『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  535

2015-05-29 08:34:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスはイリオネスにもらった大皿を持たせて、スダヌスの手を力を込めて握った。
 『スダヌス、ありがとう!イデーの山へ案内してくれたことへの礼、そして、贈り物の礼、二つの礼を重ねて礼を言う。ありがとう、ありがとう!』
 二人は感激の極みに到る、互いの肩を力強く抱いた。
 『統領!私こそ喜んでいるのです。イデー山への登頂を果たし、その感動をあなたと共有しました。感激で、感激で胸が張り裂けんばかりに喜んでいます。こんなにうれしいことはほかにありません。ありがとうございました』
 スダヌスも礼の言葉を返した。感動の時が終わり、着座して昼食を腹に収めた。
 アヱネアスはイリオネスと目を合わせた。言葉を口にせずとも意志が通じた。イリオネスは向かい側の座にいるギアスを手で招いた。ギアスがイリオネスに身を寄せる。彼の問いかけに答えた。
 『軍団長、ニューキドニアの浜まで、追い風に恵まれず、漕走で二刻余り(5時間足らず)の行程です。今出航すれば、日没直後くらいには着港する予定となります』
 『了解した。統領と話し合って決める』
 イリオネスはアヱネアスと二言三言ささやき合った。決まったらしい。彼はスダヌスに話しかけた。
 『スダヌス、このたびはたいへんに世話になった。厚く礼を言う、ありがとう。俺たちも長い間、留守というわけにはいかん。今、浜を出れば日暮れ頃には、ニューキドニアの浜に着けるといっている。出航する』
 『そうか、君らには君らの都合がある。引き留めても、お前は、はいそうですかとは言わない。判った。くどくは言わない。道中、くれぐれも気を付けていけよ』
 イリオネスは、ギアスに指示を発した。
 『ギアス、出航だ!準備を頼む』
 『判りました』
 ギアスもスダヌスに丁重に礼を述べた。ギアスにつれて漕ぎかた一同も戸口に整列し、スダヌスに対して礼を尽くした。スダヌスが口を開く。
 『お前ら、パノルモスからここまで、ご苦労であった。これからもう一度、ヘルメスを漕いで帰途に就く、道中の無事を祈る。イデー山山行の道中たいへん世話になった。一同に厚く礼を言う、ありがとう』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  534

2015-05-28 08:46:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ギアス、来たか。一同ご苦労であったな。さあ~、休んでくれ。直ぐできる!待ち時間は少々だ』
 『はい、ありがとうございます。馳走になります。何か手伝うことがありますか』
 『おう、炉に火をがんがん、燃やしてくれ!そして、食材の串刺しだ』
 一同は手分けして手伝った。
 『ヨッシャ!いいだろう。アグリテス、皆の酒杯に酒を注いでくれ。イデオス、肴が焼けたら、統領と軍団長殿にさしあげてくれ。軍団長、ひと言、頼みます』
 イリオネスが立ちあがった。
 『パノルモスからスオダまで帰途の海路を無事に終えた。一同、大変にご苦労であった。無事を喜び、皆で昼食を共にする。乾杯っ!』
 一同から歓声があがり、杯の酒を飲みほした。全員の顔がほころんぶ、スダヌスが顔をほころばせて、イデー山登頂の模様を話して聞かせた。パノルモスで留守番をして過ごした者たちへの贈り物話であり、スダヌス配下の者たちへのみやげ話である。彼らは耳を傾けて聞き入った。
 雪を頂いている山頂、身が凍える寒さ、寒さしのぎの模様、そして、山頂から世界を目にしたことなどを、彼なりの荒っぽい表現であったが面白く話した。その表現が聞き入る一同を感動させた。興奮して聞き入る一同、沸騰する感動が昼食の場をにぎわした。スダヌスは得意の絶頂であった。
 彼はイデオスに持たせていたベラマで求めた品物を持ってこさせた。丁寧に荷をほどく、出てきたのは、イデー山をモチーフにした絵柄を描いた直径70センチくらいと思われる台付の大皿である。彼はそれをかざして一同に見せた。
 一同が呟く、
 『ほっほう~、イデー山とはそのようなーーー』一同は『ほう~っ!』を連発して絵柄に見入った。またまた感動である。
 スダヌスは、身体の向きをアヱネアスに向けた。
 『統領、お受け取り下さい。統領がなされたこのたびのイデー山山行の記念です』
 座から立ちあがったアヱネアスに向けて大皿が差し出された。
 『スダヌス、いいのか。俺にくれるのか。そのようにしてくれるとは俺は感激だ。喜んで受け取る。イデー山を案内してくれた上に、このように記念の品までくれるとは、なんと礼を言えばいいのか途方に暮れる。ありがとう心から礼を言う』
 スダヌスから大皿を受け取った。場にいる者たち全員が立ち上がって手を打った。盛大な拍手が二人に贈られた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  533 

