『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  261

2014-04-30 07:56:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おッ!お前ら、昼めしの真っ最中か。俺の分もありそうか』
 『え~え、あります。どうぞ』
 『パンだけでいい。そこでだ、この俺を小島へ運んでくれ、ハシケで行く』
 『おいそぎですか』
 『おう、急いでいるといえば急いでいる。それはいい、めしを済ませてくれ、それからでいい』
 『判りました、急ぎます』
 やりとりを終えて、パリヌルスは小島へ渡った。
 小島へ渡った彼は、アレテスの姿を探した。
 『あっ、隊長!アレテス隊長は、今、向こうです』
 『呼ばなくていい、俺が行く』と言って歩を進めた。
 『おう、アレテス、ちょっと聞きたいことがあって来たのだ。お前やりかけの仕事があるなら済ませろ。俺は待つ』
 『判りました。私の方からも連絡事項があります。では』と言って背を向けて10人くらいで取り組んでいた仕事の場に戻っていった。
 やりかけの仕事を終えてアレテスがやってくる。二人は、波打ち際に立って話し始めた。
 『アレテス、連絡事項とやらを先に聞く。何だ』
 『例の魚の件です、うまくいきそうです。明日の夕めしに間に合います』
 『明日の夕めしか、いいだろう。俺は明日の夕めしをこちらで食べる、よろしく頼む。ギョリダも同席させてくれ』
 『判りました。では、用件を』
 『あのだな、事情調査だ。今使っている船は、皆が乗って来た軍船のみだな』
 『はい、そうです』
 『小島を見渡した限りでは、船の姿が見えん。海賊どもが使っていた船は、あの海戦ですべて燃やしてしまっていたか』
 『そうですが、この島の北西の突端に朽ち果てた船が1隻ありますが』
 『ほう、どれくらいの大きさだ。我々が保有している船で大きさを言ってみてくれ』
 『舟艇より一回り大きいくらいの船です』
 『それはちょうどいいくらいの船だな。見に行こう』
 二人は連れ立って歩き出した。船の在り場所に着いた。パリヌルスは船を見つめた。
 傷んでいる。致命的な傷みである。船底部分が痛んでいた。座礁による傷みであると見て取れた。パリヌルスは、修理して使えるか、どうかを丹念に観察した。
 『アレテス、判った。側板は何ともない。船底を修理すればいいな。明日、船の修理について詳しい者をこちらへよこす、その者に船を見せてくれ。メインマストと帆の事も考えねばならんな、ということだ』
 『判りました』
 『用件は、船の事なのだ。出来ることならこの船を修理して使えるようにしたい。そのほかにハシケが1艘いるな。本島と連絡用にとちょっとした小用に使うやつだ。これから忙しくなる、小船がいる。それの調達を考えて、今日、ここに来たのだ』
 『それは、ありがたいことです』
 『おう、それからだが、今日、漁に出ているのか』
 『はい、出ています。ギョリダの話では、今日は新しい漁場でやっているはずです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  260

