『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

  『よいお年をお迎えくださいますよう心からお祈り申し上げます』    <トロイからの落人>一同

2012-12-28 14:33:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今年も『トロイからの落人』にアクセスのうえ、お読みくださいましてまことにありがとうございました。
 明ける2013年は1月4日より投稿してまいります。なにとぞよろしくお願い申し上げます。
 アヱネアスには、その身をイタリアに向かわせる風が吹きます。闘いあり、ロマンスありの展開です。
 期待してください。

 皆様方には、謹んでよいお年をお迎えくださいますよう心からお祈り申し上げます。

               2012年12月28日    山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第6章  クレタ  5

2012-12-28 08:33:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アヱネアスには、一国の主としての人徳があった。銀髪と言ってもいいブロンドの髪、クリアな両眼、温和な眼差し、引き締まった口元、逞しい体躯、そして、礼をもって人に接する態度、信頼されうるに十分な人柄と風格は、接する人を魅了した。そのうえ、トロイ民族を統べていく度量も持ち合わせた人格は人並み以上に優れていた。
 デロス島 アポロンの神殿の神官の信頼を得て、伴侶にと手渡されたクリテスは貴重な存在であった。先にも述べたようにいまだ無法であり、信頼、そして、裏切りに対する報復が手厳しく遂行される世にあって、クリテスをこの上なく大切な者であると位置づけていた。これでもってキドニアに行く、見知らぬ土地の人間同士の信頼の結びつきができる。そのうえ、為すべき事の遂行が支障なく行える。『これで事は成る』と確信を得たのである。

 イリオネスは、一同を見回して打ち合わせの終了を告げた。居並ぶパリヌルス以下一同は。胸にわだかまっていた『何となく不安』のつかえが霧消した。
 建国を目指す、そのコアとなる者たちが、統領の意志と考えを共有し行動をともにすることにより、民族として事の成就を可能ならしめる力を高めた。アエネアスが統領としての統率力、その人柄が求心力を増幅して、民族という集団の心をひとつにまとめ事に挑んでいく姿がそこにあった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY          第6章  クレタ  4 

2012-12-27 08:57:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 古代のこの時代、ごくごく一部の地域では社会を規制するルールはうまれつつあるも、社会を規制する法なるものは成立していない。全く無法と言っていい時代であり、道徳、倫理などというものも成文化されてはいない状態である。人は勝手気ままに生きているといっていい。そういった時代でありながら、これはここまでしていい、これはしてはならないと、、未来において基本となる道徳、倫理、ルールなるものが不文律として、人々の行動を規制していた。そのなかでも『信頼と報復』が人間が生きていくうえでモラルとして強く厳しく規制していた。裏切り行為は、最もしてはならない悪として憎まれ、報復は手厳しく、必ずといってもいいくらいに遂行された。成文化された法の存在していない社会であるばかりに、人と人、集団と集団、統治機構を有する小国家(ポリス)間の結びつきは、互いを信用するか、信頼するか否かにかかっていたのである。

 アエネアスは、この社会構成の中で人と人とのつながり、その絆の構成がいかに大切であるかを強く認識していたである。彼は、未知なる土地クレタにおいて、社会構成における人と人とのつながり、、その土地における絆の構築を、どのようにして行うかをエノスの浜を船出して以来、船団が波を割って南下する船上において四六時中考えていたのである。社会における心的構成と人と人っを結ぶ絆の構築について、イリオネスやオキテスに説き、話し合い、そして、その心的要素を醸成してきた。彼は、この心情を胸に抱いて、デロス島での用件を済ませたのであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY        第6章  クレタ  3

