『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  749

2016-03-31 05:33:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、アレテス、ではなーーー。俺は浜に戻る。馳走になった。ありがとう』
 イリオネスは、トロイ時代の感慨を込めて告げ、小島をあとにした。

 キドニアにおけるパリヌルスは、大量の木札を運び終えた。
 一同が船だまりに帰ってくる、彼は一同とともに昼めしを終え、みんなに声をかけた。
 『おう、諸君、ご苦労であった。今日の業務をこれにて終了とする。ところで今日ののこれからだが、お前たちを集散所の見学に連れていく。十分な時間を過ごすことはできないかもしれないが、まあ~、集散所とは、このようなところかと思えると考えている。オロンテス隊長のやっているパン売り場、お前らが知っているスダヌス浜頭の魚の売り場もここにある。もちろん、小島でとれた獲れたての魚も売り場に並んでいる。まあ~、見て楽しんでくることだ。そういうことだ』
 彼らはパリヌルスの言葉に耳を傾けていた。
 『おう、一同、出かけるぞ!リュウクス、留守役を残して出発するぞ!』
 リュウクスは、留守役担当の者たちに声をかける。
 『お前ら留守を頼む。この俺が土産話をたっぷりもってきてやる。いいな』
 『お願いいたします』
 一行は、集散所に向けて歩みだす、喜々として、隊伍を組んで歩を運ぶ、集散所に着く、一行を五つのグループに分け責任担当を決めて声をかけた。
 『よしっ!いいだろう!さあ~、行って来い!時間は半刻くらいだ。迷子にならないようにして楽しんで来い。俺は、お前らの帰りをここで待っている』
 彼らは集散所の中へと入っていく、初めて目にする集散所の中に展開する風景を見て廻った。売り場にはいろんな品物が並んでいる、売られている、スダヌス浜頭の魚売り場も見た、我らがパン売り場も見た、彼らは『へえ~っ!』『ほお~っ!』と感嘆の声を上げながら売り場を見て廻った。
 引きあげる時が迫ってくる、集散所が彼らのウシロ髪を引っ張る、それを断ち切って、戻らなければならない、心が残る、名残惜しそうにして戻ってきた。
 彼らは、待っているパリヌルスを真ん中にまるく囲む、リュウクスが音頭をとって声をあげる。
 『おう、一同、そろったか?隊長に礼を言おう』
 彼らを見まわして、リュウクスがパリヌルスの前に立つ。
 『一同、礼っ!隊長!ありがとうございました』
 全員が唱和する、そして頭を下げた。
 『心行くまでとはいかなかったと思うが、見て楽しんできたか。では、帰る』
 一行は集散所をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  748

2016-03-30 05:56:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、小島の波打ち際に立って、浜を眺めた。己の意思が働いたわけではなく、ただ何となく眺めた。第三者の立場にスタンスして浜を見つめた。
 短い時間である、不思議な感慨が通り過ぎていく、何かを想い、考えた時間ではなかった。
 アヱネアスとイリオネスが率いる一族の明日を考えるスタンスに立脚する己を感じている。一時が過ぎていく、頬を撫でて吹きすぎる風を感じていた。
 自分を呼ぶ声を耳にする、傍らにアレテスが立っていた。
 『軍団長、お待たせしました。用件を済ませました。昼めしの時間としませんか。獲れたての魚を焼かせています』
 『おっ!それはいい!』
 アレテスはイリオネスの先に立って昼めしの場へと歩を進める。
 『軍団長、一同と一緒です。かまわないでしょう』とイリオネスの目を見つめた。
 『おう、かまわん!それを気にする俺ではない。ワイワイガヤガヤがいい』
 昼めしの場は、めずらしい軍団長の臨場で沸いている。彼らは総立ち、拍手で彼を迎えた。
 焼き魚の香ばしさが漂っている、香りたつ焼き魚のにおいが場にあふれている。
 『おう!諸君!日頃、ご苦労!君らの働きに感謝感謝だ。今日は君らの厚意に甘えて、昼めしを馳走になる』
 一同から拍手が起こる。
 『どうぞ!』と木板をプレートとして、焼きあがった魚が目の前に供された。
 魚はかなりでっかい、魚の身を手でほぐし口に運ぶ、うまさが舌にのる。
 『うまいっ!』感動が口をついて飛び出す、木板プレートの片隅においてある塩を魚にふって口に運ぶ、舌鼓をうって胃に収めた。
 『おう、諸君!うまい昼めしを馳走になったな。ありがとう』
 イリオネスは、場の一同を見まわして、感謝の意を伝えた。
 『アレテス、うまかった!実に、うまかった。馳走になった、礼を言うぞ』
 食事を終えて二人は、連れ立って場を離れていく。
 『おう、アレテス、今日は、お前らの日頃の活躍、その成果について、感謝の言葉を届けに来たのだ』
 『何とそのような、私どもは、やるべきことをやっているだけなのに、そのように言われると、大いなる感動です。ありがとうございます』
 『新艇完成まで、あと一か月余りとなってだな、新艇建造用材の決済をするわけだ。これまで、お前が届けてくれた木札を集散所に持ち込んで銀貨に交換することにした。それで整理勘定してみると、俺が考えていた量より多いではないか。その成果に対する統領と俺からの感謝の言葉だ。よくぞ!日々、業務に励んでくれた。ありがとう。重ねて礼を言う、ありがとう』
 イリオネスは、そのように言って、アレテスの手を力強く握りしめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  747

