『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  133

2012-09-28 07:11:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、時を知って航走した距離を知ることであった。
 薄日でもいい、雲の切れ間からのぞいてほしい、太陽の位置を知りたい、雨の来る前にそれをやり遂げたかった。
 彼は、陽の位置がここら辺りだろうと考えられる空の一点から目をはなさず、雲の切れるのを待った。例の方角時板を手にして待った。南北については、鉄の棒磁石で正確といかないまでも見当をつけていた。あとは瞬間の薄日でいい、影の方向だけである。
 次の一手は、右手に見えるであろう島影である。彼はこの二点に意識を集中した。彼は船尾のカイクスを呼び寄せた。
 『カイクス、どんな具合だ。航跡を見て、船が蛇行しているかいないかだ』
 『それでしたら安心してください。いま、その徴候はありません』
 『次は、右手に島影が見えないか。島影が見えたらすぐに連絡してくれ』
 『判りました』 カイクスは船尾にとってかえした。
 来たっ!雲の切れ間だ。陽が射しかけている、太陽の姿を捉えた。彼はこの機を逃さなかった。まさに瞬時の幸運であった。太陽の位置から推し量る時間、方角時板の影の伸びる方向も確かめた。この二つからおおよそではあるが、時刻の見当がついた。あとは浜を出てから航走した距離の算出であった。彼は右頬に雨滴を感じた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  132

2012-09-27 06:32:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風は力をゆるめず北東から吹きつけてきている。船団は風に押され加速して波を割っていた。
 舟艇は風と波に翻弄されていた。ギアスは為す術に頭をしぼった。船尾の三角帆はたたみ、メインの帆は高さを半分くらいまでに降ろして対処した。ゆるんだ帆を風があおる。船上の者たちが身体をかけてあおりを抑えた。
 パリヌルスは、パロス島の浜を離れてからの時を振り返った。時間の見当がつかない、不安が感覚を襲う。全天を覆う雲は低く、流れが速い。時をおかず雨がくるであろう予感が働いた。太陽の位置がわからない、太陽の存在、その重要性を痛感した。彼はいらついた、自分を失いそうである。居ても立っても居られなかった。
 船団は、どこにいるのか、どこを進んでいるのか、それを推し量る術を手にしていない。船団はミロス島に向かっているのか、風に押されるままに海上を彷徨しているだけではないのか。
 彼は大自然の力に屈していく自分の無力さを感じた。彼の己との闘いはここにあった。これに打ち克たないかぎり、船団は道無き迷路を進み目的地に行き着くことが出来ない。彼の心中の葛藤、己との闘い、彼はそこに自分を見た。そのような自分を嫌悪した。
 彼は迷わず、直ちに嫌悪する自分をかなぐり捨てた。少しづつではあるが冷静さを取り戻しつつあった。
 目明きの盲目状態から脱出する。それには何をどうするかを考えた、壁をひっかくようにもがきながら考えた。一縷の望みの光を見た。『不思議な勝ちを得る』者の、自ら助くる者を助ける力が訪れるのを感じとっていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY              第5章  クレタ島  131

2012-09-26 07:12:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団はパロス島の浜をあとにした。
 パリヌルスは、船上から東の空を眺めている。雲の密度が増して、流れが速くなっていた。輝くような朝焼けが暗紅色になっている。彼は過ごしていた、この季節のエドレミトの空を思い起こしていた。
 大自然の営みは大きく動く、そして、ところどころで起こる局地的な現象。それらについて考えた。彼なりの深度で思考した。彼の得た結論は、正しい答えであるか否かは定かではない。

 人間がその場に臨んで、直観的判断で断を下す。そのような古代の時代にあって直観的判断の正答確率が6分、ウラ目の不正答確率も6分であろうと考えられるが、この6分と言うのは、『ネーピア数』的確率である。この6分と言う答えは、次の数式で導き出した答えである。[1-1/2.718=0.63]これによると直観の正答確率が5分5分ではなく、6分4分と考えられる。心理学的スタンスで眺めたとき、人間たるものの努力効率を加味して、ポジテブな気持ちこそラッキーへの近道ではないかと考えられるのである。

