『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  977

2017-02-28 08:31:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスら二人は新艇の納入に関して打ち合わせた詳細を持ち帰った。
 浜では、統領をはじめ軍団長、パリヌルスが待っている。
 『おう、二人ともご苦労であったな。打ち合わせはうまくいったか?』
 イリオネスが二人の姿を見て開口一番尋ねた。
 『はい、うまくいきました』
 『それは重畳!報告を受ける』
 『注文主の要望は、話し合っていたように、自分の港で新艇を受け取りたいということです。次に艤装および添付に関してですが、艤装については現状のままでよく、添付サービスには櫂の1セットがほしいとのことです。それから、帆一式四枚を出精サービス価格でつけてほしいとの要望です』
 『ほう、そうか。新艇の納入が注文主の港で、納入期限は?』
 『それは、向こう一か月以内にということです』
 『そうか、解った。ほかに何か、打ち合わせたことがあるかな?』
 『はい、納入に関して、自走でも曳航でも、どちらでもいいそうです』
 『この打ち合わせた内容で、一番容易ではないことは、注文主の港で新艇を引き渡すところだな。よし!明後日、この件について討議検討しよう。オロンテス、この件についての集散所方への返答だが日限を約束しているのか?』
 『はい、それについては、五日以内に返答すると約束しています』
 『オロンテス、明日、この件についての返答を集散所方へ伝えてくれ』
 イリオネスは、統領と目を合わせて話をつづけた。
 『統領、話は聞かれましたね。一切承諾と伝えてよろしいですね』
 『おう、それでいい!これは、我々が手掛けるべき注文主への当然のサービスと理解して取り組む!』
 『一同!聞いたな。今の統領の言葉。ということで、新艇の納入を行う。オロンテス、集散所方へ引き受けを伝えてくれ』
 『解りました』
 アエネアスが話を継ぐ。
 『サービスとして櫂舵も予備に一本ですがお付けいたしますと伝えること』
 『解りました』
 『ところでだが、テムパキオからキドニアへ来られたパキオテ殿だが、陸路を来られたのか海路を来られたのかをハニタス殿に聞いてきてくれ』
 『了解しました。この件について集散所からテムパキオへの海路の地図、レテムノンの港の図面をもらってきております。これをスダヌス浜頭に見せたところ、レテムノンに行くときは同行するといっています。問題はテムパキオへの納入航海です。スダヌスの言うところでは、海賊の危険性を指摘しています』
 『おう、お前ら二人でそこまで調べてきてくれたのか、納入を考えるうえでいろいろ調べてくれたのかご苦労だったな。オキテス、オロンテス、ご苦労であった。オロンテス、パキオテ殿が陸路であったか海路であったか聞いてくるのを忘れるなよ』
 一同は話し合いを終えた。


    *投稿で誤字をやりました。深くお詫びいたします。投稿日 2月23日 上から7行目です。
 偽装については、現状~   を    艤装については、現状~    に訂正します。
                                   山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  976

