goo blog サービス終了のお知らせ 

『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  601

2015-08-31 04:26:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『集散所とだな。約束事について話した。その件と初期のスケジュールについて話す』
 『判った。それでいい、聞く』
 『集散所の担当だがな、ハニタスは知っているな』
 『おう!』
 『この件を担当するのは、ハニタスと大型商品担当のテミトスという者の二人だ。会談には集散所所長も出席して話し合いとなった。所長の名は、ラウダスという。双方が協力して業務を行うことを約束した。集散所が持っている販売のノウハウを駆使して、この業務にあたることになった。そういうわけで、一番最初に話になったのは、新艇販売の価格の件だ。これについては、価格決定相談の場を設けて新艇の価格を決めるということだ。第一回目の相談の場は四日後、集散所でということになっている。参加する者は、ハニタスとテミトス、そして、スダヌス、当方については、決めなければならない。この件に絡んで、用材の調達先であるガリダ方との決済の交渉も集散所側が交渉にあたることになった。この件の状況を踏まえての軍団長の判断だ。言われてみれば、我々は木材の価格について知っているかといえば、それは知っていない。ガリダ方にいいように吹っ掛けられても解らないということだ。そのあたりを考えての処置の判断だと思う。そういうことで、集散所方の担当のハニタスとテミトスが、建造の場の視察と用材の調査に明後日ここへ来ることになっている。これに関する対応についても、明日アサイチの打ち合わせで話し合わなければならない。大体、以上だ』
 『よくわかった。軍団長もよくよく考えて、交渉の場で対応したであろうと察せられる』
 オキテスが決断するイリオネスの心情を思いやった。
 パリヌルスは、『そうであろう』と頷いた。
 『集散所側と我が方が違うのは、事に対する当たり方にある。船といえば、大型の商品であって、パンや魚とはわけが違う。価格も極めて高い商品だ。彼らの事にあたる姿勢はなかなか慎重だ。我が方の事に対する当たり方が彼らより、ちょっと、慎重さが足りないような気がする。建造する新艇の数量、そして、完成日の設定で、頭がいっぱいになって、出来あがる新艇に使う用材の品質、対市場価格への配慮、完成した新艇の品質などなど、そういったことに対して我々が心配りをしてはいるが少々慎重さが欠けているのではなかろうか。もう一度、スタート時点に戻って点検の必要があるのではなかろうかと考えている』
 オキテスがオロンテスの指摘したことについて考えを述べた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  600

2015-08-29 11:17:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『なあ~、パリヌルス、考えてみろや、新艇の価格を算出する、むつかしいことだぞ。新艇の原価がどれほどになるのか、見当もつかん。計算しようにも解らない、知らないことが多すぎて見当もつけられん。用材の原価が皆目わからん。それであって受け取った用材で足りる足らないもわかっていない。このあたりがおぼろげでもいいから解ればいいと考えている。そのうえ、船なるものが、いかほどで取引されているかも全くわかっていない』
 『そうだな、そのように解らんが多いと見当もつけられん。まあ~、軍団長の帰りを待て。霧だ、霞だ、靄だ、といっても、風のひと吹きで晴れる。軍団長が出かける前に、ち~と話しておいた。今日の会談は、いい方向に展開しているはずだ。必ず、いい便りが来る。我々の強さもそこにある』
 『よし!吉報を待つとするか』
 『おう、それでいい』
 浜がざわついている。それとなく二人は、気にして腰をあげた。ヘルメスがキドニアから帰った来たらしい。
 二人は、歩を運んでいく。渚にイリオネスとオロンテスが立っている。二人は何事かを話している。パリヌルスらは二人の傍らに立った。
 『あ~あ、軍団長、お帰りなさい。道中の船足、無事の運びでしたか?』
 『お~お、無事に帰ってきた。朗報だ、話はいい方向で決まった。明日、アサイチ、打ち合わせといこう。今、オロンテスにも話した。オロンテスが会談の始終を見聞きして知っている。俺は統領と話し合う。事の次第は、オロンテスから聞いて、お前らの考えをまとめておいてくれ』
 『判りました』
 『何事も不安はない。仕事の段取りも組み立てやすい。仕事が音を立てて動き始める。心して取り掛かってくれ。では、明日の朝だ、いいな』
 『判りました。ご苦労様でした』
 イリオネスは足早にアヱネアスの宿舎の方へと向かっていく。
 『おう、オロンテス、どうする?話は夕めしのあとか先か?』
 『俺は、明日の手配がある。夕めしの間もセレストス打ち合わさなければならん。夕めしの後で話し合おう』
 『おうっ!』
 三人は持ち場へと向かった。
 今日一日の仕事の終わり時である。パリヌルスは浜を見て廻る。オキテスはドックスと話し合いながら建造の場を見て廻る。オロンテスは明日の準備と打ち合わせに多忙である。三人三様に忙しかった。三人はそれぞれの場で夕めしを摂った。
 夕めしを終えたといえどもまだ明るい、三人は揚陸しているヘルメス艇の傍らに腰を落ち着けた。
 『おう、ご苦労。即、話に入ろう。オロンテス、どうだった?話の始終を話してくれ』
 二人はオロンテスの目を見つめた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  599

