『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  78

2019-07-31 08:50:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスとイリオネスの二人を迎えた彼らは、武闘訓練の場に二人を案内する、
 二人を迎えた一同は、二人を真ん中にして、ま~るく円陣状態に草の上に座す。
 その中央に立つアエネアスが口を開く。
 『諸君!日ごろの活動、ごくろう!』と彼らの日々の活動をねぎらう。
 『今日からアエネアス暦の今年度の暦が始まる。今日がその第一日目である。今日があって、今がある、我らは未来の扉を開ける。そして、時代を連ねていく!解ってくれるな!』
 アエネアスが身体を廻しながら一同と目線を合わせる。一同の心中に感動を沸かせる、一同から拍手が湧きあがる、興奮の気が場を覆う。
 アエネアスは、その心情を切々と一同に訴える、話を心身に受ける一同がたかまりつめていく感情を抑えられないでいる、聞いている者の一人から声があがる。
 『ウオッ!』
 続いて声があがる。
 『ウオッ!』『ウオッ!』『ウオッ!』
 場に喊声が轟く、興奮が渦を巻く、場の誰にもこれを制御することができないでいる、場に座している者ら全員が起ちあがる。
 掛け声が律調を整えてくる、足踏みが始まる、彼らが動き出す、アエネアスとイリオネスを真ん中に中心軸として聴衆が列を整える。
 動き始める、隊列が輪転運動を始める、足並みをそろえて律調よろしく掛け声をあげて、ワッセ、ワッセと動く。
 アエネアスとイリオネスは隊列の輪転の動きに逆流して、一同と顔を合わせる、目を合わせる、一巡する、二人は隊列の中に入る。
 二人は、一同と歩調、律調を合致させる、足を鳴らす、隊列とともに輪転回運動をする。
 彼らの素朴な連帯の意思表示の律動である。
 隊列の輪は、幾度か場を廻る、隊列の輪転運動が停まる、一同がこぶし握る、天を突く、鬨の声をあげる。
 『オウッ!オウッ!オウッ!』
 再び隊列が輪転運動を展開する、立ち止まる、鬨の声をあげる、拍手が場に沸く、彼らの鬨をあげる儀式が終了する。
 アエネアスもイリオネスも汗でグッショリである、パリヌルスとリナウスが汗でグッショリの手をさしだす、アエネアスとイリオネスが握手にこたえる。
 続けて運動を共にした彼らと握手を交わす、彼らは汗で濡れている手を力強く握って交歓する。
 場がおさまりを見せる、一同が互いに目を合わせる、意思強く輝く目、二人は、一同の目線をしっかり受け止める。
 彼らも統領と軍団長の使命に燃えている目線を『シッカ!』と受け止める。
 二人は、新暦の始まり、そして、これからを強く認識する。
 彼ら一同の目力が、アエネアスの決意を力強く前へと押す、彼らの意志を受け取るアエネアス。
 場の興奮が収まりを見せている。
 アエネアスら二人は、彼らに見送られて武闘訓練場をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  77

