『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  414

2014-11-28 07:17:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、会議でのイリオネスの言葉を反芻しながら月下の道をたどった。
 『事は成る!』不思議な要素の働きなくしてなることはない。『事が成らない』ときには不思議はない、そこには、必ず事のならない理の働き、要因がキバをあらわにしている。不思議は不思議であって、その不思議に気づくことなくことが成っている。『まあ~これが理であろう』と思っている。
 『不思議は不思議だ。不思議は目には見えない、気づくことのない陥穽であろう』彼は、その様に理解して結論付けた。
 『脚下照顧は気づきの気働き』その要は『謙虚だな』思考の終点は宿舎の前であった。
 同宿舎の者たちも帰ってくる。
 『あっ!隊長、おやすみなさい』と言って、そそくさと戸口をくぐって中に入っていく。彼も宿舎の中へ一歩、足を踏み入れた。宿舎の中の様相の変化に気が付いた。
 ドックスの仕事の仕上がりを目にした。
 『ややっ!これはこれは!』であった。宿舎の建物の建てつけの隙間から入り込む月の光で見える、ドックスの造作に目を見張った。
 『なるほど!これは理にかなった補強造作だ』彼は感心した。簡易と合理、仕事の進捗を考えた造作に感心した。
 彼は意に決めた。『明日のアサイチは、彼の造作に感謝だな』パリヌルスは月の光の差し込む闇に身を横たえ、明日に考えを馳せた。
 タイミングの良さでスダヌスが姿を見せる。パリヌルスは、明日の段取りを考えながら目を閉じた。心よい酒の酔い、身体はためらうことなく彼を深い眠りに誘った。
 明日の段取りは、考えることなく眠りの中で脳が段取りを組み立てていた。
 スダヌスは、宿舎の闇の中で思考を巡らせた。彼も心いい酒酔いである。彼の思案はいかに捨てるを少なくするかである。日常の仕事、作業の分野に対しての物の分配であった。『まあ~、これは考えるに及ばず、断あるのみだ』で目を閉じた。深い眠りに入るのに時間はかからなかった。
 オキテスは、交渉ごとの場で『当方の意をどうして通すか?』これを理詰めで考えていた。言葉のやり取りの中での瞬時に浮かぶ意中に意、事の成否を問わず成る確率を高めるために吐く言葉。『難しいものだな』で目を閉じた。彼も眠りに入るのに時間を要しなかった。
 ひとそれぞれが生きていく人生に背負う役割りと成事、そして、処し方。屋根の下の有心、天空の月は無心の光を地上に注いでいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  413

2014-11-27 07:29:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、オロンテスを呼び諸事都合を打ち合わせて、夕食の準備の手配を指示した。
 オロンテスは、セレストスを呼ぶ、指示打ち合わせを終える。
 『そうか、よし、いいだろう。では、セレストス、今夕は浜で夕めしだ、準備を整えてくれ。浜にいる者たちを動員してやれ!パリヌルスには俺が言っておく。時間も時間だ、急いでやれ、各所への連絡はぬかるな!以上だ』
 用命を終えたオロンテスは、パリヌルスらのいるところへ戻った。
 『なあ~、オキテス、スダヌスが来るとあわだたしい!』
 『そうだな、俺はあいつのバイタリテイに感心している。あ彼奴のバイタリテイが勝ちのダメ押しをしている、負けの見えている勝負も、それでひっくり返る。感心感心というところだ。今夕は奴の好意にあやかろう』
 浜には、セレストスの奮闘で間をおかずに夕食の準備が整った。浜の各所に焚き火の炎があがる。
 アヱネアスが姿を見せる。スダヌスとあいさつを交わす。スダヌスの好意に礼を言うアヱネアス、スダヌスは、イリオネスのクノッソスへの調査行に同行したに感謝の意を述べた。二人の友好度の進展が感じられた。
 集落の一同はこぞって参加する夕食の宴を歓んだ。久しぶりの塩漬け羊肉の味を堪能した。スダヌスとイリオネスの話も酒も進んだ、互いが行を共にしたクノッソス調査行の5日間を思いおこしての話にアヱネアスは聞き役に徹した。
 『なになに、クノッソスとは、その様なところか。俺も出かけてみたい、、、』
 『その時は、私が案内役を務めさせていただきます』
 スダヌスが答える、夜は更けていく、三人の話はクノッソスの話に花を咲かせてほころんだ。
 『ところで、イリオネス、エドモン浜頭からの贈り物は何だった?』
 『おう、あれか。あれはだな、台つきの大皿であった。描かれた紋様が絶品だ。明日、見せてやる』
 『おう、ありがとよ!』
 三人の話は、尽きるところにさしかかっていた。
 夕めしは、一同を楽しませた。肉もうまい、パンもうまい、干し魚も負けず劣らずの味で一同に大うけした。この夕めしの場でも大魚の輪切りが好評であった。彼らの夕めしの幕は下りた。
 頭上には、ひときわ明るく照っている寒月、その光の下を彼らは宿舎へとたどった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  412

