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『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  81

2012-02-29 06:48:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは、東の地平を見つめて時を測っていた。また、大気の動きにも気を配っていた。彼のつぶやきは傍らにいる者にも聞こえた。
 『風は起きてくれるだろうか。船を押してくれる風よおきてくれ。風よ、おきろっ!』 と願った。いや、胸のうちではわめいていた。その一瞬、大気の動きがさらりと頬をなでたような気がした。
 『まさか、ほんとうか』
 彼は、そのような現象を疑った。
 東方に目をやっていた彼は、薄明を察知した、地平に近い星の輝きがうすい。(天文薄明頃である。今時刻でいうと午前5時40分頃)
 彼は夜明けの引き金を引いた。
 オキテスは、野営の場を走り回った。
 『おいっ、起きろ!』 各船長を起こした。
 野営の場のあちこちに各船長の檄が飛びかった。静寂の浜が一瞬にして騒然となった。
 『おいっ!もたついているヒマはないっ!急げっ!』
 彼らは、未明の闇の中に大声を響かせた。
 この季節の外気に比べれば海は暖かかった。彼らは手早く朝行事を終えて浜の波打ち際に近い箇所に整列し、グループを整えた。(この時期の陽の出時刻は、今時刻で6時20分前後である。5時40分~50分がこの物語中の彼らの起床時刻である)
 パリヌルスは、情況を厳しく見つめていた。彼は、船長、副長を呼んで、異常のあるなしを聞き取ったあと指示を発した。
 『二番船、三番船、四番船、即っ、乗船を開始するのだ。急げっ!行けっ!』
 行動が開始された。彼らは、朝の海に首辺りまで身体を浸して、海中を歩いて船にたどりつき乗船に及んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  80

2012-02-28 08:36:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『この季節になると陽の出前の薄明の時間が夏の頃に比べると少々短い、俺が頃合を見計らって皆に指示する。次に気にかけているのは風のことだ。船出に都合よく陸風が吹いてくれるか、どうかは判らん。漕ぎ手を櫂座につかせておくことだ。以上だ。ぬかるでないぞ。いいな』
 『よく、判りました。出航指令は誰が?』
 『あ~あ、それは、パリヌルスが出す!』
 座は開いた。
 夕食の場では、この地に残る者たちと別れの言葉が交わされていた。
 『お前、何故この地に残るのだ』
 『あ~あ、俺か?』 とつぶやいて首を傾げた。
 『俺は、君らと一緒に行きたい。行きたい。この気持ちがやまやまだが、この身体がままならん。君たちの足手まといになる』
 『お前、達者で暮らせよ。そのうち、いい便りが届くかもしれん』
 『それを待ちながら、この地で生を終えるのか。俺はそれしかないとあきらめている』
 彼らの心を別れのつらさがふさいだ。明朝には、いやでもそのときが訪れる。彼らを引き裂くのは天の時であった。
 夕食のときは終わった。この季節の野営は冷え込むのだが、日中暖められた浜の砂は、ほどいい暖かさを宿していた。彼らのひとりひとり胸に去来する思いは何であったろうか。
 彼らは感慨深く、この浜で見る最後の星空を仰ぎ見た。月の出は、夜半過ぎであるらしい。満天の星は降ってくるのではと思われるくらいに冴えている。大小の『荷車』(大熊座と小熊座)は北天に輝いていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  79

2012-02-27 08:20:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『やることは2つだ。一つは警備だ。二つ目は、各所に燃えている焚き火の火を絶やさない。この二つだ』
 『判りました。前半の担当、心得ました』
 『じゃ、頼む』
 オキテスは、イリオネスとパリヌルスの二人に、このことを伝えた。それを聞いて、イリオネスは二人と打ち合わせた。
 『船出の刻、船出の準備時間も合わせて俺が各船長、副長に指示を出す。あとは二人に、しっかりと頼んでおく』
 『判りました』
 二人は、承諾をカタチにして答えた。左胸に右手の拳をを叩くようにしてあてて示した。
 彼らは、失敗が許されない緊張の中にいた。二人は他の四人の船長集めて、明朝の段取りを打ち合わせた。先ず、パリヌルスから説明を始めた。
 『皆、よく聞いてくれ。明朝の段取りだ。先ず起床に始まり、グループごとに集結だ。そして、乗船、船出の時を待つ。船出の順番は、オキテスの二番船が先頭だ。彼はミコノスまでの海域に詳しい。次いでアレテスの三番船、次がギアスの四番船、その次がオロンテスの五番船、アンテウスの六番船となる。そして、殿りに俺の一番船である。判ったな』
 『判りました』
 『よしっ、頼むぞ』
 パリヌルスの説明が終わって、続いてオキテスが話し始めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  78

