『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  792

2016-05-31 04:34:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~っ!そうか判かった。了解した』と承諾の返事を返した。
 オキテスは報告を続ける。
 『次は進水披露の件ですが、催行と招待の件を集散所方、スダヌス、ガリダ方に伝えました。当方の意向を喜んで受け入れてくれています。報告は以上です。詳細については改めて軍団長に相談いたします』
 報告を終えてオキテスは緊張を解いた。報告はオロンテスに変わる。
 オロンテスは、交換したドラクマ銀貨を入れた袋をもってきている。
 彼ら三人が銀貨交換の作業に携わっていた。銀貨の量といい、ズッシリ重さがある、あれだけの木札を交換したのである、然るべき量がある。しかし、あまりにも量の差が想像を絶する大差でありすぎる、考え込まざるを得なかった。銀貨の価値の高さに驚いていた。軍船を2回も仕立てて運んだ大量の木札である。仕事に、作業にかけた長い時日の成果がこれだけなのかとも認識した。
 『あの木札150000枚がこの量でこの重さか、(量は500ミリリットルペットボトル5本くらい、重量は約13キログラム)ズッシリ来るな!それにしてもだな―ーー』
 一瞬黙り込む、イリオネスは考え込んだ。
 『何はともあれ、オロンテス、ご苦労であった』と言って、オロンテスが差し出す銀貨の入った袋を受け取った。
 イリオネスが受けた精神的衝撃は大きかった、彼は考え込む表情をかくすことができないでいた。
 イリオネスが見せる態度、その思案顔、それを目の当たりにして、場はシイ~ンと静まった。
 『これは受け入れねばならない世の中の実態なのか』と考えこむ。
 イリオネスは、解しがたい、納得できない、承服しかねる、こみ上げる感情は複雑であった。彼は心の内でしみじみ感じている。
 『これが世の中なのか』
 『我らが長い月日をかけてやった仕事の成果を銀貨で評価するとこれだけなのか』
 『しかし、考えてみよう。俺たちが建造している新艇の用材原価が、このドラクマ銀貨250枚、俺の両手ですくううことのできる量ではないか。世の中の成り立ちに頭をかしげる』
 彼の思案が到達すべきところに到る、静まっている場を見まわして我に返った。
 『お~お、皆、どうした?』
 『おう、イリオネス、お前こそどうしたのだ?』
 アヱネアスが声をかける。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  791

2016-05-30 04:26:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスら三人が顔を見合わせる、オキテスが口を開いた。
 『パリヌルス、今日のキドニアでのことを話さなければいかんのだが、二度三度同じことを口にするのは俺としても大変だ。オロンテスもここにいる、軍団長に報告もある、打ち合わせもある、軍団長のところへ行こうと思っているが、どうだ』
 『それでいい、判った。行こう』
 三人は軍団長の宿舎へと足を向ける、宿舎に着く、オキテスが戸口に立って声をかける、イリオネスが姿を見せた。
 『おう、オキテスか、お~っ、三人がそろっているな』
 『只今、キドニアから帰ってきました。今日の会議の結果報告と二、三打ち合わせたい件があります』
 『そうか、今、統領もここにいられる、いいタイミングだ、入れ』
 『はい!』
 『五人が膝をつきあわせて、お前の報告を聞くのだ。膝つめ談判だな』
 彼らが宿舎に入る。木札が詰まっていた部屋である、広々としていた。
 部屋の中央に統領が座している、彼が声をかけてきた。
 『お~っ!三人、ご苦労!丸太ベンチに掛けろ。オキテスにオロンテス、今日の会議どうであった?結果を聞かせてくれ。君らの仕事の結果を聞く、俺には、それで明日が見えてくる』
 イリオネスも席に着いた。
 『では、報告いたします』
 オキテスは、姿勢を改めて話し始めた。
 『まず、会議結果を報告します。新艇の価格の件は、1520ドラクマ、当方の提示価格で決定しました。集散所方もこの価格を大歓迎といったところです。我が方が提示した集散所方の利益についても納得のうえ受け入れてくれています。一連の販売業務については、その一切を集散所方が行うことに決まりました。5艇全艇の販売についてです。販売業務、契約、納入、代金の回収、業務の一切を集散所方が行います。当方は、販売の促進業務の実行のみについて、これを行っていく。そういうわけです。それに関連して、パリヌルスが作成してくれた仕様書きと姿形図ですが、あれが大好評でした。2枚一組として、10組くらい集散所がほしいと要望しています。あの2枚の木板が販売業務、売り込みと契約締結に力を発揮すると感じました』
 彼は、話を中断して、パリヌルスの方に身体を向けて、相手方の要望を伝えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦 お詫びと訂正