2015-08-28 16:25:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 双方が手を差し伸べる、二人はガッチリと手を握り合った。手を握る、意志が通じ合う、二人は目を合わせる、目は互いを見つめた。絆が絡む、イリオネスは集散所を己の味方につけた。
 ラウダスも立ちあがる、イリオネスの手を握る、ハニタスがスダヌスの手を握る、オロンテスもテミトスも握手を交わす、会談は終わった。双方の約定を言葉と握手で終えた。
 一同は、準備された杯の酒を口にした。しばし、雑談が交わされる、和みの時を過ごした。イリオネスがスダヌスに声をかける。
 『浜頭、そろそろ、失礼しようか』
 うなずくスダヌス、三人は会談の場を辞した。広場の方へと歩んでいく。
 『イリオネス軍団長、まあ~、談合は、おちつくところに落ち着いたといったところでしょう。私は、うまくいったと思います。物事、勝負とすれば、負けに不思議なし、勝ちに不思議ありですな。この事業、勝ちはあなたにありです。事業は必ず、うまく決着します。私もやりがいがありますな。オロンテス、どうだと思う?』
 『スダヌス浜頭、どうだと言われるのは、仕事の先行きの事か、はたまた、私の感慨かね?感慨は意気揚々だね。踏み破る万岳、煙のごとし、我が方の行く手をさえぎるものはない。浜頭、あんたの言うとおりだよ。正しく道を歩む、事、自ずから成るですな。未来の扉が開いた、霧が晴れていく、そのような感じだ』
 『霧も、霞も、靄も晴れた、未来が見えてくる。オロンテス、互いに力を合わせて羽ばたこうや』
 『おうっ!』
 『軍団長、私はこれにて失礼します。四日後の第一回会合は、私は集散所で待っています』
 『おう、その時は、よろしく頼む。当方から出席する者に事の次第を告げておく』
 スダヌスは、二人と別れて、自分の魚売り場へと帰った。
 『オロンテス、お前はパン売り場へ行くのか?』
 『今日の状況を把握しておかないことにはーーー』
 『よし!俺もいく』
 売り場にはギアスがいる、イリオネスに声をかけてきた。
 『軍団長、ご苦労様でした。事の首尾はいかがでしたか』
 『交渉は、いい線で決着した。ギアス、お前の仕事が増えるぞ!その時は気張ってくれ』
 『判りました。何なりと用命ください』
 『いずれ、パリヌルス、オキテスらに計って段取りを決める。誰もやったことのない仕事だ。お前の才覚ひとつで勝負しろ!』
 『判りました』
 オロンテスが売り場の一同に声をかけた。
 『一同!ご苦労。今日はこれにて終了。よ~く予約を取ってくれた。上出来だ。明日もいい日だぞ!』
 オロンテスは、イリオネスに声をかけた。
 『今日の仕事が終わりました。帰途に就きます。今日の結果は上々の結果です。予約の受付がド~ンとあります。このところ一日の販売量が増えてきています。うれしいことです。羊乳と蜂蜜のパンの売れゆきが好調です。これまでのミックスパンの売れゆきが減りました。原価の高くつく分、売り上げでカバーしています』
 『そうか。いずれにしても才覚でヒットを生み出す、オロンテス、お前の苦労を思ってやるぞ。まいったと根をあげるんじゃないぞ』
 オロンテスは、心のうちでイリオネスの心的配慮を感じ取っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  598

