『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  880

2016-09-30 04:58:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンが口を開く。
 『オロンテス殿、私が訊ねたいことは、こちら様のサイドでは、パンを焼いていかれるのに、どのくらいの小麦を使われるのかです。現在の在庫量で、いつ頃までの分に充当することができると考えておられるのかが、今回の買い付けの基礎になると考えられます』
 『私も少々考えが浅かったところがありますが、在庫量について大まかに考えていました。テカリオン殿の船がいつ来るか、在庫に不足をきたすようなことがあれば集散所から買い付け調達すればいいと考えていましたから、ちょっと在庫に関する意識が甘かったようです』
 オロンテスは、ここで言葉をきって思考を巡らせ話を継いだ。
 『現在の在庫量で20日余りはいけると考えられます』
 『オロンテス殿、私から申し上げることが2点あります。私の取引先として、こちら様が小麦の取引きに関しては一番大きな取引先なのです。これだけの小麦を買い取っていただくところはこちら様だけなのです。そのようなわけでいかなる事情があろうとも小麦の取引に関しては、こちら様を最大限に大切にしております。そのようなわけで小麦の新物が出廻るようになりましたら、即刻、こちらへ来るということを約束します』
 テカリオンは、真剣に真情を吐露した。ひと息つく、今回の商談の正念場である、彼は踏ん張った。
 『オロンテス殿、のどが渇きましたな。何か飲みませんか?』
 『おう、これはこれは、気づきませんでしたな』
 オロンテスは、イリオネスに言って、棚の上にあるぶどう酒を杯に注いで、三人はのどを潤した。
 間を取ったテカリオンは、考えを巡らせて、商談を仕切りなおした。
 『次回の訪問は、今日から数えて40~50日後くらいにこちらへ伺います。今、現在、船に積んでいる小麦は、先ほど見ました在庫量の約2倍くらいです。船積みしている全量の小麦をこちら様に納品するとすれば、在庫量が60日分くらいになると考えられます。そのようになれば、いい具合に事が運ぶと考えられます。新物を納品する時におけるこちら様の在庫量に関して、それ相当の値引き又は他の方法も考えて善処いたします。オロンテス殿いかがでしょうか、ご一考ください。決してご損をかけるようなことは致しません。約束いたします』
 『解った、テカリオン殿。軍団長にこのことを報告する。少々待たれよ』
 オロンテスは、イリオネスに今回の取引の概要を説明し報告した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  879

2016-09-29 05:32:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスもテカリオンも頭をフル回転させて考えている。
 二人の思惑に違いがある、テカリオンの売る利益、オロンテスの小麦を費消する利益、自利を優先して多利を計る。ここに二人の商談の駆け引きが存在している。二人はが脳漿を絞る、テカリオンは売る量を計る、オロンテスは買い付ける量を思考した。
 商談の場となるイリオネスの宿舎に着く。
 『軍団長、オロンテスです。ただいま着きました。入ります』
 二人は戸口をくぐる、商談の席に就く、イリオネスが口を開く。
 『おう、テカリオン殿、このたびはご苦労。前置きなく、即、本題に入る、いいな。前回の仕入れの残債務の決済を済ませる。それが終わって今回の買い付けの話をする』
 イリオネスは、木板と木炭をテカリオンに向けてテーブルの上を滑らせた。テカリオンは持参した木板をを見て、差し出された木板に数字を書き記しイリオネスに提示する。
 『オロンテス、間違いがないか照合してくれ』と言って、数字が書き込まれた木板をオロンテスに手渡す、前回の取引時に交わした木板の数字と慎重に照らし合わせた。
 『軍団長、間違いありません』
 『そうか、よしっ!オロンテス、手伝え』
 イリオネスとオロンテスは、集散所の木札を格納している部屋から木札を運んだ。
 『テカリオン、君が提示した数字に間違いことを確かめた。木札の枚数を確かめて受け取ってくれ』
 『ありがとうございます。では、受け取らせていただきます』
 テカリオンは木札の枚数を確かめることなく袋数のみを数えて、端数の木札を数えて、受け取りのサインを木板に記し、イリオネスに手渡した。
 『おっ!これでよし、残債の決済は終わった。オロンテス小麦の買い付けをどうするか、テカリオンと交渉して決めてくれ。ところで在庫量を確かめてきたのか?』
 『はい、こちらへ来るときに小麦の貯蔵庫を見てきました』
 『おう、そうか。オロンテス、季節がこの時期だ新物が出るまで1か月余りだと考えられる。仕入れ量を慎重に決めろよ』
 『解りました。テカリオン殿が次にここに来るのがいつ頃なのか?時期、在庫量、その間の使用量等を考慮して買い付け量を決めます』
 『それからだが、集散所が小麦を買ってくれと言ってくるかもしれんぞ』
 イリオネスがテカリオンとの商談を牽制する言葉を投げかけてくる。これを聞いて、オロンテスとテカリオンは目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  878

