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『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章 築砦  394

2014-10-31 05:36:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、お前の言う前駆的な症状とは、どのような状況で言えるのか?』
 『はい、それは確かな、こうであるから、こうなるといった確実なものではなく、このようなことであれば、こうなるのではなかろうかといった程度のことです』
 『お前の感性による勘働きの領域だと思えばいいのか』
 『ま~、それくらいのところです。私の感ずるところでは、ここ数十年で、クレタ文明が終わり、ギリシアのアカイアの者どものクレタ統治が終わるであろうということです』
 『そうか、クレタの現在の状況が好ましくない方向に向かっているということか』
 『そのようにいえます』
 それは、古代のクレタにおけるミステリアスな歴史的状況である。
 イリオネスの冷徹な耳目、感性の捉えたクレタ文明の終焉、治政の乱れ等のクレタの危機的状況であった。
 クレタを統治する為政者の質的低下、統治のまずさ、自然災害の後遺症、文明の発展に伴う人為的な災害もある(後世の歴史的評価)、西アジア地域の気象変化による流浪の亡国を為す輩の上陸、判別の付かない状況でそれらの全てがまとまって一時に、日本でいえば四国の半分以下のエーゲ海南縁の小さな島にしてギリシアの最大の島に襲い掛かってきたのではないかと思われる。この予感をイリオネスの鋭敏な感性のアンテナが感じ取ったのではなかろうか。
 イリオネスがエドモン浜頭の話を聞き、つぶさに自分の目で見て、耳にして解析しあらゆる見地から照合して感じたことであるゆえの主観働きで導き出した答えであるといっていい。
 アヱネアスはイリオネスから話を聞き、更に解析、照合して、二人が意見をすり合わせ、二人は二人なりに未来を予測した。そのうえで二人は、ネクストを、そして、これからを思考した。
 『なあ~、イリオネス、俺は思う。第一に自然災害ありきとして。次に自然を破壊する人為の災害、広い地域世界の自然変異に抗することのできない人間たち、そして、統治、治政。それで民族構成の大小、強弱、国体を構成する群体の大小、力の強弱、群体の有する知力と統率力が、国体、群体の運命を決定していく言っていいのではないかと俺は考えている。そして、それが俺のスタンスでもある』
 『そうですね、言われる通りだと思います。衆知を結集して事に当たっていく、予知能力を高め、先見力を有する集団としてことを為していくことだと考えています』
 『そうだな、これからもよろしく頼むぞ』
 アヱネアスの言葉は、『頼むぞ』に大変な力がこもっていた。二人の話し合いが締めくくられた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章 築砦  393

2014-10-30 08:27:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼食を終えて二人きりとなった。アヱネアスとイリオネスの目が合う、阿吽の呼吸である。
 『おう、イリオネス。イデー山の話をしてくれ』
 『判りました』
 イリオネスは、帰途のニケの船上から眺めたイデー山の山容を思い浮かべた。
 『統領、イデー山の山頂一帯には樹木草木の類のないスベスベの山なんです。そもそも、イデーなる言葉はクレタの言葉で『スベスベ』という意味らしいです。山頂がスベスベの山、それがイデーさんなのです』
 『ほう、そういうことか』
 『スダヌスが言うのでは、三度、イデーの山に登ったことがあるそうです。山頂からはクレタ全島を俯瞰できるそうです。そのようなわけでクレタ島の地図では、海岸線がほぼ精確に描かれているそうです。クレタ島にはあのような高い山がイデー山を真ん中にして東地区に1つ、西地区に1つ、西地区にある山は私らが目にしている山ですが、3つの山全てが独立峰であることです。今度、スダヌスが来た折に詳しく話を聞きたいと思っています』
 『ほう、スダヌスが三度もイデー山に登ったといっているのか。実はだな、イリオネス、俺はちょっとその山に用事があるのだ。夏ごろには、イデー山に登る。心にとめておいてくれ』
 『判りました。用向きについては、時期が来た頃に話してください』
 イリオネスは話を続けた。
 『何はともあれ、この地からは、海路を東へ向かい、パノルモスまで行き、そこから、イデー山に向かうのがよろしいようです。スダヌスが案内するといっています』
 『判った、スダヌスと山登りか、楽しみだな』
 アヱネアスが目を輝かせた。
 『統領、ところで、彼らのいる前では話さなかったイラクリオンとクノッソスの世情について、報告、話しておかなければなりません。ここからの話には、私の主観が少々入ることを許してください』
 『いいだろう。お前のインテりジエンスだ。俺はお前を信じている、話してくれ』
 『判りました』
 イリオネスは、大きくうなずいて話し始めた。
 二人は小さな穴から身に余る大きな未来を覗き見る、いや覗き視たといったほうがいいと想える。見えた未来は明日の事実か、またはそうではないのか。ただの予測にすぎないのか。
 イリオネスのインテリジエンスが確実に、その状況をとらえたうえでの当たらずとも、遠くない未来の構図であったのか。
 後世に至っての歴史的解明で云々されることである。