2017-02-27 08:34:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、その足で集散所の詰め所へと向かう。
 『お~、ハニタス殿、おいででしたか。午前中はいろいろとありがとうございました。ちょっと、頼みごとがあってきました』
 『何でしょう?』
 『テムパキオへの地図のことです。テムパキオへは、クレタ島の西回りの航路で行くわけですが、その航路の地図がほしいというわけです。木板に書いていただければ幸いなのですが、お願いします。またレテムノンの港の図面が必要です。レテムノンへの航路についてはよく知っています。以上、2面の図面を必要とします。よろしく願います』
 『そうですな、言われる通り必要ですな。解りました。図面の事、夕刻までに売り場のほうへトミタスに届けさせます』
 『よろしく願います』
 オロンテスは売り場に戻り、図面の到着を待った。
 夕刻となり、トミタスが地図を描いた木板をもってパン売り場に姿を見せる。
 『あ~、オロンテス殿、依頼のありました地図を持ってきました』と言って、2枚の木板をオロンテスに手渡す。
 『おう、トミタス殿、世話をかけましたな。こちらがテムパキオへの地図で、こちらがレテムノンの港の図面ですな。確かに受け取りました。ありがとう、礼を言います』
 『では、よろしく願います』
 トミタスが売り場をあとにして去っていく、オキテスはその場をはずしていた。
 『おう、オキテス、地図が届いた。見てみるか』
 オキテスがとどいた2枚の木板に目をおとす。
 『おう、よく描かれておるではないか。一目瞭然、見てわかる。その木板をもって一緒に行こう』
 『どこへだ?』
 『スダヌスのところへだ』
 『おう、了解!』
 二人は、2枚の木板を携えてスダヌスの売り場へと歩を向ける。彼は売り場に立って、客対応の真っ最中である。
 『おう、ご両人!何か用か?』
 『ちょっと、見てもらいたい!』
 『おう、解った!』
 彼の言葉づかいは、売り場の客対応の言葉である。
 オロンテスが図の描かれた木板を手渡す、図に見入るスダヌスが口を開く。
 『おう、なかなか、よう描かれている。こちらのテムパキオへの地図は、ハニタスの描いたものだな。あいつ、このようなことはとても几帳面なのだ。うんうん、停泊地についても記している。まず、第一日目は、陽の出前に出航して、一路停泊地を目指すことだな、あとは順調航海で行けば夕刻前にテムパキオに到着する。オキテスとギアスであれば航海がうまくいく筈だ。洋上においての外敵との遭遇には注意せよだ。これは言っておく』
 『スダヌス浜頭、ありがとう。詳しいことはもう一度聞きにくる』
 二人は、売り場をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  975 

2017-02-24 15:04:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、ハニタスらと打ち合わせを終えて売り場に戻ってくる、オロンテスは売り場に目配りをしてオキテスに声をかける。
 『オキテス、では、行こうか』
 『おう!』
 二人は集散所の広場に向かう、広場を見渡す。
 『お~い、オキテスとオロンテス!こっちだ!』
 聞きとめるスダヌスの声、二人はスダヌスの前に立つ。
 『おう、言葉に甘えてきたぞ!いいかな』
 『いいともいいとも、何を言ってんだ!君ら二人と俺の仲だ。お前ら、よくぞ頑張った!大したもんだ!』
 スダヌスが二人と目を合わせる。
 『新艇、五艇、完売!おめでとう!まずは酒杯を持て!』
 彼が酒杯を差し出す、手に取る二人、なみなみと酒が注がれる。
 『俺についでくれ』
 酒ツボを受け取るオキテス、スダヌスの酒杯に酒を注ぐ。
 『お、お~っ!』
 改めて三人は顔を合わせる。
 『ご両人!おめでとう!』
 『俺たちに力を貸してくれたスダヌス殿に大感謝!』
 三人が『乾杯!』と叫んで酒杯を口に運ぶ、杯の酒を一気に飲み干す。手の甲で口をぬぐう、そして、目を合わせる三人。
 『お~お、うまい具合に焼けている、さあ~、つまんでくれ!』
 串刺しの焼きあがったおおぶりの肉塊に塩を振り、三人が噛みつく。
 『お~お、こいつはうまい!』
 三人は野趣にあふれる昼食を共にしている、オロンテスが携えてきたパンをスダヌスに手渡す。
 『お~お!』と声を上げて口に運ぶ。
 スダヌスが口を開く。
 『新艇の納入はどのようにするのだ?』
 『おう、注文主の要望は、自分が宰領している港で受け取りたいと言っている』
 『そうだろうな、レテムノンのテムノス殿のところはさほどに遠くはない、俺の浜へ来るようなもんだが、テムパキオの港は、島の西回り航路で行くとするとかなりの距離がある。二日の航走は覚悟ということだな。いい風に押されて、二日はたっぷりという行程だ。レテムノンに行くときは俺も一緒に行く、テムノス殿に会いたいと思っている。テムパキオへは出入り4~5日見ておくことだな。航路については、聞いてくれ説明する』
 『浜頭、その時はよろしく頼みます』
 『おう、心得た』
 『オロンテス、ハニタス殿に言って、テムパキオへの地図を準備しよう』
 『そうだな、解った。木板に書いてもらってくる』
 『ついでにレテムノンの港の図面も同時手配だ』
 『今日の午後にやってしまおう』
 三人は、スダヌスの心使いの昼めしを終えた。
 『スダヌス浜頭、たいへん馳走になりました。主客転倒といった始末で馳走になりました。我々がお礼をしなければならないところを、俺たちがしてもらうとは、ありがとうございました』
 二人は丁重に礼を述べる、三人はそれぞれの売り場へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  974