2016-03-29 05:50:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オロンテス、ご苦労!どうであった?打ち合わせは、うまくいったか?木札の総枚数だが、考えていたより、かなり多い、総枚数が87000枚だ』
 『そうか、考えていたより多いか、担当が驚くな。まあ~、それだけ、仕事の成果をあげたということになる。いいことだ。彼らもなかなかやるな。打ち合わせはうまくいっている、大安心というところだ。木札の収める部屋は、前回と同じだ。明日は俺が船だまりで待つ』
 『よしっ!時間的なスケジュールは、前回と同じにしている。よろしく頼む』
 『了解した。パリヌルス、それからだが、会議で打ち合わせた調査に関する買い物の件だが、明日やろうと考えている。集散所内での状況は、俺なりにチエックした。綿密立案、的確実行、任せてくれるな』
 『おう、その件はお任せだ!よろしく頼む。あ~、それから、リュウクスがセレストスと打ち合わせたと思うが、明日は、昼めし携行でキドニアに行く』
 『その件、セレストスと打ち合わせて準備する』
 二人は明日の業務の打ち合わせを終えた。
 浜もはるかに望む小島も、今日を終える頃合いとなっていた。夕陽が茜に燃えていた。

 ニューキドニアの浜が朝となる、朝の光が満ちてくる、今日がスタートする。
 今日は集散所において新艇の価格決めをする話し合いの日である、出航するヘルメスの艇上には、オキテスの姿があった。
 軍船に集散所に運ぶ木札の積み込みが行われている。
 イリオネスが浜に立って諸事の成り行きを見ている。
 荷の積み込みを終えて浜を出ていく軍船を見送った。
 彼は新艇の建造の場を見まわる。
 巡視を終えて、イリオネスは、はしけを仕立てて小島に渡った。
 出迎えるアレテス。
 『おう、アレテス、ご苦労!忙しいか?』
 『はい、軍団長、ようこそ!え~え、今、キドニア行き昼便の準備の真っ最中です』
 『そうか、作業が終わるまで待つ。その間。小島を見て廻る』
 『そうですか、申し訳ありません』
 『気にするな。何事も業務優先だ』
 『ではーーー』と言ってアレテスはその場を去っていった。
 イリオネスは、久しぶりに身を運んだ小島の状況を見て廻った。
 『アレテスもなかなかやりおるな。重畳、重畳!』
 彼は、信じるスタッフの日々の働きに喜びを新たにした。
 イリオネスとアレテス、二人は、焼き討ちされ、炎上のトロイを脱出するとき、互いに力を合わせてアヱネアスの護衛をしてきたのである。今、思い起こすと、遠くに去った思い出であった。あのときのアレテスが、今、魚の事業を営んでいる、感無量であった。
 イリオネスは、今を真剣に考えた。
 戦場で干戈を交える戦いではなく、物を創出して、市場という戦場において戦っている自分を見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  746

