『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  328

2014-07-31 08:04:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 洋上のニケは、漁船に近づいていく、声が聞こえる、互いに顔の判別ができるところまでに近づいた。
 『ハッハッハ!』挨拶が『ハッハッハ』である。
 イリオネスも大口を開けて、
 『ハッハッハ!』と返した。
 スダヌスはとぼけている。
 『お~、軍団長どの、どちらへ行かれるのかな?』
 『お~、スダヌスどの、この広い海の真ん中で何をしておいでかな?』
 と言葉を返した。二人は、
 また、『ワッハッハ!』と笑いあった。
 この風景を目にしたアレテスは、ピッタスとテトスと目を合わせてうなきあった。船上の緊張が解けた。
 漁船はスダヌス浜頭の船であったのだ。双方の船が波にゆすられながら舷が擦り合うくらいまでに寄ってくる、双方の船上の者たちが手を伸ばして、互いの船の船べりをつかんだ。イリオネスとスダヌスは、舷越しに手を握り合った。
 『あいや、イリオネス殿、あなたと私、このような洋上でお会いするとは、全くの奇遇ですな。どのような用向きでどちらへですかな?』
 『それもなんだが、浜頭もこの海で何を?』
 『ハッハ!私の用向きをお尋ねになるのですかな。私の用向きは、ちょっくら魚の様子見ですわ』
 『ハッハ、それはそれは、口実であって、本当の用件は別のようですな。実はですな、私は、出入り七日の予定で東地区への視察に出かけるところです。クリテスにガイドと通辞を任せての旅です』
 スダヌスは、イリオネスの意図を知っているようである。
 『そうですか。それにしても皆さんの身なりは漁師然としてますな。だが、肩に力がこもってますな。誰も漁師と思いませんな』
 『へえ~、そのような。そのように見えますかな』
 『まあ~まあ~、それはそれとして、今、東地区は危険がいっぱいです。相手があなた方の事知ったら、ただではおさまりませんな。私には知り合いがいます。軍団長、私はあなた方に同道いたすつもりで、ここで待っていたということです』
 『判った、浜頭!貴方の力を借ります。宜しく頼みます』
 イリオネスは、予想される事態を瞬時に理解した。スダヌスは、言い終わるや否や、ニケに乗り移った。彼は、漁船の者たちにひと声をかけた。
 船上の者たちは互いに相手の船の船べりから手を離した。
 スダヌスは、アレテスの方へ顔を向けた。
 『ややっ!アレテスどの、足止めをしましたな。申し訳ない、船を出してください』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  327

2014-07-30 07:09:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは磁石鉄棒を吊り下げた。鉄棒は揺れながらも水平を保って、南北を指し示した。アレテスが鉄棒の真下に時板をあてがう、鉄棒の方向に時板の南北線を合わせる。時板の中心棒が板上に影をおとす。イリオネスは、太陽を見上げて、目線を板上の影に落とした。太陽はまだ中天に至っていない、板上の南北線上に影が来るまでに、まだ、少々の間がある。イリオネスは頃合いを察知した。
 (航海を今様時間で測ると、ニューキドニアの出航が午前5時頃であり、レテムノンまでの航走距離が約60キロと想定される、船速は、追い風、順風、帆走で時速10キロ前後であり、レテムノン着が午前11時頃と考えられる)
 『お~い、クリテス、太陽はまだ中天にかかっていない。昼までにまだ少々間がある』
 『アレテス、ニケをレテムノンの浜に近づけてくれ。レテムノンを海上から眺めてみる』
 『はいっ!判りました』
 彼はホーカスに声をかけた。
 『ニケをレテムノンの浜に近づけてくれ』
 『はいっ、判りました』
 アレテスは指示を終えて、浜方向に目線を向けた。遠くの海上にに大型の漁船がいる、彼は目にとめただけで注意を払わなかった。だが、漁船に気が付いたイリオネスは注意を怠らずに、この漁船をじい~っと見つめた。まだニケとはかなりの距離がある。船上にいる者たちを判別できる距離ではなかった。イリオネスは、遠くに見える浜の風景にも目を凝らした。再び漁船に目を移した、遠くではあるが船上の男と目があったような気がした。相手が俺を見て笑ったように思えた。
 『アレテス、あの漁船がちょっと気になる。近づけてくれ』
 『判りました。いいのですか?』
 『危険はなさそうだ。安心していい』
 アレテスはいぶかりながらホーカスに指示を出した。次いで、ピッタスとテトスに小声でささやいた。
 『ピッタス、テトス、お前ら、この丸太ん棒を持て、何かあったら打ち掛かるのだ、いいな。合図を俺がする、ぬかるでないぞ』
 船上を緊張が走った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  326

