『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  705

2016-01-30 05:46:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 統領以下五人のキドニア行きの朝が明けた。タイミングのシンクロナイズである。彼らは、時を同じくして浜にそろった。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう』
 朝の挨拶の語韻に緊張感がある。ヘルメスの出航支度ができたらしい、ギアスが統領に朝の挨拶をする、乗船を促す言葉をかけた。
 『統領、軍団長、おはようございます。出航の準備が整いました。ヘルメスにどうぞ。パリヌルス隊長、オキテス隊長もどうぞ』
 『おう、ギアス、おはよう!いい朝だ。行こう。ヘルメスが変わったな。山行の時は、1本帆柱であったな、今日は2本帆柱のヘルメスでキドニアに向かうのか。よろしく頼むぞ』
 『はい、統領!新しい装備のヘルメスにようこそです』
 『おう、ありがとう』
 一行は、ヘルメス艇上の人となった。
 ギアスは、今日の風読みをすでに終えていた。いい風が西からきている、風がちょっぴり弱いかな、しかし、いい条件である、ギアスが声をあげる。
 『漕ぎかた、はじめ!』
 ヘルメスが浜を離れる、泡立つ航跡、沖へ向かって数分、キドニアへの航路につく、ギアスが次の指示をする。
 『前部帆柱、後部帆柱、総帆展帆!』
 帆張り担当が展帆操作を終える。
 『漕ぎかた、やめっ!櫂をあげっ!』
 展帆したすべての帆が風をはらむ、順風満帆での航走に移った。
 パリヌルスにギアス、そして、漕ぎかた一同を除いた、統領以下の四人、パン売り場のスタッフたちが、驚きの声をあげる。
 昨日までのヘルメスが様変わりしているではないか、改造の極みのヘルメスに乗っている。パリヌルスとギアスが艇の状態をチエックする、統領と軍団長は、装備の変わったヘルメスに驚きの目を見張った。
 オキテス、オロンテス、売り場のスタッフたちも、昨日と帆張りを変えたヘルメスに驚きの声をあげた。
 オキテスがパリヌルスに声をかけてくる。
 『おう、パリヌルス、これはどういうことだ。昨日のヘルメスと全く違うではないか。この容姿は素晴らしい!まさに感動ものだ。そして、この風力で、この走り、ヘルメスが変わった』
 オキテスが感動の言葉を言う。
 折からの西風を帆いっぱいにはらみ、ヘルメスは快調に走る。
 オキテスは、何事かを感じ取っていた。
 『おい、パリヌルス、この風具合で、この走りとはーーー』
 風具合と走りの速さ、帆張りと風はらみ、安定した走りを感じ取っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  704

2016-01-29 05:32:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、宵の色が濃さを増しつつある海を眺めている、そして、考えた。
 『まあ~、これで良しとするか』
 パリヌルスが課題として考えていた使用者の満足、これを求める客の大満足の方向である。パリヌルス自身が客として、この船を買うというスタンスでヘルメスの容姿、装備、性能、その総体を観察した。『俺だったらこの船を求めるだろうか?買うだろうか?』である。
 『この船を買いたいと思わせる』今夕の試走結果で、その一歩先の答えをつかみ取ったと感じている。買いたいと思わせることもしかりだが、『何としても手に入れたい』と欲求させるにはであったのである。
 彼は、初めに艇体について、考えを巡らせた。このことについては、この大きさの船での艇体の満足条件は備わっているとして、どこをどうするか、改造点を探った。新規性、斬新なカタチ、それによる性能の向上について、脳漿を絞って、絞り出したのが帆張り構造の改変であった。これを講ずることの結果としたのは。帆張りした艇の容姿であり、波を割って快走する艇の姿であり、その速度を追求したのである。
 ギアスからの情報も充分に聴き取っている、分析も試みた。最初の考えた帆張りしたヘルメスの容姿である。その容姿は常識を覆してはいたが、いまひとついただけなかった。備える装備と容姿を考えた。『これはほしくなるにはいま一つだな』と結論付けた。『なら、どうする?』彼は、考え浮かぶ構図を砂地に描いて考えた。ヘルメスに装備した三角帆構造の効果に関しては良しとしている。艇を見た時のカッコよさと性能向上、2兎追って1兎をも得ずでは困る、この際、容姿のみの思考に焦点を絞って考えた。ただ、結果はついてくるかなであった。
 砂地に容姿を描く、草地に空を見て寝そべる、限りない天空の一郭にそのカタチを描く、描いたカタチが、突然、波を割り始める、海の上を駆ける、その姿がカッコイイ!彼はその光景に感動した。この時代においては、まさに、空想に等しい天空を駆けるヘルメスであった。彼は、その容姿を砂地に描いて決定して、ヘルメスの装備に及んだ。
 彼は、今夕、その試走を試みた。誰が何と言おうと譲歩できない新艇の容姿である。良き試走結果を得ることができれば、それで良しとする不退転の決意であった。
 その結果が、パリヌルスが胸に抱いた結果とほぼ合致した。彼は心の中のタガを外した。これで一つの山を越えたと感じた。
 あと残すところは、『5艇の早期完売』である。
 彼の考えた、『何としても手に入れたい』と『客大満足の艇を造る』を成し遂げるがそこにあった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  703

