『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1255

2018-03-30 12:28:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスが来る。
 『おう、ドックス、ご苦労!戦闘艇の完成がすぐそこになったな』
 『はい。建造の進み具合が順調にいっています』
 打ち合わせは、今日の作業を終えた建造の場で行われる。
 メンバーがそろう、イリオネスが声をかける。
 『おう、一同!ご苦労!ただいまより打ち合わせを始める。腰を下ろしてくれ』
 一同の目線がイリオネスに集まる。
 『打ち合わせの案件をリストアップしたら結構ある。物事を進めるにあたり、我らの姿勢は始計第一にして準備は周到綿密、いいもの造りを成し遂げる。いいな』
 一同が目を合わせる。
 『今回の航海は、当方のサービスを客方へ届けることであった。新艇2艇の同時発注による発生したサービスの1艇分をを処理したことになる。ここで私は少々考えた』
 一同を見渡す。
 『迷った。正直に諸君らに伝える。同格のサービスをもう一方の客へもすべきかと迷った。俺の偽らない気持ちだ。ここで統領と目を合わせた。統領の目は『やれ!』といっている』
 一拍の間をとる。
 『同格のサービスをもう一方の客にすると決心した。このサービスをするについて出張形式で新舵構造を取り付けることができるかどうかを検討してもらいたい。ドックス、オキテス隊長と検討してくれ。答はいつ出る?』
 『3日くらいで返答します』
 『よし出張取り付けができるか否かが解れば、その答えで相手方と折衝する』
 『次だが、オキテス、現在手掛けている戦闘艇の完成はいつになる?』
 オキテスがドックスと顔を合わせる、言葉を交わす。
 『あと3日で完成します、暦では8月22日です』
 『工期が少し短縮したということか。了解した』
 『次にいく。オロンテス、どうだな、テカリオンの動静だが耳にしていないかな。小麦の在庫量だが、状況は?』
 『はい。小麦の在庫量は、1か月分くらいとなっています。テカリオンが来るのは9月のはじめくらいではないかと考えています』
 『完成した戦闘艇の引き渡しのこともある。当方の方針も決めておかねばならない。この件に関しては今月末の会議で話し合う。パリヌルス、オキテス、オロンテス、どのようにするか考えておくこと』
 『解りました』
 イリオネスは、案件の処理を指示していく。
 『オキテスにオロンテス、記念売り出しの催行及び新艇の価格決定の件について集散所側と折衝を開始したのかな。その報告を聴きたい』
 オロンテスが報告をする。
 『只今の件に関しては、昨日、集散所側と話し合いを開始しました。集散所暦の8月23日に話し合うことになっています。当方暦の8月25日です』
 『解った。集散所側がマリアの集散所と打ち合わせていると思われる。引き合いの件だが、その後、集散所側から連絡は、まだ何も言ってきていないか?』
 『その件については、まだ、何の連絡はありません』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1254