2014-07-29 07:15:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おっ!これはいけるな。うまい。生もうまいが、この魚、身がしまっていてうまい、口当たりがいい!船の上で焼いた魚が食えるとは、、、』イリオネスがほめた。
 船上の者たちも顔をほころばせている。
 ほどいい風が船を押した。アクロテイリ半島岬の東端にさしかかって、クリテスはアレテスに声をかけた。 
 『副長、この方向に船を進めてください。レテムノンへの最短距離です』
 『判った』
 アレテスは、操舵のホーカスに指示を出した。
 『ホーカス、目標は見えんがこの方角だ。方向を誤るな、いいな』と言い終えて、風向、風力の具合を確かめた。半島岬を廻って帆に当たる風は、南東方向を目指す船を押した。
 イリオネスが指示した船の改造が効を奏している。彼は、『もし帆柱構造をしていなかったら』と回想した。イリオネスは、アレテスに話しかけた。
 『アレテス、この船を呼ぶのに、船、船ではおかしい。船に名前を付けよう、お前どう思う』
 『いいですね。それはいいと思います。大賛成です』
 『よしっ!命名といくか。『ニケ』がどうだ。ドックスの表現そのままでいこう』
 『判りました。いい名前です』
 『では、皆に伝える』
 イリオネスは、声をあげた。
 『おう、諸君!聞いてくれ。この船に名前を付けた。只今から、この船を『ニケ』と呼ぶ、いいな、『ニケ』だ』
 『おう、『ニケ』かいい名前だ』
 船上の者たちは『ニケ』『ニケ』と口々に叫んだ。
 このあたりの海は、アクロテイリ半島岬の東側にあたりおだやかな海である。洋上を走る『ニケ』は、申し分のない航海条件で、レテムノンに向けて順調に波を割って進んだ。
 『ニケ』は快調といえる帆走で進んでいる。はるか遠くにレテムノンの浜が見えてきた。
 『おう、アレテス。ここまで順調に来たな。確かな頃合いは何時かな?』
 『太陽の位置からすると、まだ昼前であることは確かです』
 『方角時板を使ってみる。手を貸せ!』
 彼は袋から方角時板を取り出した。
 『アレテス、お前は時板を持て、俺は鉄棒を操作する』
 『判りました』
 手こずるかと考えたイリオネスではあったが、うまく事が運べそうであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  325