2012-02-24 08:19:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夕食の場は大いににぎわった。明朝には別れるという悲しみを忘れて大いに飲みかつ食べた。建国の途につく彼らを鼓舞し、希望という明日を生きる力を沸かせた。明日を生きる力は彼らに捨てる勇気を、そして、新たに得るもののために尽くす力を与えた。彼らはそれを持って起った。
 興奮の夕めしどきが終盤に至った。オロンテスたちが焼きあげたパンが、一同にもれなく配られた。彼らは口にした。傍らの者の第一声に場は沸いた。
 『これは旨いっ!』
 『何っ!そんなに旨いパンか?』
 『こんなに旨いパンは始めて口にする』
 『この旨さ、感動ものだ』
 彼らは、『旨いっ!』『旨いっ!』 を連発した。
 パリヌルスの本能的意図が効を奏した。
 彼らは、自分たちが属する民族の誇りを自覚した。彼らの『何んとしても建国をやらなければ』という思いをさらに燃え上がらせた。
 オキテスは、アレテスに声をかけた。
 『おっ、アレテス、お前のグループから30人、俺のグループから30人、この60人で、野営の警護に当たる、いいな。前半はお前のグループがやってくれ。後半は俺のグループが受け持つ、いいな』
 『判りました。それでやることは?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  77

2012-02-23 07:32:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 壇上のアエネアスは、場の者たちを見回した。1400余の眼差しがアエネアスに集中した。場は緊迫した。率いて行く者と率いて行かれる者の対峙の一瞬である。彼は口を開いた。
 『諸君っ!』
 息を呑んだ。出だしの一句を慎重に選んで吐いた。
 『我々は、明朝、陽が昇り始めるときを船出の時として、この浜より建国の途につく。我々は、一路クレタ島に向かう。我々は、民族としての願望を必ず実現する。建国にふさわしい悠久の地に、その礎を築く!起てっ!諸君つ!行こうっ!!』
 彼は言葉を切った。大喊声である。彼は一同を見回した。
 『船出だっ!建国に向けて、船出するっ!』
 怒涛の喊声が浜にこだました。イリオネスが代わって壇上に立った。
 『諸君っ!杯を持てっ!酒を満たせっ!』
 場を見渡す。
 『諸君っ、いいかっ!明朝は船出だっ!乾杯っ!』
 彼ら一同は、杯の酒を飲み干した。杯を放り投げた。杯を宙に舞った。
 またもや、大喊声で場は沸きあがった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  76

2012-02-22 16:40:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らが砦から出て前方の浜に目をやった。各所に燃えているにぎやかな焚き火の風景が見えた。。
 一同は足を停める。アエネアスはふりかえった。半年は長くはなかったが、いろいろなことがあった。胸に去来する数々の思い出、突き上げてくる情動を感じて砦を仰ぎ見た。胸に激情が走る、声が詰まった。薄暮の中の砦を見上げた彼のまぶたに涙がこみあげてきた。一条の涙が頬をつたう、辛うじて抑える涙、周りの者たちには気ずかれてはいなかった。一同は皆の待つ浜へと急ぎ足となった。夕食の場では、一同の到着を待ちかねていたようであった。
 アレテスが走った。彼は夕食の場のみんなに大声をあげて、統領の到着を告げた。
 拍手と喊声でどよめいた。
 『ウオッ!』『ウオッ!』『ウオッ!』
 耳を聾する大喊声であった。しつらえれた壇の上にはパリヌルスが立っていた。彼は手のしぐさで拍手と喊声を静まらせた。
 『諸君っ!皆っ!注目っ!統領が到着された。統領から言葉をいただくっ!』
 壇上のパリヌルスに代わって、アエネアスが立った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  75

2012-02-21 08:52:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おっ!アレテス、どうした。何があった?』
 息を切らして駆けつけたアレテスにイリオネスが声をかけた。
 『息を整えろ。まあ~、落ち着け』
 『軍団長、準備が整いました。浜に夕食の準備が出来ました。ところで統領の父上は?』
 『おう、アンキセス殿か。もう、アカテスが父上とユールスを連れてくるはずだ』
 『パリヌルス隊長がアカテスに連絡しろとのことでしたが、ならば、その必要がありませんね』
 『その必要はない。統領も俺もこれこの通り船出の支度は終わっている』
 アレテスは、統領とイリオネスの旅装に見入った。
 統領がアレテスに声をかけた。
 『おっ、アレテス、ご苦労。俺たちの船出の支度は終わっている。父アンキセスもユールスもアカテスとともにもう来る頃だ。夕食の場へは一緒に行こう』
 アンキセスとユールス、それに連れ添うアカテスが広間の戸口に姿を現した。彼らの旅支度も整っていた。各自それぞれに小ぶりの袋を手に提げている。イリオネスだけがやや大きめの袋を提げていた。
 『アレテス、皆が揃った。行こうか』
 『まいりましょう』
 イリオネスが広間の灯火を吹き消した。
 彼ら一同は、薄暗い広間を後にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  74

