『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  349

2014-08-29 08:08:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニケは、帆をあげず、櫂で泡立て、マリアの海域に太い航跡を引いて北西へと波を割った。北からの微風である、船足を軽いとはいえなかった。
 ニケの舳先ではイリオネス、エドモン、スダヌスら三人のほほえましい談笑風景があった。エドモンが宮殿と集散所の事について語り始めた。
 『クレタ島波乱の歴史でも語って聞かせよう。クノッソスの宮殿は別格だ。これは大したもんだ、別の機会に話をするとしてだ』
 彼は訥々と話し始めた。
 『このマリア、東の突端のザクロス、エジプトを対岸にしている南のフエストス、この三つの宮殿は、大地震で崩壊した宮殿、集散所の上に立っているのだ、街区に比べてやや小高いのは、それによるといっていい。先の宮殿、集散所はだな、今をさかのぼること600年余り昔のことになるのだが、キクラデスの島の一つ、テラ島といったかな、この島の大半がなくなるという大爆発があった。この大爆発でクレタに大地震が起きた。建物という建物が崩壊した。まあ~、クノッソスの宮殿が半壊でおさまったのは。太い木材を使って造られていたからといわれているのだわ。600年も昔なら石積みの建物であったからかもしれない、そのあたりの事情は解らん。この三つの宮殿、集散所は跡形もなく崩れてしまったのだ。このクレタの北海岸には大津波が押し寄せるは、大爆発で天からは泥砂の灰がわんさと降って来たといわれている。島の様相が一変してしまったということだ。だがだ、そのころのクレタは、クレタ人が築いた文明、交易でとてつもない力があったらしい。クレタ人は、めちゃくちゃに崩れた宮殿、集散所の上にこれまでの規模を上回るでっかい宮殿と集散所を造ったのだそれが今の宮殿であり、集散所というわけだ。どれだけの年月をかけて建てたかわからんが、とにかく再建した。それから300年後にまたまた地震だ、それから100年後、これは人災だ。宮殿には地母神が祭ってある、地震、降灰で農作物の不作が続くといった地母神へのウラミによる宮殿の炎上事件もあるが、修復に修復を重ねて今日に至っているというわけだ』
 彼は、ここまで語ってひと息ついた。そして、離れ行くマリアの海岸を眺めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  348

2014-08-28 09:16:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスがイリオネスに話しかけてきた。
 『おう、イリオネス、今日はどんな予定だ?お前の考えを聞かせろ。ここからもっと東を見たいといっても、見てしかるべきところはないぞ。俺の思いはそうだ。どこを見ても大差はない。マリアとクノッソスを見ればそれで事は足りる。俺の思いはそういうことだ』
 『スダヌス、全くお前の言うとおりだと俺も思っている。昼過ぎにマリアを出れば、夕刻にはイラクリオンに着ける。今日の昼過ぎにはイラクリオンに向けて出港するということでどうだ。エドモン浜頭の予定はいかがかな?』
 『エドモン頭とは今朝話し合った。用事は大体終わったそうだ、あと、アドランと打ち合わせで終わりだそうだ。それを済ませて船だまりで待つと言っている』
 『判った。それで事を進めようではないか。スダヌスお前は?』
 『俺か、俺は決まっている。俺はイリオネスに同道だ!』
 二人は声をあげて笑った。
 彼らは、エドモンとアドランに礼を言って建屋を後にした。一行は、このあと訪れることはないと思うマリアの街区を目におさめ、マリアの宮殿と集散所を見て、昼前に船だまりに着いた。
 アレテスは、ホーカスにニケの点検を指示した。
 『ニケの点検は、アサイチに終えています。異常はありません』
 『おっ、そうか。次に、お前の予測を聞く。空模様、風の強さと向きはどうだ?』
 『東の空の雲行きには懸念があるものの西空には心配がなさそうです。風向きは北の風、微風です』
 『よし判った。今日の航海はイラクリオンに向かう、帆は上げず、漕ぎかたで船だまりを出る。あとは模様次第で臨機応変だ、いいな』
 『判りました』
 アレテスは、イリオネスに報告舌した。
 『判った。東からの風は期待できない、向かい風でないことをよしとして、航海の安全を願おう』
 エドモン浜頭が小走りで駆けてくる。
 『おう、待たせたかな』
 『いえ、そのようなことはありません』
 『イリオネス頭、用事は済まされましたかな?』
 『え~え、おかげさまで、充分に済ませました』
 『それは重畳でしたな。昼めしはここで済ませていきましょうや』といって、手に持ってきた包みを広げた。
 丁寧に火を通した焼き魚であった。ちょっときつめに塩をきかせた焼きあげている。
 『ちょっとばかり硬いと思いますが、、、』とことわりを入れて、アレテスは一同にパンを手渡した。
 『そんなことはかまわん!』とスダヌスが言う。
 彼らは、ワインをパンにしみこませて口に運んだ。
 『今日は漕ぎかたはえらいと思うが努めていただきたい。世話をかけますな』とエドモン。
 『いや、いつも航海は、順風とはいきませんからな』とイリオネス。
 一同は、船上の人となって、船だまりからクレタの海へと出た。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  347