2018-03-29 07:45:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、一同、聞いてくれ!今日はご苦労であった。航路の大半を君らの漕ぎに頼って、無事なる航海を成し遂げた。心から礼を言う』
 ギアスは一同と目線を交わす。
 『昼も終え、適度に休んだ。浜に降りて作業にとり掛かる。ヘルメス艇の点検整備を終えて艇をいつもの係留地点につけて、本日の業務を終了とする。以上だ。解ったな』
 ギアスがカイクスに指示する。
 『カイクス、舵構造部分を念入りにチエックしておいてくれ。何かがあれば報告してくれ』
 一同に声をかける。
 『おう!行くぞ!』
 『おうっ!』『おうっ!』と応えて全員が立ちあがる、彼らは浜へと歩を運び始める。
 建造の場では作業者らが活き活きと作業にいそしんでいる。その風景を見つめるアエネアスとイリオネス。
 戦闘艇2艇が完成を控えて帆柱を青空に突き刺している、二人はしげしげと仰ぎ見る。
 『統領、このように目にする作業の進捗状況、間近かに迫っている完成、いいですね作業にいそしむ者らが活き活きしている。たまらないですね!心が落ち着きます』
 『おう、そうだな!同感同感!』
 パリヌルスが姿を見せる。オキテスが作業現場から三人がいる場所に来る。
 『おう、オキテス、ご苦労!今日だが、作業が終わったらこの場でドックスも呼んで、打ち合わせをやる。いいな』
 『了解しました』
 『おう、オキテス、木板と木炭を頼む』
 『はい!』
 『いやな、打ち合わせる用件をメモるのだ。覚えきれないくらいの用件に案件だ』
 アエネアスが口をはさむ。
 『そうだ。始計第一、準備は周到綿密、脚下照顧、一歩前へだ』
 彼らが真剣に生きる姿がここにある。古代のこの時代彼らはわき目を振ることなく懸命に生きていたのである。
 オロンテスがキドニアから帰ってくる。浜が終業の時となる。オロンテスがパン売り場の今日を報告する。
 『統領に軍団長、ご苦労でした。航海はいかがでしたか?いい日和、航海の無事、何よりです』
 『おう、無事に帰った。喜んでくれ。オロンテス、航海に新境地だ、船が航海を変えていく。レテムノンあたりであれば日帰り航海が可能だな。これまでにない気軽さで出かけられる。そんな時代になる』
 『そうですか、それは重畳と言えます』
 『今、我らが造っている船がそれを可能にしてくれる。それを納得する航海であった』
 『統領の感性は素晴らしい!現状の確かな把握、そこから導き出される思考のカタチ、恐れ入ります』
 イリオネスが声をあげる。
 『おう、メンバーが揃った。ドックスを呼んでくれ。打ち合わせを始める』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1253

2018-03-28 08:42:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとイリオネスが語り合う。
 『おう、イリオネス、課題を持ち帰ったとは、いい航海ではないか』
 『そうです。課題が帰り荷でした。これを整えて、荷として送り出す。いいですね!空荷で帰ることを思うと、いい航海であったと考えています』
 『このようにして今を生きていてこそ、未来があり、次があって、明日ではないか、いいことだ。大変だとは思わずに、軽いフットワークで歩いていこう』
 『そうですね!急がずに、つまづいて転ぶことなく歩を進めていきます』
 『まあ~、そういうことだ』
 二人の穏やかな語り合いが終わる。
 『おう、イリオネス、俺は建造の場へ行く』
 『解りました。私もあとから行きます』
 アエネアスは、オキテスを伴って場を去っていく。
 イリオネスは場を見渡す、一同の状況を見る、漕ぎかたの一人に声をかける。
 『おう、チョット聞く!解らなければ応えなくともよい。今日、帰りの航海でだが、統領と俺が櫂漕ぎをした』
 『大変だったでしょう』
 『いや、そうではない。通常であれば疲れる作業だが、櫂漕ぎを続けているうちに二人とも気分が乗ってきて、漕ぎ続けることが楽しくなってきて、それを続けていたい気分になる。お前もそれを経験したことがあるか?』
 『はい。それは私、いや、私らと言ってもいいです。航海に出て、毎回、経験していることです。櫂漕ぎをやっているうちに櫂漕ぎの気分が高まってきて気持ちよく櫂漕ぎを続けるわけです』
 『ほう、そうか。俺らが撃剣の訓練をやるわな、そのときに感じる気分とよく似ている。解った、ありがとう』
 櫂漕ぎを続ける、半刻を過ぎる、櫂漕ぎをする彼らの気分が、今でいうランナーズハイ状態の気分に似た気分になるらしい。
 話終わってイリオネスはギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、俺は建造の場に行く、何か用事があれば、そちらへ来てくれ。あとの業務を終えて、一同を休ませてくれ』
 イリオネスは、意を伝えて場を去っていく。ギアスと漕ぎかた一同は、高揚した気分で朝からの航海を終えている、身体の疲れを癒すために暫時休憩時間を延長して一同を休ませる。
 ギアスは、今回の航走時間について深く考えている。
 往路、復路、天候状況、海上状況、新艇とヘルメス艇、構造と仕様、航走状態等を細かくチエックする。それらが航走に及ぼした影響とその結果を照合する。
 『こうであるから、こうであった』とこの時代の思考水準で結論とする。
 ギアスの思考作業が終わる。場の状態はと確かめる。
 もうそろそろ頃合いだなと察したギアスが一同に指示をだした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1252

