『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  113

2013-09-30 07:58:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 歩いている二人にイリオネスの声が飛んだ。
 『お~い、オキテスこっちだ!二人とも燃料の件、目途がついたか』
 『え~え、パリヌルスがソリタンを手伝いによこしてくれました。そのようなわけで事が手際よく進んでいます。あとの事があります。明日もう一日、この仕事をやろうと考えています』
 『そうか、オロンテス、それで事がうまくいきそうか』
 『そ~していただければ、おお助かりです。願ったりかなったりです』
 『おう、パリヌルス、ありがとう。お前の気配りでおお助かりだ。感謝感謝だ。ソリタンでおお助かりだ。少々間をおけば生木も乾いて扱いやすくなるというものだろう』
 オキテスが簡単ながら礼を言った。
 『どうだ、ソリタンは役に立ちそうか』パリヌルスが問いかけた。
 『おう、大丈夫だ。あの様子ならいける。安心していてくれ』
 『そうか、それはよかった。安堵した』
 『お前ら話は終わったか、そろそろ始めようか。あ~あ、その前に伝えることがある。世話人のハニタスから使いの者が来た。今日、昼過ぎに ハニタス と土豪の ガリダ がここへ来るという連絡があった。それを伝えておく』
 『ほう、そうですか。彼らの意図を知っておくことが大事ですな。彼らは、小島の一件で我々の力を知ったわけですから』
 『土豪の ガリダ は、並みの驚きではないと思います』
 アヱネアスが話し始めた。
 『あれは、彼らにとって驚きの一事だ。今日明日の間、瞬く間にキドニアの者たちの知るところとなることは間違いない。俺はデモンストレーションだと思っている。あの事一事でこれからの事がうまくいく。一事が万事だ。パリヌルスようやってくれた、ありがとう。あの一事でこの地におけるポリテイクスがうまくいく、それを念頭において、これからの計画、段取りを運ぼう。いいな』
 イリオネスがうなずいた。
 『まったく、統領の言われる通りです。あの一事で事の全てが、軌道に乗って動き出す。では、会議の本題に入る』
 イリオネスは、開会を宣するように言った。四人は深くうなずいた。考えてもいなかった効果が予想もしない分野に影響していく、パリヌルスの思いいたらぬことであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章   築砦  112

2013-09-27 07:26:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『森をいくつ選びましょうか、隊長』
 『とりあえず2か所だ。そこへ案内してくれ』
 『判りました』
 オキテスは、ソリタンと二人の小隊長役を連れて歩き始めた。
 『隊長、今が薪集めの最適の時節です。新芽の吹き出す来春までが、年中で一番の季節です』
 『ほう~、そんなもんか。今日はだな燃料の集積場から、あまり遠くない森で決めてくれ、ソリタン』
 『判りました』
 一行は、2キロ余り歩いて最初の森についた。オキテスは小隊長役の一人に声をかけた。
 『おい、イリカス、この森からの採集責任担当はお前だ。運ぶ道をしっかりと頭に叩き込んでおくのだ。いいな』
 『判りました』
 ソリタンは、最初に選んだ森から500メートルくらいしか離れていない地点の森を次に選んで、オキテス隊長に見せた。
 『隊長、この森は如何ですか』
 『おう、この森は、先の森より少々大きいな。これでいい、これで行く。デカン、この森の責任担当はお前だ。今、向こうでやっている作業は昼で終了だ。昼からは、森からの採集に取り掛かる。では、作業場に戻る』
 一行は、森を後にした。オキテスは、顔をあげて陽を仰いだ。頂上会議までにまだ間がある、急ぐこともない、彼はソリタンに話しかけた。
 『おう、ソリタン。お前の事はパリヌルス隊長から聞いている。胸のつかえが少しは取れたか』
 『はい、つかえが取れました。心から両親の冥福を祈りました。皆様方のおかげです。ありがとうございました。感謝の気持ちで胸が張り裂けそうです。本当にありがとうございました』
 『俺に礼を言わなくてもいい。命を賭した者たちに礼を尽くすように心がけたらいい。ところでソリタン、お前はだな、このデカンを手伝ってくれ。あの森は少々でかかったからな』
 『判りました』
 薪、燃料の集積場に戻ったオキテスは、小隊長役の者たちを集めてこれからの段取りを説明した。それを終えてオロンテスと連れ立って会議の場へと歩を運んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  111