2016-01-28 05:36:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメスは、小島の北岸を瞬く間に走り抜けた。走り抜けたヘルメスは程よい地点で小島の西岸に沿って、南下へと進行方向を転換した。パリヌルスがギアスに指示する。
 『三角帆の風はらみを満帆状態にして南下してくれ。二段帆の上段帆を下段に展帆するのだ』
 パリヌルスは、ヘルメスの走りを体感して分析しようとしている。
 『おう、ギアス、ヘルメスを浜へだ』
 『判りました』
 ヘルメスは、浜へ帰り着いた。パリヌルスは、艇から降り際に一同に声をかけた。
 『ギアス、ご苦労であった。そして、漕ぎかた一同!大変ご苦労であった。礼を言うぞ!君らもヘルメスの走りを体感した、君らなりにヘルメスの走りを分析して、ギアス班長と話し合ってくれ。俺も機会を作って、君らと話し合おうと考えている。以上だ。ご苦労であった』
 浜には宵が訪れようとしている頃合いであった。
 浜に降り立つパリヌルス、張り番の者がオキテスからの伝言を伝える、彼は、軍団長の宿舎へと急いだ。
 統領とイリオネスら四人はパリヌルスの来着を待っていた。オキテスが声をかけてくる。
 『おう、パリヌルス、待っていたぞ。話は大体終わった。明日、五人でキドニアのスダヌスを訪ねる。朝市のキドニア便で行く。ここで話し合ったことは後から話す。まあ~、明日、スダヌスと話し合う段取りだ』
 パリヌルスは、打ち合わせに遅れて駆け付けたことを一同に深く詫びた。イリオネスが声をかけた。
 『おう、パリヌルス、重要な打ち合わせ、出席に欠ける、万やむを得ない事情のない限り、許されない。いいな』
 『はい、判りました。申し訳ありませんでした』
 『よし!これで打ち合わせを終わる』
 打ち合わせの終了が告げられた。
 『おう、オキテス、オロンテス、すまなかった、許せ』
 『おう、あの木片ことが解った。数字は通貨の量であり、その通貨単位が『ドラクマ』という単位だそうだ。知る人ぞ知るだ。知っていれば解ることであったのだ。それにしてもだ、統領も軍団長も知っていた。しかし、それがどれほどのものかについては、彼らも不明であるといっていた。どっちみち、明日、スダヌスとの話し合いだ』
 『解った。明日、朝、浜で会おう』
 『おう、判った。オロンテス、ごくろう』
 オキテスはそのように言って、三人はそれぞれの道を歩み始めて別れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  702

