『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  137

2010-01-29 07:32:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 宴はにぎわった。多くの大人たちに混じって子供たちの姿もある。浜一帯の住民たち総出の祝勝の宴であった。その賑わいに茜に燃える夕陽も参加していた。
 アエネアスと軍団の者たち、そして、市民たちは、浜衆や村の衆たちとの親密度が増し、上陸したてのときとは、比較にならないくらいにうちとけていた。
 アエネアスは、各グループを廻り、礼を尽くし、酒を酌み交わし、語り合い、親交を深めることに努めた、皆とのなごみながらの酒肴はこの上なくうまくくつろげた。アエネアスに連れ立って廻るトリタスの気遣いもとてもありがたかった。
 茜色に染まっていた宴の場も、宵の藍色に変わり、時が進むにつれて濃くなっていく。名残り惜しそうに終わりの時が訪れた。
 『トリタス、そして、浜頭の皆さんありがとう。浜衆の皆もありがとう。私たちは故国を離れて、異国の地に来て、このように厚い友誼に深い方たち会えて、私はとてもうれしい。その上、私たちを厚く遇してくれていることに心から礼を言います。皆、本当にありがとう。』
 アエネアスの目は潤んでいた。

第2章  トラキアへ  136

2010-01-28 07:38:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 宴の場に近づく、喧騒が耳に届く。アエネアスは、宴の場の入口に立った。浜頭のトリタスに連れ立って数人の浜頭たち、そして、数人の浜衆、先着の兵たち、オロンテス始め、数人の市民たちに迎えられた。浜頭が参加している者たちのほうに向いて合図を送った。宴の場から大歓声があがった。
 『わおっ!』『わおっ!』『わおっ!』 の大歓声である。
 それは耳を聾する大歓声であった。エノスの浜一帯に響き渡った。アエネアスは、この大歓声には照れた。
 『ありがとう。こんなにしていただいて大感激です。皆が背中を押してくれた。そのおかげで勝利することが出来たのです。皆っ!ありがとう。』
 『イリオネス、パリヌルス、アレテス、持参したものをこれへ。』
 『トリタス、そして、浜頭の皆さん、浜衆の方たち、村の衆たち、戦利品の裾分けです。収めて皆で分けてください。』
 戦利品の裾分けを受け取った者たちは大感激した。
 宴に参加している衆は、総勢1500人以上と思われる。一村挙げての宴であった。彼らは、25人~30人で焚き火を囲んでいる。そのグループが60余り広場をぎっしりと埋めていた。

第2章  トラキアへ  135

2010-01-27 09:14:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 言い終わると、アエネアスは息子のユールスを抱いて浜へ向かって歩き出した。
 彼は、ユールスを波打ち際に立たせて海中に身を浸した。海水は肌に心地よかった。波打ちに立たせているユールスを見ながら、身体を丹念に洗い、道中の汚れを落とした。
 洗い終えたアエネアスは、膝くらいの浅瀬に来て、ユールスを手で招きよせた。彼は水を怖がらなかった。久々の父と二人だけのときである。海の中に身をかがめている父に飛びついた。アエネアスは、ユールスをひしっと抱きとめた。
 彼は、ユールスを右手しっかりと抱き、夕陽になろうとしている太陽に向かい、海中に膝まづき、太陽に向かい感謝の念をこめて、明日からのことを祈りあげた。太陽は、高みにあるときよりも、二周りも三周りも大きく照り輝いていた。海面は、茜のこがね色に映え、波は、二人を心地よく揺らし漂わせた。親子二人きりの幸せのひと時であった。
 アエネアスは、親として強く抱きしめている、腕の中のユールスは少々緩めてくれはしないかともがいた。
 『統領!』『統領!』と呼ぶ声が聞こえて来る、彼はそちらへ顔を向けた。パリヌルス他三人の者たちが呼んでいた。アエネアスは海から上がった。
 『統領。宴の場が整ったようです。参りましょう。』
 彼は、パリヌルスとつれだって、宴の場へと足を運んだ。

