『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  6

2011-01-31 09:49:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人の交わす会話は、短いものであったが、親子の情が充分に通い合う会話であった。
 砦の日常は落ち着いてきていた。この様に落ち着いた雰囲気の生活風景は、砦の者たちにとって、戦いに明け暮れた10年の長き間、味わったことのない心象であり、生活風景であった。彼らが味わう平穏な生活も、しかし、平和と呼べるものではないものであった。
 アエネアスの心の中に漣が立っている。この漣が大波に変じて、風を呼び、大きな風浪となって、心と身体が入れ替わり、心の中にあった波の中に身をおき風浪に翻弄される我が身の姿がまぶたの裏に見え隠れした。
 イリオネス、パリヌルス、アレテス、オキテスらアエネアスの取り巻きの連中の心の中にも、個人差はあるものの、小さな波が立ち、風にもてあそばれていた。彼らのそれは、アエネアスの心象風景には至っていなかった。
 アエネアスは心に決めた。疑わしきは正し、知るべきを知って起とう。この地より建国への航海に出ようと決心した。
 彼は、今日まで生きてきた年月、星霜を振り返った。失敗を怖れず建国の道を踏み誤らない自信と目標をたがえることなく目指して進む自分をイメージして決意した。
 それは、ゆるぎない決意であることを何度も心の中で繰り返して、閾下に潜む意識の中に刷り込んだ。

第3章  踏み出す  5

2011-01-29 08:35:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、この不確かなものに疑義をもち聞きこそしたが信じはしなかった。しかし、そのうちの一つ二つが的を得ているのに気がついた。彼は、その神託の全てを捨てることはせず、思考が迷路に迷い込んだときに参考にしてみようと、そのうちの二、三は心のうちに留め置いた。人間が生きていくとき、二択、三択の岐路に立つときがあるが、彼はそのようなときには、自分自身が導き出した答えに重きを置いて結論を下した。これには、彼なりの信条を持っていた。それは『祈りの力』であった。『祈りの力』こそ選んだ結論の正答率が極めて高いことが、今日まで生きてきた彼の強い信条となっていた。。
 彼は、念には念を入れて考えた。彼は進むべき方向を確かめ決断のために知るべきことを知ることにした。
 ユールスを連れて浜へ向かう、今朝の空模様は、初秋の頃にある嵐の前兆を思わせる雲が空を覆っていた。
 ユールスが声をかける、
 『お父さん、今日の海、いつもの青さと青さが違う』
 『ユールス、自然はだな、素直に答えているんだよ』
 <海は、何故青いか>この疑問に、この朝の海の色は答えていた。
 二人は海に身を浸す、海の水には、あの夏の日のなまぬるさが感じられなかった。
 『おい、ユールスどうだ。今日の海の水は』
 彼は、肌に感ずる海水温の具合をユールスに聞いた。
 『う~ん、ちょっぴり冷たい』
 『うん、そうだな。季節が変わろうとしているのだよ』

寒中、お見舞い申し上げます。

2011-01-28 08:32:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 近年にない寒い冬ですね。
 私の今は、老いぼれています。
 私たちが小学生であった頃の冬は、今年のような冬であったことが記憶の中にあります。
 時代の変化の中にあって、防いでも防いでも防ぎきれない事象があります。
 これでもか、これでもかとやっても、相手も、これでもか、これでもかとやってきます。
 負けてはいけないと思っても、心が挫けることがあります。
 そのようなときには、ささえてあげましょう。
 喜びの明日が来ることを信じて、勇気、元気の手をさし伸ばそうではありませんか。

       平成23年1月28日         やまだ ひでお

 お詫びいたします。
 1月24日の投稿で間違いをやりました。深くお詫びして、訂正いたします。
 第3章 踏み出す 2  最終行
 こじ開け明けようと心に決めた。 を 
 