2016-03-28 06:02:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 積み重ねられた木札の詰まった袋の山を見てパリヌルスは目を見張った。
 『お~お、これは大変な量だな!お前ら、数に読み違えはないだろうな、数の念査ををもう一度やるのだ。この作業に間違いは絶対に許されないのだ』
 『はい、解りました。木札を収納している建屋がせまいので整理の都合上屋外にも積んでいます』
 『とにかく数の念査をするのだ』
 『解りました』
 彼らは念入りに数を確認する。屋外には木札500枚入り袋、10袋の山が6か所、屋内に袋の山が11か所と4袋、220枚入りの袋が1袋がある。班長格の者がパリヌルスに報告する。
 『そうか、間違いないな。俺も一緒に確認する』
 報告を受けたパリヌルスは、その者と一緒に確認作業を行った。
 『よし!いいだろう。屋外の木札を屋内に入れてくれ。それで作業終了だ。以上』
 『解りました』
 『作業を終えたら、ここで待機してくれ。俺は報告を終えてすぐ戻る』
 パリヌルスは整理作業完了を軍団長に報告する。
 『軍団長、整理作業を終えました。木札の総数を報告します。木札500枚入りの袋、174袋、端数220枚です。明日、キドニアの集散所へ運び搬入する木札枚数87000枚です』
 『そうか、俺が考えていた枚数より格段に多い。この場合、多いということはいいことだ。明日、キドニアへの輸送の件よろしく頼む』
 『解りました。明日の天候は落ち着いていると考えています。輸送搬入の件、無事完了します』
 『おう、頼むぞ!』
 作業を終えたパリヌルスら一行は浜へと下った。彼はリュウクスを呼ぶ。
 『おう、リュウクス、明日もキドニアへ行く、用船は軍船を使用する。木札の輸送と集散所への搬入だ。木札の量は昨日の量と比べて格段に多い。木札500枚入りの袋数174袋だ。昨日の要領で輸送する。軍船の準備を頼む。それから、乗員全員の昼めしの準備をセレストスと打ち合わせておいてくれ。以上だ』
 『昼めしを船に積んで出かけるのですね』
 『そうだ』
 『解りました』
 リュウクスは、指示を受けて、即、その場を去っていく。
 彼は指示を受けた作業に着手する、輸送に使用する軍船の整備をする。行動を共にする一同に、明日の作業要領を詳しく伝え、無事完了するよう訓示した。
 一同からは、『おうっ!』と力を込めた返事が返る。
 その返事を受けたリュウクスは自信を得た。
 オロンテスがキドニアから帰ってくる、パリヌルスのところに姿を見せた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  745

2016-03-25 09:15:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、実はだな、今日、集散所へ運んだ木札はだな、オロンテスが担当しているパン事業部だけの木札なのだ。アレテスが担当している魚関係の木札を大量に収納している。この際、全てをドラクマ銀貨に交換してしまおうと統領と話し合って決めた。この木札は、集散所からではなくスダヌスから受け取ったものなのだ。我々が蓄えた木札の全ての整理作業とキドニアへの輸送の一切をパリヌルス、お前に任せる。明後日、集散所への引き渡しで、その業務を完了させてくれ。オロンテスには、俺からも伝えるが、お前も諸事打ち合わせをオロンテスとして事に当たってくれ。以上だ』
 『解りました』
 『木札を収納している棟へ案内する。行こう』
 二人は立ちあがる、木札を収納している棟は、隣といってもいいくらい、宿舎にほど近いところにある、歩み始めた。
 二人は中へ入る、棟の中には、様々な袋に入れられたままの木札の袋が積みあげられている。雑然とではあるがどことなく整然と積まれていた。
 『軍団長、結構多いですね!今日、集散所へ引き渡した木札の量よりも多いと見受けます。今日、これから整理作業を開始します。明後日、集散所へ引き渡しの予定で作業にかかります』、
 『その予定で作業に当たってくれ』
 『解りました』
 浜に戻ったパリヌルスは陣容を整える、作業に携わる者を3名増やして10名として作業に当たった。作業に従事する者たちの大半が作業要領を心得ている、そのようなわけで作業が手際よく進められていった。
 今日の報告を終えたオロンテスが、イリオネスとの用件を終えて姿を見せる、二人は事の次第を打ち合わせた。
 『そうだな、オロンテス、見ての通りだ。木札の総量は、整理作業の途中だが、今日、搬入した木札の量より、3~4割くらい多いのではないかと思う。明後日だが、今日の輸送、運び要領で集散所の所定のところへ運ぶ、交渉かたよろしく頼む』
 『おう、軍団長から詳細を聞いている。万事、心得ている』
 ニューキドニアが暮れていく、宵のとばりが一帯を包んでくる、今日が終わった。

