『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1020

2017-04-28 13:49:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テムノス方から連絡者が来る。
 『オキテス隊長はおいででしょうか』
 『はい、私ですが、何でしょう?』
 『進水の儀のことですが、催行の支度を整えていただけないかとテムノスが言っています』
 『解りました。直ちに整えます。そのように伝えてください』
 オキテスが一同に指示を発する、作業に取り掛かる、進水の儀、催行の支度が整う。
 『ギアス、お前に頼むことはというと、お前はテムノス殿につき添ってだな、進水の儀の進行のサポートをしてくれ。合図は俺が送る』
 『解りました。催行次第を説明してください』
 オキテスは、この場における進水の儀の催行次第を説明した。
 『了解しました』
 『ギアス、テムノス殿に進水の儀の支度が整ったと伝えに走ってくれ』
 ギアスがテムノスの屋敷に伝達に走る、間をおくことなく一行を連れて姿を見せるテムノス、進水の儀催行の位置に就く、彼の背後に水夫らが整列する。
 テムノスが進水の口上を読み上げる、オキテスからの合図がギアスに届く、ギアスがぶどう酒の壺をテムノスに手渡す、受け取るテムノス、緊張の気が漂う、彼はぶどう酒の壺を両手に捧げ持ち、高く差し上げる、手に力がこもる、ぶどう酒の壺を砕けよとばかりに新艇の舳先に打ち付けた。
 砕け散るぶどう酒の壺、ぶどう酒の飛沫が風に散り舞う、会同している一同から拍手と歓声が沸きあがる。
 オキテスから指示が飛ぶ、
 『新艇を海へ!』
 『おうっ!』と返事が返る。
 彼らが一斉に新艇に取り付く、海へと新艇を押す、新艇が静かにその艇体を艇尾からクレタ海に浸していく、艇体が海に浮かんだ。オキテスの合図がギアスに届く。
 『テムノス殿、ポセイドン神に供物を!』と伝え、供物の子羊を引いてくる、ギアスが腰の帯剣を抜いて、柄の部分をテムノスに向けて差し出す、柄を握るテムノス、テムノスが波打ち際から渚に足を浸して立つ、子羊は足を海に浸して四足で立っている、光景を見守る一同が息を止める。
 テムノスが剣を上段に引き上げる、気を引き締める、剣が陽の光にきらめく、一閃!勢いよく振り下ろされる剣、子羊の首が飛ぶ、落ちて海に漂う、吹き出す血が風に舞い散った。
 テムノスが剣を天空に向けて突き上げ、新艇による航海の無事をポセイドン神に願いあげた。
 会同している全員から浜を揺るがす大歓声が上がる、拍手が起きる、浜が感動に沸いた。
 オキテスがテムノスに声をかける。
 『テムノス殿、艇上へどうぞ!』
 ギアスがテムノス方の水夫らに声をかける。
 『皆さん方の長はどなたでしょうか?』
 『あ~、俺だが』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1019

2017-04-27 08:22:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 注文主のテムノスが揚陸されている新艇を見あげる、艇の各所を見て廻る、オキテスが彼の傍らに静かに歩み寄り声をかけた。
 『テムノス殿、お待たせいたしました。発注いただきました新艇を只今お引き渡し出来ます。どうぞお受け取り下さい』と述べて丁寧に低頭した。
 言葉を続ける。
 『なお、艇を納めるときに納入するよう指示いただきました全帆一式、持参いたしました。査収かたお願いいたします。こちらに並べている品々、櫂および櫂舵一式、ぶどう酒一壺、我らが製造調製しました堅焼のパン5ケース、そして、子羊一頭はポセイドン神への供物として我らが統領よりの祝い品です。ささやかでありますが、どうぞ、お受け取り下さい。以上であります』
 『オキテス殿ですな。ニューキドニアの浜からレテムノンの港への遠路、新艇納入の航海、ご苦労でした。また、納入に関して、数々の心遣いありがとう!礼を言います。新艇を受け取ります。それにしても、この新艇の納入次第に、このテムノスとても感動しました。このあと、キドニアの集散所に決済を終えます。オキテス殿ご苦労でした』
 テムノスは、受け取りの意を示し、水夫らを手で招き、新艇の艇体を再度を見て廻る、オキテスとスダヌスが随行する、テムノスが声をかけてくる。
 『ところで、オキテス殿、今日のこれからだが、早速、当方として、新艇の浸水を行う。そのうえで当方の水夫らに操船の説明かたを願いたい』
 『解りました。そのご指示お受けします』
 『あ~あ、スダヌス浜頭とも話し合ったのだが、今夜一夜をこの浜で過ごしてくれ。当方の気持ちだ。ささやかなふるまいだ。受けてくれるな』
 『はい、ありがとうございます。喜んでお受けいたします』
 『おう、そうか、ありがとう。では、当方として進水の段取りといく。少々の間だが、疲れを癒してくれ』
 テムノスがスダヌスに声をかける。
 『おう、スダヌス浜頭、ところで昼めしを済ませたのか?』
 『いや、まだだ』
 『お前が彼らの航海の案内役をして、この浜へ来るとは知らなかった。昼を準備させる。俺の屋敷で昼食をとれ。互いに積もる話もある』
 『おう、ありがとう。馳走になる』
 『おう、オキテス、俺だが、テムノス殿の屋敷で昼を食べる。そういうことだよろしく頼む』
 『おう、了解!予定だが、このあと、新艇の進水をして、操船説明の航走をやる』
 『解った』
 オキテスらは、浜の一隅に場を取り、一同で遅くなった昼食とする、オキテスは、食事をとりながらこのあとの予定を一同に伝えた。
 彼らはしばしの休憩に航海の疲労を癒した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1018

