『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第3章  踏み出す  155

2011-08-30 07:06:38 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ウオッサ!』『ウオッサ!』の掛け声が、大喊声に変わった。
 『ワオッ!』『ワオッ!』『ワオッ!』
 海上に浮かんだ舟艇のその姿に感動した。
 艇上のパリヌルスが石でできた碇を海中に投げ入れた。他の2艇も続いて、石でできた碇を海中に投げ入れた。着脱式に考えられている、錘構造を施したセンターボードを所定の位置に装着して、舟艇の進水の儀式を終えようとしたとき、またもや浜の一同から一斉に喊声が湧きあがった。彼らは抑えがたい興奮に満ちていた。
 アエネアスら、主だった者たちが各艇の艇上の人となった。舟艇操作の者たちが担当部署についた。
 『碇を揚げろっ!』艇上に檄が飛んだ。
 碇が引き揚げられる、帆が張られる、ゆるい陸風が艇を押す、漕ぎ手は両舷に5人づついる、『漕げっ!』 の掛け声がかかる、彼らは一斉に海面を泡立てた。舟艇は軽やかに海面をすべった。
 船尾の三角帆と舵を操作して三艇が同時に回頭した。
 大自然の中で繰り広げた小さな小さな一事であった。しかし、砦の者たちにとって、彼らが成し遂げた、一つの大事であった。

第3章  踏み出す  154

2011-08-29 06:53:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、太陽を真っ向にして壇上に立った。彼は両腕を大きく広げ、太陽を仰いだ。
 『お~お、大日輪よ』 彼は、太陽に呼びかけた。
 『ここに我々が持てる叡智と技術、そして精魂をつぎ込んで造り上げた舟艇、3艇。その幸先に幸あらんことをここに祈り上げる』
 彼の声は浜の空気を振るわせた。かれは、ゆったりとした動作で砦の者たちのほうへ身体の向きを変えた。
 『諸君っ!おはよう。お前たちが叡智と技術、そして精魂の限りをつぎ込んで造り上げた舟艇が、今日、進水する。大変にご苦労であった。壇上からではあるが心から、お前たちに礼を言う。ありがとう、ありがとう、ありがとう』
 集っている者たちに対して、身体の向きを変えながら感謝の言葉を伝えた。これを聞いて彼らは大きな喊声で答えた。
アエネアスは、一同に向かって、檄を飛ばした。
 『一同、舟艇にとりつけ!力をこめて、海へ浮かべるのだ!』
 彼らはこぞって我先にと各舟艇にとりついた。パリヌルス、オキテス、カイクスが各舟艇の艇上に立っている。両手を上下に振り上げ下げして、手拍子、調子を起こさせた。それに合わせて居並ぶ者たちから掛け声が上がる。艇を押す者たちも声を上げる。浜は興奮のるつぼと化した。
 『ウオッサ!』『ウオッサ!』『ウオッサ!』
 艇が砂上を動き始めた。
 『ズリッ』『ズリッ』『ズリッ』
 船尾が海に向かっていく、波打ち際を過ぎて船尾が海水面にたどりついた。ズリ方が滑らかになっていく。
 舟艇がその雄姿も雄雄しく海上に浮かべた。浜に大喊声が沸き起こった。

第3章  踏み出す  153

2011-08-26 13:04:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あ~あ、虫のことですか。虫はいつもここに住んでいますよ。はっはっは!』 とトリタスはちょっぴり大きめの腹を押さえ叩いて笑い声を上げた。
 朝の砦の浜は、ガヤガヤと笑い声で和やかな賑わいであった。
 パリヌルスの所へオロンテスとオキテスがやってきた。
 『パリヌルス、点検は終えたぞ。手落ちは全くない。進水はいつでもいいぞ』
 『判った、ありがとう。式をやろう。そして、海へ乗り出そう』
 その頃には、舟艇建造にたずさわった者たちも、砦の者たちも浜に顔をそろえていた。オキテスがカイクスとアレテスを呼んだ。
 『皆を集めてくれ。進水の式をやる。統領から言葉をもらう。いいな直ぐ取り掛かってくれ』
 『判りました』
 二人は部下数人に声をかけて皆を集めた。
 パリヌルスはアエネアスに
 『進水の式をやります。統領、ひと言お願いします』
 『おっ、そうか。判った』
 アエネアスはしつらえられた壇に上がった。彼は、やや緊張気味であった。