2014-08-27 07:12:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕食は盛り上がった。アレテスは、ホーカスに指示してニケの張り番をしている者たちに夕食をとどけさせた。
 彼らの話題は、今日、見て廻った宮殿と集散所の事が中心であった。エドモンは、宮殿と集散所が地方に果している役割について語った。聞く者たちの耳目集める訥々とした語り口にひきつけられ、親しみをもって聞き入った。息子のアドランも初めて聞く話の内容に感嘆した。
 地方の政庁といった役割を果たしている宮殿、集散所、それらの建物に外からの敵を防ぐ城壁がないのは、クレタの住民たちは温和であり、平和をこよなく愛した民であることを話した。それの証は、クレタ人がつくりあげた文明が作った遺物類が証明していることを語った。時折、スダヌスと顔を合わせて、うなづきあって話した。(クレタの博物館には、ギリシアの博物館に比して武具等の展示品が極めて少ない。また、壺等の図柄にも戦闘に関連した図柄がないといっていいくらいに少ないのである)
 夜は更けて深更に至ろうとしている。アレテスは、他国と思える夜の危険を考えてホーカスにニケにとどまるようにと言っておいた。ホーカスはニケで張り番の彼らとともに夜を過ごした。
 食事を終えた彼らは、アドランに案内されて、建屋の一隅を寝所として眠り、朝を迎えた。
 建屋の近くには、水量が多いとはいえない川が流れている。彼らは、スダヌスに誘われて朝行事をその川で行った。海水ではなく川水での朝行事である。
 彼らは、水の違いによる異質のさわやかさを知った。彼らが発した最初の一語は『おっ!冷てえ!』であった。
 とにかく朝である。彼らにとって、内陸と行ってもいい地点で迎える朝は、異国を感じさせていた。
 エドモンとアドラン、スダヌスとイリオネス一行が顔を合わせた。『おはようございます』『おはよう!』と朝の挨拶を交わして、朝めしの炉辺を囲んだ。
 これといった特別の朝めしではない、男所帯の男の朝食風景である、ワインで糧を胃に収めるといった朝めしは旨かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  346

2014-08-26 06:51:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌス、イリオネス、クリテス、この三人を除いた他の者たちは、クレタの地に根づいている商慣習に頭をひねっていた。そういったところは彼らにとって全くの他国であった。イリオネスにとっても旅の途中においてスダヌスと出会ったことが思いがけない幸運であった。マリアの地における商慣習、取引の形態をみたとき、彼は全く、何の準備もしていなかったのである。イリオネスの懐中には幾ばくかの金と銀が準備されていた。ニューキドニアの地を離れるに至っての会議、打ち合わせの話題にも載らなかった事案である。目の前にある現実に、イリオネスの肝はちぢみ、背筋がつめたくなった。
 イリオネスはスダヌスを広場の人気のないところに誘った。
 『スダヌス、お前がいてくれて助かった。俺たちの無智をさらけ出すようで全く恥ずかしい。幾ばくかの金と銀は持参している。これをお前にゆだねる、役に立つだろうか?』
 『おう、充分に役に立つ。イリオネス、安心しろ。それは、お前が持っていろ。入用の折には俺がお前に言う。その準備があれば俺も心丈夫だ』
 『スダヌス、お前に世話をかけるな。ありがとう』
 『おう、イリオネス。何事も気にかけず、お前の思うように行動しろ』
 二人の話は終わった。
 『おう、イリオネス、今日の夕めしの材料を調達しなけりゃならん。それをやろう。お前、見るべきところを見たのか?』
 『それは見た。充分とは言わんが見るべきところは見た。食材の準備に行こう。時も頃合いだ』
 二人は食材売り場に歩を向けた。いろいろと買い込んだ。
 『おう、酒だ。マリアのワインは旨いぞ!』
 酒はワインでひとくくりである、銘柄はない、産地による価格差はあるが、差異はない。スダヌスは、売り人に味見を要求した。
 『どの酒がうまいか味わってみる。味見をさせろ』
 酒は決めた。彼は、したたかに買い込んだ。イリオネスは集散所を見渡して伴の者を探した。アレテスとホーカスを見とめた。彼らを手招きで呼び寄せ、買い込んだ食材を持たせた。
 『イリオネス、頃合いだ、帰ろう』
 『おう、そうしよう』
 クリテスらのグループは集散所前で待っていた。一行は帰途についた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  345

