『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  40

2012-04-30 08:54:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『船速の抑えを櫂操作でやれ。浜につけろ』であった。
 信号を受けたリナウスは、隣の船に信号を送った。暗雲が垂れ込めている。宵が迫ってくる。送る信号の目視視認が困難になってくる中でリナウスは信号を送り続けた。
 各船においては船長が漕ぎかたに向けて指示を出す、漕ぎかたは櫂操作を懸命にやる。船速の制御が思うようには行かない。浜がググット迫ってきていた。
 この小島の停泊予定の浜に至る海底には岩場のないことが彼らに幸いした。波は砂を交えて踊っていた。
 浜までの距離が迫ってくる、残すところ50メートルくらいまでに接近して来ている。
 オキテスは船上にいて情況を探っている。身体全体を触覚化して、状態を感じ取ることに全神経を集中した。
 彼は浅瀬の海に踊る波が船団を死の淵に誘うことがないと判断した。
 海底に船底が触れた感触がきた、彼の身体を前のめりに倒れこませた。船べりに腕をのばして、船底に倒れこむことを辛うじて避けた。身を不安定に保ちつつ指示を発した。
 『全員っ!、海に飛び込めっ!海に飛び込むのだ、船を浜に上げろっ!押し上げるのだ。深さはしれている、腰辺りだ。波に気をつけろっ!』
 彼の指示は適切であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TRPY          第5章  クレタ島  39

2012-04-27 06:59:00 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らはオキテスの叱咤に答えた。
 緊急の信号は送り終えた。オキテスから矢継ぎばやの指示が来た。
 『アミクス、続けて信号を送るのだ。『嵐が来る。漕いで島を目指せ。荒れに注意せよ。船列を問わない』だ、判ったか』
 『判りました』
 アミクスはゆれる船上から、三番船に向けて信号を送った。
 船団は船列を解いて漕走した。曳航していた舟艇も切り離して単独で島を目指した。
 船団の誰しも海をなめてはいなかった。彼らは充分に海の怖さを知っていた。
 危機に対処し始めてから半刻が過ぎていた。風は強さを増してきている、船上の700人が自然に闘いを挑んでいる姿がそこにあった。
 風浪が大きくなってきている。船は波をかぶる一歩手前の状態で波を割っている。彼らは必死で闘っていた。
 目指す島の入り江が視野の中に入ってきた。彼らは望みを抱いた。
 海は荒れている、彼らは挫けてはいない。この修羅の中に自然が彼らに手を貸す事態が起きた。風向きが変わった。北西からの風に変わった。船団を島へ追いやるように吹きつけた。
 この荒れの中、三番船の副長リナウスが二番船のアミクスが送ってくる指示信号を読み取った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  38

2012-04-26 07:26:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は好調の中にあって不安の種子を見逃さないように張りつめた心の状態で船上に立っていた。ここ数日の好天に心を許してはいなかった。
 パリヌルスとオキテス、オキテスとパリヌルス、この二人は船団の先頭と殿りにおりながら、シンクロナスな意識で結ばれていた。思考も決断も行動も洋上を行く船団において、その共時性は全く違和がなかった。
 船団は先頭を行くオキテスの二番船に同調して海洋を進んでいた。レムノスの浜を出てからの航走時間は、今様の時間で10時間に及んでいた。
 陽は西にある、日没が近い、あと一刻で日が暮れ始める。今日の停泊予定の小島が見えてきた。西日にさらされて見える。風向きが乱れてきている、強さも増してきている、波が荒くなり波頭が風に飛んでいた。
 『ここまで来ている、この期に及んで何が起こるのだ』
 オキテスは危機を感じた。船団の進む方角の空に目を移した。彼はそこに黒雲が覆っているのを目にした。
 『俺が浜に着くのが早いか、貴様が襲ってくるのが早いかだ!』 
 彼は間髪を入れずに指示を発した。
 『お~い、アミクス、信号だ。帆を降ろせ!だ』
 いい終わるや否や、自船の帆を降ろすことも指示した。
 『者ども、嵐が来るっ!力を出しきって漕げっ!漕いで漕ぎまくれっ!』
 大声で叱咤した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  37

