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『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  814

2016-06-30 04:48:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ドックスは、パリヌルスらの心づかいを身に感じた。
 パリヌルスがオキテスに声をかける。
 『ところでオキテス、ドックスに話してくれたか?全艇チエックの件のこと』
 『おう、話してある。俺も少しばかり気になってな、昼めしの間に全艇を見て廻った。試乗を終えたらドックスを連れて三人で見て廻ろう』
 『おう、そうしよう』
 『パリヌルス、行こう』
 『ドックス、行くぞ』
 彼らは連れ立ってヘルメスの浜へと足を運んでいく。
 統領も軍団長も、すでに波打ち際に立ってヘルメスを眺めている。
 ギアスとパリヌルスが小島巡りのコースどりについて打ち合わせた。
 『どのようなコースどりにしましょうか?』
 『小島の北に吹いている風は?』
 『浜でこの状態ですから、強めの西風が吹いていると考えられます』
 『よし!小島の西を北上し、方向転換地点は、小島の北岸から5スタジオンくらい沖で東へ向かう。帰路についての判断は状況次第といこう。以上だ』
 『判りました』
 パリヌルスは、統領のところへ歩み寄る。
 『統領、ヘルメスの方へ、軍団長もどうぞ』
 準備しておいたハシケでヘルメスへと向かう。
 『おう、パリッ!ご苦労ヘルメスに乗るのは久しぶりだ』
 オキテスとドックスの姿は、もうすでに艇上にある。二人はギアスとともに統領と軍団長を艇上に迎えた。
 『統領、軍団長。ようこそヘルメスに』
 『おう、オキテスにドックスにギアス。元気なお前らに会うのがうれしい』
 ギアスが操舵の座に就く、パリヌルスが合図を送る、ヘルメスが静かに動き出した。ヘルメスは小島の南端を廻り、北へと進路をとり、西岸に沿って北上した。
 西風が強い、櫂操作で飛沫が飛ぶ、飛ぶしぶきが艇上にいる者たちのほほを打つ、ぬぐうしぐさ、微笑みを交わす、乗り心地の変わったヘルメスの走行感を五体に感じていた。
 あっという間に西岸を過ぎる、強さを増した風がヘルメスを東へと押す、抗う艇体、ヘルメスは北上を続けた。ギアスもパリヌルスも小島の北岸を見つめている。パリヌルスがギアスにサインを送る。
 方向転換の合図だ。ギアスが櫂舵を操作する、ヘルメスは東へと波を割り始める、間髪を入れず、ギアスの指示が飛んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  813

2016-06-29 04:18:03 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~、それから、隊長、キドニアで積んだ荷物ですが、どうすればいいでしょうか?』
 『おう、それがあったな。あの壺にはぶどう酒が入っている、明日の進水披露に使う酒だ。建造の場に運んで、オキテス隊長かドックスに渡してくれ』
 『判りました』
 ヘルメスは浜に着いた。
 ギアスは無事帰着の感謝をしている。パリヌルスは、その光景を目におさめて、軍団長の宿舎へと歩を向けた。
 パリヌルスは、宿舎の戸口に立って声をかける。
 『軍団長、パリヌルスです』
 『おう、パリヌルス、中に入れ』
 『ただいま、キドニアより帰りました』
 『おう、ご苦労』
 『明日の進水披露に使う壺入りの酒5艇分買ってきました。これが支払いの残りです』
 『そうか』
 イリオネスは、木札の入った袋を受け取った。
 『軍団長、今日、これからですが、半刻後くらいから、統領と一緒にヘルメスに乗っていただくように準備しています。試乗いただきたいと思っています。新艇が完成すれば、このような船になると理解いただけます』
 『判った。統領と一緒に浜へ下りる』
 『私は浜で待っています』
 用件を終えてパリヌルスは、浜へ駆け下りていく、建造の場へと急いだ。
 『おう、オキテス、買ってきた酒を見てくれたか』
 『おう、見た見た、中身はどんな酒だ』
 『進水に使うのに意味があるようだ。血の色をした赤ぶどう酒が適だそうだ』
 『ほう、そうか』
 『今、軍団長に話してきた。統領も一緒にヘルメスに乗ってみてもらう。出来上がる新艇は、こうだと認識してもらっておく必要がある。ドックスも乗せる。お前も一緒に来てくれるか?』
 『おう、一緒に行く!ドックスを呼ぼう』
 オキテスがそばにいる者に声をかける。
 『ドックス棟梁を呼んできてほしい』
 『判りました』
 間をおくことなくドックスが姿を見せる。パリヌルスが声をかける。
 『おう、ドックス、ご苦労。これからヘルメスの試乗に行こう。新艇が完成したら、どんな船になるか、どんな走りをする船か、知りたいだろう』
 『毎日、造作に手をかけていて、どのような船かは想像できます。どのような走りをするか、これの想像は無理があります。ぜひ乗ってみたい、お願いします』
 『この間から、手を尽くして造作をしてくれてありがとう。礼を言う。その結果を見てくれ。統領も一緒だ』
 『気を使っていただいてありがとうございます』
 『進水披露を明日に控えて、完成したらどんな船だろうかと気にしていると思ってな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  812

