『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   55

2019-06-29 04:53:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが浜に戻る、明けきっていない浜は薄明るい、目を凝らす、浜を見回す、アエネアスら、オキテスらの姿はまだ目につかない。
 残り少ない星影が空にある、日輪が昇りくるのにまだ間がある。
 パリヌルスが海に身を浸す、冷たさが身に沁みる、心地いい、酒の酔いが抜けていく、身体が目覚めていく、感覚が覚醒する。
 浜がにぎわってきている、面々の顔が目につく。
 日輪が水平線を破るときがおとずれる、光が八方に走る、大日輪が水平線を破って昇り始める。
 気が漲ってくる、精気が溌溂としてくる、足が海底を踏みしめる、一瞬である、日輪が己に声をかけた感に襲われる、身に鳥肌が立つ、パリヌルスの魂の一射が千里をかける、彼は朝行事を終えた。
 浜にあがる、面々と顔を合わせる、朝の挨拶を交わす。
 『おはようございます。いい朝です』
 『おう、いい朝だ。おはよう』
 挨拶言葉が飛び交う、テカリオンと船頭の姿も目にうつる、二人のまなざしが輝いている、意気盛んを周囲に感じさせている。
 イリオネスを中にして面々が集まってくる。
 オロンテスの声が耳に届く、出航の準備に多忙を極めている、今日はオロンテスがキドニアにおもむく、使用艇はヘルメスである、ギアスの姿が艇上にある。
 イリオネスを囲んだめんめんが今日の段取りの打ち合わせを終える。
 次いで、テカリオンと打ち合わせている、顔を見合わせてうなずき合っている。
 『軍団長殿、朝食後に船の件を打ち合わせます。午後半ばには出航いたします。今日はキドニア泊まりです。明明後日には、クノッソスで用件を済ませ、クレタを離れる予定にしています』
 『おう、そうか。テカリオン殿も多忙だな。多忙はいい、余計なことを考えないで済む。私は会所のほうにいます』
 『了解しました』
 テカリオンが場を去っていく。
 アエネアスとイリオネスは会所へ歩を向ける、会所に着く、アエネアスがイリオネスに声をかける。
 『おう、軍団長、昨日、言った教示の件だ。オキテスの営業に出航する日は、いつかな?』
 『はい、28と29の両日はキドニアで、東行に出航するのが新暦の第一日目です』
 『それから、テカリオンとの用件は、午前中いっぱいの段取りかな?』
 『はい、そのように段取りしています』
 『オキテスとパリヌルスに教示の件について、午後に打ち合わせる。軍団長、オロンテスがキドニアから帰ったら、この教示の件の念押しをしておいてほしい』
 『解りました』
 二人は今日を打ち合わせて、朝食タイムとする。
 アエネアスは、意図した教えることの大切さを重んじて対処を計る。
 彼は、テカリオンとの会談を終え、計画遂行へ自信のある一歩を踏み出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   54

2019-06-28 04:55:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが会所に着く、パリヌルスら三人がイリオネスを囲んで話し合っている。
 『おう、一同、ごくろう。今日のテカリオンを囲んでの話、得るところがあったかな』
 イリオネスが答える。
 『今、彼らと話していたところです。世の中の流れと言いますか、それをおもんばかって、我々は如何にと、そこを話し合っていました』
 『それでどのように考えたか、お前らの考えるところを知りたい。脚下を照顧してのお前らの前へ踏み出す一歩はだ?』
 一同が顔を合わせる。
 『俺は、話の余韻が漂う、あの空間を去りがたかった。その空間で物事を考えた。諸施策の是非を問う考えをチエックした。結論を出している。君らの考えを聞きたい』
 一同がイリオネスと目を合わせる。
 『軍団長、私らがが話し合った結果を統領に伝えていただければいいと思います』
 『軍団長、言ってみてくれ』
 『統領、統領の考えられた諸施策、計画の正しさをテカリオンの話す世の中の流れの先駆的な兆候であると理解しました。私らは統領の考えられた施策及び計画を信じて実行していく、実現すると申し合わせていたところです』
 『おう、そうか、ありがとう。俺はこの施策、この計画をここにおいて、君らの意向を聞いた。信不退で実行する。よろしく頼む。そこで大切なのは残された日々で引き継ぐ者らに対しての教示を全うしてもらいたい。以上だ』