2018-03-27 08:38:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスが海上状況の変化に気づく、変わっている、指示を出す。
 『カイクス!方向転換だ!進路を西南にとれ!一路我らが浜へだ!』
 矢継ぎ早に指示を出す。
 『全帆、帆張りせよ!』
 かなりの強さの風が北東から吹きおろしてきている。
 海上はと、進行方向の海を見渡す、チラッチラッとあちこちに波頭の白い跳びが見える。
 『白ウサギが跳んでいる』
 帆の風張らみ具合ををチエックする、ギアスが迷う、心を決める。
 『櫂をあげっ!』
 ギアスは、北東からの風に任せてヘルメス艇を帆張りで航走させることにする。
 船速が落ちると予測する、状況は予測とは違う。
 ヘルメス艇は、順調航走で波を割り進ンでいる。
 艇上の一同は体と気を休める、ヘルメスはグイグイと浜との距離を詰めていく、無事に浜に着く、浜に詰めかけた一同に迎えられる。
 イリオネスが浜の一同に声をかける。
 『おう、出迎え、ありがとう!統領以下一同、無事に帰ってきた。安心してくれ』
 次いでギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、ご苦労。帰途航海考えていたより順調であったな』
 『はい!凪いでいる海を一同の漕ぎで進行したこと、また、向かい風に会わなかったことが帰途航海に幸いしたと考えています』
 『そうか。何はともあれ、帰途の航海を無事に航走して帰ってきた。ご苦労であった。少々頃合いが早いが昼めしとする。昼めしは広場でやる』
 一行を迎えに出てくれたオキテスがイリオネスの傍らにいる。
 『おう、オキテス、セレストスに言って、広場に昼めしの場を作らせてくれ』
 『解りました。すぐ手配します』
 間を置くことなく昼めしの場ができあがる。アエネアス、イリオネス、そして、ギアスら漕ぎかた一同が昼めしの場に顔をそろえる。
 アエネアスが一同に声をかける。
 『おう、一同、無事に帰ってきた、ご苦労であった。このたびの航海で俺が感じたことは、遠いと思っていたレテムノンが近いなと感じる航海であった。これくらいの航海が気軽にできると感じられた。ヘルメス艇の大きさ、そして、船速に配慮したヘルメス艇の仕様構造であれば、これくらいの航海が日帰りも可能であると知った。それがこの航海で得た結果である。一同、ご苦労であった』
 アエネアスの話を聞いて一同から拍手が起きる。
 イリオネスがセレストスに声をかける。
 『おう、セレストス、酒も準備してくれたのか、ありがとう』
 一同は、早い頃合いの昼食を食してくつろぐ。
 『おう、イリオネス、この航海で、イデー山を見た、あれには感動したな。いい思い出をつくってくれた。ありがとう。礼を言うぞ』
 『いやあ~、あれには、私も感動しました。思いにもかけていませんでしたから、大感動でした』
 この言葉のやりとりで二人の旅の疲れがどこかへ消えてなくなっていた

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1250

2018-03-26 06:44:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
第4行目誤字を訂正いたします。
 満点に星が   を    満天に星が  に訂正いたします。

