『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  二つの引き金  11

2007-03-31 08:08:07 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 漁師は、オデッセウスの目の鋭さと、その風貌、言葉と口のきき方から、オデッセウスの身分と事情をさとったらしい。漁師は、承諾を態度で示した。承諾に時間をかけなかったのは、一日の時間帯で舟で海に出るタイミングは、今しかない。対岸までは、約30キロメートルあり、2時間くらいの行程である。漁師は、オデッセウスと打ち合わせを終えると、家の者を大声で呼び、水夫たちに、急いで舟を出す旨を伝える手配をした。漁師は、オデッセウスとメネラオスとともに浜に急いだ。
 風は、急ぐ三人の背中を押している。北よりの東風であった。
 メネラオスは、歩きながら考えていた。陸路をたどり、南のポリス、ミレトスに行くとすれば、どれだけの日数がかかるか見当がつかないのである。道中の危険と路銀のことを考えると、生きて行きつくことが果たしてできるか。この際、アンテノールの計画で、海路をとることが、良策であり、安全策であると判断していた。

第1章  二つの引き金  10

2007-03-30 08:24:15 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 今、二人の直面している問題についての交渉は、オデッセウスが適任である。オデッセウスは、メネラオスに比べて、この手の交渉事については、一手だけだが手数をかけるのが、いい結果に決着するのである。この時代における交渉は、お互いの申し分も単刀直入である。答えも、イエスか、ノーか、のいずれかであり、また、生か、死かで決着がつくのである。
 オデッセウスと漁師、顔を合わせた二人、沈黙の時が終わった。
 『俺たち二人は、対岸の集落に渡りたい。それをやってもらいたい。あんたは、漁師だろう。それも舟を、うまくあやつる漁師だと見た。俺たち二人を向こうの浜でおろせば、それでよい。見ての通りだ。俺たちは、今、何も持っていない。だが渡す。この馬、2頭だ。』
 オデッセウスは、言い終わるや否や、腰の剣に右手をかけた。

第1章  二つの引き金  9

2007-03-28 20:09:56 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスは、戸口に立って声をかけた。家のまわりの様子からみて、日々の生業は、漁師であるように思われる。もういちど、声をかけた。戸が開いた。この家の主人と思われる男が顔を出して、オデッセウスと顔を合わせた。瞬時、相手は身構えた。
 オデッセウスとメネラオスの二人は、異様な臭気を発している。そのはずである。アンテノールがトロイを離れる折に、二人にくれた夏物のチュニカを着て、腰に帯剣しているのである。そして、この3日間の強行程の旅である。なお、漁師は、二人がギリシアのポリスの領主だとは判らない。
 エーゲ海沿岸では、一部は通じがたい部分があるが、ギリシアで使用している言葉が通じる地域であることは二人に幸いした。

第1章  二つの引き金   8

2007-03-27 07:56:19 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイを離れて、三度目の朝を迎えた。二人の疲労は、体力の限界をこえている。昨夜は岩陰に身を寄せて身体を休めた。メネラオスは朝日に向かって、岩の上に立っていた。朝日は、対岸の島の小高い山から昇ろうとしている。目を凝らして見つめた。島と言っても、でっかい島である。向こう岸の海岸に集落が見える。漁村と思えないくらい戸数が多い。二人が目指している集落ではなかろうかと思われた。メネラオスはオデッセウスに声をかけた。身体では、喜びをあらわせないが、二人の気持ちは雀躍した。
 彼らのたどっている海岸沿いのあちこちに、小さな集落が点在している。二人は、馬を引いて歩き始めた。二人には、ここはどこだか判らない、だが、対岸の集落は、アンテノールの指示した集落に違いないと思った。
 歩いている。考えながら歩いている。二人は、目標に近づいていることを疑ってはいない。二人は、一軒の家の前に立っていた。

第1章  二つの引き金   7

2007-03-23 09:52:33 | アルツハイマー型認知症と闘おう
 オデッセウスとメネラオスは、旅立ちの支度を終えて外に出た。アンテノールと小者たちは言葉を交わすことなく、諸事をてきぱきとやっている。馬は、2頭準備されている。二人は、アンテノールに、目としぐさに感謝の気持ちをこめて、息で礼を言った。
 夜明けまで、一刻である。別れを告げた二人は、馬上の人となり、門を出ると、南の方向にむかって、馬を叱咤して急いだ。夜が明けるまでに、トロイから、出来るだけ遠くに、行けるところまで行くことが、生きて帰国することの条件と思えた。

 註 書状と帰途の略図等は、古代文字の線状文字Bで書かれていたと思ってください。紀元前1450年頃から1100年頃まで使われたらしい。それから、200年位後のギリシア文字の出来るまで、口による伝承の時代であったと思われます。