第2章  トラキアへ  134

2010-01-26 07:57:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 敵と戦ったこの2日間は長かった。処理した仕事も多かった。これからやるべき事の考えもまとめた。自信を持って、明日に一歩を踏み出せるように事を運んだ。
 瞬時にそれだけの思いをめぐらせた。
 夏の陽は、まだ夕陽には至っていない。パリヌルスはアエネアスに歩み寄り、このあとの今日の予定について手短かに説明した。
 『統領。浜頭、浜衆たち、村の者たち、市民たちも総出で祝勝の宴の準備に取り掛かっています。程なく整うはずです。統領も準備してください。』
 『お~お、そうか。それはうれしい、皆の喜ぶ土産話もある。パリヌルス、イリオネスとアレテスを呼んでくれないか。』
 『判りました。』
 イリオネスアレテスの二人は、時をおかずにアエネアスの許に来た。
 『イリオネス、アレテス、両人ご苦労であった。それにしてもお前たちもずいぶん汚れているな。ところで用件だが、浜頭、浜衆、村の者たちに戦利品の裾分けをしたいと思う。どうだろう。』
 『それは、いいと思います。』
 『両人、パリヌルスと相談して準備しておいてくれないか。祝勝の宴の寸志だ。頼む。それから、お前らもだが、兵たちにも身ぎれいにして、宴に出るように指示してくれ。』

第2章  トラキアへ  133

2010-01-25 07:16:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、朝早くこの地から出かけたアエネアスの帰着を待っていた。物見の兵が、一行が近づきつつあることを告げてきていた。その報告を受けたパリヌルスは、歓迎の隊列を整えて待機した。隊列は、通路をもうけ、その両側に兵を整列させた。待ち受ける兵たちの気持ちは、全員無事の帰着であった。
 一行は、砂煙をあげて近づいてくる、アエネアスを先頭に駆けて来た。待ちわびている兵たちから歓声があがった。両側に別れている隊列の中を進んでくる。
 『オーリャッ!』『オーリャッ!』『オーリャッ!』
 歓声がどよめいた。隊が停止する。下馬する兵たち、両側にいた兵たちが、彼らに殺到した。全員が抱き合い、無事を確かめ、喜び合う感動の風景であった。
 帰着の兵たちの顔、身体全体が汗と砂塵で汚れきっていた。アエネアスは、この光景を馬上から眺めて、皆の歓びが、自分自身の歓びであることに、ひとり悦にいっていた。
 『統領。無事のお帰り何よりでした。』
 パリヌルスが自分を仰ぎ見ている、目と目が合う、アエネアスもようやく、馬から下りる気持ちになった。
 そこには、パリヌルスがいる、オロンテス、アカテスもいる、主だった者たちがそこにいた。息子のユールスも祖父とともにそこにいた。

第2章  トラキアへ  132

2010-01-22 07:16:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの部隊の者たちは、砦にあった財宝その他を戦利品として持ち帰るべく荷として整え、彼らのするべき仕事の全てを終えた。
 木陰でエノゼリアスと雑談を交わしていたアエネアスの許にイリオネスが報告に足を運んで来た。
 『統領、砦における仕事の一切が終わりました。当方の部隊全員、砦の外に集結しています。如何されますか。』
 『判った。帰るとするか。陽はまだ高いな。』 と言いながら、エノゼリアスに声をかけた。
 『エノゼリアス領主、我々のするべき仕事の方は終わりました。私たちの去るべき時が来たようです。これにて帰途に着きます。今後、時々砦の方へ出向きます。宜しく願います。』
 二人は、座を立ち握手を交わした。エノゼリアスは門まで歩を運び、去り行くアエネアスとその一団を見送った。
 アエネアスとイリオネスは馬首をよせて、二言三言、言葉を交わした。
 『イリオネス、パリヌルスも軍団の皆も、お前らの帰りを待ちかねているぞ。ところで、戦死者はどうした。』
 『はい、彼らは、荼毘にふして、骨箱に入れて持参しています。皆とともに葬ってやるつもりです。』
 帰心は、馬足を速めた。戦場からポリメストルの砦に徒歩で来た兵たちも、砦にいた馬を我がものとして、騎乗していた。

