『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  84

2012-06-29 07:33:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お前らの仕事ぶり、何となくぎこちないな』
 『オキテス隊長、このような海岸初めてです。俺らの仕事ぶりぎこちなく見えますか。これはしたりです』
 『全くだ。航海のベテランらしく、かっこよくやれ。指示を出している俺に不安を感じさせないようにだ』
 オキテスは、彼らの仕事ぶりを目の当たりにして、不安を覆い隠せない素振りでいた。
 『隊長、この辺り、停泊してもいいように思えます』
 『そうか、いいだろう。よしっ!もう一度、最初から順を追って丹念に調べてくれ。船が夜風にあおられて漂ったとき、海底にある大岩にあたって破損したではどうにもならん。そのことを念頭において慎重に調べろ』
 『判りました』
 彼らは、暗闇中で手探りよろしく念を入れて調査作業を続けた。
 『隊長、ここは停泊に問題がないようです。海底状態に不安がありません。深度も充分といえます』
 『そうか、よしっ!ここに決める。お前たち大変ご苦労であった。船を移動させる。停泊作業が終わったら夕食としよう。ギアス、舟艇の者たちもそのようにしてくれ。今夜の宿営については陸上に上がってもいいし、好きなようにやれ。俺たちは船上で宿営する。夜が明けてみなければ付近一帯の状態が皆目わからん』
 『判りました。低木一本見当たらん、このような岩石ばかりの浜もめずらしいです』
 『では、作業を急ぐ。見張りの者を置いて引き揚げる。見張りの者に松明を持たせておいてくれ』
 『判りました』
 オキテスは、船に戻っていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  83

2012-06-28 07:01:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 海の深さを調べ始めた。
 担当の者は、六番船の喫水の深さを考慮して重石を結びつけた綱を海中に垂らし、舟艇の進みに合わせて海中を引きずりながら計測した。
 この時代である。言葉で計測と表現するも大まかな作業であろうと想像されたい。
 海底の起伏がおかしい、深さが一様ではない、いま、深かったと思えば計測の綱の重石が海底に当たる。次の瞬間、海中に転がっている石か岩に重石が当たる。この状態では岸に接近して停泊することは大変に危険である。
 担当した者が報告した。
 『オキテス隊長、この深さと海底の状態では船を岸に接近させることは、とても危険です。海底には大きな岩石が各所に散らばっています。岸へ接近しての停泊はしてはならないと考えられます。以上です』
 オキテスは担当の者の報告にうなづいた。彼はギアスと相談した。
 『ギアス、この海底の状態、海岸のあり方をどう考える?』
 『隊長、もう少し、海岸の状態を調べてみましょう。その上で決定と言うことにしてはいかがでしょう。岸に沿って舟艇を北上させます。いいですね』
 『判った、よかろう。そうしてくれ』
 舟艇は松明で岸を照らしながら進んだ。深度調査をしている者が声をあげた。
 『隊長、この辺りは海底の起伏が平坦であるように思われます。岸へ接近してみてください』
 ギアスの指示で舟艇は岸に近づけて、辺り一帯の状態を丹念に調べた。
 『おうっ、この辺りの岩石の粒が荒々しくない。海底の具合はどうだ』
 深度計測を慎重に続けながら調査をすすめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  82

2012-06-27 07:07:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 デロス島の停泊地に向かっているオキテスの船団は、宵闇の暗さの増した海岸線の近くまでに来た。近いところまで来たとはいえ夜目ですかし見る海岸は砂浜ではないらしい。星明りで見る浜には、建物も見当たらない、草木も見当たらない、海岸には距離を持って停船した。星は耀いているが月がない、とにかく暗かった。
 『おいっ、アミクス、これは大変なところだ。船を岸に着けようと思うが、皆目、状況が判らん。俺もパリヌルスから聞いてはいたが、闇をすかして見るかぎりでは砂浜ではないらしい。岩だらけに見える。これは危ない、危険極まりない。下手に岸につけられない。3~4人に言いつけて松明を準備してくれ。そして、舟艇を呼ぶのだ。俺は下へいって来る』
 『はい、判りました』
 オキテスは、統領たちに事情を説明するために船倉に下りていった。
 『軍団長、ここは私どもが、日頃、船を着けている浜とは状況が大変に違うようです。この暗さです、詳しい海岸の状況を見て取ることがとても無理です。私が舟艇で見てきます。このままちょっと休んでいてください』
 オキテスは言い残して、呼び寄せた舟艇に乗って海岸を目指した。彼はアミクスに言いつけて十数本の松明を積ませておいた。
 『ギアス、どうだ。松明の灯をもっと増やせ。6~7本にしろ。そして誰かに海の深さを測らせろ』
 『判りました』
 舟艇は松明の灯りを頼りに海岸に近づいていった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  81

