『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  155

2012-10-31 07:07:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽は沈み、宵闇が船団をつつんできていた。
 パリヌルスは、暗闇を通して島に突き出ている半島を視認して、半島(現在のアクロテイリ半島、この呼称が正しいか正しくないかは不明)の右手側へ船団を誘導していった。
 かなり遠くに突き出している半島(現在のスパタ半島)は暗さゆえに目にすることはできない。このふたつの半島にはさまれた大きな湾である。この時代、この湾に名があったかどうかについては不明である。半島間の距離はおおよそ30キロ以上離れている。
 船団は、半島の端を左手に見える地点に到達した。
 『カイクス、停船信号だ。急げ!』
 『そして、ギアスの舟艇を呼んでくれ』
 矢継ぎ早やの指示である。舟艇はパリヌルスの一番船につかず離れずの間隔を保ちながら航行していたのである。
 『お~、来た来た。ギアス、もっと近くに寄れ』
 『ギアスっ!俺の声が聞こえるか』
 『聞こえます!』
 『よし、各船に伝えてくれ!このあとオキテスの船が先頭に出て、船団を誘導する。彼の船に続けと伝えてくれ。いいな』
 『判りました』
 パリヌルスは、暗闇の洋上をオキテスの船に接近していった。声の届く距離に近づいた。闇を通して、舳先に立っているオキテスの姿を見とめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  155

2012-10-31 07:07:18 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 陽は沈み、宵闇が船団をつつんできていた。
 パリヌルスは、暗闇を通して島に突き出ている半島を視認して、半島(現在のアクロテイリ半島、この呼称が正しいか正しくないかは不明)の右手側へ船団を誘導していった。
 かなり遠くに突き出している半島(現在のスパタ半島)は暗さゆえに目にすることはできない。このふたつの半島にはさまれた大きな湾である。この時代、この湾に名があったかどうかについては不明である。半島間の距離はおおよそ30キロ以上離れている。
 船団は、半島の端を左手に見える地点に到達した。
 『カイクス、停船信号だ。急げ!』
 『そして、ギアスの舟艇を呼んでくれ』
 矢継ぎ早やの指示である。舟艇はパリヌルスの一番船につかず離れずの間隔を保ちながら航行していたのである。
 『お~、来た来た。ギアス、もっと近くに寄れ』
 『ギアスっ!俺の声が聞こえるか』
 『聞こえます!』
 『よし、各船に伝えてくれ!このあとオキテスの船が先頭に出て、船団を誘導する。彼の船に続けと伝えてくれ。いいな』
 『判りました』
 パリヌルスは、暗闇の洋上をオキテスの船に接近していった。声の届く距離に近づいた。闇を通して、舳先に立っているオキテスの姿を見とめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  154

2012-10-30 08:34:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスはこの期に及んで迷ってはいられなかった。しばし考えたうえで決断した。
 オキテスの船に先導させる。その地点を決め、船団統御をどのようにするかを決めた。
 この風の強さと風向き、波の状態、月の出る時刻等あらゆる条件を思考の領域に入れて考えた。
 『大丈夫だ、いける。カイクス!』
 『はい、隊長!』
 『カイクス、よく聞くのだ。今、航海の正念場だ、いいな。キドニアが指呼の地点に、あと一刻余り(約2時間)でさしかかる。その地点で、上陸予定地への先導役をオキテスの船にゆだねる。かの船にはクリテスが乗っている、判るな。今は薄暗い宵の状態だが、その頃には真っ暗闇だと思う。頼みにしている月の出はかなりおそいはずだ。いいか。カイクス、これから段取りを説明する。俺の指示で松明信号だ。伝えることは『帆を降ろせ、手漕ぎとせよ』だ。次はこの船の洋上停船だ。そこで状態を見てオキテスの船に近づき、先導役の引継ぎをやる。また、ギアスの舟艇を呼んで、先導役が交替することを各船に伝える。以上だ』
 『はい、判りました』
 パリヌルスは、洋上における作業及び上陸地点への誘導がとどこうりなく終えるように月の出のタイミングと作業時の一致を念じた。
 念じて実現することではないのだが、から念じでもいいと強く念じた。
 『それはそれでいい、徒労に終わっても仕方がない』
 念じる一方で諦念の想いが心の底にあった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  153

