『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  12

2019-04-30 08:01:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜の会所に行く時刻がおとずれる、二人が腰をあげる。
 『イリオネス、会所へ行こうか』
 『はい』
 二人は、会所に歩を向ける、二人にパリヌルスら三人が加わり、五人が顔をそろえる。
 オロンテスが今日の報告を終える、オキテスが建造の場の状況を話す、パリヌルスは聞き役に回っている。
 イリオネスがオロンテスと打ち合わせる。
 『おう、オロンテス、明日のことだがスダヌスに伝えてほしい。こちらで一泊する予定で来てくれるようにと伝えてくれ』
 次いで一同に会議開催の件を伝える。
 『一同に伝える。重要な要件がある。明後日の朝だが早朝会議をやる時間は多くを取らない。朝行事を終えたら統領の宿舎の前庭に集合だ!いいな。出来るだけ早くにだ。オロンテスの出航前に会議を終える。解ったな』
 『はい!解りました』
 『あ~あ、パリヌルス、漁業担当のアレテスにその旨を伝えて出席するように手配しておいてくれ』
 『解りました』
 この夕刻の打ち合わせを持ってアエネアスが意図している建国の地、探索のに向かっての事態が動きを見せる。
 アエネアスとイリオネスが目を合わせる、うなずき合う。西の海に身を沈めゆく太陽、浜を茜に染めていた。
  
 まだ空に星のきらめきが残っている。まだ朝行事はまばらである。黎明の頃合いであるアエネアスとイリオネスが顔を合わせる、朝の挨拶を交わす、今日を打ち合わせる。
 『おう、イリオネス、今日はあれだな、事業体の承継の件の段取りを検討し決める。いいな!事を難しく考えすぎだ。施策の半分は、俺の胸中に出来ている。時代はうまく連なるだ』
 『解りました。明日の早朝会議に間に合わせるようにしておきたい。そのように考えています』
 『今日の朝の業務打ち合わせは、イリオネス、お前がやってくれ。俺は先にお前の宿舎のほうに行く、待っている』
 『解りました』
 朝行事の浜は、交わす挨拶でにぎわっている、アエネアスとイリオネスは、一同の元気な姿を見つめている、二人は安どの表情を浮かべて、その場を去って会所へと向かう。
 二人は会所において朝食を終える、アエネアスはイリオネスの宿舎へ向かう。イリオネスは、パリヌルスとオキテスと今日の予定を打ち合わせる。
 『おう、統領と俺とは、俺の宿舎のほうにいる、急用の折にはそちらへ連絡をくれ』
 パリヌルスとオキテスは持ち場に歩を向ける、イリオネスは、アエネアスの待つ、自分の宿舎へ歩を運んだ。
 イリオネスの来るのを待ちかねていたアエネアスイリオネスの姿を見て声をかける。
 『おう、イリオネス、早かったな。来て早々だが、この三枚の木板に目を通してくれ。パン工房と漁業の事業体のことについて、俺の方針を書いた。そのことから話し合いをする。そのうちの一枚には、大局的なスタンスでもって、三つの事業体をどのように対処するか、その思案するところを書いた』
 『あ~あ、これは解りやすいですね』
 イリオネスは、アエネアスが書いた木板を真剣に読み理解する。アエネアスの意図を把握する、その優れた識見に感動する、賛同する。 
 アエネアスが記した木板には、残留する事業体は、こうあるべきだと書かれていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  11