2016-06-28 05:05:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ヘルメスは快走している。方向転換地点にさしかかる、ギアスが大声で指示を発する。
 『方向を換える!全帆、展帆!漕ぎかた停止、櫂をあげ!』
 ヘルメスは、全帆に風をはらみ帆走する、操舵をパリヌルスと代わった。
 『この条件なら、充分に俺の想い通りのチエックができる』
 彼は、体に艇の走りを感じとる。
 『ギアス、ジグザグ走行を繰り返す。漕ぎかたの一同に伝えてくれ』
 『わかりました』
 左に右にと操舵を繰り返す、彼が考えていた走りに合致する、気にかかるような横ブレ、横滑りをしない。
 パリヌルスは、ヘルメスの走行状態を体に感じとり理解した。
 『これなら、いける。横ブレ抑止桁の効果、櫂舵の切れ具合、そして、帆張り状態、帆走は、思い描いたとおりだ。それらを綜合した走行安定性も予想した通りだ』
 彼は、ヘルメスの快走に満足した。ギアスを手招きで呼ぶ。
 『おう、ギアス、考えた通りの結果を得ることができた。少々このまま走ったら船だまりに戻ろう、操舵を代わる』
 『はいっ!』
 ヘルメスは、航走を続けて船だまりに戻ってくる。パリヌルスは、一同に試走の結果を伝え、漕ぎかたの労をねぎらった。
 『おう、一同、ご苦労であった。試走の結果は予想した通り、上々の結果であった。ありがとう。新艇は、この構造でもって出来上がる。なお、明日、新艇は、進水の日を迎える。以上、君らに伝えておく』
 『おう、ギアス、俺はパン売り場へ行ってくる。お前ら昼を済ませてくれ。用件を済ませてくる』
 パリヌルスは、集散所に向かう、ギアスらは昼を済ませた。パリヌルスが帰ってくる。
 『アレテスの昼便は、まだ来ないな。まあ~、いいか。帰るぞ!』
 ヘルメスは、船だまりを出る、あいにくと向かい風である。漕走で帰途についた。船だまりを出て四半刻の後にアレテスの昼便とすれちがった。
 パリヌルスは、ヘルメス艇上でくつろいだ。
 進行方向、左手に見える沿岸の風景を眺める。キドニア街区のはずれから続いていた漁村の景色が人のいない浜風景にかわる、その先に自分たちが住んでいる浜風景が見えてきた。
 『おう、ギアス、一同も聞いてくれ。君らは、休むことなくヘルメスを漕いできた。ご苦労であった。浜に着いて、半刻くらい休んだら、小島巡りに出る。統領、軍団長、そして、ドックス棟梁を乗せての島巡りだ。この生まれ変わったヘルメスに乗ってみてもらう。そういうことだよろしく頼む』
 間をとって、ギアスに話しかけた。
 『ギアス、それが終わったら、明日にそなえ、ヘルメスの点検整備を終えて、今日の業務終了だ』
 『解りました』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  811

