『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FRIM TROY   第7章  築砦  623

2015-09-30 06:53:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 本日の投稿で掲載ナンバーの打ち込みを間違えました。お詫びします。
 
 622  を  623  と訂正いたします。

     山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  622

2015-09-30 05:44:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ガリダ殿、オキテス殿、これで私らも新しい局面に歩を進めることができます。決めるべきことが決まらないと、物事の判断、大切な要因をいい加減にしてしまう。それは許されないという姿勢です。宜しくお願いします』
 『ハニタス、理解した。宜しく頼む』とガリダ。
 『私らも、この件了承しました』とオキテス。
 一同は少々の間雑談を交わして会合を終えた。
 ガリダ、オキテス、オロンテスの三人は、会合を終えた部屋をあとにした。
 三人はパン売り場にやってくる。オロンテスは、売り場の状況に目をやる。納得したオロンテスは、用意していた袋に詰めておいたスペッシャルパンを『オキテス、これをガリダ頭領に』と言い添えてオキテスに手渡した。
 『ガリダ頭領、これをお持ちください』と言ってパンを入れた袋を差し出した。
 『おう、これを俺にくれるのか、オキテス。ありがとう。俺はこれで帰る、よろしくな』
 ガリダは集散所をあとにした。入れ替わりにスダヌスが姿を見せる。
 『お~お、ご両人!事はうまく収まったかな?』
 『え~え、うまく決着しました』
 『そうか、うまくいったか、よかった。何よりだ。物事は出来るだけ多くの者が力を合わせてやる、それがいい。世の中の仕組み、、、それは必要があってできている、そのように考えればいいのだ。なによりも重畳であった』
 スダヌスは、それだけ言うと早々にその場を去った。二人はその後ろ姿を目で送った。スダヌスは、スダヌスなりにこのことの成り行きを気にしているらしいことがうかがわれた。
 『オロンテス、どう考えている?俺はこれで事がうまくいくと考えている』
 『そうであってほしい、それが偽りのないおれの本音だ。気を引き締めてやっていこう。努めていい結果を見たい。俺はそのように考えている』
 『判った。お前の言うとおりだ。パンの方の仕事が終わったのか』
 『おう、パンは売り切った。ワークイズオーバーだ』
 彼らは、売り場をひきあげ、船だまりへと向かう。
 『おう、パリヌルス、今日の仕事は終えたぞ。万事決着だ、我らが考えたとおりに事が進んでの決着だ。喜べ!帰ろう!』とオキテス。
 『パリヌルス隊長、今日は、ご苦労でした。試乗会もうまくいった。考えていた結果を得たように思われる。私はあれでよかったと思っているのだが、ガリダもハニタスも少々興奮気味であった。帰途に就こうか』
 彼ら一同は、ヘルメス艇上の人となった。ギアスが指示を発する、ヘルメスは静かに波を割った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  622

2015-09-29 06:11:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスとオロンテス、ガリダ頭領とハニタスらの一行は、集散所の一室に落ち着いた。
 ガリダが口を開く。
 『オキテス殿、いい試乗会でしたな。ハニタス殿、貴方はどう見ておられるかな?』
 『試乗会は、いい催しでしたな。あのようなことは誰でもやれるということではありませんな。私らがやろうとしていることの不明点を知ることができる。そういった点でもいい催しでした。そのように思っています。オキテス殿、いい催しでした』
 『私らが納めた用材で、あのようないい船が造られる。私として誇りに感じる』
 『船舶の試乗会とは前代未聞の催しです。オキテス殿、このあともやられるのですかな?』
 『そうです、このあと、三、四回は催行しようと考えています』
 『それはそれは、私らもめぼしい客を試乗会に招きたい、そのように致します』
 『オキテス殿、あと2回ぐらいは、乗ってみたい。あの壮快な走りが応えられない。洋上を駆ける、そんな思いの楽しさであった』
 『ガリダ殿、判りました。催行が決まり次第、その都度連絡いたします』
 『おう、頼む!』
 ガリダがハニタスに声をかけた。
 『ハニタス殿、本題の話に入ろうや』
 『ガリダ殿、私らが申し入れたこと考えてくれましたか?』
 『おう、考えた。脳漿を搾って考えた。今朝、オキテス殿に俺の考えを話した。このあとの話は、敬称を略して話を進めようや、かたぐるしい』
 『おう、それでいい』
 オキテスもハニタスも承諾した。
 ガリダが話し始めた。
 『ハニタス、集散所がやっている商いだが、君らが紳士的で公正であることは承知している。オキテスともよく話をした。俺としてはだな、乗り気かと問われると、そうではない気持ちがある。だがだ、ハニタス、この際、集散所に仲介の労をとってもらうことに決めた。当事者だけでもいいのだが、俺とオキテス側、そして、集散所の三者でやることにした。オキテス、ハニタス、これが俺の結論だ。そういうことだ。いいか、ハニタス、君の申し入れを承諾する。以上だ』
 『ここは敬称をつける。ガリダ頭領殿、ありがとう。集散所として、この仲介の労をとらせてもらう。オキテス殿、承知されたい。いいですかな』
 『了解しました。宜しく頼みます』
 ハニタスは、テミトスに目で合図を送った。
 酒と酒杯が会同している一同に配られる。一同が立ちあがる、各自の杯に酒が満たされる、ハニタスが口を開く。
 『話し合いがまとまりました。杯の酒を飲み干されたい』
 ガリダが凛とした声をあげる。
 『乾杯!』
 一同が杯の酒を飲み干す、拍手が起きた。
 ガリダ、オキテス、ハニタスの三人は、互いの手を固く握り合った。三者の話は決着した。
 事は、明日の価格決め第一回会合に向けて動き出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  621