2014-04-28 07:39:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そのような心配は無用だ!1スタジオンも行けばもともとの馬乗りだ』
 二人は顔を見合わせた。
 『気にかかっていた樹木調査隊の事も判った。おいッ、パリヌルス、明日やる会議の事、少々深めに突っ込んで考えておいてくれ。始計第一を忘れるな!そして、一歩前へだ』
 『心得ました』
 パリヌルスは浜へ戻った。
 パリヌルスは、これからの展開について考えた。まず、事業をどのように展開していくか。積極的な施策も結構であるが、もっと自然体での推移について考えた。このようにしていくという積極策よりも、このようになっていくであろうという姿カタチを考えた。民族という集団というよりも一つの群れという観念で考えた。彼は、強くは意識はしなかったが、群れというものが持っている力と習性でどのように展開するのか、集団トップの意向と企図する方向に展開していくかについて考えた。
 なかなか考えがまとまらない、じりじりする。答えは出なかった。
 『これはむつかしい、考えても、おいそれとは答えが出ない。まあ~、いいかでやり過ごすか、強く求めていくか。どちらにしても答えが簡単には出てこない』
 彼は、考えることをやめるのではなく、あきらめた。いつか、これが答えであろうと気づくとした。
 彼が下した結論は、
 『どれくらい先の結果を求めるかよりも、一寸先よりも、ググット手前の結果、これでいこう、歩みは少々遅くともいい、前進が確実であればいいとしよう』
 これを思考の結果とした。彼の心の揺れはおさまった。彼は、やっとのことで目の前の現実の把握にむかおうとした。
 『小島がそこにあるだけでは存在感が弱い。そこにいる100人余りのアレテスの率いる彼らを、自ら考え、行動し、集団が利することを結果と出来る条件を整えてやるべきである』と考えた。
 『彼らの今は?である。今の、彼らの使える船は、ただ1隻のみの軍船だけではないか。使える船はほかにない。これからを考えるには船だ、、、。小島の巡察に出向く』
 彼は動いた。浜を眺め渡した。ハシケを探した。ハシケに向かって歩き始めた。
 『お~い、誰かいるか!』彼は大声で呼んだ。浜にいる一同は昼めしの真っ最中であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  259

2014-04-25 08:03:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜に来たパリヌルスは、大声でリナウスを呼んだ。
 『おう、リナウス、馬に乗れる者を二人を選んで、すぐ俺のところにつれて来てくれ。俺はここで待っている』
 『はい、判りました』リナウスは走った。
 今、この集落には馬が三頭いる。イリオネスは、アヱネアスと自分用にと考えて、クレタに上陸した折から馬二頭を飼育していた。一頭は、ガリダ頭領の訪問時に贈られた馬である。
 『あの馬は、人に慣れているのかな。この際だ、どちらでもいい』とイリオネスは独りごちた。
 リナウスが兵卒一人を連れて戻って来た。
 『隊長、二人は無理です。この者一人です』
 『そうか、判った。馬の係りの者がいる、よし、それでいい。名は何という』
 『この者はヒタバスと言います』
 『よし!ヒタバス、一緒に来い。用件は歩きながら話す。リナウス、いいぞ。用件は終わった』
 二人は肩を並べて歩み始めた。
 『おう、ヒタバス、お前、馬は大丈夫か?』
 『はい、トロイのあの日から、馬には乗っていませんが、自信はあります』
 『よし、いいだろう。用件はあとから話す』
 二人は広場を横切ってイリオネスの宿舎の前に来た。
 『軍団長、一人連れてきました。もう一人は、馬の世話をやいている者にしましょう』
 『そういえばそうだな。世話をかけた。俺は馬小屋まで行ってくる』イリオネスは座を離れた。
 イリオネスが一頭、もう一頭は馬の世話係の者が引いてやってきた。
 イリオネスは、ヒタバスと馬の世話係のケッタスの二人を前にして手短かに用件を説明した。
 『判りました』二人は口をそろえて答えた。
 『ザッカス君、この二人を連れて行ってくれ、用件は伝えた。一人は、ヒタバス、こちらがケッタスという、あ~あ、君のように馬乗りがうまくはないと思うがよろしく頼む。父上のガリダ頭領にはよろしく伝えてくれ。セレストス、ザッカス君にそれを渡してくれ』
 『ザッカス君、これは焼きたてのパンだ。持ち帰っていただきたい』
 『言われるままに、喜んでいただきます』
 ザッカスは礼を述べた。イリオネスは、パンを入れた袋を手渡した。三人は馬に乗り、二人はザッカスに従って馬を進めた。
 二人の手綱さばきはぎこちなかった。アヱネアスらは三人を見送った。
 『軍団長、あの二人、大丈夫ですかね』
 パリヌルスは不安を口にした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  258

