『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  35

2019-05-31 07:31:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 広場に向かう道を歩む、立ち止まる、振り返る、民らが働く浜を見る、歩を進める、立ち止まる、振り返る、民らの邑落に目をとめる、歩き始める。
 小高い広場の高所にアエネアスは立った。
 民ら全員が生きている場を俯瞰する、身体を向かせながら眺め見る、無量の感慨がこみあげてくる。
 地域、海域、そして空域を望む。
 民族を統率する者として統括している、いや、していた、そんな自分の力の領域を考えた。
 それは統率することにより生まれる民族の力であると感じとる。
 抽象的な統率力の具体化力によって、効果的に具体化した結果である。統率力で民族のモチベーションに働きかける、それでカタチづくった業績である。
 『俺一人では為すことのできない業績であり、カタチであり、結果なのだ』
 そのことに胸がうたれる。
 アエネアスは言葉にできないまま、目を風景にくぎづける、またもや襲い来る無量の感慨に思わず身を引いた。
 成果の現状を考え見る、今日に到るまでの道のりを思い浮かべる。
 クレタを離れて、新たな地に新たな民が根をおろす、花を咲かせる、実を結ばせる、種を蒔く、実が結ぶ、繁殖を繰りかえす。建国の道程を頭中に描く。
 建国事業がスタートする、目にすることのできない国を建てる力が生み出す、はるか遠い未来の国のカタチを思い浮かべる。
 建国を進めていく道程の移りゆく姿が頭の中のスクリーンに描き出される、平面的である、そのイメージが立体化してくる、人像が浮かんでくる、人が動く、旗が風になびく、像が活性してくる、建造物も立ち並んでいる、建物の中に自分がいる、描いたイメージが完結する。
 この季節では考えられない柔らかな陽光の下、吹きすぎていくそよっとした風を感じる、かすかに耳にする木の葉のはずれ音で我に返る。
 アエネアスは、広場の高所に到る道をたどってくるイリオネスの姿を目にする、手をさしあげる、声をあげる、手を振り返すイリオネスの姿が目に入ってくる。
 程なくイリオネスがアエネアスの横に立つ、アエネアスが目に収めている風景をイリオネスが眺める、感慨が胸を打つ、イリオネスの目が潤む、なぜかわからない、空、海、そして地に生きている者らの息づかいを感じとる。
 イリオネスが思いつめた口調でアエネアスに声をかける。
 『こうして、しみじみとこの風景を見ると、そこにあふれる統領の力を感じる、カタチとなって見えてきます。統領の力によって民が活性する、生き生きと働く、何かを生み出す、働く民らの息づかいをひしっと胸を打ちます』
 『お~お、そうか。お前も俺も、感慨の無料を感じているのか』
 アエネアスは見つめている、イリオネスも見つめている。
 『なあ~、イリオネス、俺はここに立ってつきつめて考えた。残る民がポリスを成り立たせるだろうか? そして、建国を目指す我らが新しい地に立って、業を成し遂げれるかを考えた。計画立案の時に考えなかった領域のことを考えた』
 『統領、想うところを、考えるところを存分にやってください。統領の力で我らが働き、カタチにしていきます。案ぜられなくともカタチづくられます。統領がいて我ら、我らがいての統領です』
 『イリオネス、言ってくれるな!今の言葉!俺は嬉しい!安心立命の境地、民あってこそだな。俺は民を裏切らない!イリオネス、約束する。よろしく頼む』
 二人は、互いの心を、気持ちを語った。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  34

2019-05-30 06:15:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は会所におちつく、アエネアスが声をかける。
 『おう、軍団長、昼めし前の用務が終わった。空腹を感じないか?』
 『感じています。昼めしにしますか』
 『いいね!そうしよう』
 二人の気が合う、会所において、二人きりで昼食を済ませる。