2015-09-28 06:07:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、パリヌルス、ご苦労!まあ~、船の一同をねぎらって来い、俺はここで待っている』
 パリヌルスは、ヘルメス上の一同にねぎらいの言葉をかけた。
 『ギアス艇長、そして、漕ぎかた一同、今日はご苦労であった。試乗会は成功であったと言える。少々の間だが休んでくれ。ありがとう!ギアス、俺はテカリオンとちょっと話してくる』
 彼はテカリオンのところへと戻る。
 『俺も一休みする。テカリオン、お前の予定はどうなっている?』
 『おう、今日はキドニアで宿をとっている。明日の昼過ぎには、お前の浜へ行く』
 『そうか、待っている』
 『俺の船に行くか』
 『いいだろう』と言って、二人は船溜まりに係留しているテカリオンの船へと向かった。
 テカリオンが話しかけてくる。
 『しかし、なんだな、お前らやるな。今日、乗った船だが、あの船なかなかだ。あの三角帆なかなかいい。俺も初めての体験だ。あれはお前の発案か?』
 『おう、そうだが。簡単操作が課題であったが、帆の風ハラミの位置も課題の一つだ。詳しい理屈は解らんが、結果がいい。四角ヨコ帆と比べて、走りが安定している』
 『お前の言うとおりだ。中央帆柱に張る四角ヨコ帆の風ハラミ位置は、あの三角帆に比べて、少々高い位置かもしれんな。四角帆は、風が船を押すといった感じだが、あの三角帆は船を引くという感じがする。何はともあれ、いい船に仕上がっている』
 『ところでだが、理屈抜きでいい船に出来あがったと思っている。あの船の相場値だが、どれくらいかを知りたい、明日でいい、教えてくれればありがたい。取引のカタチとか詳しいことは明日だ』
 『解った。俺が買うとすればだが、どれくらいで買うか、その価格の事もある。が、お前らの都合もあることだ。あれだけの船が5艇も一時に完成して取引するのだ。関係する者もそれなりに多い、明日、俺の考えを話す。いいかな』
 『おう、それでいい。いい知恵をくれ。お前に会えることを待っていたのだ。俺たちはこのような取引に疎いところがある』
 『そうだな。しかし、お前ら本当によくやっている。パンは焼くは、魚の取引はやるは、そのうえ、船を造る。大したもんだ。お前ら大所帯だからな。一族が生きていくことは大変なことだ。そのうえ、有利な条件ではなく一族を率いている、その苦労がよく解る。そのうえ、建国という使命まで持っている』
 『まあ~、生きていくのに無我夢中といったところであることは間違いない』
 『お前ら本当によくやっている。俺らもやっているが、お前らに比べると話にならんくらい小さい。力になれないことは済まないと思っている。しかし、お前は、俺によくしてくれている。ありがたいと思っている。感謝している』
 テカリオンは、パリヌルスを知っていた、そのつながりでアヱネアスの率いるトロイの一族との関係について、心情のごく一部を吐露した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  620