 下記のように訂正いたします。
 
 こじ開けようと心に決めた。

第3章  踏み出す  4

2011-01-28 07:41:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスにとって肯ける内容の話であったが、彼は父の知るところは、それくらいであろうと推し量って話をきりあげた。
 彼は、自分を含めてトロイ人が、諸国の人民、近隣の土着の者たちに比べて、卓越した資質を有していることを理解した。しかし、文化文明の進歩については、いまひとつ優位なポジションにないことも判った。
 この時代にあって、文化文明の進歩が、国土の広さと、その広い国土に住んでいる住民の数のなせる技でもあると、単純に結論を下して、己のみの思考とした。
 彼が次に知りたいことは、トロイ戦役後のトロイは、今どうなっているか、そして、近隣諸国は、北部エーゲ海、エーゲ海の多島部、エーゲ海沿岸諸国、エーゲ海南部等の現況であった。
 その中で父の話に出てきたクレタ島のこと、エスパニアのことについて深く知りたかった。エスパ二アについてはあとでもよく、とりあえず、クレタ島について知ろうと心を砕いた。
 それは、父の話の中にあった、マユツバものではないかと思われる神託のことであった。デルフオイ島、アポロンの神託であった。神託とは、極めてあいまいなものであり、意味の解釈によって、正しくもあり、不確かでもあり、信ずるに足るものであるわけがなかった。神託というあいまいこの上もないものがもつ、あやしげな誘導の代物であったことはいうまでもない。所詮、この時代の社会の中で、この業をなす者の思考が少ない情報ソースでもってだす答えが確かであるわけがなかった。
 アエネアスは、慎重に思考を進捗させた。

第3章  踏み出す  3

2011-01-25 13:36:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、今の砦の状態、トラキアの地にいては建国の事業を進めることは不可能であると判断していた。まず、子供のいないことである。これでは、20年先、30年先の国の姿が見えなかった。
 彼は、真剣に考えた。トラキアの地にあっては、自分を偽れないことであり、自分を偽らない限り、念願の建国という大事を為せないことであった。
 彼の決意は、結実に近いところにいることがわかった。彼と心を同じくしてトロイの地をあとにしてきた者たちも充分とは言えないまでも心身が癒されていると判断していた。
 彼は、背中を押されているのではないかと思うことを感じていた。『いま、踏み出す』時であると強く認識した。
 彼は、父、アンキセスとひざを交えて話し合った。互いに力をこめての話し合った。
 父はトロイ人としての民族の歴史について知る限りのことを話してくれた。トロイの長きにわたった歴史、民族としての優越性、近隣の土着の民には見られない優れた血の歴史を語ってくれた。
 話は進んで我が家族の血筋についても語ってくれた。しかし、わが子、アエネアスのことについては、口は重かった。いやいや、しぶしぶ、アエネアスのことを話してくれたのである。前置きのひと言を話すのに大層な時間をとって、祈るような目つきで、誰かに許しを乞うようにして、訥々と短く語って終えた。その話は一瞬で終えた。

第3章  踏み出す  2

2011-01-24 07:29:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、ユールスとときを過ごしながら、あれを考え、これを心うちに決めるというように自分を見つめていた。
 彼は、脳漿をしぼった。命題は何か。『建国』と『今、なすべきは』を行きつ戻りつしながら考えた。
 彼の思考のベクトルは、命題を指し示した。
 『俺たちは、どこへ』を考えるべきであると気がついた。これを考えるにはどうするか。彼は、『俺たちは、どこから』を解明することにあるという思いに至った。
 それには、父、アンキセスと向き合わねばならない。トロイ人のルーツを探った。トロイ人を取り巻く民族は、ギリシア人は、トラキア人は、そして、西アジア土着の民族はと考えた。また、自分の体内に流れる血の源流についての答えを探し求めた。
 この時代にのなかにあって、トロイは、歴史を有した成熟した国の一つでもあったのである。アエネアスは、思っていた。自分自身の出自に付いても明らかにしておかねばならない、ユールスに対する父としての責務でもあった。このことについて、父、アンキセスは黙して語りたくない秘密があるようにうかがわれた。
彼は、近いうちに、この秘密の扉をこじ開け明けようと心に決めた。