2015-08-27 13:49:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『それはいいですね。そのような配慮をいただくとなれば、我が方もこの仕事に意欲的に取り組むということになります。それで新艇の用材は、どのような手段で調達されるのですかな?』
 『あ~あ、新艇建造の用材の調達ですか、用材の調達はすでに終えています』
 『ほう、どのようにして調達されたのですかな?』
 『それはガリダ方より調達しております』
 『決済はもう終えておられるのですかな?』
 『決済の件については、まだ話し合ってはおりません』
 『そうですか、それでしたら、新艇の価格決めの事もあります。貴方がたとガリダ方とで双方の決済都合も生じてくると考えられます。イリオネス殿、どんなものでしょう。その件、我々に任せてくれませんか。ガリダ方がどんな意向かをそれとなく当たってみましょうか。如何がでしょう』
 『ハニタス殿、もう用材の方は、受け取って仕事にかかっています。そのうえ、ガリダ方から製材の技術者5人の派遣も受け入れています。それでもよろしいですかな』
 『ガリダがどのように返答するか、我々が当たってみます。この件任せてくれませんか。貴方がたの不利益にならないように取り計らいます』
 イリオネスはハタッと考え込んだ。
 『イリオネス殿、この件について言えることは、我が方とガリダ方との折衝回数です。一、二回にとどまらず、三、四回にもなると考えられます。時日は一カ月は充分に見なければなりません。用材の量、用材の質、相場等いろいろ絡みます。我々は、経験も豊富です。任されたほうが貴方がたにとって有利であることは間違いありません』
 『判りました、ハニタス殿。任せます。宜しく、計らってください』
 『それが新艇の価格に大きく影響します。用材の質が新艇の出来不出来にかかわります。そういった事情を含んで新艇の価格決めを進めねばなりません。価格決めの場に参画するメンバーの決定を急ぎましょう。それを終えて、ガリダ方との話し合いで原価がはっきりしてきます。一か月半後にはおおよその価格が決められると考えられます。それを受けて最終決定の場を持ちましょう』
 『判りました。そのスケジュールで行きます。我が方では、それに合わせて、新艇の内覧会、試乗会と行事予定を組んで行っていくことになります』
 『いいですな。当集散所として、真剣に、この業務の進展に力を注ぎます。ガリダとの折衝には、テミトスと私が当たります。価格決定の第1回会合は、四日後でいかがですかな。双方2名づつとスダヌス浜頭でやりましょう。あ~あ、それから、明後日ですが、用材の点検、用材量等の調査、新艇建造の場を見せてもらいにニューキドニアの浜へ私とテミトスがうかがいます』
 『判りました。これで大筋が決まった』
 『了解いただけましたかな』
 『了解しました』
 イリオネス、ハニタスが言葉を交わして、二人は立ちあがった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  597

2015-08-25 04:32:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス殿、紹介いたします。こちらが当集散所の所長のラウダスです。そして、こちらが大型商品を手掛けているテ三トスです。なにとぞ見知りおきをーーー』と紹介した。
 『ラウダス殿、私が統領アヱネアスのもとで軍団を束ねているイリオネスです。当方のオロンテスが日ごろ世話になり、ありがとうございます。今後とも宜しく』
 続けて、 
 『テ三トス殿、イリオネスです』と告げて対面の挨拶は終えた。
 『スダヌス浜頭から、こちらに見えられた用向きについては聞いております。このたびは造船の事業を始められたと聞いていますが』
 『そうです。今日はその件について、こちらに来ています。当方として集散所の方へ事情を明らかにしておきたいと考えました。パン事業の方の世話をいただいているということもありますので』
 『そうですか。近々の事ですが、新しい帆張りの船の姿を目にすると話題になってきています。この集散所でも話題になっています』
 『用件は、その船の事です。私どもとして、公式に発表して、正式に集散所の方へ取引に関する申し入れをと考えています』
 『ほっほう、そうですか。その件について、私どもも状況を知りたいと考えていたところです。お互い思考の合致ですな。その件で、イリオネス殿の方からおいでいただいたとは、ありがたいことです』
 『今日の私の発表は、我が方の公式発表です。当方では、その船を新艇と言っています。当方は新艇建造事業を手掛けることになりました。新艇5艇を建造します。三か月後に新艇5艇が完成いたします』
 『ほう、それは凄い、凄いことです。三か月後、5艇の同時完成ですか、クレタ島では、これまでになかったことです。当集散所で取引の仲介を是非やりたい。そう考えています。宜しくお願いします』
 ハニタスは所長と二言三言、言葉を交わして姿勢を正した。イリオネスも身を引き締めて対峙した。
 『この件について我が方は、集散所方へ正式に取引の仲介を申し入れます』
 『お受けします。イリオネス殿、喜んでお受けいたします』
 双方の意志の合致を見た。二人は、軽く微笑みを交わした。
 『ところで、ハニタス殿、新艇の取引価格を決めなかればならないのですが、このことについて、集散所方から、そして、当方から、それからスダヌス浜頭を交えて、取引価格決定の相談の場をと考えています。ハニタス殿、いかがなもので?』
 イリオネスはハニタスに問いかけた。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  596

