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『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  198

2011-10-31 07:29:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 続いて、イリオネスの話に移った。
 一同は、一言一句、聞き漏らしてはいけないと食い入るような表情で真剣に聞き入った。
 イリオネスは、これまで副船長と呼んでいた呼称を取りやめて、副長と改めて、船長と副長が果たすべき役務とその遂行について事細かに話した。
 『一同、判ったな。では、これらについて質問があるようであれば、会議の後で聞く。最後に、これからの三日間の作業のことだが、このあと、ただちに砦の者たち全員にこのことを伝える集会を行う。この土地に残りたい者、船出をする者、彼らの自由意志に任せる。そうした上で乗船者を各船ごとに決め、船出の準備に取り掛かる。この作業を進めるにあたっては、パリヌルス、オキテスの命令、指示を受けること、なお、船に荷積みする武具類、食糧等についてはオロンテスの指示に従ってくれ。以上だ』
 『あ~あ、それからまだあった。このあと西門前の広場において全員集会を行う。その会場の設営を一同で整えてくれ。今回の壮挙は、彼らにとって衝撃の事柄である故に慎重にやってくれ』
 イリオネスは、一同を見渡した。会議の締めくくりのひと言が口を突いて出てきた。
 『一同っ!いいな。なお、出港準備が整ったところで、この役務を解く。手落ちがないようにしっかりやってくれ。頼むぞ』
 会議は終わった。一同は、西門前の広場に向けて広間をあとにした。

第3章  踏み出す  197

2011-10-28 08:37:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なお、一番船には、統領とイリオネスが座乗する、また、五番船にはアンキセスとアカテス、そして、ユールスを乗せる。、船は、一番船から四番船までが軍船である。五番船及び六番船は改造交易船である。判ったな。次は船団の航行体型であるが、一番船を先頭に三番、四番船と続き、五番、六番船となり、殿り船がオキテスが船長を務める二番船である。これが海上に於ける船団の基本の航行体形である。一同わかったな。次は航行体形の補足、これについてパリヌルスから説明があるから聞いておいてもらいたい。以上だ』
 パリヌルスは話し終えた。次いで、オキテスが立ち上がった。オキテスは任命された船長、副船長が隣り合わせとなるように一同の座の位置を改めた。彼も緊張を漂わせて話し始めた。
 『では、一同しかっり聞けよ、二度は言わない。パリヌルスの言った航行体形の補足だ。広い海域では二列縦隊で航行する。進行方向に対して、右列は一番船、三番船、五番船、左列が四番船、六番船、そして、私の乗っている二番船である。狭い海域を航行するときは、一列縦隊で航行する。これは各船長の役務を考慮しての航行体形である。判ったな。次は、船長及び副船長が果たさなければならない役務であるが、これについては軍団長のイリオネスが諸君たちに話す。以上』
 オキテスは、航行する体形を木版に書いて示した。

第3章  踏み出す  196

2011-10-27 07:02:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの話が終わった。一同の目の色が変わった。驚いた。彼らは気にはしていた事ではあったが、今、その決断を聞かされて、これから為さなければ成らない大きく重い事について緊張の度を高めた。
 イリオネスが立ち上がり、話し始めた。
 『諸君、統領の話で一国の大事について判ったと思う。次は、我々が乗り出す船団のことについてパリヌルスが説明する。パリヌルス、君の説明だ』
 パリヌルスが立ち上がった。
 『では、諸君!』
 一同を見回した彼の目は、果敢に物事に挑む者の目であった。
 『聞いてくれ!3日以内に出航の準備を整える。天候状態を確かめて、風待ちの態勢となる』
 彼は一息入れて、座の者たちを見つめた。30余の目線と目線をあわせ意志を通い合わせた。
 『まず、船団の編成について話す。各船の船長と副船長の任に当たる者を発表する。発表は任命である。呼ばれた者は、返事した上で立ち上がってくれ。一番船はこの俺とアミクス、二番船は、オキテスとカイクス、三番船はアレテスとリナウス、四番船はギアスとアバス、五番船はオロンテスとセレストス、六番船はアンテウスとリュウクスである』
 彼らは返事をしたうえ起立していた。
 『よしっ!君らを任命する。着席してよい』
 パリヌルスは、話し続けた。