2012-04-25 06:56:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、パリヌルスの講釈を受け止めていた。
 天候は好い申し分がない、ただ風力不足である。船団はレムノスを遠く離れた地点を航走している、北エーゲ海のど真ん中であった。太陽は頭上にある、船上の者たちを真上からあぶっていた。
 レスボスの島影が左手遠くにかすんで見えていた。風力は出航時に比べて少しはましかなと思われる程度であった。軟風である、風力階級でいうと 3 くらいであり、風速と言えば4~5メートル/秒と思われた。風力だけでの船速は、人の歩速の2倍程度である。
 オキテスはじりじりとしていた。彼の心中は穏やかではなかった。何とかしなければいけないと気がはやった。出航してからこの地点に至るまで、漕いで漕ぎまくって、予定の船速(時速14キロメートルくらい)で航走してきていた。
 『休憩などしている余裕はない。休憩は交替でやる』
 彼は漕ぎかたを叱咤した。
 『漕ぎかた、力を入れろっ!全力で漕げっ!』
 木板の叩く音が響く、彼らの気分をいやがうえにもマックスに導いた。
 『アミクス、信号だ、信号を送れ!全力漕走だ。急げっ!』
 船団の船速があがった。
 彼は船上の者たちの心のベクトルを目的達成へと駆り立てた。
 彼は心の中で雄叫びをあげていた。
 『順調っ、順調っ!この調子だ、うまくいけっ!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  36

2012-04-24 08:22:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスが重要な課題を思案する、決断を下す。一歩をを踏み出そうとするとき背中を押す奴がいる。また、姿かたちは見えはしないが前へ進むのを押しとどめる奴がいる。何者かが、この俺に力を貸すときもあれば、この俺を引き戻そうとする奴もいる。彼はそのようなことをふと考えるときがある。
 今日の海は穏やかであった。北から吹く風は軽風(風力階級2くらい)であり、頬をなでて過ぎる風であった。
 『これから時間も経って、海洋の真ん中に出れば風力も少しは強くなるであろう』
 彼は心の中に淡い期待をだいた。風向きはこのままでいい、ただこのまま、危険と遭遇せずに今日の航走を終えたいとそれのみを念じた。今日の無事がなければ、我々に明日はない。
 殿りの一番船の船上でも穏やかな海が話題となっていた。
 『パリヌルス、穏やかだな』
 イリオネスが声をかける。
 『え~え、穏やかです。穏やかであるばかりに明日が気にかかります。エノスにいたときから好天が続いています。こんなときこそこの裏目の天候に気を配らなければならないのです。少々の天候の変化が我々に難題を吹きかけるのです。命取りの荒れた海になります。陽も照って風がないのに波だけが荒れて荒れまくることもあるのです。今日みたいな日こそ油断は禁物なのです。謙虚に天候には逆らわない。これが難事を避ける鉄則です』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  35

2012-04-23 08:03:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは帆のはらみ具合と身体に感ずる風の感じで思案した。風が弱い。
 『帆走は無理だな』
 彼は漕走が長時間に及ぶと判断した。木板うち担当者に櫂を動かすピッチを指示した。
 『お~いっ!アミクス、来いっ!』 大声で呼んだ。
 『おっ、アミクス、後続の各船の具合はどのようだ』
 『はい、今のところ各船に乱れがないように見受けられます。出航して半刻、陽が昇ります』
 『そうだな、この天気で北風が吹けば上々と言うところだ。そうなることを祈ろう。変事のときは直ちに連絡してくれ。念のためだ、『風弱し、漕走でいく』そのように信号を送っておいてくれ』
 アミクスは、船尾に戻り信号を送った。
 風波のない海を泡立てて進む船団が、湾口を離れて半刻、日の出の時を迎えた。洋上にその第一射が届く、船上の者たちは、秋の気の満る洋上を照らす陽の光の情景に心を打たれた。
 叱咤がとび、掛け声が飛び交う、木板の打音が波上を超えて消えていく、彼らの心の叫びは『ワッセ!』『ワッセ!』『ワッセ!』と声になり、目的地を目指して波を割った。
 オキテスは、人智でははかることのできない大きな得体の知れないものを感じる事があった。喜びや困難に出会ったときにしばしば気づくのであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  34

2012-04-20 08:06:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 星が降るように耀く秋の夜空には月があった。細く耀く三日月であった。打ち合わせを終えた彼らは寝所へと向かった。
 パリヌルスもオキテスの二人は短い時間であったが細事を打ち合わせた。
 『パリヌルス、俺に任せろ。あの浜については俺も熟知しておる』
 オキテスのひと言はパリヌルスの気持ちを楽にした。

 彼ら一同はレムノスの清冽な朝を迎えた。彼らの胸に希望を沸きあがらせる朝であった。頭上に星をいただき、船長が声をあげて檄を飛ばしていた。各所に鬨の声があがった。アエネアスもイリオネスも考えてもいなかった風景であった。
 オロンテスは彼らより一刻も早くから作業についていた。舟艇をあやつって堅パンや副菜を各船に配った。
 パリヌルスの一声が彼らを駆動した。全員が乗船する、櫂座に就く、船を舫っていた綱を解く、碇石も上げた。
 アミクスの声が夜の明けていない湾の気を震わせた。
 『二番船、出航っ!』
 『帆を上げっ!櫂をおろせ。漕ぎかたはじめっ!』
 木板がなる、櫂が一斉に水を掻いた。海面が泡立った。帆は山おろしの微風をはらんだ。浜を向いていた舳先が方向を変えて湾口に向かう、衝角が海面を割った。
 オキテスは迷うことなく南進を指示した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  33

