『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  157

2010-02-26 07:18:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜頭とオキテス、どちらからともなく手が差しのべられて、互いの手がしっかりと握られていた。
 『浜頭、海賊の死体処理の件ですが、荼毘にふすのは大変です。埋葬でいいでしょう。どこかに埋めて、そこに大石でもおいておかれたらいいと思いますが。それよりも、このあとのことです。注意深く海上を見張ることです。何か不穏なことがあれば、一時も早く、私たちに連絡してください。出来る限りの対応をいたします。』
 『お願いします。そのように言っていただけると、とても心強い、不安がなくなります。何卒宜しくお願いします。』
 『私たちは、昼過ぎには帰ります。海賊の乗ってきた船で帰ります。あの船は喫水も浅く船足が速そうだ。試しておきたい船のひとつです。では、浜頭、朝餉をいただきます。』
 『どうぞ、どうぞ。』 浜頭も加わって朝餉が始まった。
 『浜頭、サモトラケからこの浜まで50キロくらいと思われる。海賊が様子を見に来るとすれば、日脚の長いこの時期といえども、早くて明朝以後と考えられる。』
 『しかし、海賊の故国は、どこだと思われますか。オキテス様。』
 『う~ん、そうだな。』 彼は首を傾げた。
 『ギリシアでないな、フエニキアでもない。奴らは、小アジア、黒海、カルケドンあたりの風体に似ている。そちらの方の者どもと思われるな。浜頭、奴らの狙いは何だろう。小麦かな。』
 『そのように思われます。それに娘や子供までさらっていく。全く悪い奴らなのです。許されない奴らなのです。』
 二人の話は終わったようである。
 それにしても瞬時に決着させた『惨』の一字に尽きる闘いであった。

第2章  トラキアへ  156

2010-02-25 07:34:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは安堵するとともに心の中で快哉を叫んでいた。この闘いの結果に満足していた。
 オキテスの作戦構想の中になかった先発組の20人の強者たちに厚く礼を述べ、彼らを率いてきたルドンの手を強く握りしめた。
 『ルドン!ありがとう。損害が極めて少なく、敵に勝利することが出来た。お主の協力のおかげだ。ありがとう。ここに深く礼を言う。』 
 オキテスとアミクスの部下10名が浜に残り、部隊は引き揚げた。オキテスはルドンにパリヌルスに宛てた伝言をことづけた。
 『ルドン、次のことをパリヌルスに伝えてほしい。』 と、このあとの海賊対策について、考えておいてほしい旨を託した。
 その頃には、満天の星も消え明るくなってきていた。
 集落のあちこちから浜衆、村人たちが浜に出てくる。サレト浜頭も朝餉を携えて現れた。彼らは、浜の惨状を目にして身を引いた。中でも、槍が身体を貫いて、むくろとなっている一人の男を見て驚いていた。サロマの集落の村人の一人であったのだ。
 オキテスは、浜頭に声をかけた。
 『浜頭、パリヌルスの早い手配りで我々の損害も少なく事が終わった。お互いに何よりであった。このあと、海賊どもの報復に注意しなければいけない。充分に気をつけてほしいことです。』
 『オキテス様ありがとうございました。深く深くお礼を申し上げます。ささやかですが朝餉です。召し上がってください。ところで部隊の方たちは、、、』
 『うん!彼らは引き揚げた。貴方と事後の件を打ち合わせてから、私たちも引き揚げます。私たちがエノスの浜に着いたときサレト浜頭には大変お世話になったことが忘れられなくて、、、』

第2章  トラキアへ  155

2010-02-24 08:31:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アミクスの部隊に先駆けて進発した小舟4艘の20人は、サロマの浜の河口近くに待機している、海賊に対して万全の布陣であるといっていい。彼らも海賊の来襲に身構えていた。
 海賊船は、勢いよく浜に乗り上げ、奴らは浜に降り立った。その数40人余りと見える。賊頭の指図に従って、静かに集落に向けて歩を運び始めた。
 その時、海の中から30の海坊主の頭が現れた。先ず、賊の船の見張り役の者が海中に引きずり込まれて命が断たれた。海坊主の一群は、海賊らの背後におどりかかった。突如、月下の闇を裂く断末魔の叫び、海坊主らに呼応して、タルトスの部隊が前面から襲い掛かった。月下の静寂に干戈の響きと絶叫があがった。不意を衝かれた海賊は腰を抜かした。そこに待機していた20人が押し寄せる。80人の兵に包囲された海賊に逃げ道はなかった。一瞬にして、サロスの浜の砂は血を吸った。皆殺しである。オキテスは情け容赦はしなかった。一人残さず、その止めを刺した。オキテスの心情として、このような奴らを許すことは出来なかったのである。仕事は終わった。まだ夜明けは来ない。味方の損害は些少であった。傷を負った者5名を数えただけであった。兵たちは肩を叩き合って、静かに鬨を上げた。