第3章  踏み出す  195

2011-10-26 07:08:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、諸君、集まってくれたか。日頃ご苦労である。今から会議を行う。今日の会議は、一国の大事に関する会議である。今の我々は、少数でありながらも一国を形成している。我々、少数の民族国家が一国を興す壮途に船出する。これは我々にとって重大事である。会議とはいってはいるが、今日の会議は協議ではない。壮途に船出する命令と指示の会議である。この場にいる君たちは、責任ある役務を担当する。そのために選ばれた君たちである、自信と誇りを持って、諸事を適確に実行してもらう』
 イリオネスは、言葉を切って一同を見回した。各自と目線が会う、互いの意志を確認する目線の交差であった。
 『では、これから統領に話してもらう。統領、お願いします』
 その言葉にうなずいて、アエネアスが立ち上がった。彼を見上げる彼らの目線は、大事を託するに足る鋭く熱い目線であった。
 『諸君、判ってくれたか。今のイリオネス軍団長の話で事の大略は判ったと思う。我々は、一国を興す!建国の地はここではない。いいな』
 ここで言葉をくぎった。
 『ここは国を興す悠久の地ではないのだ。その悠久の地を探し出すための船出をする。船出の日は、今日から数えて7日以内と決めている。天候その他の条件を判断して、この地を離れる。向かう先は、エーゲ海を南下してデユロス島に立ち寄ったあとクレタ島に向かう。以上だ』

第3章  踏み出す  194

2011-10-25 08:22:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 声をかけた者たちが広間に集まってくる。
 アエネアスとイリオネスがなにごとかを話し合っている。パリヌルスはオロンテスに作ってもらった木版に木炭を使って何かを書き付けていた。
 彼は、鋭い目つきで観察していた。選ばれて、この会議に出席する者が担当する役務に適材であるかをチエックしていた。彼は、日常の作業において少なからず見知っている者たちであるが、今一度、念を入れて彼らを観察した。全員が顔をそろえたらしい。彼は、まず、員数をチエックした。彼が描いている船団の編成と航海中の諸事と実行計画とを照らし合わせた。チエックを終えたうえでイリオネスにOKサインを送った。
 パリヌルスは、アエネアスに、会議の前に何んとしても確かめておきたい一事があった。彼は、イリオネスに耳打ちして、アエネアスを広間の外に連れ出して、懸念の一事について質した。
 『統領、船出して向かう先ですが、漠然ではいけません。しっかり決まっていますね』
 『決まっている。安心しろ』
 『失礼しました。ちょっとその事を気にかけていましたので』
 『有難う』
 二人は座に戻った。全員所定の位置に座を取った。座は、半円形を描いて誰もが互いに確認できるような配置であった。
 イリオネスが座を見渡して口を開いた。

第3章  踏み出す  193

2011-10-24 07:30:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら四人は、北門の前庭の木陰を選んで座った。
 『まず、会議に出席、いや、この重大事の船出に関してだな、小隊を率いる担当者の人選のことだ。いいか、オロンテス、お前の息がかりで3人、アレテス、お前はひとり連れて出席してくれ。判ったな』
 『判りました』
 『この者たちは、担当する役務を確実に実行する能力を持っていることだ。そのうえ、いかなる苦難にも耐えれることだ。しっかりした目で選んで、会議に出席させるのだ。いいな』 とパリヌルスは話を結んだ。
 『昼めし時だ。早速、事に当たってくれ』
 オキテスが告げ、座をといた。
 『ところで、オキテス、お前が右腕と頼む者を二人、俺はアバスとアミクス、この二人に声をかけ、連れてくる。それでいいか』
 『判った。アカテスをどうする』
 『アカテスか、あいつも出席させよう。アンキセスに付き添っているわけだが、我々の命令で動いてもらわなければ困る。指示には従ってもらう。例外は許さん、統率に乱れがでる』
 『それでいいな。じゃあ~、あとで』
 二人は分かれた。
 パリヌルスは、ひとりになった。燃えたぎる思いが身体を駆動させている。彼は己自身の制御に勤めた。『冷静に、冷静に』 そして、『始計第一』と心に呼びかけた。
 彼は砦を仰ぎ見た。この砦に生きている者たち、ここに来て半年をを過ごした土地、荒野を見渡した。そして、アエネアス、他の者たちと過ごした半年に思いを馳せた。

第3章  踏み出す  192

2011-10-21 08:18:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうだな、パリヌルス。エーゲ海から地中海に出る。地中海は広い、大海原だ。そこに行き着くと思っていても、風の具合でどこへ運ばれるか、判ったものではない』
 『しかし、漠然とはしているが俺は思っている。必ず、一国を興す理想の土地に行き着けると信じている。その日は近くはないが、そんなに遠い日ではないと思う』
 『お前の言うとおりかも知れない。建国して何百年いや何千年と広い国土を統治する、その一点をこの広い世界から選ぶのだ。5年や6年の年月なんてどうって事はない』
 『お前、なかなかだな。とにかく乗り出そう。俺もお前も乗りかかった船だ。このことに命を賭けよう』
 『俺は、このことに命を懸けて悔いはない』
 『やろう!オキテス』
 二人はうなづきあった。二人は人選を決め、部下を走らせた。
 背後に人の気配がする。振り向いた。オロンテスとアレテスが立っていた。
 『おう、オロンテスにアレテス、昼から会議だ。昼めしを終えたら広間に来てくれ』
 『判りました。重大事が決まったようですね』
 『そうだ、言うとおりだ。重大事に乗り出す。命がけだぞ、いいか。降りるなら今だぞ』
 『何を言われる!俺たちが降りるわけはない!国の大事から』
 二人の気色が変わった。
 『おうっ!その意気、その覚悟だ。頼むぞ!お前ら忙しいのか、ちょっと相談に乗れ』
 『いいですとも』

