『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  284

2014-05-31 07:44:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は闇を見つめながら、うとうととして深い眠りに落ちていった。事の山場を越えて、安心立命にスタンスする自分に気づくことなく深く眠った。
 
 彼は目覚めた、朝である、何となくのさわやかさを感じている。心頭をよぎった思いは『事の成功は、我が掌中にあり』であった。彼は飛び起きた。隣に寝ているピッタスを揺り起した。
 『おい!ピッタス、起きろ!朝行事に行く、話もある』
 二人は浜へと降りていく、いつもとは違う歩速で歩を進めた。二人は海に身を浸した、北の海では感じられない温かな海である、パリヌルスはピッタスに声をかけた。
 『おい、ピッタス、お前の剣の腕は確かだ。お前、俺の言うとおりに朝行事の折に唱えるのだ。『俺は危険をしりぞける!』今日から5日間の修行だ。いいな』
 『判りました。やります。この俺の身に危険が忍び寄っていると、隊長、言われるのですか』
 『いや、そうではない。自分の身の安心の境地は、日々の己の思いで達せられるということだ。判るか、そのようなものだ』
 『隊長も何かを毎日ですか?』
 『俺も己の心に弱いところを持っている。俺の唱えるるのは『順調うまくいく』だ』
 『そうですか、納得しました』
 『ところでピッタス。お前は近いうちに調査隊の一員として、軍団長に従っていくことになっている。さっきの唱えは自分自身を守り、調査隊全員の身の安全を護る役務を全うするためだ』
 『判りました』
 二人は朝行事を終えて宿舎へと足を運ぶ、アヱネアスが息子のユールスとともに道を下ってくる、イリオネスの姿も見えた。互いに朝の声掛けをした。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう。早いな、パリッ!』
 『え~え、少しばかり』
 イリオネスが声をかけて来た。
 『パリヌルス、今日だが、少し時間があるか?』
 『え~え、時間はどのようにもなりますが』
 『ちょっと打ち合わせたい。俺の宿舎へ来てくれ』
 『オキテスはどうします?』
 『連れてきてくれ』
 『判りました』
 短い会話を交わして、思い思いの方向へと歩を運んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  283

2014-05-30 13:27:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 深い眠りに落ちていく。海の底深く落ちていく感覚であった。パリヌルスは愛用の短槍を右手に海藻の茂みをかき分けて戦う相手を探索しているらしい。俺は何をやっているのだろう、ふと夢の中で考えた。身体に水の流れを感じた。闘うべき相手が目の前を泳ぎすぎていく。体の高さが自分の背丈と変わらない魚体幅の魚である。敵を認識するのに時間を要した。『あっ!そうか俺の対敵は魚であった』通り過ぎた敵が方向を転換して、こちらに向かってくる。互いに敵を認識したようである。彼は、何かを叫ぼうとしている、声をあげたらしい。耳にする音声がない。音のない世界であった。
 敵は大口を開けて迫ってくる、奴は俺を呑み込むつもりなのか。敵が身にまとう魚鱗の鎧は堅牢このうえない強固な装いである。彼の頭をよぎる思いは、『この槍で戦えるのか?』だが武器はこれしかない。敵とにらみ合った。両者の間合いが詰まってくる、槍の先がとどくであろう間隔に詰まった。彼は必殺の思いを込めて槍を突き出す、相手は身をよじって巧みにかわす、魚鱗の鎧がやり先を弾き返す。魚は大口を開けて一挙に間合いを詰めた。水流が起きる、身が引きよせられる、パリヌルスは、槍を振り回して辛うじて、飲呑み込まれそうになるのを辛うじて防いだ。何とか危難から逃れた
 逃れた彼は、考えを変えた。魚が大口を開けて水を吸い込む、水流を身に感じた。彼の身は魚の大口に吸い込まれた、魚の大口に吸い込まれた彼は、槍先を魚の口の内側から上に向けて突き上げた。槍は魚の上あごを刺し貫いた。
 上あごを刺し貫かれた魚は、衝撃を感じて、身を振り回してのたうった。パリヌルスは、槍の柄をしっかりつかみ、のたうつ魚から振り飛ばされぬようにたえた。
 おかしい、俺の身を引くやつがおるらしい、魚が身をよじりながらひかれていく、自分の身もグイグイひかれていく。身に水の抵抗を感じなくなった。魚とともに空中を遊泳した魚は前にもまして身をよじりまわる。どこかに着地したらしい、魚はのたうち回る。彼は、魚から身は離れ、感触のやわらかい地上に立っていた。それは人間の掌の感触であった。
 夢はそこで終わった。彼は目を開けて眼前の闇を見張った。一歩、歩を進める、前途寸前の暗闇を見透かしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  282