2017-02-23 14:33:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 会した双方が喜びを交わす、四人に間に交歓の余韻が尾を引いている、一同が目を合わせる、少しのあくぃだ和んだ。
 ハニタスが一同に声をかける。
 『オキテス殿にオロンテス殿、始めましょうか』
 『はい、ハニタス殿、私たちは承る準備はできています。納入に関する要望を言ってください』
 『注文主の皆さんは、自分たちの港で新艇を受け取りたい。そのように言っています。納入に関しては、自走、曳航のいずれでもかまわない。そのように言っています』
 『艤装、添付、予備品等についての要望はいかがでしょうか』
 『注文主の要望では、偽装については現状でよろしいそうです。添付、予備品については、帆を一枚づつ計四枚を予備にほしいそうです。それから、櫂を1セット、サービス添付していただければというのが、注文主の要望です。帆については、できるだけ出精価格で願いたいそうです』
 『納入期限についての要望はどうでしょうか?』
 『それについての要望は向こう一か月以内であればということです』
 『これらについてのハニタス殿へ五日以内に返答申し上げたい考えていますが、それでよろしいでしょうか?』
 『それでよろしいです。いま、言いました、これらを承諾いただきたいというのが当方の希望です』
 『解りました。これらの要望を持ち帰り、検討して、先ほど申し上げてように五日以内に返答いたします』
 『解りました。私どもとして言えることは、テムパキオは陸上ではそんなに遠くありませんが、いざ、海上を航走してパキオテ殿の港に行くとなれば、西の岬の先端を迂回して南下、そして沿岸に沿って東への航路となればかなり遠くなります。検討のほどよろしくお願いいたします』
 『解りました。我々として、最善を尽くして、この仕事と取り組むことを約束いたします』
 『そう言っていただけるとは心強い!ありがとう。ご両人よろしく頼みます。大体のところ、話は以上です』
 『了解しました』
 オキテスとオロンテスは、話を終えて集散所の詰め所をあとにした。
 『おう、オロンテス、スダヌスが昼を一緒にしようと言ってくれている。それでどうだ!』
 『おう、いいな。馳走になってもいいかな、スダヌスも俺らとともにこの仕事に取り組んでくれた。すじから言えば、俺たちが彼にすべきところなのだがーーー』
 『そうだな、スダヌスに感謝だな。今日は馳走になろう』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  973

2017-02-22 08:37:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人はそれぞれの宿舎へと足を運んで行った。
 
