『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  47

2013-06-28 09:07:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほっほう、どうだ。明日の天気は?朝から昼にかけてだ。そして、今夜は荒れそうか?』
 『今夜、明日は、、西の風は強めに吹きますが、荒れることはありません』
 『では、月はどうだ?』 『夜半には月は沈みます。それから陽が昇るまで闇夜です』
 『よかろう、アレテス。人選だ、三人くらいでいい、それから、近くの魚村を訪ねて『はしけ』を一艘準備してくれ。そろそろ昼だ、めしを食べてからでいい。手配を頼む』
 『判りました』
 『今の話、何をされるのですか、隊長。三余人乗れる『はしけ』だと、私のがあります。キドニアの浜にあります。よろしかったら使ってください』
 『何っ!お前、『はしけ』持っているのか、それは都合がいい。お前の『はしけ』を使う、いいか。何はともあれ昼めしを食おう。『はしけ』はソリタンのものを使う。夕方までに人選をやってくれ。三人でいい、夜間の行動だ。用件は探索だ』
 『判りました。私の部下から選んででよろしいですね』
 『おう、それでいい。俺は、統領のところにいる、何かあったら連絡をくれ。あ~あ、ソリタンを頼む』
 三人は、聞きとり、打ち合わせを終えて、それぞれの持ち場に戻った。
 アヱネアス、イリオネス、オキテスの三人は、昼めしの真っ最中というところである。オキテスが声をかけてきた。
 『おう、パリヌルス、お前、昼めしはどうした』
 『まだだが』
 『なら、俺たちと一緒にどうだ』
 『それは、ありがたい。馳走になる』
 パリヌルスは、言いながら砂の上に腰を下ろした。彼は顔を上げた。アヱネアスと向き合っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  46

2013-06-27 16:05:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ソリタンは、何かを思い出し、急に涙声となった。
 『私は家具の後ろに身を隠し助かりましたが、奴らの去った家の中は、見るも無残な状態でした。両親は殺されわ、妹娘は連れ去られるわ、収穫した農産物は持ち去られるわ、家具類は打ち壊されるわ、目も当てられない状態でした。復讐を思うが、自分の非力ではどうにもならない、全くなすすべがなく、途方に暮れ、村を去ることにした次第です。これがこの集落が無人となったわけです』
 彼は、腕で涙をぬぐった。2年半前に彼を襲った残虐の顛末を話し終えた。
 『ソリタン、無念であろう。お前の気持ちは充分にわかる。そ奴らは、あの小島に屯している海賊どもか?』
 『そうです、奴らは、あの小島を根拠地として、このクレタ島の海岸近くの集落を襲うのです』
 『奴らの船は何隻ぐらいだ?そして、海賊の総勢は何十人くらいいるか?』
 『大き目の漁船が2隻、1隻当たり10人くらい乗り組んでいます。小さめの船が5隻で40人です。また、島の西側には小船が5隻で30人、しめて90人と考えられます。奴らは夜襲もやります。ですが、夜半過ぎには必ず帰ってきます。あの島以外では休むところがないのです。クレタ海には、キクラデスのように小島がないので、襲撃が終わったら帰ってくるよりほかに方法がないのです』
 『そうか、判った。ところで、お前、このキドニア辺りの天気に詳しいか?』
 『天気の事、模様替わりについては、詳しいほうだと自分では思っていますが、父からよく教えてもらっていましたから』
 パリヌルスは、何となく深く思案している様子であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  45