 誤字変換を深くお詫びいたします。   山田秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1251

2018-03-26 05:05:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが声をかけてくる。
 『おう、ギアス、軍団長と俺だが漕ぎかたをやる、どこを交替すればいいかな?』
 『漕ぎかたをされるのですか。一番前の二人と交替してください』
 『おう!』
 一番前席の二人が交替する。
 ヘルメス艇は順調に航走していく、予定した行程で海上を進んでいく、半島の東岸に沿って北上する。島影になる海上は予想した海上状況を呈している。
 艇上では順序を追って、漕ぎかたが交替する、短い休憩だが彼らは喜ぶ。
 アエネアスとイリオネスは、櫂漕ぎに専念する、繰り返す単調な櫂漕ぎに二人は『ハイ』な気分になる。
 『おい、イリオネス、どのように言えばいいかわからんが、櫂漕ぎを続けていたい。そのような気分だ!』
 『私もそのような気分です。この気分、チョッピリ不思議な気分ですね』
 この会話を耳にするギアス、二人のいる櫂座に来る。
 『如何されました?交替しましょうか?』
 『いや、そうではない!この櫂漕ぎを続けていたい気分になっていることだ。チョット不思議な気分だ。何かあったら声をかける』
 『解りました』
 ヘルメス艇は予定していた頃合いに半島の北端に到達する。
 ギアスは方向転換地点の天候状況、海上状況をチエックする。カイクスに指示を出す。
 『進行方向転換だ!進行方向、西へ!』
 『了解!』
 ヘルメス艇が西に向けた進路につく、海上を渡る風は北方向からの海風、微風である。
 ヘルメスの航走には不要の風である。今日の彼らの航海に有利な順風は期待していない、ギアスの自然に対する態度は謙虚である。漕走に無理を強いる向かい風だけには遭遇したくはなかった。
 しかし、状況は不思議である。謙虚なる者に味方する運である。本人にも誰にも気づかれることのない摂理の計らいがある。今日のギアスはそのような空間をヘルメス艇で航走していたといえる。
 気遣いせずに平穏といえる海をひたすら漕走している。
 ギアスは考える、朝、陽の出の刻にレテムノンを出て航走する、予定した頃合いに予定した地点を通過する、船の機能が改良されて航海の難易が変わっていく、航海を軽い気持ちでできる時代が来るであろうと思う。
 そのような状態が人智のなせる業で招きよせるであろう、必ずそのような時代になると考える。ヘルメス艇と戦闘艇を比べてその差異で結論する。
 そんなこんなを考えている間にヘルメス艇はアクロリテイ半島の北岸の航走を終わろうとしている。
 一路ニューキドニアの浜を目指す、西南への進路転換地点にヘルメス艇は到達しようとしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1250

2018-03-23 16:51:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスらが率いる彼ら一行の旅先における朝は、滅法早い、自然界に人類が規定した朝と彼らが行動を起こす朝とする頃合いに大いなる差がある。
 彼らの旅先の朝は、目覚めて立ちあがった時が朝である。ギアスの朝は早い。
 彼が目覚める、宿営の場の張り番を交替する。空を見あげる。
 月がいずれに去ったのか姿がない、満点に星がまたたいている、東に目線を移す、黎明の気配がまったくない、暗闇のかなたに空と海を分ける一線が感じられるだけである。
 宿営の場に漕ぎかた数人が身を起こす、起ちあがる、声をかけあっている、歩き始める、朝行事に向かう、海に身を浸す、眠気を洗い払う、彼らが行動のスイッチオンする。
 はるか東の水平線、陽の出ポイントが黎明の気配を見せ始める。その頃合いには、漕ぎかた全員が朝行事を終えて、ギアスを円陣で囲みミーテングをしている。
 『今日の航海の万全を期すためにヘルメス艇の点検整備をやるのだ!いいな』
 『おうっ!』『おうっ!』『おうっ!』
 彼らが一斉に作業に取りかかる、ギアスが岸壁の上から注視する、各担当が報告する、それを受けるギアス。
 朝行事を終えたアエネアスとイリオネスが姿を見せる。
 点検整備を終えた漕ぎかたらが集まってくる。イリオネスが総員に向けて、今日の航海について説明する。
 ギアスが一同に伝える。
 『おう。一同!朝めしは、港を出て頃合いを計って艇上でする』
 浜に陽の出の第一射が届く漕ぎかた一同が櫂座に就く、アエネアスとイリオネスも艇に乗る。
 テムノス浜頭、水夫頭、水夫ら数人が岸壁に姿を見せる、テムノス浜頭がアエネアスに声をかける。
 『アエネアス統領殿、帰途航海の無事を祈ります』
 『おうっ!テムノス浜頭殿、ありがとう。またの邂逅を楽しみにしています』
 二人は別れの言葉を交わす。
 太陽が水平線を破って全体像を見せる。ギアスの声が飛ぶ。
 『漕ぎかた櫂漕ぎはじめ!』
 櫂が海面を泡立てる、ヘルメス艇が凪いでいる海面を割り始める。 アエネアス、イリオネス、ギアスが岸壁上のテムノス浜頭一行に向けて大きく手を振る、岸壁上の彼らも手を振る。
 アエネアスら一行はレテムノンの港をあとにする、ヘルメス艇が凪いでいる海を北西に向けて航走し始める。
 ギアスが艇尾の操舵席に来る。
 『おう、カイクス、目指す方向は、半島の最下部方向だ。北西方向よりチョッピリ南だな。その辺りに着くころは、今から一刻余り後だ。朝凪の中間頃合いであると算段している。その辺りから、半島の東海岸に沿って北へと進む、半島の北端の転進地点まで、レテムノンの港を出て一刻半少々の時間とみている。以上だ』
 『解りました。しかと了解しました』
 風は東から微風が吹いていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1249