2012-04-19 07:24:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『明日の航海は、星が空に残っているうちにこの浜を離れる。朝は朝星の刻に出航して夜は夜星の頃にならないと小島(現在のプサラ島)に到着しない。航走については風を期待できない。一日の大半を櫂で漕いでいなければならないかもしれない。先頭を行くオキテスの二番船にならって航走してほしい』
 彼はオキテスの方に目を運び了承を得た。
 『パリヌルス、判った』
 話を続けるパリヌルスはオロンテスのほうに顔を向けた。
 『オロンテス、明日の食事のことだが、堅パンと副菜を3食分くらいを各船に配ってほしい。明後日一日は島で風待ちをしなければならないかもしれない。全員の休息日となるかもしれん。次の航海に向けての食糧の準備はそのときにやってくれ。そのための動員要請は各船長に指示してくれ。以上だ』
 パリヌルスは必要な指示は伝え終えた。彼は一同に言っておこうか、言わないでおこうか迷っている事があった。だが、伝えておくべきであるとした。
 『それからだが、我々が停泊を予定している浜は、島の西岸の入り江だが島が無人であるとはいえ漁師が一時を過ごす浜小屋がある。漁師がいるかもしれん。対応はオキテス隊長に任せる。オキテス隊長よろしく頼む。また、この浜は遠浅で船の停泊はしやすい、一同安心して向かってくれ。尚、明朝の起床指示はオキテスと俺がその任に当たる。以上だ』
 一同はパリヌルスの説明と指示を納得して打ち合わせを終えた。

『トロイからの落人』  FUJITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  32

2012-04-18 07:03:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『2団に分けた船団に私は、統領座乗船団及び索敵哨戒船団となずけた。その役務は読んで字の如しだ。統領座乗船団は、オキテスが総指揮を執りデロスに向かう、索敵哨戒船団は統領座乗船団に先行して、その任に当たる。この船団は私の指揮のもとにミコノスに向かう。統領座乗船団は索敵哨戒船団の出航より二刻くらいの時間の後に停泊地を離れる。先行する船団は夜の明けないうちに停泊地を出航する。いいな。小島からミコノス及びデロスに向けての出航は天候次第であることを頭の片すみに止めておいてもらいたい。以上だ』
 『パリヌルス隊長、『いいな』で話を締めくくられると相談ではなく、指示、命令ではないですか。しかし、内容は理解しました。隊長の指示に異論はありません。了解しました』
 『そうかそうか、お前の言うとおりだ。やること、やるべきことを集約すると以上のようなことになる。この方策に至るまで、何回も積んではくずしして結論に至ったのだ』
 『判りました、了解です』
 一同は納得した。イリオネスが口を開いた。
 『統領、いかがですか。私はパリヌルスが言ったことについては、一同と同じく異論はありません』
 『俺にも異論はない。ただひとつ考えておいてもらいたいことがある。舟艇のことだ。舟艇を船団行動に関連して、有機的に機能させて諸事に対応させたらいいのではないかと思う。パリヌルス、頼むぞ』
 『判りました』
 打ち合わせは終わった。夜は深更に至ろうとしていた。
 この時代の深更は、今様時間で深夜ではなく21時頃である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  31

2012-04-17 07:48:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはここで一同の了解を求めた。イリオネスはアエネアスと目線を交わして口を開いた。
 『パリヌルス、明日の航海については了解した。私も気にかけていたのだが、海洋のど真ん中のこの季節の気象については全くわかっていない。レムノスまでは、大陸の延長線上での思案で天候を推しはかることもできるがレムノス以南の海洋気象については全くわからん。お前の言うとおり大事をふもう。その点で明日はお前の言うように海洋の小島に向かうことを了解する。レムノスからミコノスにいたる長い海路の天候は見通せない、わかった。今、言ったとおりだ。諸君ら一同も了解するように、いいな』
 『判りました』 一同の声が揃った。
 『では、これより懸案の件について述べる。先ず、ミコノスに向かう航海の天候についてだ。天候次第でその小島で風待ちをしなければならないかもしれない、それは覚悟しておいてもらいたい。次に船団の編成のことについてであるが、軍船2隻、改造交易船1隻の3隻で二団編成とする。第一団は統領が座乗する船のいる船団で統領の用向きのあるデロスに向かう。もうひとつの船団はミコノス島のデロス島に近い浜に向かう。私の知るかぎりでは、その浜からデロス島へは十数スタジオン余り(2キロ余り)と極めて近いはずである。船団を2団に分けるその理由を簡単に説明しておく』
 パリヌルスは一同と目線を交わして話を続けた。