2014-05-29 07:39:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
アレテスは、事の成り行きを理解した。
 『そのようなわけで三日後には、そのスダヌスが我々の漁を見に来る。その時に今後の事をどのように展開していくかを話し合うことにしている。アレテス、お前が参加する調査隊は、五日後に編成という運びになっている。軍団長から正式に命令が来る段取りになっている』
 『そうですか、判りました』
 『アレテス、ギョリダ、この三、四日干した魚、14~15匹あるか?』
 『え~え、あります』
 『それなら、大丈夫だ。10匹ぐらいだが明日一日生木を燃やして燻して一日干してほしい。もう一件は、明日、魚を獲りに出て、50匹くらいだが、俺の言うように調理してほしい。獲って来た魚の身を開いて、内臓を取り除き塩焼きにする、そして、風と天日にさらして二日間干してほしい。オロンテスが言うのでは、魚の味は塩あんばいが決め手だといっている。これが一番と言える塩加減は、アレテス、お前に任せる、以上だ。それにその50匹のうち、焼きあがった魚を10匹を生木を燃やして燻して干してみてくれ。頼んだぞ』
 『判りました。ギョリダ、そういうことだ判ったな』と言ってギョリダに声をかけた。
 『判りました』ギョリダがしっかりした口調で返事をした。オロンテスが口を開いた。
 『ひとこと付け加えるが生木でいぶす、燃やす生木の事だが、楓の木か、アーモンドの木がいい。小島には木がない、木をとりに行くときは、セレストスを訪ねてくれ。判るようにしておく』
 島で夕食を済ませた三人は引きあげた。
 パリヌルスは、思案を巡らせていた。船上では火は燃やせない、焚き火は出来ない、魚は焼けない、指示した魚の調理方法を今一度振り返って考えた。あくまでも思いついたままだが、彼は、あれでいいとした。
 『とにかく、前へだ!』
 肌を刺す寒さを感じる、宵闇がつつみ始めた浜に着いた。
 オキテス、オロンテスの二人は、干した魚の焼いたのを『旨いっ!』とは言わなかった。試食は、ただただ口に入れて食えるか、食えないかの判断に終始した。日常の食材として、干した魚の存在性、必要性を確立することができるかできないのかが大きな課題であると判断した。
 彼は、定時定番の用事を済ませ、宿舎に帰り、眠りに就いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  281