 水平線から陽が昇り始める、朝の光が満ちてくる、今日が始まる、浜に活性の声が飛び交う、ヘルメスがキドニアへと波を割る、建造の場に新艇建造の槌音が響く、各作業の場の班長の声が浜の空気を震わす、彼らが浜の活性を演出して、交響詩を紡いだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  744

2016-03-24 06:10:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、船だまりへ戻る途中、歩を運びながら考えた。
 『集散所を見る。彼らにとって必要なことなのだろうか』
 彼は意を決めかねた。諸事情をからませて考えた。結果を『ノー』とした。彼は、このまま帰途に就くと決めた。
 リュウクスに声をかける。
 『リュウクス、船だまりに着いたら、出航の準備をしてくれ』
 『了解しました』
 『いま、出航すれば、昼過ぎには浜に着く』
 『そうですね!』
 彼ら一行は帰途に就いた。
 天候に変化が見られない、帰途の風向きは向かい風である、荷を下ろした分だけ軽くなったとはいえ浜に着くまで漕ぎかたは懸命に漕いで帰った。
 用件を終えて帰るパリヌルスをイリオネスが待っていた。オキテスは、帰ってきたパリヌルスにイリオネスからの伝言を伝える。
 『おう、パリヌルス、ご苦労!仕事はうまくいったか?』
 『おう、うまくいった』
 『軍団長から伝言がある。お前が帰ってきて用件を済ませたら、宿舎の方に来るようにということだ』
 『そうか、解った。一行と昼めしを終えたら行く。それでいいのだな』
 『そうだ!』
 パリヌルスは、一行の労をねぎらい昼めしの場を囲んだ。彼は一同に心の内を伝えた。
 『おう、あのな、キドニアでのことだが、お前らに集散所を見せてやろうと考えたのだが、今回は見送った。次に今日のような機会があったら、俺が集散所を案内してやる。今日のことは許せ!』
 彼らは、パリヌルスの思いやりに接した。彼は昼めしを終えた一同に告げる。
 『諸君!今日はご苦労であった。昼めし後は、平常の勤務についてくれ。以上だ』
 指示を伝え終えたパリヌルスは、場を去っていく、歩をイリオネスの宿舎に向けた。
 宿舎の前に立つ、屋内に向けて声をかける。
 『軍団長、用を済ませて、ただいま来ました。在室ですか?』
 『おう、パリヌルスか、中へ入れ!』
 『はい!』
 『おう、パリヌルス、今日はご苦労であった。どうであった、キドニアまでの海上輸送、そして、集散所への荷運び、うまくいったか』
 『はい、作業は、全て順調に行きました。集散所の方においても大量の木札に驚いていました。引き渡しはうまくいきました。集散所の受領証は、オロンテスが持って帰ることになっています』
 『そうか、木札の引き渡し業務、無事に終えたか、重畳!』
 イリオネスは、一拍の間をおいて口を開いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  743

