『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  580

2015-07-31 06:06:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『旨いパンだ!味で感動!焼きたて一番の感動!オキテスどの、貴方は人を感動させる名人ですな。それにしても三人そろって何用です。まあ~、ゆっくりしてください。用事をかたずけてしまいます。おっと、ギアスもいるのか』
 『浜頭お久しぶりです』
 『おう、あの時は大層世話になった。礼を言う。まあ~、ゆっくりしろ、昼を一緒しよう』
 『ありがとうございます』
 『浜頭、二人に集散所を案内してやります。広場で待っています』
 『おう!』と答えて場を去っていった。
 オロンテスは、二人を案内して広場で休んだ。
 『ギアス、パン売り場で待っていてくれ。昼をするとき呼ぶ』
 『判りました』
 三人は広場の一隅に場をとって腰を下ろした。オロンテスが二人に声をかける。
 『パリヌルス、オキテス、見ての通りだ。これが、今日の俺たちの戦さ場だ。力は抜け、気を抜くな。相手を読んでかかる、どんな段取りでいく?』
 パリヌルスがオロンテスの問いかけに答える。
 『今の俺たちは、何も判っていない、白紙の状態だ。先ず、スダヌスに戦さ場の概略を聞く。オキテスの腹積もりは?』
 『俺もお前と同様だ。戦さ場の概略を聞いたうえでクレタにおける大型商品の商取引のカタチを探る。そして、陣立てを考える。陣容を整えて駒を動かす、動いてもらう。それで事の大半は成る。自信をもって挑む。俺は新艇に商機があるとみている』
 『判った。オロンテス、どうだ、オキテスの戦略に重きを置いて、互いの任を果たす。オキテスそれでどうだ』
 『おう、それでいい!できるだけ相手を立てる。俺たちが油を引いて、それに乗せる。人は利と理で動く』
 『判った。オロンテスも理解してくれているな』
 『了解。充分、理解している』
 三人は改めて広場を見廻した。
 『広い広場ではないか』
 『そうだな、材木も積まれている。石材もある。品が揃っている』
 三人はうなづき合った。それらを見て集散所が手広く商いをしていると推察する。
 スダヌスが姿を見せた。
 『お待たせしたかな。この間もオロンテスどのに話したのだが、皆さんのところへ行きたいのだが、ここのところ全くヒマが取れなくて失礼している。今日、皆さんのところへ行く、帰りの船に乗せてくれ』
 『いいですとも』
 パリヌルスが間髪を入れないで答えた。

『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  579

2015-07-30 09:27:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風が強さを増してきていた。ヘルメスは、帆走で海上を駆けた。
 パリヌルスの思考が風にとぶ。考えるを中断する。
 『もっと、ヘルメスに同化して、ヘルメスを知らねば』であった。
 ギアスが三人に声をかけてくる、
 『キドニア着が間もなくです。船だまりが見えてきました』
 ヘルメスが船だまりに入っていく、岸壁にいる連中が視線を投げてくる。中央帆柱の帆はすでに降ろされている。舳先、艇尾の帆も降ろし、櫂操作で接岸して荷下ろしを終えた。
 留守番役を残して、全員で荷運びをする。パリヌルスもオキテスもパンの籠を背に担ぎ集散所へと向かった。
 パリヌルスら二人にとって久しぶりの集散所である。このように活性のある場が二人の好みでもあった。
 オロンテスは、売り場の設営に取り掛かっている。二人は集散所の中を歩いて廻った。通路に詳しくはない二人、通路の辻で迷った。
 馴染み深い魚介の匂いが鼻を衝く、浜で嗅ぐ匂いには潮っ気がある、集散所で嗅ぐ匂いは別物であった。
 聞き覚えのある声が二人を呼んでいる、同時に声のする方向に顔を向ける二人、スダヌスである。
 『おう、元気ですかな?ご両人!めずらしいところで会うな。今日は何ようでこちらへ?』
 首を傾げながら聞いてくる。
 『浜頭!変わらずの元気ですな』
 『俺の元気、変わるわけがないだろうが。二人が揃ってここにいるということは何かあるな。あとからじっくりきいてやる』
 『おっ!オロンテスが来た。オロンテス、こっちだ、ここにいる』
 『待たせたな、オキテス、これ!例のモノだ』
 『ありがとう』
 オキテスは、スダヌスの方へ身体を向けた。
 『浜頭、オロンテスが今朝、焼き上げた新しいスペッシャルパンです。朝一番に浜頭へと』と言ってスダヌスにパンの入った小袋を手渡した。
 『なに!朝一番に俺にだと、感激させるじゃないか、うれしいね』
 スダヌスはつぶやきながら小袋からまだ熱さの残るパンを取り出して、大口を開けてパンに噛みついた。
 『お~お!この匂い!この味は?!初めての味だ!うまい!羊乳に蜂蜜そしてアーモンド!たまらないこのうまさ!』
 スダヌスは、大声を上げて息子を呼んだ。
 『おい、食べてみろ!旨いぞ!』と言って、手に持っていたパンを渡した。
 『オロンテスどの、このパンは売れますぞ!この味はうける、クレタ人の好みの味ですな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  578