2014-07-28 05:54:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クリテスは、今、乗っている船に懐かしい覚えがあった。幼かった頃を思い出していた。彼は、航海そのものに関する深い知識は持ってはいなかった。ただ沿岸航法によりガイドしていく、クレタ島東地区へ船旅と行旅を安全にガイドする役務を担当していた。
 ニユ―キドニアの浜を出て、1時間余りでアクロテイリ半島岬の西の突端が指呼の地点に到達した。夜が明け始めてきた。東の空が朝茜に染まってきていた。日の出が近い。
 『アレテス副長、船は半島岬にかかろうとしています。沿岸から離れず、これくらいの距離を保って東に進んでください。半島の西端を過ぎればレテムノンまでは私の知り尽くした海です。西端を過ぎたあたりから風が強くなると思います。帆走のみで行けると考えています。以上です』
 『判った』
 『あ~あ、それからですが、レテムノンの手前あたりで行程の半ばとなります』
 『お~、そうか、判った。船の大きさからいって岸からの離れ具合が、これくらいがいいと考えている。クリテス、頼むぞ』
 『判りました』
 だんだんと帆の風のハラミが大きくなってくる。船速も早くなってきていた。アレテスが声を上げる。
 『櫂をあげろ!』
 帆は、風をはらんで波を割り進んだ、快走であるといえた。
 『なあ~、アレテス、この船の改造を担当したドックスが言っていたのだが、この走りは、奴の言った『洋上のニケ』とはうまくいったものだな。この走りはまさにその言葉通りではないか』
 『へえ~、ドックスがそんな風に言ったのですか、なかなかうまく言っていますね』
 『よし!アレテス、この時間だ。朝めしにしよう。朝めしのパンを配ってくれ』
 『判りました』
 彼は、船済みした食料の入った袋からパンを取り出して配った。アレテスがギョリダに言いつけて作らせた干し魚の焼いたものもみんなに渡した。
 『おおっ!アレテスこれは何だ?』
 『まあ~、口に入れてみてください』
 イリオネスは、やおらに口に運んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  324

2014-07-25 07:55:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 まだ夜が明けていない、早朝の冷気が彼らを引きしめていた。
 アレテスは、月の光で全員を確かめている。そして、静かに指示を出した。
 『船を海へ出せ!掛け声はだすな!』
 一同が船に取りつく、しずしずと船を運び海に浮かべた。アレテスは、両手を海につけ、濡れたまま頭上にかざして風を探った。風だ、微風だ、西からきている。身体を西に向けて、風向きと強さを確かめた。
 広場の方から人影が浜へと来る。月の光で探った。
 イリオネスにパリヌルス、オキテス、そして、オロンテスとセレストスと数人の者たち、彼らは荷物を手にしている一群である。浜の張り番の者たちも寄ってくる。ドックスと改造班の者たちも群れて浜に居並んだ。
 遅れて姿を見せたのは統領のアヱネアスであった。
 アレテスはセレストスから食料を受け取り船積みを終えた。船積みの武具を改め、用意してきた丸太ん棒を積んだ。次いで、総員の風体に目を配り、すべてに遺漏のないことを確かめ、隊長に報告した。
 『判った。アレテス、もう出航は出来るな』
 『はい、何時でも』
 イリオネスはアヱネアスに歩み寄り、出航の旨を伝えた。
 『行ってきます』
 『おう、行って来い』
 二人は固く手を握り合った。パリヌルス、オキテス、オロンテスと続いた。
 彼ら一行は船上の人となった。アレテスは隊長に告げた。
 『西風、追い風ですが微風です。風に船を押す力はありません。展帆漕走で進みます』
 『了解!出航しろ!』
 アレテスは指示を発した。
 『漕ぎかたいいな、展帆!漕ぎかた始め!』
 船は、泡立つ白い航跡をひいて浜を離れていく。居並ぶ者たちは声は出さず、手を振って一行を送り出した。
 アヱネアスは、一行の無事帰着を念じた。パリヌルスらも無事に帰ってくることを祈った。
 空の星が光を失う時には至っていない。船は、洋上を照らす淡い月の光の中を北東方向に黒く目に映るアクロテイリ半島岬の突端に向かって波を割って進んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  323