2013-06-27 08:16:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アレテスさん、いろいろと事情もありました。あなたに捕えられた折には事情がはっきりしていなかったのです。私のとった行動について、詫びを言います。申し訳ありませんでした』
 『ソリタン、お前の事情とやらが判った。俺は、もう何も思っていない。お前、話すことがあるのだろう。パリヌルス隊長と俺が話を聞く』
 パリヌルスは、じいっとソリタンの目を見つめた。
 『ソリタン、あの集落が無人になった、そのことについて尋ねる、話してくれ。我々が、いま、考えていることは、そのことと深いかかわりがあるのだ。アレテス、今、ここで話したり聞いたりしたことは他言無用だ、いいな。今夕、俺が皆に話すまでは口外してくれるな。ソリタンは、お前のもとにおいてくれ』
 『判りました』
 ソリタンは話し始めた。
 『パリヌルス隊長、アレテス隊長、話します、お聴きください。私がどのような体験をしたか、話します』
 『先ず聞く、我々が耳にしていることは、あの集落が海賊に襲われたということを聞いている、それは本当か?』
 『そうです。それは事実です、間違いありません。私たちが襲われたその前年は、農作物が大変な不作だったのです。襲われた年の春、三月には海賊の襲撃が2回、四月には4回と襲撃の回数が増えました。収穫の終えた月には、収穫した作物を全て、一物も残さずに略奪していったのです。そのうえ、妹娘は連れ去られ、抵抗する者たちをことごとく惨殺しました。全く、奴らの所業は残虐きまわりないものでした。あれから月日が経って、今だから言葉になります』
 ソリタンの声は潤んでいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  44

2013-06-25 08:37:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クリテスが静かな声で他人の耳をはばかるように話し始めた。
 『先日の事です。父と私たち兄弟がパリヌルス隊長と話し合っている席で、今度、我々が移ろうとしている集落の事が話となりました。パリヌルス隊長から、そこで知り合いがいればなという話になったのです。そこでソリタンの存在が浮かび上がってきたのです。一番末の弟が、ソリタンに接触して、ソリタンをパリヌルス隊長と会わせることになったのです。事の成り行きはここから始まっています。この事情が知られないまま、あの集落でソリタンがアレテス隊長に捕えられたということになったのです。捕えられたソリタンは、この裏事情を知ってはいませんでした。知らないままソリタンは、アレテス隊長に、この浜へ連行されたというわけです』
 『ほう、そういうことだったのか。パリヌルス隊長よろしいですか、彼を隊長に引き継ぎます。私はこれで座をはずしましょうか』
 『いや、いい。アレテス、お前はここにいろ。この事情は明日の我々の行動に関する大事な一件なのだ』
 『おう、ソリタン。こちらがパリヌルス隊長だ。隊長の尋ねられることに答えるのだ』
 クリテスは言葉を継いだ。
 『隊長、これで、私の知っているソリタンの件の説明を終わります。私は座をはずします』
 『クリタス、はなはだご苦労であった。弟君に伝えてくれ。ソリタンの事については、この俺が責任を持つ、見の立つようにはかるとな』
 『判りました。ソリタン、判ったな。パリヌルス隊長、私、軍団長のところにいます。用事がありましたら、何なりと申し付けてください』
 終始、無言でいたソリタンが口を開いた。
 『クリテスさん、ありがとう。パリヌルス隊長には詳しく話します』
 言い終わってソリタンは、身体をアレテスのほうに向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  43

2013-06-24 07:58:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三人のところへ姿を見せたパリヌルスは即座に事情を察した。彼が仕組んでいた案件である。
 『おう、アレテス。ここではまずい、場をどこかへ移そう。これは我々にとって大事な案件だ。俺が手配した案件ではなかろうかと考えられる』
 パリヌルスは、三人を連れて1番線の船陰に場を移した。
 これは間違いなく昨日から気にかけていたパリヌルスの案件であった。彼はややすっとぼけて、話を三人に任せて、初めの部分は聞き役で過ごした。
 『おう、ソリタン、お前がこの浜に来た時、何一つ事情を話さなかった。そうこうしている間にお前は姿を消した。そうだろうが。あの集落でお前と出会った。そこのところから説明をしろ』
 アレテスは、少し気色ばんでいた。クリテスが口を開いた。
 『先ず出会い。そこのところを説明します。ソリタンはあの集落の住人であった。私の一番下の弟をしたっている弟の友人です。弟は彼の事情を知っている。偶然ですが、先日、弟とソリタンがキドニアの街なかで出会った。ソリタンが二人きりで話をしたいということで、あの日、集落で弟の来るのを待っていた。弟は来なかった。来たのはアレテス隊長、あなただったのです。その後の事情は、アレテス隊長に捕えられ知っての通りです。しかし、ただひとつ、ここに秘密ごとが存在しているのです』
 ここまで話をしてクリテスは、ちらっと、パリヌルスに視線を送った。パリヌルスは『承諾』を視線でクリテスに返した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  42