2019-04-29 06:53:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 笑う二人、アエネアスがイリオネスに先ほどまでの杞憂を忘れたかのように声をかける。
 『イリオネス、そうビクつくな!相手と剣を交えている、剣先が喉元に突き付けられている、負けではないか。いかんな』
 『そうですな。統領と俺としたことがです』
 『そのような事態になる前に、一歩引いて態勢を立て直して、先をとって相手を倒す!そうであらねばならないのだ。お前と俺、あれだけ剣を打ち合わせて心を練ったいうのに、殺所に立ってこのざまはなんだ。気構え、身構えが出来ていない。ここには、お前と俺だけしかいない。こんな姿をパリヌルスらに見せられない』
 『そうですな!これは至らないことで恥ずかしい。統領、いいことを言われる、目の前が開けてきます』
 『イリオネス!よしっ!やるぞ!な~、イリオネス、ものごとには先憂後楽と言う考え方もある。先に憂えて後事に良きを計るということだ。ビクつくことなくことを処する。二人の頭脳で幾千万の敵を倒すだ!いいな』
 『解りました。考えつく限り広く思考して、万機の意見を収集して事を決する。前方の霧も晴れてきています』
 二人は、事業体承継についての方策内容に触れることなく、方策決定の段取りを話し合い決める。
 二人には施策策定を心的に余裕を持って好事良策案を検討した。
 『おう、イリオネス、いいぞ!これでいい、明後日にはスダヌスも浜に来る。彼とも話し合って方策を決める。俺としてもスダヌスの考えを聞いてみたい。それを含めて対処の段取りを決定する』
 『それは良策です』
 『彼と話し合うは、対処の内容ではない、考えてみればだが、我らが対応している事態の周囲の人材に恵まれているように考えられる。非常に難しい問題ともいえるが、必ずいい状態で事が決着する』
 『解りました』
 『イリオネス、考えるところをやれ!ビクつくな、お前と俺、オキテス、パリヌルス、オロンテスもいる、いいスタッフがいるではないか、それで事に当たるのだ』
 アエネアスの事に当たる姿勢が短い時間の間に自信に満ちてきている。
 イリオネスが触発される、これまでの経緯を頭の中で考える、アエネアスが詳細を知らない範疇の事情もある、彼はそれを考えて口を開く。
 『船舶の事業体のことを考えると、イラクリオンのエドモン浜頭に相談を持ち掛けてみようと考えています。話をまとめるのに一か月という短時日でやらねばならないのです。どう動くかそれを考えます。これは失策であるということは許されないのです。それを考えこの計画の段取りの道筋を考えます』
 『おう、いいだろう。お前が担当する役務だ。役務遂行のの道は二本も三本もない、これと定めた道一本で事を成し遂げろ!』
 『解りました』
 イリオネスは、アエネアスの言うことにうなずく、事を成す道を一本とするに異論はない。
 そうである故にその重要さに慎重を期した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  10

2019-04-26 15:26:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスがイリオネスの態度からただならぬ気配を感じとる。
 『おう、イリオネス、どうした?』
 『この件については、統領、時間をかけて検討したいと考えています。統領の言葉の中にもありますが、承継譲渡ではなく承継と譲渡を分けて対処しなければならないのではないかと考えています』と言ってアエネアスと目を合わせる。
 『そうだな、お前の言う通りだ。承継と譲渡は、お前の言うように分けて考えねばだ。対外条件が絡む、経営的な見地から見ればお前の言うことにうなずける。対外条件と経済条件が絡む。相手と干戈を交えての勝った負けたの世界とは違う。クレタに残す当方の者らの経済面から見た安心立命を考えねばならない。我々が構築した船舶建造の技術を人に託して、人とともに譲り渡すカタチになるわけだからな。慎重に対処しなければならないわけだ』
 『そうです、その通りです承継を受けてくれる相手方がどのような人であるかを充分に考えねばならないのです』
 二人は、鋭く目線を合わせて話し合っている。
 イリオネスが話し続ける。
 『今、現在、私らが合務遂行の上で懇意にしてくれている相手がいるわけです。それらのことも考えて慎重に処する覚悟でやらねばなりません』
 『イリオネス、お前と俺だけでは、考えの行き届かぬところがあるやもしれないということか』
 『そういった懸念も考えられます。明後日には、スダヌスも来る、オキテスも加えて、考えを練るか。それとも二人だけで考えて、依怙地を張って、まず交渉のスタートを切る、やりながら考える、いかんと思えば戻る、試行錯誤をやる、やりすぎ注意だが。イリオネス、考えろ!』
 『統領、二人で話すのをやめて少々考えましょうや』
 『おう、解った。考えてもみなかった壁に突き当たったといった感じだ。少しばかり休憩だ』
 イリオネスがぶどう酒の入った壺と酒杯を持ってくる、杯に満たす、口に運ぶ、乾いたのどを潤す、何となく心がおちつく。
 二人が顔を合わせる、作業に関連した雑談を交わす、思考が展開する話が飛び出すかもしれない、雑談をいい方向へ展開できるかもしれないである、成り行きに任せて話し合う。 
 話があらぬ方向に展開していく、いい雑談にはなり得なかった。
 『おう、イリオネス、いい雑談にはならなかったな』
 『ムムッ!でしたな』
 『こうなったら方策の段取りでも考えるとするだな』
 二人は顔を見合わせた。
 『おう、イリオネス、こうなったらやむを得ない、度胸を決めて話し合い、最善を見つけるだ!覚悟を決めろや』
 『まず飛ぶ!適所見つけて、飛び込む!この一手ですな』
 二人は顔を見合わせる、大口を開ける、大声をあげる、笑い合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   9