2015-09-25 05:00:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 西風が来た!風風感知器がいい風力値を示す、間髪を入れず、展帆指示を叫ぶギアス、帆張りは一本のロープを引くだけの簡単操作で完了する。
 一同は、その簡単操作に目を見張る。
 帆は、風をはらむ、帆が艇を引くと感じでヘルメスは波を割って進んだ。順風にしてはやや弱い感がある。
 ギアスは決めた、弱い順風であるが、帆走に切り替えた。ヘルメスは穏やかな走りで波を割って航走した。
 艇上の緊張がゆるむ、言葉が飛び交い始める。
 『四角ヨコ帆より帆面積が小さいように思われるが、風ハラミ効果に遜色を感じない』
 『帆張り、帆降ろしの簡単操作は注目に値する』
 『洋上を走る、航走安定が四角ヨコ帆に比べて、いいと感じる。西に向かっているときの、あの風の強さで、あの航走だ』
 艇上の招客たちの話し合いである、パリヌルスら三人は、話を聞きとっている。彼らからは、論理的説明をしろとは言ってこない、パリヌルスらとて論理については詳しくは解らない。人間が情感で生きている時代である。
 前方にキドニアの船だまりが見えてきた。ヘルメスは船だまりに入っていく、試乗会が終わりに時をむかえた。招客たちが岸壁上に降り立つ、パリヌルスらが丁重に礼を述べた。
 スダヌスが身を寄せてきて礼を言う、ハニタスが来て礼を述べる、ガリダは興奮している、パリヌルスとオキテスの手を握って、目を潤ませて告げる。
 『乗せてくれて、ありがとよ。いや、いい船だ。俺は、感じ入ったぜ!』
 彼は、話を継いで言う。
 『オキテス、集散所の方へ行こう。このあと、ハニタスを交えて、話をまとめよう』
 『おう、判った』
 ガリダは、ハニタスに声をかけて、三者で話し合おうと言っている。二人は承諾した。
 オキテスがパリヌルスとオロンテスに話しかける。
 『ガリダが、ハニタスと俺と三人で話し合おうといっている。俺は行ってくる、オロンテス、同席してくれ』
 『解った』
 テカリオンが三人に身を寄せてきた。
 『お~お、ご一同、ご苦労様ですな、いい試乗会じゃないですか。感じ入りましたな。このようなこと誰もしたことのないことです。話題になりますぞ』
 彼は、三人の顔を見つめて試乗会の催行を褒めた。
 オキテスとオロンテスは、ガリダ頭領、ハニタスらと連れ立って集散所へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  619

2015-09-24 04:48:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は言葉を継いで説明する。
 『帆のカタチによる風はらみで船は安定した走りをします。また、三角帆は風の量を多くはらみやすいように造っています』
 『ほう、なかなかだのう!この安定した走りの理屈は何だ?』
 『それについては私どももわかってはいません。帆のカタチ、風はらみ具合であるとしかわかってはいません。三角形に帆は、四角のヨコ帆に比べて、扱いが楽にやれることです』
 『それにしても、走りが壮快といえる』
 『この帆形は革命的といえる』
 『帆のカタチの常識を破っている』
 『中央帆柱に横げたがない、果たしてそれだがな、、、』
 各人が感じたこと、思ったことを言っている。そのような中にあって、テカリオンは、新艇の常識破りの走りを解析していた。
 『こいつら気は確かか?何というものを造るのだ』と内心で感じ考えた。彼は詳しいことを確かめねばならない衝動にかられた。と同時に新艇を買うと心に決めていた。
 試乗会は、キドニアの北の外洋を1時間にわたって西に向けて航走した。驚いたことに南方向はるかにニューキドニアの浜が見える地点までに差し掛かっていた。
 パリヌルスがギアスに声をかける。
 『ギアス艇長、風の読みはどうだ?』
 『北東からの風が弱く感じられます。方向を転換して、南下して海岸に近づけば、風は西風に変わると思います。西風に変わるところまで南下してキドニアに向かいます』
 『おう、それがいい』
 『微風でも三角帆が有効な働きをするか?それについては、俺は自信がない』
 『やってみます』
 パリヌルスは、艇上の一同に声をかけた。
 『皆さん、方向を変えてキドニアに向かいます。帆を下ろして漕走で帰途に就きます』
 艇上に拍手が起きた。
 ギアスは方向転換と帆おろし、漕ぎかたの開始を指示した。艇尾の帆は、西南に向けて吹く風をはらんでいる。ヘルメスは、東南方向に向けて進む、艇の進行方向の維持に役割を果たしているように感じられた。
 ギアスは風読みに集中した。帆柱の先端に結んだ布きれのなびく方向を注視している。海上の風が凪いだように感じられた。即、艇尾の帆も降ろす。
 ヘルメスが漕走で南下し始めて、四半刻(約30分)ギアスは西からの風を感じた。ここでオキテスが考案した造った風風感知器で風力を測った。風に力がない、漕いで南下を続ける、南下といっても東南の方向へである。
 ギアスの読みが当たった、西風が来ている、再度、風風感知器を手にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  618