 アエネアスはこの期に及んで、午後半ばからの率いる民全員に対する建国の地探索の意志の公式表明の重さを心に感じている。
 一瞬、その事をイリオネスに話そうかと考えたが思いとどまる、自問自答する、自分自身が自分に語りかける。
 『おい、アエネアス、お前、何を考えている?この期に及んでそれはないだろうが』
 語り掛ける言葉が頭の中でこだまする。
 『しゃきっとしろ!アエネアス!』自分自身と話し合う。
 『しゃきっとして、事がなれば簡単だ。事がそんな簡単に成就するわけがないだろうが!』
 『そりゃそうだ。お前がやることだ。複雑に考えることはない、二項対立思考で考え、決断する。勇無き決断は思考不足だ、事を仕損じる。熟慮せよ!そして、断行せよだ!向かう先には艱難辛苦が、いま来るか、いつ来るかと待っている。お前についてくる者らを正しく導け!』
 『如何なる困難があろうが恐れはしない!ふりかかるすべての難事を必ずクリアする!遂行すべきを必達成する!』
 『出来るのか?』
 『おう、出来る!俺は、それをやる自信に満ちている、思考も完結している!出来る、やらいでか!』
 自問自答を終える。
 全身に衝動が走る、起ちあがる、拳を強く握りしめている、大声を発する、『ワオオ~ッ!』天にもとどく大声である。
 かたわらにいるイリオネスがこの声を耳にする、驚く、声をかける。
 『統領どうされました?』
 『おう、チョット大声を出したようだな。俺にもわからん。全身に衝動を走って声をあげたようだ。雄叫びだ!』
 『そうですか、ならいいです。考えれば、クリアしなければならない用務が多々あります。少々整理しておかなければ、揮う斧の断裁の切れが良くない、意思の貫徹が鈍るようではいけません』
 『おう、そうか、それは言えてる!』
 二人の会話が終わる。
 『おう、軍団長、俺はひと足先に広場に行く。向こうで全員がそろうのを待つ。広場で考えたいことも少々ある』
 『解りました。私はもう少し、ここにいます。用務が終わり次第、広場に行きます』
 アエネアスが会所をあとにする、イリオネスがその背中を見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  33

2019-05-29 06:14:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 会議が終わる、彼らは散会する。
 アエネアスは、イリオネスを同道して自分の宿舎の前庭へと足を運ぶ、声をかける。
 『軍団長、これは公式の意思伝達だ。俺の父だがアンキセスをこの場に読んでくれ。アカテス、ユールスも同席させてくれ』
 『解りました』
 イリオネスが三人を前庭に呼んでくる、アエネアスが三人に着席を促す。
 彼は、父に対してどう呼びかけようかと考える、考えた末に気づかいすることなく呼びかける。
 アエネアスは立ったままである。
 『私があなたを私の立場上、民族の一員として遇して、意思の伝達をします。いいですね』と言って、父アンキセスの目をジイ~ット見つめる。
 『アンキセス殿、そして、アカテス、ユールスにも聞いてもらう』
 アエネアスは、姿勢を改める。
 緊張するアカテス。
 アエネアスが口を開く、緊迫感が漂う。
 『アンキセス殿、伝えます。アエネアス暦第一の月、21日、建国の地の探索の意図を持って、このクレタの地を西に向けて出航します。三人を同道します。心を決めていただきます』
 『息!アエネアス統領よ、よくぞ決心した、旅発つ日を決めたのか、重畳!同道させていただく!俺はうれしい!この上なくうれしい!俺はこの日の来るのを今日か明日かと心から待ちわびていた』
 アンキセスの傍らに座しているアカテスがうなずく、満面を紅潮させて顔を上下に振って、アエネアスを見つめてうなずく。
 ユールスは、何事かと目を見開いて、四人の表情を見つめる。
 『この旅立ちは、苦難の伴う航海が考えられる。そのように覚悟してもらいたい。解ってもらえるであろうな』
 『それは当然と承知している。そのようなことを気にかけてくれるな』
 『おう、覚悟はよろしい!以上です』
 アエネアスは、父アンキセスに対する意思伝達を終える。
 一瞬、肩から荷のひとつがおりて軽くなった感を覚える。
 アエネアスは、己の決意を確かめる、この確信がない限り、意を決しての大事の遂行がならない、アエネアスは、我が心情を想い起す。