2014-05-27 05:50:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『パリヌルス、お前の言いたいことは判った。先ほどの会議の場でもお前が言っていた魚の売りについては、スダヌスなる漁師に任せるとしてだ。アレテスにも判るように仕事の経緯をこの場で話してやってくれ。会議の場では、今、お前が言ったような具体的な説明がちょっと乏しかったが、アレテスがギョリダに漁についての後事を託して、調査隊の一員として出かけるわけだ。詳しく説明をしてやってほしい』
 『おう、判った。アレテス、よく聞いてくれ。魚の販売の一切をスオダの浜の漁師スダヌスという漁師に任せるわけだが、この漁師はキドニアの集散所にも売り場を持っている。そのスダヌスだが五人の漁師仲間で売り場を切り盛りして、魚の販売をしている。集散所の売り場で取り扱っている魚のほとんどが朝獲れの魚だ。魚の加工品も少しは見かけるが、ないに等しいといった状態だ。交易人たちが航海の途上で魚を食べようと思っても食べる魚がないというわけだ。判るな。魚を売ることはパンを売ることとはいささか違う。俺はいろいろ考えた。我々が漁に出て獲る魚が多すぎるのだ。集散所で我々が売り場をもって仕事をやっても到底売りさばききれないと考えられた。これについては魚の売りさばきを我々以外の魚の売り専門の者に任せて、我々は魚を獲ること、そして、魚を日持ちするように加工して、売りをもっぱらとする者に託して売っていくことが有利であると判断したのである。そのようなわけで我々はいい決断をしなければいけないわけだ。それに我々が獲っている魚の種類にも関係がある。単一種類の魚であることが関係するのだ。アレテス、ギョリダ、俺の言っていることを理解してくれているかな。質問があれば聞いてくれ。今、言ったことは、獲った魚をどのようにして売りさばいていくか、我々がどんなカタチでこの仕事の関わっていくかを説明した』
 『パリヌルス隊長、そうすれば、俺たちは魚を獲ること、魚を売れる魚に加工することに専念するということになるわけですね』
 『というわけだ。スダヌスの方から生で大量にと要請があれば、それにこたえて魚を獲るということになる』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  280

2014-05-26 07:29:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長、判りました。今、言われたことしっかりと肝に銘じて事に当たっていきます』
 パリヌルスら三人は大きくうなずいた。会議の場を解いた一同はそれぞれの持ち場に散っていこうとしていた。パリヌルスはオロンテスに声をかけた。
 『オロンテス、お前、忙しいのか。今日、これから小島で夕めしを一緒に食べないか。都合がつくのなら一緒に来い。魚の干物の試食をやろうと思っているオキテスも一緒だ。漁の話もアレテス、ギョリダに伝えねばならん』
 『判った、魚の干物の事だが、海水漬けはダメかもしれんぞ。まあ~、食べてみてのうえの事だ。一緒に行く、俺はセレストスに一言、言ってくる。浜で待っていてくれ』
 『判った』
 用件を終えたオロンテスをも伴って、三人は小島にわたった。アレテスとギョリダは三人の到着を待っていた。
 『隊長、干物が出来上がっています』
 『おっ!そうか、ありがとう。干物の試食会か、早速、始めるとしよう』
 アレテス、ギョリダ、そして三人は夕めしの場を囲んだ。
 魚は、身を開かれ目の部分に棒を突き刺し、吊るされて乾かしてあった。
 ギョリダが説明した。
 『こちらが一夜漬け一日干しです。そして、こちらが二夜漬け一日干しです。こちらは、私どもがまえにつくったものですが、一夜漬けで三、四日天日にさらして干した魚です。私が魚を焼きます』と言って魚を焚き火にかざした。
 魚の焼ける臭いが鼻を突いてくる。
 『おう、魚の焼ける臭いは、生を焼くよりチョッピリ香ばしいな。そうは思はないか』
 『言われれば、そんな気がするな』
 『そもそも、魚の干物を作る目的は何なのだ。このこと自体をはっきりと認識しないと目的に沿った、いい魚の干物ができやしない。パリヌルス、ちょっと感覚があまい』
 『オロンテス、お前の言うとおりだ。ただ、海水漬けにして干した魚の味とはどんな味で、食べれるかどうかを知ってから、この仕事の出発点にすることにしたのだ』
 『そうか、判った。食べてみた感じでは、魚の干物としては三、四日天日にさらした魚のほうが、この干物の中で旨いと感じられる』
 『オキテス、お前の感想はどうだ?』
 『俺は、オロンテスの感想に同感だ』
 『では、俺の想いをこれから簡単に説明する、一番に言えることは、俺たちが漁で獲る魚は、集散所の魚の売り場で売ろうとしても一日では売りさばけない。二番目が今日獲れた魚を5日7日10日後でも食べれるように、その間、腐らせないようにする。それにはどうするかだ。それが課題なのだ。そうするには、干物にする、塩漬けにする、エノス時代にオロンテスのやった生木を燃やして煙でいぶす、いつでもうまい魚を口にすることができるようにしたい。それが俺の想いだ。判ってくれ。そうでないとオキテスが開発した魚を獲る仕事を続けていくことができない』
 パリヌルスは、想いの丈を一気に話した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  279