2013-06-21 11:39:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスは、セレストスの言葉にうなずいた。セレストスとクリテスの二人はイリオネスの前に立った。
 『軍団長、只今、帰着しました。作図は三枚です。これです、受け取りください』
 クリテスが三枚の木板に木炭で描いた図面をイリオネスに手渡した。
 『おう、ご苦労であった。うまく描かれている。感心感心。これで明日の計画ができるというものだ。セレストス、一番でっかい建物はどれだ』
 『それはこれです』
 彼は、木板の一枚を手に取り、指で指し示した。
 『おい、木炭をよこせ』
 クリテスが、削り尖らせた木炭を差し出した。
 『おう、お前ら木炭をこのように削って線引きをしているのか。やること、すること、なかなかじゃないか』
 『軍団長、クリテスがアレテスに話さなければならないことがあります。クリテスをそちらにやりたいのですが、私はこのまま、報告を続けます』
 『おう、判った。お前ら、ギアスの舟艇で帰ってきたのか』
 『はい、キドニアの街なかで偶然に出会いました。私どもの幸運でした』
 『そうか、よし、報告を聞く』
 アレテスとクリテスの目が合った。
 『おう、クリテス、話を聞く』
 『アレテス隊長、これには深い理由があります。ことの成り行きを始めから話します』
 『よし、聞く。順序良く話せよ』
 クリテスは、話し始めた。
 イリオネスの横にいたパリヌルスは、このことを耳にして三人のところへと来た。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  41

2013-06-20 06:57:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、改めて一同を見渡した。
 『先遣船団として第1船、第2船、舟艇は、明朝、陽の出前に星をかついで浜を離れる。この件についての打合せを夕食後に行う。船長、副長は船に乗る者全員を引き連れて、俺たちの船を陸揚げしている浜に集合すること、判ったな』
 『はい、判りました』
 『あ~あ、サクテス、今、言ったことを船長のギアスに伝えたうえで、全員を連れてお前たちも集合だ。判ったな』
 『はい、判りました』
 『次に、第3船から第6船までの船長、副長諸君は、オキテス隊長から指示命令を受けること、しかと申し渡しておく。判ったな』
 パリヌルスは、身体をイリオネスのほうへ身体を向けた。
 『軍団長、伝えるべきことは申し渡しました』と言いながら、太陽の位置を確かめるべく空を仰いだ。この季節の太陽は、『キラッ』と中天すこし手前に輝いていた。
 ギアスが戻って来たらしい。以外にも、セレストスもクリテスも一緒にいる、二人は、一人の男を連れたいた。
 アレテスは、彼らの方へ目を向けた。彼は驚くと同時に大声を上げた。彼の声は怒っていた。
 『おいっ!お前、ソリタン。どうした?事情を説明しろっ、何事だ。急に何事かも言わずに姿を消すとはけしからん!』
 『アレテス隊長、彼には深く込み入った事情があるらしい。クリテスが説明します』
 セレストスが言った。
 『アレテス隊長、ちょっとお待ちいただきたい。俺たちは軍団長から大切な命令を受けている、復命、報告をしなければなりません。終わり次第、クリテスをこちらによこします』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  40

