『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  179

2010-03-31 13:22:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ルドン、今この船に積んでいる飲料水は、どれくらいの量か。陽がギラギラと照りつけてくるぞ。水の不足が気にかかる。』
 『はい。私どもの浜へ帰るまでの分はあると考えられます。特別の変事がない限り充分と思います。』
 『よしっ。ルドン、お前とパリヌルスの配慮か、ありがたい。』
 『パリヌルス隊長と充分に話し合って、準備した積荷です。どこにも寄港せずに帰れるよう考慮したのですが。』
 『ルドン、俺はもう少し考える。今、話し合った闘いの構想で兵の配備について、アミクス、タルトスと計った上で配備しておいてくれ。』
 オキテスは、パリヌルスの作戦構想以外の闘いの形について考えた。戦闘の風景を描いた。彼は、どのような戦闘の形態にも対応できる戦術を考えた。
 それには、出来るだけ早く敵の攻撃の形を察知して、対応することを考えた。彼は、いま、乗っている船の構造と武器、敵と闘う武器使用に関する注意点について考えをまとめた。パリヌルスの考えは、あくまでも交易が前提とされた戦闘構想であった。
 オキテスには、それ以外の交戦の形態が予感され、予想された。

第2章  トラキアへ  178

2010-03-29 07:33:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おいっ、皆、そんなに固く身構えるな。肩の力を抜いて、気を入れて聞けばいいのだ。よしっ。始める。いいな。船中という狭いところで敵とやりあうのだ。一瞬のためらいが命取りになる。ためらっていては命が奪われて終わりだ。今の俺の思いでは、配置は、甲板に20人、船倉に30人と思っている。そして、伏兵作戦だ。船倉も、甲板も10人の兵を物陰に潜ませろ。掛け声一発で飛び出せるようにひそませるのだ。奴らは、我々を探りに来るか、探りに来た奴がこの船に居残って仲間を呼ぶのか、一度引き揚げて仲間を引き連れて一斉に襲ってくるか。今のところ俺には読めていない。我々はギリシア本土に向かうことにして、ここでは水の補給をしたいことを相手に伝えようと思っている。ルドン、そうなれば奴らは、どう出てくるか。お前の考えを聞かせてくれ。』
 『隊長、奴らは、交易を持ちかけてきます。奴らには、小麦が不足しています。探りに来た奴らは、居残って仲間を呼ぶ手で来ると思われます。奴らはガラクタを持って交易に来ます。我々は、ベルガモンから来たと思わせるのですから。』
 『ルドンの思いはそうか、とにかく、奴らの状況に合わせよう。闘い開始合図だが、俺か、ルドン、アミクスの誰かが、奴らの一人を倒したときだ。いいな。如何なる事態になろうが、対応できるように配置形態をとって敵に挑む。それと大切なことは、皆が生きて帰還することを心がけてほしいことだ。頼むぞ。以上だ。』
 『判りました。』 一同の応答はしっかりしていた。

第2章  トラキアへ  177

2010-03-26 08:35:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風の入らない船倉は、蒸し暑く、汗が滴り落ちた。
 『ルドン、五人の紹介を頼む。』 五人の者たちは、名乗った。
 『よし、判った。俺が、このと船の一隊を率いているオキテスだ。君たちは知っていると思うが、ここにいる三人は、ルドン、アミクス、タルトスだ。』
 オキテスの目は、冷たく燃え鋭さが増した。
 『君たちは、今、サモトラケに向かっていることは知っているな。一昨日、サロマの浜で干戈を交えた者たちは、サモトラケから来た海賊である。俺たちは、その海賊の残党を一掃するためにサモトラケに向かっている。奴らを一掃しない限り、また、サロマやエノスが襲われる。そういうことでは困るのだ。卑劣で残忍このうえない奴らを生かしておくわけにはいかんのだ。判るな。先ほど、ルドンとよく話し合った。奴らは、我々を皆殺しにして、船と積荷を奪う。そのようなことは許すわけにはいかん。我々は先手必殺で一人残さず奴らを倒す。後顧の憂いを断つ。いいな。それで考えられることは、この船が闘いの場になるということだ。押し寄せる海賊の数は、30人くらいだと、俺は思っている。この船には、俺を含めて54人が乗っている。これから、奴らとどのように闘うかということについて説明する。いいか。』
 ここまで言ってオキテスは一息入れた。
 オキテスの話を聞いている者たちの目の色が変わってきていた。