2014-05-24 07:50:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、集散所の事は、ほぼ理解できた。あのような取引の風景を目にしたのは初めてといっていい。我々のこれからを考えるのに大いに役に立つというもんだ。俺の立場にとって見ておくべき状況であったと言える』
 『そうでしたか、集散所の視察はいい機会でしたね。軍団長、ところで、明日からの事もあります、夕めし前に会議をやりたいと考えていますが、都合はいかがですか?』
 『おう、いいだろう、やろう。オロンテスもここにいる。パリヌルスは浜だ。すぐ手配をしてくれ』
 『判りました。場所は、統領の宿舎の前庭でいいですね』
 オキテスは、従卒を浜へ走らせた。
 会議は、ここ数日間にわたる樹木調査の報告、また、計画、課題に関しての状況、関係各方面との接渉状況等、そして、明日からの予定について話しあい、打ち合わせた。
 イリオネスが中心となって行う調査隊の編成と概要が詳しく告げられ日程も決定した。
 イリオネスが会議を締めくくった。
 『今日、集散所の模様をこの目でつぶさに視てきた。俺の感じたことを話す。パンの売りについてだが、今は、まずまずの結果で推移していると想う、始めたばかりだというのに喜ばしいことである。しかしだ、いつか壁が目の前にできて、行くてを阻むかもしれない。この壁が出現しないように、日々、改善を心がけて事を進めていくか。壁!そのようなもの糞くらえで事を進めていくか。極端ではあるが二通りの壁対処方法だ。俺が、ここで考えるのは、人の心、群衆の心の動きだ。この俺が諸君に伝えておきたいことは、物事を日々改善の方法で事を進めてもらいたいと考えている。壁にぶち当たった時に群衆の心を味方につけている、つけていないで物事が当方のとって有利に展開するか、それとも不利な展開となるかに分かれる。これが大切な要点だ。俺が諸君たちに期待するのは、日々の改善、群衆を味方にするといった、事に対する処し方であると考えている。一同が前に進む、壁を造らない、造らせない、壁を乗り越えて、そこに立っているのは、常に我々である。諸君!頼むぞ!』
 三人がこれを聞いて、軍団長としてのイリオネスの事に対する処し方を知った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  278

2014-05-23 08:00:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとスダヌス、二人は一同のいるところに戻って来た。
 オロンテスが今日の業務を終えて、帰途につく時が来たことを伝えてくる。一同は腰をあげた。アヱネアスがスダヌスに感謝の意を伝える。彼らは、舟艇を係留している船だまりへと向かった。スダヌスたちも彼らについてきた。
 『スダヌス頭、今日は世話になった。ありがとう』
 アヱネアスは、礼を言って、舟艇に乗り込んだ。
 ギアスは、空と風と波を読んでいる。波がしらが風に散っている、風は並みではないと読んだ。
 『者ども心して漕ぐのだ!いいな!漕ぎかたはじめッ!』
 ギアスの発する出航の檄である。漕ぎかたは櫂を力いっぱい、一斉に手前に引いた。波しぶきが風にとんだ。
 オキテスは、樹木調査から帰った一同を広場に集めて報告を受けた。風風感知器に使用する用材は、伐採見本及び報告内容によって、支障なく調達できる見通しを得た。舟艇建造用の用材の調達も再度の調査を必要とするもいけるとの報告内容であった。オキテスは、トピタスからも方角時板用の用材に関する報告を受けた。
 彼が最後に質したのは帰投の遅れた事由についてであった。これについてマクロスは、一行が樹林帯に深く入り込み、脱出の方向の見定めが不正確であり、難渋したことを報告した。
 『マクロス、ご苦労であった。遅れたとはいえ一同が無事、帰投してくれた。このうえなく安堵している。いずれにしろ、間をおかずにガリダ頭領のところへ礼に行く。明朝、キドニアに行く便で出かける』
 『判りました』
 『マクロス、お前、道が判るな』
 『それは、おぼろげです。ソリタンを同道させてください』
 『判った、それで段取りしてくれ』
 オキテスが判断したことは、いずれガリダが率いる一族の協力が必要であろうことを見通していた。
 キドニアに出かけたアヱネアスらの一行が帰ってきた旨の連絡が来た。オキテスは心に決めていた。
 『鉄は熱いうちだ。今日、夕めし前に会議をやろう。今の俺たちに必要なのは、情報の共有だ。迷うことなく目標に歩を進めるためだ』
 オキテスは、広場に立って一行の到着を待った。
 一行はアヱネアスを先頭に広場に姿を現した。
 『統領、お帰りなさい。ご苦労でした。如何でした?』
 『おう、集散所はなかなかの盛況であった。パンの売り場も見てきた。庶民の商い風景を見ることができた。いい視察ができたと思っている』
 『そうですか、それはよろしかったですね』
 彼は顔をイリオネスの方に向けた。
 『軍団長、如何でしたか?』
 彼は問いかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  277