2015-09-23 06:42:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同から拍手が起きた。
 『皆さん!乗船してください』
 パリヌルス、オキテス、オロンテスの三人が招客である11人をヘルメス艇上へと導いた。客人扱いを受けたスダヌスが口を開く。 
 『お前ら、なかなか親切だな』
 それを耳にした三人は顔を見合わせた。
 パリヌルスは、一同がヘルメス艇に乗ったことを確認して口を開く。
 『皆さん!今日は新艇の試乗会に参集いただき誠にありがとうございます。これより出港いたします』
 次いでギアスに指示を出す。
 『ギアス艇長、出航だ!ヘルメスを出してくれ』
 ギアスが声をあげる。
 『漕ぎかた、始め!』
 櫂が海面を泡立てる、ヘルメスが海を割る、岸壁を離れる、船だまりから外洋へと進む、艇上のギアスが風を読んでいる。
 進行右手に見える岬半島の海岸線からは離れてはいるが、その海岸線に沿って東寄りに北上して行く。この頃合いの海上地点では、西からの弱い微風である。ギアスの想いでは岬半島の突端を過ぎれば、北寄りの東からの風が吹いてくると読んで、試乗会の筋書きを描いていた。
 船だまりを出て四半刻(約30分)を経て、岬半島の突端ラインにさしかかる。風向きは、ギアスの読み通りである。やや北寄りではあるが強めの東からの風が来た。ギアスは方向転換を決断した。
 彼は、漕ぎかた一同と目を合わせる、ためらわず指示を出す、艇尾の操舵担当に声をかける。
 『進行方向転換!左へ、西方へ向かえ!』
 ヘルメスは大きく方向を変えた。北へ向かっていたヘルメスが90度西方へ進行方向を変えた。
 ギアスが声を飛ばす、
 『帆を上げっ!漕ぎかた止めっ!』
 風の力は、ヘルメスを押すにふさわしい力を持っていた。ヘルメスの中央帆柱に三角に近い台形の帆が展帆する、帆張りは風に順応して風をはらむ、帆は進行方向に対して、やや左方に向いて風をはらんでいる。
 ヘルメスは、波を割り、飛沫を飛ばして快走した。
 ギアスは進行方向維持のための展帆を決めた。
 『艇尾、展帆!』
 艇尾の帆が展がる、小型の横三角帆、タテ三角帆ノ2枚である。中央帆柱の帆は順風満帆、艇尾の帆は風向に抗っている。それでいてヘルメスは西方へ向けて快走といえる走りで波を割って航走した。
 『ほう、船が風向きのわりに西南に向かっていない』
 パリヌルスが風具合と帆の事について説明した。
 『風はらみが風向きに順応しやすくできているのです。艇尾の2枚帆が船の走行方向を安定させる働きをしているといえるようです。帆張りの作用で船が安定した走りをします。艇尾の帆の作用は風の強さに左右されます。展帆はその時その時で決めればよいのですから』
 パリヌルスは、思いつくままのたどたどしさで説明に及んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  617