2016-06-27 04:57:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは船だまりに帰ってきた。
 『隊長、お帰りなさい』
 『おう、どうだ?ギアス。自分の提案をカタチにして、実際に使った気分についてたずねている』
 『全く冷や汗をかく思いです。もし、とりえもなく、役に立たなかったらと考えると背筋に寒さが走ります』
 『馬鹿を言ってはいけない。そこであきらめるやつには未来がないと思え!簡単なことだ、元に戻ればいいのだ、そこで足踏みをして、次の一歩を考えればいいのだ』
 ギアスは、パリヌルスの言葉を受け止めた。
 『おうおう、話をしている場合ではない!彼を待たせている。ギアス、彼から荷物を受け取ってくれ。そしてヘルメスに積んでくれ。おう、昼のパンに余裕があるか?』
 『はい、少々であれば大丈夫です』
 『そうか、よかった。二、三個でいい、彼に、ご苦労の言葉とともに渡してくれ』
 『判りました』
 ギアスは荷物を受け取り、ヘルメスの前部上甲板下の収納部へ受け取った荷物を収めた。
 パリヌルスがヘルメスに乗ってくる。
 『ギアス、キドニア沖の海の状況はどんなだ?』と言いながら、陽の光を射しおろしてくる空を見上げた。
 ギアスは沖を眺めて状況を告げる。
 『沖ゆく船を見た感じでは、風は西からの風です。朝方の風に比べて、少々、強めであると考えられます』
 『そうか、それはいい!即、船だまりを出る、いいな。方角は北西方向へだ。半刻くらい沖へ出る。そのあたりで方向転換して東へだ。展帆して帆走する。走行安定度の最終チエックをする。それで試走を終える。終わったら船だまりに帰って昼とする。昼を終えて、帰途につく』
 一拍の間をおいて話を継ぐ。
 『浜に帰ったら、ヘルメスに統領、軍団長、ドックスを乗せて、小島を一巡する。それで今日の業務を終了する。ギアス、以上だ』
 『解りました。隊長、先ほどの言葉ありがとうございました。では、沖へ出ます』
 『方向転換地点で操舵を代わる』
 『解りました』
 ギアスは、ヘルメスをキドニア沖へと出していく、パリヌルスは、試走条件として風、海浪のチエックをする、空を仰いで天候の変化にも気を配った。
 『おう、ギアス、これなら、充分に試すことができる』
 『そうですか、何よりです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  810

2016-06-24 04:53:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはギアスと打ち合わせる。
 『ギアス、とにかく、所要と用件を済ませてくる。待っていてくれ』
 そのように言いおいてパン売り場のスタッフらとともに集散所に向かった。彼は、売り場業務のスタンバイを見とどけて、スダヌスの売り場へと向かう。
 スダヌスは目ざとくパリヌルスの姿を見かけて声をかけてくる。
 『おう、パリヌルス殿、おはよう。ここで会うとは、めずらしいことですな。今日は何か用件でも?』
 『おはよう。浜頭。元気そうで何より。今日はちょっとした買い物をしたい。それが用件だが』
 『買い物とは?何を買われるのです』
 『進水披露に使う酒と酒壺を買いたい。どこで売っているかを聞きたい』
 『おやすい御用ですな。酒と酒壺ではなく、酒壺に酒が入っています、それでいけばいいのです。数はいくつ入用なのですかな?』
 『5個です』
 『あ~あ、進水の時にバカ~ンと舳先にぶつけるやつですな。一緒に行きましょう』
 二人は、酒類の売り場へと歩みだした。スダヌスの売り場のほど近いところにある。
 『パリヌルス殿、私が買ってあげましょう』
 パリヌルスは、浜頭に木札の入った袋を渡した。二人は酒類の売り場の前に立つ。
 『浜頭、おはようございます。何かご用事でも?』
 『おう、酒を買いたい。赤ぶどう酒の入った酒壺を5つほしい』
 『はい!解りました。大きさが大、小、そして、特大とあります。小が木札1枚、大が木札3枚、特大が木札5枚です。どれにされます?』
 二人は顔を合わせる。
 『浜頭、大にする』
 『大をもらう。いくらだな?』
 『木札15枚です』
 スダヌスは、袋より木札15枚を取り出して支払う。
 『ありがとうございます』
 『では、それを俺の売り場に届けてくれ』
 『判りました』
 『パリヌルス殿、行きましょう。うちの売り場の者にもっていかせます。残りの木札を返します』
 『おう、手数をかけたな』
 『とんでもない!これしきの事。おう、来た来た。そのままおいていってくれ。車は後から返す』
 『浜頭、朝から手数をかけた。ありがとう。ゆっくりしたいがそのようなわけにもいかん。これで失礼する』
 『こちらこそ、かまいもせずにパリヌルス殿をかえしたとあってはこちらの顔が立たない。明日、進水披露に伺います』
 『浜頭の来駕を待っています』
 パリヌルスは、パン売り場に立ち寄り、今日の予定を告げて売り場をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  809

