耳朶を打つ、希望に耳を傾けた。かすかに耳朶を打っている。アンテノールは、それを希望と受け止めた。
幼子の泣き声であった。アンテノールは城壁を駆け下りた。スカイア門をくぐりぬけて城外に出た。
西方の空に黒雲が現れたのはそのときであった。黒雲は、一瞬にして空を覆った。稲妻が煌めいた。同時に雷鳴が轟き、一条の光が城壁の下部の一箇所を照らした。
アンテノールは、泣き声をあげている幼子を探し当てた。走った、駆け寄った。すかさず幼子を抱き上げた。雷鳴の中に声が轟いた。
『アンテノール!心して聞け。その子をお前に託す!』
天の声は、ずぶとく告げた。アンテノールの身がふるえた。幼子は、彼の太い腕の中で泣いた。幼子は、柄が宝石で飾られた一振りの短剣を抱いていた。
彼は、その希望をありったけの力で抱きしめた。
空は、たちまちのうちに晴れわたり、夏の陽がきらめいた。
完
お読みいただきましたことに、謹んで御礼申し上げます。
SI HIPOKRASON 山田 秀雄
幼子の泣き声であった。アンテノールは城壁を駆け下りた。スカイア門をくぐりぬけて城外に出た。
西方の空に黒雲が現れたのはそのときであった。黒雲は、一瞬にして空を覆った。稲妻が煌めいた。同時に雷鳴が轟き、一条の光が城壁の下部の一箇所を照らした。
アンテノールは、泣き声をあげている幼子を探し当てた。走った、駆け寄った。すかさず幼子を抱き上げた。雷鳴の中に声が轟いた。
『アンテノール!心して聞け。その子をお前に託す!』
天の声は、ずぶとく告げた。アンテノールの身がふるえた。幼子は、彼の太い腕の中で泣いた。幼子は、柄が宝石で飾られた一振りの短剣を抱いていた。
彼は、その希望をありったけの力で抱きしめた。
空は、たちまちのうちに晴れわたり、夏の陽がきらめいた。
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お読みいただきましたことに、謹んで御礼申し上げます。
SI HIPOKRASON 山田 秀雄