『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  957

2017-01-31 15:28:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二番目に会場に姿を見せたのは、五番船組のパン工房の連中である。セレストスを先頭にして歩調を整えて入場してくる、次に姿を見せたのは、アレテスの率いる小島の連中、一番船組の連中である。四番船組、六番船組の連中と続く、マッチスが統領、軍団長を案内して到着する。最後にパリヌルスの二番船組が到着して全員が定められた場所に落ち着いた。
 リナウスが武闘訓練の場の入り口に立って順次到着する彼らを出迎えたのである。各船組の連中が占める場の左端に統領、右端に軍団長の席が設けられている。リナウスは委員たちの立っている位置を確認して、一族全員が座している場を確認した。
 彼は統領の前に立つ、一族全員が参集したことを告げる、統領に体技競技大会の開会の宣言を依頼した。
 承諾する統領、全員が集う場の中央に立つ、統領が競技大会開会の宣言の文言を述べる、それに応えるように、一番船組のアレテスが大会参加者としての宣誓を述べる、
 競技大会開催の興奮がスパークする、スパークが場の爆発を誘発する、参集している一同から拍手と大歓声が沸き上がった。拍手と大歓声の嵐がおさまったように感じられたが、どっこいそうではない!再び拍手と大歓声が会場に轟いた。
 拍手と大歓声のおさまりを待つリナウス、その時が来る、彼は中央に立つ、競技大会、1番目の種目であるスタジオン往復競走の開始を告げる。
 『一番船組の一同スタートラインにつけ!』
 委員の二人がリードして、彼ら一同をスタートラインにつかせる。100人に及ぼうとする大人数である。委員が彼らに競走の要領を伝える。
 リナウスは、スタートの合図を全員に伝え、一時に伝える方法を考えていた。
 彼は、スタートラインの前方10メートルくらいの地点に立って聴覚と視覚の両方に伝えることにしていた。
 大き目の木板を音が響くように工夫し、木板をたたく棒もハンマー状に仕上げ、木板をたたくと同時に草を上方に放り投げるように二人の委員を介添えにして立った。
 リナウスが大声で叫ぶ。
 『全員!位置につけ!』
 一同を見渡す。
 『用意!』と叫んで、渾身の力で木板をたたく、草が宙に舞う。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  956

2017-01-30 09:09:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 リナウスは、跳ね起きた。
 『おう、満点に星じゃないか。やったぜ!』
 夜はまだ明けきっていない、彼は起き上がる、戸口から外に出る、清澄な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 昨夜、就寝前に整えておいた木の幹を伐る鉈を身につける、足ごしらえを確かめる、今日の一歩を踏み出した。
 武闘訓練の場の裏山へ薄明の道を歩む、歩を進める、夜が明けていく、裏山の目指す箇所につく頃には周囲が見通せるくらいに明るくなった。
 彼は裏山の一角にあるオリーブの自然林に目をつけておいたのである。
 陽が昇る、第一射が届く、オリーブの葉先の朝露がきらりと陽の光をはね返した。
 携えてきた鉈を右手に握る、渾身の力で鉈の刃をオリーブの木の幹に打ち込んだ。洗心の一撃で伐り離す、オリーブの木の幹を慰撫する気持ちでさすった。
 伐りとった枝を手に取って見る。『おう、これくらいの枝を6~7本といこう』とひとりごちて、作業を進める、瞬く間に作業を終えたリナウスは、オリーブの林をあとにした。
 夜は明けきっている、運ぶ足が朝露でしっとりしてくる、足裏が滑った。
 伐りとってきたオリーブの枝を小屋前のテーブルのわきに下ろす、枝を手に取る、彼は余念を持たず、ひたすらに、次にやるべき作業に取り掛かっていく。
 競技大会において感動を与えるに欠かすことのできないオリーブの冠を作ることに五体を集中させた。
 背中に声がかかる。
 『委員長、おはようございます』
 彼は振り向く、そこにマッチスが立っている。
 『おう、おはよう』
 『委員長を宿舎に訪ねました、こちらであろうと思いまいりました。オリーブの冠作りですね、手伝います』
 『おう!』
 リナウスは冠作りの手を止めない、マッチスはオリーブの小枝を幹から切り離し整えていく、作業がはかどる。
 『おう、マッチス、ありがとう。作業が終わった』
 委員たちが姿を見せる、彼らと大会運営について打ち合わせる。
 リナウスは競技予定の1番にかかげたスタジオン競走は、取りやめて、スタジオン往復競走のみとすることを一同に告げる。そして、委員各自の役務を確認して大会参加者たちの到着を待った。
 1番に姿を見せたのは、オキテスの三番船の一同である。担当が所定の箇所に案内する。彼らは大会会場を見渡す。
 リナウスはマッチスに指示をする。
 『マッチス、統領と軍団長を呼びに行ってきてくれ』
 マッチスは走った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  955

