『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  81

2009-06-30 07:28:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 先頭の船が船首を反転させて、2列縦隊の船団の中へ進み行く、全船が近接してくる、洋上に塊り、パリヌルスの船を真ん中にして囲んだ。
 『皆、よく聞くのだ!いいか。今、我々の船団は、この航海における、唯一の危険海域に突入する。風は、小康の状態にある。この海域を抜ける20キロ余りは、手漕ぎの航走になる。何時、敵と遭遇するか判らない。敵と戦う以上は、必ず勝つ!いいな!』
 『おうっ!』 気勢の返事が上がる。
 『先頭の船は、船首逆向きの航走に移る。いつもの海戦隊形で洋上を進む。いいか。』
 『おうっ!』『おうっ!おうっ!』 力強く返答がくる。
 『また、トロイからの避難船も来るかもしれない。これも収容する。指揮する者が船を乗り移って部署に付く。船の進路は、海洋の真ん中より、やや大陸よりだ。皆の者、ぬかるな!以上だ。行くぞ!位置につけ!』
 言い終わるや否や、各船は、位置についた。パリヌルスの船は、船尾で波を割って、先頭位置についた。
 櫂座の全座に兵たちが着座するや、進発命令が下る、全船が海を泡立てた。先頭を行く船だけが、船首船尾が逆で進路を北へ進んだ。

第1章  トロイからの脱出  80

2009-06-29 09:10:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は、広い洋上に出て、海路を順調に進んできた。短い夏の夜の夜明けのときが間近に迫っている。遠くはるかに見慣れた山の稜線が白みかけていた。
 パリヌルスの緊張が高まってくる。彼は、アエネアスに、短い時間の洋上における停船について告げた。
 『統領!海は思いのほか、穏やかです。もう直ぐ、危険海域に入ります。命令伝達と布陣のために洋上にて、一時停船します。用件については、松明信号で連絡済ですが、兵たちに念押しの伝達をやります。』
 『判った。頼むぞ、パリヌルス!』
 風が弱くなってきている。風向きの変わる頃合でもある。まず、先頭の船が、帆を下ろした。後続の船も、それにならって帆を下ろしていく。それと同時に、櫂座の兵たちは、櫂を握って構えた。

第1章  トロイからの脱出  79

2009-06-26 08:09:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスの役務は、海上において、避難者の乗った船と遭遇した場合の避難者の収容である。
 アレテスは、パリヌルスの部下を加えて3人で話し合った。彼は、タルトスと名乗った。アレテスたちも名乗った。海上に於ける操船の指示は、タルトスの指示によるものとして、収容の場合は後続の後方の4船として各船に10人余りの収容予定数とした。但し、敵と遭遇した場合は、優先して、これに対応することとして役務遂行の手順を決めた。
 パリヌルスは、布陣と対作戦指示もあるので、海上にて、一時停船して、諸事の手配をすることにした。彼は、抜かりなく、交戦必勝の手順を練りあげていた。この時間帯に訪れるかもしれない凪のことにも気を配って手順していた。

第1章  トロイからの脱出  78

2009-06-25 07:41:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、部下に言いつけて、松明を持ってこさせた。松明を手にしたパリヌルスは、船尾に移動した。松明に火を点けるのに手間取った。どうにか火を点けた。海上に於ける連絡用の、やや小ぶりの松明である。
 彼は、松明を三度、横に大きく揺らした。それを認めた後続船の部下が松明に火を点けて、縦に三度揺らして返答してきた。
 パリヌルスは、まず、大きく三角を描き、そして、横に上下に二度揺らした。さらに四角を描いて、敵との交戦の意味合いを伝えた。次の信号は、大きく舟形を描いて、その中心と思われる箇所に松明を突き刺して、大きく丸を描いた。これは、敵船に体当たりと、その作戦の成功を表している。後続船からの信号は、縦に三度揺らし小さく丸を描いた。了解の信号である。パリヌルスは、連絡信号の交換を終えた。
 後続の船へは、このようにして、順次、伝えられていった。
 この光景を見つめていたイリオネスは、目からウロコがはがれて落ちた。

第1章  トロイからの脱出  77

2009-06-24 07:27:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネス、アレテス、パリヌルスの3人は、各自の部署に戻り、部下を呼んだ。パリヌルスは2人、イリオネスは1人、アレテスは1人であった。彼らは、役務の遂行にあたり、その指示を、どのような手段で、各船の責任者に伝えるかについて考えた。
 イリオネスとパリヌルスの役務は、ギリシア軍の襲撃と海賊についてである。彼ら5人は話し合った。陸上のことについては、イリオネスに自身があるが、海上のことについては、パリヌルスである。イリオネスは言う。
 『パリヌルス、戦術と作戦については、お前だ。俺は、お前の指示に従う。それでいいな。』
 『おうっ!判った。体当たり作戦で決める。敵が1隻の場合は、当方は、3隻でこれを押し包んで、敵の船腹に船首の衝角を突っ込む。いいな。俺たちの船は、10年も昔の老朽船とは違う、衝角が鋭く、強く改良されている。俺の予想では、敵船は、1隻か若しくは2隻と思っている。イリオネス、そんなに気をもむな。俺に任せておけ。敵兵と闘うときは、船に積んでいる長槍で闘ってくれ。敵も長槍で来るぞ。槍の石突も鋭く尖っているぞ、使うときは充分に注意するようにな。後続の船に伝えるのは俺に任せておいてくれ。』 パリヌルスの言い分にイリオネスは納得した。
 『心得た。パリヌルス、よく判った。機に臨んで、お前の指示を待つ。宜しく頼む!』