2019-04-25 06:34:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、イリオネスの具申に応える。
 二人は、同じ心根をもってこのクレタ離脱出航の計画案に取り組む、
 イリオネスは、アエネアスを信頼する、安心感を抱く。
 『おう、イリオネス、この計画の遂行にあたって、俺の考えでは、極めて小さいが大きな意味を持つ部門を含めて三つの部門があると考えている。一番目は、パリヌルス、オキテス、オロンテスへの開示だ。二番目は、全ての我らが民族への開示だ。三番目が事業体の件だ』
 『はい、そうですね』
 『部門別に計画を遂行していくわけだが、お前と俺、役務を分担してやりたいと考えている。お前は、それについてどのように考えている。お前の考えはは如何に?』
 『統領の言われることの意味を充分に理解しています。担当する役務について、統領の意向を言ってください』
 『一番目の意志開示及び二番目の全民族への意志開示、これは俺が責任をもって俺がやる。三番目の事業体の件は、軍団長であるお前に責任担当してもらいたい』
 『了解しました。私が責任を持って担当いたします』
 『これで俺とお前が責任担当する役務が決まった。役務の遂行は、お前と俺、パリヌルスら三人が加わって五人が力を合わせて、全ての業務といっても二番目と三番目の業務だが、お前が言ってくれた『愛』のスタンスで事を処していく!それで、いいな』
 二人は計画実行の大筋を決める。
 アエネアスが一番目及び二番目の部門について実行計画を述べる。
 『俺が担当してやる一番目の小さいが重要な意味を持つ、パリヌルスら三人への意志開示を明日、業務終了後に三人に伝える。その件についてお前に聞きたいことがある。俺の考えでは、アレテスも呼ぼうと考えているが、お前の考えを聴きたい』
 『統領の考え、いい考えです。アレテスも呼びましょう。彼も漁業関係の事業体の責任者です』
 『そこで一同の秀智にはかり、二番目の全民族への意志開示の時期と意向の対処をいかにやるべきかを検討しようと考えている。ドックスに関しては、オキテスの意見を聞いて、その場に参加させるか否かを決めたいと考えている』
 イリオネスは、アエネアスの気の配り方が至れり尽くせりであると感じとる。
 『解りました。統領の気遣いが感じられます』
 『イリオネス、ところでで三番目の事業体の件だが、これは複雑だ。許す時間の限り、とことん話し合おう。俺の考えでは、出来るだけいいカタチでクレタの者らに承継譲渡できればと考えている。でないと二番目の件がいいカタチでまとまらない。ということだ』
 『統領の言われる通りです』
 『おう、イリオネス、三番目の件について検討に入ろう。お前の考えを述べてくれ』
 イリオネスは、計画案作成のときに考えた事業体の承継譲渡に関する考えを述べるべく身構えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   8

