『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第4章  怒るアキレス  15

2007-09-29 08:07:43 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アキレスは、辛うじて自分を抑えた。だが、憤りは収まらなかった。
 『アガメムノン、よく聞け!貴様は、この上なく卑怯なやつだ。戦いもせずに戦利を奪い取る。また、この戦いそのものが、お前やメネラオスの怒りが引き起こしたものであろうが。俺は、このあと、連合軍がヘクトルのトロイにやられても、感知しない。アガメムノン、貴様は、連合軍のつわものを侮辱した、その身の過ちを知れ。』
 それだけ言って、アキレスは自分の席に戻った。
 一方、アガメムノンが、またもや、怒りの言葉を吐こうとしたとき、会議に居並ぶ将のなかから、老将のネストルが起ちあがっり皆に告げた

第4章  怒るアキレス  14

2007-09-28 08:07:07 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『何を言うか、アキレス!お前の怒りなど屁でもないわ!将たちの総意が、娘を返せと言うのなら、娘を返す。判ったか、アキレス!俺は、お前の戦利を取り上げる。覚悟はいいな。総司令としての、俺の権力、それに伴う権利、俺の権威は、お前が思うより、はるかに上なのだ。それを教えてやる。覚えておけ、アキレス!』
 この言葉を耳にしたアキレスは、血が頭に上った。心身ともに怒りに乱れた。
 アガメムノンを倒すか。激しい憎しみの感情が噴きあがった。身体全身が怒りに反応した。腰の愛剣の柄を握った。
 その瞬間、一陣の風が髪をなでて通り過ぎた。
 アキレスは、我に帰った。自分の倒すべき相手は、アガメムノンではないと気がついたのである。

第4章  怒るアキレス  13

2007-09-27 07:59:49 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンは、手にしている王杖で地面を思いっきり突いて、怒りの言葉を吐いた。
 『何をっ!戦利の娘を返せだと。アキレス、お前は、この俺に何を言うか。』
 会議は、会議でなくなった。アガメムノンとアキレスの口論の場になりつつある。
 『戦利の娘を俺の勝手にしてどこが悪い!アキレスっ!お前は、誰に向かって口を利いているのだ。この俺に戦利を失えだと、頼みごとがあるのなら、それに見合う戦利を調達して、持ってきて頼め!判ったか、アキレス。』
 アガメムノンは、諸将の面前で怒鳴り散らした。アキレスも負けずに、その怒鳴りに答えた。
 『アガメムノンよ。その高慢にして、欲の深さは何なのか。戦利の娘を即刻返して、悪疫を断ち、軍団内の秩序を回復することこそ、役務であろうが。すぐやってこそ、王杖をもつ統領なのだ。よく考えろ。』

第4章  怒るアキレス  12

2007-09-26 08:21:06 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 アガメムノンは、苦りきっていた。力と力の衝突で勝負するのとは違いトロイ側の、このような陰湿なやり方に嫌悪を抱いた。しかし、戦争である。対手を屈服させるのに戦略、戦術の善悪、正義、不正義を言ってはいられない。いっときも早く防衛手段を講じて、次の作戦行動に移らなければならない。
 会議は、止まっている。アガメムノンは、顔をそろえている側近や将たちがどのように考えているか。彼等は、腹に思っていて言わないことは何なのか。また、彼等の意見を聞いて、戦利の返還という不名誉、そして、自分の名誉と立場を如何に守りきるかを考えた。
 アキレスは、老将のネストルをはじめ、オデッセウスや取り巻きの将たちが神官の娘を返すことに賛意を持っていることを察していた。
 アガメムノンに向かって、アキレスは、ずばり言ってのけた。
 『アガメムノン統領!この際、神官の娘を解き放って、父のもとへ返されては、いかがなものであろうか。ここに列席の方々も考えられていると思うが。貴方のもとには、他に幾人も娘がいるではないか。そのようにしなければ、この混乱は、いつまでたっても収まらない。メネラオス。お前は、兄アガメムノンに何もいわないのか。』

第4章  怒るアキレス  11

2007-09-25 07:56:20 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 矢の発射地点がシモエース川の南側であり、飛びくる矢の着地点が陣営の南部に多く、特にミュケナイとスパルタの軍団に被害を多く出していた。
 オデッセウスの探索の結果とどのように対処するかが会議の議題であった。アガメムノン、メネラオスは頭を抱えている。アキレス、アイアース、デオメデス等は、不思議に思っていた。会議は、思案にくれて、情況の何故に答えを出せなかった。
 会議に出席の面々は、アガメムノンに思ったことの半分ぐらいしか、ものを言わないのではないかという雰囲気が会議に漂っている。しかし、戦いもこの様に長くなってきていることも、将たちをいらだたせていた。 
 アガメムノンが、神官を罵詈雑言でしりぞけ、そのうえ、神官の娘を帰さなかったことの恨みであり、祟りであると結論付けて、今の連合軍の危難の解決をしようとしていたのである。