2014-07-24 07:03:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、そうだ』
 すかさず、パリヌルスが答える。オキテスが声をあげて立ちあがる。
 『用材の事がある。パリヌルス、行こう』
 『おう』と答えてパリヌルスが立ちあがる。他の二人も腰をあげて、それぞれの用向きに散った。パリヌルスとオキテスは広場に積まれた用材を見た。マクロスとトピタスもその傍らに来て立った。
 『おう、お前らご苦労だったな。見たところなかなかの良材ではないか。伐り口を見たところではお前らが伐ったものではないな。これはプロのやった仕事だな』
 『はい、言われる通りです。私らが指示する、彼らが伐る。そのようにしました』
 『そうか、判った。ところで、マクロス、お前に託した一件については、ガリダの答えはどうであった。あとから報告してくれればいい』
 少しの間をおいて言葉を継いだ。
 『先ずはご苦労であった。一同を休ませろ。もう、めしの頃となる』
 『ありがとうございます』
 『マクロスにトピタス。明日、朝めしを終えたら作業開始だ。風風感知器、方角時板、それぞれの製作チーム全員、広場に集結だ。用材を用途別に分ける。そして、それぞれの製作拠点に運ぶ。それが段取りだ』
 『判りました』
 『ここにいるのは、用材調達隊隊員、全員だな』
 『はい、そうです』
 マクロスは彼らを見廻して答えた。オキテスらは彼らと目を合わせた。彼らが立ちあがろうとする、オキテスは、『そのまま、そのまま』と手のしぐさで彼らの立ち上がりを押しとどめた。
 『諸君!大変にご苦労であった。俺の考える以上の苦労もあったと思う。よく仕事をやってくれた、礼を言うぞ!ありがとう』
 彼らは託された仕事を遂行した満足にひたった。オキテスは言葉を継いだ。
 『充分に休んでくれ』
 一同は『おうっ!』と声を上げてオキテスの言葉に答えた。
 夕めしには、彼らの労苦に答える、ささやかな配慮がされていた。
 こうして多忙の一日が終わった。

 満点に星が輝いている、半月が西の空にある、月は光を散らしまいている。
 アレテスはギョリダにハシケを漕がせて、小島の岸を離れて、浜の集合地点に向かった。調査隊の隊長を除く11人が顔をそろえていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  322

2014-07-23 08:14:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
イリオネスは、試走から戻ったアレテスらと打ち合わせた。彼は鋭い目つきで告げた。
 『一同、判ったな。では、明朝、夜明けを待たず出航する。集合は、ここだ。アレテス、セレストスと打ち合わせて食料の事を頼む』
 『判りました』
 『一同、しかと心得たな』
 イリオネスは念を押した。『おうっ!』一同が声をあげた。
 アレテスらは、小船を浜に引き揚げた。アレテスが声をかける。
 『お前ら、旅装は判っているな。ピッタスにテトス、隊長も俺も手ぶらだ、剣を5人分を菰まきにして担いで行ってくれ、俺たち五人は、手ごろな丸太ん棒を杖代わりにつきながら歩くといった趣向で旅をする。判ったな。ほかに槍を4本、剣を6振り船に積んでおいてくれ。これらの武器の取り扱いの責任者は、ホーカスお前だ、判ったな。では、明朝早暁、ここに集合だ!以上。解散』
 『おうっ!』
 アレテスの言葉尻に力がこもっていた。
 パリヌルスとオキテスが話し合っている、イリオネスが寄ってくる、二人はイリオネスに向かって、気がかりを話題にした。
 『そうか、お前たち、俺のことを心配してくれているのか、ありがとう。まあ~、クリテスの話では、そんなに気にすることがなさそうだ。アレテス、ピッタス、テトスの腕のたつ奴が三人もいる事だ。過ぎる心配はせずともよい』
 『判りました。と答えますが、やっぱり、気に掛けずにいられませんな。そのようなものです』
 『そうか、そうか、ありがとう』
 浜がにぎわってきていた。キドニアからの舟艇が着いたらしい。二人は、イリオネスに声をかけて、場を離れて、声のするほうへと向かった。用材調達隊の一行が帰ってきていた。
 『隊長、只今帰りました』
 『おっ、そうか。マクロスご苦労であった』
 『どうだった?』
 『今、舟艇から荷を下ろしています。少々お待ちください』
 二人は降ろされた用材に目をやった。
 『おう、充分な量ではないか。そして、なかなかの良材ではないか』
 『お~い、マクロス、荷卸しが終わったら、用材を広場の方へ運んでくれ』
 『判りました』
 二人のところへオロンテスとギアスが歩みよって来る。二人は完成した小船を見てきたのだ。
 『おう、パリヌルス。いい船に仕上がったではないか』
 『ありがとう。俺たちは一行の無事な帰りを待つといったところだ』
 四人は話を交わした。
 『なんと?まだ一行が出発もしていないのに、無事な帰りを待つとは。なかなかの遠望だな、船は深慮を尽くして改造したということか。ハッハッハ、、、』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  321