2015-07-29 09:38:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスが姿を見せる。活性する浜、ヘルメスに荷積みが始まる。
 渚に立つイリオネス、パリヌルスとオキテスが傍らに立つ、話を交わして離れる。二人はヘルメスに乗り込んだ。
 積み荷のチエックをするオロンテス、三人が言葉を交わす、OKサインを発するオロンテス、ギアスがサインを受けた。
 ギアスが風を読む、弱い、島に沿って吹くいつもながらの追い風である。指示を叫ぶ、
 『全帆柱、帆を張れ!漕ぎかた位置につけ!操舵よし!』
 全体を見渡すギアス。
 『オロンテス隊長、出航します!』
 『OK!』
 『漕ぎかたはじめ!』
 櫂が一斉に水をかく、波を割るヘルメス、ギアスは 心のうちで『今日も無事であれ!』と大声で叫んだ。
 航跡を見る、遠ざかる浜、浜と航跡の角度を確認して、ヘルメスの進む先を見た。帆の風のハラミを確認して、体感する艇速をチエックした。
 『よし!順調!』
 波の状態とヘルメスの走行を舟艇を物差しにして評価した。漕ぎ具合も漕ぎかたから聞き取った。舟艇の走りの上を行くヘルメスの走りを感じ取った。
 パリヌルスら三人は、ギアスを手で招いた。
 『ギアス、もう、いいかな?』
 『はい、いいです』
 パリヌルスが質問の口火を切った。
 『どんな具合だ?舟艇に比べて走りの感じは?』
 『差を感じますね。この風具合で、この走りは速い。この波の大きさで船体の揺れもヘルメスのほうが安定しています。舟艇よりも一回り大きいせいでもありますが。帆の構造が風の力を逃していないところが評価できます』
 うなづくオキテス。
 『ギアス艇長、お前の評価、説明、聞いていてわかりやすい』
 パリヌルスは。聞きとめて、頭の中で反芻した。新艇を売り込む、相手をひきつけるカギになる要素は、何なのかを探った。
 帆が風向きのぶれに対応して風をはらんで走る。『四角帆に比べて風向き順応性がいい。これを新艇の特徴と言えるかどうか?』『展帆操作が簡単に行える。これも特徴と言えるかどうか』この2点の結果が、新艇の走りであり、操作性である。パリヌルスの思考がそこで、ハタと止まった。『これは小型船であるから、採用できる技である』とも考えられる。彼は考えることを止めた。『今日の事に集中すべきだぞ!パリッ!』彼を彼自身が戒めた。
 艇上に、ギアスの指示が飛んでいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  577

2015-07-28 06:12:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス隊長、何か用件が?』
 『おう、ギアス、ご苦労。明日からキドニア行には、ヘルメス艇を使用する。帆は台形の帆を使用する。それから、明日はオロンテスが行くわけだが、オキテスも俺も同行する、よろしく頼む。以上だ。質問はあるかな?』
 『判りました。出航時間は?』
 『いつもの通りでいい』
 『ヘルメスの件、決まりですね。判りました』
 『あ~あ、それからだが、舟艇は、アレテスに引き継いでくれ。浜の用船として、ニケとハシケを使用する。そのことを係りに伝えておいてくれ。以上だ』
 『判りました』
 ギアスは何かが動き始めると感じた。彼は、舟艇をアレテスに引継ぎ、用船の件を係りに申し送り、明日から使うヘルメスの整備を終えた。
 ヘルメスに乗り組む者たち一同を集めて艇長の言葉を伝えた。西方の空を茜に染めて、身を沈め行く太陽を見送った。ギアスは明日から使用するヘルメスと乗り組む総員の無事なることを太陽に祈った。