2016-06-23 13:27:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 漕走状態における走行の安定性のついては申し分がない。横ブレ抑止桁に使用した用材の寸法の適否について考えを巡らせた。太さはこれでよかったのか、取り付けの形態はこれでいいのか、この2点について考えた。もし、細い角材を使用していたらどうなのか?取り付けの形態はこれでよかったのか?前者の思案について考えつくまま、その結果を想像してみた。是とする答えは、現状の用材寸法が是とされた。後者に対する思案は、船棟梁のドックスに任せたことであり、これをもって是とした。
 ヘルメスがキドニアまでの中間地点にさしかかろうとしている、ギアスが風の具合を読んでいる、出航時に彼が言ったように、いい西風が来ていた。
 ギアスが声をあげる、
 『全帆、あげろっ!』
 『おうっ!』『おうっ!』
 ヘルメスが全帆を展帆する、たちまち帆が風をはらむ、風が力不足だ、ヘルメスの走行がのろい。
 『漕ぎかたっ!続行!』の指示を飛ばした。少々の間は、その状態で走行した。
 風が力をもって吹いてきはじめた、ギアスが帆柱の先端に結びつけている布切れに目をやる、彼は風力走行よしと見てとる、帆走に切り替えた。
 『漕ぎかたやめっ!櫂を上げ!』
 帆走にうつったヘルメスは航走スピードをあげる、力強く波を割って走った。
 『ギアス、いい速さだ。もう、船だまりだろう。舵操作を代わる』
 ギアスが舵座についた。
 パリヌルスのチエックは、次のステップへと進む、帆についてチエックし始めた。
 風の具合を測る、対応する帆の条件がこれでいいか、帆柱の高さ、帆の大きさ、そして、帆のカタチとみていく。次は帆の風のはらみ具合をみる、風をホールドしているのか、それに準じての艇の構造、その結果としての艇の走り、速度、走りと水の抵抗具合にもと細かく見ていく、こうあってほしいと考えた想いと現状を比較して状態を評価した。
 彼は、これらについて、現状で良しとした。進水を明日に控えての艇の造作をここまでとした。ここ数日で為した造作について、『これぞ我々が建造した新艇であるぞ』と言える長所を艇に持たせたことにうなずいた。
 パリヌルスがあと一つ確かめておきたいことは、安定航走の極限の速さ時における艇としての走行安定性であった。その状態における走行状態を知っておくことと操舵具合を知りたいことであった。
 思考を展開している間にヘルメスはキドニアの船だまりに着いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  808

2016-06-22 05:02:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスは艇上にいる、昇る太陽を見つめている。彼はうやうやしく両の手を高くかざす、そして、右手のこぶしを左胸に音をたてて打ちつけ、こうべを垂れる、何かを願う風景である。パリヌルスは、ギアスの姿の敬虔さに打たれるものを感じた。
 『おう、ギアス、今のはなんだ?』
 『はい、今日の航海が無事であることを願っています』
 『ほう、そうか。祈ってではないのか、願いか。ポセイドンには礼を尽くさんのか?』
 『ポセイドンには、出航してから手を差し伸べてくれるように頼むのです』
 『そうか、それがギアスの艇長としての作法か。心が落ち着くか?』
 『はい、瞬時の決断に手を貸してくれていると信じています』
 朝の荷積みの時を待っている。
 『おっ!オロンテスがが来た。荷積みだな、終ったら出航しよう。風の具合はどうだ?』
 『凪が過ぎれば、いい風が来ると思っています。今日はいい西風が来ます。航海日和です』
 『お前、うれしいことを言ってくれる。オキテスも来た。俺はちい~と打ち合わせてくる』
 三人が顔を合わせる、今日の懸案事項を確認する。オロンテスが声をかける。
 『おう、パリヌルス、木札だ』
 『おうっ!では、行って来る』
 『よろしく、頼む!』
 『おう、心得ている』
 パリヌルスがヘルメスに乗る、艇上を見まわす、売り場スタッフの顔も見える、ギアスにサインを送る。
 櫂が泡だてる、ヘルメスは航跡を引いて浜を離れていく。ギアスが櫂舵を握っていた。
 『隊長、指示があるようでしたら言ってください。展帆はまだしません。この頃合いだとキドニアまでの中間地点くらいまでこの状態で走行します。それを過ぎて、風を読んで展帆走行とします』
 『解った。漕走時の横滑り具合を診ている。左右の漕ぎかたのバランスが極めていいからかな、横ブレが全くない』
 ギアスが漕ぎかた一同に声をかける。
 『ジグザグに操舵する。横ブレの試しをする』
 『隊長、操舵を代わります』
 『おうっ!』
 パリヌルスが舵座につく、艇をジグザグに走行させる、考えていた横ブレが感じられない、艇の走行が安定していた。
 櫂舵の効きを試す、的確な効きを感じる。横ブレ抑止桁の直進維持効果もうなずける、走行の安定性が確かに向上していた。櫂舵を大きくしたことの効果性にもうなずける効果が感じられた。
 あれだけの造作でこの結果か、パリヌルスはうなずいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  807