2015-05-27 10:40:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パノルモスの浜を出て1時間、左手にレテムノンの集落を眺めながらヘルメスは西へとひたすらに進んでいる。洋上を吹きすぎていく風は、そよ風である、風にヘルメスを押し進める力をのぞむ事は出来なかった。
 アヱネアスら三人も漕ぎ座について櫂を握る。ギアスの講釈を思い起こして櫂操作をした。
 陽射しは強い、身体を動かす、爽快の汗を流す、時は流れて過ぎていく。スダヌスが声をあげた。
 『まあ~、向かい風でないことを喜ぼう。何事もポセイドンに感謝だ』
 彼はそのように言って太陽を仰ぎ見た。時を計った。ヘルメスの進行方向に目を移す、右手前方に岬半島が迫ってきていた。
 独り言ちる。『お~お、スオダが近い、オラが浜が近い。結構結構!』
 スオダの浜への入り江口が見えてきた。
 『おう、ヨッシャ、ヨッシャ!ギアス、操舵を代わる!』と言ってカジテスと交替した。
 ヘルメスは入り江の洋上を進み、スオダの浜に無事についた。
 スダヌスが飛び降りる。勝手知ったる俺が浜である。誰よりも先に浜に立ち、艇上の一同を迎えた。
 『ややっ!ご一同、ご苦労ご苦労。ようこそ、俺が浜においで下さった』
 彼は嬉しそうに歓迎の言葉をかけた。この言葉を耳にして一同は表情をほころばせて、航海の無事を喜び合った。
 『さあ~さ、身体の力みをほどいてくつろいでください。浜小屋の方へ参りましょう』
 スダヌスは、アヱネアスとイリオネスの先を歩んでいく、ギアスはヘルメスを浜へ揚げた。
 ギアスは、パノルモスからスオダまでの5時間を休むことなく漕ぎ続けてくれた一同の労をねぎらった。
 『諸君、ご苦労であった。ここまでの長距離を休まずに漕いでくれたことに礼を言う。ありがとう。時間は長くはないが休もう。残るは、ニューキドニアの我らが浜までの行程である。無事に乗り切ろう!』
 話し終えてギアスは、カジテスに声をかけた。
 『カジテス、ちょっと聞くが、パンの方はどれくらい残っている?』
 『はい、2食分は充分にあると思いますが』
 『そうか、いけるな』彼はうなずいた。
 浜小屋の方から、イデオスが走ってくる。
 『ギアスさん、皆さん!浜小屋の方へおいでください。皆で昼食を食べようということです』
 イデオスは、一同に対して、すっかり友達気分で話しかけてきた。
 『おう、そうか。それはうれしいことだ。イデオス、遠慮せずに馳走になる。おう、皆、行こう』
 一同は浜小屋に向かって歩みだした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  532