2016-09-28 09:35:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 建造の場には、アヱネアス、イリオネス、オロンテスが顔を見せている。
 『統領殿、軍団長殿、オロンテス殿、おはようございます』
 『おう、テカリオンどの、おはよう。こんなに早く、いかがされた?』
 『今日は皆さんに倣って朝行事をして、こちらに来たら、オキテス殿と一緒になり、朝食を馳走になりました』
 『ほう、そうか、それはよかった』
 かわって、イリオネスがテカリオンに声をかける。
 『テカリオン殿、小麦に関する商談をやろうかな。場所は私の宿舎でやる』
 『はい、解りました、結構です。一度船に戻って準備してきます。お待ちいただければ幸いです』
 『私は先に帰って宿舎で待つ、オロンテスと一緒に来ればいい』
 『解りました、そういたします』
 アヱネアスがオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、昨日、スダヌスと交わした話のくだりを聞きたい』
 『解りました。どこか場所を変えましょう』
 『おう、そのほうがいいな』
 二人は人気のない浜の場所を決めて、草地に腰をおろした。オキテスは、スダヌスが後日に話すといったところに到達するまでの話をアヱネアスに話した。
 『そうか、そうであって当たり前だ。明日、キドニアで会って結論を出そう』
 『私もその場に立ち会ってよろしいですか?』
 『おう、そうしてくれ。その方がスダヌスも話しやすかろう』
 『解りました』
 これで戸惑っていたオキテスの明日のスケジュールが決まった。
  
 待っているオロンテスのところにテカリオンがやってくる。
 『オロンテス殿、行きましょう。待たせました』
 『おう、テカリオン殿、軍団長の宿舎に行く前に、小麦の貯蔵庫を見て、在庫状況のチエックをしていきます。ああなたも見れば、いろいろ判断ができます』
 二人は、パン工房の近傍にある小麦貯蔵庫へ足を運んだ。
 『オロンテス殿の勘ではいかがですかな?これだけの量があればーーー』
 『そうですな、一か月半くらいはこの量で行けます』
 『そうですか解りました』
 小麦貯蔵庫を出て宿舎の方へと歩を向けた。
 テカリオンは頭の中で船に積んでいる小麦の量、次回の訪問時期等を考えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  877

2016-09-27 04:19:27 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、ギアスとの打ち合わせを終えて、急ぎ建造の場へ戻る、ドックスと早朝の打ち合わせを行った。
 『ドックス、そういうわけだ、解ったな。お前も忙しかろうが、納入引き渡し第一号艇の諸準備よろしく頼む』
 『解りました』
 ドックスから快い返事が返る、その場にテカリオンが姿を見せる。
 『あっ!オキテス殿、おはようございます。私も皆さんに倣って朝行事を終えました。すっきりさわやかです』
 『そうか、いいものだろう。テカリオン殿、朝めしは?』
 『はい、船に戻って食べようかと』
 『朝めし、一緒に食べないか?例のスペッシャルパンだが、どうだ』
 『いいですね!一緒します』
 『決まりだ、行こう!建造の作業に携わっている者たちと一緒だが』
 『いいですね!大勢で食べる、好きですその雰囲気、うまいの一語です』
 二人は連れ立って食事の場へ向かう、テカリオンは、彼らと朝食を共にした
 『オキテス殿、昨日、ヘルメス艇に試乗して解ったのですが、ヘルメス艇で実験して具合を確かめて、新艇を造りあげていく、よくやられましたな。ヘルメス艇は、あのクラスの船としていい性能です。船体構造も性能を考えて、いい造りだと感じ入りました』
 『そういわれると少々照れるな。新艇建造に携わる者たちが、考えて考えて、いい船にしようとした結果がヘルメスです。新艇は使っていただく方に満足をとどけたいと考えています』
 『新艇を見せていただきましたが、いい船であるといえます。エノス時代の船とは格段の違いです』
 『エノス時代に造った船ね。それを考えると背筋に冷たいものが走る、しかし、あれがあって、その時その時で脳漿を絞り才智の限りを尽くして、ものづくりに励んできたわけです。それが今日の我らのものづくりです。あれがなければ、我らの今はないと考えられる』
 『ものづくり集団としての大いなる進歩ですな』
 『そういうことになるかな』
 二人は過ぎたエノス時代を振り返っている、エノス時代が遠い昔に感じられる、二人には不思議と笑顔が浮かばなかった。
 『テカリオン殿、今日の予定は?』
 『これから軍団長殿とオロンテス殿と三人で小麦の商談です。それを終えたら新艇に関する話し合いを皆さんと交わしたいと思っています』
 『そうですか、了解いたしました。昼も食事が一緒になりそうですな』
 朝食を終え、話を済ませた二人は、建造の場に歩を運んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  876

