『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  96

2009-11-30 14:38:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの軍団は、敵を押し包んでいる。敵は一塊になって、槍を突き出して身構えている。それを取り囲んでいるアエネアスの軍団の兵たちも、武器を構えて敵と対峙している。互いにわめき、怒号を飛ばしている。双方すくみの状態である。取り囲まれている敵は、もう怯えきっていた。
 アエネアスは、この情景を見て戦慄した。400もいた敵の軍団が、いまは、80くらいに兵数が減っているではないか。その敵を包囲している自軍の兵も500余りに減っているのではないかと思われた。
 時は過ぎていく、夜は昇る太陽に駆逐されて明るくなっていた。包囲の輪が小さくなったり大きくなったりしている。イリオネスは、敵の全滅のときを計っている。敵に一斉に討ちかかるタイミングである。自軍を出来るだけ傷つけたくない、損じたくない。
 イリオネス、パリヌルス、アレテスの三人は、打ち合わせた。
 『槍を投げ入れて、敵の命脈を絶つ!そして、押しつぶそう。いいな。』
 瞬時に方策を決定して、全軍に指令した。隊長が兵に指示する。敵の怯えが極点に達した。
 イリオネスの一投を合図に、おびただしい数の槍が一塊になっている、逃げ場のない敵にめがけて撃ち込まれた。

第2章  トラキアへ  95

2009-11-27 10:28:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ラミドトスの親衛の兵が襲ってくる。手にしていた槍で、辛うじて二人まで倒した。パリヌルスの得意の業物は剣である。あと一人、その敵は、死に物狂いで討ちかかってくる。こっちの方がラミドトスより、はるかに難敵であった。斬りあい突きあい数合、間合いを取って対峙した。パリヌルスの息が乱れてきていた。
 その敵の背後にオキテスが立っているではないか、パリヌルスは救われた。
 『おい!』 オキテスは、敵に一声かけた。敵は振り向く、振り向いた敵に真っ向から剣を振り下ろし、叩き斬っていた。
 『パリヌルス、手こずっていたな。ラミドトスをやったのか。大変だったろう。』
 『おう。ありがとう。礼を言うぞ。もう、一息のところまで来たな。』
 『敵を押し包んだ。包囲の輪を縮めたぞ。』
 『行こうっ!』
 パリヌルスは、失うことの出来ない業物の剣を、ラミドトスの体から引き抜いて、血を滴らせながら部隊を叱咤し、戦いの場に歩を運んだ。
 彼は、兵を一人呼び寄せて、ラミドトスの屍体を見張らせた。

第2章  トラキアへ  94

2009-11-26 07:56:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ラミドトスは、剣を大きく振って迫ってくる。パリヌルスは、右左に懸命に避けてこれを凌いだ。剣先が奴に届かない、ラミドトスは、パリヌルスの剣が描く剣弧の向こうにいる。ラミドトスの息に乱れが出てきていた。
 パリヌルスの剣は、鉄でできており、この時代としては、先進の技術で造られていた。ラミドトスの青銅で造られた剣に比べて、軽く、刃も鋭く、少々長く造られており、使い勝手よく出来ている業物であった。
 パリヌルスは、一歩踏み込んだ。接近して誘った。ラミドトスは、この誘いに乗ってきた。ラミドトスは、このときとばかりに斬りこんできた。身を引いたパリヌルスは、剣のかえってくる前にラミドトスに体当たりを食わしていた。パリヌルスの得意技、、突きの一瞬が決まった。パリヌルスは、全体重をかけて、剣をラミドトスの腹に突きたてていた。剣は鎧を貫き、鍔元まで深く突き刺し、体を貫いていた。
 ラミドトスは、その大きな体躯をパリヌルスに預けてきた。パリヌルスは、ラミドトスを支えきれない。剣をそのままにして、右横に跳んで、敵兵の斬りこみを避けた。すかさず、地上にあった槍を掴んで、襲ってきた敵に身構えた。ラミドトスの腹から噴出した血でパリヌルスの身体は、真っ赤にぬめっていた。

