『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  133

2011-07-29 06:13:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは互いに紹介を終えて、さっそく、本題の話し合いに移った。オロンテスは、トリタスと五人の浜衆に向けて話し始めた。
 『今回の交易において、アーモンドの木を使っていぶした魚の干物があんなに好評であるとは思わなかった。この干物を作るにあたっては、魚のいぶし方とその度合い、それをやるに当たっての火加減、魚の干し具合、その季節と保存を考えての味をひきたたせるための塩加減が、とても大切な点である事を実感した。あなた方には是非このコツを覚えていただきたいと思っています。そのコツを伝える、この三人は、充分にそのコツをあなた方に伝授すると思っています。納得のいくまで話を聞いてください。私も一緒にいればいいのですが舟艇建造の現場に戻らねばなりません。これにて失礼することを許してもらいます。手が空き次第またこちらへまいります。では、失礼します』 と話を結んだ。彼はアンテウスのほうを向いて、
 『アンテウス、聞いての通りだ。いま、話したこと判ったな。実際に魚の干物を作りながら、彼らが充分に納得するように、そのコツを伝えるのだ。判ったな』
 『棟梁、わかりました。彼らはここにいつまで?』
 『おう、それは今日から2泊3日の予定だ』
 『了解しました』
 『トリタス、俺はこれで失礼する。この者たち三人から、そのコツを納得するまで聞いてほしい』
 『オロンテスさま、ありがとうございました』
 オロンテスは、広間をあとにして作業現場へと向かった。
 現場では、組み合わせ部分のトラブルが発生していた。

第3章  踏み出す  132

2011-07-28 06:52:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お~お、トリタス、ありがとう。統領も元気そのものだ、よう訊ねてくれた。オキテス、オロンテスたちから聞いていた、魚の干物つくりの件。この者たちが、教えると言っては、少々おこがましいが、そのコツは充分に説明できると思う。まあ~、砦へ行こう』
 『ありがとうございます。ご一緒します。おいっ、テバン、みんなで荷物を持って砦へ行く。お前たちイリオネスどのと一緒に先に行ってくれ』
 彼らは肩に荷をかついだ。
 『イリオネスどの、オキテスさまにちょっと挨拶してきます』 と言って、オキテスの仕事場に歩を向けた。
 『おう、では行こうか。トリタス、俺たちは、ひと足先に行って待っている。広間の方に来てくれ』
 オキテスは、トリタスの話を聞いて、事の成り行きに滞りのないことを知った。
 『では、オキテスさま。これで私たちは砦の方にまいります』 と声をかけて、トリタスは砦に向かった。
 広間には、アエネアスも姿を見せていた。
 『おう、トリタスではないか。元気であったか。俺は見ての通りだ、すこぶる元気だ。イリオネスから聞いている。魚の干物のつくり方について、いろいろと話し合いをするそうだな。それはいい、大いにやってくれ。お~お、オロンテスも来たではないか』
 オロンテスも座に着いた。
 『おうっ、トリタスどの、よう見えられた。元気でしたか』
 『え~え、この通り元気そのものです』
 彼らは、挨拶を交わし、一同、席に着いた。

第3章  踏み出す  131

2011-07-27 06:12:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『トリタス、少し休んでいてくれないか。いま、手のつけている仕事をかたづけて来る。少しばかり大事な組み合わせをやっている、頼む』
 オキテスは部下の一人を呼んで、オロンテスに連絡をした。
 トリタスと五人の浜衆たちは、舟艇建造の浜の情景に感嘆して眺めいっていた。
 『トリタス頭、皆、懸命に仕事に打ち込んでいますね。船を造るのは、このような仕事の流れなんですね』
 『そうだ。トロイから来た者たち、なかなかやるな。彼らがこのような技術を持っているとは知らなかった。今の俺は、この者たちを尊敬の目で見ている。それにしてもたいしたもんだ』
 トリタスは、仕事に精魂をこめて、たずさわっている者たちを感心した眼差しで眺めていた。
 砦の方から四人の男たちが足早やでやってくる。イリオネスが先頭にたって三人の男たちがついて来た。
 『やあ~、トリタス、元気であったか』
 『イリオネスどの、久しぶりです。お変わりありませんね。お元気なのが何よりです。それにしても壮観ですね。浜は船造りに沸いていますね。ところで統領もご壮健ですか』
 トリタスは訊ねた。


 *訂正してお詫び申し上げます。
  昨日の投稿の最終行です。
      <オキテスうなづき>    を     <オキテスはうなづき>
  と訂正いたします。申し訳ありませんでした。