2017-01-28 08:58:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 綱引き用の綱を肩に担いだ長蛇の一群が姿を見せる。整った律調で歩んでくる。掛け声も前部の者たち、後部の者たちが交互に掛け合って歩んでくる。
 リナウスが走る、先頭に立つ、先導する、決めた個所へと一行を導く、歩みを停止する、ところを一瞥する。
 綱の中央をリナウスが打ち立てた2本の杭の間に位置させて地上に下ろした。
 『おう、一同ご苦労であった』と言って、目を合わせた。
 リナウスはその時になって、統領と軍団長の姿に気づいた。
 『ややっ!これはこれは!統領ご苦労様です。また、軍団長にもお世話をかけたようですね。ありがとうございました』
 『おう、リナウス、ご苦労!会場の設営だが終わったかな』
 統領がリナウスに問いかける。軍団長は各所に建てられている棒杭、立て札の景色を眺めて、うなずきながらリナウスに言葉をかけた。
 『おう、リナウス、お前らが作った木板を見て、統領も俺も状況の大体のところを理解している。作業のすべてが終わったのかな?』
 『はい、これから、委員ら全員に状態を説明しながら、最終点検をします。彼らから意見を聞いて、修正すべきは修正作業を行います。それと同時に、彼らに大会挙行時にやるべき役務の説明をします、そのあと、一同と打ち合わせをして、今日の作業の終了です』
 『それに統領と俺、同道していいかな?また、打ち合わせの場に同席していいかな?』
 『はい、どうぞ、同道、臨席してください。もし、意見がありましたら言ってください、いただきます』
 『解った。ありがとう。作業を進めてくれ』
 『おう、君ら、綱の運搬に手を貸してくれて、ありがとう!感謝、感謝』
 リナウスは綱の運搬に手を貸してくれた建造の場の者たちに礼を言った。
 リナウスは忙しそうに立ち回っている。彼は、委員ら一同を引き連れて設営した競技大会の会場を巡回して、大会運営に担当する役務を説明した。そして、彼らの意見を収集した。
 統領と軍団長もリナウスの説明を聞きながら、頭中に競技大会で展開する情景を描いた。
 巡回を終えて、総員参加の打ち合わせを行う、彼らは、この期に及んで、委員長リナウスの意図を理解し納得した。
 一同から返事が返る。
 『委員長、委員長の考え、俺たちが行うべきことがよく解りました。明日行う競技大会がわれら一族が心から楽しめるよう、充分に配慮して、役務を全うします。安心してください。本日は大変にご苦労様でした』
 打ち合わせが終わると同時に作業の完了も告げて解散した。
 『一同!ご苦労であった。君らの働きに大感謝だ』
 リナウスにはもう一つ仕事が残っている。
 参加者に感動を届けたい、表彰のカタチをどうするか、賞品を何にするか。
 マッチスに相談して、夕刻に至ってオロンテスと打ち合わせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  954