2014-07-22 08:01:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは、彼ら一同を見まわして声をかけた。
 『ヨッシャ!者ども昼めしとするか』
 昼めしにはわずかではあったが心づくしの酒も用意されていた。イリオネスの気配りであった。
 オキテスが小走りに駆けてくる。
 『お~い!パリヌルス。小船ができたのだな、洋上試走の姿を見ることができなかった。無念といったところだ。あッ!軍団長、こちらにおいででしたか』と言いながら、さざ波が船体を打つ、帆柱を立てた小船を見つめた。
 彼は声をあげた。
 『帆柱の高さがいい、バランスのいい船に仕上がっている。これなら、小さな用事に使うのに最適といったところだ。おめでとう。完成に贈る言葉だ。ところでパリヌルス、新しい鋸を買ってきたそうだな。あとからでいい見せてくれ』
 『ドックスの言い分だが使い勝手が、なかなかいいということだ』
 『いま、お前と俺とが計画している、方角時板、風風感知器の製作に使えそうか?』
 『それを考えて、道具選びをしたわけではない。それはそれでまた考えてキドニアへ買いに行こう。集散所には、結構、道具がそろっている。最適を選ぼう。金の取れるモノづくりをせねばならんからな』
 『おう、判った。ヒマを見て二人で出かけるか』
 『おう、そうしよう。ところで、用材調達隊は今日帰ってくるのだな』
 『そうだ。用材、モノづくりの行程、仕上がりを見極めて、道具選びをやろう』
 『判った。そうする』
 『あのなあ、オキテス。話がそれるが、いいか』
 『おう、何だ。俺はかまわん』
 『あの帆柱を立てるとき、ふと、考えた。帆柱をもうちょっと高くして、横桁をなくする、そして、三角の帆をつける。かっこのいい船ができるとな』
 『俺は、それにはうなずけないな。かっこをつけて三角帆で船が走るわけはないと思っている』
 『大型の船には不向きかもしれんが、軽量化と簡便になる。これは、俺の想いであって実行ではない。そういうことだ』
 時代にない突飛な考えが未来を変えていく、その様な機運が起きる会話であった。二人は、とりとめもない会話を交わした。
 『今日は、キドニアからの帰り船が遅くなるのではないかと思っている』
 『まあ~、そう急くな。日暮れまでには間がある』
 『そうだな、待つとするか』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  320