 ギアスの目覚めは早かった。明けきっていない黎明の薄闇の中を浜へと向かう、彼の前を数人の人影が浜へと向かっている。朝行事を終えて、ヘルメスを揚陸している場に向かった。
 ヘルメス艇の前に人影が並んでいる、ギアスが近づく、並んでいる全員が姿勢を正す、ギアスに向かって声をかけてきた。
 『ギアス艇長、おはようございます!』
 気合の入った声音である、面食らうギアス、返事を返した。
 『おう、おはよう!お前たち早いな』
 『そうです。ヘルメス艇のキドニア行き就航、今日が第一日目です。この壺に酒が入っています。ヘルメスを海に出したら、ギアス艇長、舳先に打ち付けて、ポセイドンに航海の無事に力を貸してくれるように頼んでください』
 『お前ら、そこまで考えてくれたのか。判った、ありがとう』
 ギアスは、一同の心遣いがうれしかった。ギアスが声を上げる。
 『ヘルメスをニューキドニアの海へ!』
 『おうっ!』『おうっ!』『おうっ!』
 掛け声が朝明けの空に響いた。海へ出るヘルメス。
 『一同!乗艇!』
 ギアスが声をかける、海に身を浸して、舳先に取りつく、酒の壺を打ち付ける、飛び散る酒と壺。
 『航海の無事を願う』と大声で叫んだ。
 浜の空気がどよめく、朝行事に来ている者たちの拍手がわく、朝陽の第一射が浜を照らした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  576

2015-07-27 06:05:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『それは判ります。統領の決断のなされかたをみて、統領の立ち位置、スタンスを承知しています。一国を建てるということは、それは大変なことです。定かではない未来を見つめての決断です。簡単なことではありません。国が持つ運命は、人間一人が持つ運命とは異なります。私たちは統領に運命をゆだねています。私たちは民族の運命を収束して、統領の双肩に乗っています。そうである限り、統領の決断は民族総員の決断です。私たち民族が統領の決断に従って動くのは当然の成り行きです。民族のモチベートの原点です』
 イリオネスは、ためらいなくアヱネアスに胸の内を伝えた。
 イリオネスはパリヌルスが来たことに気が付いて振り向いた。戸口に立っているパリヌルスに声をかけた。 
 『おう、パリヌルスどうした?』
 『はい、軍団長、事前協議を終えました。そのことの報告です』
 『ご苦労。まあ~、中へ入れ。統領もおられる』
 彼は、パリヌルスを招じ入れた。
 『パリヌルス、話を聞く』
 『報告は二件です。一番目は、明日からのキドニア行きに、新艇のデモンストレーションもかねて、ヘルメス艇を使用したいと考えています。これを許可してください。二番目は、新艇のトレードについて、始めに調査ありきということで、明日、オキテスと私、オロンテスとともにキドニアに出向きます。以上の二件です』
 『判った一番目の件、ヘルメスの使用はOKだ。二番目の件は了解した。用向きの詳細は聞かない。以上だ』
 アヱネアスが声をかける。
 『軍団長、例の件か、動き始めたか。パリッ!存分にやれ』
 『判りました』
 パリヌルスは報告を終えて浜へと歩を運んだ。彼はヘルメス艇の状態を見て渚に立った。ギアスは、まだ、キドニアから帰っていない。
 『まあ~、いいだろう。ヘルメスは充分に手入れされている』
 彼は新艇建造の場に足を向けた。建造の場がカタチをなしてきている。オキテスの姿も見える。
 『おう、オキテス、万事OKだ』
 『おう、そうかそうか、それはよかった。いよいよ、船出だな。新しい時の始まりを感じる。パリヌルス、気持ちがたかぶる、しっかとやろう!打つ手に間違いはない、万端OKだ』
 ギアスが帰って来たらしい。彼は舟艇の帰り着いた浜へと歩を運ぶ。
 『お~い、ギアス、用事が終わったら、次は、俺との用事だ。来てくれ、いいな』
 『判りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  575