2016-05-28 11:04:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 深くお詫びいたします。大変な間違いをしでかしました。
 仕様諸元 の数字を間違えました。
 新艇の全幅の数字を間違えたのです。下記のように訂正いたします。

                      山田 秀雄

        仕様諸元
 
 新艇  全長   40キュビット    帆柱数    2本
     全幅    9キュビット    帆柱高さ  20キュビット
     艇深さ   31/3キュビット 帆枚数    4枚
     漕ぎ座数 左10座       乗員数   35人
          右10座       積載量    乗員数に準じる  
     櫂長さ   8キュビット    艇首部    甲板構造
     櫂舵    1本        艇全体    下甲板構造

                 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  790

2016-05-27 05:47:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスの提案の件をドックスに引き継いだオキテスは、ギアスに声をかけた。
 『ギアス、いろいろ考えた結果だが、櫂舵の具合も見てみたい、ガリダからの角材の受け取りの件もある、ほかにも用件がある。俺だが明日もキドニアに行く、お前に明朝、打ち合わせるといっていたがそれは中止する、、いいな。櫂舵の件、ドックスと話し合って、今、すぐやるのだ。ドックス、どうだ、とりかかれるか?』
 『はい、やります!』
 『おう、よかろう!作業に取り掛かってくれ』
 ドックスとギアスが打ち合わせる、ドックスがギアスに話しかけた。
 『ギアス、お前の考えは?現状よりどれくらい大きいものがいいのか、どう考えている?』
 『はい、あいまいな言い方ですが、進行方向、前後にふた回りくらい大きくして試したい。そのように考えています』
 『ギアス、聞くのだが、横ブレ抑止桁を取り付けて、ヘルメスの吃水が少しは変わったか?』
 『それは変わっていないように感じています。艇の安定性が向上しています』
 『そうか、それはだな、取り付けた角材の浮力と重量の関係なのだ。解るかな。このような造作は、本来からいえば、感じで決めて造作をやるのはよくないのだが、試し試しの繰り返しで仕事をしている。それがいい結果に結びついている。本当はそれではいけないのだ。もっと緻密に物事を測り、計ってやらねばいけない仕事だと俺は考えている。まあ~、それはそれとして、目の前の仕事をやろう。ヘルメスを作業の浜へつけてくれ。櫂舵の作業に取り掛かる、お前に意向も考えも聞いた、造作は俺に任せるな、ギアス!』
 『はい、棟梁の判断で造作をやってください。試すのは私です』
 『よし!すぐとりかかる。櫂舵を造るのに少々時間がかかる。ヘルメスを作業の浜につけたら、櫂舵を取り外してくれ。要領について解っている者をよこす』
 『解りました』
 ドックスは、パリヌルスらから離れて作業場へと向かった。
 ギアスは、ヘルメスを作業の浜につけて、櫂舵部の解体作業にとりかかった。
 昨日に続いての緊急の作業が開始された。
 いい結果を期待しての真剣作業である。ドックスの所作の気は鋭かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  789

2016-05-26 05:32:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、体で感じ取っている。これまでのヘルメスとどこかが違う走りを感じていた。走行に落ち着きが出てきている。微妙である、誰でも感じとれる走行感ではない、ヘルメス艇の走行に雑な横ブレがなくなっていることを感じとった。傍らのギアスに声をかける。
 『なあ~、ギアス、ヘルメスの走り、お前の体感はどうだ?』
 『はい、いい方向に変わっていると感じています』
 『答えがあいまいだな。ここがこのように変わっていますと『かど』のたった表現ではないな。ハッハ!』
 オキテスが笑いをこぼした。
 『まあ~、そうだわな、ハッハ!これはこうですと、ハッキリと言えることではないわな』
 弱い向かい風の抵抗感を感じながら、ヘルメスは、ニューキドニアの浜に帰りついた。
 浜では、ドックスがオキテスの試乗結果を待っている、オキテスを浜に出迎えるドックス。
 『オキテス隊長!おかえりなさい。走りの感じ、どうでしたか?』
 彼は開口一番にオキテスに訊ねた。
 『走行感がよくなっている!グッドだ!雑な横ブレを感じない!走りの安定感が増している。造作をした甲斐があったというものだ。造作する価値ありだ。角材は、明日持って帰れる。造作の体制を整えてくれ』
 『解りました。これで、この造作をした新艇の進水披露ができます』
 パリヌルスが姿を見せる。
 『おう、オキテス、お帰り!して、どうだった?』
 『おう、試乗感だが、すこぶるいい!雑な横ブレがなくなり、走行の安定、落ち着きが出てきている。造作に使う角材は、明日、持って帰る。ドックスには指示を終えた。まずは重畳とというところだ』
 『そうか、それはよかった』
 ギアスが話し合っている三人のところへ来る。
 『おう、ギアス、ご苦労。造作に関するお前の感想は?』
 『はい、キドニアで荷下ろしを終えて、時間都合ができたので、スダヌス浜頭に乗ってみてもらいました。浜頭からは、『おう、これはいい!』と評価をもらっています。浜頭に操舵をしてもらいました。浜頭とは、櫂舵の大きさについて話し合いました。私見を話した結果、櫂舵の大きさをもう少し大きくしたらいいのではないかとの結論に達しています。それを造作して使ってみたうえで採用の如何について検討いただければと考えています』
 『そうか。ドックス、ギアスの話、聞いてくれたな、考えてみてくれ』
 『解りました』
 ドックスは、こころよく答えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  788