2019-07-30 07:53:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが一同を前にして、おもむろに口を開く、話し始める。
 『諸君!日々、大変にご苦労である』
 一同を見廻す、目が合う、うなずき合う。
 『日々において、我らが食す糧を送り届けてくれて、ありがとう!この場において、君らに心から感謝の意を伝える』
 アエネアスは、感謝の意を目線に込めて場を見まわす。
 『ありがとう!ありがとう!』と連呼する。
 アエネアスのメッセージは、彼らに伝える感謝から始まる、暦の改まりを伝える、各員が一層の奮励に努め、民族の未来の構築についての意を伝える、メッセージの伝達を終える。
 場から拍手が沸き起こる、アエネアスが手を高くさしあげ拍手にこたえる。
 メッセージをもって伝える民族を統べている者の心、それを受ける場に会している者ら、アエネアスが話し終える、双方の心が一つにまとまって場が沸く、拍手が湧きあがる、興奮のるつぼと化す。
 アエネアスとイリオネスは、パン工房の彼らとの交歓をかみしめる。彼ら一同が場を解く。
 セレストスが新暦の始まりに際して、試作した新しいスペッシャルパンをアエネアスとイリオネスに供して、しばし歓談の時を過ごす。
 『おう、この味、この香りなかなかだ』
 アエネアスの言葉にイリオネスがうなずく。
 『統領、これはいいですね。セレストス、これは多くの人にうける!間違いない』と賛辞を贈る。
 二人は、新しいスペッシャルパンの誕生をほめる。
 イリオネスが太陽を見あげる、頃合いを計る。
 『ではな、セレストス、オロンテス隊長によろしく伝えてくれ』
 二人は次の場、武闘訓練場へ歩を向ける。
 今、二人の間には語る事柄がない、二人は何事も語らずに歩を進めて行く。
 前方に武闘訓練場が見えてくる。
 何となく身構えるアエネアス、イリオネスも心なしに緊張する、それなのに歩調に変わりがない。
 武闘訓練場が指呼の距離に近づく訓練場に集まっている者らから拍手が沸いている。
 パリヌルスとリナウスが並んで立っている、二人も手をたたいている。
 彼らとの距離が接近する、パリヌルスとリナウスの二人の拍手が力強くたたかれる。
 双方が対面する、手がさしのばされる、アエネアスがパリヌルスの手を、イリオネスがリナウスの手を握る、次いで、アエネアスがリナウスの手を、イリオネスがパリヌルスの手を握る。
 アエネアスら二人を迎える者らのうつ拍手が最高潮となる、彼らは二人を迎える気持ちを拍手に込めて手を打っている。
 アエネアスとイリオネスの感情がここに極まった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  76

2019-07-29 05:38:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 小島から帰ったアエネアスとイリオネス、二人は会所におちつく。
 『統領、午後の予定は、どうしますか?』
 『おう、そうだな。パリヌルスはどうしている?』
 『呼びますか』
 『おう、そうしてくれ』
 イリオネスは傍らにいるともの者に指示する。
 『おう、パリヌルス隊長に伝言だ。手がすいているようなら会所のほうに来るように伝えてくれ』
 『解りました』
 イリオネスの指示を受けたともの者がパリヌルスの許へ走る、イリオネスからの伝言を伝える。
 『おう、了解した。今やっている作業がすぐ終わる。終わり次第、会所のほうへ行く。時間はかからない』
 パリヌルスは、手掛けている作業を終える、会所へと向かう。
 『軍団長、只今、来ました』
 『おう、パリヌルス、忙しいのか?』
 『はい、少々ですが』
 『明日に予定しているガリダ方との打ち合わせの準備ができたのか?』
 『はい、それはできました』
 『実はだな、軍団長と俺とはだな、新暦の始まりについてのメッセージを各部署に伝えている。それでだが、君のほうの者らにもメッセージを伝えたい。午後の半ば過ぎに武闘訓練場の方に一同集合できるか?』
 『はい!それはできます。一同を連れて武闘訓練場の方で待ちます』
 『そうか、よしっ!そのようにしてくれ。軍団長と俺とはパン工房での用件を終えたうえで武闘訓練場の方に出向く』
 『了解しました。一同、武闘訓練場の方で統領と軍団長の到着を待っています』
 『リナウスには、この旨をお前から伝えてくれ』
 『解りました』
 『用件はそれだけだ』
 パリヌルスは会所をあとにする。
 パリヌルスは、新暦を迎えてアエネアスとイリオネスの動向に緊張感があることを敏感に感じとる。
 パリヌルスが今、思考真っ最中の軍船改造思考作業が終わりに近づいている、自分の席場に戻る、従者を呼ぶ、浜全体に散らばっている各部署に集合の連絡手配をする。
 会所にいるアエネアスとイリオネスが立ちあがる。
 『おう、軍団長、パン工房へ行こう。我々が日々の糧に困らないのは、彼らの働きがあればこそだ。大いに感謝をしなければな』
 二人はパン工房へと歩を向ける、浜を過ぎる、パン工房への坂道をたどる。
 二人の来訪をセレストスが迎える、イリオネスが用向きを伝える、パン工房の者ら一同が工房前の広場に集まる。
 アエネアスが起ち位置を選んで立つ、一同と目を合わせた。







































































































































