2012-06-26 06:03:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスの向かったミコノス島の西岸の浜は、海岸線が南北に長くゆるやかに湾曲した浜である。現在のミコノス市街区一帯の浜である。
 ミコノス島のこのあたりは、デロス島のアポロンの神殿のこともあり古代よりにぎわっていたらしい。アポロンと他の神殿はデロス島の北西部にあり、ミコノスの港から観光船で30分くらいで行ける。このデロス島の神殿のある地域は、古代の頃、宗教的、芸術的、商業的にも大変なにぎわいで栄えたところらしい。古くから人の集うところとして機能していた。デロスには大勢の人間が住み、その居住人口が2万数千人といわれていた。現在は一般人の居住が禁止され無人化されている。なお、デロス島は岩山の島であり、島の東西は1キロ余り、南北に3キロくらい、広さが3.6平方キロメートルである。農耕は不可であり、農産物の全てをミコノスからの供給に頼っていた。ミコノスはそのようなところを控えたところとして栄えていたらしい。
 
 オロンテスの一行は無事に予定地に着いた。彼らは、交易にたずさわっている者らしい風采をして浜に降り立った。日は暮れていたが浜はざわついていた。
 オロンテスは四番船の船長及び副長と4人で簡単に打ち合わせをした。
 『君たち今日は大変ご苦労であった。予定の停泊地に無事到着した。ところで夕食のことだが船上でとってくれ。宿営は船上でしてほしい。次は、警備のことだ。一船当たり4人くらいで交替制で夜警に当たってくれ。それから注意事項だ。いつ、どこで他人に話しかけられるか判らん。その時の返す言葉だ。この地が始めてであること、どこからの問いかけには、ミレトスから来たと答えろ。このことは全員に伝えてくれ。判ったな、以上だ。打ち合わせを終わる。警備のことよろしく頼む』
 彼らは打ち合わせを終えて船に戻った。

 *訂正いたします。
 これまで、デユロス島、デユロス と書いてきましたが、デロス島、デロス が正しい発音に近いので今日からデロスと書くようにしました。何卒よろしくお願いいたします。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  80

2012-06-25 07:30:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、航走に注意を払いながら、小島からミコノス島に向けての航海をふりかえっていた。
 『風の具合で少々おくれたようだ。この分でいけば、全船、何事もなく停泊地に着きそうだ。カイクス、お前どのように考えている?』
 彼は横にいるカイクスに声をかけた。
 『この調子で行けば、無事、停泊地に着けるのではと考えています。今、この宵の暗さでは、前を行く統領の船の姿見えなくなっています。船長、信号を送って、何か確かめたい用件がおありなのではないかと考えています』
 パリヌルス船長に尋ねた。
 『おうっ、そうだな。ミコノス南端の浜もすぐそこだ。よしっ、信号を送れ』
 カイクスは舳先に立って、前方に向かって松明信号を六番船に向けて送った。少々間をおいて六番船から返信を受けた。
 『交信OK!』信号である。カイクスはためらわず信号を送った。
 『当方、無事。変事なきや。当方、停泊地に向かう』
 返報が届く。
 『当方も無事。程なく、停泊地に着く。本日の交信、これを持って終わる』
 安心度の高い返報であった。カイクスはこの旨をパリヌルスに報告した。
 パリヌルスの船団は、進路を北に向け停泊予定の浜に向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  79

2012-06-22 07:12:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団の先頭を行くオキテスの六番船と舟艇、後続の三船はミコノス島の南側を西に向けて航走することになっていた。
 先頭の二船はデユロス島の東側の浜へ、後続の三船はミコノス島の西南端のデユロス島への至近の浜へ向かうのである。
 太陽は海へ没するときを迎えていた。
 前を行く二船、後続の三船は、ミコノス島を右手に見ながら南に向けて進んでいた。もう程なく進路変更地点に到達するはずである。
 船上のパリヌルスは、五番船と四番船が順調に海路を進んでいるかを気にかけていた。日暮れの海上には船影を見かけないが島民が浜から、この船団を見ているに違いないと感じていた。
 パリヌルスは副長のカイクスを呼んだ。
 『カイクス、前を行く二船と我々の三船は、もっと間隔をあけよう。船速を落とす指示を出してくれ』
 この頃には宵が進み暗くなりつつあった。船団は、進路変更地点にさしかかっていた。
 パリヌルスの頭中には、この海域で何事が起きようとも間違うことなく対処できる構想が出来上がっていた。如何なる事態が発生しようとも切り抜ける技術もあり、覚悟も出来ていた。その分、宵闇の中を注意深く波を割って進んだ。
 船団を率いる者として大胆であるとともに沈着であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  78