2015-05-26 08:04:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスら三人は、黙したままギアスのやっていることを見ていた。スダヌスとイリオネスは小声で話を交わしている。
 ギアスがアヱネアスらにことわりを入れた。
 『少しの間ですが、ヘルメスの走りを風に任せますので』
 彼は漕ぎ座の一同に声をかけた。
 『一同よく聞いてくれ!俺たちがこの航海の往路において、追い風に恵まれ、櫂を使うことが少なかった。気づかなかった俺もバカであったのだが、ヘルメスで使っている櫂は、舟艇で使っている櫂とは少々構造が違っている。そのことに気が付いた。これから説明する』
 ギアスが一同と目を合わせる。漕ぎかたの者たちの目線が櫂を見つめた。
 『いいな、櫂を見たか。違いに気が付くはずだ。櫂の握り方、使い方でヘルメスの走りが違ってくると考えられる。先ず握り方を点検する』
 彼は、艇に積んでいる予備の櫂を手にして櫂の水掻き部分を指さした。
 『君らも見てわかると思うが、この部分が工夫された構造になっている。従来の櫂に比べて水つかみがよくなるように工夫されている。その分、櫂漕ぎの時に水の抵抗感を少々大きく感じるが櫂操作の支点を考慮して軽く感じるようにしている。判るな!』
 一同を見渡した。
 『この水掻き部分の水に入る角度によって、この工夫を生かす櫂操作をしなければならない。そのための握りを点検する。今は、櫂を水からあげている、櫂の水掻き部分がこの角度になるように握るのだ。判ったら握ってみてくれ。俺が見る!』
 『おう、君はそれでいい!』
 『君はこの角度になるように握るのだ。いい角度で水に入るかやってみろ!』
 『一同、これを見て、正しい握りをしているか。確かめろ!』
 『おう、お前!それでいい!』『よっしゃ!』
 彼は、丹念に漕ぎかたたち櫂の握りを点検した。
 『さあ~、漕ぎを始める!俺の合図で一斉に漕ぎかた始めだ。準備はいいな!漕ぎかた始め!』
 彼は手を打った。一斉に漕ぎかたが櫂操作を開始した。泡立つ海づら、風力走行に力が加わる、ヘルメスが加速する、櫂の水掻き効果が感じられる。漕ぎかた一同がギアスの手拍子に同調して漕ぐ、ヘルメスが快調に波を割った。
 ギアスは櫂の改良効果を体感した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  531

2015-05-25 10:25:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 帆が微風をはらむ、渚に立つパルモス浜頭らに向けて、艇上のアヱネアスらが手を振る、ギアスが帆の風のハラミ具合を確かめて声をあげた。
 『漕ぎかた始め!』
 櫂が海面を泡立てる、ヘルメスが波を割り始めた。
 渚で手を振り、動き始めた船の様子を渚にいる連中は見入った。
 『あの帆のカタチは何だ?!』
 一拍の間を置く、
 『あの帆で風のハラミがうまくいくのかな?俺は首をかしげるぜ。帆のカタチも常識を破っている。スダヌスめ!隠しやがって、全く常識を破った船だな』
 浜頭はそう言って声をあげて笑った。つれの三人も笑いをもらした。
 一行の乗ったヘルメス艇は、遠ざかっていく。ギアスが漕ぎかたの一人に声をかけた。
 『櫂で漕ぐ調子はどうだ?ちょっと俺に替われ』
 ギアスが漕ぎ座について櫂を握った。
 『おう、これは、考えたより櫂操作が軽く感じる。軽いというより、漕ぐ感じが舟艇の櫂とは、少し違って感じる。このヘルメスだけに備え付けた櫂に思われる』
 ギアスは、櫂を見つめた。櫂の形と長さの違いに気がついた。はじめて目にする櫂の形状である。このことに今の今まで気づかなかった己の愚かさに気づいた。
 これについてはギアスに知らされていなかったのである。ギアスの胸の内は『ええいっ!ドックス!』であった。彼は漕ぎ座を離れて予備の櫂の一本を手に取って、しげしげと見つめた。
 櫂の全体的な構造に変化がみられた。従来の櫂より長くて軽い、操作するときのバランスも少々違う、水を掻く部分も水を掻く効率に配慮された形になっているではないか、ただ海に突っ込んで動かす櫂ではなかった。
 漕ぎかたの一同もそれを知ってはいないようである。ギアスは改めて漕ぎ座についた。櫂を握って漕ぐ、握りを変えて櫂操作をする、水の抵抗と漕ぐ水の掻き効率に注意を集中して、櫂の操作具合を確かめた。
 彼は櫂操作のコツをつかんだ。漕ぎかたらの櫂の握りと操作をチエックした。櫂の水掻き部の海面への入り具合を確かめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  530