2013-09-26 08:15:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、あのな、ソリタンをオロンテスの作業場へ連れて行くのだ。そして、オキテス隊長にソリタンを引き継いでくれ。オキテス隊長には、次のように伝えろ。このソリタンは、この集落の住人であった。そのようなわけで、この地について詳しい。燃料採集の事情をこのソリタンから聞いて、参考にするようにと、以上だ。いそげ!』
 『ソリタン!今の話、聞いていて判ったな。オロンテス、オキテス隊長に意見具申をするのだ。いそげ!』
 『判りました』 二人は、踵を返して、オロンテスの作業場へと急いだ。
 『オキテス隊長、パリヌルス隊長からの指示でソリタンなる者を連れてきました。このソリタンですが、元、この集落の住人だったそうです。燃料の採集に関して、この地の事について詳しく知っているとの事です』
 『おっ、そうか、それは都合がいい。お前がソリタンか。いま、この従卒が言ったことだが、この地の事情に詳しいのか』
 『はい、それについては、皆さん方より詳しく知っています』
 『よし判った。お前の意見を聞いて作業を進める。ソリタン手伝え』
 『判りました』
 オキテスとオロンテスは、二言、三言、言葉を交わしてうなづきあった。
 『オキテス隊長、生木は、火付きが悪い、まず、古木から集めましょう。この集落のあっちこっちに散らばっている古材、倒木などを集めることにしたらと考えますが』
 『いいだろう、それがいい。よしっ、その作業から始める』
 彼は、従卒の一人に指示して、小隊長役の者たちを招集した。作業指示をする。彼らは隊を率いて作業に散っていった。彼は二人の小隊長役の者を残していた。
 『おう、ソリタン。燃料を集めるについてだが、この周辺にいくつかの小ぶりの森が見える。どの森に手をつければいいか、お前の意見を聞きたい』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  110

2013-09-25 07:21:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人が交わす会話を傍らで聞いていたパリヌルスもイリオネスと同様な感慨を抱いた。心をよせ盟主と仰ぐ統領こそ、我々の頼うだる人である。イリオネスは心底からアヱネアスの大きな存在感を感じた。
 『パリッ!どうだ、今日から忙しくなるぞ。イリオネスと打ち合わせか』
 『そうです。我々の『これから』を頂上会議で打ち合わせておかないと、船は予期せぬ海域に進んで行ってしまいます。ここで統領の言葉を借りて言えば、我々は進むべき方向へ一歩です』
 イリオネスが言う。
 『先ほどオキテスとも話したのだが、頂上会議をこの頃合いにこの場所でやる。メンバーは、統領、お前、オキテス、オロンテス、そして、俺で話し合う』
 彼は、方角時板を陽の下において、頃合いを指し示した。話は続く。
 『オキテスは、今、オロンテスのところにいる。オロンテスのところから燃料の不足を言ってきたのだ。オキテスは、彼の船隊と3番船隊を引き連れて現場へ出向いている。作業は今日一日で済むかなといったところだ』
 『それだったら、この地に詳しいソリタンを直ぐ現場へ向かわせます。会議の件了承しました。場所はここでですね、判りました』
 彼は急ぎ1番船隊のところへ戻った。
 『お~い、ソリタンはいるか。おいそこの、ソリタンを呼んできてくれ!急いでいる』
 彼は、そこにいた兵を急がせた。間をおかずソリタンが顔を見せる。
 『おっ、ソリタン、お前、すぐここへ行ってくれ、そして、今日一日、オキテス隊長の指示で動いてくれ。薪、燃料の採集だ。その場へは従卒がお前を連れていく』
 彼は、手招きで従卒の一人を呼び寄せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  109

2013-09-24 08:21:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人の口上は同じ言葉であった。
 『統領、おはようございます』
 『おう、おはよう』
 返す挨拶言葉もまさに定番である。
 『おう、ご両人、そのまま、そのまま』
 パリヌルスは、辺りを見回して、手ごろな木の株を見つけて運び、アヱネアスに座をすすめた。
 『パリヌルス、このたびは大変にご苦労であった。お前に大変、感謝している。どのようにしてお前の労に報いればいいか思案している』
 『統領、ありがとうございます。統領からの今の言葉だけで十分です』
 『そうか、お前は謙虚だな。その心情が大事を為すのかな。俺も見習わないといかん』
 『統領、それは、ちと言葉が過ぎます。痛み入ります』
 『イリオネス、どうだ』
 『どうだと言われましても、すぐには言葉が見つからないですね』、
 『いろいろと考えてはいる、イリオネス、これからが大変だぞ。俺はお前に頼り切っている。お前は俺の頼うだる人だ。お前は人格、技量、識見が優れている、我々トロイの民のことをよろしく頼むぞ。新しい土地、新しい営みを始めるところ、息を抜く暇はない、如何なる事変をも避けて通らずにしっかりと取り組んで解決をしていく、そして、一歩前へだ。摩擦を恐れず事から逃げない。でないと人間が劣化する。我々が劣化すれば、民族そのものが劣化への道をたどる。その認識を忘れないことだ』
 『まったく言われる通りです。心して日々に対処していきます』
 イリオネスは、アヱネアスの心情を深く理解した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  108