第2章  トラキアへ  93

2009-11-25 08:03:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 撃剣を合わせている、息遣いが激しい。二人は、跳び離れて、間合いをとった。ラミドトスに余裕があるのか、ないのか、判らないが、パリヌルスに声をかけてきた。
 『おいっ!お前らなかなかやるな。大将は誰だ。そして、お前は?』
 『おい、聞きたいのか。俺は、エドレミトのパリヌルスだ。我らの統領は、アエネアスだ。冥土へ持って行けっ!』
 『アエネアスに、パリヌルスか。アエネアスは耳にした事がある。しかし、お前のことは、、、まあ~、そんなことはどうでもいい。俺はラミドトスだ。来いっ!』
 『決着はつける!いいな!』
 『では、やり合うか。かかって来い!』
 話し合っている間にパリヌルスは、ラミドトスを読みきった。ラミドトスの右足に少々の癖があり、討ちこみ時に、わずかの隙ができ、剣の返しが遅れると読んだ。パリヌルスは、構えているラミドトスに討ちこませるように誘った。間合いが広めである。そのせいか、相手は、誘いに乗ってこない。パリヌルスは、自分が勝つことを念じながら間合いをじりっとつめた。

第2章  トラキアへ  92

2009-11-25 07:12:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとポリメストルとの果し合いを見ていた兵たちが、アエネアスの勝利にどうっと喊声を上げた。この勝負に勇気づけられた兵たちは、果敢に敵に挑んでいった。アレテスは、討ちかかってくる敵を倒して、アエネアスに駆け寄り、立ち上がりに手を貸した。
 『統領。大丈夫ですか。』
 『おうっ!アレテス、俺は大丈夫だ。兵を呼んでポリメストルの首と屍体の番をさせろ。』
 『判りました。』
 アエネアスは、その場の指示を終えて、戦場を見渡した。このとき、荒野の東から、太陽の一条の光がさしかけてきた。朝の光が明るく戦場を照らし出していく。
 彼が暁の戦場に見た光景は、敵を押し包んだ包囲の輪を縮めていく、自軍の勢いであった。それを見て、再び戦場に目を移した。各ポイントの状況を念入りにチエックした。
 鬨があがる、隊長の檄が飛ぶ。槍の穂先が、剣が、陽の光をはじく。雄叫び、絶叫、おめき、命を失い往く者のうめきと叫びが渦巻き、風に散っていく。
 アエネアスの目線がひとつの風景を捉えた。パリヌルスが派遣軍の軍団長ラミドトスと斬り結んでいる風景であった。

第2章  トラキアへ  91

2009-11-23 07:44:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 互いに力で押しやり間合いを広げた。
 アエネアスは、ポリメストルの陰惨な、その目の中に恐怖のおののきのあることを読み取った。剣を引き上げ、上段に構えたポリメストル。そこから、振り下ろしてくる力のこもった奴の剣を俺は受け止められるか、瞬時、アエネアスの頭の中を不安がよぎった。
 アエネアスは、一歩踏み込んで奴を誘った。奴はのってきた。ポリメストルは、満身の力で振り下ろしてきた。奴は、身の動きに素早さはないが、力は有り余っていた。アエネアスは、受けることの不可を悟るや、ポリメストルの左へ跳んでこれを避けた。体の左側を太刀風が吹きすぎる。すかさずポリメストルを見る、振り下ろされた剣は、地を打っていた。そこに前かがみのポリメストルを見た。アエネアスの首薙ぎの一振りはくるうことなく、ポリメストルの首に打ち込まれていた。ギロチン斬りの一振りであった。首はとび、鮮血は飛び散った。
 アエネアスの一振りも力が入っていた、敵を倒したものの構えのバランスを崩し、不覚のしりもちをついた。
 離れたところでアレテスは、この様子を目にした。

第2章  トラキアへ  90

2009-11-20 07:06:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、そこにポリメストルとおぼしき将の姿を見とめた。そこで目にしたのは、生への望みを絶たれて、倒れいく自軍の兵の姿であった。
 アエネアスの心は、きりきりと傷んだ。『このままでは、奴に多数がやられる。』 ポリメストルのいる方へと足を向けた。
 『このままでは、いかん!』 彼は、心の叫びを声に出していた。
 アエネアスは、ポリメストルの前にはだかった。
 『貴様、ポリメストルだな。』
 『そうだが、何だ、何か用か。』
 『俺がお前の相手をする。』
 『何っ!貴様は誰だ。』
 『俺か。俺は、この軍団を率いているアエネアスだ。将には将が相手する。俺の覚悟は出来ている。』
 『判った!いくぞ!』
 ポリメストルは、つばきを飛ばして、わめくや間髪をいれず血の滴る剣で突いてきた。アエネアスは、横に跳んで、これを避ける。ポリメストルの使っている剣はやや長い業物と見た。間合いを広めにとって、ポリメストルに対峙した。二人は、じりっと間合いをつめる。アエネアスめがけて第一撃が来た。左肩をめがけて振り下ろしてくる、辛うじて鍔元で受け止めた。なんと力のある奴だ。どきっと筋肉に緊張を走らせた。一歩半、あとじさってこらえた。二人は、にらみ合った。