2012-02-20 08:41:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 最終の小舟が荷積みを終えて帰ってきた。オロンテスは、業務の終わったことを確認するとともに心身の緊張を解いた。彼は、達成感と安堵で胸をなでおろした。
 『おうっ!皆、今日一日、朝早くからパン焼き作業そして荷役と一連の作業に懸命に当たってくれた。ここに滞りなく終了した。大変ご苦労であった。尚、今夜の夕めしは、全員この浜で食べることになっている。この場で待機してくれ。また、そのまま野営をすることになる、もう砦へはかえらない。持ち物のある者は持参してよい。急ぐのだ、判ったか。重ねて言う、皆っ!ご苦労であった』
 彼は今日の作業を担った者たちを集め、その労をねぎらった。全員から拍手がおきた。作業の終結であった。
 オキテスは、各船長、副長連を呼び集めた。アレテスとリナウスを除いて欠員の有無を確かめた。
 『、、、、。一同、判ったな。明朝は我々にとって大切なときを迎える。そのために今夜は夕めしのあとは、そのままこの場で野営となる。以上だ』
 彼は、簡潔に今日のこれからを伝えた。船長、副長連は、自船に乗る者たちの集結にたちまわった。彼らが集結を終える頃には夕めしの準備がすっかり整っていた。
 パリヌルスがアレテスに声をかけた。
 『おっ、アレテス、統領と軍団長を呼びに行ってくれるか。それから、アカテスに一部始終を伝えて、アンキセスとユールスを連れてくるように言ってくれ。伝言は、統領の指示を仰げ、以上だ。いいか、急げ!』
 『判りました』
 アレテスは、砦に向かって走った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  73

2012-02-17 09:34:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス、頼みがある。パンの荷運びは、あとこれだけか。訊ねるが、パンのことだが個数にして150個くらい余分があるかな?』
 『うっう~ん、150個くらいですか。それくらいだったら余分はあります』
 『そうか、それはよかった。実はだな、今日の夕めしは、全員を集めてこの浜で食べることになっている。そのあと、この場で野営とする。もう砦には帰らない。パンを150個くらい夕めしに回してほしい。いいか』
 『判りました。それでいいのですね』
 『うん、それでいい』
 パンは、充分、余分に焼いてあった。オロンテスは、入用数を残して、荷積み作業を続けた。彼は、最終の小舟を送り出した。荷役作業は終わった。洋上で配るパン及び副菜は、五番船に荷積みされたのである。
 おりしも、太陽は海面を茜に染めて沈もうとしている。彼は、一瞬、一切を忘れて、水平線に下弦を接しつつある太陽を眺めた。頭中を感覚が走り抜けた。真っ赤に焼けた鉄を水中に投ずるときのあの感覚である。『ジュジュッ!』起つ音感と飛び散る水の飛沫の感覚であった。
 彼は、瞑目してこうべをたれた。ただ、何となくの気持ちである。そして、身を起こし目を開けた。まだ、海中に没していこうとしている太陽は、その身を3分の1ほど残していた。この浜で目にする最後の夕陽の姿であった。彼の胸中は、多忙を極めた今日を無事に乗り切ったことの感謝と無量の感慨で沈み行く太陽を見送った。
 彼は我に帰った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第4章  船出  72

2012-02-16 08:37:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~っ!パン焼き作業が終わったようだな』
 二人はつぶやいた。と同時にあと少しで沈むであろう太陽の位置を確かめた。そして、言葉を交わした。
 『オロンテスのパン焼き作業が時間的に順調にいったようだな』
 二人は浜へと急いだ。浜ではパンの積み込みの荷役作業が展開されている。船長、副長連も総出で手を貸している。作業に従事している者たちも懸命に動き回っている。オロンテス指示が飛んでいる。大わらわの状態であった。
 『オロンテス、どんな具合だ。うまくいっているか』
 『お~お、おふたり。あと少しだ。日没と同時に作業完了だ。そのつもりでいる』
 『お~っ!そうか。お前に苦労をさせたな』
 『お~お、なんのなんの』
 言葉を交わしながら二人は作業風景に見入った。パリヌルスはアレテスを呼んだ。
 『おう、アレテス、ご苦労。今夜はだな、この浜で全員で夕めしを食べる。統領からの訓示もある。そのあと、この場で野営といく。いいな。副長を手伝わせて夕めしの準備を整えてくれ。作業を見ている者を60人くらい連れて行け。焚き火の箇所は50箇所くらいでいいだろう。倉庫にある食材、酒の類を運んでいい。それくらいの余裕はあるはずだ。いいな、急いでやってくれ』
 彼は、指示を終えると、オロンテスの許へ足を運んだ。