している。ご苦労でした。オキテス、復命を』
 『統領、そして、諸君、私たち54名。海賊討伐にサモトラケに向かい、サモトラケ島北の海上おいて30人余りの海賊と交戦、これを殲滅するとともに敵の小型舟艇2隻を戦利として持ち帰った。当方の負傷者2名、全員無事帰着しました。負傷の2名は軽傷であり、程なく快癒するものと思われる、以上』
 『よし、判った。統領、彼に言葉を』
 『オキテス、苦労をかけたな。ルドン、アミクス、タルトス、皆ご苦労であった。これで浜の者たちも少々は安心でいられる。負傷の2名は充分養生するようにしてくれ。ところで、パリヌルスから聞いたのだが、敵から奪った小型舟艇、なかなかのものだそうだな。俺もあとから見ようと思っている。遠征、はなはだご苦労であった』
 皆の拍手が小屋うちに響いた。オキテスは、皆を見渡して頭を下げて礼をした。
 イリオネスは、次の議題に移った。

第2章  トラキアへ  196

2010-04-22 07:28:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、父と子三人で届けられた朝餉に舌鼓を打った。食事を終えたアエネアスは、イリオネス他、軍団の者たちが顔をそろえるのを待った。
 今日も晴れている。凪のときである、海には吹き渡る風もなく波の静かなひとときであった。
 パリヌルスはルドンとともに波打ち際から、何事かささやきながら歩を運んで来る。
 『統領、おはようございます』
 『おう、おはよう。ルドンどうだ、疲れは取れたか』
 『え~え、まあ~といったところです』
 『オキテスが、引いてきた小型舟艇ですが、なかなかのものです。喫水が浅く、浜に乗りつけれるところと広げれば三角の帆ですが、広げるたたむが一本の綱で操作できるところが みそ ですね』
 『ふ~ん、そんなに特徴のある造りになっている船とはな。俺もあとから見る』
 アレテスも来る。オキテス、アミクス、タルトスも姿を見せた。カピユスとリナウス、この二人はアレテスに警備についての報告である。イリオネスとギアスが連れ立ってようやく姿を見せた。全員は浜小屋の中に入り席についてアエネアスの席につくのを待った。
 『おう、皆、おはよう』
 アエネアスは、立ったまま皆に言葉をおくった。

第2章  トラキアへ  195

2010-04-21 07:32:04 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 『おう、お前、朝の行事が終わったのか。いま、オロンテスと話し合っていたところだ』
 アエネアスの父の言葉であった。朝の行事とは、息子ユールスとの水浴、そして、朝の祈りのことであった。オロンテスからは朝の挨拶であった。彼は、ユールスにも声をかけた。
 『統領、おはようございます。ユールスおはよう』
 『おはようございます』 ユールスなりの丁寧さで返事を返した。
 『何です父上、朝早くからの話題は、、、』
 『うん、まあ~な。市井のことだよ』
 『ところで、オロンテス。今日昼から、耕作地のことについて打ち合わせをやらないか、種をおろすのを急がねばならない』
 『いいですね。その言葉を待っていました。手の者を三人くらい連れてきます』
 『判った。待っている。トリタスもいた方がいいか』
 『それは好都合です。この地方の気候のことも聞きたいと思っています』
 アエネアスは意志を決めた。静かに朝の風景を眺めながら考えを巡らせた。
 軍団の者たちを含めた市民たちの生活を早く落ち着かせてやりたい。そうでないと水面に浮かぶ根無し草である。大地に根ざした市民生活の実現へ踏み出す一歩について深く考えた。今がそのときであると強く感じた。

第2章  トラキアへ  194

2010-04-20 08:40:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夏の朝の訪れは早い。エノスの浜では、海水浴で始まる朝の風景があった。
 アエネアスとユールス、親と子で過ごす大切なときでもある。水浴のときを一緒に過ごす、親子のスキンシップ、ユールスも喜喜として過ごす、アエネアスは親として、子に伝えるべきことをユールスに丹念に刷り込んでいった。アエネアスとしても、このひと時が至上のときでもあった。ユールスの健康状態、成長状態を把握して、未来を託す息子の智、心、技、体をアエネアスなりに丁寧に育み磨いた。
 水浴を終えた親子は、浜小屋へ足を向けた。すれ違う者たちと朝の挨拶を交わしながらの歩の運びである。その光景は、民衆の中のアエネアスであった。
 浜小屋の前では、祖父とオロンテスが話し合っている、互いの主張が同調、反発で行きつ戻りつしているようであった。
 彼らは、アエネアスと傍らに立っているユールスに気がついて、目線を二人に向けた。

第2章  トラキアへ  193

2010-04-19 07:49:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 皆の衆が和気で囲んだ焚き火が、今日の日を惜しみながら、ひとつ、ふたつと消えていく、終宴のときが訪れてきていた。
 技を競った、心が燃えた。勝った、負けた。小さな子供たちも転げまわった。歓声も上げた、地団太も踏んだ。エノス周辺の住民の皆が、ひとつどころに集まって一日を過ごした。参加者全員がわいわい、がやがやと競技を、そして、宴を楽しいだ。そんな一日が、いま、終わろうとしている。遅ればせながら皆の衆の中に溶け込んだ、海賊討伐の旅から帰った者たちも和みのひと時を過ごした。
 しっかりと地上に立っている者もいる、へべれけに酔ってふらついている者もいる、互いに別れの挨拶を交わしている。手を振りながら家路にと宴の広場から去っていく、そのような風景がそこにあった。
 アエネアスは、オキテスとルドンに話しかけた。
 『話は、明日にしよう。お前たちも疲れたろう。とにかく休め。』
 『ありがとうございます。では、明朝、報告します。おやすみなさい。』
 イリオネス、パリヌルスほか5~6人がいる。挨拶を交わして、互いの寝所に向かった。