2015-08-24 04:07:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
舟艇は、追い風に押されて海上を走った。飛沫が艇上の者たちの頬を打つ、キドニアに到達するのに時を要さなかった。
 アレテスは積み荷の魚を売り場へと運ぶ、三人は集散所へと足を運んだ。
 イリオネスの表情は硬い、唇を引き結んでいる。スダヌスとオロンテスはというと平常と何ら変わらない。スダヌスが声をかける。
 『軍団長、広場で昼をしませんか。アレテスも呼びます』
 オロンテスはパンの調達に売り場へと向かう。スダヌスはアレテスと連れ立って副菜を持ってくる。彼らは、広場の一隅を場として昼食をとった。イリオネスは昼食をとったことで緊張が少々ほぐれた。
 スダヌスは、イリオネスに一言告げて、会談の場の設定に向かった。内心では、ハニタスもいて、集散所のトップもいるようにと念じながら、一同の在席している部屋へと歩を運んだ。彼の目指す先にラッキーが待っていた。
 案じた二人がいる。それに並ぶ者も席にいた。
 『おう、スダヌスの』
 『お~お。皆さん、お揃いで。これはこれは、願ってもないことです』と言って部屋を見廻した。
 『スダヌスの、何ぞ用件ですかな?』
 『ハニタス殿、昨日、話した新艇の件でニューキドニアから、イリオネス軍団長殿が来られたのだが、話し合いの場を設けていただけないかな。そして、所長も同席していただきたいところですが』
 『ほう、そうか。それは、我々としても歓迎するところだ。パン売り場の事もある。互いにたいせつな間柄でもある。判った。会見の場をつくって、お会いする。所長の同席承諾。スダヌス、お連れしてくれ』
 『判った。ありがとう。では、つれてくる。宜しく頼む』
 『判った』
 スダヌスは、広場へ戻り、イリオネスとオロンテスを連れて会見の部屋へと向かった。部屋には、集散所所長、ハニタス、もう一人が席について待っていた。
 三人が部屋へ入る。ハニタスが席を立って三人を迎えた。
 『いやあ~、これはこれは、イリオネス軍団長殿、ようこそおいでくださいました。あれ以来ですな、久しぶりです。お変わりなくお過ごしですかな?』
 『ハニタス殿、久しぶりです。お元気そうで、何よりです』
 二人は、久しぶりの邂逅を喜び合った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  595