2016-03-23 06:16:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスとパリヌルスは荷を担いだ一隊95人を引き連れて歩みだす、隊列は集散所へと向かった。
 オロンテスがパリヌルスに話しかける。
 『なあ~、パリヌルス、考えてみればだな、このように荷を担いで船だまりから集散所へと三度も四度も行き来して、荷を運こぶなんてことはやってできないわけではないが、今日のように一挙にしてやれる。お前がいればこそできる。俺たちにはそのような力が備わっている。集散所もそのように我々を見ている。のぼせあがってはならんが』
 『そうか、集散所もそのように我々を見ているか、彼らの我々に対する見かたが、ハニタスを通じて、かの地に住み始めたころとは、我々に対する接し方が変わってきているということか』
 『そういうことだ』
 話している間に集散所についた。
 『おう、荷を収納する部屋はこっちだ』
 オロンテスは、集散所の奥まった一郭にある木札の収納部屋へと一行を案内していく。
 部屋には担当のトミタスが待機している。オロンテスが二言三言言葉を交わす、パリヌルスに告げる。
 『パリヌルス隊長、荷は、こちらへ積みあげてほしいそうだ』
 『おっ!そうか、解った』
 パリヌルスが荷運びの一行に指示して荷を整然と積んでいく、瞬く間に荷が積まれていく、荷を下ろし終えた者たちを集める、彼は次の指示をする。
 『船だまりにの岸壁には、あと32個の荷が残っている。その荷をここへ運んでくれ。それで荷運びは終了だ。残った者たちは小休止だ。では、行動に移ってくれ』
 彼は指示を終える。
 『あ~、それから、リュウクスに、こちらへ荷運びの者たちと一緒に来るように伝えてくれ』
 『はい、解りました』
 荷が運び込まれるまで少々の間がある、三人は言葉を交わした。荷を背にした一行が来る、荷を収納部屋に積む、荷運びが終わった。
 オロンテスとトミタスが木札の受け渡しの確認作業を終える。
 『オロンテス殿、木札ですが、大変にたくさんありましたね。驚きです。木札500枚入りの袋、127袋、確かに受け取りました。これが、その受領証です。お受け取りください』
 トミタスが受領のサインを書き入れた木板をオロンテスに手渡した。
 『受領証だな。おう、ありがとう。ハニタス殿によろしく伝えてくれ』
 木札の受け渡しが終了した。集散所をあとにする。パリヌルスにオロンテスが話しかけてくる。
 『パリヌルス、このあとどうする?』
 『俺らは荷運びの用件を終えた。浜へ帰る』
 『そうか、手間をかけたな、ありがとう』
 『では、帰る』
 二人はその場でわかれた。
 『おう、リュウクス、みんなに集散所を見せてやりたい気もするが帰ろう』
 『そうしますか、少しですが心に残ります』
 リュウクスがいかにも残念そうに答えた。
 荷を運び終えた一行は集散所をあとにした。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  742

2016-03-22 06:01:26 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『よしっ!ご苦労。乗船して配置についた人員は?』
 『総員、102名、以上です』
 『よしっ!いいだろう。リュウクス、浜に行って、建造の場にいるオキテスに出航する旨を伝えてきてくれ』
 『はいっ!解りました』
 指示を終えたパリヌルスは、航海条件のチエックをする。
 天候、うす曇り、陽光が薄く差し照らしている。凪後の北西からの風が海上を波立てている、白うさぎが海の上で跳ねているように見える波立ちである。パリヌルスは状況を理解した。
 リュウクスが戻ってくる。
 『オキテス隊長に出航を伝えてきました』
 『よしっ!出航する』
 パリヌルスが声をかける。
 『今日の操舵担当は誰だ?』
 『操舵担当は、ヘストスです』
 『了解!中央帆柱、帆を上げ!』
 帆が展がる、風をはらむ、船がゆるゆると動き始める、パリヌルスが声をあげる。
 『おう、一同に伝える!今日、この船は、キドニアに向かう、船上の積荷を運送する、いいな』
 『漕ぎかた櫂を持て、漕ぎかた始めっ!』
 海面が泡立つ、船は蹴立てるように波を割る、船足に速度が出てくる。
 船上の者たちにとって久しぶりの航海である。櫂を操る腕に汗が噴き出してくる、瞬く間に全身が汗ばんだ。
 リュウクスは船の中ほどで木板を打ち鳴らす、漕ぎが同調する、船はパリヌルスの想定速度でキドニアへと航走した。
 ヘルメス艇は、時速10ノット(18~19キロメートル)近い速度で走るのに、軍船の速度といえば、6ノット(11キロメートル)くらいである。歩速の2~2.5倍くらいといったところである。航走時間1時間超でキドニアの船だまりに着いた。
 彼らを迎えたのは、パン売り場のスタッフのひとりである。
 『パリヌルス隊長、ご苦労様です。予定時刻通りの到着です。荷運びの準備をお願いいたします。オロンテス隊長を呼んできます』
 スタッフは走り出した。
 『おう、リュウクス、荷物を岸壁の上におろしてくれ』
 『はい、解りました』
 船上の荷を下ろし終える頃にオロンテスが姿を見せた。
 『パリヌルス隊長、ご苦労です。予定した時間通りの到着です。荷を集散所の収納の部屋へと運びます。案内は私がします』
 『おう、よろしく頼む』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  741