2014-08-25 07:42:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『エドモン浜頭殿、大変馳走になりました。一同ありがたくいただきました、大変、喜んでいます』
 イリオネスは丁重に礼を述べた。
 『お~お、それは重畳、よかったよかった』
 エドモンは彼の礼を受けた。
 『おい、スダヌス、これからの予定は?どのようにしている。俺は俺の用事をやる』
 スダヌスはイリオネスの意向を訊ねた。
 『おう、いいだろう。その線で行くか。解った』
 『エドモン頭、決まった。彼の意向は、マリアの宮殿と集散所をじっくりと見たいと言っている』
 『判った。それで今夜の宿舎の事だが、アドランと打ち合わせた。この建屋の一部を使ってくれ。不便は我慢してくれ。いいか』
 『そこまで気を遣わせてすまん。ありがとう、礼を言う。願ってもないことだ、感謝感謝だ。夕食の喰い物は整えてくる。肉はまだ残っていたな?』
 『おう、大丈夫だ。酒が少々足りん。そういうことだ』
 『判った。都合してくる。ではな』
 一行はエドモンの作業所をあとにした。スダヌスとイリオネスは肩を並べて先頭を行く。他の者たちは二人の背中を見ながら、三々五々、歩を運んだ。宮殿、集散所に着いたイリオネスは、彼らに今日のこれからを伝えた。
 アレテスは、気に掛けていたことをイリオネスに伝えた。
 『それはいいな。判った。そうしろ!』
 アレテスは、三人を選んで、ニケの張り番をしているホーカスらと交替させた。アレテスは集散所の前で三人の到着を待って任意の行動で集散所の中を見て歩いた。
 耳にする言葉は、解せる言葉もあれば、全く解らない言葉もある。解せない言葉を耳にした折には、顔を見合わせて肩をすぼめた。イリオネスはスダヌスの解説付きで売り場を廻っている。クリテスら四人はクリテスの解説を聞いて納得してあれこれと見て廻った。彼らは売り場の品物を見たり眺めたり、客たちの買い物風景を眺め、売り方と買い方のやり取りを見たりした。客らの取引は、彼らが頭の中に描いている物々交換取引ではないことに思いが至っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  344

2014-08-22 08:08:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オウ、親父!何だ?』ぶっきらぼうだが親子の情を含んだ声音である。
 『おう、どうしている?』『変わりはない。連れがいるではないか』
 『お前、昼めしは?』『早めに済ませた』
 『もう一度、食べないか』『う~ん、いいだろう』
 『客人だ。スダヌス頭の友人たちだ』
 『スダヌス頭が見えたのか』
 彼は戸外へ目をやった。スダヌスと目があった。歩み寄るスダヌス。父親のわきを抜けて戸外へ出るアドラン。
 二人はヒッシと抱き合った。顔を見合わせる。再度二人は肩を抱き合って、久しぶりの再会を喜び合った。
 『アドラン、元気そうだな、何よりだ』『頭こそ元気そうで何よりです』
 『仕事の方は、うまくいっているか?』『俺の思いではうまくいっていると思っている』
 『そうか、それは重畳、何よりだ』『親父の評価が手厳しい』
 『親とは、そういうものだ』『頭、ゆっくりしてください。俺、食事の準備をしなければ、、、』
 『そうか、俺らも手伝う』『向こうの庭で準備します』
 『野焼きだ。むつかしく考えるな』『わかってるって』
 二人は話し合いながら裏庭に向けて歩を運んだ。イリオネスらも手を貸して食事の場づくりに取り掛かった。手っ取り早く整った。
 『おいっ!アドラン!酒はあったな、酒杯も持ってこいや。酒と一緒にだ』『判った』
 裏庭には炉が作られている。食事準備のためのテーブルも据えてある。
 大ぶりにカットされた肉を金串に刺して焼く、まあ~、豪快にふるまう食事風景が展開した。イリオネスがアレテスの方を向いて小声でささやいた。
 『パンは持ってきているな』『はい、持ってきています。安心してください』
 『アレテス、頃合いを見て、パンを配ってくれ』『判りました』
 アレテスは、据えられているテーブルを使ってパンを金串に刺して軽く火を通して一同に配った。
 『おっ!パンか』
 スダヌスが声をあげる。
 『おいっ!アドラン!これを食べてみろ』
 『おおっ!これは旨い!初めて口にするパンの味だ。いいね!』
 一同は、いい具合に焼けた羊肉、酒、そして、パンを味わった。
 彼らの昼食は終わった。食事を充分に楽しんだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  343