2012-06-21 06:31:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 航海は順調であった。風も彼らの背中を押していた。満足とはいえない風ではあったが、それで『よし!』としてエーゲ海を南下した。太陽の南中の刻も過ぎ、つるべ落としの秋の夕陽が海面を茜に燃やしていた。
 船団の進む右手はるかに夕陽を背にしたテイノス島の大きな島影を目にして、前方にミコノス島が見えてきていた。
 後尾を航走する三隻が船列の順番変更の指示信号を最後尾の一番船が、前を行く二船に送った。この発信を受けた前を行く二船は櫂を海にいれ船速を落とした。最後尾の一番船は船速をあげて先頭に出た。
 海上で順番変更をやっていた頃、オロンテスの五番船と続く四番船が進路変更地点に到達していた。
 五番船と四番船はミコノス島の北西の先端の岬を目指して南西に進路を変更して航走に移った。海に櫂を入れて、帆走、漕走を併用して船速の維持を計りながら進んだ。彼らは、ミコノス島の北西の先端を迂回して、島の西側の浜に停泊することになっていたのである。
 先頭にたったパリヌルスの一番船は、後続する二番船と三番船に『あとに続け』の指示を出した。
 船団は、目の届く視界に注意怠りなく、暮れ行くミコノス島の海域を進んでいった。*

『トロイからの落人』  FUJITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  77

2012-06-20 06:44:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは慎重に話を続けた。
 『父にも俺の想いを伝えた。『神託だ』『神託だ』と言って、神官の言うことを信じすぎては事を誤る。『神託』それは、あくまでも気にかけるべきことの判断の指針であって、それ以上の何ものでもないと言っておいた。俺はその『神託』を自分の耳で聞きたい。そのようなわけでデユロスに立ち寄ることを決めたのだ。判ってくれたか』
 『判りました』
 二人はうなづいた。
 『一国を興す、それは大事である。そこにある水を手にとって呑むこととは大いなる差がある、比べることが出来ない。一挙手一投足が慎重であって間違ってはならないことなのである。その認識が強ければ強いほど慎重でなければならない。ただ、燃える想いが熱いとは言っておられないのだ。熱い想いで足元が不如意になる』
 『判りました、統領。統領の考えが充分にわかりました』
 アエネアスが建国にかける強い思いをつぶさに感じた。
 『軍団長、『前へ』歩を進めましょう』
 『お前の言うとおりだ。『前へ』一歩だ』
 彼らは、デユロスにおける段取り、果たすべき役務と責任を強く認識した。
 民族が根を下ろす世界の地の一点に到達するのに、このあと六年の歳月がかかることが、彼らにはまだ見えてはいなかった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  76

2012-06-19 06:51:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスはイリオネスの言葉を引き取った。
 『いいでしょう。後事は私が担当します』
 『オキテス、お前に任せる。頼む』
 『判りました。ところで、ここまでの話の中でも触れてはいませんが、統領は、デユロスのどちらへ出向かれるのですか』
 『お~お、それについては言ってなかったな。行く先はアポロンの神殿だ』
 『そうですか』
 『統領の父上が、我々民族の建国についての神託を聞いておられる。その真偽のほどの確かめがデユロスにおける用向きだ』
 『判りました』
 『これについて、ひと言、統領から説明がある。統領、お願いします』
 『この事について俺の考えを簡単に伝えておく。俺は神の存在を是としている。大いなるもの、まあ~、言うなれば自然が神であろうと考えている。深くは考えてはいないが、そのように感じている。俺たち、人間をも含めてだ。随分前に戻るが、父はアポロンの神託に接している。父はそれに基づいて今の俺があると言う。それの真偽のほどを俺自身が確かめておきたい思っている。我々を迷わせる何かがあるとすれば、その迷いを断ち切っておきたい。その上で如何に行動すべきであるかを考えている』
 彼はここで言葉を切って、二人と目を合わせ、心の中を覗き見るように見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY            第5章  クレタ島  75

2012-06-18 06:16:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、始めようか』
 『いいでしょう』
 『パリヌルスの言い分では、ミコノス島近辺は我々民族にとって、危険極まりない海域と言うことになる。考えてみれば、彼の言い分に肯ける。用心して当然だろうと思う。二人はどのように考えている、長かった戦争を終えて半年だ。その影響があって然るべきだと考えられる』
 『統領、いま、言われたこと然りです』
 オキテスが間髪をいれずに答え、イリオネスが同調した。
 『私たち一行が、この危険海域にものものしく船団を組んで遊弋すれば、これを見た者たちは何事かと思うのは当然と考えられます。用心深く行動すべきと考えるべきです』
 『そういうわけで俺は決めた。出航前に決めていた五日ぐらいとしていた滞在を、なんとしても、明日一日で終える。その段取りでやる、いいな。俺の浅い考えで滞在期間を決めていた、浅慮と言われても致し方のないところであった。いま、言ったように一日で用件を済ます』
 『判りました。その段取りで計画を組み立てます』
 『ところで軍団長、統領が用件を済まされるのに随行する者たちは決まっていますか』
 『おっ、その件か、決めている。統領に同行する者、身辺警護には俺とギアス、それにえり抜きの者を三名と考えている。統領一行は統領と統領の父上の二人だけである。用件の内容に秘すべきところもあると考えている』
 『判りました』