 パリヌルスの心中は『俺が断を下した以上、自分の決断が正しかったとする方向に努力する』といった強い思いがあった。
 彼は、大陸から吹き降ろしてくる北東の風を帆にはらんで、南西に波を割って進む船団の姿から目を離さなかった。
 今の状況は順調である。陽はかげっている、波頭が風に飛ぶ、彼は全身の神経を張りつめて、観天望気の判断を誤らないように務め、航走に注意を集中した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  130

2012-09-25 07:14:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アカテス、お前、今日の天気だが、どう思う?』
 『今日の空模様か、朝焼けの空を見て、今日の空模様か。トロイとは条件が違う、俺は何も言えん。トロイでは陽は山から昇った。そう言うわけだ』
 『そうか、エーゲ海の北の海と比べて、海の水の温度が違う、これだけ南に来ると海が暖かい。考えの及ぶかぎり考えよう』
 言葉を交わしながら堅パンをちぎってほおばった。
 一陣の風が頬をなでて吹きすぎる。冷たかった、これからの季節にアジア大陸から吹き降ろしてくる風であった。
 パリヌルスは彼なりの決断を下した。
 『カイクス、船長、副長たちを集めるのだっ!急げ!』
 『判りました』
 『オキテス、出航を急ごう。昼過ぎには天気が崩れる。朝のうちは風が船を押してくれそうだ。しかし、そのあとは判らん』
 『おう、いいだろう。俺の勘もそんなところだ』
 パリヌルスは、船長、副長たちに短く状況と考えを述べたあと、即刻、出航を指示した。彼らは、パリヌルスの檄に応えた。
 朝食の場があわただしく動いた。瞬時といっていいくらいの間に出航の準備が整った。パリヌルスは、各船を念入りにチエックしながら、注意事項を与えて離岸させていった。船団編成はエノス出航時の状態の順に戻していた。
 『帆をあげっ!櫂をおろせっ!漕ぎかた始めっ!』
 木版の打つ音が響く、船団は泡立つ航跡を引きながらパロス島の浜を去った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  129

2012-09-24 06:47:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜が明けていく、パリヌルスは、浜に立って昇りくる太陽を見つめ、空を眺めて思案した。
 たなびく雲が低い、朝焼けがやけに美しい。たなびく雲の底面が赤みを帯びて黄金色に輝いている。あまりにも美しい朝焼けに思案した。今日の天候の具合を深く思案した。
 『おっ!パリヌルス、おはよう』
 朝行事を終えてユールスの手をひいたアエネアスが声をかけた。その声に我にかえったパリヌルスが挨拶を返した。
 『あっ、統領、おはようございます』
 『おはようございます』
 オキテスが近づいてきた。アカテスも来た。彼らは浜に並んで、東の空の美しい朝焼けを眺めた。彼ら全員が今日を思いやる表情でこの景色を見つめた。
 『オキテス、どう思う。今日の空具合だ』
 『俺は、空を見て天候を深く考えたことはない。見当がつかん』
 『朝焼けと空模様、異国の海域で見る朝焼けだ、経験がないゆえの思案だ。昼過ぎまでのことだ、お前の予感を聞かせてくれ』
 『まあ~、考えさせろ』
 そこへセレストスが朝食の仕度が出来たことを知らせに来た。
 『判った、有難う。オキテス、めしを食べながら考えよう』
 彼らは、朝食の場に足を向けた。*