2014-08-21 07:29:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、ホーカスと三人をニケの張り番に残し、船だまりを後にした。
 マリアの街は、キドニアに比べて、家並みが建て込んでいるように見え、家、屋敷にも古さが感じられた。イリオネスは、キドニアという物差しをもってマリアを測った。
 彼はひとり言ちた。『物を見る、物差しがある、評価ができる。そして、結果は進んだいいものを創造できることだ』
 彼は他人に知られることなく胸に畳み込んだ。
 一行はは 集散所に着いた。エドモンとスダヌスは、中に入っていく。イリオネスらは、入り口前にたたずみ舌を巻いた。そのスケール、建物の威容は彼らを圧倒した。
 『アレテス、これはごっついな!オドロキだ!』
 彼ら一同は、見て驚き、開けた口をふさぐのを忘れた。一同は、驚嘆の表情で集散所の威容を眺めた。
 建物は宮殿づくりである。集散所、広場、付随する建物が連なる。地方の政庁であり、住民たちの活動の拠点でもある。広場の一郭には木材が積まれており、地産のオリーブ油、ワイン、チーズ等の貯蔵庫もあり、それらの加工場も併設されているのである。
 集散所の売り場も広く、人でごった返していた。
 イリオネスにとって、その繁忙さが憧れでありながら、不明の難度をも察した。スダヌスが声をかけてきた。イリオネスは我に返った。
 『イリオネス、何を驚いている?この集散所は、この繁忙があって、それに支えられている。なにも驚くことはない。ここでの用事は終わった。行こう』
 『荷物があるようでしたら、手分けして持たせますが』
 『お~い、エドモン、イリオネスが荷物を持つといっている。彼らに持たせればいい』
 『おっ!そうか言葉に甘えよう』
 調達した荷物を分けて彼らに持たせた。
 『イリオネス頭、行きましょう』
 一行は、集散所を出て四半刻ぐらい歩いただろうか、街区のはずれに出ていた。あちこちにやや大きめの作業所風の建物を目にするところに来ていた。
 エドモンは、その一棟に歩を運んでいく。彼は戸口に立って大声で呼びかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  342

2014-08-20 07:51:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 エドモンがホーカスに声をかける。
 『君の名は?』
 ホーカスが顔をエドモンに向けて答える。
 『はい、ホーカスと言います』
 『ホーカス君か、俺が船だまりに案内する』
 『はい、ありがとうございます』
 二人は短いやり取りを交わした。
 『ホーカス君。船をこのまま真っ直ぐ進めてくれ。細かい指示はその都度出す』
 『判りました』
 マリアの船だまりを目指すニケの航跡は陽に映えて美しかった。
 岬を過ぎて方向を変えたニケはマリアを目指している。それから、四半刻、マリアの街区が見えてきた。あと、もう四半刻の航行でマリアの船だまりに着くであろうと彼ら一行は胸をときめかせた。ニケはそれを解して波を割っているようであった。
 エドモンは船尾にあってしっかり前方を見つめている。彼が声を上げた。
 『お~お、見えてきた来た、ホーカス、見えるか、柱石だ、あの柱石が、船だまりの目印の柱石だ。アレを目指してかじ取りをしてくれ』
 『判りました』
 『ちょっとばかり、船を右へだな』
 ホーカスは言われたように方向を調整してニケを進めた。正確性を重んじて慎重にかじ取りをしていく。ニケは柱石のラインを越えて、船だまりに入った。
 『お~、いいぞ!あの船と船の間に舳先を差し入れてくれ』
 ホーカスは言われたように船と船の間にニケを差し入れて、舳先を接岸させた。
 『お~、お前、なかなかの巧者だな』と言って、舳先に移動した。
 『いやいや、皆さん!マリアに着きました。航海の無事を感謝しましょう』
 エドモンは、『ホッ!』とした表情をして一行に告げた。彼ら一行は陸にあがった。
 『イリオネス浜頭、如何でしたか。無事マリアに着きました。海は魔物です。ポセイドンは心変りが激しい、いかなる時も無事であったら感謝を忘れてはいけません。私の二番目の息子がマリアにいます、そこで落ち着いて昼にしましょう。連絡なしで行ってもかまわないのです』
 『ありがとうございます。言われる通り、言葉に甘えます』
 『おう、スダヌス、行こう』
 『おう、エドモン、どうする?何か調達していくか?』
 『いいだろう。息子のところまで小半刻だ。途中に集散所がある。立ち寄るつもりでいる』
 一行は、24~5隻の船が舫っている船だまりを後にした。