2019-04-24 05:15:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 会所をあとにしたアエネアスとイリオネスの二人が広場への坂道を行く、地を踏みしめて歩む、広場の高みに到る、立ち止まる、浜を振り返り見る。
 アエネアスが声をかける。
 『なあ~、イリオネス、このクレタに来たことを考える。今日まで過ごしてきた日々、この広場の高みに気て考えた。何を考えたと思う?』
 『そのことについては、統領の考えられたことが読めてはいませんが』
 アエネアスの語りがトツトツとしている。
 『築砦だ!どのように砦を築こうかと考えた。それを考えながら、砦を築くことなく今日にいたった』
 二人は顔を見合わせる。
 『そして、今の決断に到ったというわけだ。今、二人が立っているこの場所に立って、浜を見おろして考えた。沸々とそれを思い出す。このクレタ島は不可解な一面を持っている、砦なるものが不要の地であることにも一因がある。今の決断に到る遠因はこれある。それで築砦をしなかったという結論だ』
 『そうですか、そのような話、全くなかったですね』
 『おう、そうだ。その砦を築く構想がまとまらずに今日にいたった。そのようなことで話さなかった。そういうことだ』
 このことをイリオネスに伝えることで、アエネアスは、長い間抱いていた胸のつかえをとりさる、そして捨てた。
 これを聞いたイリオネスは、統領としてのアエネアスのこのたびの決断、決心の強固さを感じとった。
 『おう、イリオネス、なが話になった。急ごう!』
 二人は歩み始める、イリオネスの宿舎に着く。
 即刻二人は、作業テーブルに就く、相対して着席する。
 イリオネスが棚から、クレタ島離脱出航の計画案を書き記した木板をテーブル上に置く、談合の準備を整える。
 『おう、イリオネス、ありがとう。準備よしだ!始めよう』
 クレタ離脱出航の計画案の検討を開始する。
 『統領、計画案に目を通されてどうでした?』
 『おう、よくできている。非の打ち所がない!二、三の修正したいと考えるところがあるが、その場に到って話し合おう』
 『解りました』
 二人は作業を進めていく段取りを話し合う。
 イリオネスが計画検討の段取りについて説明する。
 『おう、その段取りでいい!』
 意見がまとまる、イリオネスが身を正す、おもむろに口を開く。
 『統領。検討を始める前に、私の希望するところを伝えたいのですが、聞いていただけますか?』
 『おう、聞く。イリオネス言ってくれ』
 『昨日ですが、会所において考えました。統領が民族を統率されているわけです。この計画の実行に際して、統率のスタンスを『愛』のスタンスで処していただければと希望しています』
 『おう、イリオネス、よく言ってくれた。お前の言う、そのスタンスで事を処する。トコトンそのスタンスで事をやる、あとは野となれ、山となれといったいい加減な処し方は許さない!そのように心に決めている』
 『解りました。よろしく願います』
 イリオネスは、アエネアスと目を合わせ微笑んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   7