2016-05-25 05:34:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、今日は、ご苦労であったな。オキテス』
 『今日の会議は、いい結果で決着したといっていい』
 『艇の仕上がりも進水のところまでにきている。これからの展開も、今日の決着で先の見通しがあかるい!なあ~、オキテス、ところでだな、あの2枚の木板だが、あれは大役を果たすぜ!俺のところへも2組ほどほしい!イラクリオンの浜頭のところへ送ってやろうと思う』
 『解りました。スダヌス浜頭、今日はありがとう。礼を言いたくてここへ来た。今日はこれにて帰る。進水披露への出席、そして、これからもよろしく頼む!船の便については、明後日、ギアスに連絡させる』
 『解った!ではな』
 オキテスは、スダヌスの売り場をあとにした。
 船だまりにオロンテスとスタッフらが来る。オキテスもスダヌスと用件を打ち合わせて船だまりに帰ってくる。ガリダ方に使いに出した者も帰ってきている、オキテスを迎えて報告に及んだ。
 『オキテス隊長、行ってきました。ガリダ頭もたいそうな喜びようでした。角材の件について報告します。角材は、木板に描かれた仕様に仕上げて、明日昼過ぎ、帰り船の出航時までに、ここに届けると言っていました。ガリダ頭が角材の納入に足を運ぶそうです。以上です』
 『お~っ!そうか、ガリダ頭が角材の納入に、ここに来るのか。そうか、よし!今日はご苦労であったな、休んでくれ』
 オキテスは、ギアスを手招きで呼び寄せる。
 『おう、ギアス、忘れないうちに伝えておかないとな。明日のことだ。ガリダ頭が例の角材をこの船だまりに昼過ぎまでに運んでくる、受け取り方を頼む。また、ガリダ頭を進水披露に招待している、出席人員と船便について打ち合わせてほしい。その件の詳細については、明朝、出航時にお前に伝える。以上だ』
 『解りました』
 『帰り支度できているのか?』
 ギアスが振り返ってヘルメスを見る。
 『オキテス隊長、全員、もう艇上にいます。隊長と私が乗れば、直ちに出航です』
 『おっ!そうか、行こう』
 二人がヘルメスに乗る、ギアスが出航の指示を発する、船だまりを離れるヘルメス、波を割って帰途に就いた。
 オキテスが気にかけているヘルメスの航走具合を確かめるべく、神経を研ぎすませて、艇の後方に座を取っている。帰り船のヘルメスを押す風が吹いていない、漕ぎかたの漕ぎで波を割り進んでいる。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  787

2016-05-24 05:18:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ハニタスが顔をほころばせる、そして、話を続けた。
 『決定した新艇の価格が私たちが考えた価格より値が下がったことは大歓迎です。私たちは、販売に総力をあげて力を尽くしていきます。約束します』
 『ありがとうございます』
 オキテスとオロンテスは、会議が考えた通りに決着したことに満足した。
 二人は、細かなことにも考えを及ばせて打ち合わせた。新艇の納入価を設定して、販売の締結価格を事例を提示して、価格設定の自由度についても話し合った。ハニタス言い分ではそういった事例の場合には、集散所としての慣習もあるといった具合で話はいい方向に決着した。万事がいい方向に向かって作用している、販売に関する一切を集散所に任せることの意義を確認した。
 二人は、己らがなすべき役務を改めて認識した。
 打ち合わせが終わった。場の四人が握手を交わして散会に到った。
 一同が小部屋をあとにした。
 