第3章  踏み出す  130

2011-07-26 06:46:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、杯の酒を一気に飲み干した。少量の酒が運搬別働隊の者たちの口を滑らかにした。彼らも肩の荷を降ろした。食事の場は、荷役運搬道中の話に花が咲いた。仕事をやり終えた者たちの心底くつろいだ姿がうかがえた。
 舟艇建造の場では、仕事の流れが軌道に乗りつつあった。部材がきちっと出来上がってくる、組み立て場に運ばれてくる、それを設計図と照合してくみ上げていく、しかし、舟艇が体を為してくるのは、まだ、少し先のことである。仕事にたづさわっている者たちが額に汗して、励んでいる姿がそこにあった。
 『やあ~、オキテスどの、ご苦労様です。連絡ありがとうございました。五人の浜衆を引き連れてまいりました。例の件、よろしくお願いします』
 『おうっ、トリタス、よう見えられた。見てくれ、浜はこの有様だ。いま、少しづつだが建造の調子が出てきたところだ』
 『それはいいですね。それにしても、皆、大車輪で仕事に燃えていますね。私もこのような情景を目にすることが大好きです』
 オキテスとトリタスが、舟艇建造の場の中で話し合った。
 『トリタス、干物づくりの要領の伝授は、2泊3日の予定でやるのだが、いいか』
 『え~え、いいですとも、そのつもりで来ています。よろしくお願いします』
 オキテスうなずき、仕事の場に目線を移した。

第3章  踏み出す  129

2011-07-25 07:29:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らの足運びは極めて慎重であった。注意を払って、できるだけ道路の凹凸を避けるようにして運行をはかった。浜までの中間地点を過ぎた頃、気にかけていた台車の不具合が発生した。3台であった。1台は、だましだましながらいけば何とか浜まではいけると判断した。2台は手のうちようがなかった。予備としていた台車を使用した。ここまで来て不具合の出てきた台車は、そろりそろりの運行で荷役の用を果たさせた。
 運搬は手間取ったが、何とか四苦八苦の末に業務を為し終えた。浜に着いて、アンテウスは用材を所定の場所に下ろし終えて、彼は『これで終わった』 と胸をなでおろした。頬を撫でて通り過ぎた風が心地よかった。彼は一同を集めて声をかけた。
 『おうっ、皆、大変ご苦労であった。ここに業務の完了を宣言する。この大役を無事に終えたことを皆に心から感謝する。ありがとう。さあ~、少々遅くなったが昼めしにしよう。昼めしは西門前の広場だ』
 一同は返事を返して広場へ足を向けた。そこにはささやかながら、彼ら一同の労苦をねぎらう準備が整っていた。
 オロンテスに報告を終えたアンテウスがアミクスら三人と連れだって昼めしの座についた。
 『お~い、皆、お前たち、ささやかだが心づくしの昼めしだ。アミクスにリナウス、何をやっている、みんなの杯に酒をついでやらないか、、』
 『え~え、一同、酒杯を手にして、隊長の『飲めっ!』 の掛け声を待っていますよ』
 『そうか、よしっ!』
  彼は、立ち上がった。みんなを眺め回した。
 『飲めっ!』
 出せる限りの大声をあげた。

第3章  踏み出す  128

2011-07-22 07:00:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼らは、一斉に積載に取り掛かった。アンテウスは、細心の注意を払って積載を点検していった。
 『お前らの造った台車は、この最終便が6回目の荷役だ。中には数台、例外もあるが、この荒れた道を重い用材を積んで5回もの荷役に耐えたのだ。今日が最終の荷役だ。お前ら、急がずともいい、舟艇建造の浜までの道を無事に運搬することだけを考えて行け。この業務はそれで終える、いいな。安全と無事故が第一だ』
 彼は、息を止めて大きく息を吸った。
 『では、出発する。者どもっ、出発っ!』 大声で号令を掛けた。一同から、
 『おうっ!』『おうっ!』 
 返事が号令にこだまする、台車のクルマが地を噛む音が響いた。
 アンテウスは、進み行く隊列を見送って、心なしに森を振り返った。
 用材を伐りだした木々の伐り株が真新しい。彼は知らず知らずのうちに頭(こうべ)を垂れていた。こみあげるえもいわれぬ感謝の念を覚えずにはいられなかった。
 『木々たちよ、我々の、俺たちの役に立ってくれて、ありがとう。必ず、カタチを変えて役立てるからな』
 彼は、木の伐り株がうなづいてくれるのを肌に感じた。

第3章  踏み出す  127

2011-07-21 07:05:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 舟艇建造のプロジエクトチームの面々が建造の場に集まってきた。パリヌルスが各担当から、昨日の仕事の進み具合を丹念に聞き取り、短いながらも適切に指示を与えていった。周りの者たちは、この情景を注意深く見つめていた。
 各自が担当の持ち場についていく、オロンテスと各役務の担当者が話し合う。オキテスが現場を見ながら、今日のワークスケジュールの指示を飛ばしていた。
 『各自、細かいところまで判ったな。今日から、舟艇の各部材が本格的に運ばれてくる。設計図をよく見て組み上げていくのだ、いいな。慎重の上に慎重を重ねて、仕事を進めるのだ。何かあったら、俺かカイクスを呼んで聞くのだ。いいか判ったな。俺もカイクスも持ち場を離れることはない。よしっ!各自、持ち場について仕事にかかれ』
 『おうっ!』『おうっ!』
 掛け声よろしく、一同は持ち場に散った。彼らの陽にやけた顔は、意欲に溢れ真剣みに満ちていた。
 用材の調達からスタートしたこの舟艇建造のプロジェクト、天候は荒れることもなく好天が続いていた。
 用材運搬の最終便を控えてアンテウスは、目つき鋭く伐りだし場に積まれた用材の傍らに立っていた。修復を終えた台車3台がある、引いてきた台車17台を合わせて20台の台車を丹念に点検した。その中から使用が危ぶまれる2台を省いた。
 彼は、大声で指示を発した。
 『積載にかかれっ!』
 運搬隊の全員が動いた。