2018-03-22 17:01:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスが改まって、テムノス浜頭に話しかける。
 『私が気にかけているのは、パキオテ頭領方へ引き渡した新艇の件なんですが、その新艇についても新舵構造を取り付けなければならないのではないかと考えています』
 『そうだな、そのように取り計らってくれれば、このうえない。あいつも喜ぶ』
 『新舵構造の出張造作ができるか否かを私らが帰って、早速、船統領と検討します。そのうえで実行方法を打ち合わせたいと考えています。その節にはよろしく取り計らってください』
 『了解した』
 テムノス浜頭が二人に話しかける。
 『充分に飲んで、食べてくださったかな?』
 『充分に飲み、旨いものを心ゆくまで馳走になりました。ありがとうございました』
 『満足していただいたかどうかを気にしています』
 彼らの会話が終わる。明るいうちから始めた夕食会、宵を通り越して夜となる。水夫頭が終宴を告げ、散会に到る。
 空には星がまたたき、高い空からこの季節の月が澄んで照り輝いている。
 アエネアスがテムノス浜頭に夕食を馳走になった礼を述べる。
 ギアスが漕ぎかた一同を整列させる、一斉に声をあげる。
 『馳走になりました。ありがとうございました』
 場の水夫たちが返事に戸惑う、中の数人が『おうっ!』『おうっ!』と声をあげ、拍手をする、それにつられて一同が力を込めた拍手をする、拍手が鳴り渡った。
 テムノス浜頭からイリオネスに声がかかる。
 『イリオネス殿、明朝の出航は、何どきと予定している?』
 『はい、陽の出の頃合いに出航しようと算段しています』
 『そうか。帰途航海に順風は期待出来ない。航海の安全を祈る』
 『ありがとうございます。今夜は浜頭の浜を使わせていただいて、宿営します。よろしく願います』
 『おう、いいとも、存分に使ってくれていい』
 アエネアスら一行は、テムノス浜頭の屋敷庭をあとにする。
 『軍団長、それにしても月が明るいですね。艇の張り番に8名、宿営の場に4名、交替して見張るように手配してあります。安心して休んでください』
 『おうっ!』
 彼ら一行が寝に就く、彼らの寝入りが早い、静かな浜にいびきをかなでていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1248

2018-03-21 08:39:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス浜頭がイリオネスに話しかけてくる。
 『お~お、イリオネス殿』と声をかけてイリオネスの酒杯に酒を注ぐ。
 『ところでだが、戦闘艇の引き渡し価格が決まったかな?』
 『はい、決まりました。決定した戦闘艇の引き渡し価格の発表は、キドニアの集散所がマリアの集散所と折り合いをつけて、発表すると言っています。もう少々お待ちいただければ幸いです。もう、マリアの集散所には連絡がいっていると思われます』
 『ほう、そうか。では、近いうちに何がしかの連絡がマリアの集散所から来るな。了解した』
 『それで、戦闘艇の発売記念と銘うって、売り出しの計画話が持ちあがっています』
 『売り出しね、いつ頃やるつもりなのかな?』
 『10月の初旬に催行を考えているようです』
 『ほう、そうか。売り屋は、売り屋で考えるな』
 『そのようなわけで、キドニア、マリア、イラクリオン、そして、浜頭の膝もとこのレテムノンにおいて、試乗会の開催の話になっています』
 『ほっほう!話がそのように展開しているのか。近いうちに呼び出しがかかるかな』
 『よろしく願います』
 『解った。話が大きく化けていくな。しかし、それはいい事だ。力を貸す、約束する』
 『ありがとうございます』
 テムノス浜頭がアエネアスの方に身体を向ける。
 『アエネアス統領、船の事ですが、まだまだ、売りの方針が決まってはいないようですが、展開が大きくなりそうですな』
 『私もそのような気配を感じています。船舶の販売の主導権を集散所が握りたい意向を見せています。テムノス浜頭殿、いい方向に導いてください。私の考えとしては、売りは、売りの専門部署に任せる。それについては異論がないのですが』
 『解りました。私も心します。あなた方のほうにのぞむ案件があるようでしたら言ってください。力になりましょう』
 『それはありがたい。よろしく願うところです』
 『そのあたりの関わり合いは、イラクリオンのエドモン浜頭とも話し合います。イリオネス殿がよく理解しているはずです』
 『解りました。ありがとうございます』
 『アエネアス殿、酒を注ぎます』
 アエネアスが杯の酒を飲み乾し、杯を差し出す、テムノス浜頭が酒を注ぐ、テムノス浜頭も杯の酒を飲み乾す、アエネアスが酒を注ぐ、互いに注ぎつ注がれつ、飲んで飲ませて飲んで交歓する。
 ギアスは、持参したパンをテムノス浜頭方の水夫たちと分け合って胃におさめる。
 終宴の頃合いが近づいていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1247