 日々新たにいい朝がニューキドニアの浜に来る、一族の各部署がそれぞれの役務遂行に稼働し始める。
 オキテスは、新艇納入の打ち合わせにオロンテスに同道してキドニアへと向かう。
 二人は、ヘルメス艇上で話し合う、この件について、オキテスは軍団長と想定される諸事について打ち合わせたことをオロンテスに伝えた。
 『軍団長の言い分では、新艇の納入は注文主の港ではなかろうかという話であった』
 『俺もそのように考える。とにかく話を承るという姿勢で相手方の話を聞くか』
 『おう、それがいいであろう』
 二人は打ち合わせを終える、集散所との詳細打ち合わせに臨む二人のスタンスが決まった。
 キドニアの船だまりに着く、オキテスがオロンテスに声をかける。
 『おう、オロンテス、俺、ちょっと、スダヌスのところへ立ち寄って売り場へ行く』
 『おう!』
 オキテスは売り場に立つスダヌスと話を交わす、新艇五艇が完売したことを伝え、事情を簡単に伝える。
 『ほう、そうであったのか。レテムノンのテムノス殿が来ていたとは知らなかったな。そうか、それは重畳と言うところだな。オキテス、お前らよくやった!祝杯ものだな。昼を一緒しよう。オロンテスを連れてきてくれ。広場で待っている』
 『おう、ありがとう!じゃ~な』
 オキテスは、スダヌスの売り場をあとにする、オロンテスがオキテスの到着を待っていた。
 『おう、オキテス、詰め所へ行こう。ハニタスが待っている』
 二人は歩を運ぶ、詰め所のいり口に立つ、ハニタスが声をかけてくる。
 『おう、ご両人、おはよう!どうぞ、中へ入ってお掛けください』
 二人は腰を下ろす、トミタスも立ち上がって、二人に挨拶をする、ハニタスが話しかけてきた。
 『先日は、大変、お世話かけました。いろいろと配慮いただきありがとうございました。そのかいがあって商談がまとまりました。まことに喜ばしい次第です。所長はじめ私ども、かってない大型商品の取引に喜んでいます』
 『そうですか、私どもも新艇五艇の販売を完了して、統領以下総員が喜んでいる次第です。本当に双方にとってうれしい快挙といったところです。こんなに喜ばしいことは、なかなかないことだと感動しています』
 オキテス、オロンテスが立ち上がる、手を差し出す、ハニタスら二人も立ち上がる、四人は互いに差し伸べた手を握る、握手を交わす、互いに目を合わせ、事を成し遂げた感動で喜び合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  972

2017-02-21 07:52:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほう、そうか!それは重畳であった。オロンテス、ようやってくれた。いい成果だ!ごくろう!』
 アエネアスが言う、照れるオロンテス、イリオネスが口を開く。
 『それで、新艇納入に関する詳細は?』
 『はい!その件については、明後日に集散所側と打ち合わせることになっています』
 『事は為ったな、イリオネス。何が、どこで、どう作用したか、解らないが、いい結果に決着した、喜ぼう。あとのことは、三人と打ち合わせて、よろしく頼む』
 『了解しました』
 このニュースが浜を駆け巡る、各所において歓声が起きる、オキテスとドックスが肩をたたき合って喜ぶ、パリヌルスとギアスが話し合っている、ニュースを耳にする、二人は快哉を叫んだ。
 ギアスはこれを聞いて、ヘルメス艇上で気持ちを急かせていた状況を理解した。彼は、その様子をパリヌルスに語って聞かせた。
 今日の業務が終わる、イリオネスら四人が顔を合わせる、彼らは打ち合わせを始める。
 『おう、一同、今日もご苦労であった。状況に変わりはないな。君らはもう耳にしているであろう、オロンテスがいい便りを持って帰ってきてくれた。新艇の完売だ。先日、この浜に試乗をした三人の客人と商談がまとまった』
 イリオネスと三人が目を合わせる、うなずき合う。
 『納入に関するる詳細については、明後日に打ち合わせることになっている、オロンテスそういう段取りだな』
 イリオネスがオロンテスに念を押す。
 『はい、そうです』
 『そのようなわけで、明後日には、オキテス、オロンテス、両人で集散所側と新艇納入に関しての打ち合わせをやってくれ。その意向だが、それでいいな』
 『解りました』
 二人が返事を返す。
 『では、そういうことだ。俺の考えだが、対処は詳細打ち合わせ後でいいと考えている』
 『私らもそれでいいと考えています』
 『よし!それで決まりだ。何か打ち合わせておきたいことがあるかな。あれば言ってくれ』
 オキテスが口を開く。
 『早ければ明後日、ここ三、四日の間にガリダのほうから戦闘艇の建造用材が届く予定になっています。私のいないときに用材が納入されてきましたら、受け取りかたよろしく頼みます。詳しいことについては、ドックスがよく知っています』
 『おう、了解。パリヌルスと俺がいる。ドックスがそれについて内容、詳細を知っているなら、対処は安心だ』
 イリオネスは一同と目を合わせてうなずき合う、一同は打ち合わせの場を解いた。
 パリヌルスとオキテスは歩きながら言葉を交わす。
 『なあ~、パリヌルス、このような大型商品の商談がまとまる、その過程は、我々の考えの及ばない複雑な絡みがあるだろうと考える。この件について、統領も交えて語り合いたいものだな』
 『お前もそのように思うか、いつになるかわからんがそんな機会を持ちたいものだな』
 二人は、世の中の繋がり、絡みの複雑、作用の不思議を感じ、考えながら歩を進めていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  971