2016-06-21 05:09:20 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オロンテス、お前どうする?催行日の準備スタッフのこともある。明日はパン売り場をスタッフに任せて、こっちにいればどうだ』
 『おう、判った。俺、今から軍団長に今日の報告に行く。酒壺を買う木札を預かってくる』
 『判った。頼む。明日は、俺がお前の臨時代行を務める』
 オロンテスは、軍団長の宿舎へと向かった。
 『オキテス、明日のことをちょっと打ち合わせておこう。明日やらねばならない用件が2件ある。キドニアから帰ってきて、統領、軍団長、それから、ドックスをヘルメスに乗せて、小島をひと廻りしようと考えている。もう1件は、お前と俺がやらねばならないことだが、進水を控えての新艇の完成度を入念にチエックすることだ』
 『おう、解った。その2件だな、心得た』
 『小島をひと廻りすることについては、ギアスに俺から話しておく』
 二人は互いの意志を確認する。握りしめたこぶしを合わせた。
 オキテスは建造の場へと歩を向ける。
 彼は一同を集める、明後日の進水披露催行の件を伝えて、今日を締めくくった。
 沈もうとしている太陽が浜を茜に灼いている。
 パリヌルスの胸には、明日への想いがふつふつと沸いている。遠い先のことは計り知れない、今はそのような先を見ている時ではない。彼は、今と明日を考える、明日は、見えている、怖れることは何ひとつない。彼は、はやる心を抑えて明日を待った。
 
 事業推進に生きる者たちの心意気は、朝の来るのを待っている、明けない闇の中に目を開く、起きあがる、浜へと歩みだした。
 東の空の星がひとつ、また、ひとつと目を閉じていく。
 ギアスの声が薄明の浜の空気を震わせる、パリヌルスが傍らに立つ。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう。ギアス、気が急くだろうが、落ち着け!落ち着くのだ。ヘルメスを点検する。海に出る前によく見ておきたい。時間はとらない、ドックスの造作に手落ちはないと思うがーーー』
 『解りました』
 彼は船底に設置した横ブレ抑止桁の造作、櫂舵の状態等を丹念に見る。造作に満足した。
 『ギアス!いいぞ!ヘルメスを海に出せ!』
 『はいっ!』
 『よしっ!一斉にヘルメスにとりかかれ!海に出す!』
 ギアスと漕ぎかたの一同が作業にとりかかる。ヘルメスが海に浮かぶ。
 『帆柱、点検!』『はいっ!帆柱、異常なし!』
 『櫂舵を確かめろ!』『はいっ!櫂舵、異常ありません』
 『おう、よしっ!』
 太陽が水平線を破って昇りはじめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  806

