『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  二つの引き金  80

2007-06-30 08:00:48 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 ㋐『おう、メネラオス。お前の帰りを待っておったぞ。ポリスの領主たちも、お前の帰りを、首を長くして、待っているのだ。留守中に大変なことが起きたな。今日の四人の話し合いで、お互いの意志を確かめようではないか。 イタケの領主、オデッセウス。大変な苦労をさせたな。各ポリスの領主に代わって、君の労に、深く礼を言う。気持ちを受け取ってくれ。今日の四人の話し合いは、とっても重要だ。その覚悟で席について欲しい。』
 ㋔『アガメムノン王もテュンダレオス王も壮健で何よりだ。俺も、無事に帰ってきたことを、とてもうれしく思っている。それにしてもだ。メネラオスの留守中の事件については、俺は、彼の心中を思うと、一通りの怒りでは済まされない。』
 ㋢『イタケのオデッセウス王、メネラオスも、よくぞ、無事に帰ってきてくれて、俺はとっても、喜んでいる。大変、ご苦労であった。このたびの事件のこともある。今日の四人の話し合い、意義のあるものにしようぞ。』
 ㋱『オデッセウス。疲れの方はどうだ。帰ってきたら、この有様だ。俺の腹は、決まっている。四人の話し合いでも強く言う。何かと力を貸して欲しい。』
 ㋔『判った。話し合いが終わったら、おれは、イタケへ帰る。』
 ㋱『いいだろう。従者をつけて、イタケまで、君を送る。』
 昼食には、談笑はなかった。解くことの出来ない緊張に包まれての食事であった。昼食を終えた四人は、別室にこもった。

第1章  二つの引き金  80

2007-06-30 07:05:44 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスは、久しぶりに自国の朝風を、胸いっぱいに吸い込んで目覚めた。だが、身体は、まだ船のゆれから解放されてはいなかった。
 この7ヶ月余りを外敵の危機に身をさらして来たのである。
 昼近くになって、アガメムノン、テュンダレオス、オデッセウス、メネラオスの四人の顔がそろった。昼食ののちに四者の話し合いを行うのである。

第1章  二つの引き金  79

2007-06-29 07:54:25 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『なにっ!そのことについては、今は、触れるな!いいな。』
 メネラオスは、即発の感情をあらわにして、座をあとにした。
 スパルタの山河を照らす太陽は、大きく赤々と燃えていた。
 
 日が西の山稜に沈む頃になって、オデッセウスと軍船の一行がスパルタの城に着いた。メネラオスが出迎え、一同を宴会場へと誘った。一同には、新しい衣服が整えてあった。彼らにとって、スパルタの料理は珍しかった。ぶどう酒も充分に味わった。その夜の宴は、深更に至るまで続いた。

 メネラオスは、オデッセウスと話した。
 『オデッセウス、このあと、明後日まで、スパルタにいてほしい。明日、午後には、アガメムノン、テュンダレオスが来る。留守中に厄介な事件も起きていた。明日は、四者で話し合いを行う。話の筋をまとめておこうと思うが。トロイの件だ。頼む。』
 オデッセウスは、承諾した。

第1章  二つの引き金  78

2007-06-28 07:49:17 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 メネラオスは、7ヶ月余りを留守にしていた、スパルタの城に帰ってきた。
 『お帰りなさいませ。』
 門番は、領主のメネラオスを大声で迎えると同時に、城中に向けて、大声で呼ばわった。
 領主の姿を見て、側近や重臣たちに伝えるために小者たちが城中を駆け巡った。
 メネラオスは、開口一番、側近を呼び寄せ指示を与えた。
 『今、帰ったぞ!留守中のことは、後で聞く。今から、指示することを直ちにやるのだ。判ったな。河口の浜に、俺の乗ってきた軍船が停泊している。この船の者たちの慰労の宴をやるから、その準備をするのだ。客は、オデッセウス領主を含めて15人くらいだ。次は、俺の代人をたてて、この者たちを、即刻、迎えに行け。そこには、イタケの領主オデッセウスもいる。馬を15頭くらい引いて行くのだ。それから、船の漕ぎ手たちが40人くらいいる。この者たちに酒肴と食べ物を届けよ。道中の話は長い、後でする。それと、ミュケナイのアガメムノン王とテュンダレオス王のところへ、俺が帰ったことを伝える使者を出すのだ。判ったな。以上だ。直ぐかかれ!ヘレンの顔が見えないが。では、留守にしていた間のことを聞く。まずは、簡単に話せ。』
 側近は、ヘレンの事件のことを伝えた。メネラオスの顔色が即座に朱に染まった。