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  128

2012-09-21 06:38:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスがパリヌルスを呼びに姿を見せた。
 『パリヌルス隊長、一同、揃いました』
 『おっ、そうか。よしっ、いま行く。お前、オキテスに声をかけていってくれ。俺は、オロンテスを連れて行く』
 パリヌルスは、オロンテスをねぎらいながら、船長、副長ら一同が集まっている場へ歩を運んだ。
 『おうっ、諸君!ご苦労。皆いるな、打ち合わせを始める。先ほども言ったように、クレタ島への航海も最終段階に至った。あと、2日~3日の航海でクレタ島の西部ハニアあたりの浜に着く。明朝は天候の具合を見たうえで朝食を終えたら、この浜を後にする。明日の目指す停泊地は、ミロス島の浜である。順調に航走すれば、昼過ぎにはミロス島の浜に着く』
 パリヌルスは言葉を切って一同を見渡した。
 『ミロス島からクレタ島のハニアまでは、島ひとつない海原を真っ直ぐに南下する。この海域では嵐にあいたくない。もしだ、もしそのような事態に至った場合は、船団はつながりが断たれ、海原を漂い、どこに行き着くか、全く判らん。また海の藻屑となってしまう。それ故に我々は、天候に気を配って航海を続けている、判るな。そのようなわけで2日の航海に3日の予定としている。早朝にミロス島を出航すれば、日没の頃にはクレタ島のハニア近辺の浜に着く。明朝の出航については、船団はこの浜から南西に向かってミロス島へと進む、いいな。以上だ』
 『判りました』
 力強く返事が返ってきた。
 パリヌルスは、各自と目線を合わせて頷きあった。彼の思いは、何としてもこの航海を無事に成し遂げたい。その一念であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  127

2012-09-20 06:37:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 全員に向かって話しかける統領の声が聞こえる。
 『、、、。我々のこの長途の航海も、あと2日、余裕をみて3日で終える。各人、頼むぞ!では、乾杯だ。オキテス、乾杯の掛け声だ』
 『全員、杯を持て!酒が満たされているか!この航海を無事に終える!乾杯っ!』
 『ワオッ!』『ワオッ!』『ワオッ!』
 歓声が沸き上がる、空杯が宙に舞った。全員の大歓声が場を一気に沸かせた。
 彼らにとって焚き火を囲んでの夕食は久々であった。火を通した肴を口にした。オロンテスが気を利かせて焼きあげたパンは上々のうまさであった。アーモンドを砕いてぶどう酒でパン生地を練り、その香りが鼻を突くこの上ないうまいパンであった。招かれた浜の者たちもうまい食べ物を口にする驚きの風景がそこにあった。
 アエネアスは、パンをほおばりながら、周りの者たちと言葉を交わしていた。
 『おうっ、このパン、なかなか気が利いているではないか。『オロンテススペッシャル』といったところかな』
 『そうですね、初めて口にする風味です。うまいっ!このひと言です』
 彼らは、ほんのりとした酔いで話に花を咲かせて語りあった。
 夕陽の茜色、秋宵の藍色の浜辺、秋の風情の中にくりひろげられた、ほのぼのとした風景であった。
 浜の住人たちも一夜を留守にした自分たちの住まいに引き揚げていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  126

2012-09-19 06:42:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、イリオネスとともに従卒2名を連れて、住民たちがこもっている茂みにおもむいた。
 彼らは好奇な目で、我々のほうの情景を茂みの葉陰からうかがっている。二人は茂みに間を置いて立った。彼らの身構えている雰囲気が感じられる。パリヌルスが最初の声がけを行った。
 『浜頭はいないかな?浜頭だ。浜頭はいるか。我々は、お前たちが思っている海賊ではない。我々はお前たちに害を為す者ではない。判るか。浜頭と話をしたい』
 相手はパリヌルスらの風采を見て、こちらのことを察したらしい三人の男たちが茂みの中から出てきた。浜頭らしい男が口を開いた。
 『私が浜頭だ。何用か知らんが話を聞こう』
 パリヌルスは、クレタ島への旅をしていることを簡単に説明して、彼ら住民たちを夕食の場へ誘った。彼らも腹を空かせていることを感じとっていたのである。住民たちは子供を含めて60人余り10家族くらいである。
 パリヌルスたちは、きびすを返した。
 『さあ~、浜頭。行きましょう』
 そのひと言で、浜頭と住民たちは怪訝な構えを崩さずについて来た。
 夕食の場では、彼らの場を作るのにオロンテスは気配りをしていた。市民の女たちや子供たちの場の隣に彼らの場がつくられていた。一同が彼らを拍手で迎える風景がそこにあった。彼らも安堵した風情で場に座した。
 数少ない市民の女たちが彼らに手を差し伸べていた。彼らの堅く閉じられていた心身の扉が開かれて場になじんでいく。彼らが抱いていた怖れの垣根が、徐々に取り払われていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  125