 『解りました!』
 『明日になるが、その件の打ち合わせをやる。そのつもりでいてくれ』
 イリオネスが一同に声をかける。
 『これをもって、今日を終わる』
 彼らの今日が終わる、各自が場を去る、宵がおとずれていた。

 パリヌルスは、彼の帰りを待っている一同と夕食をともに済ます、彼らと談を交わす、それを終える、テカリオンの船を訪ねる。
 おとずれたパリヌルスをテカリオンが歓待する。
 『おう、パリヌルス、来たか待っていた』と船上の自室にパリヌルスを誘う。
 『おう、パリヌルス、すこぶる元気の様子、何よりだ。交易先で手に入れたとっておきの酒がある。飲もう!』
 『おう、!ありがとう。お前の元気、無事を目にして安堵した。これでもお前のことを第一義に考えている俺だ』
 『おう、ありがとう。それでか、交易の旅、船の揺れで、お前の夢を見る』
 『そうか、お前も言ってくれるな。俺の想いが届いているのか、安堵、安堵だ』
 再会の挨拶を交わし終える、二人は、諸々の話を交わす、パリヌルスらの去ったあとのエドレミドあたりの変わりようを話す、変わりゆく世界のこれからなどなどを話す、話が弾む。
 パリヌルスは、一か月後のことが胸にこみあげてくる、この先に訪れる再会のないテカリオンとのことを思うと酒に手が伸びる、テカリオンのもとを去りがたい、酒を飲む、酒に酔う、パリヌルスはテカリオンの船で一夜を過ごす。
 一か月後のことをともなるテカリオンに告げようか、告げないでおこうか、心が右往左往する、一晩中思い悩む、どうにかその思いを抑えきる、別れの時が来る、夜が明ける、朝である、テカリオンの船を辞する。
 『おう、テカリオン、馳走になった。うまい酒だった。元気が一番だ!航海の無事を祈っている』
 『お前も元気でおれよ!お前に会えないと俺の気がしぼむ、ではな!今日の俺は船の事を打ち合わせる。浜で会おう』
 『おう!』
 パリヌルスは、ハシケに飛び乗る、朝行事の浜に戻った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   53

2019-06-27 08:23:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 残っていたイリオネスとテカリオンも場を去る、アエネアス一人がイリオネスの宿舎に残っている。
 アエネアスがテーブルを前にして想いに沈む、胸に去来する過ぎ去った日々のことがあれこれと思い出されて消えていく。
 トロイ城市に住み、生きていた者らが幾百年の長い時をかけて築いたあの城市がギリシア連合軍の策略の焼き討ちに遭い一夜にして灰燼に尽きる。
 アエネアスが統率する一族を引き連れて、後ろ髪ひかれる心、思いを断ち切って、城市の燃えあがる炎をあとにした、あの日、あの時が鮮明に思い浮かぶ。
 一瞬、後悔の念にさいなむ、一族の長たる者の想いが胸にこみあげる、一族の『生と死』、どちらが重い、その重さを心に問う、彼は一族の『生』を選んで行動した。
 このことを思い出すたびに、そのことの正否を己に問う、そのたびに己の想いが『正しかった』と思うようになったことが否めない。
 今は『正しかったと』信じている、そのような自分を信じた。
 アエネアスは、これにスタンスする、民族の行く末、未来を考える、そのような自分を自覚する。
 あの日以来、日々の経ちゆきは、飛矢のごとくに早く過ぎていく、あの日より二年が過ぎ三年に到っている。
 建国の想いを抱いて、三年目の新暦の頃となって建国の地の探索の途に就く決断を下し、実行の挙に就く時を一か月後としている自分を見つめる。
 今日は遠来の客、エーゲ海域の各地を巡る交易人のテカリオンを迎えて、話を聞く機会をもった。
 彼の話でもってトロイ戦役後のギリシア連合軍の主だった者らの顛末を聞き知る。
 続く話により、今の政治情勢、世情、そして、うねる世界の思潮、今後に予想される、変わりゆく変化、展開の姿を自分なりに推考する。
 このクレタの地を建国の地ではありえないと判断したことの正否を今一度確認する、そこにスタンスする、何を為すかを計画する、諸事を丹念に見直す。
 その実行に伴う、一族の『生と死』を念頭において諸施策の計画実行を念を入れて考えて結論していく。
 このたびの挙に就くことで生じる一族の生と死、生計を維持すること、明ける明日に不安を抱くことのないような生業のありかたと彼らの未来を考える。