2015-09-22 06:30:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ガリダ頭領の一行がオキテスと昼めしを共にする風景がそこにある。
 数人の人の群れが街区のはずれに見えてきた。集散所の者たちとスダヌスと同業の仲間たち、一行は私語を交わしながら、こちらに向かってくる。
 パリヌルスは、その中にオロンテスと話を交わして歩いてくるテカリオンの姿を見とめた。少々まだ遠い、パリヌルスの姿を見とめたテカリオンが手を振る。手を振ってこたえを返すパリヌルス、テカリオンが群れを抜けて、小走りに駆けだす姿を目にとめる、パリヌルスは身構えた。
 テカリオンがパリヌルスに飛びつく、肩を抱く、抱き返すパリヌルス、二人は互いの達者を確かめ喜び合った。テカリオンの心中は群れの中の誰よりも先にパリヌルスに会いたい、その思いがあふれていた。
 『おいっ!パリッ!元気であったか、話はオロンテスから聞いたぞ!お前らやるではないか。新艇5艇も同時建造とはな。誰の発想だ?』
 『ちょっと、考えられない発想だと俺も思っている。『やれるものならやってみろ!』と統領の発想だ。これには統領の深い考えががあると思っている』
 『そうか、その心境、解らんでもない。ヒマを見て二人で語ろう。今日、試乗会をやると聞いた、忙しかろう。手がいるなら言え、手を貸す』
 『今は、充分間に合っている。お前も乗るか?』
 『おう、乗る』
 『いいだろう。おまえとの話は、ニューキドニアの浜へ帰ってからだ』
 『解った』
 試乗会に参加の人の群れは、船だまりの岸壁の上に立った。彼らは係留しているヘルメス艇に見入っている。ヘルメスの漕ぎかた一同は、すでに艇上の漕ぎ座についている。パリヌルスはその光景に目をやった。
 『おう、こうして見るとなかなかだな』とつぶやいて、ヘルメス艇に見入っている招客たちの前に立った。口上を述べるパリヌルス。
 『皆さん!ようこそ!試乗会においでくださり、ありがとうございます。日和は申し分ありません。海にはいい風が吹いています。三か月後に完成する新艇5艇の試作艇のヘルメス艇です。今日の試乗を楽しんでください。試乗のリード役を務める、私、パリヌルスです。艇上の漕ぎ座についているのが漕ぎかたの一同です。宜しくお願いします』
 パリヌルスは、一同に向かって頭を下げた。
 彼が想定した試乗会の参加人数の予想は多くて6,7人くらいと見積もっていた。それが何と10人を超えている。彼は試乗会にやりがいを感じた。
 ガリダ頭領がたの3人、集散所よりの4人、スダヌス同業の3人、そして、テカリオンと11人である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  616

2015-09-21 04:51:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスがパリヌルスに話しかける。
 『隊長、午後の風向きは、この方向からの風が多くなります』と手をかざす。
 『その時点で風を読んで進路を決めてやりたいと考えます。任せていただけませんか』
 『そうか、解った。実行計画だが、帆走距離をできるだけ長くして海上を帆張りで走ってくれることを希望している。ヘルメス艇の走行安定性及び艇の簡単操作性を乗艇者たちに伝えたい』
 半拍間をおいてギアスが答えた。
 『解りました。そのことについてはうまくやります。任せてください。今日は、天候のくずれはないと考えられます。海もいい状態が続くと予想しています』
 『おう、判った』
 ヘルメス艇は、キドニアの岸を離れてかなりの沖合い地点にいる。いい追い風が吹いてきている。快走している、申し分がない。初夏を感じさせる陽射しが心地よかった。
 『ギアス!ヘルメスの状態のチエックが終わった。船だまりに帰る』
 『判りました』
 パリヌルスは、艇上の全員に声をかけた。
 『頃合いは早いが腹ごしらえをする、早昼めしだ。いいな。ところで、一同に伝える』
 彼は一同と目を合わせる。
 『今、我々は、新艇を建造している、判っているな。お前らが乗っているこのヘルメスと同型の新艇だ。今日、この新艇のトレードに携わる関係者を招いて試乗会を行う。招いた人たちに好印象を与えるように心配りをしてくれ。新艇は、走行安定性と簡単操作性を売りにしている。それをその人たちに強く印象付けたい。頼むぞ!いいな』
 『ワオッ!』一同が喊声をあげた。
 ヘルメスは船だまりに帰ってきた。パリヌルスは、その船だまりに碇泊している、見たことのある一艘の交易船に目を止めた。
 『奴が来たか』
 その船は、交易人テカリオンの船である。彼は心のうちに好事の重なりを覚えて身が震えた。
 一同は、岸壁の上に車座に腰を下ろし場をとり、早昼めしを終えて、出航の時の来るのを待った。
 オキテスが帰ってくる、連れがいる、ガリダ頭領と二人の手下たちである。パリヌルスが一行を迎えた。
 『ガリダ頭領、ようこそ!』
 『おう、パリヌルス、元気そうだ、何より何より。新艇の試乗会とはな、こんな催しははじめてだ。乗せてもらうぞ!俺の評価は辛口だぞ、いいな』
 『判っております。ガリダ頭領、昼めしは?』
 『お前、よう聞いてくれた、ありがとよ、腹ペコだ』
 『ガリダ頭領、こちらへ。連れの方も、どうぞ!』
 パリヌルスは、スペッシャルパンにささやかな副菜をそえて、ガリダ頭領たちに手渡した。