2014-11-26 07:54:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 会議の場から帰りの途に就いたアレテスとジッタは、興奮の冷めない胸を抱いて広場からの坂道を浜へと下った。陽は西の空にある。浜辺には人が群れて賑わいを見せていた。
 『ジッタ、何事だろう?』
 突然、リナウスの声を耳にした。
 『おいっ!急げ!軍団長とパリヌルス隊長に伝えるのだ!スダヌス浜頭が見えたと伝えるのだ。急げ!』
 『はいっ!』
 従卒の一人が、賑わいの人の群れから飛び出して走った。
 アレテスとジッタが人の群れに近づいていく。浜頭が浜頭に手を貸す者たちを大声で叱咤して、浜に着けた船から荷下ろしをしていた。
 スダヌスはアレテスを見つけた。
 『お~い、アレテス、こっちだ、こっちだ。元気だったか?』
 『浜頭こそ、元気でしたか?』
 『おい!もっとこっちへ来い!顔を見せろ!お前、ちょこっと見ない間にひとまわりり大きくなったな。元気そうだな。何より何よりだ』
 『浜頭こそ元気そうで、何よりです。浜頭の元気な顔がまぶしい!』
 言葉を交わして二人は互いの肩を抱いた。
 ニケ船上で過ごした数日、数時間、力を合わせて波を割った時のことを思い出して、再び互いの肩を強く抱きしめた。
 『浜頭、今日は何用で?』
 『何用かだと!?諸々の用事だ。イリオネス、いや、軍団長殿も元気かな?』
 『元気です。いま、従卒が呼びに行っています。すぐ来ると思います』
 アレテスは、広場からの坂道へ目をやった。
 イリオネス、パリヌルスら4人が急ぎ足でこちらに向けて急ぎ足でやってくる。スダヌスがそのほうへ目をやって、大きく手を振った。イリオネスも手を振って答え、走り出した。
 『おう、イリオネス!来たぞ!元気であったか?』
 『スダヌス、お前こそ元気であったか!?』
 二人はひっしと互いの肩を抱いた。身を離して目を合わせる、再び肩を抱きしめた。二人の間に言葉はない、瞬時であるが互いを見つめる、
 『おう、イリオネス、どうだ。今夕は浜で夕めしといかないか。食材は積んできた。おう、アレテス、今日は漁に出たのか?』
 『え~え、出ております』
 『釣果は、どんな具合だ?』
 『私は今日は島を留守にしています。詳しいことは、島に帰ってみないと判らないといったところです。今日の食材向きには、干し魚があります』
 『おう、それでいい。足りないと困る。いま、イリオネス軍団長に伝えたが、今夕の夕めしは、皆で浜でやることにした。持ってきてくれ』
 『判りました』
 アレテスはギアスの舟艇で島へ帰った。