 テカリオンと話し合って、世の中の流れをアエネアスなりに感じ取り諸施策の成否をとことん考えぬいて、あらゆる視点から見つめる、それが最良の策であると認める。
 決断は『まあ~、いいだろう』ではなく『よし!これでいい!』
 これ以外に最良の策は無いといえる次元までに施策と計画をまとめあげる。
 アエネアスは諸事を終えて立ちあがる。
 窓外の風景に目を移す、目にした景色は、茜色に染まっている。
 彼は急ぎ会所に向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   52

2019-06-25 04:34:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンが話す、交易人ソストラトスなる男の話が終わる、アエネアスがつぶやく。
 『ホッホウ、そのような勇気のある冒険的交易人がいるわけだ』
 『そうですな。イドメネウスのことはその男から耳にした話です』
 テカリオンの話が尽きることなく語られる、テカリオンが渡り歩くキクラデス諸島、西アジアの東海岸の各都市の見たり聞いたりした話をおもしろおかしく、テカリオンなりの脚色をして語って聞かせる。
 聞く一同が笑う、うなずく、あいづちを打つ、質問もする。
 彼は、知っている限り、彼らの質問に丁寧に答える。
 テカリオンが一同と顔を見合わせる、首を上下に振って、話しつくした風情を漂わせる。
 イリオネスが口を開く。
 『やあ~、話も出尽くしたようですな。テカリオン殿、ありがとう。いろいろな話を聞かせていただいた。我々が日常、聞くことのできない諸々の話を拝聴しましたな。厚く礼を言います』
 パリヌルスが立ちあがる、テカリオンに向けて頭を下げる。
 『ありがとうございました。このクレタの地に座っていて、見る、聞く、体験の出来ない話を聞かせていただいたことに礼を申します。ありがとうございました』
 オキテスもオロンテスもパリヌルスに続いて礼を言う。
 テカリオンから、航海、交易等いろんな話を聞いた一時が終わる。
 パリヌルスらは、各自の持ち場へ向けて場を去っていく、アエネアスとイリオネス、テカリオンの三人は、その場にとどまり一時の話し合いの時を過ごす。
 アエネアスが言葉をかける。
 『それにしても世の中はさまざまだな。ペロポンネソス、そして、その西の地域の政情を聞かせてもらった。我々にとって、とても有益な話を聞かせてもらった。ありがとう、礼を言います』
 『いえいえ、どういたしまして。統領が知りたいと思われることに充分に答えたでしょうか?』
 『おう、充分に話を聞かせてもらった。ありがとう』
 『イリオネス殿、明日の予定ですが、新しい暦の始まる時期となりました。船の件について打ち合わせたい考えています。よろしく願います』
 『解りました。担当の者に対応するように準備させます。私も同席いたします』
 『よろしく願います。段取り等、朝行事の折に言っていただければ結構です』
 『了解しました。たずねますが、停泊中のことで不便がありませんか?あれば言ってください』
 『はい、ありがとうございます。それはありません。十分すぎるくらいに世話になっています』
 テカリオンがイリオネスの宿舎をあとにする、イリオネスが同道する。
 アエネアスは、イリオネスの宿舎にとどまり、このあとどのように事を運ぶかを考える、思考の一時を過ごした。
 ニューキドニアの浜一帯が夕の茜に染まる。
 夕食を終えたパリヌルスが交易船のテカリオンを訪ねる。
 テカリオンが『おう、パリヌルス!』と言って、彼の肩を抱く。
 二人は、久々の邂逅を喜び合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   51

2019-06-24 04:33:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンの言葉を聞いて、二人は互いに感謝の言葉を交わす、アエネアスが答える。
 『テカリオン殿、このクレタの地に上陸以来、我々は、貴方にとても世話になっています。こちらこそよろしくと願っています』
 『統領殿、ありがとうございます。いい言葉をかけていただいて。これからも末永く、私は誠意でもって務めさせていただきます。約束申し上げます』
 テカリオンは語る話に句読点を打つ、間を取る、休話の時を過ごす、一同に声をかける。
 『皆さん!これについて話を聞きたい、そのような要望があれば言ってください』と言って、一同と顔を合わせる。