2014-05-22 07:59:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『うっう~ん、旨かったな。あのような食べ方もあったのか』
 イリオネスは、感嘆の感想を口にした。
 『軍団長、オロンテスに食べさせたかったですな』とパリヌルスが言う。
 オロンテスは、集散所の中を歩き廻って、広場にいる一同を目にしてやってきた。
 『ややっ!こちらにおいででしたか、統領。あと小一時間くらいで、パンを売り切ります。明日の注文も受け付けました。仕事が終わり次第、帰途につきます』
 『おう、判った。パリッ!お前、まだ用件があるのか、あと小一時間くらいで仕事が終わるそうだ』
 『そうですか、判りました。スダヌス頭と打ち合わせ用件が2件くらいあるだけです』
 『そうか、判った。出来るだけ早く済ませろ』
 『判りました』
 彼は一拍の間をおいて、スダヌスのほうを向いた。
 『頭、二人だけで話せる場がありませんか』
 『おう、そうか。じやあ~、来い!こっちだ』
 二人は場を離れた。
 『なんだ、パリヌルス。他人にきかれたら、まずい用件か』
 『魚を日持ちさせる、塩漬けにする、天日と風に当てて干す、貴方たちはどのようにしてやっているのか、それを知りたい。それについて日を改めて話し合いたい。次は頼みの一件だ。頭の手許に用済みの船が一艘ないかな。あれば貸してほしい。ハシケでもいいと考えている、浜と小島の往復に使うのだが』
 『その二件か、急いでいる件はどっちだの方だ』
 『船の方だ』
 『船の方は、すぐに解決できる。ちょっと古いがまだ使える。手漕ぎだぞ、それでいけるのか。10人くらいが乗れるのが一艘ある』
 『おう、それでいい。ちょっとの間、貸してもらえないか』
 『いいだろう。用済みになったら返してくれれば、それでいい』
 『ところで、魚の話だ。お前らのやっている漁をこの目で見てみたい。三日後にお前らのほうへ出かける、船は、その時、曳いていく。魚の話は、その時しようではないか。それでいいか』
 『それでいい、願ったりかなったりだ。俺は待っている』
 二人の話は決着した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  276