2015-07-25 05:44:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、今日の事前協議これで決着だな。ヘルメスの事、明日、三人が集散所に出かけること、軍団長に通しておいてくれ』
 『おう、判った』
 『おう、二人とも、ちょっと待ってくれ。話に集中していて、すっかり忘れていた。新しいスペッシャルパンだ。味を見てくれ。俺もまだ十分に味わっていない』と言って、オロンテスは小袋よりパンを取り出し三つに引きちぎって二人に手渡した。パリヌルスとオキテスは、パンのちぎりぐちをに見入った。
 『このパンはだな、蜂蜜と羊乳を練りこんで焼いたのだ』
 オロンテスは二人の口元を見て問いかけた。
 『口当たりはどうだ?』
 『おう、オロンテス、これは旨いっ!旨いぞ。蜂蜜と羊乳でこんなにうまいパンできるのか。感動もんだな』
 『こいつはいい!明日、スダヌスに持って行ってやろう。奴の驚く顔が見たい。その驚いたところで我々の思うところへ畳み込む。パリヌルスにオロンテス、明日一日で考えていることの大半にめどがつく。俺の想いでは、話のまとまりが向こうからやってくる。そのような気がする、事は成る!残るは新艇の価格の問題だ。これを決めるのは、容易ではないぞ。このことに携わる統領以下五人が心してかからねばーーー』
 『俺の考えているのは、この商品の取引きをするであろう当事者たちの市場規模が如何なるものかと気にしている。また、テカリオンが来るのは、何時かなとも気にしている。このことに携わる者は問題を共有してしっかり対処していこう』
 『おう、オロンテス、パンはすこぶるうまい!しかしだ。蜂蜜、羊乳を使用するに限りがあるだろう。限定生産だな』
 『そうだ、頭を痛めているのはそのことだ。まあ~、集散所で求めるわけだから、コントロールは出来るが、コストの問題がある。値段が高くてもうまければ売れると思うが、客に甘えたくもない』
 『力を貸す。そのためにオキテスも俺もいるのだ』
 『おう、ありがとう。頼りにしている』
 『よしっ!終わろう。オキテス、いいな、明日はキドニア行きだ』
 三人は場を解いて各自の持ち場へと向かった。
 パリヌルスは、ヘルメス艇の使用の承諾と三人の明日の行動予定を伝えにイリオネスの宿舎へと向かった。
 イリオネスは、アヱネアスを迎えて話し合いの最中である。
 『なあ~、イリオネス、親子の間柄とはいえ、話そうと身構えるとなかなか話しづらいものだな』
 『その様なものですか。私には判りかねる問題です』
 『それは、俺の想いの中に、親子の私情を持ち込んで、我々の一族を統べていくことはしないという強い想いを抱いている』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  574

2015-07-24 04:43:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、オロンテス、両人の言わんとするところを理解した。8日後に迫っている会議に向けて明日から調査にかかろうではないか。調査について話し合う。新艇のデモンストレーションについても考えなければならない。そして、関係者を招いての試乗会の催行を行っていく。新艇を売り出すについての難題である価格の設定、互酬関係、取引きに関することについても詳細な事情が分かってくると考えられる。先ず、調査計画の立案をする』
 オキテスが口を開いた。
 『まず、船という大型商品の取引きがどのようにして行われているか。これについてスダヌスに事情を聴く。次に集散所が船舶等の取引きをやっているのかどうかを調べる。次はテカリオンだ。テカリオンが新艇の取引きにどのような意向を持っているかを確かめる。まずはスダヌスだ。時と所を選んでの話題の設定でひとつづつ確かめていこう』
 『おう、判った』
 『スダヌスに大体の話を聞いたうえで調査を開始する、両人、それでいいな。我々が相手方に話をするとなれば、それは公式の申し入れをすることになる。軽率にやるわけにはいかん。その点を充分に考慮して諸事にあたる』
 『判った。充分に心得る』
 『次に価格の決定の件だ。これははなはだ難しいことである。慎重に慎重を重ねて事に当たる。ガリダ方への支払いがどのようなカタチでどれだけになるか。また、肝心かなめの原価となる、新艇建造に掛ける我々の労働、管理等を如何に価格に換算するか、これが相当にむつかしい問題であると考えている。慎重を期してこれを行う。オキテス、オロンテス、持てる力を尽くしてくれ。いずれは軍団長の力を借りることになると思うが、模糊としていることをひとつづつ解明していく。ところで、明日の事だが、オロンテスはキドニアだな、オキテス、お前の予定はどうなっている?俺は明日、集散所へ出向く、オキテス、明日、集散所へ行こう。そのようにしてくれ』
 『おう、判った。3人で行こう。決まりだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  573