『トロイからの落人』  UGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  392

2014-10-29 07:29:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、話はそこまでにして話題を変えよう。まだ、その件については、皆に知られるときには至っていない、判るな。まだという気にするところがあるのだ。民族の遠い未来のカタチも含めてな』
 『判りました。ときたまに統領の話の中に出てくるイデー山を遠くない地点から眺めました。イラクリオンからクノッソスへ向かう道中でも山頂部分が見えましたが、帰りの道中、海の上からも見ました。スダヌスとの話題にもなりました。後ほど話をいたします』
 『何っ!イデー山のこと。お~お、そうか、そいつはいい。是非、聞かせてくれ』
 彼らは、話しながら歩み、アヱネアスの宿舎の前にたどり着いた。
 『統領、昼です』
 『おっ!そうか。お前らどうだ?一緒に食べるか』
 『え~え、そうします』
 五人は昼食を共にすることにした。彼らは支度にかかった。火をおこす、オロンテスが食材の準備に座を立って行った。彼が持ってきたのは大魚の塩漬け三日干しの干物であった。
 『これは昨日、小島から届いた干魚です。味わってみましょうや』
 それは、まれにみる大魚の塩漬け干しであった。大魚を輪切りにして、その切り身を2本の串で刺して各々が火で程よく焼いて口にした。
 アヱネアスが声を出す、
 『お~お、こいつはいけるぜ!旨い!』
 『小ぶりの魚に比べて、口に入れた身の歯触りがいい。パリヌルスどうだ?』
 『旨い!の一言です。これは上手にできている。塩のきかせかた、干し具合、好まれる味になっています』
 オロンテスも口を開く。
 『このように、でっかい魚の獲れ具合がままならないのではないでしょうか』
 『それで考えられるのは、季節と漁場の問題だ。どこででも獲れるといったわけではないと考えられる。これについては、精通した者に聞いてみなければ解らない。まあ~、これからの問題です』
 彼は話を継いだ。
 『これは、課題として研究します』
 『おう、そうしよう。今は、味あうことにしよう』
 パリヌルスの頭の中に浮かんで消えた売ることの方法があった。塩漬け干し魚の味については、買う客が深く知ってはいない。彼は頭中に浮かんだ思い付きを口にはしなかった。
 彼らの昼食は、『旨かった!』で終えた。イリオネスは、一同に伝えた。
 『明日から、時間をかけて話し合っていきたいことは各自が担当していることの進捗と予定を踏まえて、ネクストを考えていきたい』
 『判りました』
 彼らは場を解いて持ち場に戻った。各自それぞれの思案があり、次の一歩を考え始めた。
 オロンテスは、集落の畑地につくっている作物の育ち方に気づいていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  391