2017-01-27 16:11:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『諸君!このあとの作業について説明する。君ら一同は、建造の場のドックス棟梁のところで綱引き競技用のロープを受け取ってきてほしい。運搬に人手が足りないと感じたら、ドックス棟梁に頼んで人手を借りてくれ』
 『委員長、綱引き競技に使うロープの太さ、長さはどれくらいですか?』
 『おう、ロープの太さは、そうだな、お前の腕の手首くらいの太さだと思ってくれ。長さは、3分の2スタジオンくらいだ』
 『ほう~、けっこう太くて長いですね。重量もそれなりと考えられますな。ドックス棟梁に頼んで人手を借ります』
 『おう。そうしてくれ』
 リナウスは一同と目を合わせる。
 『マッチス、君は表示立て札を仕上げてくれ。君と俺の二人で各所に立てる。表示する文字を書き入れて完成させてくれ。地面に突き立てる方を削ってとがらせる、それを忘れるな』
 『はい!解りました』
 『以上だ!さあ~、一同いいな。やるぞ。小休止は終わりだ』
 一同が一斉に立ち上がる、彼ら一同は建造の場へと歩を運ぶ、リナウスとマッチスは表示立て札の作業に取り掛かった。
 『マッチス、杭に取り付けた表示板に<1>から<6>までの数字を書き入れてくれ。出来上がったら二人で表示個所に建てる。場所はスタートのラインの後方だ』
 『はい、解りました』
 マッチスはテキパキと事を処理していく。
 『出来上がりです。立てましょう』
 『おう!』
 リナウスは、立て札打ち込み用のハンマーを手にして、表示場所に歩を運ぶ、まず、<1>の立て札を立てる。次の立て札を立てる個所は歩幅で決める。リナウスは、<1>の立札を立てた個所より、20歩の地点に<2>の立て札を立てる、その手順で<6>までの立て札を立てた。
 『おう、次は<スタート>と書いてくれ』
 『はい!』
 立て札が瞬時に出来上がる。
 『次は、<ゴール>だ』
 <スタート>と<ゴール>の該当場所に立札を立てる。
 『棒杭の余分があったな』
 『はい、あります』
 『2本持ってきてくれ』
 『解りました』と言って棒杭を取りに走る。
 『委員長、この2本は、地面に突き刺す部分の削り処理がしてありません』
 『そうか』と短く答えて、腰につけている剣を抜いて、手っ取り早く、突き刺す部分の削り処理をする。
 リナウスは、この2本の棒杭を立てる個所をすでに立てた棒杭を目安に目測で箇所を決めて地面に建てた。
 『これでよしだ。マッチス、表示立て札の作業これで終了だ』
 その時、遠くから『よいさ!よいさ!』の掛け声が聞こえてきた