2016-09-26 10:10:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、テカリオン殿、ようこそ、俺らが浜へ訪ねて来てくれた。我々は、遠来の客を迎えることは少ない。君の来訪を心から歓迎する。夕食を場を共にして楽しく過ごしたい。特別はないが存分に楽しんでもらいたい』
 アヱネアスは、口上を簡単に述べて『乾杯!』を告げ、夕食が始まった。
 テカリオンがアヱネアスの歓迎の辞に応えて礼を述べる。
 『統領殿、そして、軍団長殿、そして、皆さん、厚く歓迎していただいて、ありがとうございます。このように私たちを迎えていただき、心から御礼申し上げます。また、ここにいる私どもだけでなく乗り組みの者たちまでに、心遣いをいただき、誠にありがとうございます。深く深くお礼申し上げます。これは、私が道中で手に入れた品です。お納めいただければ幸いです』
 彼はそのように述べて持参してきた品を差し出した。
 受け取るイリオネス、沸きあがる拍手、披露するイリオネス、一同が珍しい品に接して感動の声を上げた。
 互いに酒を注ぎつ、注がれつ口に運ぶ、焼きあがる肴に舌鼓を打つ、集う者たちの和みが頂点に達する、彼らは笑顔を合わせた。
 アヱネアスがテカリオンに言葉をかける。
 『テカリオン殿、君がこのようにして、俺らが浜に来てくれる、君の話を聞く、それがすごく楽しいのだ。君がもろもろのところを巡って見聞に及んだ話を語る。それを聞くのが楽しいのだ。我々にとって、ニュースであり、その話で時代の流れを知り、我々として方向を誤らずに進んでいける』
 『統領にそのように言っていただけるとは、私にとって、とてもとてもうれしいことです』
 一同はテカリオンの語る見聞話に耳を傾けて聞き入った。
 彼の話は、エーゲ海沿岸のギリシアの話、アテネの近況、キクラデス諸島、西アジアのエーゲ海沿岸諸国に至るまでの広い地域、クレタ島東部等の諸状況の話、一同の興味をそそる話であった。
 夜も深更に到って、話題に満ちた夕食会は終わった。

 いつもながらの活気に沸く朝となる。オキテスが急いでいる、出航前のヘルメスのギアスとの打ち合わせに走った。
 『おう、ギアス、人選は終わっているな?』
 『はい、終っています。人員総数は7名、パリヌルス隊長が予備人員でいくようにとの指示を受けて選びました。班長はイケダスです。朝食を終えたら、建造の場に行ってオキテス隊長の指示に従うようにと一同の申し渡してあります』
 『そうか、よしっ!解った。お前は、キドニアに行って来い』
 荷積みを終えたヘルメスは、キドニアに向けて波を割った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  875