 目線を脚下に移す、足もとを見つめる、イリオネスと目を合わせる、見つめ合う、二人は意思を目でもって確かめ合う。
 アカテスは、一族の長であるアエネアスと尊敬の念のこもった目線を合わせる、うなずき合う。
 『軍団長、用件は終わった。会所へ行く』
 二人は、立ちあがる、会所へと歩を向ける、歩を運ぶ、足がまえには力がみなぎっていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  32

2019-05-28 11:19:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 起ちあがったアエネアスに一同が目を注ぐ。
 アエネアスの意思の強さを込めた目線は、一同の目を突き刺す、目が口ほどに彼らの心に事の次第を告げている。
 彼らが身構える、アエネアスが口を開く。
 『おう、一同、聞いてくれ!これから遂行する事案の実行についてである。私は、決断したこの一事をやり遂げる!諸君らにこれを約束する!この事案の決断に到るまで、計画する、その計画を積んでは崩し、崩しては積んでの道をたどった。はじめは我らが構築した事業の継承について考えた。しかし、それでは我らがこの地において、苦難に耐えて為した事の足跡が消滅してしまう。俺は懸命に考えた、イリオネスとも話し合いを交わした。その結果として、継承という思考を捨てることにした。この地で我ら民族が生きた証を後世に残す、その事について、真剣に考える、脳漿を絞って考えた』
 アエネアスは、一同との目合いを確認する、我が意が決断するまでの話を聞いている一同の姿を確かめる、話を続ける。
 『この地にわが民族のポリスを興す!わが民族をこのカタチでこの地に残す!これを成り立たせる、不退の決意で待って成り立たせる!そして、建国の地の探索にこの地より出航する』
 アエネアスは、会同している彼らに対して宣言する、鋭い目線が一同の目を射る。
 アエネアスが三たびの口を開いて告げる。
 『君らが推挙してくれる責任者の中から数名を選んで、ポリスの上部機構を組織し、ポリス形成の事業を全うする手順を整える。以上だ』と言葉を結ぶ、一同がうなずく、アエネアスがそれにうなずき答えた。
 イリオネスが場の五人と目を合わせる、口を開く。。
 『統領からの言葉を聞いてくれたな!統領の言葉でもって、事案の遂行に就いての事情が分かったな!解りませんは許さん!いいな!この件の意思表明、公式発表を本日の午後半ばに全員を招集して行う場所は広場で行う』
 イリオネスが一拍の間をとる、一同と顔を合わせる。
 『そこでだ、次の会議をスダヌスと会談打ち合わせを終えたその翌日の午後に行う、それまでに責任者と補佐する者を説得して決定しておいてくれ。スダヌスとの会談打ち合わせの場に君ら一同も出席する。解ったな、やるべきことには、自信を持つ、信念を持って事に当たれ!いいな!』
 イリオネスは、告げた言葉に念押しの一語つけて言葉を結ぶ。
 『了解しました』と一同が答える。
 『おっと!今日はだな、午後半ばを過ぎたら終業としてくれ。部員の一同を連れて広場に集まってくれ。おう、アレテス隊長、漁業部の連中全員を引き連れて集合する、遅れるなよ』
 『はい、解りました』
 イリオネスは、諸手配に手落ちがないかを確かめる。
 アエネアスと顔を合わせる、うなずき合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  31

2019-05-27 07:41:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 会議の進む方向が明示される、出席している彼らの迷いが払いのけられる。
 『おう、オロンテス隊長、一番、いこうか』
 『はい、一応、私の後任といったカタチでもって決めています。責任者とそれを補佐する者二名計三名の人選を終えています。次いで、残留する者らについても、ほぼ決定しています。以上です』
 『おう、結構!それでいいな。決定の確率はどれくらいだ?』
 『はい、八割方これでいけると考えています』
 『おう、それでいい!了解』