第3章  踏み出す  126

2011-07-20 06:39:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜は明ける、空には一片の雲も見当たらず、そして、高く澄みきっていた。舟艇建造が始まった浜の朝である、曙の光の第一射が現場を照らし始めた。朝の水浴を終えた者たちが建造の場を眺めながら行き交った。
 秋の盛りを間じかに控えている、この時期、オロンテスは多忙であった。
 今朝も畑の耕作を担当している者たちを呼び寄せて麦の生育状態を訊ねていた。それから麦畑をを見回って、あれこれと指示をした。彼は、交易に備えて麦の出来具合をあれこれと胸で算をはじいていた。
 オキテスは、オロンテスと打ち合わせのうえ魚の干物づくりの指示を担当者と話し合っていた。
 『おい、どうだ、近頃は。魚の獲れ具合はどんなだ』
 『隊長、うまくいっています。安心しててください。舟艇の方が忙しくなってきましたね』
 短い会話のやりとりだが、彼らとの心は充分通じ合っていた。
 『あ~あ、それからだが、エノスの浜の浜頭が近いうちに浜に来る。魚の干物の特別の作り方を伝授してやらねばならん。そのときが来たらお前らよろしく頼むぞ』
 オキテスは、多忙の中で、トリタスたちと約束した魚の干物づくりのことに触れた。

第3章  踏み出す  125

2011-07-19 07:10:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら一行が舟艇建造の浜に帰り着いた。残照の浜は明るかった。アレテスは、早速、オロンテスに報告に及んだ。
 『運搬別働隊との打ち合わせを終えました。状況は、台車5台が使用不可となり、明日運搬の用材本数が18本となります。以上です』
 『よしっ!了解した。ご苦労であった』
 少々間をおいて、アンテウスが姿を見せた。
 『棟梁、今日の運搬業務、只今、終わりました。台車5台が使用不能になり、本日の用材運搬本数が5本少ない状態です。明日の最終便の用材運搬本数は13本と予定されていましたが、18本となります。台車5台のうち、3台が修復可能であり、現場にて修復しております。その者たちは、修復が終わり次第、現地を引き揚げて帰ることになっています。また、隊の者には、いま、台車を点検させております。不具合のある台車は、即、修理するように言いつけてあります。明日の運搬に万全の手を打ってあります。以上です』
 『おっ、そうか。台車の件については、アレテスからも聞いている。明日の運搬、とどこおりなく終えるようにな。アンテウス、大変にご苦労であった』
 『明日の運搬の件、安心していてください。午前中には終わる予定です』
 彼の報告のやりとりは終わった。
 森の現場で台車の修復をしていた者たちが揃って帰ってきた。アンテウスは彼らから報告を受けて『ご苦労』 と短い言葉でねぎらった。

第3章  踏み出す  124

2011-07-15 06:24:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~、それから、アンテウス。俺ら三隊、30人、君たちの最終便に同道して浜へ帰る、いいな。差し支えないだろう』
 『いいとも、いいとも、何かのときは手を貸してくれ』
 アンテウスは、気軽にこたえて、部下の三人の隊長を呼び寄せた。
 『いいか、三人とも、よ~く聞いてくれ。台車の使用できない状態はどんな具合だ。修復ができるのか、できないのか、どちらだ』
 『俺のところの2台は、修復すれば使用可能です』
 『俺のところは、全くだめです。車の破損です』
 『アバス、お前のところはどうだ』
 『俺のところは修理さえすれば、使用可能です』
 『よしっ、判った。修復可能は3台だな。一隊当たり一台だ。修復の人員を残して、その者たちに指示するのだ。修復を指示しろ。今日の最終の運搬を出発させる、いいな。人選はお前たちに任せる、台車をこの場で修理して、浜に帰るようにと言ってくれ。出発だ。台車の修理をその者たちに一任して、出発にかかれ。アレテスら、30人も俺たちに同道して帰途につく。いいな』
 『判りました。早速、手配して出発にかかります』
 アンテウスは、手配を完了した。一行は、運搬の途についた。
 『アンテウス、どうだった』
 『おう、アレテス、万事、手配は終了した。さあ~、一緒に行こう』
 彼らは、伐りだしの場をあとにした。

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