第4章  怒るアキレス  10

2007-09-24 09:06:04 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 連合軍では、飛び来る矢で射倒され、疫病で息絶える兵士は、増えてきた。矢で倒される兵士だけとは限られなくなってきた。
 軍団医師のマカオンも頭をひねった。治療方法が判らなかったのである。彼は、為す術がなかった。疫病で死を迎える兵士が後を絶たない。死者を焼いて葬る焔は、昼夜を問わず絶え間なく燃え続けた。死者をいっときもほっておけない事態であった。
 この様な惨状を呈し始めて、6日目の朝である、連合軍では、会議を招集した。
 オデッセウスは、ひそかに探索していたのである。1、射放たれる矢数は14~15本である。2、極短時間の間に放たれる。3、毎日ではないようだ。4、放たれる時間は決まってはいない。5、どこから放たれるか。決まったところからではない。まさに、神出鬼没の作戦実行であった。

第4章  怒るアキレス  9

2007-09-22 07:27:01 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 スミンテウスは、弓と矢を携えて、弓の射程距離のことを考えて、戦野の小高い丘の木の茂みから、連合軍の陣に向けて、10本の矢を射放った。先ず、ロバ数匹と犬を射倒した。これによって射程距離と狙いの確かさをチエックした。次いで、弦音を響かせて兵士たちを射倒した。連合軍の将たちは、血色を失い青ざめた。矢がどこから飛んでくるのか判らなかった。
 矢は、甲冑を貫いて、身に突き刺さる。叫びをあげて倒れる兵士、だが、それだけでは、おさまらなくなって来た。矢が飛びくるようになって、3日目である。兵士たちは、嘔吐をくりかえし、身体には、発疹を作って、悶え苦しんで息絶えていった。
 この様な恐ろしい矢が飛び来るようになって、今日で5日目である。

第4章  怒るアキレス  8

2007-09-21 07:45:14 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『弓だけでは無理ですね。策を講じない限り無理です。』
 『こんなのはどうだ。疫病の蔓延だ。弓を使って、得体の知れない病を蔓延させるのだ。』
 『それはやってみないと判らないことですが。得体の知れない病を連合軍の陣内に流行らせる。それは、トロイ軍にとっても危険なことです。やってはならないことだと思いますが。』
 『だが、今、戦争は膠着状態だ。遂行して勝負をつけない限り、この戦争は終わらない。』
 『とにかくやってみろ。』
 『疫病のもとが、一瓶あるだけだから、それだけですよ。』
 スミンテウスは、軍団長からの作戦指示について、しばし考えた。

第4章  怒るアキレス  7

2007-09-20 07:25:08 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 トロイ軍のサルぺドンの軍団に軍医スミンテウスという出自の明らかではない従軍医師がいた。彼は、弓がうまく、また、疫病についても詳しい知識を持っていた。
 彼は、軍団長のサルぺドンに呼ばれ、作戦の一端を話された。
 『スミンテウス、ご苦労。今、わが軍団の負傷者の情況はどうだ。』
 『はい。ここ3日間、戦闘が途絶えています。今のところ負傷者は、増えてはいません。安心下さい。』
 『ところで相談だが、ギリシアの連中を混乱させようと思うのだ。いい作戦の智恵はないか。俺の考えでは、お前の弓の腕で、あ奴らを混乱させてほしいのだが、どうだ。』

第4章  怒るアキレス  6

2007-09-19 07:44:15 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『神アポロ様。私は、貴方様の神殿で祭司を勤める、クリュセスです。私の願いを聞いてください。神力豊かなアポロ様。貴方様は、私の築いた祭壇を、このうえなく喜んで下さり、捧げた供物を、お忘れなくば、何卒、私の願いをかなえていただけないでしょうか。
 神アポロ様。アガメムノンに、彼から私の受けた辱めの償いをさせて下さい。アガメムノンは、戦利と言って、私の大切な愛娘を取り上げて、返してくれません。私は、膝を屈して頼みましたそれなのに罵詈雑言で追い払われました。私は、とても悲しい。とても悔しい。娘は、私の命です。
 何としても取り返したい。取り戻したい。私の力では及びません。
 お願いです。神アポロ様に畏みてお願い申し上げます。娘がこの腕の中に戻ってくることを、何卒、何卒、畏みてお願い申し上げます。』
 クリュセスの心からの悲痛な叫びであった。