2014-10-28 07:21:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人の意見にイリオネスが口をさしはさんだ。
 『その極意はだな、両人。剣さばきのスピードだよ。訓練の要諦はそこなのだ。剣さばきを確実に速くだ。そこに負けない極意がある』
 『判りました。言われる通りです。日々の訓練もそこにあると指導を徹底します』
 彼らは歩きながら話し合った。アヱネアスとイリオネスは肩を並べて歩いた。他の三人は、7~8歩遅れてついてきていた。
 イリオネスは、剣の話をしながら全く別の事を考えていた。想いが口をついて出てくる。『文化文明とは人間が遭遇する場面、そこで働かせる知恵で進化していく。それも日々の日常生活の中でのことだ。考えてみると、マリアを見て、クノッソスを見て進化した文明を見ても、特別に衝撃を受け、驚くことはなかった。カルチャーショックを感じなかった。俺が鈍感なのか、それとも何もないのか、それはなぜだ?』
 イリオネスは独り言ちた。アヱネアスは耳さとくそれを耳にした。アヱネアスがイリオネスに言葉をかけた。
 『それはだな、イリオネス。俺たちも彼らに劣らない文明を持っているからだよ』
 『そうですね、我々民族が必要とする文明を持っている。必要としない文明は持っていないのですな。マリアにも、クノッソスにも、砦、城壁の類が一切ありませんでしたな。彼らは戦争をしない、争いをしない民族なんでしょうかね?』
 彼は疑問を生起した言葉を吐いた。
 『そうかもしれないといえる。彼らは、その文明を持ち合わせていない、必要としなかったのかもしれない。戦争、戦役と呼ぶ名の争いは、お前も知っているように、それは残酷なものだ。勝者は莫大な戦果戦益を手にする。敗者は完膚なきまでに破壊され、蟻一匹の命まで奪われて壊滅する。我々はそのような世界で生きてきたのだ。それ故に我々には防御の技術がある。砦はこうでなければいけない、敵を防ぐ城壁はこのようにといった文明を持っている。また、敵と闘う、闘争する戦略戦術といったたぐいの技術的文明も持っている』
 『そうです。全く、統領の言われる通りです。集落の建設を考えるについての思案です。こう言って何ですが、本当にこの地に根を下ろして建国をするのか。クレタという島は建国の望みを託せるところなのかをよく考えて、堅固な意思を決めるまで本格的な城市の建設を見合わせ、不足と考えられる建物の建設のみをと考えています』
 『そうか、イリオネス。お前の考えていること、お前のやろうとしていることが解った。クレタをよく知ろう、天候、土質、農産物の出来具合、クレタの住民、民情、想定できる未来の構築可能性を計っての意志決め、そのうえで構想を立てての実行といこう。まあ~、1年くらいは、あっという間に過ぎる。その状況を見て、最終的に意志決めとなる。それでいいか、イリオネス』
 アヱネアスの言葉を聞いて二人の間に沈黙の時が流れた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  390

2014-10-27 07:33:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、武闘訓練を行っている広場へと向かった。広場の方向から気合のこもった打ち込み、受け剣の掛け声が聞こえてくる。
 『おう、者どもやっているな』
 イリオネスが言葉をかける。
 『あの打ち合う音は?何だ?剣の打ち合う音とち~と違うな』
 『はい、あれは木剣の打ち合う音です。武闘の訓練において、剣の使用を止めて、その代わりに木剣を使い、槍についても木槍にし、槍先にひと工夫をして、刺し傷を負わないようにしています』
 一同は、場について、武闘訓練風景を眺めた。
 『おう、それはいい!剣傷が打撲で終わる。それはいい方法だ。そしてあれは何だ?』
 2対1の組剣の訓練のうちの一人が身に着けているいるものを見てイリオネスはパリヌルスに訊ねた。
 『はっは~、アレですか、アレはですね。まだ完成はしてはいませんが、打たれても打撲の傷を軽くする、鎧に似せて造った防具です』
 それを見たアヱネアスとイリオネスの二人は、たまげたといった風に驚き、感嘆の声をあげた。
 『おう、パリッ!オキテス。お前ら二人、何ちゅうことを考えるんや!俺は、たまげたぜ。人を驚かすのもいい加減にせい。しかし、いい着想じゃな』
 感心するアヱネアス、それにうなずくイリオネス。
 『これで訓練時の怪我、危険を減らすことができる。お前らようやってくれた。彼奴らに替わって礼を言う、ありがとう』
 オキテスが口を開いた。
 『いざというとき、実際の闘いの場においても、あの防具を身に着けて、敵と対峙できる。が、実際の槍には通用しないと考えられるのだな』
 『そうか弱点があるのか。訓練の場だけでもいいじゃないか、皆が嫌がらずに訓練できることが大事だ。まあ~、考えて完成させればいい。それでよしだ』
 イリオネスが声をかけてきた。
 『俺もいずれ、あの防具とやらを身に着けて木剣で渡り合って見ようと思う。パリヌルス、どうだ、手合せといくか』
 『いいですね、判りました。軍団長、やりましょう』
 彼らは訓練の場から引きあげた。
 『なあ~、パリヌルス、防具の事だが、大小二種類くらいで造ればいいとも考えているが、お前の考えはどんなだ?』
 『それでもいいし、部分品を整えて、造りは各々各自でも、いいのではとも考えている』
 『まあ~、思案して考えようではないか』
 二人の構想がまとまりかけていた。
 『2対1の組剣の立ち合いで防具をつけてはいるというものの、叩かれ役はかなわんな』
 『お前の言うことに、同感、同感』
 『その思いには同感だ。しかしだ、その痛さを知って、敵にやられないように技を身につけるかもな』
 『そうか、それを訓練ということにするかということだ』
 『まあ~、そういうことだな』
 『敵にやられないように技を身につける。これも訓練だ』
 『また、やられる前に敵を倒す、これも訓練。だが、その極意は?だ』
 二人は歩きながら意見を交わした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  389