2017-04-26 08:04:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスがゴッカスに声をかける。
 『おう、ゴッカス!操船を担当しているお前に伝えておく、俺がこの艇に乗った地点から、レテムノンの港までは、1000スタジオン弱(18キロ)だ。この艇速で、この航路を往くとレテムノンへの到着予定時間は一刻余りと考えられる。昼を過ぎて半刻くらいといったところだ。オキテス隊長にも伝えるが、昼は着港してからということになる。解ってくれるな』
 『解りました。一同に航海予定をそのように伝えてよろしいですね』
 『それについては、オキテス隊長の許可を得てくれ。隊長に話す』
 航海予定伝達の件は、オキテス隊長の許可を得て、ゴッカスから一同に伝えられた。
 オキテスの率いる二艇は順調に航走してレテムノンの港に着いた。
 レテムノンの港湾事情に詳しいスダヌスは、注文主であるテムノスが占有している浜に二艇をガイドしていく、迷うことなく浜に二艇をつけた。
 スダヌスは、オキテスと引き渡し次第を打ち合わせる。
 『我々として、新艇引き渡しの準備をしなければならない。浜頭、半刻くらいの時間がかかると考えられる。そのうえで手順に基づいて引き渡すということで、テムノス殿と打ち合わせてほしい。それからだが、子羊のことだが、祝い品として送るのか?』
 『そうだが、俺からではなく統領からとして渡してほしい』
 『解った。それで引き渡しの準備を整える』
 スダヌスは、オキテスとの話しを終えて、テムノスの屋敷に向けて歩き出す。
 オキテスハこの期に及んであるまじきことに迷った。
 『新艇を洋上に浮かべた状態で引き渡すか、揚陸して引き渡すか。ギアス、どちらがいいと考える?』
 『そうですね』と思案するギアス。
 『私には解りかねますが、揚陸しての引き渡しがいいのではないかと考えます。隊長!』
 ギアスの意見を聞いたオキテスは、浜の状態を見回した。
 『ギアス、お前の言うように新艇を揚陸して引き渡す。全員を招集してくれ』
 『解りました』
 ギアスが漕ぎかた一同に指示を告げる、全員が新艇に取り付く。
 揚陸作業は、艇尾を海の方に向けて、浜の条件のいい場所を選んで定め置いた。
 オキテスが新艇引き渡しの体裁を整える、艇には持参した幕を張り、艇首の前に、受注していた予備の帆、贈呈品の櫂一式および櫂舵、ぶどう酒の入った壺、堅パンを詰めたケース5個、そして、子羊一頭を重石に結び、陳列して準備を整えた。
 オキテスは、注文主のテムノスを新艇引き渡しに迎える要領を一同に伝えてテムノスの来駕を待った。
 複数の者が言葉を交わす声が聞こえてくる。テムノスが水夫らを連れて姿を見せる。
 オキテス、ギアスが艇首前に立つ、漕ぎかたの者ら36人が新艇を囲んで、円陣形に整列している、テムノス一行の姿を認める、36人が力を込めて手をたたく、一行歓迎の大拍手である、一行は何が起きたかと驚く、感動の一瞬の演出である。
 テムノスもスダヌスも考えもしていなかった新艇の納入風景である。テムノスと水夫たちは、この光景に肝をつぶして驚いた。スダヌスは舌を巻いている。
 その場にいる者らが体験したことのない『艇』という大型商品の納入風景であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1017