2014-04-24 08:15:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『何っ!ガリダ頭領にそのように世話になっているとは知らなかった、ありがとう。詳しいことは落ち着いて聞こう、ザッカス君。君、朝食はまだであろう』
 『はい、そうですが』
 『朝食を準備させる。馬をそこの木につないで、ここにかけて休んでくれたまえ。ガリダ頭領には世話になったな、厚く礼を言う』
 イリオネスは、従卒の一人を呼んで朝食の準備をするように指示した。間をおかず、食事が運ばれてくる、パンと一菜、それにぶどう酒といった簡素なしつらえであるが、ザッカスはうれしかった。
 『いやあ~、ザッカス君。簡単な朝食であるが食べてくれたまえ』
 『ありがとうございます。充分です』
 ザッカスは葡萄酒を一口飲みくだし、パンに噛みついた。彼は大きな声を出した。
 『おっ!これは、うまいっ!』と目を大きく見開いた。彼は感嘆の言葉を口にして腹に収めた。
 『いやあ~、これは旨いパンですね。うまく言えませんが、はじめて口にする旨いパンです。感動です』
 『そうか、それはよかった。朝食をすすめた俺はうれしい』
 イリオネスのところに客人だと聞いて、アヱネアスが姿を見せた。
 『おう、軍団長、客人か』
 『はい、ここにいる若者は、ガリダ頭領の子息だそうです。ガリダ頭領には樹木調査隊が、大変世話になっているようです』と言って、話のくだりを説明した。調査隊がなぜ遅れたかについては、隊の帰りを待って、詳しく聞くことにしていると話した。アヱネアスもザッカスが言伝を届けてくれた労をねぎらった。
 イリオネスは、パリヌルスを呼んだ。パリヌルスは浜からやってきた。
 『おう、パリヌルス。樹木調査隊の者たちの帰りが何故遅れているかについては不明だが、何かアクシデントがあったと推測される。詳しいことはあとだ。いま、ガリダ頭領のところに世話になっているそうだ。その言伝を届けてくれたガリダ頭領の子息のザッカス君だ。そこでだが、二人くらい迎えの者をやろうと思う。準備を頼む』
 『判りました。即刻手配します』
 『お~い、パリッ!判っているのか、ザッカスは馬で来ている、馬に乗れる者でないといかん』
 『判りました』
 パリヌルスは、浜に急いだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  257

2014-04-23 07:36:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ガリダの手の若者は、浜に沿った道を馬で駆けている。彼の行く手のやや小高い場所に群れて建っている集落の一群が見えていた。集落にとって初めて迎える馬に乗った客である。集落の東の入り口あたりと思われるところに二人の男が張り番をしている。二人はかけてくる馬上の若者を認めて緊張した。
 『あの馬で駆けてくる奴は何者だ』
 二人は、両の手を広げて、通り抜けをさえぎった。若者は馬を止めて地上に降り立った。張り番の一人が声をかけた。
 『おいっ!お前は何者だ。如何なる用件でここへ来た?それを言え』
 若者の身なりは、きちんとしている、短めであるが帯剣もしている。彼は息を弾ませている、話す言葉はたどたどしいがギリシア語であった。
 『俺の事を聞いたのか。俺はガリダの息子のザッカスという。イリオネス殿に伝える大事な言伝をもってここに来た。取り次いでくれ、急ぎの用件だ』
 これを耳にした張り番の二人は頭を傾げた。
 『なんだと!イリオネスは判る、お前の名前のザッカスもわかる、ガリダが判らん。言伝の内容は何だ』
 『何っ!ガリダが判らん。判らんとは何事だ!』若者の声が大きく怒声となった。
 『ガリダは我らが頭領の名前だ。言伝の内容だと!イリオネス殿に直々に伝える言伝だ。ことは急いでいる、早く取り次げ!』
 二人は言葉を交わした。一人が案内することになった。
 『よしっ!俺について来い』
 張り番の一人が歩き始めた。ザッカスは馬を引いて歩を運んだ。10分余り歩いてイリオネスの宿舎の前に着いた。軒からさがっている木板を叩いた。戸口にイリオネスが姿を見せた。
 『軍団長、客です。ザッカスと名乗っています。急ぎの言伝があるそうです。引見ください』
 『判った。ご苦労』
 イリオネスは前に立っている若者に目を移した。
 『この俺に急ぎの言伝。聞こう』
 『私は、ガリダの息子のザッカスと言います。言伝の内容は、樹木調査隊の事です』
 たどたどしいギリシア語である。
 『何っ!樹木調査隊!それがどうした?』
 『一昨日の事です。その調査隊の一団が、我らが砦の前を通りました。我らが頭領のガリダがその調査隊の用件を質しました。そのうえで案内の者を一人を付けました。彼らの帰ってくるのが予定より大きく遅れて昨晩の夜中に帰ってきました。いま、我らが砦で身体を休ませています。以上です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  256