2019-04-23 07:34:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 空が高く澄んでいる、いい朝が明ける。
 アエネアスとイリオネス、朝行事の浜で顔を合わせる。
 『統領、おはようございます。いい朝です』
 『おう、いい朝だ!おはよう』
 アエネアスの返す言葉の語韻に緊張感がみなぎっている。聞きとったイリオネスは、それが当然であろうと受け止める。
 クレタ島離脱の日まで、1か月、明ける日々を身構えて処理していく、それが当然であろう。
 その事象にあたる、当然の宿命である、それを対処する、クレタ島離脱出航するまで、事象の起承転結を避けることなく、謙虚な姿勢で最善を尽くして対処する者だけに未来の扉が開き道が通じる。
 アエネアスとイリオネスの自覚は別として、生きる者の運命を宿命化している。
 イリオネスは、アエネアスに対して、勇気と英断で決断してくれるよう切望して、今日の談合を行うよう覚悟している。
 アエネアスの心情は、『誠意をもって事に当たる。道は自ずから開かれて事は成る』である。
 仁慈を尽くさねばならない、そのような好事運次第でうまくいくだろうかと大いに懸念する。
 イリオネスはアエネアスに声をかける。
 『統領、会所において朝の業務を終えたら、早速に計画の打ち合わせにかかりますか?』
 『おう、そうしよう。場所はお前の宿舎でやる』
 『解りました』
 朝行事を終えたパリヌルスとオキテスが二人の傍らに立つ。
 『統領に軍団長、おはようございます。いい朝です。今日この頃になると日々の日足が少々長くなったと感じます。日々に処理する業務がはかどります。順調に進んでいます』
 『そうか、それはいいことだ。それは重畳と喜んでいいのか?』
 『喜んでいただいて結構です』
 『お前らうれしいことを言ってくれる。軍団長、ここをつねってみてくれ』と言ってイリオネスに頬を向ける、イリオネスが力を込めて、この時とばかりにアエネアスの頬をつねる。
 『ううっ!痛い!』
 『軍団長、加減というものがあろうが!』
 『失礼しました、力が入りすぎたかな?』
 『ウワッ!ハッハ!』
 四人が笑い合う。
 『笑い角に福が来る!それが俺の期待するところだ。ハッハッハ!』
 四人が朝行事後の瞬時を笑いで楽しむ。
 アエネアスにイリオネスが連れ添う、パリヌルスとオキテス、四人は二つに分かれて場を離れていく、朝食後に会所において会同する、今日の業務予定について話し合う。
 『おう、各自の今日の業務を聞き止めた。軍団長と俺は、軍団長の宿舎にいる。新しい暦の始まりについて話し合う。昼は会所に来ない。夕刻にはここへ来る。そういうことだ。今日も一日、業務に精励する』
 『はい、私らも業務に精励いたします』
 四人は気組みよろしくそれぞれの持ち場へと歩を向けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   6

2019-04-22 06:01:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、イリオネスの作成したクレタ離脱の計画案に見入る。
 『お~お、よくぞ仕上げてくれた』
 心中でつぶやき手にとる、慎重に慎重を重ねる、アエネアス自身が描いた計画に重ね合わせる。
 検討の意を含めて目を通していく、イリオネスが作成した計画案に非の打ちどころがない。
 計画実行のタイミングの実行をどのように進めていくかが重要課題である。そのことを考えながら微に入り細にわたり作成された計画案に目を通していく。
 繰り返し目を通す、四度も目を通す、最終回の目通しに到って財務状況を読みとった。
 宵が深まってくる、書かれている字が読み取りにくくなってくる。
 『いいだろう!これで事を進める段取りができる。二、三の修正を話し合わねばならないが』
 アエネアスが読み終わる、計画案の出来あがりに満足する。
 彼はこれで事は成ると確信する。
 目を通し、読み終えた計画案の木板をイリオネスが指示した部屋の後ろ壁にしつらえてある棚の最上部に置く。
 去り際に確認する、彼は、自分の宿舎へとイリオネスの宿舎をあとにした。
 
 会所にいるイリオネスは、作成したクレタ離脱出航計画案を振り返り思い起こす。
 『あれ以上のことは考えられない。後は実行の際に実行する者がいかに誠意をもって、事を処していくかである』
 思考が立ち止まる。
 『この計画実行の心がけは『愛』であることを統領に伝えなければならない!』と自分自身に言い聞かせる。
 イリオネスは、このクレタ島に残していく者らの心情を限りなく思いやっている。
 この期に及んで、かって、トラキアに残してきた者らはどのように過ごしているだろうか?エーゲ海、はらか北の大地に残して来た者らの心情を思いやる。
 そのような別れの悲哀を味あわせることに胸が傷みに痛んだ。
 俺は、統領とこの計画の実行を共にするのだが、それは生死を賭けた実行計画なのだ。
 クレタ島に残る者らには、そのような死の危難に遭遇する危うさがないであろうことが唯一で救いであるとした。
 会所で一人深くもの想いに沈んでいるイリオネス、オロンテスの声を耳にする、我に返る。
 『軍団長、只今、帰りました。今日の報告をします』
 イリオネスがオロンテスの報告を聴きとる、売り上げの木札を入れた袋を受け取る。
 『あっ!軍団長。統領から聞いていただきましたか?テカリオンが近日中に当浜へ来るだろうということを』
 『おう、聞いてる聞いてる』
 『私の予想としては、27~28日ころではないかと考えています。それから、スダヌス浜頭から、今日、連絡がありました。21日に当浜へ来るとのことです』
 『そうか、解った。オロンテス、今日はご苦労であった』
 オロンテスが会所を去っていく。オキテスが姿を見せる、パリヌルスも来る。
 三人は、展示試乗会の催行について打ち合わせる。
 イリオネスが二人に、21日にスダヌスが当浜に来ること、テカリオンがクノッソスに来ていることを伝える。
 今日が終わる、宵が迫ってきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   5