第1章  トロイからの脱出  76

2009-06-23 07:19:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『もう、ひとつだ。トラキアへの上陸の件だ。これについては、俺なりに充分に考えている。現地の情況についてだが、これが不明だ。気にかかることもある。これについての方針は、熟慮して考えをまとめておく。先ず、当面の難事を切り抜ける。また、海賊については、パリヌルス、お前に一任だ。頼むぞ!トラキアの件については、イムロスを通過してから打ち合わせる。いいな!今、気にかけているのは、トロイを先に出航した連中のことだ。うまい具合に上陸しただろうか。それも含めて、トラキアの件について考えておく。以上だ。』
 『判りました。全て順調にいくよう、はからって事に当たります。』
 3人は、自分の持ち場に戻った。
 船は、闇の中を波を蹴って進んだ。

第1章  トロイからの脱出  75

2009-06-22 08:15:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、傍らのイリオネスに声をかけた。
 『アレテスをここに呼んでくれ。イリオネス、パリヌルス、アレテス、この4人で打ち合わせておきたいことがある。』
 『判りました。』 少々間があった。3人がアエネアスの所に来て腰を下ろした。
 『アレテス、父と息子、二人の具合はどうだ。』
 『二人は、疲れと船の具合で、ぐっすりです。』
 『よし、ありがとう。』 と言って、アエネアスは、暗闇の中、3人の目を見つめた。
 『俺が考えている、この航海の気がかりについて話し合っておこう。先ずは、予想している危険海域のことについてだ。敵の襲撃とトロイから避難して来る者がいるかどうかだ。パリヌルスとイリオネス、襲撃に関しては、操船と布陣、二人で考えて、これにあたってくれ。アレテス、お前は、パリヌルスに相談して彼の部下を指揮して避難して来る者たちの収容にあたるのだ。以上だ。あ~っ、それから、、、、』

第1章  トロイからの脱出  74

2009-06-19 09:12:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 瞑目のアエネアスの思考の中に、そして、胸のうちに去来し、駆け巡り、もつれつながる事項を思い浮かべ、深く考えた。
 トロイの船舶の係留地から、トラキアに向かった連中の安危を先ず考えた。彼らは、変事に遭うことなくエノスの入り江に着いただろうか。無事に上陸を果たしただろうか。また、上陸後に何らかの変事に遭ったのではなかろうかと気遣った。
 思いは、次に移り、この船団のことに及んだ。
 彼は、目を開き、星空を見上げた。帆柱先に目を移した。その時、天空を斜めに横切って流れる星を見た。流星は思いのほか大きいものであった。彼がはたと思いを馳せたことは、彼自身の心中に抱く望みであった。振りかかる困難を虐げて、前に進むことができるのか。そのことを自分自身に問いかける己を思った。
 その時、指示を終えて戻ってきたパリヌルスに問いかけた。
 『パリヌルス、どんな具合だ。』
 『思っていた以上に、順調に進んでいます。今のところ、懸念に及びません。安心しててください。』

第1章  トロイからの脱出  73

2009-06-18 07:19:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 月はない、星だけの夜である。昼であれば、船から見える筈の陸地が見えない。陸からは、この船団が海路を進む情景も見えない筈である。
 船上の者たちには、舳先の波を割る音、櫂の水きり音、船を押す風の唄を耳にすることができた。
 パリヌルスの決断は正しかった。帆を上げたときより、風は、強さを増していた。パリヌルスは、この状態が薄明の頃までは持続するという思いである。櫂漕ぎは中止した。帆走のみで船を進めた。船上の者たちにとっては、しばしの休息の間であった。後続の船も、先頭の船にならって航走した。
 迫り来る薄明の頃には、レムノスの南の東沖に到達の予定である。その辺りがテネドスの西沖であり、予想の危険海域である。
 アエネアスは、思考の琴線を緩めず、軽く目を閉じていた。

第1章  トロイからの脱出  72

2009-06-17 08:14:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は、進路を北へと転じた。この地点からレムノスに向けては島がない。星明りだけの航走である。パリヌルスは、星空に星座の『荷車』を認めて、風向きを見た。航走に幸いする風があるか。パリヌルスは条件を測った。
 風はあった。強くない。風が南から来ているか。風は南からであった。しかし、やや東に向けての南風であった。彼は、『いける!』 と断を下した。ただちに指令を発した。
 『帆を上げろ!』 続けて指示を飛ばす。『帆を上げたら、帆柱先の旗をみて、向きを決めろ!』 ついで、次の指示を飛ばした。
 『左舷は漕ぐのをやめろ!右舷は、そのまま木板の打つ調子に合わせて櫂を操れ!』
 後続の各船は、先頭の船を見て、それにならって、帆を上げていく、櫂による漕走も先行の船にならって、操船して行く、船団は、支障なく進行していった。