2017-04-25 08:03:21 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス殿、よう来られた』
 『おう、スダヌス浜頭、待たせたかな。こちらへ移られよ』
 『おう!そうだな』
 スダヌスが新艇に乗り移る、乗ってきた船の漕ぎ方らに声をかける。
 『積んできた荷をこちらの船に積みかえてくれ』
 『おう!』と返事を返し積み荷の移動を瞬時に終える。積みかえた荷の中に生きた子羊一頭もいた。
 『おう、お前らご苦労であった。俺が帰ってくるのは、明朝のこの時間あたりだ。例の準備をしておいてくれ』
 『解りました』
 スダヌスは、新艇艇上の人となる。オキテスが艇上の一同に伝える。
 『おう、諸君!これからの海路は、スダヌス浜頭の案内によりレテムノンの港に向かう。この新艇の注文主であるテムノス殿は、浜頭の友人である』
 『皆さん!ご苦労です。いま、オキテス隊長より紹介されたスダヌスです。新艇納入先であるレテムノンの港に案内します。よろしく願います。海岸に沿っての航走ではなく、この海をレテムノンに向けて直行します。進路は、この方向、南東に向かって進みます』
 スダヌスが手で方角を指し示しながら言葉を継ぐ。
 『今日の風は追い風ではないが、一刻(2時間)あまりの航走で目的地に到着の予定です』
 『一同、解ったな。ゴッカス、艇を出してくれ』
 『はい!艇を進発させます』
 ゴッカスが指示を出す、櫂さばきよろしく泡立つ海、新艇が波を割る、後続のギアスの艇も距離を保って航走し始めた。
 オキテスとスダヌスは、レテムノンに着港して、どのようにして新艇の引き渡しをするか、その要領について打ち合わせた。
 『浜頭、了解しました。世話をかけます』
 『なんのなんの、どおってことない!オキテス隊長。あなた方の遠路の納入航海に対して、テムノス方も気を使うだろうと考えられる。おそらく、一泊ということになると考えられる。それを快く受けてレテムノンに一泊する。そのように段取りしてください』
 『解った。当方も礼を尽くす、快く相手方の礼を受けるそれでいいな』
 『それでいいです』
 打ち合わせが終わる。
 スダヌスが艇の進行方向をチエックする、沿岸の風景を見渡す、怠りなくチエックする、再び艇の進行方向を確認した。
 操船を担当しているゴッカスと艇の進行方向を確認する。ゴッカスがうなずく。
 スダヌスとの合流地点からレテムノンの港に向かって艇が直線の航路を航走していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1016