第2章  トラキアへ  176

2010-03-25 08:33:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『判った、ルドン。奴らは、我々を皆殺しにするというのだな。それも卑劣な手を使って、手段を選ばずにくるというのだな。後手の先などと言っておれないのだな。先手必殺で行く、我々も奴らを皆殺しにする。俺にとっては、海上の極々限られた船中で命のやり取りをするのは初めてなのだ。宜しく頼む。死闘開始のタイミングと瞬時決着で事を終える。これが今回の死闘の要諦である。いいな。』
 『隊長。それでいいでしょう。不退転の決意を、、、。』
 『ルドン。アミクス、タルトス、それに加えて、5人のしたたかな者を選んで打ち合わせをここでやる。船の進み具合をチエックした上で集まってくれ。俺は、ここにいる。以上だ。』
 『判りました。』
 緊迫の気がみなぎった。一瞬にして、船倉の風景が違って見えた。彼は、干戈を交える風景と勝利の決着を事細かに描いて、まぶたを静かに閉じてイメージした。一命も失うことなく勝利した自分たちのいる凄惨な風景が浮かんできていた。ルドンの声を耳にした。
 『隊長。船の進み具合は順調です。全員揃いました。』
 『お~お、よし。皆、積荷の上に腰を降ろせ。これから、サモトラケの海賊と一戦を交えることになる。その打ち合わせをやる。宜しく頼む。』
 オキテスは、そのように告げて、一同と目線を交わした。
 このひと言で、全員の気が引き締まった。

第2章  トラキアへ  175

2010-03-24 07:56:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、船倉に歩を運んでいく、彼には、考える余裕が出てきていた。彼は、周囲の者たちのことを考えてみた。統領のアエネアスは、頂点に立つ者としての人格もそうであるが、事に挑むときの周到さ、パリヌルスの抜けのない立案能力、イリオネスの落ち着いた仕事運び、そして、若いゆえのアレテスの時折の失策が思い起こされ、その者たちの姿が目に浮かんだ。
 オキテスは、船倉を見廻し、船倉の状態を把握した。ルドンが降りてきた。
 『隊長、来ました。お待たせしました。』
 『おう、来たか。ルドン、こっちへよれ、早速、打ち合わせよう。パリヌルスからの伝言と作戦案を聞かせてほしい。我々の作戦に抜かりがあっては全員の命にかかわる、大切な命だ。一人の命といっても失ってはならんのだ。君が、このような闘いの経験のあることをパリヌルスから聞いている。頼むぞ、ルドン。いま、この船は、サモトラケまでの全行程のどれくらいのところまで来ているかな。俺は、いま、作戦立案にかける時間のことを気にしている。』
 『今ですか、サモトラケまでの中間地点を過ぎたところです。』
 『よし判った。ルドン、君から話してくれ。その上で主だった者たちを呼んで要務の説明と作戦の打ち合わせをやる。始めてくれ。』
 『判りました。』
 ルドンは、要領よく要点を説明して、パリヌルスの作戦実行案について話した。彼の話しぶりには、無駄がなく、その指摘は正確であった。

第2章  トラキアへ  174

2010-03-23 07:12:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 存在する恐怖は二つである。
 第一の恐怖は、この船に乗っている53人の隊の者たちの尊い命である。この53人の命を自分の無策によって失うことが怖かった。
 第二の恐怖は、未知の闘争思考を持った敵と闘うことの怖さであった。
 これらの恐怖は、オキテスが隊を率いるようになって、初めて感じる恐怖であった。心の中にひそんでいた臆病が、これらの恐怖の危機に対して、用心深くなるように気づかせたのである。
 また、大波が船底を打った。パリヌルスにあって、己に欠如していたものがオキテスに見えた。
 彼は、風に吹き散らされることのない、よく通る声でルドンを呼び寄せた。
 『お~いっ!ルドン、船尾方に以上はないか。』 ルドンがオキテスの許に来る。
 『今のところありません。』
 『よし、船倉に降りて、諸事を打ち合わせよう。船は予定した通りに進んでいるな。』
 『太陽もこの位置です。予定通りです。』
 『パリヌルスからの言伝ても聞く。作戦を打ち合わせる。積荷を見ながら、打ち合わせをやる。いいな。』
 『判りました。引継ぎをしてきます。隊長は先に降りていてください。』