2014-04-22 08:13:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では、アレテス、そういうことだ。用件は終わったな。俺たちは引きあげる。ではでは、よろしく、頼む』
 パリヌルスは、ギアスを呼んで、二言、三言言って小島を離れた。
 舟艇の上のパリヌルスは、沈みゆく夕陽を見ながらくつろいだ。
 『ギアス、お前、大変だろうが、これからの毎日キドニアとの往復が続く、きばってくれ』
 『え~え、判っております』
 『これからの事だが、我々が魚を扱っていくとすれば、どのように扱っていくかが課題なのだ。考えて答えの出るところと考えても答えの出ないところがある。まずは体制だ。仕事を進める組の編成を考えるかな。次が、その組が担当する仕事の内容だ。売りさばくにはの研究だ。今日は長い一日であった。ギアス、お前はどうであった』
 『私も何となく、息を抜かずに過ごした一日でした』
 舟艇は浜に返ってきた。パリヌルスは、浜を見て廻った。ところどころで言葉を交わす、彼らをねぎらう、一日を終える時であった。
 パリヌルスは、夕陽のかもしだす、茜に染まる浜、海の風景を心ゆくまで眺めた。

 朝が来る、ニューキドニアの浜は、定番になりつつある風景であった。オロンテスを中心にしたメンバー、ギアスを中心にしたメンバーが、それぞれの役務をかいがいしくやっている。オキテスが姿を見せた。今日はオロンテスの組にクリテスが加わっている。荷を積み終えて、一同が舟艇に乗り込む、櫂が海づらを泡立てる、舟艇が波を割り始める、白く航跡を残して艇が浜を離れていく、西からの風が舟艇を押した。
 セレストスは、祈るような風情で海の上をキドニアに向けて進む舟艇を見送った。
 パリヌルスは、朝のこの風景を目にして安堵していた。彼の心の中には『ここに明日につながる今日がある』という想いが胸に沸々としていた。
 しかし、心配事がないわけではない、樹木調査隊の者たちの事であった。昨日が帰着予定である。それなのにまだ帰ってきていない。気にかけた。
 そのころ、地元豪族ガリダの手の若者がニューキドニアの集落を目指して馬を走らせていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  255

2014-04-21 07:31:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、アレテス、深く考えてもしょうがないところだ。深く考えなくてもいい。考えることは、それにどう対処するかだ。それを考えろ!そういうことだ』
 『時代が変わるのですかね』
 『時代変化の過渡期の真っ只中だ。時はどれだけかかるか計り知れないことだが。そうだ、時代は変わる、そんなこと当り前じゃないか。俺の考えるところでは、時代が変わるということは、世の中の不合理が少しづつ無くなっていくということだと簡単に考えることにしている』
 『そういうものですかね。パリヌルス隊長と話していて、自分が変わっていくような気がします。よく言えば、自分が進化していく、そのように感じています。まったく、感謝感謝です』
 『アレテス、そんなに俺を買いかぶるな。人を買いかぶると自分自身で進化しないぞ』
 『そんなものですか』と短くつぶやいて素直に考える様子を見せた。
 『よしっ!打ち合わせはこんなところかな、聞いておきたいことがあるなら、聞いてくれ』
 『はい、大体、今、聞いたところで様子がつかめました。もういいです。明日、漁に出ます、何かありましたら言ってください』
 『アレテス、ちょっと聞いてみるが、獲ってきた魚を食べる、残った魚をどうしている?』
 『どうしているかと聞かれても、ちょっと困りますが、魚の釣り餌に処理して、あとは捨てていますが』
 『そうか、よし。アレテス、実験的にやってみてほしいことがある』
 『何でしょう』
 『魚を干してみてくれないか。お前もエノスにいるとき口にしたと思うが、干し魚を作ってみよう。どうだ』
 『それはいいですね』
 『明日、漁に出るといったな。明日、獲ってきた魚でやってみてくれ。やり方は、俺の言うようにやってほしい。まず、腹の中の臓物を取り除く、それから、一晩、海水に浸しておく、朝になって、海水から引きあげて、天日にさらすのだ。そして、夕めしの肴にして食べてみよう。それでどうだ』
 『判りました』
 『聞いてみるのだが、今日、魚を獲ってきたか』
 『はい、今日も少々、釣ってきました。夕めしの肴に食べたい者が食べる分くらいですが』
 『よし、その魚も使ってやってみてくれ。その魚は、今晩と明日一日ともう一晩海水に浸すのだ。二つの種類の干し魚を作る。この二つの干し魚の味を試す。食べ比べてみて、どちらがうまいかだ。アレテス、やってみてくれ』
 『判りました。やってみます』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  254