2017-04-24 08:08:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスらの二艇は、海を渡ってくる北東からの風に押され、軽いオールワークで南に向けて航走している。
 漕ぎかたにとって、櫂さばきが少々軽くなったとはいえ、炎天下、汗にまみれての漕走である、生やさしくはなかった。
 オキテスが滴る汗を腕で拭う、吹き出す汗が止まるわけはない、彼は浜を出てからの時間経過を振り返った。
 『ゴッカス、暑いな!俺らが浜を出てからどれくらいの時間が経っている?』
 ゴッカスが熱射を浴びせる太陽を見あげる。
 『隊長、二刻半(5時間)ぐらいではないかと考えられます』
 『そうか。艇の進み具合はどうだ?』
 『漕ぎかたの総員数の現状から考えて、艇速が少々遅いようですが、ほぼ順調と考えられます』
 『解った。あと半刻くらいでスダヌス浜頭との合流点に到達すると考える。漕ぎかた一同に水だ』
 『解りました』
 艇上の一同が水にありつく、川袋の水は日照にさらされて生ぬるい、かまわず喉に通す、乾いているのどを潤す、漕ぎかた連中の表情が和らぐ、オキテスが一同に声をかけた。
 『おう、一同!暑熱の炎天下、懸命の漕ぎ、ご苦労!あと半刻くらいでスダヌス浜頭との合流点に着く、洋上ではあるが小休止する。航海のはかどりは順調である。暑さが厳しいが海の状態は穏やかといえる。ふんばってくれ』
 一同が『おうっ!』と返す、艇はひたすらに波を割る。後続しているギアス操船の試作艇上でも、この風景を遠目に眺め一同が水でのどを潤した。
 オキテスもギアスも記憶を呼び起こして、この航路を南下している。オキテスは三度目であり。ギアスにとっては二度目である。オキテスの三度はスダヌスとの交流の航海であり、ギアスはアエネアスのイデー山への山行の航海であった。漕ぎかた連中のなかにも二度目の者がいる。彼らにとっても懐かしい航海であった。
 水でのどを潤してからの半刻は瞬く間に過ぎる、艇上で進行方向に目を凝らすオキテスの目に、スオダの浜への入り江口の南の岬が視野に入ってくる。その近傍の洋上に浮かぶ一艘の小船に目をとめた。
 船上のスダヌスが両手をあげて振っている、その手ぶりに手を振ってこたえるオキテス、遠めの目線が合う、無事航海の安堵を伝えてくる、双方の船が指呼の距離となる。
 二人が手を差し伸べる、艇と小船が洋上において波にゆすられながら接舷した。
 二人は堅く手を握り合う、目を合わせる、声を出さずとも通じる心と心、二人は互いに肩を抱いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1015

2017-04-21 07:38:55 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスが率いる二艇は、朝の光を浴びて航走している、浜をあとにして今様時間にして約3時間弱を経て、アクロリテイの半島岬の北に差し掛かっている。
 二艇は、沿岸航法で沿岸の風景を見て航走している。
 ゴッカスは、空を仰ぎ、日射の暑さをを体で測り、海を見渡し、風具合の読みに集中している。
 北西からの微風のそよぎを感じはするが、艇を押す風ではない。岸から離れている距離は、おおよそ15スタジオン(約3キロ)沖を航走している。
 ゴッカスがオキテスに声をかける。
 『隊長、海上状況を報告します。程よい風はまだ来ません。現在地点より艇は海岸線に沿って東へと進路を進めます』
 操舵のグッダスに指示が飛ばす。
 『グッダス、進路を東へだ。陸地との距離は、15スタジオンを維持!』
 『了解!』
 艇は東へと方向を転じて進む、波は穏やかにうねっている、航走すること1時間、半島岬の東端に到る。
 オキテスは、南への転進地点を探り始めた。彼は半島岬の風景を見ながら思案する、ゴッカスに声をかけた。
 『ゴッカス、10スタジオン東進して南へ転進だ。いいな』
 『解りました』
 艇が転進地点に到達する、ゴッカスがグッダスに指示を出す。
 『グッダス、進行方向、南へ!この方向だ』と手を差し出して方向を示す。
 艇首を90度、南方向へと向ける。艇が受ける風向きが変わる、凪が終わろうとしているこのとき、いい風を期待する、風向きは北東からの風に変わる、風の力を感じる、ゴッカスは決断した。
 『隊長、帆張りします』
 オキテスがゴッカスの声がけを耳にして、状況をみて瞬時に断を下した。
 『了解!』
 帆張りの指示が飛ぶ、新艇の真新しい帆を帆張りする、風をはらむ、漕ぎが少々軽くなる、航走速度がかすかではあるが加速する、順調といえる、艇は海洋を南に向かって波を割った。
 オキテスは、航走状態をみて考える。『この航走で行けば、レテムノンの港に着くのは昼過ぎくらいとなる。着港時間が大幅に早くなる。遅れるよりはよい』とした。
 オキテスハ次の到達目標地点について考える、スダヌス浜頭との合流地点である。
 スオダの浜への入り江口の南の岬の近辺である。彼はスダヌスから預かっている木板を眺めた。『俺が、この合流地点に早く着けば洋上にての待機か。まあ~、いいか』とひとりごちてゴッカスを傍らに呼び寄せた。
 『おう、ゴッカス、次の目標地点は、このあたりだ。スダヌス浜頭との合流地点だ。この地点でスダヌス浜頭がこの艇に乗る。いいな。ただしだ、我々が早着の時には、洋上で待機しなければならない。ということだ』
 『解りました』
 ゴッカスは、オキテスからの指示を理解した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1014