2015-05-22 08:46:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『まさかであったですな。頭、私らも全く気が付きませんでした。三本マストの船とはーーー』
 『中央の帆柱があれだけ高いと走行安定がむつかしいのではーーー』
 彼らの会話である。彼らの頭の中には、従来の横四角形の帆形しかなかったのである。浜頭はスダヌスに声をかけた。
 『おう、スダヌス、なかなかの船ではないか。三本帆柱、カッコのイイ船ではないか。中央の帆柱があれだけ高くても大丈夫か、船の長さに比べて中央の帆柱が高い、風ハラミ走行の安定性が気になるところだが』
 『そうか、その様に見えるか、帆張り、風ハラミにひと工夫されている船なのだ。その姿カタチを出航の折には見せられないかもしれないが、この俺には説明が出来ない。まだ、テスト走行といったところなのだ』
 『これを知っていれば、ギアスに説明させたものをーーー』
 浜頭は唇を噛んだ。
 艇上に声が飛んだ。艇尾の操舵を担当しているカジテスからだ。
 『キャプテンギアス!東から微風が来ています。少し南寄りです。海上のもやを払っています』
 『何!そうか、よしっ!いいぞ』
 ギアスは緊張した。
 渚にいる者たちが話し合っている。
 『おう、スダヌス、お前ら運が強いな、感心感心といったところだな。出航の時が来る、風が吹く、もやが吹き払われる、それも追い風だ。もう乗船の時だろう、行け!』
 『浜頭、ありがとう。見送りに足を運んでくれるとは。ヒマをつくってスオダに来てくれ。ここでは話すことのできない話もある、俺は待っている』
 『判った。何とかしてお前のところへ行く』
 アヱネアスもイリオネスも浜頭に別れを告げた。
 『イリオネス、乗船だ。空模様、風具合がいい具合になりつつある。アヱネアス殿をお連れしてくれ』
 二人は海に身を浸して、ヘルメスに向かう。これを見送るスダヌスと浜頭。
 親交のある二人は互いの肩に手をかけた。
 『スダヌス、元気でいてくれ。必ず、行くからな』
 『おう、待っている!必ず、来いよ』
 二人はじい~と見つめ合う、肩を抱く、手を握り合う。互いに相手の髪の毛を引き合う感覚を覚えた。スダヌスは、海に足を突っ込む、歩を進める、ヘルメスの船べりに手をかける、肩まで沈めて海底をける、ヘルメスに乗った。
 ギアスの指示が飛んだ。
 『中央帆柱、帆を上げっ!舳先き、艇尾帆柱、帆を上げっ!漕ぎかた準備!いいな!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  529

2015-05-21 07:37:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスら三人の思案は帰途に就くヘルメスの出航に集中していた。腹中の決心、胸中の思案については語ることなく浜に戻ってきた。
 四人の者たちが滞在中に使った浜小屋の清掃に当たっている。海に目を移す、海上にはもやを背景に三本マストを立てたヘルメスの姿がある。
 『統領、こうして眺めるとヘルメスはカッコイイですな』
 『そうか、自画自賛ではないが、俺の目にもカッコヨク見える』
 『新しい船は乗っていても気分のいいものです。それにしても走りのいい船にできていますな』
 『お前、ほめてくれたのか、ありがとう』
 イリオネスがアヱネアスに声をかけた。
 『統領、全員を集めます』
 『おう!、そうしてくれ』
 イリオネスが浜小屋を覗く。
 『おう、美しくなったな。清掃は終わったのか?』
 『はい、終わりました』
 『そうか、ヘルメスの方へ行って、ギアスに集まるように伝えてくれ』
 指示を受けた者が渚に向かって走る。艇上に操舵担当のカジテスのほか一人を残して一同が顔をそろえた。横並びに列が整える、列の端にはスダヌスとイデオスがいた。
 イリオネスとギアスが二言三言言葉を交わす。イリオネスは、一人一人と丹念に目を合わせて、各人の状態を把握した。それを終えて、アヱネアスと目を合わせた。アヱネアスがうなずいて一同に告げる。
 『諸君、ご苦労!このたびの旅の目的としたイデー山山行を無事に終えた。留守番役をしてくれた君らに礼を言う。我々は、海上を覆うもやの晴れ具合を見て帰りの出航をする。帰りの海路を事なきよう行こう。以上だ』
 一同は深くうなずき拍手で答えた。矢継ぎ早にイリオネスが指示を出す。
 『各自、持ち場について出航の指示を待て、以上』
 アヱネアスら三人は渚に立っている。三人を除いた一同は、ヘルメス艇上の持ち場について待機した。
 ギアスは状況の変化に気を配っている。海上のもやが晴れる気配をみせてきていた。パルモス浜頭が身内の者三人を連れて姿を見せた。帰途に就く彼らを見送ってくれるらしい。彼らは会場のヘルメス艇を見て目を見張った。
 揚陸していた船は常識的なものだろうとたかをくくっていたのである。まあ~、新しい船であろうくらいに考えていた。
 『おう、これはこれは!いったい何だ!新しい形態の船であるらしい。あの三本マスト構成はあたらしい発想かな?あの中央のマストだが高すぎやしないか?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  528