第2章  トラキアへ  173

2010-03-22 08:35:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は霧の正体をつかんだ。
 霧は、航海にとって恐怖である。彼は考えた。身体を船のゆれに任せて考えた。自分の思考を包んでいる霧の恐怖について考えた。
 『この俺がおののく恐怖は何なのだ。俺が感じたことのない怖さだ。俺は、このような臆病ではなかったはずだ。これまで幾多の敵と対峙して、怖さなど感じたことはなかった。だがおかしい。とにかく怖い、怖い、怖いといったら怖い。』
 彼は、得体の知れないこの恐怖について懸命に考えた。
 船は、帆に風をはらんで順調に航走している。背に当たる風が、船を押している、彼をも押していた。船は進む、俺も進む、進む前方には敵がいる。それを思い考えたとき、オキテスの頭中、心中、胸中の霧が風に吹き飛んでいた。
 『よしっ!これでいい。恐怖が消えた。』
 彼には、霧が覆い隠していた、恐れおののいた恐怖の正体が見えた。それが何であるか理解した。
 『俺の心、俺の智、俺の技、俺のこの身体で解決できないわけがない。よし行くのだ、オキテス!』 自分で自分を押した。
 恐怖は、単純なものであった。突き詰めて言えば『それは見えないことだ。未来が見えないことだ。何のことはない。未来が見えれば何の恐怖もない。恐怖が消える。』
 彼は。モチベーションのスイッチを力強く押した。

第2章  トラキアへ  172

2010-03-19 09:05:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 また、大きな波を割った。彼は、身体のバランスを船のゆれに同調させて踏ん張った。と同時に懊悩と思考が入れ替わった。彼は改まった自分に気づいた。だが、まだ、心の中には暗雲が逆巻いていた。彼は、この暗雲が何なのかについて脳漿を搾った。胸をかきむしった。
 答に近づいている。あと一歩だ。あと一歩で暗雲を払うことが出来る。一歩、一歩、あと一歩、自分らしく踏み進んだ。暗雲が薄れていく、続いて、波を割る衝撃が来た。
 朝の光が目を射る。彼は、わだかまっている雲の切れ目からの光に気づいた。と同時に心の中の暗雲が吹き払われた。頭中、心中、胸中の暗雲は吹き払われたが、つぎは霧である。霧が沸いてきている。濃さを増していく。オキテスは、その霧と対峙した。
 彼は思った。霧は払わなくても晴れる。この思いには自信があった。霧が晴れれば、必ず、その向こうには、未来が見えると信じた。

第2章  トラキアへ  171

2010-03-18 07:01:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、昨日の自分とエノスの浜を出航してからの自分の気持ちのありように気づいて悩んだ。海賊の存在をゆるせない自分であり、その心情から行動を起こした。オキテスは、得体の知れない恐怖におののく自分を感じた。自分の中の第三者的な目が、そのような自分を冷ややかに見つめていることに気づいていた。彼は悩んだ。深刻な悩みであるこの悩みをどのようにすれば払拭できるか悩んだ。
 彼は、この海上において見える曙光の射しわたる風景の中に答えを探してみた。が、『そのようなところに答えがあるわけがない。お前、馬鹿じゃないのか。』彼は、愚かな自問自答を笑った。
 彼は、風の強さと帆のはらみ具合を見て、漕ぎをやめさせ、風力のみの航走とした。船は波を割って進んだ。オキテスは、船首にたって悩みについて考えた。そのときである、船は大きな波を割った。強い衝撃を身体に感じた。彼は気づいた。
 『あっ!そうか、そうであったのか。悩むことがいけないのだ。考えてもいいが、悩んではいけないのだ。』 
 気がついた。気持ちを切り替えなければいけない。そのことに気がついた。
 彼の自問自答が、そして、思考がスピンした。
 

第2章  トラキアへ  170

2010-03-17 08:48:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスの大声が競技大会の開会を告げた。
 エノスの浜に大歓声が沸きあがった。鳴り物入りである。空洞になった大木を丸太で叩いている、でっかい板木を石槌で打っている、まさに、ちょっぴり進化した原始のスタイルがそこにあった。
 アエネアスの軍団と市民たちは、4チームに、エノスの浜衆チーム、エノスの村落チーム、サロマの集落チームの7チームの対抗戦で催行された。
 先ず、子供たちの徒競走リレーで大会の幕がきって落とされた。ユールスも参加していた。会場は大歓声と笑いの渦で沸きに沸いた。マスゲームでも沸いた。
 競技は、水陸両方にわたり多彩である。槍投げあり、円盤投げ、綱引き、徒競走、障害物競走、レスリング、漕舟競走、水泳競走、そして、宴の肴にする魚釣り大会まで、子供たちを加えた老若男女、全員参加の競技大会であった。
 夏の長~い一日を存分に使って競技を楽しんだ。
 競技のあとは、皆が期待の宴である。各所に焚き火が燃え、食材豊かな、この時期ならではの宴である。