第2章  トラキアへ  89

2009-11-19 07:37:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ポリメストルもラミドトスも、自分たちの描いた戦闘構想のシナリオではなかった。彼らは、アエネアス軍団の先制的な攻撃を受けてもたついた。彼らも歴戦を重ねた兵士たちである。前面の敵であるイリオネスの50人隊を押しまくった。50人隊は、押し下げられた。30メートルくらい退き下がった。
 そのときである。戦場の左右に、突如!鬨の声が沸いた。それを合図に50人隊は、踵をかえした。はじかれたように敵に歯をむいて襲い掛かった。埋めておいた伏兵左右合わせて400の兵が敵を押し包んだ。敵をアエネアス軍団が包囲した。ポリメストル、ラミドトスの率いる部隊の兵たちは、突然起きたこの事態に驚き、腰を抜かした。彼らは肝をつぶした。この頃には、彼らの兵数は、340くらいに減っていた。彼らは、どこをどう攻めれば、戦闘を優利に展開することが出来るか迷っている。陽は、まだ昇っては来ていない、薄明の薄闇みの中で激しく干戈を打ち合っていた。アエネアス軍団の包囲の輪がぐんぐん小さくなってくる、両軍の兵たちは、相手の命を的に突き、斬り結んだ。
 その斬り合いの風景の中に、アエネアスは、鮮血の噴きあがるのを目にした。

第2章  トラキアへ  88

2009-11-18 08:46:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスの前衛の隊は、70メートルぐらいの前進地点で敵と衝突した。隊形は、三角のくさび形で敵の隊の継ぎ目に突きこんだ。敵の隊には厚みがなかった。5列40人横並びの横隊である。イリオネスは、労少なく敵の隊列を突き破った。左にポリメストルの率いる部隊、右に派遣のラミドトスの部隊である。兵たちは、怒声を張り上げ、干戈を打ち合った。敵の隊を二つに割ったイリオネスの隊は、二手に分かれ、敵の背後に展開して斬り込んだ。分断された敵は、イリオネス隊の後方の左右の50人隊と槍で突き合い、剣を斬り結んだ。50人隊は、押された、戦力比は、150対50くらいの比である。敵は優勢を頼んで50人隊を押した。50人隊は、後退し始めた。背後に廻ったイリオネスの隊は、がむしゃらに敵に襲い掛かっていく。敵は、背後を気にしながらも、前面の50人隊を押した。背後を襲ったイリオネスの隊は、これ幸いと敵を斬り倒した。

第2章  トラキアへ  87

2009-11-17 08:04:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『敵だっ!隊を整えて討ちかかれ。敵は落人ふぜいだ、叩き潰せ』
 ラミドトスは檄を飛ばした。ポリメストルの軍団も陣立てを急いでいる。両軍団とも時をおかず、もたつきながらも鬨の声を上げた。
 布陣のチエックを終えていたアエネアスは、静かに時を待っていた。彼の研ぎ澄まされた神経は、全軍の細部に至るまで行き届いていた。
 荒野の東、はるか彼方からの薄明の気配を感じ取った。地平近くにあった星のひとつが、その光を消したのである。
 戦場諜報担当の一人が帰ってきて報告を入れた。アエネアスは、ためらいなく、イリオネスに囁いた。
 『時だ。攻撃を開始する。』 と言うや否や、地上にあった石のひとつを思いっきり蹴り飛ばした。
 『おうっ!』 と力強く答えて、
 『戦闘開始っ!進めっ!』 と命令した。同時に
 『敵をひとり残さず、討ち取れ。!』 と檄を飛ばした。
 すかさずあがる鬨の声、前列が鬨の声をあげる、それを受けて後列が声をあげる、打ち寄せる大波を思わせた。
 敵との間隔は100メートル、隊は前進する。敵の前進開始は三呼吸遅れていた。
 イリオネスの率いる部隊は、前進とともに、その隊形を変化させて前進した。