2017-02-20 09:15:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの気持ちは、なんとなくだがさっぱりとした晴れの気分である。歩を運びながらイリオネスに声をかけた。
 『なあ~、イリオネス、久しぶりに丁々発止と思いつくまま話した、壮快であった』
 『統領、活き活きしてましたね。統領ではなく建造部担当の責任者のスタンスで話され、傍にいる我々は口をはさむところがない成り行きでした。このようにしてこれを売る、新艇を売る話にはいっこうに触れないで、新艇を造る、建造に携わる者たちのものづくりにかける心情を語られましたね。これを聞く我々にとっていい教えになりました。人心掌握の奥義を見ました』
 イリオネスは、これまでに目にしたことのないアエネアスに目を見張った事を言葉にした。
 『おう、イリオネス!話の流れの中で何を感じたかだが、俺は感じている、いま、俺たちにいい風が吹いている。我々が日々に励む、結果はすべていい結果にまとまる!そのような風が吹いている。その風は個人に向かってではない、我々に向かって吹いている。我々は集団である、その集団に向かって、いい風が吹いているというわけだ。前へ進もう!』
 『解りました』
 『我々が朝を迎える。何気なく迎えている朝ではない、我々は『いい朝』を迎えている』
 イリオネスは、アエネアスの心情をしっかりつかみとって己の心中に収めた。
 アエネアスの宿舎に到る、二人は就寝の言葉を交わす、イリオネスは自分の宿舎へと足を運んだ。


 星たちが夜の輝きを終えて、その身を休ませる朝が来る。
 アエネアスもイリオネスも彼ら総出の朝行事、照る日、曇る日、雨降る日、荒ぶる日、朝の挨拶に『いい朝です』の気持ちを込めて交わされる。グッドモーニングである。
 
 試乗会を終えて、三日を経た夕刻である、オロンテスがいい便りを持ち帰る。アエネアスが待っていたわけではない。
 キドニアよりの帰途である、漕ぎ方の懸命の漕ぎでヘルメスが波を割っている、オロンテスがギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、船足が早くならないかな』
 『はい!?隊長、漕ぎ方は、力いっぱいの漕ぎです』
 『おう、そうだな、なぜかわからんが気持ちが急くのだ』
 ギアスはオロンテスの思惑はなんだろうかと頭をかしげた。
 ヘルメスが浜に着く、飛び降りるオロンテス、彼は建造の場へと走る、ギアスはその背中を見送った。
 建造の場には、アエネアスもイリオネスもいる。
 『あ~あ、統領に軍団長、大事の報告です!』
 『オロンテス、どうした?』
 『新艇、全艇の完売です!新艇、二艇の商談がまとまりました!』
 『何っ!?もう一度言ってみろ!』
 『新艇、二艇の商談がまとまりました!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章 築砦 970