『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  75

2019-07-26 05:09:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、航海途上において、起こりうる事態を思いつく限り想定する。
 対応を集約する、施策、造作工作方法を懸命に考える。思い付きを箇条書きに木板に書きつける。
 木板に書き付けた事柄を幾度となく読む、検討する、その対応を改造目標に設定した。
 
 建造の場の巡回に臨んだアエネアスとイリオネスは、建造の場の各場において、一同と顔を合わせる、彼らの日ごろの労苦をねぎらう、新暦のスタートのメッセージを告げる。
 それらを終えて会所に戻ってくる。
 『おう!パリヌルスとドックス、打ち合わせが終わったのかな?』
 『らしいですね』
 『おう、軍団長、小島へ行かないか?まだこの頃合いだ』
 『そうですね。昼前に終えますか』
 二人は、休むことなくハシケの浜に向かう。
 『統領、私が漕ぎます』
 『おう、あまえる。行こう』
 二人が乗ったハシケが小島に向かう。
 小島の張り番が彼らを見とめる、アレテスに報告する、アレテスが波打ち際に二人を迎える。
 『おう!アレテス、ごくろう。忙しいのか?』
 『はい!今日の釣果は大漁の一歩手前状態です』
 『そうか!それは重畳!喜ばしいことではないか』
 イリオネスが声をかける。
 『おう、アレテス、少し早いが、一同と昼食を共にしようと思うが、都合はどうだ?』
 『かまいません。キドニアへの昼便は、それを終えてから出ます』
 アレテスが担当に指示を出す、獲れたばかりの魚を焼く、小島の一同がアエネアスとイリオネスを囲んで昼食を共にする、和やかな食事の時が流れる。
 『お~お、この魚、旨い!軍団長どうだ?』
 『これこの通り、あごを手で支えて食べています』イリオネスの道化に一同から笑いが起こる。
 『アレテス、この魚の名前は何と呼ぶのだ?』
 『知りませんな。キドニアの魚売り場では、スダヌス浜頭が見ぶりで客に売っています』
 『ほう、見ぶりで売る。スダヌス浜頭もいい加減なところがあるからな』
 アエネアスが昼めしを食べながら一同と話す、一同から拍手が湧きあがる。
 『おう、今日はこうして君らに会えた、話ができた。俺はうれしい!』と話を締める。再び拍手が起こる。
 『おう、アレテス、これからキドニアに行くのか』
 『はい、そうです』
 『無事に行って来い!』
 『なれた航海ですから』
 『だから、よけいに気を使えと言うことだ!』
 『解りました。気づかいありがとうございます』
 二人は小島をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  74

2019-07-25 13:15:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 三枚目の木板に見入るドックの姿を目にとめる。
 『ドックス、三枚目はだな。走行安定性と船の補強の設計だ。造作工作がかなうかな?軍船はでかいゆえの心配事だ』
 『そうですな、造作工作に使う金具類のあるなしが造作に関係しますな。用材の手配を終えたら、即刻、キドニアの集散所に金具類の調達に向かわねばなりません。この走行の安定と補強の造作工作は、図面と首っ引きで研究します。この図面一式をあずからして下さい』
 『解った。その三枚をお前に預ける、検討よろしく頼む。この造作工作は、船に乗っている者らの命の安全に関わるだけに何としてもやることを考えてくれ。また、手順段取りでは、一番目に手掛けてもらいたい造作工作でもある』
 『解りました。私自身、今日一日、このことの研究に時間を費やして行います』
 『おう、よろしく頼む!太さ、長さ、それによる造作工作方法も研究してほしい。明日のガリダ方との交渉に関係するからな』
 『はい、承知しました』
 パリヌルスとドックス、二人の話し合いが終わる。
 話し合いを終えたドックスは、船台の場へと急ぐ、5台の船台が完成を4日後に控えた船5隻の最終作業に多忙を極めている。
 ドックスが見て廻る、出来あがり具合を丁寧に点検する、満足といえる状態を確認する。
 彼は安堵する、心が落ち着く、船台の場の自席に身体を落ち着ける、パリヌルスから預かった図面を見つめる。