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  953

2017-01-26 15:36:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『委員長、全員揃いました』マッチスの報告を受けるリナウス。
 『おう、よし!』
 リナウスが委員ら全員の前に立って口を開いた。
 『おう、一同、今日はご苦労。本日、これから、明日、開催する体技競技大会に使用する会場の整備と設営を行う。諸君!よろしく頼む。君と君は、マッチスと一緒に行動を共にしてくれ、立て札を作る作業だ。君たちは2班に分かれて、まず、会場の刈るべきところの草を刈ってもらう。それが終われば、地面の上に細めのロープ張り引いて、会場の設営をやってもらう。それが終了したら全員が建造の場に出向いて、ドックス棟梁から綱引き競技用のロープを受け取ってきてもらいたい。それで最終点検をして本日の作業を終了とする。以上だ』
 『おうっ!』と一同の返事の唱和である。
 『一同!解ったな、では作業を開始する』
 マッチスは、委員二人とともに建造の場に向かう。班編成を終えて草刈り作業を開始する。
 第1班の担当するところは、スタジオン走のスタート地域であり、槍投げ競技の助走部分の草刈りである。
 第2班が担当するのは、スタジオン走の折り返し地点の草刈りである。陽が陰っているとはいえ季節は夏の真っ盛りである。一同は汗ぐっしょりとなって作業と取り組んでいる。
 草刈り作業は、彼らの懸命な働きでもって、リナウスが満足できる状態に仕上がる。作業は一刻を要した。
 リナウスが仕上がりを点検する、次の作業へと進む。
 目印の棒杭を目安にして、ラインのロープを地面の上に張り引く、2キュビトを間隔の目安にして少々長めの金釘で地面に打ち止めして、ラインロープを張った。スタートライン、ゴールラインをこの状態で仕上げた。
 スタートライン、ゴールラインの延長幅は3分の2スタジオン(約120メートル超)である。
 リナウスが見る、満足な仕上がりである。
 『よし!いい具合に出来上がった。いいぞ!一同!ご苦労。小休止といこう、皆、座れ!』
 立て札作りをやっているマッチスのグループにも声をかける。
 『おう、マッチス、表示立て札の仕上がり具合はどうだ?』
 『表示立て札ですが、これでどうでしょうか?』
 リナウスが手に取ってみる。
 『おう、これでいい!上出来だ。重畳!小休止の時間を取っている。みんなのいるところへ三人とも来い!堅パンをつまんで、少々休んで次の作業だ。このあとの指示もする』
 マッチスら三人が来る、一同が席を空ける、堅パンの割れを口に入れて、しばし休んだ。
 『この堅パン、うまいんだな。初めて口にする者もいるだろう。味はどうだ?』
 『これは、確かにうまい!俺は初めて口にした、感動ものですな』
 一同は、堅パンを味わった。
 リナウスは、一同を見回して最終作業の指示をした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  952

2017-01-25 08:45:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『お前の持っているものを出してくれればそれでいい。例えばお前の持っている知的技術力だ。俺はそれで大満足する。そのうえ、多くの人に感謝される。お前の輝く立ち位置だ。いい成果をおさめる。人々が感動する。タライの中の水だよ』
 『委員長、タライノ中の水とはどんな意味ですか?私には理解できませんが』
 『お前それを聞くのか。では説明してやる。これはたとえ話だ。タライの中にある水を手で持って向こうへ押しやる、押しやった水がま~るく波紋を描いて戻ってくる、お前のやったことの反響だ。それも波となって広がりながらだ。人間が生きている世間は、そのような状態でもって動いている。ま~、そういうことだ』
 『へえ~、タライの中の水ね。解りました。やまびこみたいなものですね』
 『おう、そんな感じもする。難しく考えずともいい。俺、ちょっとパン工房まで行ってくる』
 『はい、解りました。その間に仕上げてしまいます』
 リナウスは小屋をあとにした。
 昼をまじかに控えた時間である。マッチスは、残っている木板の作業に取り掛かった。
 時が進んでいく、リナウスが戻ってくる、昼めしのパンと堅パンの焼き損じ品をたっぷり持って帰ってきた。
 『マッチス、木板は仕あがったか』
 『あと線を四、五本引けば終了です』
 『よし、昼めしにしよう』
 リナウスは原っぱの真ん中に昼めしの準備を整えた。
 『マッチス、めしは外だ。会場予定地のど真ん中でだ!』
 二人は会場予定地のど真ん中に腰を下ろして、昼めしのパンをほおばった。
 『委員長、あちこちに棒杭が見えますね』
 『おう、あれが会場設営の目印だ。俺としては計算しつくして設定した目印だ。あれでもって午後の作業を進める。マッチス、お前にやってもらう、午後一番の作業はだな、建造の場に行って、ドックス棟梁に木板を10枚と長さ3キュビトくらいの垂木を15本くらいもらってきてくれ。木板は、縦横1スパンくらいか、少々大き目でもよい。誰か二人を連れていけば事足りる。帰ってきたら、俺の指示するように作ってくれればよい。以上だ』
 『はい、解りました。先ほど二つ三つつまんで口に入れましたが、堅パンの割れうまいですね』
 『そうか、あの堅パンの焼き損じ品は、作業の休憩時につまんで食べる、みんなでな!』
 委員たちが姿を見せ始めた。
 『委員長、ただいま、到着です』
 『おう、ご苦労。こっちだ、腰を下ろして休んでくれ。じきに一同の顔がそろう』
 『解りました』
 草を刈る鎌、剣を手に持った委員たちが集まった。
 久々に開催する体技競技大会である、集まった委員たちの表情は、期待する楽しさにあふれていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  951

