『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  63

2012-05-31 07:53:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おっ、そうか。オロンテス、気を使ってくれて有難う』
 『パン焼き作業ももうそろそろ終わる筈です。こちらは、もうじきに焚き火に火を入れます。みんなを招集してもらっていいと思います』
 『判った。皆を集める』
 二人は、各船の点検に向かった。
 『なあ~、オキテス、二番船の副長を誰にするか。お前の部下の中から任命してくれ、もうひとつだが、今度お前の乗る六番船の乗組員のことだが、ここへ来るまでお前の指揮下にあった二番船の連中を乗せてくれ、乗組員全員の交替だ。そのほうが仕事がやりやすかろうと考えているのだが、どうだ』
 『おう、それはいい。たったの二日と言えども、互いに気心が知れている。そうしてくれ』
 二人は各船を点検して廻り、船長、副長を呼び集めた。
 『おう、諸君。ご苦労であった。手落ちなく作業を終えたか。お前らの手に負えないところはなかったな』
 この問いかけに一同は、支障なく完了したことを返答した。
 『よしっ!いいだろう。では、夕食とする。一同を連れて食事の場へだ。オロンテス隊長の気配りで焚き火を囲んでの夕食だ』
 『おっ!それからだ。夕食が終わったら、明朝、出航の打ち合わせを行う、いいな。集合はここだ。判ったな、いいな』
 『判りました』
 パリヌルスは返事を聞いて、オキテスのほうを向いた。
 『オキテス、統領と軍団長を頼めるか』
 彼はうなずいて統領と軍団長を呼びに歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  62

2012-05-30 07:14:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス隊長は?』
 『オロンテス隊長。あっ、棟梁のことですか』
 『棟梁は向こうです。遠くに、いや、近くですが。六番船の者たちを連れて、夕食の場を作りにいきましたが』
 『おっ、そうか。お前たちご苦労、作業を続けてくれ』
 二人は夕食の場へと歩を運んだ。
 『できたぞ!オキテス、こんな道具名はどうだ。俺の思い付きだ、いいか。『風向風力感知器』だ。グッグ~ンとちじめて『風風感知器』と言うのはどうだ。お前の気に入ったほうを使え』
 『おっ!有難う。俺は長ったらしいのが好みじゃない。『風風感知器』 称呼の語呂もいい、これにする』
 話している間に夕食の場についた。
 『おっ!お二人、いかがですか』
 『お~、オロンテスご苦労。ここを夕食の場にするのか。いいところだ。準備が整うまで、まだ時間がかかりそうか。陽の高さからみて、そろそろ夕食の頃合かなと思っているが』
 『パリヌルス隊長、集めた薪が余ったので焚き火の準備をしています』
 『ほっ、焚き火か、それは結構なことだ』
 『焚き火は食事の場を和やかにします。食事をする者たちの心もうちとけます。副菜をあぶって口に運ぶ、ふさぎがちな皆の口もほころぶということです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  61

2012-05-29 08:22:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『上に差し込んだ矢印を風の吹いてくる方向に向けて、こう構える。風がこの風洞を吹き抜ける。すると、このフラフラしている板を押し上げて風が吹き抜けていく。その時の風の力で、この板が押し上げられる。風の力が強ければこの辺りまで板が押し上げられるし、弱ければこの辺りまでしか押し上げられない。これで風の力のランク付けができる。そして、この板がここまで押し上げられたとき、風の船を押す力がどれくらいのものか判断できる。パリヌルス、理屈は、今、言ったように簡単なものだ』
 『いやいや、恐れ入ったオキテス、お前、いつこんなものを作ったのだ』
 『へっへっへ、いつだと思う。エノスを旅たつ前にヒマをみて作ったのだ』
 忙中にある二人は会話を楽しんだ。二人は空を見上げた。
 『もう、頃合いだ。オロンテスの場に行こう。ところでパリヌルス、お前、あの道具に名前をつけてくれ。道具の用向きは、風向きと風の力だ』
 『判った。俺が道具の名付け親か、、、。いいぞ。いい名前を考えてやる』
 話している間に、オロンテス作業の場に着いた。オロンテスの姿が見えない。パン焼きの作業は終盤に差し掛かっていた。オキテスは彼らの一人に声をかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  60