 この時代の木造船には、まだ、キール構造が採用されていない。船底は平底形態である。軍船は交易船に比して船体が細く長い構造である。
 航海途上における、海の波に対する抵抗力が強いとは言い難い構造である。沿岸に沿っての航法で航海する。常に海の波の状態に気を配って航走していたのである。
 パリヌルスの軍船改造もこれに準拠して改造を構想していたのである。パリヌルスが改造に手を尽くすのもこの時代の船の船体の弱点を考慮して、どのように対応するかに脳漿をしぼっていたのである。
 彼が改造をもくろんでいる軍船の大きさは、(サイズ単位はメートルで表示)船体の長さが約30メートル、船幅が約4メートルである。帆柱は、1本帆柱で1枚帆のロングシップである。
 構造はこの時代の人智の及ぶ限りにおいて、対諸抵抗を考えて造られてはいるが満足できる、安心できる航海が続けられるとは言えない。
 改造を目指す軍船は、この時代の交易船とは違い、船速の出やすいロングシップ構造である。
 なお、この時代の洋上における軍船同士の洋上戦闘における衝突衝撃戦法の効果性についてもこれでいいのかと検討する。
 航走する、荒れる海の波に翻弄される、船を押す風力に順応する、船体が横に滑りやすい、直進性も気にかかる、ありとあらゆる状態に対応して、安心航海、安定航走の出来る船体構造の軍船に改造することを目指して思考に集中する。
 ドックスとの話し合いを終えても彼は思考を続けた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  73

2019-07-24 14:09:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 図面に見入るドックス、パリヌルスが声をかける。
 『おう、ドックス、まず、帆柱の図面を見てくれ。要点を説明する。ここでの要点は、帆柱用に準備できる用材の太さと長さだが、どれくらいの用材が準備できるかによる。せめてこれくらいというところをガリダ頭領との話し合いで決めたい』
 『これは話し合わねば、解らない全く不明な点ですね』
 『戦闘艇に比較してだな、約1.5倍くらいの長さの帆柱を考えている』
 ドックスと目を合わせる。
 『まあ~、大雑把に計算してみると1枚帆のところを4枚の帆を張るとすればだ。4枚帆の総面積が1枚帆の1.6倍くらいの帆面積での帆張りができる。風を受けての船の推進力が単純に言えば、約1.5倍になると考えている』
 『そうですか、風をはらんでの推進力ですな。それはいいですね。重畳と言えますね。了解しました。用材の交渉に念を入れます』
 ドックスは、パリヌルス隊長の構想力に感心する。パリヌルス隊長のどこにこの発想力があるかと考えると全身に鳥肌がたった。
 『ドックス棟梁、この軍船に走行安定性構造の造作工作をしても帆張り航走において、船速を落とすことなく航走できる。そういうことだ』
 『この件について、了解しました。次にいきましょう』
 話し合いが2枚目の木板に移る、2枚目は舵構造の図面である。
 ドックスは図面を見て感嘆の声を上げる。
 『パリヌルス隊長、この構造はいいですね。隊長は、構造について、要所要所を適切に設計されます。申し分ありません』
 『ドックス、ここは、構成する部材に関して注意してもらいたい。ここの構造は、頑丈さにこだわってやってほしい。航海の途中において壊れたでは話にならんからな』
 『解りました。使用強度については、充分に注意を払って造作いたします』
 『ドックス、お前どうだ?喉が渇かないか?』
 『はい、少々渇きを感じます』
 パリヌルスは、会所を見まわす、何か喉を潤すものがないか物色する。
 『お~お、あるある、ぶどう酒のハチミツ割りがある。飲もう!』と言いながら、飲むにはと考える、杯を探す、テーブルの端に置かれた杯に目がとまる。
 『お~、あるではないか』
 使ってあるか、ないかを確かめる。
 『おう、使ってない、うまくいった!』と叫んで、ハチミツ割りぶどう酒の壺をとりあげる、二つの杯に注ぎ入れる。
 『おう、ドックス、まあ~、飲め!』と言ってハチミツ割りのぶどう酒を注いだ杯の一つを渡す、パリヌルスも杯の一つを手に持つ、二人は口へと運ぶ、飲み干す。
 『お~お、これは旨い!ドックス、味わいはどうだ?』
 『隊長、口当たりがいいですね、これは旨い、絶品ですな』
 二人は飲みほす、顔を合わせる、微笑みを交わした。
 『おう、ドックス、3枚目に行こう!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  72

