『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  39

2009-04-30 05:47:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 そこへ、トロイの状況検分に行っていた、オキテスの手の者が帰ってきた。
 『隊長!トロイは、大変な惨状です。全てが灰になろうとしています。もう、いけません!帰る途中、海峡の番小屋を見てきました。ここもトロイ人の屍体が転がっているだけです。』 オキテスは。報告を受けた。
 ヘレノス、カピュス、オキテス、そして、市民の世話人たちが集まり、出航についての打ち合わせが行われた。船舶の種類と隻数、各船への人員の割り振り、出航の順番、航走に関する注意事項等について打ち合わせを終えて、各自は、持ち場に散った。
 オキテスは、自分の手の者たちを集めて、事の次第を説明し、一刻も早く出航できるよう作業の指示をした。港の地は、様相が一変した。作業の進捗は、速やかに進んだ。
 ヘレノス、カピュスの隊員100人、馬囲いの地からの市民100人余り、港に集まってきた市民100人余り、そして、オキテスの部下たち100人、総勢400余りの人が、この地を去ろうとしている。危難を逃れ、新しい使命に向けての旅立ちである、皆の面持ちは、真剣そのものであった。彼らは、懸命に事に当たっていた。

第1章  トロイからの脱出  38

2009-04-29 06:59:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『我々の一行の中の市民の世話人にも出航までの段取りを伝えておかないとな。』
 『判った。それにしても、ヘレノス、お前、血なまぐさいな。』
 『まあ、我慢しろ。』
 ヘレノスは、世話人の代表格、オロンテスを呼んだ。とにかく時間がない。カピュスは、事の次第を短く説明した。
 『いま、ここでは、はっきりした船数も不明だ。できるだけ、皆の要望に応えていくつもりだ。心しておいてくれ。』 と話を結び、船の停泊している港へと急いだ。
 『おうっ!オキテス。』 『おうっ!カピュス。』
 この短かい一言で、互いの意思が通じた。カピュスは、アエネアスの言伝てを伝えた。その上で船数、乗船のこと、出航してからの向かう先、航走についての留意事項、出航までの段取り等について、手短に打ち合わせた。

第1章  トロイからの脱出  37

2009-04-28 08:40:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘレノスは、振り返って、薄らぎつつある闇を見た。
 来た、来た、カピュスの率いる一行の姿が見えてきた。ヘレノスは、修羅場を終えた兵たちを番屋の方へ向かわせた。彼は、カピュスの一行を迎えるために、そこにとどまった。
 『お~お、カピュス、道中、何事もなかったか。』
 『おうっ、ヘレノス、どうだった。無事だったか。』
 『見ての通りだ。ギリシアの者どもは、そこに転がっている。俺の方は、二人がやられ、5人の負傷だ。兵たちは、一足先に番屋の方へやった。それから、市民たちがトロイを逃れて100人余り来ているそうだ。』
 『とにかく、急ごう!段取りをしないといかん。すぐ夜が明けるぞ!』
 『おうっ!皆、行くぞ。急げ!』 兵と市民たちの一行を係留地の番屋に急がせた。
 『ヘレノス、オキテスに会う前にひとこと、打ち合わせておこう。』 
 二人は、肩を並べて歩き出した。

第1章  トロイからの脱出  36

2009-04-27 06:47:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、ヘレノスの顔をのぞき込んだ。
 『お前、血なまぐさいな。こんな血なまぐさい祭司なんて、会ったこと事がないぞ!よし、ヘレノス、何があったか話せ。』
 『オキテス、トロイがギリシア軍の火攻めにやられた。燃え尽きようとしている!お前のところに市民たちが逃れてきていないか。』
 『今、俺の手の者が、トロイに行っている。まだ、帰ってきていない。市民のことだが、100人余り、港に来ている。彼らから話は聞いた。だが、俺の一存で船をを動かすことは出来ん。判るな。』
 『もう、来る頃だ。カピュスが来たら、詳しい話を聞いてくれ。彼がアエネアス軍団長からの言伝を持っている。』
 『よしっ、訳がわかってきた。詳しいことは、カピュスに聞く。皆を呼べ!番屋へ行く。お前の隊に負傷者がいるのか。』
 『負傷者は、5人だ。手当てをしてやりたい。その前に、海で俺も兵も身体を洗って行く。』 それだけ言うと、ヘレノスは、兵たちに向かって、
 『おいっ!皆、急げ!』 と呼びかけた。
 夜が明けてくる。東の山の稜線が明るくなってきた。