 オロンテスとの話し合いが終わる、アレテスとの話し合いに移る。
 『次!アレテス隊長、君の担当している漁業部について、報告してくれ』
 『はい、私の担当している漁業部の場合は、責任者正副二名補佐四名の人選を終えています。残留組については、オロンテス隊長のパン工房と同じくほぼ決定しています』
 『おう、いいだろう。彼らへの申し渡しがうまくいくと考えているかな?』
 『はい、それについては、懸念はありません』
 『おう、上々といったところだな』
 『そうです』
 イリオネスは、一同と顔を合わせる、三事業部の中で最大の人員を擁している船舶建造の事業部である、緊張度を高めてオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス隊長、君の部は、最大の人員で構成されている、事情はどうだ?』
 『私の担当している船舶の建造部、それから営業の部を含めての計画となります。ドックスを長として現場三部と営業部の責任者と補佐する者を決めています。ドックスを補佐する者三名、各部の責任者三名とそれを補佐する者責任者一名につき、補佐する者二名をほぼ決めています。外部から人材を受け入れている関係上の問題があります。残留する者が現状の3分の1くらいしか見込めない懸念を持っています。こちらについては方針が固まっていない状態です。人員派遣先である、ガリダ側との話し合いで考えなければならないと考えています。そのようなわけでガリダ方からの人材の受け入れを含めて思案中です。方針確定にあと二日を擁すると考えています。営業部については、ほぼ決定しています。以上です』
 『了解した。船舶建造の各部についての確定は、二日以内に完了してくれ。そうでないと、あとの作業進行に支障をきたす。オキテス隊長、よろしく頼む』
 『解りました。この件については、二日以内に目途をつけます』
 『この件については、目途ではなく、決定としてくれるよう頼む』
 オキテスからの話し合いを終えて、第一議題を終える。
 イリオネスは、軍団長としての役務である征途の軍団構成について一同に説明する。
 『ではこのあと、この建国の地探索に出航する意図と構想について、統領に述べてもらう』
 イリオネスが統領に顔を向ける、目で伝える、うなずくアエネアス。
 彼が起ちあがる、一同と目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  30

2019-05-25 05:59:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の朝が明ける、空は、薄雲に覆われている、浜は通常と変わらない、顔が合う、朝の挨拶が飛び交う、賑わいの朝行事風景をかもしだしている。
 今日は、アエネアスが己の民族一同に建国の地探索の出航に旅立つ意思表明をすることにしている日である。
 アエネアスは、傍らに立つイリオネスとともに、朝行事に訪れる者らの健全具合をはかりながら朝の挨拶を交わしている。
 二人の周りに早朝会議出席のメンバーが集まってくる、総員6名の顔がそろう、イリオネスが声をかける。
 『おう、一同、そろったな。会議の場は、俺の宿舎ということになっている。朝食の準備は出来ている。君らは先に行ってくれ。統領と俺は、いま少しここにいる』
 彼ら四人が軍団長の宿舎へ歩を向ける、歩きながらの話題は、気にかかる道中の変事についてである。
 彼らが軍団長の宿舎に着いて、間をおくことなく二人が姿を見せる、会議のテーブルに就く、朝食の時を過ごす。
 イリオネスが一同に声をかける。
 『おう、お前ら、結構、緊張しているな。そうであろう。会議の議題が議題だからな。そうであるのが当たり前だ』
 『議題が議題です。緊張せざるを得ません。一族の乾坤一擲の大事です』
 『それが事業部を預かる者の覚悟だ。当然であろうが』
 朝食が終わる、イリオネスが場の気をはかる、どことなくしっくりしていない、その真因に気づく。
 会議の方向付けと段取りと議事進行の打ち合わせが充分に出来ていないことにあると意に解する、即刻手を打つ。
 『おう、一同、聞いてくれ!議事進行の段取りを告げる。君らが提案する計画内容は出来ているな?』
 『はい!出来ています』