2015-08-21 04:30:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスとスダヌスの二人が言った言葉をアヱネアスとイリオネスは、彼ら四人が考えるワークの方策を集約した言葉として受け止めた。
 イリオネスは、オキテスとオロンテスの目を見て念を押した。
 『今、二人の言ったこと、お前たち二人も同じ考えだと思っていいことなのだな』
 二人は、うなずき肯定した。アヱネアスに話しかけるイリオネス。
 『統領、話は理解されましたね』
 『おう、理解した。二人の話は、筋が通っている。否定する要素がない。やらなければならないことは、ワークの進展に伴って調整を怠ることなく事を進めていく。それが円満に事を進める。俺は集散所の機能を利用することに賛成だ』
 アヱネアスは一拍をおいて一同を見まわした。
 『イリオネス調整しつつ、集散所の利点を利用して事を進めよ。得るは大きく、失うは小さくだ。それで、お前の決断をもって全てをやれ』
 『判りました』
 イリオネスは、じい~っと四人の目を見た。四人の想いを見透かすように見つめた。おもむろに言葉を吐く。
 『統領の意向も理解した。業務を遂行していくうえで、我々が話し合い、調整しながらワークを進展させていく。これについては、一同、異論はないな』
 一同がイリオネスの言葉にうなずく。
 『今日、集散所に出向いて、我々の公式声明として新艇建造の発表をする。そのうえで、集散所にトレードの仲介を正式に要請する。新艇の披露、試乗会の開催の件、これも集散所方に伝える。そのうえで、新艇の販売価格を決める方策を相手方と検討する。それから、ガリダ方から用材を調達した件について相手方と意見交換をする。一同、解ってくれたな。これだけの用件を携えて、今日、集散所へ出向く。スダヌス浜頭、宜しく頼みます』
 『判りました。出来るだけいいカタチで新艇5艇の販売が完了するように、手を貸していきます』
 『パリヌルス、オキテス、オロンテス、頼むぞ!』
 『判りました』
 三人は力強く答えた。
 『今日の打ち合わせはこれにて完了。では、統領、私は、アレテスのキドニア行きの便で集散所に出向きます』
 『おう!』
 一同は浜へと下った。アレテスの乗った舟艇が見えてきた。オロンテスが手を振って合図を送る。舟艇が浜に到着する、イリオネス、スダヌス、オロンテスの三人が乗る、舟艇が浜を離れていく。
 新艇販売の矢が弦を放れた、矢が空を裂いて飛ぶ。
 舟艇を見送った三人の想いの期待結果がまぶたの裏に描かれようとしていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  594

2015-08-20 05:54:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、スダヌスと目を合わせて話をし始めた。
 『一同は、今、パリヌルスの話を聞いた。話の要点は三項目にわたっているが、その中で重要と考えられる案件は、新艇の価格の決定、そして、集散所というトレードの仲立ちを介して、新艇の販売を締結していく。これは一つの要点の二要素として検討しなければならない。我々はクレタにおける大型商品のトレードの形態について詳しく知っているわけではない。この点をスダヌス浜頭に訊ねたい。浜頭、説明を宜しく』
 10の目がスダヌス浜頭の2つの目に集中したスダヌスは大きくうなずいて、尋ねられた要件について話し始めた。
 彼は、クレタにおける大型商品のトレードの形態について語り、このたびの新艇の取引きに関しては、集散所を利用してトレードを行うことの利点を説明し、集散所を利用することは不利な点をクリアして余りあることを説明した。
 集散所は船舶の取引きについても経験を有しており、売り方にも買い方にも不利益のない取引きが成立しているとスダヌスなりの意見を述べた。
 価格の決定に件については、集散所方、当方、そして、スダヌスも加わって協議して、決定する方法がいいのではないかと意見を述べた。それについては、クレタ人が使う言葉についての配慮した意味合いが含まれていた。
 最後にガリダ方から調達した用材の件についても、集散所の仲介にしたほうがあなた方にとって、駆け引きのトラブルを避けることができ、不利益ではないと付け加えた。
 五人の耳目は、スダヌスの言ったことを充分に理解して、五人五様の構想を頭の中で、腹の中で、身体全体を思考体として考えた。
 彼らの描いた不利益を加味した利益構想はそれぞれであるが、五人の評価は近似値であった。
 幾多の方策を示したスダヌスの話にイリオネスは礼を言った。スダヌスは補足した。
 『今、言ったことは、昨日、三人との話し合いの場では話せないことであったことを了解していただきたい』と言い足した。
 『そうだよな、今、言われたことを話すには、それを話す場でなければならないことだ。浜頭が即刻、我々のところへ行こうと言ったことの意味が理解できた』
 スダヌスの心中にこの新艇の販売に関する業務のやり方に危機感が感じられたことを悟った。
 パリヌルスら三人の目からウロコがはがれて落ちた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  593