『トロイからの落人』 FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  411

2014-11-25 07:44:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ありがとう。君らの賛意こそ我らが力だ。それも単なる力ではなく集団としての総合力だ。組織体力、知力、技術力、軍事力、あらゆる力を総点検して、財力だけが誇れるに足りないのではないかと自覚している。あらゆる力を満足できる水準とした集団の形成を目指そうではないか。最後になったが、このクレタが不穏な状態になるのではないかという懸念を感じさせる前駆的な状況下にあるということだ。我々が如何なる世の変化にも対応できる強い集団力を維持していなければならない。財務の充実した富国、如何なる他国、集団からの脅威、攻撃を駆逐、いや、制覇する強い力を有している集団としなければならない。強い兵力を持った集団でなければならんのだ!諸君!判るか?!もう一度言う!我らが目指すのは、富国であって、強力な兵力を持った集団でなければならん!我々は必ずそうなる。それには、日ごろの訓練をもって闘争技術の優れた者たちの育成を怠りなくやっていく。次いでいえることは我々がやる戦闘は、個の争闘によって決するのではあるが、闘争の質として、集団の闘争でもある。集団と集団の衝突では、その集団を統率する者、いわゆる隊長の戦闘企画力のあるなしが問われるところでもある。これからは、この戦闘企画力、作戦力、戦術力の養成にも力を入れていこうと考えている。一同、これを理解しておいてもらいたい。以上である』
 『判りました』
 『君ら本当にわかったのか?!』
 『判りました。頭だけでわかっても事足りんのだ。身体全体で判らねばならんのだ』
 『判りました』
 『判ったか!』
 『判りました』
 イリオネスは、これを三度繰り返した。
 イリオネスの軍団長としての真骨頂の意識志向が一同に伝えられた。
 『ということだ、いいな。おう、一同、今日の会議で話しておきたいことはあるか?ないようであれば会議をこれで終わる』
 『軍団長。会議での要件は納得し理解しました。示された事業計画の達成、遂行はやります』
 パリヌルスらは答えた。
 『では、統領、ひと言を、、、』
 『おう、諸君!会議に出席、ご苦労であった。軍団長の言う充実した強さを持った集団であることが、我々が生きていくうえでとても大切なことだ。総員の力を結集して事に当たり結果を価値あるものにしてほしい』
 出席の全員から拍手が起きる。
 『承知しました』
 一同納得の答えであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  410

2014-11-24 09:33:34 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは話を続けた。
 『我々民族が生きていくうえで、何といっても重要なことの一番目は、食の事だ。二番目は、身に着ける衣の事である。三番目が住の事である。この三つの事の上にあることが、民族として永遠にこの世界で生き残っていくことである。判るな』と述べて一同と目を合わせた。
 『我々が生産手段を有しない状況では、自給自足か、余剰生産物をもってする交易によって充足していくか、はたまた、持てる軍事力によって持てる者を虐げ収奪しなければならない。つきつめれば自給自足を別にして、交易か、収奪かの二つの方法である。武力をもっての収奪か、交易という平和的手段で必要とする者を得ていくかである。要するに物々交換という行為を交易人という、それを生業としている人間を介してやるのである。だがだ、我々が生産する物を我々が必要とする物と交換する、そこに発生するのが、互いの生産物の価値決めである。その価値決めが、正当であるか正当性を欠くか、難しいところである。そこに交渉とか駆け引きごとが発生する。そこには相手が信頼に足る人物であるか否かの問題も発生する。そこに互いが納得できる価値決めによって取引が成立する。我々が取引しているテカリオンという交易人は、信頼できる交易人であろうと判断している。あれだけの量の小麦を何も言わずに我々に託してくれている。それに加えて、パンを製造して、それで利益を得る段取りに力を貸してくれた。これは互いが信頼の上に立っての行為だと俺は思っている。このように交易の取引の場では、我々も充実した力をもって優位にスタンスして交渉事を進めたい。これが俺の素直な心情である。此のたびのテカリオンの行為についてはこれを裏切ることは許されないことだと認識している。そのようなわけで何としても財務を健全なものにすることに強い思いを抱いている。我々が持っている力でもって生産を増やして健全な財務を実現する。諸君らもこのことに力を尽くしてくれ。ちょっと長くなったが以上だ。判ってくれたな!交渉は常に優位なポジションに立ってこれをやる。事業を起こして生産を増やすのだ。これの実現を心してくれ!』
 パリヌルスら三人は、イリオネスの言葉に口をそろえて答えた。
 『軍団長!よくわかりました。やります!』
 この会議に参加したアレテスとジッタは興奮した。二人は、『やらねばならない!』を強く認識した。
 イリオネスは会議に参加している一同の心情を肌に感じた。思い通りに事が進行している事を強く感じ取っていた。彼は、これを決定的なものにするクロージングどのようにしたらできるかを瞬間的に考えた。イリオネスは、クロージングの言葉を告げた。
 『今、我々がやろうとしていることには、間違いはない。実行あるのみだ。力を尽くして事に当たってくれ!必ず事は成る!』
 人数は少ないが、一同から喊声が上がった。
 『ワオッ!』
 会議の句読点であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  409