 彼らは、過ぎたトロイ戦役後の世の中の顛末の成り行きを耳にして、彼らなりの始末を心の中でつけている、彼らは未来を見つめていると察する。
 テカリオンは、『彼らが抱いているトロイ戦役は、もうすでに遠い昔になっている』と感じとった。
 前に向かって歩を進める彼らの心のあり方、生き方を察知する、一同に向かって声をかける。
 『これからする話、次の話は、チョットした私の商売仇きの話ですが聞かれますかな』と言って一同と目を合わせる。
 『まあ~、商売仇きと言っても互いに商いをやる、交易する相手、商いをする相手が違う、交易する地域が違うわけです。商売仇きと言うより競争相手ということになりますな』
 ぶどう酒を一口、口にする、喉を湿らせる。
 『皆さんも知っているアテネの港ピレウス、そのピレウスが面しているサロニカ湾にアイギナと言う島(現在のエイ―ナ島)があります。この島の西海岸の北部にエイーナと言う都邑があります。私らのような交易人がたくさん寄ってきています。ポリスとしてアテネと張り合っているのですが、まあ~、今はポリスとして張り合っているのですが、遠い未来においてはどのようになるかはわかりませんが、とにかく今は、アテネと張り合っています。私にとっては活動の拠点にしているところです。その競争相手もここを拠点にして活動しているのです。この競争相手の男の名前は、ソストラトスと言います。出身地が定かではありませんが、このアイギナ島の近辺の小島の生まれであるらしいと言われています』
 ここまで話して息をつぐ、テカリオンの話が弾んでいる。
 『アテネとピレウス、アテネにとってピレウスの港の重要性は、交易港として重要であるのは解ります。あれだけ大きく力のあるアテネを控えているのですから。そのピレウスが重要なのは造船です。ピレウスには造船を生業としている者がたくさんいます。その造船所も大きいものから小さいものまでいれて数えきれないくらい多いですな。アテネとエイーナ、そのエイーナには造船所が無いに等しい状態です。このエイーナには、最初に言ったように交易を生業にしている者がたくさん集まります。そのソストラトスという男は『俺は世界の果てまで交易をやる』と豪語して、ヘラクレスの柱(ジブラルタル海峡)までと地中海の西の果てを目指して交易の手を広げているのです。ペロポンネソスから西へ、シラクサ、カルタゴ、サルデニア、コルシカあたりまで足を延ばしていると耳にしています。陸地の沿岸を伝って航海していくわけだからどうってことはないと言っています。それにしても大変だろうと思いますがね』
 テカリオンは、話を聞いている彼らの顔をまじまじと見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   50

2019-06-21 05:48:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがテカリオンの話にうなずいて口を開く。
 『ほう、そのようですか。トロイの地で残虐の限りを尽くした奴らです。私らも忘れてはいません。しかし、日々の多忙、雑事に追われて思い出すことも少なくなっていますな』
 『あ~、それから耳にしていられますかな。このクレタのイドメネウスのことですが、簒奪した戦利品を持って意気揚々と帰ってきたまではよかった。代わって彼の領地を治めていた者が、イドメネウスの妻をわがものにして領主となっており、イドメネウスは、受け入れてもらえず、持って帰った戦利品は取り上げられ、追い返されてしまい、ヘスぺリアの遠く西の地にようようにしてたどり着き生きているそうです。それからですが、ヘクトル殿の奥さんだったアンドロマケ殿は、アキレスが死んで、その息子のネオプレトモスも生活が定まらず、彼から解放されて、ペロポンネソス西北の地で生きておられるそうです。そのように耳にしています』
 それを聞いたアエネアスが驚く、トロイでヘクトルと力を合わせて、ギリシア連合軍と刃を交えたに日を思い浮かべる、口を開く。
 『何っ!アンドロマケが生きている、元気だろうか?会いたいものだ、顔を見たい、苦労をしたであろう。今は奴隷の身ではないだろうな。案じられる』
 彼は、この広い世界で会えるとは考えずに言葉にする。のちにアエネアスが西へ向かう途上で再会を果たすのだが、そのようなことは考えられない。
 イリオネスが口を挟む。
 『テカリオン殿、この話は、なかなか興味のある話ですな。この私も会って顔を見たい、どのようにして生活をしているのか気になる。といったところだ』
 テカリオンがとても興味のある話をして小休止する。