 『おう、オキテス会議は大体のところうまく決着したといっていいと思う。お前の評価はどうだ?今日はお前が別人に感じられたな。あれがオキテスとはな。俺は驚きだった。俺らが一族の想いがお前にのっかているといった感じがしたな』
 『そうか、俺もそのような思いがしたな、俺と俺以外の何者かが、俺にものを言わせている、そのような感じがした。不思議な力が覚醒して俺を動かしている感じがした。なあ~、オロンテス、会議が我らが望んだ方向に決着したことを喜ぼうではないか』
 二人は立ち止まって、堅く手を握り合っている、いつしか二人は、パン売り場の前に立っていたのである。
 パン売り場は今日の業務を終えていた。オロンテスがスタッフに声をかける。
 『おう、今日の業務が終わっているようだな、業務の推移を簡単に話してくれ』
 『はい、今日は客足もよく、売れ具合も好調でした。そのうえ、30個2件の予約も受け付けました』
 『それはよかったな。お前らよくやった、ご苦労。明日も晴れるやだな』
 オキテスが声をかけてくる。
 『おう、オロンテス、俺、スダヌスの方へ立ち寄って、船だまりに行く。また、ガリダの方へ使いに出した者の返事が気にかかっている』
 『そうか、俺たちも今日はこれにて終了だ。頃合いも、その頃合いだ』
 『ではな!』
 オキテスは、スダヌスの売り場の方へと歩み始めた。
 スダヌスは、売り場に立っている、オキテスが近づく、スダヌスが気づく、歩み寄って手をさしのべる、握り合う手には力が満ちていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES ROM TROY   第7章  築砦  786

2016-05-23 04:52:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスが承認を告げる。ハニタスが立ちあがる。場は緊張している。
 『了解いたしました。では、新艇価格を発表いたします。新艇価格は1艇、1520ドラクマと決定します。なお、新艇の販売取扱いは、当集散所が一手に取り扱いいたします。5艇全艇の販売に関するすべての業務を当集散所が担って行っていきます。販売契約、納入、代金の受領、その他一切の販売に関する業務の全てを行っていきます。よろしいですな、オキテス殿』
 『よろしいです。建造と販売。これを二者が別々に専門に行っていく、いいでしょう。了承いたします』
 『オキテス殿の方が建造を行い、当集散所が販売業務の一切を行っていく。これを了承いただいた。よろしいですな。以上です』
 『しかと、了承いたします』
 ハニタスがスダヌスに話しかける。
 『スダヌス浜頭殿、今日、この場で取り決めた事項、および、新艇の価格等、尊重され守られ実行されていくよう第三者として、監理、監督方をお願いしたい。よろしいですな』
 『その件、しかと、了解しました』
 スダヌスは力を込めて答えた。
 ハニタスが立ちあがって言葉を述べる、呼吸をはかる、一同と目を合わせる、語調よろしく言葉を述べた。
 『ここまで以外のことで会議にはかりたいことがありますか?オキテス殿いかがですか?』
 『いえ、ありません』
 『新艇の価格が決定し、業務取扱の方針が決まりました。以上をもって、今日の会議は終了といたします。今日は、ご苦労でした』
 一同が手を打ってこれに答えた。
 ハニタスがスダヌスと二言三言言葉を交わす、うなづくスダヌス。
 スダヌスがオキテスに話しかける、承諾を顔を縦に振ってこたえるオキテス。
 スダヌスは、一同に声をかけて、場から去っていく、一同はこれを目で送った。
 ハニタスとオキテス、そして、オロンテスは、建造と販売、業務の進め方、会議で触れた集散所の取り分利益のことどもについて打ち合わせを終えた。
 『ところで、オキテス殿、頼みたいことがあります。先ほど会議中にいただいた仕様書きと姿形図に事ですが10枚くらいづついただきたい、分納でも構いませんが』
 『いいでしょう。解りました。できるだけてっとり早くお届けします』
 『ありがたい!お願いいたします』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  785