2014-11-21 07:07:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『一同、パリヌルスの報告を聞いてくれたな。俺の思いではあと6日ぐらいで作業が完了するとみている。では、議事に入る。オキテス、風風感知器の製作の進み具合を説明してくれ』
 オキテスは風風感知器の仕様を一部変更して、改めて製作に取り掛かったことを説明して製作完了までにあと40日と報告した。
 『次、パリヌルス、方角時板の製作の進捗は』
 『はい、方角時板は政策個数が多くないのであと20日が完了予定です』
 次は、舟艇一艇の試作の件についての問いであった。
 パリヌルスは、オキテスと打ち合わせたとおりにドックスが、今、手がけている建物補強工事の終了を待って、ニケの分析、設計作業を終え、新暦の始まる直前には試作完了の予定であると報告した。
 『よしっ、いいだろう。では、懸案の漁業の件についての討議を行う。パリヌルス説明してくれ』
 『漁業の件については、ここには不在ではあるが、スダヌス浜頭の方でも、できた干し魚の売りさばきをどのようにするかを考えてくれている状態です。こちらではアレテスとジッタが中心になって干し魚つくりを担当することになっている。二人がここに、この仕事に関する計画立案を携えて出席しています。彼らから、その案について説明します。アレテス、説明してくれ』
 アレテスは、いま、実際にやっている漁獲方法による漁果、そして、モノづくり方法による製品の日持ちに関連して、いかにあるべきかを丁寧に説明して、諸設備の整備に関する構想を述べた。漁獲作業については、予想される漁獲量を含めて、即、実行できる旨を説明した。一同はアレテスの説明した計画を理解した。
 イリオネスは、この件について、スダヌス浜頭との話し合いを1日でも早く行うことをパリヌルスに要請した。
 砦の建設の件については、担当するイリオネスが説明した。
 調査で視察した状況を踏まえての構想である。イリオネスの構想は事に当たって極めて慎重であった。
 『城壁の構築はしない、いま、調査にあたっているのだが、住居の不便を解消することを優先して、春先に第一次計画、夏過ぎに第二次計画をと二回に分けて実行する予定としている。今、我々がやらねばならないことは、財務の事を全てに優先して実行する。交易人のテカリオンへの小麦の決済を含めての構想として、我々がやる生産計画を思い通りの結果となるように事に当たる』
 彼は、強い気持ちを込めて言いきって、一同と目を合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TRIY   第7章  築砦  408

2014-11-20 08:18:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アレテスがジッタを伴って統領の宿舎の前に立った。彼に用件を指示したパリヌルスらの姿が見当たらない。
 『少々、早く来過ぎたかな?』
 彼はつぶやいてジッタの顔を見た。その時、遠くからアレテスを呼ぶ声が聞こえてきた。パリヌルスの声である。彼は声のする方角に目を向けた。パリヌルスが手を大きく振って招いている。アレテスはその方向に歩を向けた。
 『おう、アレテス、ご苦労。思案がうまくまとまったか?』
 『はい、いいようにまとまっています。私たちは私たちの集団のために何かをしたい、何かをやらねばと考えています!その一念の実行計画です』
 『そうか、言ってくれるね。感動の一語だな。判った。お前の言うとおりだ。今日の会議で話してくれ。周囲の事は斟酌しなくともいい。考えてきたことをそのまま披露してくれていい。そのようなわけだ』
 『判りました』
 『もう、そろそろ軍団長も来る、統領の宿舎の方へ行こう』
 三人は統領の宿舎の方へと足を運んだ。アヱネアスは戸口に立っていた。彼は、アレテスの姿を見て歩み寄った。
 『アレテス、お前、今日の会議に出席するのか』
 『はい、そうです』
 『そうかそうか。大歓迎だ。こうして、お前を見つめれば、過ぎたあの日が思い出される』と言ってアヱネアスはアレテスの肩を抱いた。
 アレテスは、炎上するトロイを後にして、漆黒の闇の中をアヱネアスと一団となってパリヌルスの船だまりへ馬で疾駆した日の事をありありと思い出していた。
 『おう、軍団長も来た、オキテスも来た。中へ入ろう』
 オロンテスも間をおかずに姿を見せた。
 『おう、一同揃ったな。時間励行、重畳重畳!』と言ってイリオネスは一同と目を合わせた。
 『一同、ご苦労。一昨日の会議で伝えた課題についての立案は出来ているな、議事の進行はこの順序で進める』
 彼はそのように言って議事の進行順序を書き記した木板をテーブルの上に置いた。
 『統領、会議の冒頭に言われることがありますか?』
 『いや、ない。軍団長進めてくれ。会議の締めくくりに述べる。俺のスタンスは、よろず広論の重用だ。一同、議題の討議を尽くしてくれ』
 『軍団長、会議を始める前に建物補強工事の進捗について報告します』
 パリヌルスは、補強工事の進み具合を報告した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  407