第2章  トラキアへ  154

2010-02-23 08:13:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 松明であった。火のついた松明は二人の姿を浮かび上がらせた。彼らは、松明を大きく左右に揺らし、大きく廻して丸を描いた。
 これを目にしたタルトスは、二人の部下に合図を送りおどりかかった。二人は振り向く、そのときはもう遅かった。部下の手にしている槍が一人の腹を貫いていた。相手は膝を折って這いつくばった。そのまま、その奴の顔を砂地に押しつけて、声を上げさせることなく命脈を断った。もう一人はしぶとかった。腰の短剣を引き抜いてタルトスに挑んできた。タルトスは臆することなく、喉をめがけて剣を横に薙いだ。彼は、確実に相手の喉を斬り裂いて走り抜けた。一瞬にして始末を終えた。
 彼は、部隊をその場から集落よりのくぼ地に誘導して身を潜ませた。
 タルトスは、月下の海の闇をすかし見た。味方の3艘の小舟にはまだ動きがない。松明信号の先の海を見たが、海賊船らしき船影は見当たらない。船足の速いことを察して目を凝らして見続けた。
 数分の後、月の光を照り返す櫂のしぶきが目に入った。海賊船は3隻である、見る見るうちに近づいてくる。船足の速い中型船であった。海賊の数は40~50人と見た。タルトスは兵たちに伝えた。彼らはくぼ地から出て槍を手にして身構えた。

第2章  トラキアへ  153

2010-02-22 07:48:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 真夜中、丑三つ時である。草木も寝ているときである。
 からっ、ころっ、鳥かごの中の車のまわる音が飼い主の耳を打った。彼は、静かに身を起こすと、船の下から外に這い出した。アミクスに時の訪れを告げに向かった。
 不寝番の兵が皆を起こす、アミクスは指示を出す、整えておいた食べ物を胃の中に収める。舟を海に下ろし、乗り込み櫂に取り付いた。櫂は静かな海面をかき回し始めた。沖に出て釣り糸をたれる。海の上は、月の光で暗くはなかった。
 1時間足らずが過ぎた。オキテスは月夜の海に目をこらした。浜を目指して船足の速い中型の舟が3隻が来る。オキテスは、命令を発して身構えた。そのとき、浜に松明らしきものの光を目にした。松明の光は、大きく横に振られ、そして、丸を描いた。光はそれで終わった。
 タルトスは、集落の家の軒下から現れた二つの人影に目をこらした。二人は、何も気づいてはいないらしい。浜に向かっている。タルトスは、二人の兵を引き連れて二人を追った。二人は停まる、地面から何かを取り上げる、そのものに準備してきたらしい火種で火を灯した。

第2章  トラキアへ  152

2010-02-19 13:43:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 海路でサロスの浜を目指している部隊は、アミクスが隊長の任についている。海路の部隊と陸路の部隊の両隊を指揮するのはオキテスである。彼らの三艘の小舟は、集落を大きく離れた地点を目指した。サロスの浜より1キロ以上西の地点に上陸した。釣り上げた魚を焼いて、夕餉の肴にした。彼らは、小舟を浜に引き上げ、ひっくり返して、その下に身を入れて休んだ。小舟一艘につき、一人の不寝番の兵を配しての寝である。
 オキテスの思いでは、海賊が襲ってくるのは薄明のころか、はたまた、その少しばかり前かと予想しての作戦構想であった。陸路部隊のタルトスには、海賊の間者と村人の中の内通者に注意を払うように言い、当然、その者たちの処分方法についても指示しておいた。
 サロスの集落は、浜から200メートルくらいの距離がある。オキテスの作戦構想での海賊の殲滅は、上陸時より1分以内の勝負である。それ以上の猶予時間はない、瞬時決着の作戦である。彼は敵を制した勝ち場面を描いて瞼を閉じた。
 有情の月は黒い船影を照らしていた。
 オキテスの部下の一人に変わり者がいた。変わり者と言っても特別の変わり者ではない。ただ彼の持ち物が変わっていたのである。彼は、1匹のハツカネズミを鳥かごの中に飼って持ち歩いていたのである。ハツカネズミの習性のひとつに、腹が減ったら行動する習性があり、鳥かごの中に造ってある車を動かすのである。

第2章  トラキアへ  151

2010-02-18 10:39:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 日の沈む頃の風景は今日も素晴らしかった。沈みゆく太陽は、中天の太陽に比べて三まわりも四まわりもの大きさで夕凪の海面を黄金の茜色に染めていた。
 パリヌルスとオキテスは、緊迫した雰囲気で部隊を整えている、準備が整う、オキテスが船上に立つ、3艘の小舟が凪いでいる海面を割り始めた。浜を離れていく、パリヌルスは、手を振って彼らを送り出した。
 この頃には、先発した陸上を行く部隊は、マリトサ川の河口の岸に着いていた。2艘の小舟が見える。タルトスは、声をかけて確かめて、部隊を乗り込ませ、サロス側の河岸に向かった。
 サレト浜頭の漁村の村人は老若男女合わせて300人余り、戸数50個余りの集落である。部隊は、サロスの集落が見渡せる河岸に上陸した。宵が深まってきていた。タルトスは、兵を潜ませるのに、河岸の潅木の茂みか、浜奥の林の中にするか、迷った。出発時に打ち合わせた作戦展開のしやすい地点はいずれであるか考えた。彼は、浜奥の林の中と決めて行動をとった。部隊は、河岸の道を上流に向かい集落の背後を大きく迂回して、林のなかに兵を潜ませて隊を休ませた。
 タルトスは、村内に潜む敵の間者と内通者のあるなしを探ることであった。彼は林に潜み鋭い目で見張った。
 西南の空に月が昇ってきた。