2016-03-21 09:17:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ニューキドニアの浜の今日が始まる。
 パリヌルスは、今日の予定である木札の輸送に携わる一同の招集をリュウクスに指示をした。
 用船をチエックする、出港準備を整える、段取り手順を考える、荷積み要領を頭中に描いた。
 チエックに同道しているリュウクスに描いた荷積みの要領を説明した。
 『解りました』
 『今日のキドニア行きの操船については俺が指示をする。いいな。荷積みの作業に取り掛かってくれ!荷積みの要領は心得ているな。作業をそつなくやるようにな』
 『即刻、作業に取り掛かります』
 リュウクスは、集合している総員100人余りの者たちに作業要領を説明する、班長格の者を5名を選び、作業管理の担当を指示した。
 『軍団長の宿舎の方に2名の担当が待機している、その者らの指示に従って、収納庫の荷物を運ぶこと、運んできた荷物は、一時、この場所に積む、いいな。そののちに手送りでもって船に積み込む。以上だ』
 『了解しました』『おうっ!』の返事が返る。彼らは一斉に行動に移った。
 リュウクスは荷物の総数について知らされている、荷物を肩にした者たちがリュウクスの立っている場所に到着する、たちまち荷物が積みあがっていく、数を定めて積み上げていく、ひと山10個づつの山としていく。
 リュウクスが次の指示をする、10人を用船船上に配置する、また、船までの海の中に、そして、荷物のある場所までに、約1メートル間隔で並ばせる、状態確認を終えて、荷積み手送りを開始する、荷物が順次、船に積み込みされていく、船上積載は、パリヌルスが指示をして荷積み処理をした。
 キドニアまでの道中における船の揺れによる荷くずれに留意しての荷積みである。パリヌルスは、出航時間を見計らって作業を進めた。
 リュウクスは荷物の数を数えながら作業を進めている、作業は、滞ることなく半刻(1時間)あまりで終了した。作業終了を確認したリュウクスは全員に乗船の指示をする。乗船した彼らは櫂座に就く、リュウクスは、船上の荷積みも確認する、作業終了をパリヌルスに報告した。
 『パリヌルス隊長、荷積み作業終了しました。積載した荷数は、127個です。間違いありません。以上です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  740

2016-03-18 05:24:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 帰着の遅れたヘルメスの無事でニューキドニアの浜は落ち着きを取り戻した。
 『おう、オロンテス、ご苦労だったな。無事の顔を見られるのだったら、肝の冷える心配もたまにいい!』
 『そのようなものではない、心配はかけないに越したことはない、海旅に出る俺の心構えだ。集散所との交渉、いい具合に決着した。運ぶ段取りできているのか?』
 『それは出来ている、安心しろ!打ち合わせは簡単に済ませよう』
 うなづきあう二人、目を合わせる。
 『木札の総枚数は、63500枚だ、量が量だけに大量だ。500枚入りの袋が127袋もある。明日、軍船を仕立ててキドニアへ運ぶ。キドニアの船だまりから集散所に運ぶのにも人手がいる。そのようなわけで軍船を仕立てるわけだ。昼前にはキドニアの船だまりに着く。向こうでの段取りはオロンテスお前だ。お前の指示するところへ運ぶ、よろしく手配を頼む。以上だ』
 『判った。船が着工すると思う頃合いにスタッフの一人を船だまりに待機させておく』
 『解った。よろしく頼む』
 『集散所方は、検収の都合もあるゆえに、交換、銀貨の引き渡しは、3日後となっている。軍団長には、先ほど、この事情は伝えておいた』
 『おう、解った。明日は、俺は俺で計画して事に当たる。軍船の準備はもう終わっている。荷積み作業は、明日、アサイチから開始する』
 打ち合わせを終えた二人はそれぞれの方向に向かった。

 夜が明ける、日が改まる、今日の業務が始まる、活気で浜が沸く、クレタに移り住んだ頃とは比べることを否とする活性がみなぎっている。
 この状態の中にあって、一族を率いているアヱネアスの心境はというと、このクレタにおいて、己と一族の想いである建国を果たせるかなと胸の想いに考えを馳せたとき自信をもって、『イエス、ドウイット!』と言える心意を持てないでいる。それはそれとして、いま手掛けている事業の完遂への想いを手放しはしない。己の生き方に対して、極めて厳しい姿勢を矜持していた。
 大いなるリスク、リスクの制御、掌握するサクセス、大望達成への足掛かり、アヱネアスの大志とその大望。
 運命である。
 彼は事業のサクセスと己の大望の長大な辛苦とその征旅の時の訪れが近づいていることに、このとき、未だ気づいてはいなかった。