2017-01-23 15:00:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、競技大会の会場予定地である撃剣訓練の場の小屋へ帰ってきた。
 リナウスは、競技大会の会場をどのように設営しようかと頭が割れるような思いで考えている。彼自身は競技施行要領の木板づくりどころではなかった。彼は意図をもってマッチスをもめ上げた。
 『マッチス、今朝、仕上げた競技施行要領の木板だが美しく仕上がっていたな、大したもんだ。お前が引く線はキリットしていて、なかなかいい!ところであと何組作れば、事足りる勘定になる?』
 『そうですね、入用とするのは、統領と軍団帳に一組、委員長と私分に一組、委員たちの分が6組、予備に一組として、合計9組です。それに対して、昨日作ったのが三組、今朝、造ったのが三組、あと三組作れば十分です』
 『あと三組か。木板はあるかな?』
 『はい、木板は13枚ありますが』
 『よし!お前ひとりで木板作りやれそうか?』
 『午前中いっぱいで作れると思います』
 『よし!マッチス、木板作りに取りかかってくれ。今の俺は、会場のことで頭がいっぱいなのだ、木板作りに手を付けられない。マッチス、木板作り引き受けてくれ、お前に任せる。俺は現場を見て、会場のことに集中する』
 『解りました。あと三組を仕上げればよろしいのですね』
 『おう、そうだ!頼んだぞ!俺は会場予定地にいる』
 リナウスは言い残して、草刈鎌とハンマー、そして、目印に建てる棒杭数本を小脇に抱えて小屋を出た。マッチスは、木炭を手にして木板にむかいあった。
 会場予定地に立ったリナウスは、基本となる地点を決めて、棒杭を地面に打ち込んで立てる。立てた棒杭に準備してきたロープの一端を結ぶ。ロープの長さは、1スタジオンの長さである。
 彼は、このロープ一本を物差しに使用して、数本の棒杭を地面に立てて、競技大会の競技区画の設定を終えた。
 リナウスが会場予定地の設定を終えて小屋に帰ってきた。
 『おう、マッチス、木板の仕上がり具合はどうだな?』
 『はい、うまくいっています。あと一組を仕上げれば終わりです』
 『おう、そうか。それは重畳!言うことなしだな』
 リナウスは、大きく息をついて話をつづけた。
 『これであとは、草の刈りとり、そして、ロープをを張って線引きをやる、そして、会場の設営だ!それで決まりだ』と言いながら、マッチスが仕上げた木板を手に取り見つめた。
 『おう、上等じゃないか!いい仕上がりだ。俺が引く線より、お前が引いた線のほうが美しい。図面としてのまとまりもよくできている。上出来だ』
 『委員長、ほめていただいても何も出ませんよ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  950

2017-01-21 16:32:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今日のヘルメスの走りは、追い風に押されて、キドニアに向けて海上を駆けたといった航走であった。
 『ギアス、今日の船足は速かったな。時間をかけずにキドニアに着いた。快挙重畳!ご苦労!』
 オロンテスは、両手ばなしで快哉を叫んだ。

 小島では、陽差しをさえぎっている空模様が釣果に幸いした。魚が釣れに釣れまくった。久々の大漁である小島全体が湧きに湧いている。ジッタがアレテスに声をかける。
 『隊長、これはどういうことですかね?海に魚がいなくなるのでは!大変な大漁です』
 『おう、何でもいい!釣果が良ければ、これ幸いなり。ジッタ!どうだ!昼に久しぶりの祝い酒でもみんなと飲むか!』
 『いいですね!頑張ります!』