2012-05-28 08:21:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 決断は下した。明日の航海が、舳先が波を割る様がイメージとして浮かぶ。二人の気持ちは落ち着きを取り戻していた。
 『おう、パリヌルス、急いでいるのか。ちょっとばかり、ヒマはあるか』
 彼は手をかざして陽の位置を確かめた。
 『ちょっとばかりか、、、』
 『そうだ、ちょっとばかりだ。俺の船によっていけ、お前に見せたいものを持っている。見ていくか』
 『よしっ、よかろう、見ていく』
 二人は会話を交わしながら、オキテスの二番船のところに来た。彼は航海に必要と思われるものを入れている、くたびれてはいるが丈夫そうな袋を持ってきた。彼はやおら袋に手を突っ込み、木の板で作った箱型のものを取り出して、パリヌルスに見せた。
 『ほっほ~、これは何だ。初めて目のするものだが、、、』
 『これをここに、こう差し込んで使う』
 『そうか、それをセットしたら何であるか察しがつく。ただ何となく判るような気がするところまでだ。お前、試してみたのか』
 『おう、試してみた。レムノスからここに向かっているときに使ってみた。まあ~、重宝と言えば重宝なものであった。使うにはちょっとした知識もいる、決めておきたい基準もいる。それはこれからの課題だ。道具としての名前はまだない』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  59

2012-05-25 09:57:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 タイトルの番号を間違えました。訂正いたします。
 正しくは 58 ではなく、 59 です。
 お詫びいたします。
                山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  58

2012-05-25 08:58:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスの航海計画は統領以下二人のフイルターを通過した。彼の計画の周到さに舌を巻いていた。天候と言う不確定要素と船団が航走する海域の状況がクリアに見えない、不安が漂っていた。彼はイライラしているが面には出せない。
 『まあ~、いいか。とりあえずミコノスの件だ。これをクリアして次へだ』
 彼は自分自身に言い聞かせて、四人の場を解いた。
 『おっ、パリヌルス、お前の立てた計画、どうしてどうして綿密、用意周到、完璧に近い、この上ないものだ。俺には、あ~はいかん。よろしく頼む。このあと何をする?』
 『オロンテスの作業を見に行く。お前も来るか』
 『お~つ、そうする』
 『なあ~、お前どう思う?いま、我々が行動をともにしている、この700人余りの者がだな、核となって、一国を興す礎となる。ひとつの命たりとも失いたくはない。お前や俺が知恵を搾って、彼らを率いて事を為さねばならないのだ。民意をまとめてひとつの方向に向かう。俺の考えていることは人の命のことだ。人の命は重くはない、だが、極めて重いと想う。それは何故だ。俺の想いは、人には志があり、未来がある。だから重いのだと、、、』
 『そうか、パリヌルス、お前は、人の命の重さをそのようにとらえていたのか。俺は納得した』
 オロンテスの作業の場に向かう二人の足並みが揃っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  58

2012-05-24 08:04:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは三人と目を合わせた。イリオネスがオキテスに話しかけた。
 『お~、非の打ちところのない構想であり計画だ。オキテス、どう思う』
 『パリヌルスが脳漿を搾りに搾って思案した計画です。全く抜けたところがない。この実行計画でいいのではないかと考えられます』 オキテスは答えた。
 イリオネスはアエネアスに声をかけた。
 『統領、パリヌルスの計画はいかがですか』
 『俺は、パリヌルスの計画に賛同だ。彼の言った計画でよい。その通り実行だ』
 『パリヌルス、船列の順番はどのように考えている』
 『いずれにしても、オキテス、ミコノスまではお前が先頭だ。先頭は六番船、右舷斜め後ろに舟艇だ。次が1スタジオン(約200メートル)の間隔をおいて、五番船と四番船。そして、これまた2スタジオンくらい離れて、三番船、二番船、俺の一番船は殿りだ』
 『判った。夕食後にもう一度船長、副長連を集めて打ち合わせだ。そのときに計って二番船の副長を決めよう。いいな』
 『いいとも、ところでミコノスで変事が起こった場合だがそのときのことも考えてある。デユロスから南へ一日の4分の1ぐらいの航走で行けるところにナクソス島、パロス島、二つの島がある。この二つの島までには邪魔になる小島がない。暗夜でも目指せる。そう心配はいらないだろうと考えている』
 『そうか、パリヌルス。お前、そこまで計画のうちに入れていたのか』
 オキテスは感極まった。パリヌルスの立案の深慮に感服した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  57