2017-02-17 09:59:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 客人ら一行を送るオキテスにギアス、オロンテスは集散所のパン売り場に向かう、ギアスは気を抜かない、彼は浜に無事帰りつくまでは、今日の終わりではないと気をゆるめないでいる。そのようなギアスにオキテスが声をかけた。
 『ギアス、今日の試乗をどう考えた?お前の気の付いたことを言ってみろ』
 『オキテス隊長にそのように聞かれたら考えますね』
 『今日の彼らは、新艇の構造とか、それらに関する質問が一つもなかった。彼らが望んでいるのは、いかにして速く安心して海上を航走できるか否か、それだけを考えているのではなかろうか。俺はそのように感じたな』
 『言われてみれば隊長の言われる通りです。彼らは新艇で使用している櫂をじっくり見ていました』
 『そうか、彼らは、漕走についても観察を怠らなかったということか』
 『これからの船は、船足の速さか、なんとなくですがそのように考えられます』
 『いいだろう!船足の速さを考えずに船を造るなということだ。ギアス、なんとなく先が見えてくるな。この考えをこれからの船造りに折り込んでいかなばならんな。まず、いま手掛けている戦闘艇にもこの考えを織り込む』
 二人の話し合いは、結論を導き出していた。
 オロンテスが船だまりに姿を見せる、一同がヘルメスに乗り込む、ヘルメスは向かい風にあらがいながら無事に浜に帰り着いた。
 オキテス、オロンテスは無事の帰着を報告して、五人は今日を話し合った。
 オロンテスが口を開いて話す。
 『統領、今日は統領の独り舞台でしたね。彼らをキドニアに送って、売り場から、堅パンを一箱づつ届けました。彼らは非常に喜んでくれました。彼らは、統領に大変な感銘を受けたようです。彼らはハニタスを囲んで、私たちの行ったもてなしを話題にしていました。彼らは新艇を買うでなく、『買わせてもらう』といった話の雰囲気でした』
 『そうか、オロンテス、戦さ上手は商い上手というところかな。結果としてだな、新艇を彼らが『買う』と言うか、話がこれで立ち消えるかということだ。どちらでもいい、すべてよしで今日を終わる!一同!ご苦労であった』
 彼らは話し合いの場を解く、イリオネスが声をかける。
 『我々が生きるのは、明ける新しい明日だ!今日はご苦労!』
 彼らは建造の場をあとにした。
 陽は海の西方に没し、星たちが目覚める、浜を色濃い宵が包んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  969

2017-02-16 14:42:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 レテムノンからの客人テムノスが口を開く。
 『アエネアス殿、あれですな、我々が船を買うということは、とてもとても大きな買い物です。こちらのやり方は、これまでの船を手に入れるやり方とは全く違っていますな。我々には少々に戸惑いがあります』
 テムノスはここで言葉をきり、昼食の席についている一同を見回した。
 『いやね、これについては集散所のハニタス殿とも話し合いました。新しいと言おうか、この取引のやり方についての私の思いです。また、船というものに対する私らの思いでもあります。そのようなわけで、ここにいるラムテス、パキテオの二人に話をして、一度見に行こうということになったのです』
 『そうですか、多くは語りませんが、この船の建造に踏みきった決断は、私たちの話し合いの成り行きによるものです。そのようなわけで新艇5艇の建造に着手したのです。船という商品の取引の形態、いわゆる従来の慣習とは違ったやり方で船が売れるだろうかと考えました。全くやみくもで事に乗り出した次第です』
 『そうでしょう。船の建造は、まずは、建造の手配から始まりますからな。そこで、新艇の第一号艇を求められたキドニス殿に船の使い勝手について伺い、乗せてもらったというわけです』
 ラムピからのラムテスが話に入ってくる。
 『フエストスの集散所でも、風の便りでキドニアに少々変わった船があるといった話題がありましてな、今回の仕儀になったというわけです』
 『それはそれはどうもありがとうございます。ようこそというところです』
 アエネアスは、遠路からの三人に軽く会釈する。
 話はあれやこれやと交わされ、試乗評価が口の端にのぼる。三人は多くは語らないが、新艇のブレのない安定直進性を彼らは褒めてくれた。
 昼食会が終わりに近づく、テムノスが話を締めくくる。
 『アエネアス殿、大変に馳走になりました。心のこもったもてなし、ありがとうございました。新艇買い入れの件についてはキドニアの集散所に帰り、ハニタス殿と話し合います。本日は、大変お世話をかけました』
 ハニタスがオキテス、オロンテスに話しかける。
 『今日はありがとうございました。商談がまとまるかどうかは解りませんが、いい返事ができるように努めます。これにてキドニアに帰ります。お世話をかけますよろしくお願いします』
 オキテスがギアスに昼食会の終わりを伝える。ギアスはヘルメスの出航準備を整える。
 ヘルメスは、折からの西風に押されてキドニアに向かう、船だまりに着く、客人ら一行は、ギアスらに礼を述べる。
 『ギアス艇長、今日はえらく世話になった。ありがとう』
 ハニタスが礼を言い、一行は船だまりをあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  968