2017-04-20 07:01:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 艇上の一同はオキテスのメッセージを受けとった。
 『はい!解りました』続いて『オウッ!オウッ!』と一同が声をあげる。
 セレストスが航海中の食糧を運んでくる、船積みを終える。
 『オキテス隊長、航海期間、都合四日分の食糧の船積みが終わりました。食べる日時については、袋口をしめた布切れに書いてあります。本日分は二艇に分けて船積みしてあります』
 『おう、ご苦労、ありがとう、セレストス!』
 『おう、オキテス、納入祝い品の堅パンのケースはこれだ!』
 オロンテスが新艇艇上に届ける。
 『おう、オロンテス、世話をかけたな。いろいろとありがとう。俺は、安全第一航海に努めて行ってくる』
 『おう、無事の帰着を待っている。航海中の事なきを祈っている。統領と軍団長が見えた』
 統領がオキテスに話しかける。
 『おう、オキテス、出航の支度ができたか?』
 『はい、出来ました』
 『そうか、道中気配り怠りなく、無事に仕事を終えて帰ってくる。いいな。我らが待っているのだ。まもなく陽が昇る。先行はどちらの艇だ?』
 『はい、先行は、新艇です』
 オキテスは、半島岬の左手遠くに見える水平線を見つめる。目線を岬の小山の頂に移す、昇る太陽の第一射が小山の頂を輝かせる。
 『統領、軍団長、行ってきます』
 オキテスが言葉をかける、イリオネスがオキテスの手を握る、安全航海の意を伝える、うなづくオキテス。
 オキテスが艇上に身を移す、漕ぎかたに出航の指示を出す。 
 『おう、ゴッカス、出航だ』
 ゴッカスが指示を飛ばす。
 『一同、櫂をとれっ!漕ぎかたはじめっ!』
 海面が泡立つ、新艇が凪いでいる海面を割る、少々間をおいて試作艇が波を割り始める。
 風がない、凪いでいる海、二艇が航跡を重ねて浜を離れていく、浜に居並ぶ者らが航海の無事をこめて手を振って見送った。
 進み行く船影が豆粒のように小さくなるまで浜の一同が見送った。
 ヘルメスも準備が整い浜を離れていく、あわだたしい朝の一時が終わる。
 新艇納入航海に出航したオキテスらを送り出して、パリヌルスとドックスが顔を合わせた。
 『ドックス、今日だが、時間を見計らって戦闘艇の衝角構造体について話し合おう。ガリダ方からの製材担当の者を二人くらい同席させてくれ。お前の計画している建造手順のこともある。そのあたりを話しておきたい。昼めしのあとくらいにするか』
 『解りました。場所は?』
 『建造の場でいい』
 二人は打ち合わせを終えて、それぞれの場へ歩を向けた。

『トロイからの落人』  第7章 築砦  1013  *脱字をやりました。お詫びいたします。 

2017-04-19 12:15:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 脱字個所は、18行目です。深くお詫びして訂正いたします。
 
  はるか東の水平線   を    はるか北東の水平線   と訂正いたします。

                  山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1013

2017-04-19 07:49:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『オキテス、明朝の出航だが、いつ頃と決めている?』
 『はい、陽の出の頃に出航しようと考えています。日の暮れないうちにレテムノンの港に着きたいと考えています』
 『パリヌルス、試作艇の具合は万全か?』
 『はい、万全であるといえます。また自走で行く納入新艇のほうも万端整っています。新艇および試作艇に乗艇する漕ぎかた連中のほうもギアス艇長のほうで決めています。チエックした状態では抜かりのないことを確認しています。また、航海中の食糧に関する件もオロンテス隊長のほうで準備されています。これは明朝の出航時の船積みです』
 『おう、そうか。万事、遺漏はないな』
 『はい、ありません』
 『おう、そうか了解した。!オキテス隊長、航海には、考えられないことが発生する。気を配って航海をしてくれ。道中の安全と無事を祈る』
 『ありがとうございます。肝に銘じます。無事、業務を完遂して、安全航海のうえ帰着します』
 『おう、頼むぞ!』
 一同が集まっての打ち合わせを終える。
 各自が持ち場の終礼に向かう、彼らは一同に、明朝の新艇納入に向けての出航を伝える。
 『おう、諸君!今日一日、ご苦労であった。一同に伝える、明朝、陽の出とともに新艇の納入に、この島のレテムノンの港に向けて出航する。彼らの無事を祈って送り出す。以上だ』
 一同から、『おうッ!』と返事が返る。その返事を聞いて、一同に今日の終業を伝えた。