2014-10-24 07:20:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、悪天候に遭わず、乗り組みが13人という小船で長途の船旅を終えた。『ーーー。という旅であった。皆、ありがとう』と話をしめ括って、旅の話を終えた。
 パリヌルスは、小船の名前『ニケ』の名づけについて訊ねた。
 『おう、船の名前の事か』彼は名づけのくだりについて説明した。
 彼らは打ち合わせの前段を終えて、休止の間を取った。ぶどう酒でのどを潤しながら閑談を交わした。イリオネスにいろいろと質問した。
 『よし!旅の話はこれで終わりだ。俺の留守中の事について聞く、そのあと、これからを打ち合わせておきたい。君らは、ただ、ひたすらに日常の業務を追って、日々をやり過ごしているが、今日がどんな日か知っているのか。今朝一番に統領から質されて知ったことだが、暦を司ることは治政を預かる者にとって大切な一事なのだ。我々が日々を過ごしている。あと60日余りで今年の初めの日が訪れて暦が始まる。俺の思いではだが、今日という日は遠い未来において大切な日になるだろうと考えている。昨日が暦上では1年の最後の日である。今日が始まりの日である。諸君!心して今日を過ごそう、いいな』
 三人はイリオネスの言葉を聞いて顔を見合わせてうなずき合った。
 まず、オキテスから報告が始まった。手がけた『風風感知器』の製作の進捗について話した。パリヌルスは『方角時板』の件について報告した。オロンテスは、集散所における『パン』の売り上げの推移について状況を説明した。
 イリオネスは質問をしながら報告を聞き取った。
 『判った。君らが担当している役務に関しての状況は、安心していいということだな。了解した。最後に聞くが、我々、民のの生活状態はどのようにすごしているかだ?』
 これにはパリヌルスが答えた。
 『日々、平穏にして無事の日が続いています。安心してくださって結構です。この打ち合わせが終わってから、軍団長に見ていただきますが、手配しておいた第一荷が一昨日届きました。日々の武闘訓練模様が少々変わりました』
 『ほう、そうか。よく判った。そこでだが、明日になるが、これからについて一同で話し合う、以上だ。パリヌルス、その武闘訓練を見に行こう。統領も一緒に?』
 『おう。行く』
 一同が座から立ちあがった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  388

2014-10-23 07:38:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスらにイリオネスから招集がかかった。朝食を終えたパリヌルら三人がイリオネスの宿舎前に顔をそろえた。
 『おう、諸君!元気であったかな。ちょっと見ぬ間に背丈がのびたのではあるまいな』
 『私らの年でそのようなことはあり得ませんよ』笑いが起きた。
 『行こうか、統領の宿舎へだ。連絡済みだ』
 四人は、アヱネアスの宿舎へと足を運んだ。アヱネアスのブレーンが顔を合わせるのは七日ぶりである。短くて長かった。互いに聞きたいこと、話し合っておきたいことが山積みといかないまでもあろうが、顔を見たとたんにどこかへ消えてしまった感があった。
 顔合わせの話し合いは、イリオネスの調査隊の話から始まった。
 往路からの話である。海上におけるスダヌスとの出会い、天候条件に恵まれ快調に航海ができたこと、スダヌスとの出会いが旅にいかにプラス効果に働いたかを事細かに語った。
 クレタ島の北に位置しているテラ島の島の3分の2が消滅する大爆発の地震と降灰と大津波を筆頭に島を襲う数度の地震による被害の事、マリアの集散所の事、クノッソスの宮殿と集散所の関わり合いが、その繁栄に如何に効果を及ぼしたか。そして、クレタの文明度の高さ、民情の平和的で優しいこと、建築物の建築技法、街区の模様、また、彼らが使用している調度品の事までに及んで余さず話した。彼の話は己の主観を入れず、客観的に語られた。特にクレタの歴史、イラクリオンの世情等について聞いてきたこと、見てきたことをつぶさに語って聞かせた。
 『いやいや、失敗談もあるのだよ』と言って頭をかきながら語った。
 『いやな~、帰りの旅程と時間行程に間違いをやったのだよ。全く恥ずかしいくだりだ』
 そのようなことまで包み隠さず話した。
 アヱネアスは真剣に耳を傾けて聞き入っていた。質問もした。
 最後の帰途に就く日に至って、スダヌスがエドモン浜頭にイリオネスが誰であるのかについて知らせていたことなどを話して旅の話は終わった。
 『しかしですな、クノッソスと言い、イラクリオンと言いその素晴らしさについて話しましたが天変地異、自然災害からの回復にはとてつもない年月がかかります』
 そのように言って感慨を述べた。この西地区も天災の影響を受けていることを草原地帯の草丈の低いことで説明した。
 また、如何に歴史ある都邑といえども時代の移り変わりに影響されて、変わりゆくその姿をうまく説明した。
 民族が長い生活の歩みで築き上げている文明を衰えさせることなく後世につなげていくことに統治の形態ががどうあるべきかの大切さを語った。
 現在のクレタに、クレタ文明の終焉の時が訪れる。一つの国家形態を破壊する、その前駆症状が訪れようとしていることを語った。
 