2019-04-19 12:56:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、自分の宿舎に戻りつく、作業テーブルに就く、木板と木炭の所在を確かめる。
 考える、思考する、戦略的に思考する、背水の陣立てでクレタ離脱計画立案を対峙対手として身構える。
 クレタ島離脱実行は、多岐に及ぶ諸案件の円満処理でなければならない。
 諸案件をリストアップする、各諸案件処理構想を思案する、処理手順を思案する。
 外部のことを考えなければならない案件に関しては、対処外部に関して、外部の人材起用をも含めて考える。
 諸案件の予想される結果を慎重に考えて計画を立案してする、処理策はできるだけ2項ぐらいまでに絞り込み、アエネアスとの検討、談合のまな板の上に載せるように配慮して立案する。
 継承する事業体についてはその引き継ぎに際して、クレタにとどめおく民族の安心立命に関して計り知れないくらいに思考を尽くして、心を砕き計画を練りあげる。
 思考立案した案件を数多くの木板に丁寧に書き込む。なお、諸案件の処理に関してはすでに決定しているクレタ離脱出航の日まで時系列を整えて書きあげる。
 思考は、推考に推考を重ね、行きつ戻りつを繰り返し、これでもか、これでもかと入念に計画立案を仕上げた。
 計画立案作業が完了したのは、アエネアスより受命した翌日の午後半ばに到っていた。

 イリオネスは、クレタ離脱出航計画立案作業が完了したことを会所にいるアエネアスに告げる。
 『統領、懸案の計画立案作業が終わりました。私の宿舎に保管しています。方針決定のための談合について、統領はどのようの考えておいでですか?』
 『そうか、出来あがったか。イリオネス、ご苦労であった。この件については、この頃合いだ、さそっく目を通す』
 『目を通されますか。解りました』
 『談合、検討については、明日、朝業務を終えたら二人だけでやろう。場所はお前の宿舎でやる。それでどうだ!』
 『いいでしょう。解りました。統領、私の宿舎へ行きましょう』
 『おうっ!』
 二人はイリオネスの宿舎に向かう、言葉を交わすことなく、二人は無言で歩を運んでいく。
 イリオネスの宿舎に着く、作業テーブルに就く。
 イリオネスが立案したクレタ島離脱の計画を書き込んだ木板をアエネアスに手渡す。
 『できるだけ丹念に目を通していただければ幸いです。統領の私案と照合してください。私は会所のほうへ行きます。計画案を見られたら、後ろの棚の一番上においてください』
 『おう、解った。見終えたら、俺は俺の宿舎に帰る』
 『解りました』
 イリオネスは会所へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱   4

2019-04-19 09:00:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、統領アエネアスからクレタ離脱出航のための計画立案の命令を受託する。
 気おいで身に震えを感じる、トロイ民族史上最重要の命令と位置付けられる命令である。
 彼は思考する、脳内で咀嚼する、その態様を理解し把握する。
 『統領、只今、下命された命令について、しっかり理解し把握しました。即、計画立案の作業にとりかかります。そのうえで統領と談合、検討、決定、段取りして実施いたします』
 『おう、よろしく頼む。これに関しては、お前の目線による計画立案が大事であると考えている』
 『承知しました。これにて私は、私の宿舎のほうへ行きます』
 『おう、了解!俺は会所のほうに行く』
 二人は立ちあがる、アエネアスは会所に向かう、イリオネスは自分の宿舎へと歩を向けて歩みだす、二人の足構えは力強く、計画の遂行に自信を見せていた。