 一同とぶどう酒を酌み交わす、堅パンを口にする、一同が顔を会わせる、うなずく、笑みを交わす、ここまで話を聞いての雑談を交わす。
 テカリオンが口を開く。
 『しかし、あれですな。世の中よくできています。天は、悪逆非道を尽くした者を許さない、天の正義ですな。温和な民族のトロイの民を焼き討ちで滅ぼした奴らに天が罰を下しています。豪勇をうたわれたアイアースもプロミリオンの海域で嵐に遭遇する、船が断崖に激突する、木っ端みじんに砕けて海の藻屑となっています』
 テカリオンが一同と目を合わせる、10のまなざしがテカリオンの両の目を見つめる、うなずき交わす、次の語りに口を開く。
 『ギリシア本土の東にある南北に細長いエボィア島の話です。カルキスとエレトリアの両地方で集落が糾合して、国家形態ができつつあります。将来アテネとまではいかないと思いますが、ポリスを形成しようとしています。しかし、彼らも海外に目を向けて交易に手を出そうとしています。私の商売敵の出現ですな。皆さん!今後、これからも末永く、この私、テカリオンをよろしく願います』 
 テカリオンの話を聞いて、アエネアスが返事を返した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  49

2019-06-20 04:45:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 乾杯を終えてアエネアスが一同に話しかける。
 『このように言ってなんだが、俺らだが、このクレタの地に居て根をおろしている。テカリオン殿のように世界を広く渡り歩いてはいない。いうなれば世情にうといというのが現実である』
 一同を見廻す。
 『テカリオン殿を迎えて、今、世の中がどのように動いているかを聞き、見識を広めたい。我々が世の中にどのように接して、対処しなければならないか。世の中に誤った対応をしてだな、進むべき道を間違えて、滅びに向かってはいけない』
 一同と目を合わせる、姿勢を改める、テカリオンと目を合わせる。
 『テカリオン殿、世の中の事情、世情を話して聞かせていただければありがたい。一同!固くならずにテカリオン殿を囲んで団らん気分で、今の世界をテカリオン殿に話してもらおう。聞こうではないか』
 テカリオンがアエネアスの言葉を受けて、その言葉に応じる。
 『今、統領が言われた世の中の事、世情、世の動きについて話し語ります。私が交易の仕事で渡り歩いている世界といおうか、範囲は、皆さん方に比べて広いことは事実です。西はぺロポンネソス(現在のペロポネソス半島)の西海岸から、東はロドス島、北はトラキア、南はこのクレタ島の北海岸までの各島々、ギリシア本土、西アジアの西海岸に及んで交易の仕事をしています。これらのところを巡っての見聞したこと、耳にした風聞について話します。よろしく願います』
 イリオネスが口を開く。
 『テカリオン殿、渡り歩かれる島々、土地土地、その範囲が実に広いですな!我々の考えでは及びつかない広さですな。いろいろな事を見たり聞いたりされるでしょう』
 『いやね、あくまでも見分であって、深く内情を知るには至りませんが』
 『それで話を聞かせていただいて、我々には十分です。よろしく願います』
 テカリオンがぶどう酒で口を潤す、話し始める。
 『ギリシア本土の世情としては、アテネとその周辺はまさに都市国家として、南にピレウスの港を掌握して発展し続けているといったところです。ぺロポンネソス、メネラオスがいたスパルタが体制を立て直し、アテネに対抗して都市国家を目指して、その構築に取り組んでいるようです。なお、スパルタは若者らの軍事教練に力を注いでいます。ただ、その都市国家化の進展がアテネに比べると遅々としています。あそこも大変ですな、アガメムノンが帰ってきて殺害される。メネラオスもヘレネモまだ帰ってきていません。どこで何をしているものやらその消息が分からない、風のうわさでは、このクレタ島のはるか南のエジプトにいるのではないかとウワサされています。また、あの悪名高いオデッセウスは、皆さんにとって大変であったあの戦役後3年になろうというのに、自領のイタケ島に帰ってきてはいません。死んだというウワサはありません。どこの海域を、また、どこの世界をうろついているのか定かではないというのが実情です』
 ここまで話をして、テカリオンは和んだ目つきで一同と目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   48