 *お詫びいたします。昨日投稿で 第7章築砦の章の投稿番号を間違えました。
  正しくは  387  です。389は誤りです。訂正いたします。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  389

2014-10-22 06:37:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 小島でも朝が始まっていた。アレテスが起き出してくる。今朝のアレテスは起きる時間が早いとはいえなかった。
 朝のうつらうつらで旅の疲れを癒していた、うつらうつらで思案もしていた。今日の段取りを組み上げた。
 『朝行事、まず朝めしだ。皆の顔を見たい!』
 そうと決めたアレテスは、跳ね起きた。新しい活力が体にみなぎってくる。
 朝行事で顔を合わせる、合わせた者の表情を見る、声を聞いて、彼らの活力度を推しはかった。
 『おう、この分ならいける。何はともあれ朝めしだ』
 彼の独り言ちを耳にした者が訊ねてくる。
 『隊長、今、なんといわれましたか?』
 『いやいや、独り言だ』
 朝めしの場が整いつつある。アレテスは、小島の朝の景色を眺め廻した。心が落ち着いた。朝めしの場に皆が顔を揃え始めた。焚き火が炎をあげて燃えている。この季節、炎は人を招き寄せる、人心の寄り処ころもである。
 『おう、朝から浜焼きか。いいね!重畳重畳!』
 『おう、ジッタか。元気であったか。おはよう』
 『あっ!隊長。おはようございます。干し魚がうまくできるようになりました、旨いですぞ。三夜の塩漬け、2~3日の風さらし干し、塩加減がぴったりです。とてもとてもうまい、今朝はそれを味わってください』
 『おう、判った、いいだろう。皆が揃ったら、さっそく朝めしだ』と言いながら場についた。全員が顔をそろえた。アレテスが立ちあがり、皆を見回す、朝の第一語を放った。
 『諸君!おはよう!』
 『おはようございます!』一斉唱和が響く。
 『総員!元気であったか?』
 『オウッ!』歓声が轟く。
 『ヨッシャ!重畳!さあ~、朝めしといこう!』
 この一声で小島の朝めしが始まった。こんがりと焼けた脂ののった魚に噛みついた。
 『おう、こいつは旨い!ジッタ、これは旨い!旨い旨い、旨いじゃないか、塩加減がちょうどいい!この塩加減がいい、それで日持ちの方はどうだ?』
 『それについては、これからです。今、でっかい魚の塩漬けに取り組んでいます』
 『そうかそうか』
 『塩加減をきつめに塩漬けして、風にさらして乾かす、この乾き具合が、どの程度がいいかが思案のしどころです。これがでっかい魚の焼けたものです。食べやすくて旨い!推奨ものです。しかしですな、でっかい魚の大量漁獲はままならないのが現状です』
 『そうだろうな、それは、この俺でも察することができる。ジッタ、漁の壁だな』
 『それは言えています』
 魚談義は終わった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  386