第2章  トラキアへ  150

2010-02-17 09:38:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『浜頭、聞きますが、2月の襲撃のことですが、敵は、何人くらいでやってきましたか。』
 『敵は、小型の軍船2隻で40人余りででした。』
 パリヌルスは、それを聞いて決断を下した。
 『サレト浜頭、判りました。オキテスとも相談の上、これから、直ちに浜頭の浜の沖に見張りの漁に出ます。また、今夜、小部隊もそちらに向かわせます。』
 『そのようにしていただけるのですか。感謝します。宜しく頼みます。』
 『浜頭、言い添えておきます。私たちの行動は、隠密行動です、過ぎた歓待はしないでください。いいですね。私たちの部隊の者たちは、小船数艘に分乗して漁をしながら、そちらに向かいます。また、部隊の半数30人は陸上を徒歩で向かいます。渡河の舟は浜頭のほうで手配頼みます。平常を装って過ごしてください。以上です。』
 パリヌルスは、オキテスを呼び寄せて、直ちに検討した。トリタス、サレト両浜頭は、アエネアスと二言三言、言葉を交わして浜小屋を去っていった。
 オキテスは、パリヌルスと話をしたあと、手っ取り早く漁の仕度をさせた小舟を4艘をサレト浜頭の浜に向かわせた。そのあと派遣する部隊を整えた。隊長にはアミクスとタルトスを選び、陸上を行く部隊を直ちに進発させた。残った30人は、漁師を装い3艘の小舟にて向かうことにして夕陽の沈む頃を待った。

第2章  トラキアへ  149

2010-02-16 08:11:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、アカテスとオロンテスにはかり、葬儀の場所と段取りのこまごまとしたことを打ち合わせした。
 『葬儀の終了後、浜衆や村人たちも招いて、ささやかだが競技大会をやろう。』
 と打ち合わせを終えた。
 イリオネスは、何時までも湿った思いを引きずっている自分から抜け出したかった。
 浜頭の二人は、何かを思いつめた面持ちでアエネアスと話し合っている。アエネアスは、戸口に立って、じいっ~と海を見つめている。彼は、パリヌルスに声をかけ、話の中に引き込んだ。
 『パリヌルス、近頃、海上の様子に変わったことはないか。』
 『漁に出ている者たちからは異変についての話はありません。私たちが漁をしているのは河口からこちら側ですから、サレト浜頭の浜沖についてはわかりませんが。』
 『う~ん、やっぱりそうか。サレト浜頭の浜は、サモトラケ島に近い。パリヌルス、サレト浜頭の話を聞いてくれ。』
 『パリヌルス様、昨日のことですが、見たことのない船が浜沖から私らの浜の様子をうかがっているようなのです。私らの浜が、サモトラケの海賊にやられたのは、5ヶ月前の2月の中頃でした。奴らの狙いは、食糧なのです。ちょっと不安なのです。』
 パリヌルスは、サレト浜頭の話をしっかと受け止めた。

第2章  トラキアへ  148

2010-02-15 07:56:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、よく聞いてくれた。その場所は、今、皆がいるこの浜小屋だ。宜しく頼む。それから、この浜小屋のほかに2棟の浜小屋がある。そのうちのひとつは、漁に出るときの準備小屋として使う予定にしている。これはしたり、漁獲担当の責任者も決めておかなければならん。全市民の食糧事情に支障をきたす。統領どうしましょう。』
 『そうだな、パリヌルス、誰か適任者はいないか。』
 『それには、食糧担当のオロンテスを頭にアカテス、セレストス、アミクス、タルトスが適任と思いますが。アカテス、セレストスは、陸上の収穫物。アミクス、タルトスは、海で獲れるものの担当に決めていただければ期待に添えると思いますが。』
 『よし!それで決まりだ。諸君、これでいいな。ところで伝えておきたい大切なことは、ものごとを始めるに当たって、先ず計画第一で事に当たる。そして、失敗を怖れてはならない。計画実行は、失敗の原因を適確に掴むことができる。計画、実行、そして、検証、不具合に気がついたら、即、修正して前に進む、そのことを言い添えておく。』
 アエネアスは打ち合わせを締めくくった。
 『諸君、ご苦労であった。これで打ち合わせは終わる。葬儀担当のアカテスとオロンテスは残ってくれ。』 イリオネスが告げた。