第1章  二つの引き金   6

2007-03-22 09:09:42 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『では、私たちと一緒に来てください。主人のアンテノールが待っています。委 細は、主人から聞いてください。急ぎましょう。』
 オデッセウスは、船中の燃えやすいものを、すばやくかき集めて、火明かりを手に取ると火を点けた。火はまたたくまに船中にひろまった。オデッセウスとメネラオスは、二人の小者に導かれて、アンテノールの屋敷に急いだ。
 アンテノールは、オデッセウスとメネラオスから、事情を聞いて、事の成り行きを理解した。小者たちは、馬を引き出すのに家畜小屋に急いだ。二人は、せかされるままに腹ごしらえを終えて玄関に出てきた。アンテノールから、一つの袋を渡された。袋の中には、道中の費用として使う<砂金>の入った小袋、二日分の食糧、2通の書付けが入っていた。1通は帰り道中の手順と簡単な地図、もう1通は、依頼の紹介状であった。
 『これを持って急いでください。向こうの集落に着いたら、依頼先をたずねて下さい。』

第1章  二つの引き金  5

2007-03-21 07:44:24 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 二人の胸の内は、穏やかではなかった。変事の予感に突き動かされるように急いだ。会談の結果は、予想していたとは言え、物別れに終わった。二人の頭の中をよぎったのは、双方、剣を抜き連ねての戦いの情景であった。
 『帰りを急ごう! オデッセウス。』
 『おう!』
 二人は、小走りになって船に急いだ。風は凪いでいる。海も静かだ。ひたひたと船の側面を打つ漣の音がするだけである。水夫たちのざわめきも聞こえない。二人の小者たちを波打ち際に待たせて、オデッセウスとメネラオスは、船中に入った。
 強い血の匂いが鼻をついてきた。薄暗いあかりで、二人が目にした光景は、血の海の中に横たわった水夫たちの屍体であった。こうなった以上、一時の猶予も許されない。二人の交わした言葉はみじかかった。
 『急ごう! 』
 二人は、同行した小者の一人に告げた。
 『船が、襲われた。』 

第1章  二つの引き金  4

2007-03-20 08:51:30 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 終わったようである。その時、楼門をぬけて、こちらに向かって走ってくる影がある。三つである。二人は身体を、そちらに向けて身構えた。近づいてくる、殺気は感じない。星明りに見える顔には、見覚えがあった。会談の席に同席していた初老の男、アンテノールである。二人の小者を連れていた。
 オデッセウスとメネラオスは、四つの屍体をはさんで、剣の抜き身を右手にしたまま、アンテノールと向かい合っている。アンテノールは、屍体を見て情況を悟ったようである。まだ、五人は無言である。アンテノールは、二人の小者に二言三言、何かを告げた。アンテノールは、オデッセウスとメネラオスに、手短に用件を伝えた。
 『あなた方二人を、船まで送ります。変事がなければいいが、何事か異常があれば、二人の小者の指示に従ってください。』
 そして、出来るだけ急ぐようにと重ねて念をおした。夏の夜明けは早い、急ぐにこしたことはない。

第1章  二つの引き金  3

2007-03-19 08:02:16 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 メネラオスは、足場をたしかめた、地を蹴って跳ぶ。前面の影に向かって、上段から、その頭上に殺到する、敵の頭蓋を割った。生ぬるい液体が腕にかかる、血の匂いが鼻をついた。影は横になって地上にあった。
 オデッセウスは、二つの影に対峙している。影が一つになったように見えたと同時に、最初の斬撃がきた。彼は、右へ跳ぶ、影の胴を薙いだ、深々と切り裂いたようだ。息つく暇がない、第二撃がきた、構えを立て直す暇がない、剣を前に構えて、そのまま、影に体当たりする、影の身体の真ん中を突き通した。影は断末の叫びを上げず、低くうめいただけで事切れた。
 これだけでは、終わらなかった。メネラオスがもう一つの影と対峙していた。二つの影の間合いは、2メートルくらいと思われる。影は、メネラオスを圧している、メネラオスは後ろにさがる、夏草に足をとられた、尻餅をついた、殺到する影、きらめく光、影はのけぞった。影は、反転して倒れているメネラオスの体の上におちていった。オデッセウスは、荒い息づかいでかたわらに立っていた。

第1章  二つの引き金  2

2007-03-17 08:35:08 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 二人は、楼門の外に出た。高い城壁である。城内の明かり漏れがなく真っ暗闇である。満天の星明りだけである。前を行くメネラオスの姿が影として認められるだけである。
 微風が潮の香を持ってくる。足の下は砂地である。ところどころに夏草の群生がある。楼門を出て数メートルのところに樫の大樹が一本あり黒い影である。
 オデッセウスは、黒い木の影が動いたように見えた。かすかな光が、目の高さできらめいた。
 『メネラオスッ!襲撃だ!右だ!』
 二人は、背中をあわせて身構えた。暗闇の中の影を目で追った。オデッセウスも砂地を歩む足音の方向を見すえた。楼門の左手から、二つの黒い影が這うようにして近づいてくる。あわせて三つの影である。