第3章  踏み出す  1

2011-01-21 07:47:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 生殺与奪の争いは、世界の各所で起きている。集団の性である。集団が生き残っていくため他の集団を女だけを残して、男を全て抹殺していく。高い次元の思考ではないが、ゆるがせにすることのできない重要なことであった。集団の目指す秩序と集団の明日のためと集団の欲望と満足を満たす、これらのことが集団の支配判断の根源であったことは否めない。集団を率いる『長』には、力の制御が働く、精神性とか倫理性について、考えている余裕は皆無であり、力こそ正義であり、その力で集団を統率し集団を満足させる、その力に人々が従った時代であった。建国も種族の集団の発展があってこその建国である。
 アエネアスは、いま、トラキアの地にあって自分自身を見つめるときが来ていた。
 青く深く、そして、高く澄み渡った空が頭上にあり、地を覆う空気が乾いて感じる季節であった。オロンテスが皆を指揮して丹精した畑地の作物も稔りのときに至ろうとしていた。
 アエネアスはユールスと浜の木立の中にいた。ユールスも少なからず成長していた。腕、足、胸に筋肉がつき始めていた。アーモンドの収穫以後、ユールスは、父と過ごす時間が多くなっていた。アエネアスにとっても、ユールスとともにいると、今は亡きクレウサを身近に感じていた。
 イリオネス、パリヌルス、オキテス、アレテス側近たちが、ユールスの遊ぶ武器を作ってくれていた。パリヌルスは、船を使ってユールスを海に遊ばせた。イリオネスは、例の道具のこともあるが現代から見るといかがわしいところもある天文についての知識も与えた。
 ユールスは、冴えた夜空の星を見て、祈りをこめて考えることが好きであったようだ。

第2章  トラキアへ  381

2011-01-20 08:03:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 宴の場から拍手と歓声が湧き上がる、興奮の波濤が渦巻いた。
 食材を焼く匂い、煙が立ちのぼる、老いも若きも幼きも酒杯、食べ物を手にして会場を行き交った。誰しもアーモンドの大収穫を喜び合った。
 アレテス、ダナンが余興に計画したのは、レスリング競技であった。会場の中央で競技者は組み合った。勝者には両手一杯のアーモンドが賞品として渡された。腕、力自慢が技を競った。日がな一日、浜はにぎわった。酒を酌み交わし、よく食べた。そして、談笑に時を過ごした。
 にぎわった浜に日没のときが訪れる。空も海も波も浜に集っている者たちも砦も、こがねの茜色に照り映えた。そして、藍色のとばりが濃さを増して覆う頃、浜にいた人影が絶えていた。
 文明が開け進む、この時代の営みの一日は、このようにして暮れていったのではなかろうかと、私は想像している。

第2章  トラキアへ  380

2011-01-19 09:59:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがアエネアスに声をかけた。
 『統領、始めます。ひと言お願いします。』
 『もう、始めるのか。早いがいいかな』
 アエネアスは、何かを待っている風情であった。宴に集まった者たちは、口々に『熱い!暑い!』といいながら、各所に焚き火を燃やし、食材を火にあぶりはじめ、宴の始まるのを今か今かと、汗を滴らせてまっていた。そのとき、アエネアスが待っていたオロンテスが顔を見せた。
 『お~お、オロンテス。できたか。ドレドレ』
 アエネアスは、二、三粒を手にとって、口に放り込んだ。
 『お~っ!これは旨い!オロンテス、上出来だ。よし、よかろう』
 彼は、一晩考えた口上を言い終えて、会場を見回した。
 『ところでだ一同、オロンテスがアーモンドを燻し煎りしてくれた。皆、味わってくれ』
 オロンテスは手伝いの者にいいつけて、皆のところへ配った。
 皆の手がアーモンドに伸びる、口に放り込む、歯音を響かせた。
 『お~おっ!これは旨い』
 一同が感嘆の声を上げた。と同時に、イリオネスが大声で宴の開始を告げた。

第2章  トラキアへ  379

2011-01-18 07:25:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、かなりの量のアーモンドの殻を割り、中の『仁』いわゆるアーモンドの実を取り出し、大なべにいれて、燻し煎り焼きにしている。
 『おい!どうだ。こんなもんでいいか』
 彼は、塩を振りかけながらアーモンドの実を煎り焼いた。
 『これくらいで足りるだろう。おい、食べてみろ』
 『おっ!うんまいっ!オロンテスさん、旨いです。久方ぶりに口にするアーモンド感激です』
 『これだけあれば充分だろう』
 『よしっ!間に合った。全員、感動するぞ。俺は人を驚かすことが大好きなのだ』
 アーモンドは燻し焼いたとはいえ、ちょっぴり生臭かった。しかし、思ったより香ばしい味がした。
 『おい、皆、聞け。これを30くらいに分けて、浜に運ぼう』
 浜には、宴の準備が整いかけていた。
 アレテスがイリオネスに声をかけた。
 『軍団長、例の道具で時を計ってください。太陽も高みに昇っています。みんなも集まったようです』
 イリオネスは、例の道具を袋から取り出し、陽の影の向きを確かめた。
 『アレテス、まだ、少々、間がある。だが、皆も集まったようだな。楽しいことは待つほうが、くたびれる。いいだろう、始めよう』