2019-07-23 06:20:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスから話しかけられるパリヌルスとドックス、二人は少しばかり緊張する、ドックスがパリヌルスに目で話しかける、うなずくパリヌルス。
 『パリヌルス隊長、軍船改造の設計は、出来たのか?改造造作はいけそうか?気にかけている』
 『改造造作の設計は出来あがりました。今日、ドックスと打ち合わせです。用材の手配は、明日、ガリダ方と打ち合わせる予定になっています。造作工作の完了は、出航に充分に間に合うように予定を立てています。早く出来あがっても遅れることはありません』
 『それは重畳!君ら二人に期待大なりだ。航海に出る、二つや三つ、いや、それ以上の心配がつきまとう、目指して行く先の心配、航海の安全、天候と海の荒れ、行く着く先での闘争などなどだ。それら以外にも何かあるかだが、それらに備えて準備を整えたい。そのように考えている』
 そのように言うアエネアスの頭の中を懸念の風が通り抜けていく、首をかしげる。
 『何とかなると考えてはいるが』と言って、二人と目を合わせる。
 アエネアスのその風情にパリヌルスは一抹の不安を感じとる、しかし、思考集中以外のことであり聞き流す。
 アエネアスの身に予期せぬ二つの出来事に迷う事態が起こることに彼らはこの時点ではまだ気づいてはいない。
 そのことに気づくことなく彼らは、出航の時を迎えるのである。
 朝行事の浜での打ち合わせが終わる、アエネアスとイリオネスは会所へと歩を運ぶ、二人は、会所において朝食を済ませる。
 『おう、軍団長、アサイチに建造の場に行く。今日が新暦の第一の月の始まりの日だ。各場を順にまわって、場で作業に励む彼らと顔を合わせたい』
 『解りました。同道いたします』
 二人が立ちあがる、パリヌルスが会所に姿を見せる。
 『あ~あ、軍団長、どこかへ出かけるのですか?ドックスとの打ち合わせに会所を使いたいのですが』
 『おう、使えばいい。統領と俺とは建造の場の巡回に行く』
 ドックスが顔を見せる、会所から建造の場に向かう二人をパリヌルスとドックスが見送る。
 パリヌルスがドックスに声をかける。
 『おう、ドックス、こっちだ。まあ~、腰を下ろせ』
 『ありがとうございます。隊長、ところで設計の件、設計図は出来あがりましたか?』
 『おう、出来た出来た!まあ~、見てくれ、ドックス!』と言ってパリヌルスは、ドックスに携えてきた三枚の木板をテーブルの上を滑らせて渡す。
 ドックスは、木板に描かれた設計図に見入った。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  71