 『委員長、お待たせしました』
 よくとおる声がリナウスの耳を打つ。
 『おう、マッチスか、おはよう!来たか、行くぞ。木板、持ってきたな』
 『はい!朝、早起きして競技施行要領図ですが三組仕上げました』
 『ほう、そうか。それはご苦労であったな』
 二人は競技大会のあれこれを話しながら、軍団帳の宿舎へと足を運んでいく。
 『委員長、今日は曇り日ですが、明日は、晴れわたってくれるといいですね』
 『マッチス、それは心配せずといい、俺は必ず晴れると信じている。『信ずるは必ず実現する』それが俺の信条だ』
 二人は軍団長の宿舎に着く、リナウスが戸口に立って声をかける、中から声が返る。
 『その声は、リナウスだな。おう、はいれ!』
 『軍団長、おはようございます』マッチスが唱和する。
 『おう、おはよう』
 リナウスが口を開く。
 『報告します。体技競技大会の大会施行次第および競技施行要領ができました。目通しください』
 リナウスは木板をマッチスから受け取って軍団帳に手渡した。
 『おう、ご苦労!立っての話もなんだ、二人ともそこに腰掛けろ』
 『はい、ありがとうございます。この木板に書き記したのが体技競技大会の施行次第です。こちらが競技施行要領の図面です、各種目別に書いております。目通しください』
 『お~お、これは解りやすい』
 イリオネスは木板に書かれた競技大会の資料に目を通した。
 リナウスがおもむろに口を開いて告げた。
 『今日これからの予定ですが、午前中は競技施行要領の図の必要不足分の木板をつくり、午後は委員連中総がかりで競技大会の会場づくりを行います』
 『解った。午後遅くになると思うが、統領と一緒に大会予定会場に足を運ぶ』
 『お待ちしています。木板に書いた分に書き加えるところがあれば言っていただければ書き加えます』
 『見たところ不足がない、気が付いたら、それについて指摘する』
 『作業予定がありますので、これにてそちらに向かいます』
 リナウスとマッチスは、軍団長の宿舎をあとにして競技大会の会場予定地へと向かった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  949

2017-01-20 14:16:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ほかに、君ら、質問は?』と声をかけて、一同と目を合わせる。
 『これについて聞いておきたいと思うことはないのだな。では打ち合わせ会を終わる。一同、ご苦労であった。明日の会場つくりよろしく頼む。以上だ。では、これにて解散する!』
 一同が場を去っていく、リナウスがマッチスに声をかける、顔を射る夕陽がまぶしい。
 『マッチス、明日の予定を伝えておく。明朝だが、朝めしを終えたら撃剣訓練の場のほうへ来てくれ、木板をもってだ。軍団長に報告に行く。それを終えて体技施行要領の木板造りをやる。いいな』
 『はい!解りました』
 夕陽が水平線下に沈む、宵が訪れる、茜色と藍色グラデーションが水平線上の空を彩る、星たちが目覚めはじめた。
 アエネアスがイリオネスの宿舎を訪ねる。
 『おう、イリオネス、今日はどうであった?建造の場のことだ』
 『はい、終業の時までいました。仕事は順調に進行しています。明日から、受注した戦闘艇の建造が始まります。向こう7日間ぐらいで実験用の試作艇が完成する予定になっています。その間に建造の用材が着荷し、10日後くらいから建造が始まります。それからですが、今日、オロンテスから報告がありました。新艇の引き合いが集散所に来ているようです。その詳細については三、四日後に連絡があるそうです』
 『ほう、そうか。それはいい知らせだな。それから、体技競技会、開催の件だが、リナウスから報告があがってきているかな?』
 『その件については、いま、建造の場の広場において打ち合わせ会を開いています。明朝、アサイチに報告があると思っています』
 『おう、報告があがってきたら連絡を頼む』
 『解りました』
 『ではな、イリオネス!』
 アエネアスはイリオネスの宿舎をあとにした。
 