2015-07-23 04:11:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが二人の目を見つめて口を開いた。
 『言って何だが、チョッピリ恥ずかしかったな。それが本音だ。その時点から10日後に計画を打合せ、5日後には計画実行に移せるように算段しろということになっている。オキテス、オロンテス思いつくままに言ってくれ。それを念査して実行計画に組みあげ、この3人で業務活動にかかる』
 『判った』
 二人がうなずいた。
 『それからだが、二人の意見を聞いて決めたいことが一件ある。ヘルメスの事だ。ヘルメスを明日からキドニア行きに使用してはどうかと考えている』
 オキテスとオロンテスの目がパリヌルスの目をじい~っと見つめる、二人は同時に口を開いた。
 『おう、パリヌルス、それはいい、キドニア行きにヘルメスを使え!賛成だ』
 『ありがとう。軍団長の承認をもらう。では、先ほどの本題に入る、始めてくれ、俺は書きとめる』
 発言はオキテスから始まった。
 『トレードと簡単に言うが、トレードを行って、トレードを成功させる。我々が集散所でパンをを売る、これもトレード、商いのひとつだが、新艇を売ることは、トレードの内容に大きな隔たりがある。この業務を遂行するには、その詳細を考察、勘案して挑まなければならない。まず、価格の設定、次いで、如何なるルートで売買するか、その販売経路を誤らないことが大事と考えている。もちろん、販売ルート関係筋の互酬関係も含めて考慮しなければならない。クレタにおける商取引がどのようなカタチで行われているか、それを調査解明する必要がある』
 『オロンテス、オキテスが、今、言ったことについて君の考えはどうだ』
 『オキテスの言ったことは至極、当然であると思う。集散所でパンを売っていて耳にすることは、集散所が行っている商取引の取扱品目の多さに驚かされる。そして、あらゆる手段の取引きを行っている。オキテスの言ったことは間違いない。今の俺たちの関係諸方面、クレタにおける船舶のごとき大型商品の商取引の実態がどうであるか。はじめに調査ありきでとりかかってはどうかと考える』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  572

2015-07-21 09:18:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
ニューキドニアの浜は、今日も快晴の朝を迎えた。
 朝行事でパリヌルス、オキテス、オロンテスの三人は顔を合わせた。三人は、今日の事前協議の事について打ち合わせた。彼らが業務の明日を見つめる目には笑みがなかった。
 間をおいて、イリオネスが姿を見せる、朝のあいさつを交わす。オロンテスが声をかけた。
 『軍団長、昨日ですが、スダヌスが近近中にこちらへ来ると言っていました』
 『ほう、そうか。彼の来る日が解れば、また、連絡してくれ。統領も会いたいらしい。そんなところだ』
 『判りました』
 『オロンテス、今日は集散所へは誰が行くのか?』
 『はい、今日はセレストスです。今日は、パリヌルス、オキテスと新艇トレードの事前協議です』
 『ほう、そうか』
 彼らと言葉を交わしおえて、イリオネスは朝行事にと海辺に向かって歩を運んだ。
 パリヌルスとオキテスは始業の場へと向かう。オロンテスは、パン工房へと向かった。
 各自が多忙に時を追い、時に追われて業務を遂行していく、過ぎていく時は遅速ではなかった。たちまち、昼時となった。
 昼を終えたオロンテスは、気にかけていたパンを焼いた。口当たりをよくするために蜂蜜と羊乳を練りこんだパンである。今日の事前協議時に三人で試食しようと目論んで焼き上げたのである。
 オロンテスは焼きあがったパンの一片をつまんで口に運んだ。『おう、これはいける。想った通りの仕あがりだ』ほくそ笑んだ。
 彼は、そのパンを小袋に入れて持ち浜へと向かった。
 オロンテスは揚陸されているヘルメス艇に目を止めて、艇の傍らに立った。
 間近に目にするヘルメスを見て、『おう、こうして見ると、なかなかの容姿ではないか。いけているカタチだ』
 そうしているところにオキテスが姿を見せる、言葉を交わす、パリヌルスがやってくた。
 『おう、ご両人ご苦労。オキテス、どこでやる?』
 『そうだな、落ち着けるところがいい。広場の木陰でどうだ』
 『よしっ!』
 彼らは、広場の一画を決めて腰を下ろした。風が木々の間を吹き抜けていく。
 『おう、ここなら落ち着いて話ができる』
 三人は顔を見合わせた。パリヌルスが二人に声をかけた。
 『一昨日の事だ。オキテスと俺が軍団長に呼ばれた。今日、これから話す案件について指示された。考えてみれば判ることなのだ。ちょっと恥ずかしかったな。新艇を建造することばかりに懸命になっていて、新艇をトレードすることを考えていなかった。指示されて、オキテスと俺はそのことに気付いたということだ』