第1章  トロイからの脱出  35

2009-04-24 07:03:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘレノスは、敵と斬りあった闘いの場を一巡した。自軍の損害は、考えていたより少なかった。彼は安堵した。その時、男の怒鳴り声が聞こえた。
 暗闇の中である、相手の判別がつかない、相手との距離が斬りあいの間合いでの対峙と思われる。ヘレノスの一隊に向けて怒鳴ってきた。
 『お前らは、何者だ!』
 『その声は、オキテス!俺だ。アエネアスの軍団のヘレノスだ。浜の神殿の祭司でもあるヘレノスだ。ここにいるのは、俺の隊の兵たちだ。判るか。倒れているのは、ギリシアの兵隊だ。今、そちらに行く。』
 『ヘレノス、暗くて判らん。お前だけ近くに来い!武器は、持ってくるな。いいな。』
 その頃、東の山の稜線と空の境が明るんでこようとしている。星が小さな光を消していこうとしていた。

第1章  トロイからの脱出  34

2009-04-23 07:24:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 藪影に潜んでいた、もうひとつの一隊も、この闘いの始まりに呼応して、敵の背後から、襲い掛かった。敵は、前後からの襲撃に、ひるんだ。その狼狽は、致命的であった。
 人影は、入り乱れて、討ち合う撃剣の中を走り廻った。凄絶の闘いは、血煙の中で展開された。闘いは、ヘレノス側が一方的に敵を圧倒して、勝ちを収めた。ヘレノスの作戦の成功であった。闘いは、思ったより短い時間で終わった。
 この騒ぎを聞きつけたオキテスが、剣の抜き身をかかげて、一隊を引き連れて駆けてくる。
 ヘレノスは、兵たちをねぎらいながら、自軍の損失を調べた。傷を負った兵が5人、命を絶たれた兵が2人、敵は、全滅であった。

第1章  トロイからの脱出  33

2009-04-22 08:22:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜明けには、一刻の間がある。ヘレノスが率いる一隊は、辛うじて、予定した闘いの場に、敵の一隊よりも一息だけ早く到着したようである。彼らは、暗い藪影に身を隠し、息を整えた。隊を二つに分け、敵を前後から襲撃できる闘争形態を考えて身を隠した。波うちの波の音が、かすかに耳を打つ、船舶の係留地まで、あと200メートルぐらいに迫った地点であった。
 敵の一隊が接近してくる、17~18人の小部隊であった。
 先頭のいかつい男が、くぐもった胴間声で兵たちに指示をした。
 『一人残らずやれ!それがすんだら、船に火をかけろ!ぬかるな!』
 彼らは、松明を持ち替えて、抜剣した。彼らは、ヘレノスたちの潜んでいる目の前を通り過ぎた。ヘレノスの指示が走った。彼らは、敵を背後から襲撃した。
 突如、撃剣の打ち合う音が夜明け前のしじまを破って、鳴り響いた。

第1章  トロイからの脱出  32

2009-04-22 08:00:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『隊長!急ぎましょう。奴らを倒さなければ、俺たちが生きられない!』
 兵たちは、自分の為すべきことを心に決めている。兵たちは、不退転の決意に燃えた。彼らは、懸命に疾駆した。闘いの場に、一時も早く着いて、有利な条件で敵との闘いを展開することが敵を征する。
 それが出来るか、出来ないかの微妙な距離であった。彼らは、懸命に力の限り、道を急いだ。
 彼らは、生きていくことの切所に立って行動を起こした。
 彼らの行く手の闇が、闇と感じられなくなっていた。

第1章  トロイからの脱出  31

2009-04-20 06:32:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 カピュスは、顔色を変えた、緊張が全身を貫いた。彼は、兵の一人を呼んで、後軍の隊長ヘレノスを急ぎ来るように連絡を取った。
 『カピュス何だ。何か変事でも起きたか。』
 『ヘレノス!あれを見ろ!左前方の光の集団だ。』
 『係留地への敵襲じゃないのか。』
 『ヘレノス、オキテスの手勢は、何人くらい、いるのか。』
 『50人くらいだったと思う。俺が祭司を勤める神殿がアンタンドロスにある。あのあたりの地理については、詳しい。俺が行く。あとを宜しく頼む。敵は、20人くらいだと思う。とにかく、急ぐ、あとは頼むぞ!』
 時間から考えると、トロイからの市民とは思われない。ヘレノスは、自分の部隊の兵の半数、30人くらいを引き連れて走った。

第1章  トロイからの脱出  30

2009-04-17 08:30:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一行の前後についている軍団の兵たちは、係留地への道案内の先導について、敵襲の危険に細心の注意を払いながら、身を緊張に凍らせて進んだ。
 馬囲いの地を出てから3時間、進む前方の視野が少しづつ開けてくる、闇を通して、海岸線が望まれるようになってきた。かすかな光点が見える、歩いている者たちにとって、希望のはるかな行く先の光点である。目指す係留地まで、あと少しである。この地点まで、危難に遭わずに到達した。あと2キロメートルくらいで目的地に着ける、一行の者たちの心が弾んだ。
 このとき、先頭を行くカピュスの隊の兵が、行く手のはるか左前方に、動く小さな光の集団を発見した。