2013-06-19 08:48:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、各員に言い渡した。
 『まず、船団の編成について説明する。第一船団は先遣船団として、明日の早朝に星を背中に浜を離れる。第一船団は、第1船、第2船、そして。舟艇である。第二船団は、第3船、第4船、第5船、第6船でもって編成する。第5船、第6船は改造交易船である』
 ここでパリヌルスは一同を見渡した。言葉に力を込めた。
 『諸君!これより、各船の船長と副長を任命する。第1船は、船長はカイクス、副長はリナウス。第2船は、船長はアレテス、副長はトピタス。第3船は船長はアバス、副長はテナクス。第4船は、船長はマクロス、副長はキロン。第5船は、船長はリュウクス、副長はアンテウス。第6船は、船長はオロンテス、副長はセレストス。舟艇は、艇長がギアス、副長はサクテス。以上だ。私は、第1船に乗る。第1船、第2船、舟艇の船長、艇長、副長は、私の指示命令に従ってもらう。第3船、第4船、第5船、第6船の船長、副長は、第五船に乗っているオキテス隊長の指示命令に従うこと。尚、統領及び軍団長は第5船に座乗している。一同、判ったな。いいな。以上だ。質問は?』
 『パリヌルス隊長。各船に乗り込む者たちの顔ぶれは変わりますか』
 『それは変わらない。船長、副長の一部は変わったかもしれないが、各船に乗る者たちの顔ぶれの変更は認めない』
 『判りました』
 『他に質問は?』『ありません』
 『今日、これより夕刻まで各船の点検整備だ。入念にやること。判ったな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  39

2013-06-18 06:52:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君!喊声で答えてくれてありがとう』
 アヱネアスは、沸きあがった喊声の礼を言った。彼は、両の手を広げて喊声を静めた。
 『軍団長、打ち合わせを始めてくれ』
 『はい、判りました』
 イリオネスは、出席している者たちと鋭い目線を合わせて、彼らの意志を確かめた。目線があう、スパークする、スパークのあとの安堵感が互いの意欲を強調した。彼らの心をいやがうえにも燃えあがらせた。
 『明日、昼めしを終えたら、この地を撤収して築砦予定地に移る。築砦予定地はキドニアの街の西の浜である。2船団を編成して、この浜をはなれる。船団の編成については、、パリヌルス隊長、オキテス隊長が担当している。各々は、この二隊長の指示命令に従って移動する。諸事に細心の注意を払って行動すること。移動は、明日の日没をもって終了する。以上だ。命令指揮は、第一船団は、パリヌルス隊長。第二船団は、オキテス隊長である』
 イリオネスの訓示、指示、通達が終わった。彼の心のうちは、この指示通達を終えたことによって、すでに事は成ったと確信した。信頼にスタンスした事の成り行きと成就が風景として瞼の裏に浮かんだ。移動に関する諸事の実行がパリヌルスとオキテスに託された。
 二人は、船団について説明するとともに、船長及び副長を任命した。
 パリヌルスは、クリテスの末の弟に依頼した案件を気にかけていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  38

2013-06-17 07:29:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスは席についた。イリオネスは議長の場に立った。会議の場は引き締まった雰囲気を醸し出していた。出席している者たちは緊張していた。
 イリオネスは、会議開始に先だって一同に名を名のるよう指示をした。名のりはイリオネスの左手前よりはじめられた。イリオネスは名を名のる者に、持ち前の鋭い目線で目を合わせ、各々を確認した。彼は、それを終えて、打ち合わせ会議の開会を告げた。
 アヱネアスが立ちあがり一同を見渡す、感慨が胸を突き上げた。眼前に居並ぶ者たち、この者たちで700人余りのトロイの民を乱れることなく統べていく、その意志を言葉を使わずに伝えた。彼らは、アヱネアスからその意志をくみ取った。アヱネアスは口を開いた。伝える言葉が堰を切ってほとばしった。
 
 『諸君っ!』『諸君、日夜ご苦労。ついに来るべき時が来た。このクレタにて我々の念願である建国へ向けての第一歩を踏み出す。砦を築く場所が決まった。明日の午後、その場所に移動する。以上だ。本件についての指示を軍団長より通達する』

 出席している者の中のひとりが大声を上げた。
 『ウオッ!』
 その声につれて喊声が上がった。彼ら一同、統領の言葉に喊声で答えた。彼らは、興奮を抑えかねている。再び喊声が上がった。
 『ウオッ!』『ウオッ!』『ウオッ!』
 コールの大合唱が会議の場を沸かせた。この喊声が浜にいる者たち全員の耳に届く、耳にした者たちの心を打った。
 『この喊声は何なのだ?』
 彼らは、何事かを解することなく、判らないまま期待に胸を膨らませた。