2016-05-21 04:20:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 木板を受けとった二人は驚いた。覗き見るトミタスは、驚嘆の目を見開いた。世の中に数ある『さか』のうちのひとつ『まさか』に驚いた。
 彼らにとって驚きの2枚の木板である。1枚には、新艇の仕様が書かれている。艇の長さが解る、幅が解る、艇体の深さが解る、帆柱の高さも書いてある、櫂座の数についても書いてある。これでもって新艇全体の大きさがつかめた。もう1枚の木板には、帆張りした新艇が海上に浮かんでいる姿の想像図が描かれてあった。
 この2枚の木板が如実に新艇を物語っていた。これを目にした者は、新艇を理解する、また、この新艇に乗り、これを駆って海をかける自分の姿を脳裏に描く。
 『この船を我がものにしたい!』欲望を喚起させるにふさわしい2枚の木板であった。
 ハニタスが口を開く。
 『お~お、これはいい!実に素晴らしい』感嘆の声をあげた。スダヌスがハニタスに同調する。二人は、感極まって唖然としていた。
 オキテスは、この様子を見ながら口を開いた。
 『如何がですかな、この2枚の木板は?新艇の売り込みに使っていきたいと私らは考えています。何卒宜しくお願いします』
 彼はここで言葉を切って、一同と目を合わせる、目にものを言わせたい。
 『ところで新艇の販売価格を発表いたします。私らは、集散所の方より提示された価格をもとに鋭意検討いたしました。どのような条件で、この価格が決まられているのかについて検討いたしました。私らも価格決めに関係する諸条件を私らなりに厳密に検討し、私らが考えた原価を低く抑える建造手法を取り入れて建造している新艇の価格を決めることができました。私らが売り出す新艇の価格はこれです』と言って、オロンテスが木板に書きつけた数字を披露した。
 『おお~っ!』
 ハニタス、スダヌス、トミタスの三人が驚きの声をあげる。
 『何ということだ!この価格は!オキテス殿、その価格で売り出してよろしいのかな?その価格の中に当集散所の取り分の利益も含まれていると考えていいのですな』
 『はい、それについては、私らは、配慮怠りなく考えております。これについては、ハニタス殿と私の二者で話し合いたいと考えています。よろしいですかな』
 『解りました。いいでしょう。私は、了解いたしました。この会議の場では、唯一の第三者でいられるスダヌス殿、この新艇販売価格承認いただけますか?』
 『はい、承認いたします。集散所が利益としての取り分については、当事者で話し合っていただきたい』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  784

2016-05-19 05:13:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は歩きながら言葉を交わした。
 『おう、オキテス、会議のことだが、どのように話が展開するか、予想がつくか?』
 『そうだな、俺はちっとも考えてはいないが、会議冒頭から話を俺たちに振ってくると考えている。議論はない、彼らは、俺らが提示する価格で自分らが望む利益の確保を考えて価格を決めようとしてくると考えている。互いによくよく検討していることだ。決めるのに手間ヒマはかからんと思う。話が来たら俺が受けて立つ』
 『判った。吹いている風は、俺らにとっての追い風だ!』
 『よしっ!』
 『おうっ!』
 二人は、手を合わせて意気投合を確認した。オロンテスの左手には、パリヌルスが書き、描いてくれた6枚の木板が抱えられていた。
 『おう、オロンテス、仕様書きと姿形図もってきてくれているな』
 『おう!』
 二人は、会議が開かれる小部屋の入り口に立っていた。
 部屋の中を見る、ハニタスとトミタスは席についている、スダヌスはまだ来ていない、オキテスは、入り口をか~るくノックするハニタスと目が合った。
 『おう、ご苦労さま』の声をかけてくる、トミタスが立つ、二人を席に案内した。
 スダヌスの声が耳に届く、一同が入り口を見る、そこにスダヌスの姿があった。
 トミタスがスダヌスを席に案内する、価格決め会議の始まりの時となった。
 ハニタスは一同と目を合わせて、会議の開始を告げた。
 『御一同、ご苦労様です。ただいま、これより新艇の最終価格決め会議を開きます』
 ハニタスの声が一同の心を引き締める、一同とじい~っと目を合わせる、おもむろに言葉を発した。
 『オキテス殿、先日、我々が提示申し上げた新艇の価格は如何でしたか。充分に検討されたであろうと思っております。その結果について話していただきたい』
 オキテスが予想した通り、話が振られてきた。
 これを受け止めたオキテスが口を開く、彼は、話を集散所に対する感謝から話し始めた。
 『ハニタス殿、ありがとうございます。私らは、ハニタス殿をはじめ集散所方へとても感謝しています。重ねてありがとうございますと感謝の言葉を申し述べます。本日は、私らが建造している新艇の最終価格決め会議です。私らが今日にいたるまで幾たびかの集散所が開催する会議に出席して、いろいろのことを学び、見識を広め、高めてきました。ありがとうございました』
 彼は、心情を述べ、ハニタスら一同と目をあわせ、軽く頭を下げた。
 『あ~、オロンテス、持参した新艇の仕様書きと姿形図をハニタス殿とスダヌス殿に渡してほしい』
 オロンテスは、新艇の仕様と姿形を書き、描いた木板を二人に手渡した。