2014-04-18 08:18:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ところでパリヌルス隊長、お聞きします。パンの売れ具合はどうでしたか?』
 『おう、パンの売れゆきか、まずは上々であった。明日に納品する注文も受けた、30個だが。首尾は重畳といったところだ』
 『それは、よろしかったですね』
 『パンを売っているところがない、一人舞台だからな。また、家で焼いているようなパンでは、あのようなところで売れはしない。テカリオンの指摘が的を得たといったわけだ』
 『それは何ともうれしい限りですね。オロンテス隊長も大喜びでしょう』
 『そうだ。彼は大喜びだ』
 アレテスは、パンの売れ行きの結果を聞いて、他人ごとではないといった様子で喜んだ。
 パリヌルスは、集団の者たちが喜びを共有することが集団の明日への一歩を確実にしていくのではなかろうかと感じた。かれは、近いうちに今回の事柄を全員に知らしむるべきであると思った。
 『アレテス、これから俺の言うことは、とてつもなく大切な事柄である、といってどうしろ、こうしろということではない。いいか。聞いて胸の内にしまっておけばそれでいい。大きく言えば時代が変わる、しかし、今日や明日ではない。しかし、そうはるかな未来でもない、近々ではあろうと思うが、そう近いうちでもない。物のやり取り、取引のカタチに変化の兆しが出始めている。集散所でやっている取引は物々交換ではないのだ。パンを売る、パンを相手に手渡す、集散所が決めた木札を受け取る、それで対手との取引が完了だ。その受け取った木札を集散所の係りの者に渡して、金もしくは銀に交換してもらうのだ。深い事由については説明を控えるが、物と物の交換ではないのだ。俺の話を聞いて判るかな。何はともあれ、オロンテスの作ったパン1個は、木札1枚と交換するのだ。そいうことだ』
 『エエツ!それはどういうことですか?隊長、物と物との交換ではないのですか。まったく、すぐに理解しろと言われても、私にはとんとわかりませんが』
 『物と物との交換では不合理なところがある。こちらが入用としないものと交換してくれと言われても当惑する限りだ。その不合理性をなくする新しい取引のカタチだと思えばそれでいい。俺の説明できるところはそこまでだ。また、我々が対処するのもそこまでだ。今の我々の立場で受け入れられるのもそこまでだ』
 アレテスは、パリヌルスの話を聞いて深く考えようとしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  253