 『』

『トロイからの落人』  EUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  341

2014-08-19 07:03:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『展帆、漕走か。今は、海は凪いでいる。もう少し時間がたつと西風が強くなる、それまでだ、こらえることだ。それにしても、この船いい走りじゃないか』
 エドモンが船をほめた。
 左手の海上には、イラクリオンの浜から北に40スタジオン(約8キロメートル)余りにディア島(現在名)を望みながら進んだ。
 風に力が出てきていた。エドモンがスダヌスに声をかけた。
 『スダヌス、このあたりの海はいい深さだ。船をもっと海岸に近づけて、浜の風景を楽しみながら航行してはどうだ。この風なら漕ぎかたの必要がないのでは、、、』
 これを聞いてスダヌスは、うなずき意向をアレテスに伝えた。海岸に近づいたニケは、走りを風に任せて東へと進んだ。
 エドモンは、ニケの航行状態に安堵したらしくイリオネスに話しかけた。
 『イリオネス頭、昨夜はありがとう。あのパン、今朝食べた。うまかった!あのようなパンはイラクリオンでは焼いていない、スダヌスの口上もあって、家族一同が味わって食した。ありがとう。この船の進みなら、マリアの浜には昼過ぎに着く。急がずともいい、ゆっくり船旅を楽しまれよ』
 『エドモン浜頭、お心使いかたじけない、ありがとうございます』
 イリオネスは丁重に礼を述べた。日和もよく、ニケの走りは快調であった。頬を撫でて過ぎる風も心地よかった。右手に目にするまっすぐに延びたゴウマイの海岸線の風景も彼らの心を和ませた。
 アグキサラスの岬を過ぎて、クリテスは、アレテスに、ニケを南東に向けることを進言した。アレテスは、即、船尾のホーカスにその旨を伝える。アレテスは、スダヌスにマリアの船だまりについて訊ねた。それを受けて、スダヌスはエドモンに訊ねた。
 『そうだな、もう少しマリアに近づいたら、俺から操舵の者に指示するが、それでよろしいか?』
 『それで結構です。お願いします』
 エドモンは、身を船尾に移した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  340

2014-08-18 08:21:36 | 『次の一手』プレゼンテーション資料
 『おう、水か!判った。ちょっと待て』
 彼は奥へ入っていった。
 『おう、待たせたな、こっちだ。こっちへ来い!勝手知ったる他人の家だ』
 彼は先にたって、すたすたと歩いて館の横手へと向かっていった。
 『おい、アレテス、この井戸だ。くみ上げて入れていけ!』
 『ありがとうございます』
 『井戸はちょっと深い。深く掘らないと水脈に届かんのだ。イデーの山には木が生えておらんのじゃよ』
 『ほう、そうなんですか』
 アレテスはいぶかしさを込めて答えた。二人は、水袋に水を満たして礼を述べた。
 『おう、エドモンには、俺から礼を言っておく。今、俺たちは出る準備をしている、もう少々待っててくれ』
 二人は水袋を携えて浜へ引き返した。イリオネスには、スダヌスの意向を伝えた。
 『よしっ!ニケを海へだす。各自持ち場についたら点検だ、いいな。不具合がないか確かめろ!』
 アレテスが気合を入れた。彼らは点検した。
 『おい、ホーカス、舵の具合は?』『異常ありません!』
 『テトス、ピッタス、クリテスはどうだ?』『異常ありません!』
 『他は!』と言って見渡した。『異常なし!』『おう、よし!』
 彼は、イリオネスに向かって、異常なしの報告を終えた。
 そのタイミングを見計らったように、スダヌスとエドモン浜頭が姿を見せた。
 『おう、イリオネス、どうだな?今日は、マリアに向かう1刻半(3時間)余りの船旅だ。今日と明日はマリア辺りを見て歩こう。案内はエドモン浜頭に任せている、それでいいな』
 『判りました。エドモン浜頭、宜しくお願いいたします』
 『おう、泊りについては、向こうについてから決める、いいな。ところで風は、どんな具合だ?』
 『アレテス、どうだ?』スダヌスが声をかけた。
 『風は西かからです、追い風です。風に力はありません』
 『よし、判った。イリオネス、エドモン浜頭をニケに案内してくれ』
 『エドモン浜頭、案内いたします。ニケの船上に、どうぞ。一同は位置についています』
 エドモンが乗りスダヌスが乗り、漕ぎかた始めの掛け声で、ニケは東へ向けて波の上を滑り出した。