 『ならばいい!可、不可は、問わない』
 イリオネスが眼光鋭く彼らと目を合わせる。
 『君らに問う!君らに今回の擧の全体像が見えているか?』
 『見えてはいません』
 『会議を進めるこの俺にも全く見えてはいない、それについては、個々の話し合いを終えたあとに統領のほうから説明がある。それまで待て!それが終わって、全体で会議する。では個々の話し合いの順番を伝える。一番はオロンテス担当のパン工房、二番がアレテス担当の漁業事業部、三番がオキテスが担当している船舶の建造部と話し合う。なお、この征途に就く軍団の構想についてはパリヌルスが担当することになっている。それが終わって全体で話し合う。話の内容は、丸い穴に適当とは到底考えることのできない四角い杭を打ち込む、それの合致適合を目指す!無理が想定される、それの適合を話し合う。覚悟して会議を行う。いいな』
 『はい、解りました』
 彼らは会議を進める方向を理解する、段取りを了解する、会議をスタートさせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  29

2019-05-23 07:42:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとイリオネス、二人が船台の場の風景に見入っている、感動の風情である。
 ドックスが気づく、二人の前に立つ、軽く会釈する。
 『おう、ドックス、ご苦労!』
 『今日は、いい日和です。近頃、日足も少々長くなって作業にはかどりが出てきています。うれしい次第です』
 『お~お、建造作業の進みが順調に見えるな。重畳重畳!こうして見る5基の船台上で艇が出来あがっていく、この光景は、いつ見ても壮観である、見る者を圧倒する、感動だな。それも月半ばを過ぎての船台の場の風景が素晴らしい!この風景がたまらなく好きだ!』とイリオネスが述べる。
 『そうですか。そのように言われると現場を仕切っている私は、極めてうれしい限りです』
 統領も声をかける。
 『ドックス、ごくろう!お前あってこそ、いい船が出来あがっていく。この作業風景がたまらない感動をくれる。この事業は我らの誇りである』
 『統領、ありがとうございます。その言葉いただきます』とドックス、感激で頬を赤らめる。
 『おう、受け取ってくれるか、互いに感動だな』
 アエネアスが手を伸ばす、握るドックス、感動場面にイリオネスが微笑む。
 二人は建造の場の巡察を終える。
 会所におちつく、二人の目が合う、声をかける。
 『イリオネス、ここのところ、計画の立案作業を追う余りに現場の巡察を怠っていたな、反省反省。トラキアで小船を造っていたあの頃を思い出すな。あれが過ぎ去った遠い過去に思える。ものを造ることはいいなとしみじみと感じている』
 『そうですね!全身の智と心、そして、技を持って全霊を注ぎ込む、モノを造りあげる。いいですね』
 『智心技体の汗を見る!それを目にして管理者として心に汗を掻く!冥利に尽きる!この感動いつまでもと想う』
 『その統領の感性がすごい!感じ入ります。統率する者として心ですな』
 二人は心の内を話し合う。
 帰ってきたオロンテスが今日の成果報告に顔を出す、オキテスが来る、パリヌルスが姿を見せる、一同の顔がそろう、イリオネスがアエネアスと目を合わせる、目で問いを交わす、アエネアスの気持ちを問う。
 アエネアスが口を開く。
 『おう、一同がそろったな。伝えたいことがある』
 『はい、伺います。言ってください』パリヌルスらが答える。
 『一同に伝える。明後日、早朝より会議をやる。場所は軍団長の宿舎だ。その結果を持って、午後半ばに全員に対して意思の表明をする。軍団長、そのように段取りしてほしい』
 『解りました。一同!いいな、いま、統領の言われたように事を進める。各事業部の計画検討会議だ。明後日、早朝より行う。場所は統領が言われたように俺の宿舎だ。午後には統領の意志を全員に伝える。パリヌルス、アレテスにその旨を伝えて出席させてくれ』
 『解りました』
 『一同、聞いておきたいことがあれば聞いてくれ』
 『それはありません』
 来るべき時がおとずれる、一同の心が決まる時である、その打ち合わせが終わる。