2017-02-15 17:08:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 客人らは、1枚帆の船と比較しているようにうかがわれる、簡単操作で行われる帆張り、下帆作業に感心している、彼らは、2本の帆柱に4枚全帆を帆張りして、海上を駆ける新艇に感動していた。
 ギアスがハニタスに声をかける。
 『ハニタス殿、操船について、何か要望があるようでしたら言ってください』
 『おうっ!』
 客人に問いかけるハニタス、返事がすぐ返る。
 『ギアス艇長、何もないそうだ。全帆帆張りしての船速と直進安定性を感じ取りたいそうだ。いい風が来ている、このまま走行してくれ』
 『了解いたしました』
 新艇は全帆帆張りで航走をつづけた。
 ハニタスが声をかけてくる。
 『ギアス艇長、もう十分だそうだ。浜へ帰ろう』
 『解りました。帰港します』
 新艇は帆を下ろし、漕走に移り、浜を目指した。
 客人を迎えての新艇の試乗が終了する、浜には、イリオネスとパリヌルスが並んで立っている、新艇から浜に降り立つ客人らを迎えた。
 『おかえりなさい。ご苦労様です。沖に吹く風はいかがでしたか?新艇の試乗にいい風でしたでしょうか?風具合で試乗感が違います。私たちが一番気にかけるところです。どうぞ、こちらへ。昼食の場を支度しています』
 『それはそれは、気になさらずとも』
 『どうぞ、遠慮なさらずに』
 短い口上のやりとりでイリオネスとパリヌルスは客人ら五人を昼食の場へ案内した。
 昼食の場のアエネアスが立ちあがって一行を迎える。
 『いかがでしたか?いい風がきていたでしょうか?』
 アエネアスの問いかけにハニタスが答える。
 『はい、日和はいい試乗日和でした。沖で吹く風もいい風でした。満足できる風が西からきていました。客人の皆さまも満足されたと思います』
 『それは重畳でした』
 二人は挨拶の交わし終える、イリオネスとパリヌルスが客人らを席に案内する、着席を促した。
 アエネアスが座を立って、客人らの酒杯に酒を注ぐ、ハニタスが改めて紹介の労をとった。
 『アエネアス殿、こちらはレテムノンから見えられたテムノス殿です』
 『私が新艇建造を宰領しているアエネアスです。何卒よろしくお願いします』
 『私はレテムノンから来ましたテムノスです』
 二人が名乗り合う。
 『こちらはクレタ島の南岸、ラムピから見えられたラムテス殿です』
 『こちらはテムパキオの港から来られたパキオテ殿です』
 『そうですか、それはそれは、遠いところをおいでいただいたのですね、道中大変だったでしょう、察しいたします。このようなところですが、くつろいでください。ありがとうございます。心から礼を述べます』
 アエネアスは、遠路来駕の礼を述べて、酒を注ぎ終え、乾杯を終えた。
 『どうぞ、存分に召し上がってください。魚は朝から漁に出て釣った魚です。また、こちらのパンは、私どものパン工房で焼き上げたパンです』
 客人らはアエネアスのもてなしの言葉を聞いて昼食を味わった。