2014-05-21 07:01:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、集散所の一巡を終えた。羊乳の加工、葡萄酒の醸造、オリーブ油搾り等の設備が集散所の一隅に設けられていた。集散所の一巡を終えた彼らは、どんな思惑があったのか、一同が目を合わせてうなづき合った。
 原始時代の食生活、食材を原形のまま口にする時代が変わろうとしていることを実感していた。
 集散所の敷地もかなり広い、建物もそれなりの規模を持ち、地方の統治運営の中心的機能を持っていた。(集散所の大きさは、児童数200~300人くらいの村の小学校スケールと想像してください)この時代のその地方の商業の中心的な役割を果たし、食材の加工、陶磁器の加工施設、青銅器の冶金加工の機能も有していた。そのうえ、その地方の産物、木材等に至るまで広範囲の物産の集散に関係して、交易の中心的な役割を果たしていた。そのようなわけで海に面していることが必須の条件でもあった。
 スダヌスは、末の息子のイデオスに言いつけてハニタスに連絡をとっていた。彼らは集散所の一隅に腰を下ろして、一時の休みをとった。ハニタスが姿を見せた。
 『お~お、これはこれは。統領、そして、ご一同、ようこそおいでくださいました。スダヌス浜頭が皆さんを集散所を案内していると連絡を受けました。どうぞ、ゆっくりしていってください。それにしてもパンの売り場の事ですが、なかなかの評判になっています、結構なことと喜んでいる次第です。この調子で10日も過ぎれば、安心の毎日になると考えています』
 『そうですか、そうなれば、パンの仕事に従事している者たちにとってうれしいことです。展望が開けてくるというもんです』
 『どうぞ、今日は、ゆっくりしていって下さい』
 ハニタスは、挨拶を終えて場を去っていった。
 スダヌスが口を開いた。
 『彼も彼なりに忙しいらしい。統領、もう、そろそろ昼めし時となります。広場のほうへ参りましょう』
 アヱネアスらを広場のほうへといざなった。
 広場では、二人の息子が昼めしの場を整えて待っていた。
 『おう、ご苦労。お前らも一緒に昼を過ごせ』
 一同は昼めしの場を囲んだ。羊乳を飲み、やや野暮ったいが、オロンテスたちが焼いたパンにブドウの香味を付けたオリーブ油をしみこませて口に運んだ。
 『お~お、これは気が利いていますな。いけますな。スダヌス頭、旨いっ!なかなかですな』
 ぶどう酒とブドウの果汁にオリーブ油を加えて煮詰めたものらしい。ほのかな甘みを感じさせるものであった。
 彼らは、ガヤガヤととりとめのない話に花を咲かせて昼めしを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  275

2014-05-19 06:55:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パンの売り場から眺めた集散所の売り場風景は客で混んでいた。
 『なあ~、オロンテス、集散所の客の入りは、いつもこのようなのか?』
 『そうですな、今日の客の入りはちょっと多いように思われます』
 『そうか、俺はスダヌス頭と所内を回ってくる。頭、いきましょうや』
 アヱネアスはスダヌス頭の案内で集散所内を見まわった。スダヌスは、彼ら一行を自分の設けている売り場に案内した。彼の魚の売り場は、活況を呈している。スダヌスは満足げな表情で売り場を紹介した。
 『お~、スダヌス頭、なかなかの繁盛ですな。いいことです。商いをやるなら、こうありたいもんですな』
 『統領、貴方の言われる通りです。お客に支持されるということは有難いことです。ここに至るまでに、ずいぶん苦労しましたな、それが過ぎて現在があります』
 『そうであろう、判る。魚はなまものだ、過ぎた苦労が察しられる』
 『このように見えますが、月に4日~5日は思惑が当たらない日があります。そんな日はがっくり来ますな。しかし、ヒットする日が15日くらいあります。そんな日は『おう、やったぜ!』と、うれしい日ですな。全く照る日、曇る日です。ここに並んでいる売り場は、みんな地元の漁師がやっています。私の売り場はスオダの漁師仲間5人でやっています』
 『お~、そうか』
 『次へ行きましょう。魚に続く売り場は、青物の売り場です。今はありませんが、春になると近辺の山野から採って来た山野草が並びます。そして、その先が肉類の売り場です。昔は牛が多かったようですが、2度にわたる地震、火山の爆発以来、牛肉より羊肉の扱いが多くなったそうです。天災地変の影響で原っぱの草丈が牛の牧畜に適さない、牛が草を食べずらいらしいですな、それに比べて、羊や山羊の類は、草丈が短くてもよく食べてよく育ちます。牛乳に変わって、羊乳を飲んでいます。チーズも羊乳から作っています』
 『なるほどな』
 アヱネアスらは、スダヌスの説明に聞き入っていた。