『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  286

2010-08-31 08:17:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽は西にあかあかと燃えている、サンセットが間近い、辺り一帯に、香ばしい匂いが漂い、林の中の肉食系の動物が寄ってこないか、心配しながら夕食に取り掛かった。
 『今夜が最後の野営だ。酒はみんな飲んでしまえ、残すことはない』
 一同が久方ぶりに口にする野ウサギの串焼きに舌鼓を打ち、酒は身体にしみわたっていった。
 『統領、とてつもない、でっかいみやげですよ』
 トリタスは口を開いた。
 『ほう、どんなだ。そのとてつもないでっかいみやげの話を聞きたい。この俺が腰を抜かすような話か。それだったら、なお、早く聞きたい』
 『それはですね。私たちの隊がこの地を離れて、昼前の休憩を取る前に、アーモンドの大群生が目に入ったのです。それはそれは、でっかい大群生です。イリオネス、統領のウシロにまわって、身体を支えていてくれ』
 イリオネスは、酒杯を片手に統領の背後に廻った。

第2章  トラキアへ  285

2010-08-30 07:44:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 全員が無事に野営地に帰りついた。彼らは、互いの無事を確かめ喜び合った。そこには主従の枠はなかった。
 『おう、皆、無事に帰ってきた。何よりだ』
 アエネアスが言えば、トリタスが声をあげた。
 『統領、でっかいみやげを持って帰りましたよ』
 『それは、重畳、重畳。ありがとう、トリタス』
 『皆、ちょっと、喉を湿らせよう。キノンも、荷役の者たちも、皆、集まってくれ』
 イリオネスは、皆を呼び寄せ、杯を手渡した。
 『オロンテス、皆に酒を注いでくれ』
 皆は注がれた酒を一気に腹に収めた。陽はまだ高い位置にあった。
 キノンは、イリオネスに声をかけ、荷役の者たちに手伝わせて、夕食の食材である野ウサギの解体作業に取り掛かった。
 『キノンさん、こいつら、よく肥えていますね』
 『この季節の野ウサギにしては、脂ののりがいいですね』
 彼らは、言葉を交わしながら、手際よく作業を進めて言った。
 イリオネスたちは、枯れ枝を集めたり、火をおこしたり、串つくりに取り組んでいた。

第2章  トラキアへ  284

2010-08-27 06:46:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ざわめきが指呼の距離となる、姿、形が見えてきた。アエネアス隊の4人であった。ギアスが声をかけた。
 『イリオネス、俺たちだ』
 ギアスの声が彼らにとどいた。
 『おう、ギアスどうした』
 『どうしたも、こうしたもない。何が来るか。俺たちは身を潜めて、様子をうかがっていたのだ』
 トリタスも、荷役の者も、山刀の抜き身を手にして近づいてきた。トリタスはアエネアスに声をかけた。
 『統領、ひょんなところでお会いしましたね。もう、帰る野営地も目と鼻の先です。一緒にまいりましょう。』
 『そうだな。そっちはどんな具合だった?』
 『え~え、でっかい土産を持ってきました。』
 『そうか、そうか。よかったな。話は、野営地に着いてから話そうではないか』
 両隊は、連れ立って野営地に向かった。

第2章  トラキアへ  283

2010-08-26 07:23:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、いい狩であったか。獲物は』
 アエネアスも、イリオネスも、二人の狩猟者を迎えた。
 『え~え、野ウサギ6羽です』
 『ご苦労、ご苦労。さあ~、少し休め』
 彼らは、野ウサギ狩談義に花を咲かせて、しばしの休憩をとった。
 『皆、どうだ。少しは疲れたか。出発するぞ』
 イリオネスの掛け声で休憩地をあとにした。探索が目的の行路である、両隊とも広大な丘陵地の道なき道を歩んでいる、両隊とも知らず知らずのうちに蛇行していた。
 トリタス隊の一行は、遠い後方のざわめきに気がついた。歩を止める一行、様子をうかがう、4人に緊張が走る、トリタスの頭の片隅を『もしも』が通り過ぎた。薮影に身を潜めて、そのざわめきに注視した。トリタスは考えた。『俺たちのほかにいるのはアエネアス隊の4人だけのはずである』 ざわめきが近づいてくる、彼ら4人は、身を潜めながら、身構えた。
 ギアスは、小弓に矢をつがえている。トリタスと荷役の二人は、山刀を握った。オロンテスは、杖代わりの棒を汗をかいて握っていた。