2012-10-29 06:17:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『風強し、西へ流されるを注意せよ!』であった。信号を受けた各船は、進行方向に注意を払った。
 船団は順調に南下している。陽射しを投げ下ろしている太陽も西に傾いてきた。間をおかずに日が暮れる頃合いとなってきていた。クレタの島塊の西部、目指す終着予定地が宵闇のはるか彼方にかすんで見えていた。
 パリヌルスは、迫り来る暗闇の中で上陸地点の探索をどのようにするかを思案した。上陸地点まではあと200スタジオン(約40キロ)余り、所要時間は一刻半(3時間)余りと判断した。
 『なあ~、カイクス、上陸するまでは、クレタには着いたとは思えない。通常の停泊地であればもう着いたと安堵するところところだが、そうはいかない。頼むぞ』
 『そうですね、知らぬ土地というのは、ぬぐって落とせない不安がつきまといますね』
 『全船を浜に誘導し終えて、始めて俺とお前の肩から荷を下ろせる。皆に夕めしをさせておいてくれ』
 パリヌルスは思案し続けている。オキテスの船にはクリテスが乗っている。どの地点でオキテスの船に先導させるか。キドニアの湾内にはいってからにするか、また、キドニアから突き出ている半島の右手に進むか、左手に進むか、を思案した。
 彼はこのことについて、打ち合わせを丁寧にやり、出航前にクリテスに聞いておくべきであったと悔やんだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  152

2012-10-27 07:05:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『この道具を使って風力を測りますね。風力感知がこれくらいであった場合、海面が波立ち、風にあおられて波頭が飛ぶようになります。そのようになれば漕ぐ必要がなくなります。帆にはらむ風の力だけで船は我々が想定する船速で進みます』
 『なるほど、そのようになるのか。よく判った。そうすれば海の状態の今が適確に読めるわけだ。そのように今がわかると正しく指示を出すことができる。いい道具だ。盲目状態でやっている航海がそうではなくなるわけだ。この道具のこと、パリヌルスは知っているのか』
 『はい、彼は知っています。この航海の途中で彼に見せて二人でこの道具に名前をつけたようなわけです』
 『ほっほう、道具の名前、何んと付けたのだ?』
 『はい、『風風感知器』と命名しました』
 『『風風感知器』か、それはいい名称だ』
 アエネアスは、オキテスの名案の道具に感心した。会話を交わしている間に風は風力を増してきていた。一番船から信号が発せられていた。
 『漕ぎかた止め!帆走のみとせよ!』 と伝えていた。
 船団は順風万帆といった状態で航走した。パリヌルスは風向き具合いも読んで続けて注意信号を発した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  151

2012-10-26 07:23:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ではでは、統領。説明いたします。この矢印板が風がどこから吹いてきているかを診る、風向感知板です。いま、吹いているこの風は、真北からではなく少しですが東寄りの方向から吹いてきていることが判ります』
 『なるほどなるほど、では、これはどんな役目をしているのかな。小刻みに震えているではないか』
 『これはですね、統領。風の力がどれくらいなのかを感知判断するのです。判断については只今研究中です。どれくらいでどうなるのか、どのように判断して如何なる指示を出すか。しっかり研究しています』
 『なかなかの道具だな。お前、こんな道具を 何時、作ったのか』
 『これはですね、エノスを出航する五日前くらいに造ったようなわけです』
 『ふっふ~ん、なかなかよくできている。よく考えたな。これは至極、便利重宝な道具だ。それで、いま、どのように判読したのか、説明してくれるかな』
 『はい、判りました。風向きが少し東寄りから吹いてきています。また、この風力では、船は西へ流されませんが、風力がもう少し強くなると、知らず知らずのうちに西へ流される危険が出てきます。帆の風のはらみ具合いだけでは判りかねるところです。また、風力がこれくらいでは、想定している船速を維持することができません。船速を維持するためには、櫂で漕がなければならないと判断されます』
 『なるほどな。オキテスお前の説明でよく判った。これは感動ものだな』
 オキテスは、風風感知器に手を添えて動かしながら丁寧に説明した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  150

2012-10-25 07:18:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風は北から来た、帆が程よく風をはらんでいる、船を押した。帆走、漕走、ふたつの推進力で航走した。
 オキテスは、例の風風感知器を持ち出して風に向かって構えた。彼はひとりごちた。
 『風向きはやや東寄りから来ている。風力がこの程度なら、まだ櫂は上げられないな。西へ流されないように要注意だな』
 オキテスはチエックを終えた。帆のはらみ具合を見つめた。
 『うっう~ん、この程度なら西へ流されることもあるまい』
 彼は、船の進み具合いを念頭に前を行く船団を眺めた。
 アエネアスは、オキテスの所作を注意深く見ていた。彼はチエックの終わるのを見てオキテスに声をかけた。
 『おっ、オキテス。お前、風変わりな道具を使っているな。ちょっと見せてくれ』
 『あ~あ、これですか。どうぞ』
 『この道具の使い方を説明してくれないか』
 『はい、統領。これはですね、まず、吹いてくる風に向けてこのようにして構えるのです』
 アエネアスは、船尾のほうに向き直り、風に向かってオキテスの言うように道具を構えた。
 『オキテス、何がどうなのかを説明してくれるかな』
 オキテスは、統領の質問に丁寧に答えるように頭の中で道具の機能を整理した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  149

