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『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第8章  休戦  7

2007-11-30 08:21:20 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 広場の会衆は、アンテノールの話にうなずきながら聞き入っていた。アンテノールは、話を続けた。
 『一に、ヘレスポントス海峡のことである。これについては、最大の譲歩をして話をまとめる。二は、パリスとヘレンの事件のことだ。これについては、パリスを説得して、ヘレンと財宝を返し、それなりの賠償を支払わなければならない。三が、問題なのだ。10年前、海峡のことでギリシアから二人の使者が来た。オデッセウスとメネラオスの二人だ。この二人は、ギリシアでも、名のある領主なのだ。会談は不調に終わった。会談を終えて、帰る二人の乗ってきた船の水夫たちを皆殺しにしたうえ、船を焼き、この二人を襲撃して亡き者にしようとしたことだ。二人は、生きて帰り、この戦争でも活躍していることなのだ。戦争を売って来たギリシアの戦端を開く大義名分は、この三点にあるのだ。我等の大切なトロイ城市の安泰を望めるか。それは、もう無いと思わなければならないのではないか。と、思うが、皆は、どう思われるか。皆の思いを聞かせてもらいたい。』
 会衆の一人がたちあがり、おもむろに話した。

第8章  休戦  6

2007-11-29 08:25:14 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 心の根底からの行いも単純そのものであり、やられたらやる!それ故に果し合いと言う名の闘いの残虐性が考えられた。
 戦死者の収容、そして、火葬、トロイ軍は拾骨のうえ持ち帰った。連合軍は、帰国の折に持ち帰りやすいように、海岸にいくつも墳墓を築いて骨を納めた。
 その頃、トロイ城市の神殿前の広場では、アンテノールと二、三の老臣たちと市民の主だった者が集まり話し合っていた。知恵ある分別の人といわれているアンテノールが座長を務めていた。
 この戦争が9年という長期になり、犠牲者も将兵たちと略奪襲撃された周辺城市部を含めて、10万人を下らないと考えられる。『この戦争を終結させねばならないが、その方策や如何に。』について話し合われていた。

第8章  休戦  5

2007-11-28 09:10:08 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 将兵たちが干戈を交えた戦場に夜のとばりが降りていく。中天にかかる月が、おぼろに霞んでいる。惨烈の戦野、春宵のとき、将兵たちにしばし休戦の和みが訪れた。トロイの山野のあちこちに見る、アーモンドの花つぼみも膨らんできていた。将兵たちは、この平和な春宵のときを、牛や羊を屠り、酒を酌み交わして、なま暖かい海からの微風を肌に感じながら、身も心も休めた。
 休戦の一日目である。両軍の将兵たちは、戦場の各所で心ならずも討ち倒された戦死者の屍体を、心痛と溢れる悲涙を抑えて集め、まとめて荼毘に付していった。弔いの火葬の煙は、鎮魂の思いにあおられて、空高くあがり、大気に溶けていった。
 戦死者の屍を収拾する者たちの胸に、討たれし者の討ち負けし悔しさの思いにいたると仇討ちと勝利への思いが心を充たしていった。

第8章  休戦  4

2007-11-27 07:52:10 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『連合軍の統領アガメムノン、また、各軍団の諸将軍!聞いてくれ。我が告げし事に賛成して欲しい。怒号を叫び、激しく武器を交えての戦いをしばらく止めて、戦場の各所にある戦死者の弔いをしたい。が、どうだ!そののちに、再び戦端を開いて、我が軍と貴軍、そのどちらかが勝利するまで戦うことにしたいが、どうだ!』
 連合軍は、なりをしずめて聞いていたが、軍団の将兵たちは、一同、賛意を示した。それを受けて、アガメムノンは、答えを返した。
 『イダイオス!判った。我等の気持ちも同じだ。お互い、この弔いをしよう。明日、明後日の二日間、弔いの休戦とする。いいな!』
 両軍は、二日間の弔いのための休戦を約した。イダイオスは、自軍に帰っていった。

第8章  休戦  3

2007-11-26 08:26:35 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘクトルとパリスは、激情の赴くままに奮戦した。二人の活躍は目覚しかった。連合軍の将と果たしあって、これを倒した。ヘクトルは、エオニウスをはじめ三人の将を、パリスは、メネスチスのほか二人の将を倒した。彼等の奮闘は、軍団の将をこの上なく励ました。グローコスは、満身に傷を負いながらも、暴れまわっり、デキシデス、イピノスと名だたる武将を倒していた。アエネアス、サルペドンの軍団も激しく攻め立て戦果を揚げた。今日のヘクトルの作戦は、効を奏して、勝ち戦さであったが、連合軍を追い詰めることは出来なかった。
 戦闘は、小休止状態を呈してきた。陽は西に傾いてきている。
 戦場には、先日からの激戦で倒れた多くの戦死者の屍体が放置されていた。アガメムノンも、ヘクトルも彼等のことに思い至った。そのような時である。トロイ軍から使者が訪れた。トロイ軍の将イダイオスである。連合軍の統領アガメムノンをはじめ他の将に向かい、声を大にして叫び、休戦の申し入れを行った。