第3章  踏み出す  191

2011-10-20 07:19:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、事の成否の要めは、踏み出す第一歩にあると言う主張を持っていた。
 イリオネスは、念のため、二人に先日の打ち合わせの件について確かめた。まず、オキテスに訊ねた。
 『軍団長、私の方は全てについてチエックを終えています。抜けはありません。万全です』
 続いてパリヌルスが答えた。
 『私のほうもチエックを終えた。少々不安を懸念される部分がある。航海についてまわる危険に対する船体の強度のことだ。船数については問題はない。船体のチエックと補修に付いては二日もあれば大丈夫だ。それさえ終えれば、あとにはなんらの不安もない』
 イリオネスは、二人の返事を聞いて指示を出した。
 『いいだろう、判った。次だ。主だった者たちを招集して会議を開き、指示を出そう。いいな、人選の手配は君たち二人に任せる。昼めしを終えたら広間に集合だ。以上』
 『軍団長、出航の日のことだが、天候の状態、成り行きをはかって決めなければならない。我ら四人にオロンテスを加えることを考慮してほしい。その上、できれば浜頭のトリタスの意見もほしい。その判断は軍団長と統領で計っていただきたい』
 『判った。いいだろう』
 打ち合わせを終えた四人はその場をから去った。
 『なあ~、オキテス、統領が目指す行く先について少々の迷いがあるのではなかろうか、俺はそのように思えてならない。間違っててもかまわん。確固とした行く先を示してほしい。探し当てるということは、そうゆう事だと思っている。失敗を怖れないことだ』

第3章  踏み出す  190

2011-10-19 06:59:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~っ!パリヌルス、オキテス、親父との話はついた。いい方向で決まった。力を合わせて踏み出す、いいな。建国に向けての第一歩をだ』
 『それは重畳でした。よかったですね。統領』
 二人は口をそろえて言った。
 アエネアスは、二人の肩を力強く抱きしめた。胸の鼓動がこだました。感動のこだまであった。
 四人は、回廊の西南の櫓で向かうべき意志の方向を決めた。昨日までは矢印に過ぎなかった矢印が、強い力を秘めたベクトルに変わった。ベクトルは、ゆるぎなく建国に向かって動き始めたのである。

 『イリオネス、どうだ。主だった者たちを集めて、打ち合わせを行おう。早ければ早いほどいい』
 『判りました。言われるとおりです。彼らは、何かを察知して、私ども三人の動きを強い関心をもって見ているようです。昨日もオロンテスとアレテスが私に接触してきました。口をついて出にかかりました』
 『う~ん、そうか。そうであろうな。パリヌルス、オキテス、君らはどのような感触だ』
 『そうですね。もう、オープンにして、伝えるべきときである。それは間違いありません』
 『やっぱりな、事は急ごう。イリオネス、即、手配をたのむ』
 『了解しました』
 四人は、次のステップへと歩を進めた。

第3章  踏み出す  189

2011-10-18 07:09:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、回廊を歩んでいる、思案しながらであった。
 『統領!』
 イリオネスの声がした。彼は振り返った。
 アエネアスは、右手をさしのべた。その手を受けるイリオネスの右手、そして、左手を添えた。二人は力をこめて握り合った。
 『イリオネス、喜べ。親父が判ってくれた』
 『そうですか、よかったですね。もう事が成ったと言う感じですね』
 『お前、そのように思うか。しかし、俺は思う。事が成るまではどれだけの苦難があるか、はかりしれないのだぞ。お前、耐えられるか』
 『いいですとも、如何なる苦難にも耐えることができる強い自信があります。ご安心ください。必ず、事を成就させましょう。私は統領と一心同体です。事が成るまで、いかなる苦難も克服して見せます。皆でしっかり手を携えて、事を成就させるのみです』
 『イリオネス、有難う。頼むぞ。力を合わせ、苦難を斥け、事を成そう』
 アエネアスは、力いっぱいイリオネスの肩を抱いた。
 『お~っ!パリヌルスもオキテスも来た。イリオネス』
 二人のそばに来たパリヌルス、オキテスは、満面を紅潮させているアエネアスの顔を食い入るように眺めた。アエネアスも二人をじぃ~っと見つめた。三人の目線が絡み、心が通い合った。