2016-06-20 04:21:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『話を続ける、一同、いいな。それが終わって、祝宴の時となる。祝宴の場は、オロンテスとアレテスによって整えられている。進水を終えて祝宴と移行していくわけだが、これの運びは私が担当する。祝宴は、我々全員参加の浜焼きスタイルで行う。これが終わって、俺が招待客をキドニアに送る。これをもって進水の行事が終了する。これが進水披露催行の大筋である。一同、よろしく頼む!聞きたいことがあれば聞いてくれ!』
 アレテスが効いてくる。
 『オキテス隊長、招待客は何人でしょうか?』
 『おう、招待客か。招待客数は8人だ。集散所から2人、新艇の購入見込み客が2人、スダヌス親子で2人、新艇の建造用材を納入してくれたガリダ頭のところから2人だ』
 『解りました』
 『催行についての詳細の打ち合わせは、明日、行う。ドックス、お前との打ち合わせはアサイチに行う。オロンテス、打ち合わせはどうする?お前の時間都合によるのだが』
 オロンテスがアレテスに声をかける。
 『アレテス、明日のお前の時間都合は?』
 『明日も昼便の都合があります。昼便の出発前がよろしいのですが』
 『オキテス、そういうことだ。ドックスとの打ち合わせが終わったら、続けてやるということでどうだ』
 『解った。その予定でやろう。明日はパリヌルスが不在だ。打ち合わせは俺がやる。ドックスとの打ち合わせは建造の場でやる。オロンテスにアレテス、打ち合わせはこの場所ででやろう』
 『解った』とオロンテス。
 『解りました』と答えるアレテスにパリヌルスが声をかけた。
 『アレテス、お前の昼便の時間都合だが、キドニアからの帰りにパン売り場のスタッフたちを乗せて帰ってくる時間余裕があるか?』
 『その時間都合はつきます』
 『では、その件を頼む』
 『解りました』
 『オキテス、聞いてくれたな。そういうわけだ。俺はキドニアから早く帰れる。統領、軍団長、ドックスをヘルメスに乗せて小島の一廻りをやる。準備して待っていてくれ』
 『了解。俺も同行する、いいな』
 オキテスは、太陽に顔を向ける。
 『もう、この頃合いだ。聞いておきたいことがないようなら打ち合わせを終わる。進水披露を成功させよう。以上だ。散会する』
 『おうっ!』
 一同の唱和が浜にこだまする。表情が夕陽に照り映える、彼らは、それぞれの持ち場へと向けて場を去っていく。、
 『おう、オキテス。お前、説明がうまい、進水披露当日の仕事の流れが、よく解った。ところでだが、新艇の進水の時に舳先に打ちつけて割る酒を入れた壺のことだが、明日、俺がキドニアで準備してこようか』
 『おう、それがいい。頼めるか』
 『解った、任せろ。初めてのことだが、スダヌスに聞いて準備してくる』
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  805

2016-06-18 05:12:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスが声をかける。
 『おう、オキテス、話を進めてくれ』
 『おうっ!』
 オキテスが一同と目を合わせ、口を開く。
 『諸君、ご苦労。今、我々が建造している新艇が進水の日を迎える。我々、一族が待ち望んだ日でもある。新艇は、統領の意向もあって、誰もが考えもつかなかった手法によって建造されている。その進水披露を客人を招いて催行する。その日が明後日に迫っている。その日に各自が担当する役務を決め、その役務の内容について説明する』
 オキテスは一同を見まわす。
 『まず、役務とその責任担当を誰がするかということを伝える。パリヌルス、木板を渡してくれ。書きとめておきたいことがあれば、その木板に書いてくれ』
 パリヌルスが木板と木炭を手渡す、オキテスが口を開く。
 『進水披露の総括責任は、パリヌルス、オロンテス、そして、この私が負う。各役務の担当を伝える。新艇の進水催行の責任担当は、ドックス、お前に担当してもらう。その催行次第については時間をとって説明打ち合わせをする。招待客とその接待等に関しては、パリヌルスと俺が責任担当する。当日の祝宴関係の一切については、オロンテスとアレテスに担当してもらう。以上が役務と責任担当である。聞きたいことがあれば聞いてくれ』
 ドックスが質問してくる。
 『オキテス隊長、進水の催行についてですが、あとから説明と打ち合わせをやるわけですね』
 『そうだ、難しく考えることはない』
 ドックスの質問に答えて、オキテスは、話し続ける。
 『では、進水披露催行の筋書きを話す』
 一同と目を合わせるオキテス。
 『進水披露の催行当日は、この俺がアサイチにヘルメス艇でキドニアに招待客を迎えに行くことから始まる。招待客を乗せて帰ってくるのが、朝と昼の中間ぐらいの頃合いと思ってくれ。それまでにドックスが進水披露の準備万端を整えて待機している。俺が進水披露の場に全員を集める。そして、合図によって、5艇が1艇づつ進水していく、5艇が進水の場の海上に整列して浮かぶ。全員から歓声があがる。進水催行の最高潮の場面とする。ここは演出だ。進水の運びはパリヌルスの指図によって行われるということだ。一同、解ってくれたかな?解ってくれないと困る』
 オキテスは、ここまで言って場の者たちを見まわす、ひと息ついた。