2014-07-21 06:53:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 酒壺は砕け散った。
 浜に居並ぶすべての者たちから喊声が沸きあがった。大喊声と言っていい、声が浜の空気を震わせた。アレテスが船上の一同に号令をかける。
 『漕ぎかた始めっ!』
 10本の櫂が一斉に海面を泡立てた。小船が浜を離れていく、100mくらい沖に出たところで、アレテスが操舵のホーカスに声をかけた。
 『左へ回頭!』ホーカスが舵を切る、小船は小気味よく左へ回頭して進む。100mくらい進んで右への回頭の指示をする、そして浜へ向かうべき指示をした。
 パリヌルスもドックスも、この模様を真剣な目線で見つめていた。小船が波を割って進む、その姿が美しく目に映った。パリヌルスは、イメージした通りのその風景に満足した。イリオネスは感動した面持ちで海上の小船を見つめている。浜にいる者たちもその風景に見入っていた。
 ほどなく浜に戻って来た小船、それを迎える関係者一同が、またもや喊声を上げた。
 イリオネスがパリヌルスに声をかけた。
 『パリッ!お前には苦労を掛けたな。重畳の出来だ!申し分ない。満足の一語だ、ありがとう』
 これを受けて、ドックスには、パリヌルスが声をかけた。
 『ドックス、ありがとう。バランスよく仕上がった。帆の具合も程よく仕上がっている』
 二人は目を合わせた。ドックスは作業に携わった者たちを集めた。
 『パリヌルス隊長、お願いします。彼らに一言を、、、』
 『おう、判った』
 パリヌルスは、彼ら一同を前にして立ち口を開いた。
 『諸君!ご苦労であった。小船が海上を進む姿を見たであろう。バランスよく仕上がっている。上出来である。ありがとう。君らに感謝の言葉を贈る』
 拍手と歓声が答えであった。代わってドックスが口を開いた。
 『おう、お前らの働きで小船が完成した。あの小船が洋上の『ニケ』となった。お前らが一丸となって仕上げてくれた』
 ここでドックスは一同を見渡して、言葉を継いだ。
 『ありがとう!お前らに心から礼を言う』と結んだ。
 彼らは、棟梁として腕をふるったドックスに拍手と歓声を贈った。
 ドックスは何となく照れていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  319

2014-07-18 07:04:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 リナウスがパリヌルスに声をかけた。
 『隊長、この船ですか。いい船じゃないですか』
 『お前の目にもそのように見えるか』
 『はい!』
 『よし!リナウス、ご苦労であった』
 ドックスが傍らに来る。
 『隊長、船を海に浮かべます。進水させます』
 ドックスは酒壺をパリヌルスに渡した。
 『よし!行こう。ホーカス、お前も一緒に来るのだ』
 作業に携わっていた者たちが総がかりで小船を海上へと運んでいる。船が海上に浮かんだ。
 小船はバランスよく海上に浮かんだ。
 『隊長¡バランスがいいです。とてもいいバランスです。舵担当!舵を取り付けろ!』
 『おうっ!』
 彼らは、返事宜しく船の後部に取りついた。舵は見る見るうちに取り付けられた。
 ドックスは、パリヌルスの前に立った。彼は改まった口調で報告した。
 『パリヌルス隊長、小船の改造作業完了しました』と言って、振り向き空を見あげた。太陽が中天にかかる手前で停止しているように目に映った。
 『おう、大変にご苦労であった。君らの働きに感謝する』
 このやり取りをしているところにイリオネスを先頭に10人の者たちが姿を見せた。彼は、あまりにもそのタイミングのよさに驚いた。一行を迎えた彼は、ホーカスを調査隊の一員に加えるべくイリオネスに紹介した。
 ホーカスを一員に加えたイリオネスは、海上にバランス良くその姿を浮かべている小船を眺めた。
 『軍団長、いいところに来ていただきました。今、小船を進水させ、最終作業の舵の取り付けを終えたところです。略式ながら進水の儀式を行います』と言葉をかけて、手にしていた酒の入っている壺をイリオネスに渡した。パリヌルスは、調査隊の副長役のアレテスに言葉短く声をかけた。
 『調査隊の一同を船上に、、、』
 イリオネスも一同に声をかけた。
 『諸君!小船に乗るのだ。アレテスは帆柱の前の漕ぎ座についてくれ』
 『判りました』
 彼らは船上の漕ぎ座に、持ち場の位置に着いた。パリヌルスは、船上のアレテスに近づき小声でささやいた。頷くアレテス、そして船上の全員に声をかけた。
 『全員、位置を確かめて、櫂をとれ!展帆っ!』
 アレテスの対の漕ぎ座にいるトリカスが展帆の綱を引いた。帆が上がる。
 パリヌルスがイリオネスに目線を送った。イリオネスが頷き、海中に歩を進め、手にしていた酒の壺を勢いよく船の舳に打ちつけ酒壺を割った。