2015-05-20 08:28:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、何を言いたい?』
 『俺の言いたいことか、浜頭に出航の挨拶をしようと思ってな』
 『そうか、思うところは一緒か。ギアスがめしの場にいない』
 話し合っているところにギアスが姿を見せた。
 『おう、ギアス、どうした?』
 『はい、今日の空模様、風の具合の観察です。今、海上は濃いもやがかかっています。風は凪ぎ状態、見通しが悪い。出航のタイミングの思案です』
 それを聞いたスダヌスが答える。
 『そうか、そんな状態か。急ぐことはないのだ、ギアス。朝めしを済ませろ!それから、一緒に渚に行く。いいな』
 『判りました』
 ギアスは急いで朝めしを済ませた。
 『ギアス、もういいか、行くぞ!イリオネス、お前も一緒に来い』
 『おう!』
 三人は腰を上げた。渚に立つ、海を眺める、空を仰ぎ見る、東に目を向ける。昇り始めて間もない太陽をもやを通して見た。
 『ギアス、もやが濃いのう』
 『そうです』
 『今日は追い風が期待できるか、否かだ。この季節、東風は気まぐれだ。半島岬の西ではほとんど期待はできないが、岬の東では期待できることもある。どっちにしても漕いで出航だな。覚悟せい!イリオネスにギアス、そういうことだ。いいな』
 『判りました』
 ギアスは覚悟を決めて応えた。イリオネスがギアスに指示をした。
 『ヘルメスを海へだ。いいな』
 『判りました』
 スダヌスが声をかける。
 『イリオネス、行こう。出航のあいさつに行こう。統領も一緒がいい』
 『判った』
 アヱネアスに声をかけて三人が浜頭の屋敷に歩を運んだ。
 浜頭は庭に立って乳白のもやを見ていた。
 『おはようございます』
 『おう、皆さん、おはよう』
 『浜頭、昨夕はたいへん馳走になりました。ごちそうさまでした。私ども帰ります。いろいろたいへん世話になりました。ありがとうございました。浜頭も是非、西の方へ出かけてください。待っております』
 『そうか、帰るのか。スダヌス、また、ゆっくり出かけて来い。話も積もる。そういうもんだろう』
 二人は言葉を交わして手を握った。
 『お二人ともお別れですな。このたびの事忘れはしません。また、おいで下さい』
 挨拶が終わった。三人は浜頭のもとを辞した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  527