2014-04-17 08:06:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、集散所の方か、あれは大したもんだ。魚の売り場を見学してきたぞ、アレテス。魚の売り場だが、まあ~、あんなもんだろう。明日もう一日、オキテスが魚の件で集散所に調査に出向く。オキテスとは、話し合っておいたのだが、この仕事に携わる主だった者で、明後日、意見のすり合わせをやろうと考えている。アレテス、そういうことだ』
 『明後日に意見のすりあわせですか、いいですね。もやっとしたものがなくなります。後任の者への引継ぎもあることですから。ところで調査隊の事はどうなっていますでしょうか』
 『おう、その事か。それについては、今、さっき、予定が決まったところだ。四日後には編成の運びだ。メンバーについては、まだ、軍団長の胸の中だ』
 『そうですか、判りました。この隊の後事を託する者への配慮を怠りなくやっておかないと、調査隊の任務を心置きなく遂行することができない。そういうわけです』
 『その周到さ、いかにもお前らしい。ところで魚の件についての課題だが、それについて話し合っておきたい、いいな』
 『望むところです。お聞きいたします』
 『今日、特に俺たち二人が課題としたことは、次にいう事柄だ。集散所の売り場で、誰が、何を、どのように、誰に売っているのか、この点についてだ。オキテスが、あと二、三の点についてチエックするために明日も集散所へ出向く。その結果をもって明後日の意見のすり合わせをやる』
 『判りました。そうですね、魚を釣りあげた、右から左へというわけにはいかないことですから』
 『そうだ、そういうことだ。漁師たちの魚の獲り方と我々のやっている獲り方とは違いがある。また、海への取り組み方にも差異がある。それから、我々が集散所の中に売り場を持ったら、どうなるかも研究課題の一つなのだ。それについては、お前も知っていると思うが、スオダの漁師スダヌスに話を聞こうと思っている。その機会は近いうちにあるだろうと思っている。ところが、そのスダヌスが姿を見せない。近いうちには来るだろうと思っている。それについては、この俺がやるべきと心している。以上だ』
 パリヌルスは、アレテスとの話し合いを一段落させた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  252

2014-04-16 07:52:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうか、判った。お前がそのように言うのなら、そうする』
 『調査隊の編成の事もある、四日後と決める』
 『万事、それで事を進める。そのころには樹木調査隊の調査結果も答えが出ている。前が見えてくる』
 『よしっ!それでよかろう。パリヌルス、まとめる用件があるならそれまでにまとめてくれ』
 『判りました。そうこうしている間に、また、いい情報が入ってくるかもしれません』
 『三日後に会議を開く。いいな』
 打ち合わせは終わった。オキテスがパリヌルスに声をかけた。
 『パリヌルス、魚の事について、アレテスと話し合っておいてくれ。明後日には、そのことにかかわる連中も集めて意見の交換をやってはどうか』
 『判った。それでいい』彼らは散会した。
 三人は、それぞれのの持ち場へと向かった。パリヌルスは、歩を運びながら覚めた感覚で一連の物事について考えた。
 『この集団がまとまりを欠かさずに明日を目指していく、それは大変なことだ。外敵の攻略と闘い、領地と人民を守り、敵を下し、戦利を得る。農耕にいそしみ、地からの恵みを収穫し、山野を駆け、狩猟をやり、牧畜を営み、鉱山を開き、集団が生きていく。いま、我々は未踏の分野に足を踏み入れて、集団の生きる方向づけをしていかなければならない。むつかしいことだ。しかし、案ずるより生むは易い、これにスタンスして、戦略思考で計画立案し、手段を講じて実行していく。必ずこれをやり遂げる』自分自身を律し、励ました。
 『パリヌルス隊長!』と誰かが呼んでいる。彼は歩を止めて、我に返った。浜の砂地に立っていた。
 『おう、なんだ?』
 『小島のアレテス隊長から、帰られたら小島のほうへ来てくれと要請が来ています』
 『そうか、判った。ギアス隊長を呼んでくれないか』
 『判りました』程なくギアスが姿を見せた。
 『おう、ギアス、今日はご苦労であった。アレテスが来てくれと言っている。小島へ行く、頼む』
 『直ぐ出ます』『お~い、集まれ!小島へ行く、漕ぎかたを頼む』『おうっ!』舟艇は波を割って浜を離れた。
 アレテスは、パリヌルスの到着を待っていた。
 『おう、アレテス、来たぞ!』
 『パリヌルス隊長、待っていました。いかがでしたか?集散所の方は』