第8章  休戦  2

2007-11-24 07:46:33 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ軍の左翼が丘を下ってくる、勢いと力がある。連合軍の右翼がどよめいて退き下がった。朝のしじまを破る絶叫と鬨の声、槍突きと斬撃、凄惨の果し合いが開始された。
 連合軍の右翼が押されている、この右翼の布陣には厚みがなかった。トロイ軍は、戦果をあげた。
 連合軍が援軍の兵を出そうとしている。これを見たトロイ軍は、深追いをせずに弓矢の射撃を始めた。
 これが今日の戦いの火蓋を切っておとし、小軍団の競り合いの果し合いが、戦場の各所に展開された。
 両軍の惨烈の闘いは、陽が南中する頃になって、ようやく小康状態となった。

第8章  休戦  1

2007-11-23 09:30:33 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 2月24日、陽は昇る、戦野に朝が来た。戦場が、ひそめていた息を吐いた。
 トロイの将兵たちは、陣立てを終えていた。彼等は、総司令のヘクトルの着陣を待っていた。城門が開いて、ヘクトルが現れた。続いて、パリスも出てくる。ヘクトルがポジションに就いて、進発命令を下した。トロイ軍は、鬨の声をあげて押し出した。軍団の各将が将兵を励ました。トロイ軍は鋭気に充ちていた。
 連合軍の陣立てが遅れている。陣立てにあわてた。陣立てが整ってきたが後備が手間取っていた。整った頃には両軍の前線は、指呼の間隔に迫ろうとしていた。
 トロイ軍の左翼は、丘の斜面を進んでいる。連合軍の右翼と対峙した。両軍団の前線が至近に迫っていた。

第7章  ヘクトルの想い  5

2007-11-22 08:07:19 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アンドロマケの後姿を見送ったヘクトルの両目には、惜別の情が溢れていた。いずれ、何者かと雌雄を決する日が訪れることが予感としてあったのである。
 『パリス、パリス!いるか。はいるぞ!』 一瞬ではあるが、静寂のときが流れた。
 『おうっ!いたか。パリス。お前にちょっと話しておこうと思っている。パリス、お前何を考えている。お前は、判っているのか。よく考えろ。プリアモスを父として、血を分けた兄弟だ。そもそも、この戦争の原因は、お前だ。くどいことは言わぬ。やる気を出して、連合軍と渡り合え、渡り合うのだ。今、我が軍に勢いがある。明朝、連合軍に先制攻撃を仕掛ける。武具を整えて出て来い!陣立てに遅れるな。判ったな。』 ヘクトルは、一気に言い渡した。
 『おうっ!心得た。兄者。』 パリスは答えた。
 そのあと、ヘクトルは、各軍団を訪れて打ち合わせをした。夜は更けて、月は中天にあった。

第7章  ヘクトルの想い  4

2007-11-21 07:23:53 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アンドロマケは、涙ながらに微笑んでいた。
 『アンドロマケ、どうした!俺が死ぬとは決まってはいない!何故、涙なのか。さあ~、館に戻りなさい。俺は軍団を率いて戦う。アンドロマケ、お前とアステアナクスのことを何よりも心にかけている。戦いは、この俺が引き受けて、必ず勝利する。待っていてくれ。アンドロマケ、お前を愛している。』 と告げた。
 夫ヘクトルが戦いの場より、無事に帰ってきてくれることを、固く信じて、アンドロマケは、ふりかえりながら、息子を抱いた乳母をひきつれて、館に帰っていった。
 ヘクトルは、妻アンドロマケに、国を統べていく自分の心の内と家族に対する胸の内を、言葉は、少なかったが誠実と愛で伝えた。

第7章  ヘクトルの想い  3

2007-11-20 07:47:32 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ヘクトルは、言葉短く、そのように告げると、顔をほころばせて愛児アステアナクスのほうに向き、
 『さあ~、おいで。』 と、両手をさしだした。
 アステアナクスは身を縮めた。馬毛の飾りのついた、いかめしく光り輝く兜におびえて泣き声をあげた。ヘクトルは、父になっていた。兜をぬいで、足元におき再び手を差しのべた。喜びの声をあげて、とびつくアステアナクス。この父と子の風景に母も喜びの笑顔をほころばせた。短い時間であったが、水入らずの家族の和やかな時間が、そこにあった。
 ヘクトルは、アステアナクスを許せる力いっぱいで抱きしめて、この子が名のある者に育ち、平和と繁栄のトロイの未来を築いてくれることを、そして、トロイの民を愛し、母を喜ばす治世者となってくれるようにと祈った。
 一瞬であった。春雷が轟き、雷光が走った。ヘクトルは、アステアナクスを妻の腕にわたすと、二人を強く抱きしめた。