2014-10-21 07:48:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスにとって、イリオネス、パリヌルス、オキテス、オロンテス、この四人は大切な目であり、頭脳であった。自分の目に加えて四人の目で、身の回り、集落の事、民族の事、対外的な事などあらゆる事象を見つめて下す決断と実行に誤りはないといった自信をもって諸々の諸事にあたり、この集団を統べていく。先見の予測に誤りはないと考えていた。この五人の頭脳に、イリオネスの新しい見識という思考ベースが加わったことが何よりもうれしかった。
 この世界に存在している『トロイ民族』という名の船団が、この世界という大海の波を割って、よりよい建国の地に根を下ろし、事業を成し遂げることにつながると信じた。
 『確かな一歩を踏み出そう』その一歩が不確かな一歩であろうとも気づきに遅れず確かであろう次の一歩を踏み出す。先が見えることこそ、恐れを消し、勇気を増幅し、『前へ!確かな一歩!』であると信じた。
 アヱネアスの自信が一段高みに登った。ユールスと朝行事を行う、そこに新しい自信にスタンスしたアヱネアスがいた。
 イリオネスは、身を横たえたままでうつらと考えた。昨夜、宴がはねて眠りに就いた時の記憶はおぼろであった。彼は覚醒した。ここでの朝は、『久しぶりだな』の感があった。
 『よっしゃ!起きずばなるまい。とにかく朝行事だ!』
 決断の後の身のこなしは素早かった。新しい日々のスタートを感じていた。彼は立ちあがった。踏み出す一歩が軽い、今日は奇しくも今様の一月一日、元日の朝であったのだ。彼らの暦では、今は、暦空白の期間なのだ。暦なしで日々を送っている、一年でそういう時期にあたるのである。三月初めの新月を待っているといった状態で日々を送っている時期なのである。。
 彼は起きだして浜への道をたどった。行き交う者たちから朝のあいさつを受ける、あいさつを返す。答えるごとに声に覇気が満ちてくるのが感じられた。
 浜に就く、見渡す、そこには朝の活気があった。
 オロンテスが指示を飛ばしている、ギアスが舟艇に荷を積んでいる。
 イリオネスは、大地を、いや、浜の砂地を踏みしめた。ちらと足元を見る、脚下の確かめを忘れてはいなかった。
 『おう、オロンテスにギアス、おはよう!』
 『あっ!軍団長、おはようございます』
 『もう、出発の時間か?』
 『そうです』
 『オロンテス、聞くが、今日キドニアに出向くのか?』
 『いえ、今日のキドニア行きは、セレストスです』
 『朝食の後だが、顔を合わせよう』
 『判りました』
 彼は海に身を浸した、身も心も引き締まる思いがした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  385

2014-10-20 07:43:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、総員の見つめる前で包みを解いていく、木箱のふたをとる、彼は目を見張った。それは直径40センチ以上と思われる大皿であった。
 皿の中央にはグリフインが描かれ、多様な渦巻き模様を組み合わせて、びっしりと描かれている図柄の台つきの大皿であった。後世に至ってミノア文明のカマレス陶器と呼ばれる土器である。
 パリヌルスは、注意深く木箱から取り出してアヱネアスに手渡した。アヱネアスは大皿に見とれた、その見事さに心が打たれた。そして、大きく息を吸い込み、図柄が皆に見えるようにと気を配って、大皿を高くさしあげた。
 居並ぶ者たちは息を殺してじい~っと大皿に見入った。アヱネアスは、大皿をもってシマを巡って一同に見せた。
 彼らはその大皿の美しさに感動した。
 トロイもアジアの西にあって、文明の先進地であったが、このクレタがトロイに勝る文明の先進地であることを大皿を見て感じさせられた。
 アヱネアスの乾杯の掛け声で宴が始まった。宴の盛りあがりにスピードがあった、瞬時に盛り上がった。話に花が咲く、航海から帰った者たちの話に耳を傾けた。
 彼らは各シマを巡って、マリアの集散所のこと、クノッソス宮殿と集散所のこと、語る話、耳にする話は新鮮であった。
 耳にこそすれ見知らぬ土地の街区、建物、風物の話に聞き入った。
 彼らは想像以上に話し上手で聞く者たちの耳をそばだてさせた。陽が沈み、夜のとばりが降りても宴は終わろうともしなかった。酒がつき肴がつきたが宴が続く、終わろうとしない。航海談義が果てることなく続いた。
 やがて話し手がダウンして宴がはねた。
 パリヌルスとオキテスが話し合っている。
 『なあ~、パリヌルス、軍団長が団を離れて、留守になることはこれまでになかった。我々も軍団長がいない団なんて考えもしなかった。この6日間、軍団長にとって団の事、我々の事を外から眺めることのできるいい機会であったかもな』
 『そうだな、我々がどうあらねばならないか、考えるいい機会であったかもな』
 イリオネスにとって貴重な6日間であったことは確かなことであった。