第2章  トラキアへ  131

2010-01-21 06:57:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アエネアス。これからは、君も一砦の主だ。ともに友としての交誼で付き合おう。いいな。』
 『そうしていただければ幸いです。ところでエノゼリアス殿。』
 『エノゼリアスでいい。敬称はいらん。気を使うな。』
 『エノゼリアス、エノスの浜一帯の浜衆、住民たちが海賊で難儀しています。私が、上陸して以来の恩があります。サモトラケ島の海賊を根絶やしにしようと思っています。よろしいですかな。』
 『それはいい。海賊掃除をしてくれるのか。それは助かる。この俺に出来ることがあったら言ってくれ。手を貸す。いいぞ。』
 傍らにイリオネスが立っていた。
 『統領。荼毘の方も片付きました。身内の者たちが骨を拾っています。直ちに納骨します。それで一切の仕事が終了します。』
 『そうか、イリオネス。それが終わり次第、我がほうの者、全員引き上げる、いいな。』

第2章  トラキアへ  130

2010-01-20 08:49:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとイリオネス、そして、ギアスと従卒たちは、砦内の館の前に並び、下馬して近づいてくるエノスの領主 エノゼリアスと丁寧な挨拶を交わし、砦の引渡しの儀式に及んだ。
 『アエネアス殿。エノス領主 エノゼリアス、今、ここに、この砦を受け取った。このエノゼリアス、この砦を中心に生活を営んでいる住民の誰もが喜ぶ統治を行うことを約束する。ご苦労であった。ありがとう。』
 『宜しくお願いします。』
 アエネアスは、言葉短く答えた。
 『ところで、アエネアス、ときどき、エノスの砦に遊びに来てくれ。心からの歓待だ。』
 『ありがとうございます。お願いした件、何卒、宜しくお願いします。』
 『心得た。浜頭のトリタスを呼んでくれ。』
 ギアスがトリタスを呼びに走った。
 『お~お、来たか。トリタス。アエネアスが行なう事、全て、首尾よく運ぶよう、肝に銘じて、尽くしてやってくれ。』
 『心得ました。』
 確信に満ちたトリタスの返答であった。
 ここに砦の引渡しの儀式は、アエネアスの計らいで何事もなく終わった。

第2章  トラキアへ  129

2010-01-19 08:34:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ポリメストルの砦では、領主ポリメストルの荼毘が終わろうとしていた。
 イリオネス、アレテスの二人の隊長の差配により、砦の内外の整理は終了している。アエネアス統領とオキテスの部隊、エノスの領主とその一行の到着が間近であることを、物見の兵から伝えてきていた。アレテスは、部隊を砦の門前に整列させ、一行の到着を待った。
 彼らは、程なく到着した一行を歓声を持って迎えた。
 『オーリャッ!』『オーリャッ!』『オーリャッ!』
 歓声は天を突いた。砦の上の小さな天であるが、歓声は天を突き抜けていった。
 オキテスの部隊は、砦の門外にとどまり、収砦の部隊は、アエネアス、エノぜリアス両主に続いて、砦内に入った。イリオネスは、従卒5名とともに彼らを迎えた。
 砦内に入ったアエネアスは、馬からとびおり、イリオネスに駆け寄るや、彼の肩をしっかり抱きしめ、見つめあい、互いの無事を確かめた。
 『イリオネス、ご苦労であった。』 とねぎらいの声をかけた。

第2章  トラキアへ  128

2010-01-18 08:33:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ゼレカスがアエネアスに訊ねた。
 『アエネアス殿。隊の方たちは何人くらいでしょうか。』
 『この者が隊長を務めています。兵の数は50人です。このオキテスが案内いたします。』
 『オキテス殿、この者が酒肴を整えます。』
 ゼレカスは、オキテスに小者を紹介し、その任に当たらせた。
 ささやかな酒肴が供された小宴であったが、心のこもったもてなしに全員が舌鼓を打って堪能した。陽が中天に差し掛かろうとしている頃には、祝宴が終わった。砦の広場には、収砦に向かう部隊の編成が整いつつあった。
 双方の部隊が隊伍を組んで砦を出て行く。先頭には、アエネアスと護衛のギアス、くつわを並べて、エノゼリアス、こちらも従卒一人を従えていた。そして、オキテスの部隊、続いてエノゼリアスの部隊である。
 一行は、さんさんと輝く夏の陽の光を遮るもののない街道をポリメストルの砦へと歩を進めた。