2019-06-19 04:39:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスが決済業務を終えての残務に気を配る。
 日頃の活動の成果である多くの客からいただいた木札『3ぶんの1以上を残して今回の仕入れ分の全額をも決済した』心のうちに喜びが沸く。
 木札の蓄積に思いをはせる、『俺の担当分野のみの稼ぎではない。漁業部の稼ぎも含まれている、綜合した成果だな』と察しる。
 セレストスに声をかける。
 『おう、セレストス、彼らの手を借りて、この木札を軍団長の宿舎の隣にある収納庫に運んでくれ』
 『解りました』
 オロンテスは、木札を運び終えて決済業務に終止符を打った。
 アエネアスとイリオネス、二人は会所にて昼食を終える、昼食の場にパリヌルスが呼ばれている、アエネアスは、パリヌルスに指示した用件の経緯について問いただす。
 『おう、パリッ!それでいい!工作、造作上どうにもならなかったら中止してかまわん。お前に一任だ。軍船の整備及び操船は、お前の責任担当領域である』
 『了解しました』
 テカリオンが姿を見せる。
 『おう、テカリオン殿、来てくれましたか、ありがとう。実はだな、パリヌルスらも同席したいと言っている。よろしいかな?』
 『結構です。どうぞ、どうぞ!』
 アエネアスが場にいるパリヌルスに声をかける。
 『パリッ!オキテス、オロンテスに声をかけて軍団長の宿舎のほうに来てくれ』
 『承知しました』
 アエネアス、イリオネス、テカリオンの三人が会所をあとにする、イリオネスの宿舎に向けて歩を運ぶ。
 陽射しが暖かい、吹き通る風が心地いい。
 パリヌルスは、オキテスと同道して、パン工房に立ち寄る、オロンテスを同伴する。
 『おう、これを持って行ってくれ』
 二人に、場で口にするぶどう酒と堅パンを手渡す、三人は、イリオネスの宿舎へと歩む。
 アエネアスら三人がイリオネスの宿舎へと向かっている、アエネアスが問いかける、答えるテカリオン、二人は話し合いの要点を話し合いながら、イリオネスの宿舎への道をたどる。
 イリオネスの宿舎に着く、パリヌルスらは、すでに席についている、六人がテーブルを囲んで席に就く。
 テーブルの上には、堅パンがおかれ、ぶどう酒の壺と酒杯が配されている。
 オロンテスがぶどう酒の壺を手に取る、各自の酒杯にぶどう酒を満たす、アエネアスが起ちあがる、一同と目線を交わす、乾杯の口上を告げる。
 『おう、一同!』と告げて場を見まわす、一同の視線がアエネアスの目に集まる。
 『今日はご苦労であった。テカリオン殿との小麦仕入れに関する業務を滞りなく終えた』テカリオンと目が合う。
 テカリオンが立ちあがる。
 『皆さん!本日は、大変ありがとうございました。心から厚く礼を申し述べます』
 テカリオンの言葉を聞き受ける、場に拍手が沸く、アエネアスの言葉が続く。
 『パリヌルス、オキテス、オロンテス、君らの日頃の働きがあったればこそ、今日の決済業務を滞りなく終えることができた。感謝の気持ちでいっぱいである。ありがとう』
 一同と目を合わせる。
 『乾杯!』
 一同が杯のぶどう酒を飲みほす、拍手で場を沸かした。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   47

2019-06-18 04:14:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスが木札を詰めた袋の山の前に立つ、テカリオンに声をかける。
 『テカリオン殿、決済いたします。木板の計算書き通り、木札を渡します、受領されたい。運び役をする者らがきます』
 『はい、ありがとうございます』
 セレストスが数人の運び役をする者らを連れて姿を見せる。テカリオン方の船頭が浜の荷積みする地点に立って木札を受け取る。
 オロンテスとセレストスが渡す木札の袋数を数える。イリオネスとテカリオンが事の進みを見守る。
 テカリオンが受領した旨を木板に記して、オロンテスに手渡す。小麦の仕入れ支払い業務が完了する。
 テカリオンがアエネアスとイリオネス、そして、オロンテスに丁寧に礼を述べる。
 『大変に世話をかけました。ありがとうございました』
 『おう、決済の業務が完了した。すがすがしい気がするな』
 手をさしのべる両人、握手を交わす。
 『テカリオン殿、今日の午後のことだが、昼をすまされたら、こちらへ来ていただきたい。統領があなたと歓談の時を過ごしたいと言っています。よろしいですかな?』