2016-09-23 05:02:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス隊長、今日、キドニアでテカリオン殿がヘルメスに試乗されたのです。テカリオン殿からはいい評価をいただきました』
 『そうか、それはよかった。自信をもって仕事に取り組む、そうでないと仕事を粗忽にしてしまう』
 『ところで明後日のキドニアへの新艇曳航の件ですが、明日の夕刻にオキテス隊長から、その要領についての説明があります』
 『曳航する新艇には、何人くらい乗り組むことになっている?』
 『はい、操舵担当一人とその他担当三人の四人ですが』
 『それは少ないな。五人か七人にしておくほうが無難だな。曳航進み具合の制御櫂操作に四人から六人が必要とと考えられる。制御櫂操作を三人でやることは無理だと考えられる。その腹づもりで人選をしておくことだ。説明の時に意見具申をすればいいだろう』
 『判りました。そのようにします。今日これから人選します。以上です。では、行きます』
 『おうっ!』
 
 建造の場では、オキテスが統領と軍団長に今日の結果を報告している。
 『まず、新艇引き渡しに関する件から報告します。新艇納入引き渡しは、午前半ばころから、キドニアの船だまりで行います。当方からは、統領、オロンテスと私、集散所からは、所長、ハニタスとトミタスの新艇の担当が場に臨みます。それからスダヌス浜頭も参席します』
 『ほう、そうか。』
 『納入に関して、贈呈する品々の準備、新艇にデコレートする幕布類の準備もしてきました』
 『そうか、それはご苦労であった。ところであの件はどうであった?』
 三人が改めて目を合わせる。
 『では、特命の件について報告いたします。結論に至りませんでした。スダヌス浜頭は戸惑いいたしました。スダヌスにとって、スオダの浜事情もあり、そこでの思案です。明後日、統領がキドニアに行かれた折に再度話し合うことになっております。以上です。スダヌス浜頭との話し合いの内容については、明日話します。それでいいですか』
 『おう、判った。それでいい』
 イリオネスが答えた。
 セレストスの報告も終わった。浜一円に終業の時が訪れている。
 オロンテスは、夕食の場を整える作業に集中して指示を出している。テカリオンを招いての夕食会は広場に設営した。
 『おう、上等だ!細かい気づかいは必要ない。野趣豊かであればそれでいい。後を頼むぞ。俺は統領たちと客人を呼びに行ってくる。場の出来上がりを確かめて、肉、魚を焼き始めてくれ』
 オロンテスは、統領ら、客人たち、パリヌルスらを夕食の場にいざなった。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  874

2016-09-22 05:12:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、パリヌルス、君らが開発して製作した新艇を買うについて、統領、軍団長、オキテスらに話す前に君に話しておこうと考えている。いいか。まあ~、言ってみれば、新艇買い付けの俺の方針といったところだ。それは俺の方針であり誰も踏み込めない。俺の商いに関する領域だ。お前と言えどもそこには侵入できない。そういうことだ』
 テカリオンはここで言葉を切ってパリヌルスの目をじい~っと見つめた。話を継いでいく。
 『新艇の買い付けの交渉のことだが、集散所に対してもう始めている。四日後には商談はまとまる。五日後には新艇を引き取る。それまでに新艇は出来あがっているな。艇数、価格は、現時点ではまだ決めてはいない。そういうことだ』
 パリヌルスは、テカリオンの言うことを静かに聞いている。テカリオンは話し続ける。
 『ところでだ、お前が作ったと思うのだが、あの仕様書きと姿形図だが、あれはいい!まことにいい!あれを見れば新艇の概要が一目瞭然で解る。あれはものを売るのに最高のツールだ、俺の目からウロコだった。お前、実にいいものをつくったな。まさに感動関心ものだ。ところでだ、頼みだ、あれを各5まいづつほしい』
 テカリオンは要望を伝えた。
 『判った。お前、ここにいつまでいる?』
 『明日を商談日としている。今晩と明晩はここにいて、一度、キドニアに戻って四日後に集散所と商談の締結をする。五日後には新艇を引き取りたい。新艇を引き取るまでに作ってくれればそれでいい』
 『了解した。お前の予定に合わせて作成する。それからだがお前と話したいことがある。明晩でいい話をしたいその機会を作ってくれ』
 『判った。その話、他人に探られるのは嫌だろう、俺の船でどうだ。夕めしを一緒にするということで決まりだ』
 『おう、それでいい』
 二人の話し合いは終わった。
 