第3章  踏み出す  152

2011-08-25 06:38:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『あっ、統領、おはようございます。しかし、統領、早いですね』
 『おっ、パリヌルス、おはよう。どうだ新艇の出来具合は?今日、新艇の試し乗りをやると言うから、朝は暗いうちからイリオネスを起こしてここへ来たようなわけだ。浜に来て見るとどうだ、オロンテス、アレテス、カイクスほか担当の者たちが皆いるではないか。俺は打たれたな、彼らのその真剣な姿に。そして、強く思ったよ。彼らとともに建国の初志をと』
 『そうです。統領の言われるとおりです。それから、トリタスが来ています。うまい魚の干物ができたと言っています』
 『あっ!統領、おはようございます。今日はいい日和になります。新艇の試し乗りだそうですね。それはそれは、おめでとうございます。パリヌルス様とも話しましたが、虫が知らせてくれるのですね。『おい、トリタス、今日、砦の浜へ行け』ってね。うまい魚の干物も出来たし、そのようなわけでやってきました』
 『おっ、そうかそうか。トリタス、おはよう。お前に知らせを届ける虫とは、どんな虫だ。俺は会ってみたい。はっはっは』
 『イリオネス様おはようございます』
 『トリタス、おはよう。お前、来たのか、会いたかったぞ、元気だったか』
 『イリオネス様、何んとうれしいことを、このように歓待されるとは、私はとってもうれしい。感激の至りです』
 『当然じゃないか。お前は我々にとって、このうえなく大事なのだ。ところで、おまえに知らせを届けた虫を連れてきたのか、トリタス』

第3章  踏み出す  151

2011-08-24 07:21:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼の意識は、舟艇の完成と交易を飛び越えて、次のステップへと進んでいた。
 彼の意識は、波を割ってエーゲ海を南下する船団を統率している風景であった。寝ている間は何を考えていたのであろうか。彼の意識の中に存在しているのは、生きている証しの使命であった。
 風が肌をなでていく、射しかける朝陽の光に目を射られて我に帰った。
 『よしっ!今日のやるべきことをやろう』 彼はみんなのいる方に向けて力強い一歩を踏み出した。
 『パリヌルス様、おはようございます』
 『おっ、おはよう、トリタス、どうした。お前、来たのか』
 『虫が知らせてくれるのですね。『おい、トリタス、今日は砦の浜へ行け』ってね』
 『そうか、お前、いいときに来た。今日はだな、出来上がった舟艇の試し乗りをやる。お前も乗れ』
 『いいのですか、本当にいいのですか。貴方様の言葉に甘えて、そうさせていただきます。あっ、そうそう、それから、もう、近ぢかでしょう、交易の船が来るのが』
 『そうだ、テカリオンが浜に来る日は、もう近い、その件については、あとから、イリオネス、オロンテスとも一緒に話し合おう。それでいいかな』
 『よろしいですとも、今日の昼は、出来上がった魚の干物で昼めしをと思っています』
 『干物の出来は、うまくいったか』
 『え~え、うまくいきましたとも、上々の出来です。そのうまさにパリヌルス様も腰を抜かしますよ』
 『よっしゃっ!それは楽しみだ』
 二人は軽く話のジョブを楽しんだ。

第3章  踏み出す  150

2011-08-23 06:47:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、考えをめぐらせながら深い眠りにはいっていった。彼の寝所には窓がない、昼でも薄暗い。
 夜明けの浅い眠りのときである、彼はゆれていた、夢うつつでゆれていた。いや、誰かが彼をゆすっていた。目が覚めた、耳元で声がした。
 『隊長っ!隊長っ、起きてください』
 浜の見張りを担当している者が彼を起こした。
 『おっ、何だ?』
 『統領も、軍団長も、棟梁のオロンテス、他のスタッフも浜に来ています』
 『え~っ!俺は寝過ごしたのか、わかった。直ぐ行く、ご苦労』
 彼は跳ね起きて浜へ急いだ。今日のことを思案しながら浜へと駆けた。
 『お~っ、パリヌルスが来た、来た』
 『あっ、統領、おはようございます』
 『おう、おはよう』
 『皆もおはよう。俺は、よく寝ていたらしい、おくれてすまん』
 『いや、俺たちが早いのだ。水を浴びて、さっぱりして来い』
 『おう、ありがとう。じゃ、ちょっと行ってくる』
 パリヌルスは、波打ち際に歩を運んだ。
 秋の深まりつつある海は、冷え冷えと彼の身を引き締めた。もやもやがふきとんで消えた。彼の意識はしっかり覚醒した。

第3章  踏み出す  149

2011-08-22 06:21:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがオロンテスに話しかけた。
 『オロンテス、お前に日々、大変苦労をかけている。何から何までお前任せだ。お前には、皆がとても感謝している。ところでだが、麦の方はどんな具合だ、よければ話してほしい。収穫量、乾燥具合など、うまくいっているか聞かせてくれないか』
 『え~え、うまくいっています、ご安心ください。このところの好天に恵まれて乾きぐあいは上々です。収穫量はまずまずというところです。我々の食いぶちを残して、交易に出す分は十分と言えます。アーモンドも今度の交易で残さず出荷することにしています。魚の干物つくりもうまく運んでいます』
 オロンテスは、一同に報告するように話した。
 『そうか、それはよかった。安心していていいな』
 『え~え、いいですとも』
 彼は言葉短く返答した。あれやこれやと話して、パリヌルスが話を締めくくって会議を終えた。
 