2016-01-27 05:26:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメスが浜をあとにして出ていく、それを目にしながら駆けてきたオキテス、出ていくヘルメスに声をかける、届いてはいない、彼はその場に立ってつぶやいた。
 『パリヌルスには事後通達だ』
 オキテスは、傍らにいるオロンテスに気付いた。
 『おう、オロンテス、しゃ~ないな。四人での話し合いだな』
 オキテスは、目の届くところにいる張り番の者に言い残した。
 『パリヌルス隊長が戻ってきたら、軍団長の宿舎に来るようにと伝えてくれ』と言い残して二人は軍団長の宿舎に歩を向けた。
 
 ヘルメスは北東方向に向けて波を割っている、漕ぎかたは額に汗して懸命の漕ぎをしている、風に逆らっての航走である。
 パリヌルスは転換点を探った。浜を離れて一刻になろうとしている、半島岬が近くに見える地点までに到達している、彼は、もういいだろうと方向の転換を決めた。
 『おう、ギアス、そろそろ方向の転換をする、方向を変えたら、小島の北岸を目指してくれ。そして、北岸に沿って西へだ。転換点を過ぎたら西岸に沿って南下して浜に帰る。ついては、試走の要点だが、まず、今日、お前のやった帆走。次にすべての帆を帆張りして、走ってくれ。次に三角帆のことだが、次のように操作してくれ』
 彼は、ここで言葉を切って準備していた木板と木炭を手にした。船形を記して、風向きを矢印で示す、そこに三角帆の帆張りの方向を描いた。
 『解ったか?ヘルメスがこの方向に進んでいる、風は右手後方から吹いてきている、三角帆が風をまともにはらむということだ』
 『解りました!』
 『よしっ!方向転換をしろ!いま言った順序で試走だ。即、やってくれ』
 ギアスから、方向転換の指示が飛ぶ、ヘルメスは、展帆試走状態となる、西南に向けて波を割った。帆走は快調といえる。
 『ギアス、次だ!総帆展帆だ!』
 『判りました!』
 ギアスが吼える。
 『前部帆柱、後部帆柱、総帆展帆!』
 『了解っ!』
 ヘルメスの2本の帆柱に装備しているすべての帆が展がった。加速を体感する、展帆の速度効果が感じられた。
 『ギアス!次の操作だ。帆がはらんでいる風を逃すのだ』
 パリヌルスは、三角帆の操作方法をギアスに告げた。ギアスは、三角帆の下部のロープの長さの理屈を理解した。
 艇の速度が少しばかり落ち着くのが体に感じた。
 一刻近くの時間をかけて沖へ出て、方向の転換をする、帆走に移行する、小島の近傍地点に瞬く間に到達した。
 ギアスが進行方向の調整を指示する、三角帆の帆張りもロープの長さを調整操作して、風はらみを満帆にしてヘルメスを西方向へと航走させた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  701

2016-01-26 06:05:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメスをドックスの浜につけてギアスは、キドニアにおける試走の件について報告した。ギアスの報告に耳を傾けるパリヌルスが口を開いた。
 『おう、ギアス、いま、ドックスのところでやるのは、前部帆柱にも上下二段帆を装備する。また、後部帆柱にも三角帆をつける。仕あがり次第、今日、これから試走する。漕ぎかた連中にもそのことを伝えて待機させておいてくれ』
 『判りました。出来上がり次第、こちらへヘルメスをつけます』
 『おう、頼む』
 パリヌルスの声音はきりっとしていた。
 『ギアス、俺の想いは、完璧の帆装だ。これ以上の装備がないというところまでの艤装だ』
 『解りました』
 『あ~あ、それから、今日の試走で三角帆操作の一案をやってみる。そのつもりでいてくれ』
 『解りました』
 二人は話を終えた。ギアスはドックスの浜へと歩を運んだ。
 ヘルメスの帆の装備は出来上がっている。ドックスは取り付けた二段帆の操作具合を試している、前部帆柱、後部帆柱に取り付けた三角帆の下部の両端のロープが長いものと取り換えられていた。
 『おう、ギアス、来たのか。今日の試走で後部帆柱の二段帆の操作具合いだが、うまくやれたか?』
 『はい、担当がうまく操作していました。ドックス棟梁、三角帆のロープですが、長くしたようですがーーー』
 『それは、パリヌルス隊長に聞いてくれ。俺からは言えない』
 『解りました』
 『おう、ギアス、行っていいぞ!パリヌルス隊長によろしくな』
 『解りました』
 ギアスが改めて二段帆と三角帆を装備したヘルメスに乗る、各所の点検を終える。
 『漕ぎかた一同乗船!行くぞ!』
 指示を大声で告げる、静かに海上を滑り始めるヘルメス、パリヌルスの立っている浜につけた。
 『おう、出来上がったか!よしっ!いいぞ』
 パリヌルスは、仕上がりを点検する。言葉を吐く。
 『おう、申し分のない出来あがりだ。これで良し!ギアス、出るぞ!』
 飛び乗るパリヌルス、指示を発する、言葉に力がこもっている。
 『ギアス、沖へ漕ぎだすのだ。北東方向だ!俺がいいというところまで行くのだ、いいな』
 『解りました』
 ヘルメスは、波を割って沖へと向かう、パリヌルスは進行方向に目を凝らしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  699  変換ミスをやりました。