 ヘルメスが帰ってくる、オキテスが建造の場へ足を運ぶ、ギアスがパリヌルスのところへ来る、セレストスがオロンテスの所在を探す、彼らの多忙に拍車がかかった。
 パリヌルスのところへ来たギアスが一緒にいるテカリオンに声をかける。
 『テカリオン殿、ヘルメスの試乗、今日はありがとうございました』
 『ほう、試乗の礼か、その礼だったら俺がお前に言いたいところだ、ありがとう。いま、パリヌルスと話していたところだ。ヘルメス艇の乗り心地のいいのは、ギアス、お前の操船技術の良さだと思っている』
 『それは、艇体が持っている機能です。それ以外はありません』
 『お前、うまいこと言うな。俺は操船する艇長の技術だと思っている。新艇を買うならギアス付きで買いたい、それだったら買値が高くても構わん』
 『テカリオン殿、それは過ぎた冗談でしょう』
 『お前、そのように思うか。それは違う、俺の本心だ!ハッハッハ』
 テカリオンは全く他意を持たず、気持ちよく笑い声をあげた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  873

2016-09-21 04:56:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンにオロンテスの姿が目にはいった。
 『お~お、オロンテス殿、お久しぶりです、お元気ですな。元気が何よりとあいさつ申し上げます』
 『あ~あ、テカリオン殿、いつもいつも世話になっています。あなたも元気そうで何よりです。なんぞ儲かる話はありませんか?』
 『オロンテス殿、商売気たっぷりですな。儲かる話をしないといけませんかな、あいにくと儲け話を詰めた袋を船において来たようなわけで、それはまた、のち程にということで』
 『いやね、テカリオン殿からのもうけ話が一番の頂き物でしてな』
 『これはうれしい、手厳しいところもありますな。お手柔らかにお願いいたします。ワッハッハ!』
 二人は高らかに笑いを交歓した。
 『ところで、オロンテス殿、例の堅パンいかがです?なんぞ手を加えられて、あらためられましたかな?』
 『はい、あれから研究しまして、少々改良しました。あとから持ってきます、食してみてください。集散所における売れ行きも安定してきています。パンの売り上げが減るかと気にしましたが、反対にプラスになってきました』
 『そっそれはよろしかったですな』
 『口に入れるものの売れる売れないは、味と食感にありますな。いやいや、勉強になりました』
 『それはそれは、ぜひ味見をしたいですな。待っております』
 『ところで今夕の夕食の件ですが、あなたと一緒されるのは何人ですかな?それから乗り組みの人らは何人ですかな?』
 『こちらの相伴になるのは二人です。乗り組みの者たちへの気遣いはいりません』
 『そのようなわけにはいきません。今とても豊漁が続いていますが、とれる魚がこまい、子魚の獲れ時期ですな、この子魚にひと塩、一日干し、中骨も全て食べれてうまい!それを皆さんに馳走したいと思っております』
 『それはいいですな、あまえます、馳走になります。乗り組みの者たちは 25人です』
 『判りました。では、あとで』
 オロンテスは場を去っていく。テカリオンはドックスとも交歓してうちとける。彼はパリヌルスに声をかけた。
 『おう、パリヌルス、皆さんともとの挨拶も終わった。新艇について少しばかり話しておきたい。いいか』
 『判った。向こうで話をしようか』
 テカリオンは二言三言イリオネスと話をして、パリヌルスと連れ立って建造の場をあとにする。二人は浜の静かな場所を選んで腰をおろした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  872