2015-08-19 04:22:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『皆さん、おはようございます。軍団長が言われたいい朝です。グッドなモーニングです』
 挨拶を述べて軽く頭を下げる、一同と目を合わせた。
 彼は、昨日の集散所における経緯を話すべく一拍の間をおく、場の呼吸を読む、彼の頭の中には新艇を売り切るまでのシナリオが中途半端ながらできていたのである。彼は打ち合わせの要点について話し始めた。
 『今、我々が取りかかった事業は、新艇5艇同時建造という通常では考えられない建造方式での建造です。これも我々がいかに人的資源を豊富に持っているかの証です。これを我々の公式声明として発表してアピールする必要があります。次の要点ですが、新艇の価格決めです。現在の我々では、おおよその価格も決められない現状です。価格決定の基準となる諸資料、諸数字も持っていない、市場における相場価格がいくらなのかもつかんでいない。そのような状態であることを認識して、新艇の価格決めをしなければならないのではと考えられます。これには、このことに詳しい人間が数人集まって知恵を出して、決めるという手順に依る必要が考えられます。また、これによって、ガリダ方に支払う用材の支払額を決めることができると考えられます。次に考えられることは、新艇5艇を販売するのに全く知られていない者が全く知らない人に売るということより、知名度のあるものが知っている人に、また、知っていなくとも調査等の手段で知ったうえで売るというのでは、トレード状態に雲泥の差があると考えられます。これらを勘案すると、集散所という組織体を利用することは我々として利便ではないかと考えられることです。我々が知っているテカリオンには当たってみなければわかりませんが、彼には、1艇若しくは2艇のトレードが見込められます。この件は、小麦の決済もあること故と考えています。次の案件ですが、このような船が、新艇があるということを人に知ってもらうことが必要だと考えています。キドニアの船だまりに停泊している間に新艇を披露する。試乗会を日時を決めて行えばと考えています。とりあえず、関係諸氏を招いて試乗会を行うことを考えています。今、言ったこれらの事について、充分に検討していただければ幸いです』
 言い終わってパリヌルスは、一同を見まわした。
 『検討していただき、決定した諸事情を踏まえて、私ども三人は活動したい。そのように考えています』
 『パリヌルス、話は理解した。今日の俺のキドニア行き、そして、集散所側に話すことは、我々の公式声明ということだな。判った』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  592

2015-08-18 04:58:16 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夜の長かった季節から日に日に夜が短い季節になる時節は人々の活動が活気に満ちてくる。
 夜が明ける、黎明の時である。この時を待って、うつら気分の者たちが起き上がる。
 スダヌスも起きた、立ちあがる、『昨夜は、いい気分であった』彼は、過ごしたいい夜を思い起こして、いち物を手で触れた。下半身の彼は今朝もきりっと立っていた。
 ニューキドニアの浜辺がにぎわい始める。スダヌスは、さっぱりした気分で浜への坂道を下っていく、渚に立った。陽の出に幾ばくかの間がある。
 朝の渚には、ユールスの手を引いたアヱネアスをイリオネス、パリヌルスらが囲んで立っている。彼らと朝のあいさつを交わすスダヌス。
 『ややッ!皆さん!おはようございます』
 『おう、浜頭、よく休まれましたかな?』
 『おう、さわやかさわやか。今日はスペッシャル!特別のいい気分だ』と言って、下腹を手のひらで叩いた。
 『浜頭、朝の食事は、統領の宿舎でです。どうぞ、いらしてください』
 『おう、そうか。オロンテスどの、例のスペッシャルパンを頼みますよ』
 『解っています。乞う期待です』
 パリヌルスが代わって話しかける。
 『浜頭、朝食のあと、打ち合わせをやります。それが終われば、キドニア行第2便でアレテスが浜頭をおくります。軍団長とオロンテスが同行いたします。宜しくお願いします』
 『おう、心得た。俺の信条の一つだが、正しく道を歩んで、最善を尽くす、事、おのずから成る。のう、パリヌルスにオキテス』
 彼は、そのように言ったかと思うと勢いをつけて海に身を浸した。
 アヱネアス、イリオネス、スダヌスの三人は、アヱネアスの宿舎の前の草地で朝食の場を囲んだ。朝食のメニューは素朴といっていい、例のスペッシャルパンにぶどう酒、火を通した塩漬け肉に山野草の若芽であった。
 笑みをこぼしながらの食事風景である。微笑みながら話す話題といえば、山行の思い出話である。あの日あの時の感動を三人は共有している、口をついて出る話に楽しさがあふれていた。
 一時が過ぎる、パリヌルスら三人が来る、六人の男たちが草地に車座に座して打ち合わせの場とした。
 『おう、諸君。今日もいい朝を迎えた。活気にあふれる季節だ。パリヌルス、まず、昨日の結果を話してくれ、次いで、派生するやるべき要点を話してくれ。検討の必要のある要点について話し合っておきたい』
 『はい』
 パリヌルスは姿勢を正した。



  *昨日の投稿で用字を間違えました。1行目です。お詫びします。
   台上にあがっる。 を  台上にあがった。 と訂正いたします。
                        山田 秀雄