2016-01-25 11:17:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 1月23日の投稿で変換ミスをやりました。お詫びいたします。
 下段から4段目です。
 『後部帆柱、下段帆おろせ!上段ほ中断までおろせ!』  を
 『後部帆柱、下段帆おろせ!上段帆、中断までおろせ!』 と
 
 訂正いたします。深くお詫びいたします。

                    山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  700

2016-01-25 04:53:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメスが1時間かけて航走した距離をその半分、30分を切る時間の航走で船だまりへ戻ってきた。彼らにとって快挙といえた。
 『キャップ!具合がいいですね』
 『戻るときの走りはよかったですね!』
 『帆張りの風はらみですかね?』
 『お前、いいところをつくな。そうであることは間違いがない。俺には理屈を解しかねるが、俺らにわかることは、結果が良かった。このことだけだ』
 ギアスは後部帆柱を担当していた二人に声をかけた。
 『おう、後部帆柱担当の二人。展帆操作の面倒はどんな具合だ?』
 『展帆操作の面倒具合ですか、それをやらなきゃいけないからやる。深く考えずにやれたことを考えると、それでいいのではないかと思いますが』
 『そうか、それならいい。そこでもしだ、こうすればいいと考えられることがあったら言ってくれ』
 『解りました』
 『よしっ!一同、ご苦労であった。昼めしを終えたら、もう一度、試走と操練をやる』
 『おう!』『おうっ!』の返事が返った。
 『おう、昼めしにするぞ』とギアスは一同に声をかけた。
 午後のキドニア沖の海には北寄りの東風が吹いている。彼らは試走する、繰り返す、帆張りの訓練をする、繰り返す操作練習で練度が向上した。
 ヘルメスが船だまりに帰ってくる、船だまりの埠頭には今日の業務を終えた売り場のスタッフたちが待っていた。
 『おう、今日は仕事のあがりが、いつもより早いのでは?』
 『おう、オロンテス棟梁はまだだが、今日は調子よく売れたのだ。堅パンのサービス効果といったところかもしれない。おっ!棟梁が来た』
 『おう、みんな待たせたな。ギアス、帰ろうか。今日はいつもより早い時間のあがりだ。帰りには格好の風が来ているではないか』
 『はい、そのようです。帆張りで帰れます』
 一同がヘルメスに乗る、船だまりを離れる、風は順風である、艇の波割は快調、総帆を展げて航走した。
 『おう、ギアス、この走り、なかなかいい走りではないか』
 オロンテスが声をかけてくる。
 『今日の午後は、明日の試乗会に向けての試走訓練で操艇がうまくなっています』
 『ほう、そうか。それはいい』
 ニューキドニアの浜に到着する時間が短縮された感があった。艇上の者たちといえば、一同、ニコニコで浜に降り立った。
 浜にはパリヌルスが待っていた。
 『おう、ギアス、早かったな、ご苦労、ご苦労。ヘルメスに手を加える、仕事を終えたらドックスのいる浜にヘルメスをつけてくれ』
 『解りました。今日は、いい試走結果を報告できます。では、のちほど』と言って、ギアスは作業に取り掛かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  699