 矢が弦を離れる時がこくこくと迫ってきている、一同をせきたてた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  28

2019-05-22 07:53:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの声がけに耳を傾ける。
 『なあ~、イリオネス、考えるとだな、先を読むということはなかなか難しい、難儀なものだな。船舶を建造する、その展開を左右するのは、今後これからの船舶の需要と供給の問題だな。これがどのように展開するか、計り知れない』
 『そうですな?』とイリオネスが首をかしげる、話を続ける。
 『統領、そんなもの見えるわけないですよ。見えたら、仕事の苦労が半分になります』
 『お前、簡単に言うな。発生する事態を日々の尽力、努力でクリアしていけるか?いい状態で売り上げを維持して、仕事の回転をうまくやっていけるか?俺の考えている目指す方向の発展、維持に関係する。先をどう読んで、それに対応する条件を構築できるかにかかっている。イリオネス、俺と一緒にそれを考えてくれ。今の俺の考えでは、当たるも八卦の状態だ。心もとない』
 『統領、それは、言われる通り難しい問題ですな。その問題はそれなりに考えるでよろしいのでは、真剣に考えては迷う。私はそのように考えます。この思考に力みは禁物です』
 『そうか、お前だったらどのような手順で考える?ちょっと言ってみてくれ』
 『物事を考える、一瞬の閃きが頭をよぎる、その閃きを評価検討する、しょうもないようなら捨ててしまう、考えの道を歩む、閃きがおとずれる、また、評価検討する、これが繰り返される、確かだなと勘繰られる思考がまとまる』
 『それで終点か?』
 『いえ、それで終わりではありません。統領が正解を出そうとするからではないですかな?将来を考える、先を読んで当たった、うまくいった!そんなことたまたまの偶然であって、正解でも何でもありません。当たった八卦です』
 『おう、お前、きついことを言うな、それが道理とうなずけることができる』
 『この種の思考は、問題の正答率です。80点以上の高得点で考え、結論する方向に進めると難しい。私の考えでは、50~60点くらいで考えて、あとは当事者の思考と実行で80点以上にすればいいのです。それで取り返しの出来ない最悪の状態を避けれるのではないかと考えます。いかがです』
 『お前のその考え方いいな。考える者、実行する者、どちらも人間がやることだ、お前が、今、言った考えが合っているかもだな。よしっ!その考え方をもらう、それでやる』
 アエネアスは、この件についての思考方針をきめる、何となくこの事態の前が、先が見えてくるように感じる。
 この件に関して考えを巡らせる、難易度の高い思考をシンプルに考える、なんとなく思考作業に安ど感を感じる。
 二人は、船台の場に立つ、作業風景に見入った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  27

2019-05-21 07:49:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスがイリオネスに慎重に話しかける。
 『イリオネス、俺の考えを言っておく、聞いてくれ。各事案を綜合的にまとめて、処理順序、手順を書いた木板を仕上げてほしい。明日から実行を検討していきたい。解ってくれるかな』
 『解ります。それに順じて事の進捗を計るですね』
 『おう、お前の言う通りだ。その一、そこに書いた手順に従って計画を進める。その二、どのような事態が現出するかを想定する。その三、その処理が適正であるかを確かめる。その四、その成果を是と出来るか否かを確かめる。成功確率を確かめる。そして、次項に移る。いいな!』
 『解りました。明日に時間をずらして、再び精査する。計画の妥当性を確かめるということですね』
 『計画立案を二人でやっている。大きな間違いをしない配慮だ。わがまま放題の勝手な所業である。進める作業に慎重を期す』
 アエネアスは信ずるところを述べた。
 イリオネスは、二人で立案した計画を丹念に精査する。対手の状況を充分に調査して把握する、話し合いの進捗に応じての決定に関して融通性を考慮した計画案に出来あがっている。