 アエネアスは、会所におちつく、キドニアから帰還したオキテス、オロンテスが会所に顔を見せる。
 『あっ!統領。ただいま、帰りました』
 『おう、ごくろう。今日はいつもより早い刻の帰りだな。軍団長は、野暮用で席をはずしている。報告は、代わりに俺が受ける』
 オロンテスが今日の業務結果を報告する。
 『お~お、これが今日の売り上げか。オロンテス、預かる』
 アエネアスが布袋に入った売り上げの集散所の木札を受け取る。
 『お~お、いつもより少々多めだな?』
 『統領、解りますか?今日は売りが絶好調でした。うれしい限りです』
 オロンテスの報告が終わる、続いてオキテスの報告を聞く。
 『おう、オキテス、打ち合わせ、諸手配、支障なくうまくいったかな?』
 『はい、この上なく順調に行きました。今月末に催行するキドニアでの展示試乗会、集散所の期待が大きく幸先がいいように感じられます』
 『おう、そうか。それは重畳!何よりだな』
 オロンテスが耳にした情報を伝える。
 『今日、キドニアで耳にしたのですが、テカリオンがクノッソスに来ているようです。近日中に当地に来ると思われます。軍団長に伝えてください』
 『お~っ!そうか、それは耳よりな情報だな。解った、軍団長に伝える』
 オキテスが軍団長に伝えてほしいと追加の伝言をアエネアスに伝える。
 『スダヌス浜頭が近日中に当浜に来ると言っていました。そのように軍団長に伝えてくださればいいのですが』
 『おう、心得た』
 当日の業務が終わろうとしている、三人は雑談の一時を過ごした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  3

2019-04-18 06:18:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがアエネアスに話しかける。
 『いずれ、そのような日がおとずれるであろうとは考えていました。今、突然にその日がおとずれるとはです』
 イリオネスは、ここ数日におけるアエネアスとの剣合の日々を振り返る、あの剣の打ち合いの中にこの想いが秘されていたのかと思いいたる。
 『そうか、お前の驚きは当然であろう。俺の考えるところはだな。このクレタ島が建国の地ではないという結論に到った。いかに建国するか、その手順を考えてみてもクレタ島は領国の地であって、建国の地ではないとの結論に達した』
 アエネアスは、イリオネスの心をはかるように説得の思いを込めた目線で目を合わせる。
 アエネアスは話し続ける。
 『イリオネス、そういうことだ。出航の日までに出航の準備を整えてくれ!この決断は如何なることがあろうともくつがえることはない。以上だ』
 『承知しました。統領、それについて計画し段取りするわけですが、いつ、側近の者らに伝えるかを考えねばなりません。計画の全てを一からやれといわれるわけですね』
 『そうだ、それを踏まえて、お前と話し合い、段取りを実行する、全ての事態を処理する、そして、クレタを離脱する。事の成否はお前の計画の中にある』
 『了解しました』
 『クレタを離脱出航する船が向かう先は、ただただ漠然と西へとしている。ここが建国の地であるとこの足で起つまで幾多の困難があることは覚悟の上の出航である。何があろうと恐れはしない!』
 『解りました。統領の決断のほどを知りました。計画立案を明日中に終えます。明後日には話し合えるように整えます。ひとつうかがっておきたいことがあります』
 『おう、何だ?』
 『このクレタに残留させる民の人数をどれほどに考えておられるかを聞かせておいてください』
 『その件か、俺の考えでは、300人余りくらいと考えている』
 『解りました。民意をはかるよすがとします。ほかに何かあるようでしたら聞かせておいていただければ』
 『おう、お前の思考の中にあると考えてはいるが、財務の問題にチエックを入れておいてほしい』
 『承知しました』
 『航海途上における危難、戦闘に明け暮れる日々、予期せぬ日々の連続かもしれん。よろしく頼む』
 『解りました。充分に配慮して、計画を立案します。即、段取りに移れるように計らいます』
 アエネアスの決断を聴きとったイリオネスは、この史上の大事について思いをはせた。