2019-07-22 05:31:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが脳漿を絞って考えていた軍船の改造構想がようやくにしてまとまる。
 積水を千尋の谷に決する怒涛の思考を展開させて作業を進めていく、周囲の何事も目につかず、耳に届かず、一気呵成に作業を進める。
 2本帆柱4枚帆の設計においては、1枚帆の帆面積の約1.6倍の結果を得る。
 舵構造も造作の簡単さ、構造の堅固さを得た設計となる。
 走行安定性と船体構造の補強を両立させ、波と船体の融和性を重視した構造形態を施して船体の安全性を向上させる。
 陽は、その身を海に沈め、浜を宵が包み始めている、浜の日中の多忙状況も終わっている、人影が絶え、かがり火が燃えている、張り番担当の者らの姿だけが目にとまる頃合いとなっている。
 見あげる深い藍色の空、星が光をふりおろしている。
 パリヌルスが宿舎への道をたどる、道沿いの灌木の茂み、愛する者の声が耳を打つ、あい寄る二つのボデイ、灌木の茂みに一つとなった。

 朝が明けきっていない、明けるまでにまだ間がある、浜は黎明の刻である、人影が目につくくらいに明るさである。
 オキテスの声が朝のしじまをふるわせている、展示試乗会におもむく戦闘艇、ヘルメス艇の2艇の艇上の人影がせわしく動いている、艇上の人員がやや少ない、2艇の漕ぎ座44に対して30人余りである。
 浜には、イリオネス、パリヌルス、オロンテスの姿がある、アエネアスの姿は見えない。
 オキテスが波打ち際に立つ、イリオネスに声をかける。
 『では、軍団長、出航の時となりました。行ってきます』
 『おう、道中、急くことはない。安全航海第一に努めよ!無事の帰りを待っている』
 パリヌルスとオロンテスの二人が声をかける。
 『安全航海でな!お前の無事帰着を待っている』
 『おう、行ってくる!』
 オキテスは、凪いでいる暁の海を割って浜を離れていく、イリオネスらがこれを見送る。
 見送りを終えた三人が浜であれこれを話し合う、海に身を浸す、昇り始めた大日輪を迎える、彼らの今日がスタートする。
 オロンテスがキドニアに向かう、パリヌルスは姿を見せたドックスと話し合う、今日、明日のスケジュールを打ち合わせる。
 彼らがアエネアスとユールスを朝行事の浜に迎える、挨拶を交わす、アエネアスの朝行事が終わる、アカテスがユールスを連れて浜を去る。
 アエネアス、イリオネス、パリヌルスの三人にドックスを加えた四人で話し合う。
 アエネアスが気にかけている件について、パリヌルスとドックスに話しかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  70

2019-07-20 04:56:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスが提案した事案に決断を下す、アエネアスが感じていた得体の知れない不安感が消える。
 クレタ島の東部地区の商圏において潜んでいた懸念が完全に消滅する。願ってもないことである、後事を託する者らの安心立命である。彼は安堵する。
 このあと、新暦第一の月の建造予定艇数が話し合われる。受注艇の引き渡し計画をオキテスが報告して話し合いが終結する。
 アエネアスがオキテスに話しかける。
 『おう、オキテス隊長、展示試乗会催行の旅の無事を祈る。あくまでも安全航海だぞ!』
 『ありがとうございます。展示試乗会催行の旅は、安全航海をもって無事を誓います!』
 『おうっ!無事に帰ってくるのだ』
 会所に会同している四人に親密の心情が通う、感動する、業務遂行の成功と無事を一同に予感させて終わる。
 パリヌルスがオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、無事に帰ってきてくれよ、待っている!その間にやることは、ドックスととことん話し合って遂行する』
 『おう、よろしく頼む』
 二人はそれぞれに担当する場に歩を向ける。
 アエネアスとイリオネスが顔を合わせる。
 『統領、俺らが見落としていたところをオキテスにつかれましたな。それを事案として提案される。決定する。喜ばしいことです』
 『そうだな、今後の営業活動において、エドモン浜頭との間に起こるかもしれない営業に関しての摩擦をけん制したと思う』
 彼ら二人は、営業活動に関しての話し合いを終える。
 パリヌルスは、会所をあとにする、自分の持ち場に戻ってくる、頭の中の懸案は軍船の改造の件である。
 帆柱構造については構想ができている、残るは用材の件である。
 次の件は、船としての安定走行構造を考えねばならない、そして、舵構造を思案しなければならない。
 彼は木炭を手にして木板に対峙する、脳漿を絞る、絞って落ちる脳漿のしずく、落ちていく先を確かめる、砂地に落ちる、しみこんで消える。
 思考が次に移る、手順、段取りを考える、思考が造作工程のあちこちに飛ぶ、考える焦点が定まってくる。
 彼は立ちあがる、波打ち際に立つ、波立つ海面、小島に停留している軍船に目を止める、潜在の意識が造作工程、手順、段取りを気づかせる、陸に揚げている軍船のところに歩を運ぶ、丹念に見る、手で触れる、工程、手順、段取りに基づいて思考を展開させる。
 彼は、走行安定性構造に根をつめて考える、軍船の大きさ、船長、乗り組む者らの乗船状態を思い描く、走行時の波状態と船を考える、思考がまとまってくる、大波、小波、荒れる波、船と波との親和、融和を考える。
 思考がまとまってくる、造作工程に基づく手順、段取りが決まってくる、構造構想が頭の中に描かれる、船体構造に適したスケールの構造が決まる、適正構造の形態が決まる。
 彼は瞼を軽く閉じる、風をはらむ2本帆柱4枚帆、船が波を割る、安定した走り、波立つ海と融和して走行する船のイメージが閉じた瞼の中に像となって見えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第8章  クレタ離脱  69