2014-11-19 10:55:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、明日の会議に控え、ニケの船上で沈思黙考、ただひたすらに考える人であった。
 『我々はどうあらねばならないか。財務は健全でなければならない。今は不安な財務状態だ。健全化はできるのか、健全化するにはどうするかだろうが』
 彼は自分自身を戒めた。自問自答に声を出したらしい。
 『軍団長、今、何か言われましたか?』
 『おう、何か聞こえたか?聞こえたとすれば俺の独り言だ』 
 ニューキドニアの浜が見えてきた。
 『おう、オロンテス、ご苦労であった。いい明日を迎えよう』
 『え~え、そうします。何かするべき仕事があるようでしたら申し付けてください』
 『判った。今はない』
 今日は終わった。オロンテスは何かを考えながら沈みゆく太陽を見送った。

 夜が明ける、陽が昇る、朝の光のその中に、朝行事の飛沫がきらめいていた。
 『お前、何やっている?』
 『こうしないと、水が冷たい!』
 『そうだな、同感、同感!』と言いながら、冷たい水の感触を遠ざけようと朝行事を終えていく様子がうかがえた。
 『おう、パリヌルス、おはよう』
 朝行事を終えてきたイリオネスは、これから朝行事に向かうパリヌルスに声をかけた。
 『おはようございます』
 『パリヌルス、頼みだ。俺は考え事で忙しい。集落を見まわってドックスのやっている補強工事の進捗を見てきてくれ』
 『判りました。報告は会議の時でよろしいですね』
 『おう、それでいい』
 短い会話を交わしたイリオネスの頭の中では、今日の会議の議事進行の段取りが一気に組み立てられた。『これでいける!彼らのやる気を全開にしてやらねばならんのだ』
 彼は結果を問わずとも事が成るの確信の決断をした。『脚下照顧、一歩前へ、事は成る!』であった。
 宿舎へ戻る途中でユールスを連れたアヱネアスとも朝のあいさつを交わした。彼の気持ちは『晴れ!』であった。
 宿舎に戻ったイリオネスは、やや大きめの木板に何事かを書きつけた。
 『先見、深慮、大胆実行』その成果をまぶたの裏に描いた。イメージは思いのほかクッキリと浮かんでいた。
 『何事も考えるよりも生むが易い!さえぎるもの何ぞ、踏み破る千山万岳煙が如しだ』
 しかし、どこかで声がした、耳には聞こえない、心の中の耳に届いた声であった。『イリオネス、なめるなよ!』間髪入れず『充分、承知!』と答えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  406