 『承知いたしました。では、のちほどこちらにうかがいます』
 テカリオンがアエネアスに向けて手をさしのべる、固く握るアエネアス。続いてイリオネス、オロンテス、セレストスと握手を交わす、小麦取引業務が木札をもって、支払い、受領で完結する。
 テカリオンと船頭が場を去っていく、受け取った木札の量が並々ならぬ量である、納入に及んだ小麦の量の4分の1以上の量である。
 テカリオンと船頭、二人が言葉を交わす。
 『なあ~、船頭、彼らがやった仕事の成果が、あの木札の量だ。彼らの力の底が知れない』
 『そうですな、計り知れない力を感じます』
 この小麦の決済業務の始終に携わっていたイリオネスは、感慨に胸を突かれる、熱くなる、切なる思いがこみあげる。
 ここ半年、6か月余りを思い起こし振り返る。
 オロンテスのパン工房、アレテスの漁業部が稼ぎ出した収益である。
 この二つの事業部が稼ぎ出した収益が並みの収益ではなかったのだ。
 イリオネスは、その事をアエネアスに話す。
 『統領、二つの事業部が稼ぎ出した収益ですが、我々の予想、期待以上の収益です。彼らに大いに感謝しなければなりませんな。こんなに木札が大量にあるとは思っていませんでした』
 『そうだな、無造作に山と積んで、ほい!いるだけ持っていけでは、彼らの働きに礼を失する。彼らの長期にわたる厳しい働きの成果なのだ。大いなる感謝の念を持たねばならない』
 二人が話し合う、業務の成果を為し得た彼らに感謝の念を胸に抱いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  46

2019-06-17 05:09:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスの指示でパン工房から40人、オロンテスの要請を受けたパリヌルスの配下からの荷役の助っ人が60人、テカリオンの交易船の水夫ら30人、合計130人による船からの小麦の荷降ろしと荷運びの荷役作業が始まる。
 小麦、今様重量にして50キログラムくらいが入った袋が1000袋に及ぶ荷卸し作業である。交易船から浜までの荷運びにダッカスの操船する戦闘艇を使って行う。荷役作業が昼食時を挟んで午後半ばまでかかって終える。
 会所では、テカリオンと船頭を迎えて、勘定誤算に気づいた彼らが、アエネアスが見守る場において、イリオネスにオロンテス、セレストスが加わって、昨日、決済した残債の支払勘定の再度の見直し勘定を行う。
 残債と仕入れ額の合算で決済をすることにする。
 オロンテスがテカリオンに声をかける。
 『テカリオン殿、前回仕入れ分の残債に今回の仕入れ分を加えた総額を提示してもらいたい。間違えてもらっては困る、念入りに計算してください』
 『解りました。昨日のしくじりは申し訳ありませんでした。お許しください。先ほどセレストス殿らと数えた木札の総数は、木札500枚入り袋の総数が283袋、木札総数が141500枚となります。残債額に今回の納入分を加えた総額は、このようになります。当方のいただく木札の総枚数はこのようになります。目を通してください。今、ここに置かれた木札、全てをいただくと、過分にいただくことになります。当方としてはそこに提示した分をいただければ、それで結構です。次回に繰り越す残債は全くありません』と言って、テカリオンは、船頭の書いた勘定書きの木板をオロンテスに手渡す。
 オロンテスが勘定書きの木板を受け取る、イリオネスと入念に見る、二人は二言三言言葉を交わす。
 イリオネスがテカリオンに問いただす。
 『テカリオン殿、ここにかかれた数字だが、今回の仕入れ分の価格が値上がりしている。どういうことかな?』
 『はい、昨年の気候変動で小麦が不作でした。そのような事情により価格が前回に比べて少々高騰しています。この価格が私の力いっぱいの出精の総額です。集散所にそれとなく聞いていただければ了解いただけると思います』
 『そういうことか、解った。ここの書かれた木札の総枚数を渡して決済すればいいわけだな。それで今回の仕入れ分の全てを支払ったことになり、残債が残らないということだな』
 『はい、そうです』
 イリオネスがオロンテスに声をかける。
 『おう、オロンテス、この勘定書きの数字を了承する。その分に充当する木札をテカリオン殿に渡してくれ。今回の仕入れ分をも決済したことになる。テカリオン殿とのとの間に小麦の仕入れに関する貸し借りは無いことになる。木札を渡してくれ』
 『はい、解りました』
 オロンテスが身体をテカリオンに向ける、声をかけた。