2016-01-23 05:50:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 西風を感じたが来ない、ヘルメスは、漕いで漕ぎまくってキドニアについた。帆走することなく朝凪の海を航走してきたのである。
 荷下ろし作業を終えて、一同は一時の休憩をとった。
 『ギアスキャップ、今朝は、期待の風が吹かなかったですね。キャップ、沖を見てください、風が来ているようです』
 漕ぎ方の一人が、そのように言ってキドニアの沖を帆走している一艘の船を指さした。
 『おう、そのようだな。少し休んで沖へ出てみるか』
 『そうしましょう』
 一同が答える。
 『よしっ!少し休んだら沖へ出る』
 ギアスは、そのように言って沖を走っている船をじいっと見つめた。
 風が北東からきているように見てとれた。ギアスは、間を取って、漕ぎだすタイミングを計った。
 『おう、一同、いいか、出るぞ!』と声をあげる。そして、自分自身を叱咤する言葉が口をついて出た。
 『いいな、いくぞ!漕ぎかた始めっ!』
 ヘルメスが船だまりを出る、一路北東を目指す、風に向かって波を割る、風はかなり強い、懸命に漕ぐ、しぶきが宙に飛ぶ、容赦なく艇上の者たちに降りかかった。
 『おう、これは強めだが、いい風だ!』
 ギアスが心の内で『これならいい結果を出せる!』と気合いと対話した。
 船だまりを出て、ほぼ1時間、アクロリテイ半島岬の近傍に来ている、ギアスが方向転換を大声で指示する。ヘルメスは、左方向へ舵を切る、艇体をかしげて転換を終える。続いて指示が飛ぶ、
 『前部帆柱三角帆、展帆っ!』
 ヘルメスがグット前へ進み出る、続いて次の指示が飛んでくる、
 『後部帆柱上下段帆、展帆っ!』
 『おうっ!』『おうっ!』
 担当が気合のこもった声をあげてとりかかる、展帆を終えた。
 ギアスは、展帆操作と作業を注意を注いで見ていた。
 前部帆柱の三角帆は、ロープ一本の操作で瞬時に展がる、即、風をはらむ。後部帆柱の帆は、二人がロープを引いて展帆する、考えていたより簡単操作で展帆作業を終えていた。
 『漕ぎかたやめっ!櫂あげっ!』
 ヘルメスは、わが意を得たりと、風をはらみ、波を割って進んだ。速度のノリの良さを感じる。
 ギアスは、帆の風はらみ具合チエックする、帆走効果、走り具合のいいことを確かめる、指示を出した。
 『後部帆柱、下段帆おろせ!上段ほ中段までおろせ!』
 彼は、ヘルメスの走りの変化をチエックした。
 航走速度が落ちるであろうと懸念したが、速度がいい具合いに維持されている、走行安定感も以前のものと変わりないことを感じ取った、なんとなくだが安心度合いが向上したように感じられた。艇を引く、艇を押す、帆張りのいい効果でヘルメスは航走した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  698