2012-10-24 07:15:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船団は南下を続けている。不満足は順風でないことであった。
 太陽が中天に差し掛かってきている。南中のときである。パリヌルスは船団の進行方向を確かめた。方角時板も取り出して確認に及んだ。間違ってはいないことを確かめて安堵した。
 彼のもうひとつの懸念である出航してからの進捗距離はどうだろうか、彼の想いでは終着地点までの2分の1地点には到達していたかった。これについては確認する術がなかった。勝手に想像するだけであった。ただ到着予定地に近づいていることだけを信じた。そのように信ずることのみで、それ以外に為すことができないもどかしさであった。
 太陽の陽射しが海を暖める、自然の力は偉大である、風が起こりつつあった。
 パリヌルスとオキテス、二人のシンクロナスな共時性思考と行動は、かすかな徴候の変化を見逃すはずがなかった。船団の先頭と殿りを行く二人は、マストのトップに取り付けている吹流し旗に目を運んだ。
 『う~ん、風になびいている。来たっ!船を押す風だ!』
 二人は、同時に展帆を指示した。
 『カイクス、信号だ。急げっ!展帆を後続の各船に連絡するのだ。『順風!展帆しろっ!』だ。そして、『帆走しろっ!』だ』
 『はい、判りました』
 各船は、全展帆として波を割った。
 櫂が軽くなる、ピッチを上げた。船足が速くなった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  148

2012-10-23 07:54:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 月の光は先に浜を出た各船を煌々と照らしていた。
 オキテスは先行する各船を眺めながら航海の無事を祈らずにはおられなかった。それが彼の自然体であった。うしろをふりかえる、空を見上げる、荷車(大熊座)を視認する。星座の位置がエノスで見るより低い位置に見える彼は首を傾げた。思考はそれより先へは進まない。この時代の概念では、世界は平板であり、盆の上に存在している。地球が球体であることに、まだ気がついていない時代であった。
 彼は荷車(大熊座)が進行方向の真っ直ぐうしろにあることを確認した。
 東の空が明るくなってきていた。星がひとつ消え、ふたつ消え、彼方に太陽が顔を見せた。西の空には消えやらぬ星がひとつ、ふたつある、雲量はわずかであった。冷気が肌をうつ、まさに航海日和である、漕走は大変だが気にかける天候の心配のないことが安心であった。
 木板は、規則正しくリズムを打ち出していた。船速の想定時速は10キロメートルぐらいであろう。彼の船は展帆していた。進行風圧で逆はらみ状態である。彼は考えた。先行く他船に目をやった。三番船も四番船もオロンテスの船も半展帆としている。オキテスはためらうことなく、帆をおろす指示を出した。
 『お~いっ!帆を降ろせっ!』
 心中を占めている想いは『順風よ吹けっ!』であった。
 そのような状況の中で、精神的にも、思考にもゆとりができていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY             第5章  クレタ島  147

2012-10-22 11:47:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 月照の浜に檄が飛び交った、活気づいた。船が海に下ろされていく、浜は白砂であり、月の光で思いのほか明るい。各船からの準備完了の報告がパリヌルスに届く、船長、副長をその場に残らせた。
 『オキテス、船団の船列構成は、昨日打ち合わせたとおりで行く、俺の一番船は船団の先頭を行く、皆に俺に続くように指示して、浜から送り出してくれ頼んだぞ』
 『おう、判った』
 オキテスは、船長、副長たちに指示を出していく。二番船、三番船、四番船と適当な間隔をあけて送り出した。彼はここでちょっと戸惑った。
 オロンテスの船を先にしようか、俺が先に出ようかと迷った。
 『オロンテス、お前の船が先だ。殿りは俺の船だ』
 『はい、判りました。では、先に行きます』
 オロンテスの船を見送ったオキテスは、船上にのぼった。彼は舳先にいるアエネアスと二言三言、言葉を交わしてから船上の各担当者に指示を出し、ミロスの浜をあとにした。
 まだ黎明には間があり、ささやかな陸風が吹いているが、船を押す力は無かった。木版がリズムを打つ、海面が泡だった、海面に泡の航跡を残して船は前進した。