 エノスの浜も中秋の頃となり、日足も短くなってきていた。太陽も西に傾いたと思うと夏のような間もなく、落ちるように海に没していった。
 パリヌルスは緊張した心境で寝床に横たわった。3艇の舟艇を1艇づつ思い起こした。建造に取り掛かったときに描いたイメージより、はるかに姿カタチがとびぬけて美しく出来上がった。彼は大いに満足した。あとは、航走の具合だ。波を割って進む、航跡はどうだ?水の抵抗感をどう感じるかであった。
 

第3章  踏み出す  148

2011-08-20 06:29:12 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 舟艇建造の作業は、急ピッチで進行した。彼らの毎日は感動の毎日であった。
 帆桁が取り付けられる、帆が張られた。船尾の三角帆も張られた。船体にタールが塗られていく、舟艇が完成に近づいていった。
 アエネアス、イリオネス、パリヌルス、オロンテス、オキテス、そして、主だった者たちが集まって会議が開かれた。
 会議は、パリヌルスの発言でスタートした。
 『統領、舟艇3艇、出来上がりました。このあと、舟艇を海に浮かべて最終の点検をします。手直しをしなければならないところがあった場合には、速やかにその箇所の手直しを行い、再度、海に浮かべ、試しの航走を行います。明日はその場に統領の臨席をお願いする次第です』
 『おっ!そのときが来たか。判った。舟艇の完成を見る。聞くが、俺も、その船に乗っていいのか。いや、何んとしても乗りたい。パリヌルス』
 『え~え、いいですとも。舟艇建造にたずさわった者たちも、それを望んでいます。是非、乗ってください』
 会議の場にいる一同の顔が高調していた。
 『ところで交易人のテカリオンからの連絡はあったか』
 『いや、まだ届いてはいませんが』
 『あと10日も経てば、来るのではないかと思っています』

第3章  踏み出す  147

2011-08-19 12:56:15 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 沈み行く夕陽に顔をほころばせて食事会は名残りが尾をひいて終わりの訪れは深更に至った。この時代の深更は今様時間で言えば、午後8時から9時ごろである。
 
 舟艇建造は帆柱を立てる工程までに進んできていた。オロンテスとカイクス、パリヌルスとアレテス、オキテスとアカテス、二人がチームを組んで各艇を担当した。舟艇のメインマストたる帆柱である。進行方向に対しての左右のバランスに気を配った。舟艇を海に浮かべて、左右のバランス均衡を確かめるとともに前後のバランスにも気を使い、細心の注意を払って帆柱を立てる作業を終えた。
 また、操舵とともに操作するように工夫されている船尾の三角帆の帆柱は、その操作性に充分、注意をして立てられた。帆柱が立って舟艇が舟艇らしくなってきた。彼らは充分に視距離をおいてしげしげと眺めた。
 『お~お、オロンテス、お前も見ろ。こうして眺めると、なかなかいけるじゃないか。姿カタチの整った、いい船だ』
 パリヌルスは、傍らのオキテスたちにも声をかけた。建造の場の者たちも帆柱を立てた舟艇を見た。彼らは、自分たちがたずさわって造りあげた舟艇を見上げて感動した。彼らの中には目頭を押さえるものもいた。まだ完成には至ってはいない舟艇だが、その雄姿を見つめて、感情の高ぶりを抑えられず、誰かが大声をあげた。
 『ワオ~オッ!』 その大声につれて場が沸いた。
 『ワオ~オッ!』 大声の大合唱となった。

第3章  踏み出す  146

2011-08-19 07:06:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルス、オロンテスらの一行が帰りついた浜では、食事会の準備がすっかり整っていた。
 各所に焚き火が燃やされ、その箇所に食材が配られつつあった。
 彼ら一行を出迎えたカイクスら三人は、オロンテスと二言三言打ち合わせを終え、オロンテスとリナウスが砦の方へ出向く、カイクスとアミクスは、場の点検を行い、各焚き火を17~20人が囲むように皆を配置した。
 『これでいいな。アミクス』 『え~え、いいでしょう。あと砦からの者たちです』
 砦からの者たちが姿を見せた。アエネアスを先頭に、わいわい、ガヤガヤ、ニコニコとやってきた。待っていた者たち全員が彼らを拍手で迎えた。各所から歓声も沸いてくる。アエネアスは手を上げて彼らの歓迎にこたえた。
 パリヌルスは、腕を広げて座の拍手歓声を抑えて、アエネアスに『乾杯』の掛け声を請うた。
 場の真ん中に立ったアエネアスは、全員を見渡したあと、持ち前の通りのいい声で、一同の日頃の労をねぎらい、舟艇建造の進捗にふれ、『乾杯』と呼ばわり食事会が始まった。
 食事会はにぎわった。場の中央にはスペースをとり、レスリングの試合を行った。彼らの砂を蹴って取り組む熱のはいった格闘に場は、沸きに沸いた。
 場にいる者たちが、久しぶりの食事会を心いくまで楽しんでいる風景がそこにあった。