2019-07-18 05:17:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがアエネアスの問いかけに答える。
 『オキテス隊長のこの考えは、統領の今の言葉を聞いて、統領にも私にもなかった考えです。このオキテス隊長の案の実行は、こうであれば、こうであるの答えの出せる構図ではありません。私のこれまでのエドモン浜頭との接触で考えると希望の持てる営業のカタチであると考えられます。この営業という業務の領域において、我々に対する忠誠心、それをどのように感じとればいいのかと考えるとはかり知れない点があります。戦闘艇1艇を預けて、数年後に互いに成果の実績を検証して、預託した艇を返してくれとは言えないと考えてください』
 『そうだな、お前の言うことがわかる』
 『向こ2年くらいの期間における実績をもって、お互いに『ありがとうございました』で預託の約束の解消を考えればいいというのが私のスタンスです』
 アエネアスがオキテスに声をかける。
 『おう、オキテス、今、軍団長が言った真意がわかるな。これを実行して、軍団長の懸念している向こう1年間の業績の見通しについて、お前はどのように考えている?』
 『営業を担当している私としての見通しは、向こう1年間で戦闘艇1艇の原価の回収はできると考えています。戦闘艇及び新々艇の総販売艇数は、イラクリオン、レテムノン、マリア、この3つの市場で20艇はくだらないと予想しています』
 『ほう、そうか』
 『我が方の船舶の建造艇数から考えて、30艇余りではないかと考えられます』
 『なるほどな。軍団長、今のオキテス隊長の考えを聞いて、お前の考えるところはどうだな?』
 『はい、私の考えるところは、統領の決断一つと考えています』
 『解った』
 アエネアスはオキテスと顔を合わせる、目を合わせる。
 『オキテス隊長、この件、実行!相手先、エドモン浜頭との話し合いの一切をお前に任せる。以上だ』
 『統領、この事案を了承くださって、ありがとうございます』
 オキテスが身体をイリオネスのほうに向ける。
 『軍団長、ありがとうございました。この件の結果ですが、当方が望む結果であるようにエドモン浜頭方に我々の心情を伝えます』
 アエネアスが言う。
 『おう、いいだろう。これをもって、我々の営業姿勢を理解してもらい、エドモン浜頭方が市場を掌握することにより、我々がクレタ島の市場を掌握する。相手を活かすことによって我々も生きる。いいカタチになることを信ずる』
 アエネアスが決断の真意を会同している三人に伝えた。