2012-05-23 07:50:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは構想と計画を話し始めた。
 『先ず船団を三つに分ける。第一は、統領の座乗船を改造交易船にして、これに舟艇をつける。あくまでも、どこかいずれの国の太守と言った風情で船旅をしていることにしていただきたい。第二はミコノスは交易地としてにぎわっているところである。交易を装った船団とする。改造交易船と軍船の二船で編成する。残った三船は、戦闘集団としての三船である。この三船は植民集団として船旅をしているように見せかける。このあたりの構想は、敵をあざむく策である。まあ~、苦肉の策といったところです』
 彼はここでひと区切りして後を続けた。
 『ここまで話した船団編成にともなう人員配置は、これから話します。第一の統領の座乗船のほうでは、船長がオキテス、副長はアミクス、舟艇にはギアスを乗り込ませます。第二の五番船はオロンテス、セレストスで変わりませんが、同行の四番船には六番船からぬけたアンテウス、アバス。第三の船団の二番船の船長はリュウクスとして、副長を誰かを推薦していただきたい。一番、三番船の船長、副長は変わりません。彼らは充分にその役務を遂行してくれると信じています。ついで停泊に関することであるが、第一の船団はデユロスの入り江の浜へ。第二の船団の二隻はミコノスの交易地の浜に、第三の船団の三隻は、夕闇を利して、デユロスの至近のミコノスの浜に着けます。この至近の浜はデユロスへ10スタジオンくらいの地点にあります。また、交易地の浜からもそんなに遠く離れてはいません。オキテスからの松明信号があり次第、わずかの時間(約10分)で駆けつけます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  56

2012-05-22 09:49:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 話しているパリヌルス、そして、聞いている三人、彼らは真剣であった。
 『危機との遭遇はできるだけ避けるようにはしたいが、相手にも勘働きがある。如何なる場合においても、後の先を取る作戦でこれらを斥ける。また、少人数の会戦においても、海上、陸上いずれの場合においても相手を殲滅する。遭遇する相手は警備又は哨戒の任にあるか、獲物を探す海賊の類だと思っていい。ひとりやふたりがその場から逃げても、応援部隊を引き連れて現場に来る頃には、我々はもうそこにはいない。スピードをもって事を成し遂げて、その場を去ってしまっている。本隊との交戦は何んとしても避けたい。事が発生した場合は、できるだけ早急にこの地を離れる。統領、申し訳ありませんがそのような気構えで、この地における用件を済ませていただければ幸いです。統領、軍団長、オキテス、それでいかがでしょうか』
 『おうっ、パリヌルス、お前の言うことは至極もっともなことだ』 統領は答えた。
 『お前の言うことに、同感、同感!』 とイリオネスがあいづちをうった。
 『パリヌルス、お前の言うことがよ~く判った。お前が組みたてようとしている態勢、船団の編成、それに関しての人員の配置、停泊予定地のこと、その構想と計画を聞かせてくれ』
 オキテスは、事が事だけに先をうながした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  55

2012-05-21 08:09:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、イリオネスと目を合わせて口を開いた。
 『軍団長、私は話を続けようと思っていますがよろしいでしょうか』
 『それはいいが、俺から、ひとつ、ことわりを入れておきたいのだが、いいか』
 『お聞きします』
 『エノスを出るときには、この航海を軽く考えたように思う。というのは、如何なる危機でも斥けることができると考えていた。どのような危機があるとも知らずにだ。俺の思い上がりだった。お前たち二人は、その危機を慎重に考えてくれていた。俺は遭遇する危機を軽んじていた。許せ。二人には深く詫びを言う。このあと、航海及び事の運びについて、全く君たちたよりだ。統領はじめ俺に対しても言いたいことがあったら何でも言ってくれ、そういうことだ。話を続けてくれ』
 イリオネスは述懐の弁を述べた。
 『そのような事、気にしないでください。私ども何も思っていません。判りました。ミコノスは交易の盛んな島です。各方面、ギリシア本土はもちろん、クレタからも、西アジアの沿岸からも交易人が訪れています。また、そこから、目と鼻の先の位置にあるデユロス島は、アポロの島でもあり、年中、人の出入りの多い島です。私たちが考えるような集団の争いごと、それは少ないと考えていいと思われます。統領、軍団長、そして、アンキセス、ユールスと家族とその友人が連れだっての船旅を装ってデユロスを訪ねていただければ、それでいいと考えています』
 彼の話に三人は納得した。