 オキテス、オロンテス、アレテスらからあがってくる彼らの試案と照合検討して計画案の完成させる。
 イリオネスは、それを行う日時を決める、アエネアスに伝える。
 『おう、そうか。彼らからあがってくる計画案との照合検討を明後日にやる。お前と俺が立案した計画案の精査を明日の午後にやるのだな。解った』
 『統領、対外的な計画の本格折衝は、五日後のスダヌスとの打ち合わせからです』
 二人の計画立案作業は、それなりの時間を費やして終える。
 『統領、計画立案の今日の行程が終わりました。私、会所のほうへ行きます』
 『おう、俺も一緒に行く』
 二人は会所へ歩を向ける、会所に着く、誰もいない。
 『イリオネス、頃合いは何時だ?』
 イリオネスが太陽を仰ぎ見る、答える。
 『そうですな、終業の頃合いまでには、充分に間があります』
 『そうか、俺は建造の場の巡回に出かける』
 『私も同道します。立案した計画の妥当性をチエックします』
 『おう、俺もその事を考えての巡回だ。行こう!』
 二人は、建造の場へと歩みだす。 
 船台の場、部材製作の場、建造用材置き場と順次に見て廻る。
 アエネアスは、人員が半分となる各現場の状況を想像して、その状態を鮮明に瞼の裏に想い描く、イメージする、各場の活性具合を想像する。
 はかり知ることが難しい、アエネアスは考える、脳漿を絞る。
 ポリスを形成する、進展させる、その重要な役割を果たす船舶建造の場なのである。
 それには、船舶建造にかかわる今後の船舶の需要と供給のありかたにあると気づく。
 彼はすかさずイリオネスに声をかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  26

2019-05-20 08:37:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとスダヌスとの極めて大事な会談が終わる。
 次回の話し合いの約束を交わす、イリオネスは、ひとつの山を越したことを実感する。
 アエネアスの話の運びが巧妙であったことに舌を巻いて感心する。
 アエネアスと自分、そして、スダヌスの三人が共有していたイデー山の登頂のことに想いを馳せÞる。あの事がこんなにも強烈な印象となって、三人の胸中に存在していたことに驚いた。
 三人があの日あの時、目にした世界のありようについて、アエネアスが今日話したような想いを生起させ、抱いていたとは知らなかった。
 イリオネスは、そのことを耳にして、民族の長である統領としてのアエネアスを理解した。

スダヌスとの会談を終えて、アレテスの便船で帰途に就いた彼の見送りを終えたアエネアスが会所に姿を見せる。
 『おう、イリオネス、大変ご苦労であった。スダヌスとの最初の会談を終えた。確実に一歩前へ進んだ。これから事案を具体的に展開させるわけだ、忙しくなる。イリオネス、心して事に当たっていこう』
 『解りました。その覚悟はできています』
 二人は、遅い昼食を会所にてすませる、アエネアスがイリオネスを促して、イリオネスの宿舎へと向かう、道すがら話を交わす。
 『統領、さすがでしたですね。統領の話運びのうまさに感心しました』
 『俺もあの方向に話が展開していくとは考えてはいなかった。まさかだったよ』
 『スダヌスを加えて三人が、イデー山の山頂で体験したことをあのように共有していたとは知らなかったですな』
 『俺ら三人は、イデー山山行の友か、何かを命がけでやる、絆が強く結ばれる。いいことだな』
 『私ら三人は、イデー山山行の友であることですが、三人の間に何かそれ以上のものがあると感じています』
 『そうか、それは言えている。なあ~、イリオネス、想像もできない厳しい条件での体験をする、それを共有する。それが互いを結ぶ絆を強いものにすることは確かである。そうであると俺は思っている』
 『今言われたような条件下で共有する、したは、強力な絆で結ばれる!間違いのないことですね』
 二人がイリオネスの宿舎に着く、テーブルに就く、計画作業にとりかかる。
 イリオネスが想定される各事案ごとに区分けして、木板に書き込んでいく、順次、各事案について話し合う、その要点を事案ごとの木板に処理手順に基づいて書き込む。
 アエネアスがイリオネスに告げた。