第2章  トラキアへ  282

2010-08-25 06:51:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 その頃、アエネアス隊も昼食を終えて帰途についていた。彼らは南下した上で、西に進路を転じて歩を進めていた。キノンがイリオネスに声をかけた。
 『イリオネス様、今夜の食事の件ですが、途中、小休止の折に、私と荷役の者とで野ウサギ狩に出ようと思っているのですがどんなものでしょう?』
 『おう、それはいい。俺はどうすればいいかな』
 『そうですね、私たちが林の中で迷わないように気を使って、見張っていてください。』
 『判った』
 一行は、程なく、小休止に適した場所に来た。二人はイリオネスの持っている小型の弓を借り受けて場を離れ、林の中へ入っていった。
 案内役のキノンは、動物的な勘も鋭く、林の中に、いい狩場を見つけた。
 二人は、じい~っと、息を潜め薮影に身を隠し、狩を開始した。荷役の者が動物の声を模してた叫びをあげる。
 野ウサギが姿を現す、すかさず、キノンが矢を射掛ける。第一矢は、外れた。
 『俺としたことが』 と舌打ちをした。
 そうこうして、二人は6羽の野ウサギをどうにかしとめた。

第2章  トラキアへ  281

2010-08-24 16:59:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一拍おいてトリタスは続けた。
 『私たちがここから引き返したという『しるし』を残したいと思っているのだが、何かいい案がないか』
 この問いかけにギアスが、即、答えた。
 『この大木の根元に石塚を築いておいたらいいのでは』
 『うん!それはいい』
 方針は一発で決まった。
 一同は、一斉に作業に取り掛かった。そこいらにある石をかき集めて、大木の根元に思ったより大きめの石塚を作り上げた。
 『お~お、出来上がったか。これでいい、これでいい!』
トリタスは、大満足であった。彼は、これを機に皆に声をかけた。
 『では、皆、いいな、出発だ』
 一同は、築いた折り返し点の石塚を目にとめて、帰路の一歩を踏み出した。

第2章  トラキアへ  280

2010-08-23 07:17:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 トリタス隊の面々は、アーモンドの樹の大群生の発見で気持ちが弾んでいた。彼らは、ルンルンの気分で歩を進めていく、ときどき目にする、アーモンドの樹の小群生をも記憶にとどめて進んだ。
 太陽の南中のときに及んで、昼食休憩をとることにした。程よい木陰を見つけて身体を休めた。昼食を食べながらの話も弾みに弾んだ。
 『どうだろう、オロンテスさん。帰りのルートだが、少しばかり北のルートで帰路につこうと考えているのだが』
 『いいですね、とにかく、トリタスさん。私たちは、貴方の指示によって動きます。お任せします』
 『よし、私に任せてくれるかね。帰りも充分に気を配って行こう。統領の隊は、どんな具合だろう。しかし、おかしなものですね、オロンテスさん。西も東もわからない初めての山野をうろつくのに、あのフシギな道具があるだけでとても心強い、不思議な心境です』
 トリタスは、感じた思いを口にした。

第2章  トラキアへ  279

2010-08-20 07:36:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうか、そうか、それがいい。これがあれば航海も行く先を見失うこともなくなる。イリオネス、ところで、昼めしまで、あとどれくらいの間がある? それにしても、腹が減ったな、お前はどうだ』
 『私も空腹を感じています。キノン、お前たちはどうだ』
 『私たちですか。それは、イリオネス様に同腹です』
 『キノン、昼めしの分を残して、熊肉に余分があるか』
 『え~え、それは少しあります』
 『それを出して、食べようではないか』
 彼らの話は、腹具合の話にそれていった。
 『統領、説明しますよ。見てください。棒の影がこの方向に延びています。この筋とこの筋の間隔の比率で知ることが出来ます。この筋に近いですね、これはですね。陽の出から太陽が南中する昼飯時まで、これだけの間がありますと示しているのです。この間隔でいうと、あと二息か三息くらいで昼めし時ですね』
 『お~、そうか。すっき腹を感じて、当たり前だ』
 キノンは、イリオネスの指示で、焼いてきた熊肉を取り出して皆に分けた。
 『では、出発しよう。肉をかじりながら歩くぞ』
 彼らは、強くなってきた陽射しに炒られながら、周囲に目を配り、歩行を開始した。

第2章  トラキアへ  278

2010-08-19 07:10:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽のあたる場所に身を移したイリオネスは、鉄の棒と真ん中に棒の立った板を地上において操作した。鉄の棒にあわせて板を調整して、影の延びている方向を確かめた。
 『統領、これを見てください』
 『お~、この影の出来具合でわかるのか』
 イリオネスは、案内役のキノンも、荷役の者も手招きして呼び寄せ、板の真ん中に立つ棒の指し示す方向で、おおよその時間の頃合が解かることを説明した。キノンも、荷役の者も首を傾げながら、話を聞いていて、納得はしないが、その結果がそのようであろうと理解したようである。
 アエネアスは、説明を聞いて、その理屈については理解した。
 『しかしだな、イリオネス。その鉄の棒が不思議だ。ヒモで吊り下げて、その動きを自然に任せるのだが、その一方が決まって北を指し示す、その理屈が解からん。お前はどうだ。まさに、不思議この上ない。フシギな鉄の棒だ。しかし、これは重宝な道具だ。パリヌルスも、オキテスも知っているのか』
 『それについては、彼らは、まだ知ってはいません。私が使いこなした上で彼らに教えてやろうと思っています』