2016-01-21 06:25:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアの浜に活気の朝が明ける。ドックスの指示が飛んでいる。
 『よしっ!いいだろう、帆柱を立てろ!』
 ドックスがヘルメスから離れていく、艇を見る位置に立つ、帆柱の高さ、艇全体のバランスをチエックした。
 ギアスがドックスの傍らに立ってヘルメスを見つめる、構想がカタチになっていく、感動を覚える、彼は、感動を抑えた。
 ドックスの身が動く、ヘルメスの傍らに立つ、帆柱の固定を確かめる、声をあげた。
 『おう、帆はできているな?』
 『はい!出来ています』
 『帆を取り付けろ!』
 『はいッ!』
 前部帆柱の三角帆、後部帆柱上段のやや小ぶりの台形の帆、ひとまわり大きい下段の台形の帆が取り付けられた。
 ヘルメスに乗り組む漕ぎかた一同も新しい帆張りになったヘルメスを見あげた。彼らの胸が高ぶり、そのカッコよさに見とれた。
 『こいつあ~、カッコいい!』『走りが楽しみだ』『今日は、いい西風が来るかな?』彼らの胸が期待に膨らんだ。
 パリヌルスとオキテスが姿を見せる、ドックスに声をかけた。
 『おう、ドックス、仕上がったか』
 二人は目の前の帆張りしたヘルメスを見あげた。
 『おう、なかなかだ。艇全体のカタチが引き締まってきている。ドックス、ご苦労であった。いいカタチにまとまっているではないか。ところで頼みだ、聞いてくれるか。俺の追加注文だ、やってくれるか。前部帆柱にも後部帆柱の二段帆を取り付けてほしいのだが。今日、ヘルメスがキドニアから帰ってきたら取り付けてくれ。今日中に帆送テストをしてみたい。新ヘルメスの誕生だ。いいな』
 『判りました。そのように段取りして、完成させます』
 『おう、頼む』
 パリヌルスとドックスとの会話が終わり、新しい帆張り構造となったヘルメスがギアスに引き渡された。
 ヘルメスが荷積みの浜につく、オロンテスが待っていた。彼らが2本の帆柱の立っているヘルメスを見あげる、荷積みを終える、オロンテスが声をあげる。
 『ギアス、出航だ』
 ヘルメスは、櫂で泡立てる航跡をひいて浜を離れていった。
 航路につくヘルメス、ギアスが風読みを始める、朝凪の海上を渡ってくるささやかな西風を感じ取った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  697

2016-01-19 06:16:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 この時代の貨幣の単位呼称は次のようであった。
    
     1タラントン --- 60ムナ(ミナ)
     1ムナ(ミナ)--- 100ドラクマ  600オボロス
     1ドラクマ  ---            6オボロス
 
 タラントンとムナ(ミナ)は、硬貨の単位ではなく、秤量貨幣の単位呼称であり、金や銀の量として流通した。
 貨幣は、スタテル貨と呼ばれ、2ドラクマ硬貨であった。ドラクマ硬貨は銀貨である。この硬貨は、ギリシアはコリントス、アイギナ島で造幣され、アテネで造幣されるのは、二百五、六十年後になるのである。また、アヱネアスが住を営んでいる、この時代にはクレタ島では造幣されてはいないが、時代が少々下った時代には、このクレタのキドニアにおいて、スタテル貨である2ドラクマ硬貨が造幣されたのである。この硬貨は、銀貨であり、この硬貨にはミノア文明の神であるプリトマイルスの肖像が描かれていた。また、アテネで造幣された1テトラドラクマ硬貨は、4ドラクマ硬貨の金貨であり、金の量目は、8.5グラムであった。(テトラとは、ギリシア語で 4 のことである)価値判断として金は銀の10倍くらいに評価されていたようである。この金貨にはアテナとアテナを象徴するフクロウが描かれていた。また、コリントスで造幣された銀貨には、兜をかぶったアテナとペガサスが描かれていた。スタテル銀貨は2ドラクマ、スタテル金貨は20ドラクマとして通用したらしい。
 1タラントンは6000ドラクマであり、銀の量目26キログラムであった。1ドラクマは銀4.3グラムであるということは、2ドラクマのスタテル貨の銀の量目は、8.5グラムであった。金貨は、アテネとごく一部の都市国家で造幣されただけであり、流通量は極めて少ない状態であった。
 この時代のこれらの通貨の貨幣価値はどれくらいであったろうか?それを考察すると次のようであったらしい。
 一日の最低賃金が2オボロスであり、5人家族が3日間くらいの生計が営めたらしい。役職者や高度技能労働者の1日の賃金が1ドラクマであったといわれている。また、大人の奴隷一人の取引価格が1ムナであったらしい。