第1章  二つの引き金  77

2007-06-27 08:20:08 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 オデッセウスは、船長に話しかけた。
 『船長、このたびの航海、遠路をのりきってくれたこと、ありがとう。心から礼を言わせてもらう。今、スパルタの領主メネラオスは、一足先に自邸に向かった。今夜、スパルタの城で、皆への、感謝と慰労の宴を開く。城からは、迎えの者たちが来る。漕ぎ手の者たちにも、心づくしの酒肴が届く。船を浜へあげて、三日ほど、スパルタで骨休めをしてもらいたい。城へ向かう人選は、船長に任せる。』
 船は、浜へ押し上げた。5時間余り待っただろうか、城からの使者、小者たちが、10数頭の馬をひきつれて、河口の浜に到着した。一行は、馬上の人となって、夕刻の街道を、スパルタの城へと歩を進めた。
 その頃、城中にあって、メネラオスは、長い留守の間におきた、事件の顛末を聞いて、心は、激怒の頂点であった。

第1章  二つの引き金  76

2007-06-26 07:57:13 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 メロス島を出航した一行は、キュテラ島を目指した。その日は、東からの風であったが、出航を強行した。この航海は、ミレトスを出航してから、苦労を強いられた航海であった。メロス島を出てから、六日目の午後になって、目指す終着地のエウロタス河河口の西側の浜に着いた。
 この六日間の航海は、風雨にさらされた日は、船中に溜まる雨水の掻い出しに、また、帆走と漕走を頻繁に繰り返す日もあった。船は海浪に翻弄されることは少なかったが、天候の変化に、操船の作業が翻弄された。しかし、一行は、ミレトスを出航してから、大きな事故もなく、13日目の午後に目的地に着いたのである。
 メネラオスは、一言、オデッセウスに言い残し、知り合いの、浜の集落の長のところに出向き、馬を借り受け、スパルタの自邸に向けては知らせた。

第1章  二つの引き金  75

2007-06-25 08:05:54 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 『皆に、これから、我々が目指す終着地のことを伝える。バロスでの風のぐあいで、向かう先を、メネラオス領主と話し合い、スーニオンからメロス、キュテラへと変更した。我々は、今、メロスにいる。しかし、ここに来て、今、吹いている風は、キュテラへ向かう風ではない。今日は出航しない。この風は、明日もおさまらないと思う。明後日には、風は変わると思う。キュテラへの海は、周囲が島に囲まれた海ではない。波の状態は、外洋のものと思って欲しい。また、キュテラまでの距離はというと、ミレトスからナクソスまでくらいの距離である。キュテラへの航走は、夜の航走も覚悟しておいてもらいたい。できるだけ風の力を頼るわけだが、当てにはならない。そのつもりでいてほしい。ここまでいけば、あと終着予定のエウロタス河の河口までは、ギリシア本土を右手に見ての沿岸航法で進む、航走方法は、漕走を予定しておいてもらいたい。この航路における風のぐあいは、俺は全く判らない。これについては、メネラオス領主の意向を充分に聞いておく。以上だ。』
 この頃、パリスは、クレタ島にいた。彼は、願ってもない、この西南の風に押されて、ロドス島に向かって出航した。彼は、このあと小アジア沿岸の島をあちこち巡り、十月の初めに、ヘレンを伴って、トロイの地に帰ったのである。

第1章  二つの引き金  74

2007-06-22 08:03:45 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 航路は、確定した。キュテラ島を経由して、エウロタス河河口へと向かう。
 一行は難儀な海を一つのりこえた。メネラオスもオデッセウスも船長も、為すべきことの、未来が見えてきた。このあと、如何なる困難が、この一行を見舞おうとも、エウロタス河河口の浜に着いた光景を、三人三様のかたちで各自に見えていた。
 メロス島に着いた頃には、風はおさまり、浜は、ほとんど凪ぎの状態であった。一行は、疲労のきわみでぐったりとしていた。雲間に見る星空は、冴え冴えとした秋の気配があるように思われた。
 メロス島の朝は明けた。風は地中海を渡って吹いてくる西南の風であった。
 船長は、主だった者たちを集めて、これからの航路、キュテラ島までの海について、それからの最終着地までのことについて話した。

第1章  二つの引き金  73

2007-06-21 07:41:01 | トロイ城市は炎上消滅の運命であった。
 今時間で11時ごろである。
 船長は、出航を指示した。浜にあげていた船を海におろして、出航のしたくを整え、全員の乗船を確かめ、これからのことを告げた。
 『これより、このバロス島を離れて、メロス島に向かう。風は、いい方向から吹いてくれている、しかし、やや強めだ。船足は速くなると思う。危険もそれに付きまとう。心して、持ち場において、しっかりやってくれ!予定地への到着は、夜になると思う。 出航だ。帆を張れ!』
 船長の激声一発。雲は低く、荒れのおさまりきっていない海にのり出した。操船は、困難を極めはしたが、荒波に翻弄されることはなかった。しかし、船は、軋みの声をあげた。メロス島までは、島に囲まれた海域である。海に慣れた船長以下、大きな不安はないようである。バロス、メロス間の距離は、約80KMぐらいと思われる。一行は無事にのりきった。
 途中で交易船が岩礁にのりあげていた。そこには、難破船を餌食とする海賊船の群れがいた。海賊船は舟艇である。獲物を襲うハイエナのごとくであった。
 予定地に到着したのは夜になりきらない薄暮の頃であった。