2014-11-18 07:08:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、出来あがっていた全ての風風感知器を容赦なくぶっ壊した。この仕事に携わっている者たち全員を集めて事の次第を説明した。彼らは、風風感知器の製作を再び一から取り掛かった。
 『モノづくりとは、このようなものか』オキテスは心の片隅で述懐していた。
 イリオネスは、キドニアからの帰途のニケの船上で思案していた。思案の一つは小麦の仕入れに関する交易人テカリオンからの『請求はいかほどか?』これが見えていない、その不安が気持ちをふさいでいた。二つ目は、何とかなるであろうという安堵感の存在を感じていることであった。そのための思考、手段は講じてはいるが、その思いが瞬時にヒックリ返る。700人余りの大所帯である、食べて残るとは考えにくかった。
 現状について脳を搾った。乾いたぞうきんである、滴る知恵はいかほどもない、じれったかった。今の我々一群は、『1人の稼ぎで10人が食べている勘定になるな』稼働状態を冷静に見つめた。稼働を現在の倍にすれば、何とか生きていける境地がそこにあるのではないかと思われた。もしもだ、稼働がなかったら、どうかと考えた、背すじが凍った。イリオネスは不安を心中に秘した。
 帰りのやや強めの向かい風の中をニケは、風に抗って波を割った。風に飛ぶ飛沫は、遠慮せずに船上の者たちの体を濡らした。
 イリオネスはオロンテスに声をかけた。彼はそうせずにはおれなかった。
 『オロンテス、ちょっと聞く。パンを売りさばき始めて、一カ月くらいだな』
 『はい、そうです』
 『始めたころより、売りの実績の推移ははどうか、いくらか増えているか?』
 『そうですね、この仕事を始めた頃は、1日の販売個数が、100個から110個くらいで、売れ残りのロスを発生させないという考えで仕事を続けてきました。ここ10日間の実績を振り返ってみますと、1日の販売個数が130個くらいとなっています』
 『そうか。まあ~、いい調子と言えそうだな。判った。了解した』
 それを聞いて、イリオネスは、未来を計った。それも明日か、明後日か、ごく近い未来をである。
 『獲らぬ狸の皮算用か。オーバーラン、売れ残りの許容を計って生産を増やしてみるか。そして売る、売れる工夫だ。売れ残りを発生させにくくする』
 彼は、その策の構築を決意した。
 『それにしても、一民族所帯はでっかい、一日全員が食べるパンが1000個、売るパンが130個。売るパンと食べるパンの数を比べて採算をとるには売るパンの数をどれだけにするか?』
 彼はこれについて懸命に考えた。この時代において、この答えは算出できたであろうか、それは定かではない。『答えは?』であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  405

2014-11-17 07:46:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 用件を済ませた二人はギアスに声をかけた。
 『用事は終わった。帰る』
 二人はそそくさと小島を後にした。
 『おう、パリヌルス、方角時板の製作うまく運んでいるのか?』
 『おう、ちょっとした思い付きを加えてな、仕事は最終段階に来ている。お前の方はどうだ?』
 『俺の方か、部品の仕上げにちょっと手間取っている。風が少々弱くても反応するようにと、入念丹念の仕上げを目指している。まあ~、これが念入りの仕事といったところだ』
 『どちらも、期限内仕上がりというところだな』
 『ところで舟艇一艇の試作の事だがどのように段取りするか?』
 『俺は、ドックスの手すきを待って着手しようと考えている』
 『そうか、判った。お前に歩調を合わせる。ドックスの建物補強の仕事の完了を待つ』
 『それで決まりだ。ニケの船体の分析、材質と組立、使用感といったところを詳しく調べる。オキテス、力を貸せ』
 『判った、俺たちがエノスで舟艇を造った。あの時の用材は杉であった。扱いやすい用材であった。クレタは、ナラ、カシが多い。とにかく、ニケを分析しての事だ』
 『判った』
 話している間に舟艇は浜に着いた。
 『おう、ギアス、ご苦労。この舟艇にも名前を付けてはどうだ。考えろ、いい名前をだ』
 『判りました』
 パリヌルスは浜に残り、オキテスは広場の方へと歩を向けた。
 オキテスは風風感知器の部品の一つである風受け板の仕上げにひとかたならぬ注意を払っていた。微風にも反応して、敏感に動くように気を配って仕上げようとしていた。
 彼はこの風受け板の最終チエックをやっていた。人任せにできなかったのである。作業をやっていて気が付いた。風受け板の風受け面を風をホールドしやすいように椀状に仕上げることにした。彼はこの思い付きを即刻製品に採用した。試作実験もした。初期に製作した物より微妙ではあるが風受け反応がいい。彼はすべての風風感知器をこの仕様で造ることにした。
 この時すでに製作予定個数の半分となる30器が出来あがっていた。