 朝が明ける、晴れ渡っている、はるか東の水平線がかすかに明るい、満天の星が眠りにつこうとしている。
 薄明のうす明るい浜、声が飛び交う、パリヌルス配下の者らがギアスに手を貸している、出航準備が整っていく。
 オキテスが姿を見せる、納入新艇のチエックをする、ギアスに声をかける。
 『おう、ギアス艇長!新艇に乗る漕ぎかたは?』
 『はい、ただいま!』
 ギアスは、新艇に乗り組む漕ぎかた連中の17名をオキテスに託した。
 『オキテス隊長、操舵担当のグッダス、16名のまとめ役のゴッカス、以上総員17名、ゴッカスは、風読み、操船等の役務を任せられます。よろしくお願いいたします』
 『おう、了解!』
 ギアスは、漕ぎかた連中の引継ぎを終える。オキテスが彼ら一同に告げる。
 『おう、一同、ご苦労!この新艇をレテムノンの注文主に届ける。その責任担当をしているオキテスである。我々は、陽の出を待って出航する。目指すレテムノンには日の暮れまでには着く予定で航海する。航海途中において、航海の案内役を担当するスダヌス浜頭をこの艇に迎える。今日の航海予定は、いま言ったとおりだ。ゴッカス、操船を頼む。天候は晴れ、風についてはどのような風が来るか今は解っていない。君らはギアス艇長から聞いていると思うが、安全第一の航海に努めて、この任務を完遂する。いいな!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1012

2017-04-18 07:57:44 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『おう、ドックス棟梁!苦労かけたな。いい出来だ、申し分がない、ありがとう。帆柱の取り付けも終わったな、海へ出して喫水の深さを確かめておいてくれ。どれくらい深くなったか知っておきたい』
 『解りました』
 『ギアス、帆柱立て、関連の作業が終わったら、航海に備えて、艇全体の念いりチエックだ。海へ出したら帆張り作業をやってチエックを終えてくれ。そのうえで小島まで漕走で往復、艇の走りをチエック。以上だ』
 『解りました。パリヌルス隊長、艇に乗られますか?』
 『おう、乗る!点検が終わったら声をかけてくれ』
 ギアスの点検作業が終わる、試作艇がその身を海に浮かべる、ギアスの声がパリヌルスに届く、艇上のパリヌルス、ギアスの指示、艇が波を割り始めた。
 パリヌルスが指示を出す。
 『ギアス、艇をゆすってみろ!ヨコ方向だ』
 『はい!』
 漕ぎかた5~6人に声をかけて艇を揺さぶる、揺れの体感、うなずくパリヌルス。
 『ギアス、感触は?』
 『揺れに対する抵抗感が大きく感じられます。喫水の深さも特に変わったといえませんが、心持ち深いといった感じです』
 『そうか、よしっ!』
 艇が小島の南端を過ぎる、艇首を返す、建造の浜へと戻った。
 パリヌルスがドックスに試作艇の試走感を伝える。
 『ドックス棟梁、ようやってくれた。走る感じが前に比べて安定性が良くなっている。これで少々の大きい波でも安心といえる。明朝、安心して送り出せる』
 『心から航海の安全と無事を祈ります』
 『おう、ありがとう!ところで、納入する新艇のほうのことだが、準備が整っているのか?』
 『はい、万全です。櫂、櫂舵の予備も整えました。予備の帆も準備して積んでいます。明朝の出航を待つばかりになっています』
 パリヌルスが試作艇の上にいるギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、明日の出航のことだが、二艇に分かれる人員の配置の件、一同に申し渡してあるのか?』
 『その件は、各自にきっちり申し渡してあります』
 『そうか、それを聞いて安心した。終礼時に念を押しておけよ』
 パリヌルスがアエネアスら四人のいるところに戻ってくる。
 『おう、パリッ!やるべきことが終わったのか』
 『はい、終わりました。明朝の出航を待つばかりに整っています』
 『そうか、ご苦労!いま、オロンテスから集散所の対応を話し合っていたところだ。うまい具合に事が運ばれている、よろしくとのことだ。軍団長、一同と話し合っておいてくれ』
 『解りました』
 アエネアスは、オキテスに話しかけた。