2015-05-19 08:26:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕食の場が出来あがる、焚き火が燃えさかる、食材が運び込まれる、全員の顔が揃う、酒杯に酒が注がれた。
 浜頭が口上を述べる、大歓声があがる、夕食が始まった。うまい!うまい!味わい感動の言葉が飛んだ。
 スダヌスが山行の話ををする、左手に酒杯、右手に肴、話に耳を傾ける、場が盛り上がった。一同がアイアイの気分で和んだ。
 陽は沈み、宵のとばりがおりる、日は暮れる。夕食の場の終わりが近づいた。
 スダヌスは、浜頭に明日の事を伝える、イリオネスが礼を述べる、浜頭は知り合えたことを歓び別れを惜しんだ。アヱネアスは丁重に礼を述べて右手を差し出した。すかさず強く握りしめる浜頭、二人は別れを惜しんだ。
 イリオネスも別れの言葉を交わす、浜頭はもらいうけた方角時板について厚く礼を言った。この三日間、浜頭はギアスを呼んで方角時板の使い方について話し合い、実際に海に出て使った。方角時板の不思議な鉄棒の利点をとことん理解した。
 鉄棒の不思議さを知った浜頭は、この三日間のギアスとの交誼に感謝した。
 夕べに会し、明日に別れる、一同は別れを惜しんだ。
 夕食を終えて互いの寝所へと引きあげていった。イリオネスは、床に就く前に明日の予定を一同に告げた。
 『いいな!一同、判ったな。パノルモス最後の夜を休んでくれ』
 
 出航の朝が明けた。ギアスは誰よりも早く海辺に出て、今日の天候をうかがい、風を読むべく状況をチエックした。間をおいて、アヱネアスが寝所の小屋から出てくる、続いてスダヌス、イリオネス、続いて一同が起きだしてきて朝行事をする。
 今日の朝食タイムは、早くすることに決められている。一同は浜の一隅に車座に腰を下ろして朝食の場とした。日持ちを考えて固く焼かれたパン、塩味をきつめにして干した塩漬けの羊肉、パンには音を立てて噛みつき胃に収めた。
 イリオネスとスダヌスは、物事を考えながら口を動かしている、二人の口の動きが同時に止まった。何かを言おうとしている、同時に口を開き声を発した。
 『おう、イリオネス!』
 『おう、スダヌス!』二人は笑った。
 『スダヌス、何だ?何を言いたい?』
 イリオネスが問いかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  527

2015-05-19 08:26:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕食の場が出来あがる、焚き火が燃えさかる、食材が運び込まれる、全員の顔が揃う、酒杯に酒が注がれた。
 浜頭が口上を述べる、大歓声があがる、夕食が始まった。うまい!うまい!味わい感動の言葉が飛んだ。
 スダヌスが山行の話ををする、左手に酒杯、右手に肴、話に耳を傾ける、場が盛り上がった。一同がアイアイの気分で和んだ。
 陽は沈み、宵のとばりがおりる、日は暮れる。夕食の場の終わりが近づいた。
 スダヌスは、浜頭に明日の事を伝える、イリオネスが礼を述べる、浜頭は知り合えたことを歓び別れを惜しんだ。アヱネアスは丁重に礼を述べて右手を差し出した。すかさず強く握りしめる浜頭、二人は別れを惜しんだ。
 イリオネスも別れの言葉を交わす、浜頭はもらいうけた方角時板について厚く礼を言った。この三日間、浜頭はギアスを呼んで方角時板の使い方について話し合い、実際に海に出て使った。方角時板の不思議な鉄棒の利点をとことん理解した。
 鉄棒の不思議さを知った浜頭は、この三日間のギアスとの交誼に感謝した。
 夕べに会し、明日に別れる、一同は別れを惜しんだ。
 夕食を終えて互いの寝所へと引きあげていった。イリオネスは、床に就く前に明日の予定を一同に告げた。
 『いいな!一同、判ったな。パノルモス最後の夜を休んでくれ』
 
 出航の朝が明けた。ギアスは誰よりも早く海辺に出て、今日の天候をうかがい、風を読むべく状況をチエックした。間をおいて、アヱネアスが寝所の小屋から出てくる、続いてスダヌス、イリオネス、続いて一同が起きだしてきて朝行事をする。
 今日の朝食タイムは、早くすることに決められている。一同は浜の一隅に車座に腰を下ろして朝食の場とした。日持ちを考えて固く焼かれたパン、塩味をきつめにして干した塩漬けの羊肉、パンには音を立てて噛みつき胃に収めた。
 イリオネスとスダヌスは、物事を考えながら口を動かしている、二人の口の動きが同時に止まった。何かを言おうとしている、同時に口を開き声を発した。
 『おう、イリオネス!』
 『おう、スダヌス!』二人は笑った。
 『スダヌス、何だ?何を言いたい?』
 イリオネスが問いかけた。