2018-03-20 08:02:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスは、準備されている手みやげの堅パンのケース、仕様書きと図面、今夕の夕食のパンを漕ぎかた4人に持たせて、アエネアスとイリオネスに連なって歩を進めていく。
 テムノス浜頭の屋敷の前庭にさしかかる、突如、わきあがる拍手、一同は盛大な拍手に迎えられる。
 前庭には焚火の島が炎をあげている、テムノス浜頭が進み出てくる、アエネアスを歓迎の言葉で迎える。
 『アエネアス統領、遠い所にようこそ来て下された。こうして会えたこと、私を始め水夫頭、水夫一同、とても喜んでいます。ささやかですが、夕食会を行い、ここに歓迎いたします』
 テムノス浜頭が水夫頭に声をかける。
 『一行を焚火の島へ案内してくれ。アエネアス殿、イリオネス殿、こちらへどうぞ』
 テムノス浜頭が二人を案内して席に就く。
 イリオネスがギアスに目配せを送る、うなずくギアス、イリオネスのもとへ歩を運ぶ。
 イリオネスがテムノス浜頭に声をかける。
 『テムノス浜頭殿、夕食会に私らを招いていただき誠にありがとうございます。私ら一同、喜んで馳走になります。これは、私らが焼いている堅パンです。笑味してください』
 『お~お、あの堅パンか、ありがとう』
 イリオネスは一拍の間を取り話し続ける。
 『これは担当部署が作成した船舶2種の仕様書きと図面です。三枚で一組となっています。受け取っていただければ幸いです。エドモン浜頭と会われることがあるようでしたら、こちらを渡していただければ幸いなのですが』
 『お~お、あの仕様書きと図面のセット組か、あれはいい!見るだけで船の全体像が理解できる優れものだ。ありがとう。エドモン浜頭も喜ぶ』
 三人は顔を合わせて微笑む、テムノス浜頭が声をかける。
 『さあ~さ、肴の焼け具合も丁度いいころだ!始めましょうや』
 夕食会に参集している一同が場の中央に立つ水夫頭に目線を集める。
 口を開く水夫頭。
 『おうっ!一同!夕食会を始める!酒杯を酒で満たせ!乾杯の声がけを俺がやる!』
 傍らにいる者が水夫頭の酒杯を酒で満たす、彼が声をあげる。
 『一同っ!いいか!我々とキドニアの衆との友好をふかめ!これからの発展を約して、乾杯っ!』
 『おうっ!』『おうっ!』『おうっ!』
 声をあげて酒杯の酒を飲み乾す、夕食会がスタートする。
 焼きあがった肴の串を右手に持って噛みつく、左手に持つ酒杯を口に運ぶ、口で味わい、肴を胃に流し込む。
 夕食会が沸いてくる、身近の話を種にして花を咲かせる、肴の旨いも話題に乗る、次いで船の話になる、航海の話に花が咲く、和気あいあい、食が人と人との心を紡いでいく。
 食が紡ぐ和みの絆、にぎわいが盛りあがっていった。