2016-09-20 05:04:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『おう、パリヌルス、元気だったか?』
 『おう、お前はどうだ?』
 二人は目を合わせる。
 『互いに元気でこうして会えた。この上はない』
 二人は、腕をからませた。
 『パリヌルス、力に衰えはないな、何よりだ。こうして会える、俺はうれしい!しかしだ、お前らなかなかやるな。お前らが集団として、持っている力、見あげたものだ!このテカリオン、全く恐れ入るぜ』
 『テカリオン!このたびは、よく来てくれた。統領も軍団長も新艇の建造の場だ。行こう!』
 二人は肩を並べて、海の水でしまった波打ち際を歩み始めた。二人の話が途切れない。
 『パリヌルス、キドニアの船だまりでアサイチにオキテス殿に会った。忙しそうにしていたな』
 『そうか、奴も、このところ多忙の毎日だ。新艇の第一号納入が明後日に控えている』
 『ところで、キドニアでヘルメス艇に乗った。船として進化しているではないか。走行安定性がよくなって、あの吃水なら船足も速いはずだ。帆張りの構造もなかなかだ。あの帆張り構造は、大型船に採用される日が来るな』
 『そうかな、一度、軍船で試してみる』
 二人は、話しながら建造の場に着いた。
 建造の場では、統領と軍団長は、訪問客と歓談を交わしている、二人はテカリオンの姿に気が付く、目が合う。
 『あっ!統領に軍団長!ご無沙汰しています、お元気で何よりと存じます。私もこの通り、おかげさまで、すこぶる元気に仕事に励んでおります。このたびの新艇5艇同時完成の快挙、心から祝辞を申し上げます。おめでとうございます。このような船の建造方式、世界広しと言えどもギリシア辺りにもありませんし、まさに画期的な快挙と言えます。評判になって当然です。重ねておめでとうございます。誠に喜ばしい限りです。キドニア辺りでは新艇が大変な評判ですな、イラクリオンあたりでも話題になっています。こちらに来る途中に耳にしました』
 『おう、テカリオン。丁寧なあいさつ、ありがとう。いろいろあなたの力も借りねばなりません。よろしく頼みます』
 『軍団長殿もお元気の様子何よりです。このたびの壮挙、心から祝辞、賛辞を贈らせていただきます。おめでとうございます。ご用がありましたら何なりと申し付けてください。私は、こちら様との取引きをこの上ない喜びとしております。何卒宜しくお願いいたします』
 『おう、言ってくれるな、テカリオン殿、こちらこそ、君がいろいろと力になってくれていることに喜んでいる。新艇が出来あがる、何かと力を貸してほしい。挨拶はこれくらいにして、船旅の疲れを落としてくれ。商談はアサイチからやろうではないか。夕めしは一緒ということで準備している。新艇の建造の様子を目に収めてくれ』
 テカリオンは、新艇建造の様子を得心のゆくまで見て廻った。
 そうこうしている間に聞き覚えのある声を耳にして顔を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  871

2016-09-19 03:45:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。

 『おう、ギアス、ちょっと打ち合わせだ。手すきの間にやっておこう。明後日ののことについてだ。明後日には、新艇第一号の納入引き渡しをやる。引き渡し場所はこの船だまりということになる』

 ギアスがオキテスに目を合わせてくる。

 『それでだ、新艇をヘルメスで、この船だまりまで曳航してくることになる。新艇はデコレートしている。俺の考えでは、曳航してくる新艇に乗り組んでいるのは、操舵をする者を含めて4人くらいがいいのではと考えている。そのメンバーは船の扱いに慣れている者がいいと考えている。人選は、ギアス、お前に任せる。ヘルメスに乗り組んでいる者から選んでくれ。いいな』

 『はい、解りました』

 『できれば、人選を今日中にやっておいてくれ。明日、その4人に曳航に関する留意事項を説明する。また、曳航の要領に関する打ち合わせは、明日、お前がキドニアから帰ってきてからやる。明日の予定に組み込んでおいてくれ。以上だ』

 『了解いたしました』

 二人は打ち合わせを終えた。セレストスがスタッフたちを連れて船溜まりに来る、一同は帰途に就いた。

 このころ、テカリオンの船は、海の上を追い風に押されて西へと波を割っている。テカリオンは船上にいる、目指す浜が見えてくる、彼は今日これからの段取りを思案した。

 不思議だ、結果が見える、事が算段した通りに進み、望んだ結果に決着するのがまぶたの裏に描ききれた。

 彼は、程よい水深の地点に船を停める。浜にいる者たちの目線を感じる、手を振るパリヌルスの姿が見える、ハシケが向かってくる。『ほう、出迎えのハシケか』横づけたハシケに身を移す、『おう、ありがとう』ハシケはパリヌルスのたっている波打ち際に到る、飛び降りるテカリオン、歩み寄るパリヌルス、二人は久しぶりの邂逅に、目を合わせる、ヒシッと互いの肩を抱く、二人は見つめ合う。

 テカリオンは、パリヌルスの身に接近している未来を感じた。このパリヌルスを通じてテカリオンは、トロイから落ちてきた、この一族に変化の兆しのあることを感じ取っていた。