2012-09-18 06:20:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、略図を見ながら、クリテスと二言三言、話し終えて口を開いた。
 『よく判った。我々はクレタ島のハニアを目指す。我々の目指すクレタ島の上陸地点はハニア以外にない。パリヌルス頼んだぞ。以上だ。いいな』
 アエネアスは話を締めくくり、一同と目線を合わせた。
 『判りました』
 一同は声をそろえた。オキテスがパリヌルスに声をかける。
 『ところで 明朝の出航は何刻とする?パリヌルス、それを決めておこう』
 『明朝の雲行き次第だが、朝めしを終えてからとしているが。ことと次第によっては早まるかもしれん。それでいいか』
 『いいだろう。その段取りで行こう』
 『あ~あ、軍団長、お願いです。夕食のときに統領から皆にひと言、話をしていただければと思っています。頼んでおいてください。そのひと言が皆を奮い立たせます』
 『判った』
 オロンテスが姿を見せた。
 『打ち合わせ終わりましたか』
 『おう、今、終わったところだ』
 『夕食の準備が出来ました。パンつくり作業も終わりました。いやあ~、とても旨いパンに焼けました。皆を場につかせようと思いますが』
 『そうか、それはよかった。ところで浜の住民たちのことを簡単に説明してくれ』
 『彼らは、私らを海賊と勘ちがいしている、それだけです。もう、我々が害を為さないと判りかけているはずです』
 『そうか。それにもうひとつ、我々の言葉が通じそうか?』
 『それは大丈夫。いけると思います』
 『夕食の場に余席があるか。住民の分だ。パン、その他を含めてだ』
 『それについては、判りました。何とかします、ご心配なく』
 『軍団長と俺が行ってくる。皆が場についたら始めてくれていい。統領のひと言があるぞ。いいな』
 『判りました。待っています』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  124

2012-09-17 07:03:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、アレテス、ご苦労。皆、そろったか。判った、よし行こう』
 軍団長は統領の許へ、三人は、船長、副長たちのいる場へと向かった。
 『おうっ!諸君ご苦労。今日、これからの予定を伝える。全員に伝えて、即刻、手配りを頼む。いまから、半刻後くらいから、今日の夕食とする。全員、身をさっぱりして所定の場所に集まってくれ。尚、夕食の場はオロンテスの配下の者たちが整える。それから、夕食を終えたあと君たちには、もう一度集まってもらう、いいな。明日からの航海の概略を伝える。以上だ。いいな、かかってくれ』
 オキテスとパリヌルスは、統領と軍団長のところへ、オロンテスは、作業指示と夕食の場つくりへと向かった。
 統領を交えての打ち合わせは、クリテスを加えて、パリヌルスの航海経験によって組み立てられた日程で話し合った。
 クレタ島へはあと200キロメートル余りである。まず、パリヌルスの懸念している天候について話し合い、キクラデス諸島の南端に位置するミロス島を停泊予定地としていることを説明した。このミロス島の近辺の小島が海賊の巣窟であり、奴らと遭遇したときの対応についても話し合った。終わりにクリテスが描いたクレタ島の略図を見ながら、上陸地点について話し合った。クレタ島は東西に長い大きな島である。そして、イリオネスがデロス島で耳にしたクレタ島の現在の情勢について話し合った。パリヌルスはこの航海におけるクレタ島の上陸地点を島東部のクノッソス近辺ではなく、西部のハニア近辺をめざしていることを話した。あくまでも全員の無事クレタ上陸と航海の安全を考えての計画であった。