2013-09-23 08:52:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長、彼がこちらに来ます』
 『オキテス、お前、時間はいいのか』
 『そうですね。私はもう行きます。軍団長、パリヌルスと時間的なことを打ち合わせておいてください。では、これにて』
 彼は、オロンテスの作業場のほうへと足を向けた。パルヌル巣が歩んでくる方角とは反対方向であった。
 『軍団長、おはようございます』
 『おう、おはよう。今日は朝行事で顔を合せなかったな。お前、疲れのほうはどうだ?』
 『いま、朝食を終えて、シャキッとしつつあるところです。それが正直なところです』
 『おう、それは重畳、重畳。お前、大変ご苦労でだったな。ありがとう。統領、そして、俺、一族の皆が、お前の快挙を歓んでいる。まったく、感謝、感謝だ。まあ~、休め。立ち話もなんだ、座ろう』
 言いながら、イリオネスは、辺りを見回して倒れている木の幹を探し当て腰を下ろした。
 アヱネアスはこちらに向かって歩んでくる。イリオネスが立ちあがり、手を振って声をかけた。
 『統領っ!こちらです』
 地づらを見ながら足を運んでいるアヱネアスが顔をあげてこちらを見る。
 『お前ら、そこにいるのか』
 アヱネアスは、歩速を速めて来る。二人のいる前に立った。二人は立ちあがり、朝の挨拶を合唱した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  107

2013-09-20 07:47:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らの今日は、断食を破った一瞬からスタートした。
 オキテスが3番船隊のところに姿を見せた。
 『おうっ、隊長は、、、』奥のほうに声がする。『はい、ここに、、、』
 『おう、おはよう。今日の作業の件だ。今日一日、燃料の調達業務をやってほしい。オロンテスところで燃料が不足している。朝食を終えたら、オロンテスのところへ行ってくれ。船の係りの者以外全員だ。俺も俺の隊の者たちを連れてそちらへ出向く、いいな』
 『判りました』
 業務指示を終えたオキテスは、イリオネスのところへ打合せの事で出向いた。
 『オロンテスのところで燃料が不足しているのか。おう、そうか。それは大事なことだ。燃料の事は急務だ、判った。作業に使えるのは4番船隊の者たちということになるな。承知した』
 『そうです。今日は、当面の業務に明け暮れる一日になりそうです。その手配が終わり次第、頂上会議を行って、これからの計画と段取りを話し合っておかなければならないのではないかと思っていますが』
 『判った。頂上会議の時間どりはこのころでどうだ』
 イリオネスは、方角時板を手に取って、時板の一点を指し示した。
 『ところで、パリヌルスの1番船隊の予定について何か聞いているか』
 『聞いてはいませんが。彼とは、朝行事のすれ違いにおはようを交わしただけですが』
 『そうか、彼は疲れた様子であったか、どうだった』
 『いや、それは朝行事でシャンとしていると思いますよ』
 そのように会話を交わしているところへ歩んでくるパリヌルスの姿がオキテスの目にとまった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  106

2013-09-19 08:07:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トロイの民がクレタ島に根を下ろし建国を目指す、その錯誤に気づくのは彼らが営みを始めて1年と半年後のことである。
 歴史が有しているミステリアスな部分である。歴史は、大自然と人間が絡む壮大なドラマであるゆえんがここにあるといっていいのではないだろうか。と考える。
 
 クレタ島に根を下ろした彼らの営みが始まろうとしている。まず、腹ごしらえからのスタートであった。
 彼らが目覚める、朝行事で今日が始まる、誰もが腹をすかしている、とにかく、何かを腹へ入れよう。日中の食事は、基本的に10時間余りの時間中に三度にわたって、腹に何かを入れる食生活である。それが夕食を終えて朝食までの時間が 12~13時間余り、腹にものを入れない食を断った状態で過ごす、断食の状態である。朝食の一口目は断食を破る瞬間である。そのようなわけで、朝食を英語で『ブレイクフアスト』という。『ブレイクフアスト』は『断食を破る』の意である。
 彼らはオロンテスたちが配ってくれた朝食のパンを誰に感謝するでもなく、目の前の空間にさしあげて、おし戴く頂くポーズをとってのち、口に運び、噛みつき咀嚼して腹に収める、そこで彼らは言葉を吐く。
 『うっう~ん、今日もうまい!』『少々堅いが、旨い!』とかなんとか言って、腹を満たしていった。
 オロンテスたちは、5スタジオン(1キロ)海を隔てた小島に駐屯している2番船隊の者たちの許へも朝食のパンを届けた。彼らは感謝の気持ちを『ありがとう』のひと言で片づけた。この時代、まだ、表現の語彙、言葉の少ない時代であったことは言うまでもないことである。