 日が変わる、ニューキドニアの浜が朝を迎える、昨日と変わって、雲が陽の光をさえぎっている。
 朝行事で交わす言葉も曇天に合わせて、曇っている。晴れの言葉、晴れの声音ではない。
 オロンテスが一同に声をかけている。
 『おう、者ども声が暗い!キリットしろ!気合が曇ってどうするのだ!』
 ギアスも声を張りあげている、漕ぎ方の一同に対しての声がけである。
 『張りのある声で掛け声をあげろ!』
 『おう、いいぞ!その調子だ』
 『オロンテス隊長、出航、オーケーです!』
 『おう、ギアス、ヘルメスを出してくれ!』
 櫂が一斉に海面を泡立てる、ヘルメスが波を割る。
 ギアスが風を読む、凪の時が過ぎて西からの風である。
 ギアスの声が飛ぶ!彼は大声で連呼する。
 『帆を張れ!』『追い風が来るぞ!』『いい風だ!幸先の知らせだ!』
 ヘルメスが帆に風をはらんで波を割って航走する。艇上に活気みなぎる、波頭が風に舞った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  948

2017-01-19 08:48:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 作業終了時間が浜の各作業の場に訪れる、体技競技大会の委員たちが建造の場の広場に集まってくる、リナウスが副長のマッチスに声をかけた。
 『マッチス、委員たちの出席をチエックしてくれ』
 『はい!』
 マッチスが声をかけて確認する。
 『委員長、小島の連中がまだ来ていません』
 『おう、了解!』
 『あっ!来ました』
 全員がそろう、リナウスが委員たち全員に声をかける。
 『下は草地だ、一同、車座で腰を下ろしてくれ。少々遅れはしたが全員がそろった。では打ち合わせを始める』と言って全員を見渡した。
 『マッチス、競技大会施行次第を委員のみんなに渡してくれ』
 マッチスが大会の施行次第を書いた木板を各自に手渡す、リナウスが声をかける。
 『おう、一同ご苦労、体技競技大会が明後日となった。今、みんなに手渡したのは競技大会施行の次第である。見ての通りだ。今、各自に一枚づつ渡したが打ち合わせが終わったら一枚を戻してくれ、一枚は持って帰ってよろしい。解ったな』
 リナウスが一同を見回す。『おう!』と返事が返る。
 『今、渡した木板に書いてある次第によって、競技大会が運営、進行する。大会は、アエネアス統領の開会宣言で大会の幕を切って落とす、大会が進行して終わったところで、イリオネス軍団帳による大会の評価と閉会の辞をもって大会を終了する。表彰式は、大会後の宴の席で行う。いいな。当日の進行の流れはそういったところだ。質問はあるかな?』
 『質問はありません。委員長にここまでしてもらって、よく理解できました』
 『そうか、では次の打ち合わせ事項について伝える。マッチス、例の木板を渡してくれ』
 リナウスは一拍の間を取って話をつなぐ。
 『この木板は、今は四枚組三組しかない、回し読みしてくれ。明日までに必要枚数を書きあげて君らに渡す』
 『解りました』
 『これから打ち合わせることは、競技大会の施行の会場づくりについてだ。会場づくりは明日の午後の行う。委員全員昼めしを終えたら、撃剣訓練の場に集合してくれ。競技大会の会場を設営する。その時に体技競技大会の体技施行要領を書いた四枚組の木板を渡す、いいな、それに基づいて会場をつくる。そこで各人に頼みたいことは、草を刈る刃物をもってきてほしいことなのだ。以上だ。聞きたいことがあれば聞いてくれ』
 リナウスが言い終わる、二人が手を上げる。
 『おう、何だ?一人づつ聞いてくれ』
 『私ども草を刈る刃物を持っていません。剣をもってその作業をやりたい!そのように考えているのですが』
 『おう、それでいい。使ったあと剣を手入れしておかないと、剣としての役に立たなくなる。そのことに留意して使ってくれ。次!』
 『私も同じ質問です。今の答えでよくわかりました』