2012-12-26 09:17:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 気持ちを伝えたァエネアスは話を継いだ。
 『皆、聞いてくれ。クレタ島への上陸はだな、俺はよくよく考えていた。エノスの浜を離れて、上陸直前まで考えていたのだ。クレタ上陸の際には、エノスの浜に上陸したときのような上陸交戦を何としても避けたいと考えていたのだ。考えていたのはこの一事だ。もし、交戦やむをを得ない事態となれば、これは仕方がない。干戈を交えて上陸を果たす、何としてでも上陸を果たすと決めていた。このことは、パリヌルスには上陸覚悟として伝えておいた。また、軍団長とオキテスには、航海中に話しておいた。その上陸交戦をせずにクレタ島に上陸できたことを心から喜んでいる。デロスにおける神官のはからいで、、クリテスがついてきてくれたことを心から喜んでいる。こののちもクリテスが我々がクレタ島に住めるように計ってくれるであろうと思っている。クリテス、よろしく頼む』
 『わかりました。その件については重々承知いたしております。皆さんに相談いたし、よりよきよう計らってまいりたいと思っております。皆さんよろしくお願いいたします』
 『おうっ!』『おうっ!』
 パリヌルスから始まり、皆が承諾の返事を返した。
 イリオネスは、クリテスと言葉を交わし一同に告げた。
 『そこでだ諸君、聞いてくれ。明日、クリテスの親父さんと会うことになっている。そのうえで事態をよく知ったうえで事を決めたいと思っている、皆、いいな』
 『判りました』
 一同はうなずいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY        第6章  クレタ  2

2012-12-22 08:50:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、『統領!』 と呼びかけ、二言三言、言葉を交わして、従者を呼び、主だった者たちを集めるよう指示した。
 『軍団長、どちらに集めましょうか』
 『そうだな、二番船のそばあたりがいい』
 『判りました』 従者は急いで指示されたように一同の招集を終えた。
 『集まれだと、判った』
 怪訝だと思ったが、胸に抱いている不安に気がついた。軍団長と同様の不安を感じていたのである。一同は揚陸した二番船の船陰に集まった。統領とイリオネスはクリテスを伴なって、一同のところへ姿を見せた。イリオネスが皆に声をかける。
 『おうっ!諸君ご苦労であった。よくぞ長途の波濤を乗り切ってくれた。我々は、いま、目指したクレタの地にいる。全く知らない土地である。君たちも不安であろうと察している。しかし、我々にとって幸いなることは、このクレタ生まれのクリテスがいることである。彼から話を聞いて、二、三、打ち合わせてておこうと思っている、いいな。立っていては話もできない、腰を下ろそう』
 一同は円く座を取って腰を下ろした。アエネアスが一同を見渡した。月の光では一同の表情がかすかにうかがえるだけである。彼はおもむろに話し始めた。
 『一同、よくぞがんばってくれた、ありがとう。心から礼を言うぞ。エノスを船出して、今日、陽が落ちていたとはいえ、このクレタ島に着いた。エノスをあとにした者たちがひとりも欠けることなく、全員、無事にこの地に上陸した。本当にご苦労であった』
 彼は、ひとりひとりの手をとって、感謝の気持ちを伝えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY        第6章  クレタ   1

2012-12-21 08:41:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 故国トロイを落ちのびて、エノスで過ごし、エーゲ海を漕ぎ下り、地中海のこの島に上陸した700人余りのトロイ民族である。彼らは、いま、このときから過ごす、クレタなる島嶼の大地を確かめた。
 月明かりの浜に立ち、海を眺め、背にする半島の丘の暗闇を透かし見た。彼らは感慨に息を詰まらせた。
 トロイの地を戦火で追われ、エノスに逃れ、海洋を渡り、たどり着いたクレタ島である。クレタ島は、耳にしたことはあるが彼らの全く知らない土地であった。進んだ文明のある土地だと言うが、彼らの触れたことのない文明の土地である。彼らは、自分たちが有している文明に誇りをもっており、優れた文明であると自信をも持っていた。文明の差異に誇りを失うことなく、この土地で過ごせるか。その気分が心栄えに影を落とした。しかし、思うにはるばる遠くに来たと言う実感を払いのけることはできなかった。
 頭上に輝く月は、旅の途中で見た月、エノスの浜で見た月、故国トロイで見た月と比べて、何等変わることのない月の風情であった。
 
 イリオネスは、浜の砂を踏みしめて立っていた。彼は自分の心のうちをのぞき見て首を傾げた。
 『いま、俺が抱いているこの思い、気がかりは何なのだ』
 彼は考えた。彼は見えていない明日に一抹の不安を抱いていることに気がついた。
 『こうしてはいられない。打ち合わせておかなければ、、、』
 彼は数歩離れたところに立っているアエネアスの傍らに歩み寄った。